mc2018-022 impact of us tax reform on the us...

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201829マーク・パリス IFI 米国地方債運用責任者 兼チーフ・インベストメント・ オフィサー 概要 20171222日、米国トランプ大統領の署名により「2017年減税および雇用法」(以下、「税 制改革法」)が成立しました 1 。この税制改革法は経済および市場の広範囲に影響を及ぼしうる 内容となっています。米国地方債市場も、テクニカル(需給)とクレジット・ファンダメンタルズの両 面で、税制改革法のいくつかの条項の影響が及ぶ見込みです。好悪両影響を併せてみると、イ ンベスコ・フィックスト・インカム(以下IFI )は、税制改革法が米国地方債市場に部分的にポジ ティブに作用すると予想しています。 税制改革法の主要項目 税制改革法中、以下の項目が米国地方債市場に大きな影響を与えると考えられます。 1 ステファニー・ラロシリエール IFI 米国地方債運用チーム シニア・クライアント・ポート フォリオ・マネジャー 米国地方債市場への税制改革の影響 法案条項 米国地方債への影響 個人所得税率の引き下げ(期限:202512 31日) 家計の米国地方債需要には、限定的に影響する可 能性があります。 個人向け代替ミニマム税(AMT)の免除水準 の引き上げ(期限:20251231日) AMT債とそれ以外の地方債のスプレッド縮小により、 AMT債の価格上昇につながる可能性があります。 法人税率の引き下げと法人向け代替AMT撤廃(期限なし) 銀行や損害保険会社からの需要鈍化が、生命保険 会社からの需要増加に相殺され、機関投資家資金 の大規模な流出とはならない見込みです。 非課税のアドバンス・リファンディング・ボン ド(期限前借換を目的とした債券)の廃止 供給減少により非課税債には有利に働き、課税債 の発行は増加する見込みです。 州・地方税(SALT)控除への上限額設定(期 :20251231日) 税率が高い州の非課税債への需要増につながる可 能性がある一方、クレジットの観点ではややマイナ スです。 支払利息を税額控除可能な住宅ローンの金 額に75万米ドルの上限を設定(期限:20251231日) 高価格帯の住宅地を有する都市部の地方債クレ ジットにややマイナスに働く可能性があります。

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2018年2月9日

マーク・パリスIFI 米国地方債運用責任者兼チーフ・インベストメント・オフィサー

概要

2017年12月22日、米国トランプ大統領の署名により「2017年減税および雇用法」(以下、「税

制改革法」)が成立しました 1 。この税制改革法は経済および市場の広範囲に影響を及ぼしうる

内容となっています。米国地方債市場も、テクニカル(需給)とクレジット・ファンダメンタルズの両

面で、税制改革法のいくつかの条項の影響が及ぶ見込みです。好悪両影響を併せてみると、イ

ンベスコ・フィックスト・インカム(以下IFI)は、税制改革法が米国地方債市場に部分的にポジ

ティブに作用すると予想しています。

税制改革法の主要項目

税制改革法中、以下の項目が米国地方債市場に大きな影響を与えると考えられます。

1

ステファニー・ラロシリエールIFI米国地方債運用チーム

シニア・クライアント・ポートフォリオ・マネジャー

米国地方債市場への税制改革の影響

法案条項 米国地方債への影響

個人所得税率の引き下げ(期限:2025年12月31日)

家計の米国地方債需要には、限定的に影響する可能性があります。

個人向け代替ミニマム税(AMT)の免除水準の引き上げ(期限:2025年12月31日)

AMT債とそれ以外の地方債のスプレッド縮小により、AMT債の価格上昇につながる可能性があります。

法人税率の引き下げと法人向け代替AMTの撤廃(期限なし)

銀行や損害保険会社からの需要鈍化が、生命保険会社からの需要増加に相殺され、機関投資家資金の大規模な流出とはならない見込みです。

非課税のアドバンス・リファンディング・ボンド(期限前借換を目的とした債券)の廃止

供給減少により非課税債には有利に働き、課税債の発行は増加する見込みです。

州・地方税(SALT)控除への上限額設定(期限:2025年12月31日)

税率が高い州の非課税債への需要増につながる可能性がある一方、クレジットの観点ではややマイナスです。

支払利息を税額控除可能な住宅ローンの金額に75万米ドルの上限を設定(期限:2025年12月31日)

高価格帯の住宅地を有する都市部の地方債クレジットにややマイナスに働く可能性があります。

事前の憶測に反して、税制改革法ではプライベート・アクティビティ・ボンド(PAB; 非営利団体や政

府機関が、空港建設のような 「私的活動」の資金調達のために発行する非課税の債券)は廃止さ

れませんでした。

非課税地方債市場に部分的にポジティブな影響

我々の見方では、税制改革法は非課税の米国地方債市場に部分的にポジティブに働き、いくつか

のセグメントがアウトパフォームする見込みです。個人所得税および法人税の税率引き下げによっ

て米国地方債への需要が一部弱まる可能性がある一方で、非課税地方債の供給量の減少も予想

されています。2018年に発行される可能性があった案件のうち、推定で200~400億米ドル 2 が

2017年10-12月期中に前倒しで発行されました。アドバンス・リファンディング・ボンドの撤廃や

PABの取り扱いをめぐる税制改革法への懸念 3 が背景です。その結果、2018年の米国地方債の

新規発行額は、2017年から25~35%程度減少する 4 と我々は予想しています。税制改革法が今

後の需給をどのように変化させるか予想することは難しいものの、総じて、税制改革法が非課税の

地方債市場に与える影響は部分的にポジティブだと予想されます。

非課税地方債のいくつかのセグメント、特に税率の高い州が発行した非課税地方債は、その他の

資産クラスをアウトパフォームする可能性があります。AMT債も、非AMT債との過去数カ月間のス

プレッド縮小にもかかわらず、堅調に推移する可能性があります。これについては、また後ほど述

べます。

税率引き下げによる影響は一長一短

2018年から、個人の所得税率は全税率区分で引き下げられ、法人税率は35%から21%へ大幅に

引き下げられました。過去の例に倣えば、個人所得税率の引き下げは個人投資家による米国地方

債への需要にほとんど影響を与えず、我々は今回の引き下げも同様の結果となると考えます 5 。

しかしながら、機関投資家による非課税地方債への需要は低下する見込みです。バークレイズの

調査によると、米国社債と米国地方債のそれぞれ10年債を税率調整後で比較すると、21%の法人

税のもとでは、高格付(AaaからA1)の社債の方が非課税地方債よりも「好利回り」となります 6 。

米国の保険会社や銀行、信用組合などの機関投資家は、現在、発行残高の約29%を保有する米

国地方債の重要な投資家層です 7 。とはいえ、これら投資家が保有している地方債の加重利回り

水準の高さや、アセット・ライアビリティ・マッチング(=資産と負債のデュレーション管理)の必要性を

踏まえると、彼らが地方債の処分売りに踏み切ると予想してはいません。

税制改革法で、米国地方債需要の減少を相殺する可能性がある条項の一つに、生命保険会社の

運用収益に対する課税方法の変更が挙げられます。税制改革法の下で、生命保険会社は地方債

からの利息収入に30%を課税されることとなりましたが、以前は、非課税債を保有した場合の税負

担はより複雑な数式に基づいて算出されており、非課税地方債を保有するメリットが限定的でした8 。上記のような、法人税率引き下げを受けた米国社債との比較優位の問題は生命保険会社につ

いても言えることですが、税務の簡略化を受けた生命保険会社の非課税地方債需要の増加は、あ

る程度は見込めるのではないかと我々は考えています。

期限前借換の撤廃

税制改革法における重要な変更は、非課税のアドバンス・リファンディング・ボンド(期限前借換を目

的とした債券)の廃止です。リファンディングとは、既発債の償還を目的とした新たな債券を発行す

ることです。リファンディング・ボンドが、借り換え対象の既発債のコール(発行時に定められた期限

前償還)日よりも90日以上前に発行された場合、その起債はアドバンス・リファンディング(期限前

借換)

2

マーク・ギリーIFI米国地方債クレジット・リサーチ責任者

スティーブ・ホンIFI米国地方債運用チームシニア・アナリスト

ロブ・ストライカーIFI米国地方債運用チームシニア・ポートフォリオ・マネジャー

借換)とみなされます。アドバンス・リファンディングの利用により、地方政府やレベニュー債を発行

する非営利団体は、既発債をより低い利回りで借り換えたり、債務返済期間を長期化することによ

り適格非課税債の再構築が可能でした。また、地方政府や非営利団体は、既発債がコール可能と

なっていない段階でも、支払金利を低下させることができるメリットを受けていました。結果として、

発行体は支払金利のコストを削減し、それを運営費や設備投資に回すことが可能性でしたが、この

手段は税制改革法で廃止されることとなりました。

しかし、過去10年間の米国地方債の新規発行におけるかなりの部分を占めていたアドバンス・リ

ファンディング・ボンドの供給が廃止されることは、需給面では、地方債市場全体にプラスに働くと予

想されます。過去10年間の非課税のアドバンス・リファンディング・ボンドの年間平均発行額は530億ドルで、地方債の発行量全体の14%を占めていました 9 。

非課税でのアドバンス・リファンディングの廃止により、地方債の発行体は、より早期のコール日(償

還可能日)かつ低いクーポンでの新規発行を模索することになるでしょう。現在の「業界標準」は10年のコール・オプションと5%のクーポンで、2018年1月25日時点のバークレイズ非課税地方債イン

デックス(除く事前借換債)の構成銘柄の66%が5%クーポンとなっています 10 。こうして新たに発行

されることになる従来とは異なる構造、とりわけ、早期のコール日が設定された地方債に投資家が

どれほどの関心を示すかは現時点では未知数ですが、一方で、コール期間が長く、5%クーポンを

有する既存の地方債については、アドバンス・リファンディングによる早期償還のリスクが消滅する

ことから、価格が大きく上昇する可能性があります。

2017年の米地方債発行額の急増

前述のとおり、税制改革法のPABに関する取扱いは(そのいくらかはAMT次第であり)2017年12月半ばまで非常に不透明な状態でした。この不透明さと、アドバンス・リファンディング・ボンドの廃

止とが相まって、2017年10-12月期の地方債の発行額は前年比約40%増と急増しました 11。特に

12月の発行増加が顕著で、地方債全体で前年比200%を超える増加となりました。リファンディング

は同412%、AMT債の発行は同320%近くに及びました 12 。その結果、2018年の当市場のグロス

発行額は2017年から25~35%程度減少する 13 と証券会社のアナリストは予想しています。

図表1: 米国地方債の形式別発行額の推移

出所: Bond Buyer、データ期間: 1991年~2017年(年次)。

州・地方税(SALT)控除への上限額設定

税制改革法では、個人所得税の税率が引き下げられ、標準控除が増額 14 された代わりに、州・地

方税(SALT)納税者の連邦税控除に1万米ドルの上限額が設定されることとなりました。米国内国

3

新規資金調達リファンディング混合

課税地方債への影響

税制改革法の課税地方債市場への影響は、非課税地方債の場合ほど大きくはないと予想していま

す。課税地方債が地方債市場全体に占める割合は約13%となっています 20 。非課税のアドバン

ス・リファンディング・ボンドの発行がもはや不可能となったことを踏まえると、課税のリファンディン

グ・ボンドの発行が見込まれ、結果として課税地方債の供給量が増える可能性があります。

4

図表2: AMT地方債とそれ以外の地方債との利回り格差──縮小が続く公算

出所:Bloomberg、データ期間: 2014年6月20日~2018年1月26日(日次)。

歳入庁(IRS)の2015年のデータによると、SALT控除を申請した納税者は30%近くに上り、調整後

年間総所得(AGI)が7.5万~10万米ドルの納税者では53%、10万~20万米ドルの納税者では実

に76%がSALT控除を申請していました 15 。SALT控除の平均額が高かったのは、ニューヨーク州

(控除平均額は22,169ドル)、コネチカット州(19,664ドル)、カリフォルニア州(18,437ドル)、

ニュージャージー州(17,850ドル)などの東西の都市部の州です 16 。こうした税率が高い州の住民

には、SALT控除に上限額が設定されることで、税制改革法による連邦税の所得税減税効果が(ゼ

ロにはならないものの)減ることとなります 17 。その結果、こうした税率の高い州が発行する非課税

地方債への需要は増すと予想されます。

SALT控除の上限額設定により、税率が高い州では住民の課税後所得が減少し、将来的な増税余

地も低下する可能性があることから、今後の地方債の追加発行が政治的に難しくなる可能性もあり

ます。これは、州・地方税による歳入を返済・利払い原資としている一般財源保証(GO)債について

特に顕著なことであり、ネット供給額減少につながる可能性があります。前述の税率が高い4州が

発行した非課税地方債は、2017年12月31日時点でバークレイズ非課税地方債インデックスの

40%近くを占めます 18 。税率が高い州の中には、SALT控除の上限額設定の効果を相殺できるよう

な州税の見直しを示唆する州政府高官も出てきています 19 。しかし、いかなる変更も時間を要し、

連邦政府による法的な異議申し立てに直面する可能性があります。

代替ミニマム税(Alternative Minimum Tax: AMT)代替ミニマム税(AMT)とは高額所得者が租税優遇措置を活用して過度の節税対策を行うことを抑

制し、税制の公平性を確保するため、通常の所得税計算で算定された税(regular tax)額よりも、

別の特別な計算方法により計算された試算税(tentative minimum tax)額の方が多かった場合

に加算される超過税のことです。このAMTに税制改革法で変更が加わった結果、個人のAMT対象

者は減少し、税負担も小さくなりました。税負担が減れば(非課税メリットを追求する個人の)非課税

地方債への需要も減る一方で、AMTの対象者が減少すれば、AMTを返済・利払いの原資とする

AMT地方債の供給も減少すると見込まれるため、既発のAMT地方債への需要が高まると予想さ

れます。AMT地方債の利回りは他の地方債に比べて利回りにプレミアムが乗っており、今後もその

利回り格差を維持して発行される見込みだからです。

ベーシスポイント

クレジット・ファンダメンタルズへの影響

これまでは、税制改革法による米国地方債市場の需給面の影響に言及してきましたが、これ以降

では、米国地方債の3つの主要セクター(州・地方政府、非営利ヘルスケア、高等教育)へのクレ

ジット面で考えられる影響について述べていきたいと思います。

州・地方政府

税制改革法が州・地方政府のクレジットの質に及ぼす影響には好悪両面があり、税率が高い州が

も悪影響を受けると予想しています。税率の高い州は、それぞれがさまざまな課題に直面してい

ることでしょうが、その中でも、SALT控除の上限額設定は長期的なリスクだと考えられます。これは

部分的には、各州の幅広く多様な税基盤と、一定の費用を地方政府に移転できる能力によるもの

です。州からの人口流出はリスクとなりますが、居住地を決める際、人々は就職機会や学校の質、

気候などさまざまな要因を考慮します。それゆえ、我々は中期的な観点では税率が高いという理由

だけでその州から人口が流出するとは予想していません。しかしながら、SALT控除の上限額設定

により、税率が高い州では特定の居住者の実効税負担が増えることになるため、選出された首長

は、仮に必要だとしても、さらなる増税には及び腰となるでしょう。こうしたことから、今後は特に巨額

の債務を抱える税率の高い州に対して注意深く監視することが必要だと我々は考えています。

5

図表3: 米国外の投資家による地方債保有は増加中

出所:Citi Research、米連邦準備制度理事会(FED)、2017年12月7日現在。

ビルド・アメリカ債(BAB、2008年のリーマン・ショック以降の州・地方政府財政の苦境を救済すべく、

連邦政府が利払いの35%を負担した課税地方債)プログラムが実施されていた2009~2010年を

除くと、課税債は米国地方債の中でも比較的小さな部類であり、その発行残高が地方債全体に占

める比率は、2012~2017年の平均で8.5%でした 21 。さらに、課税アドバンス・リファンディング・ボ

ンドが課税地方債全体の発行残高に占める比率は、2013~2017年の平均で約17%でした 22 。

ただし、課税債の供給が増えても、(もともと地方債の非課税メリットを受けられない)米国外の投資

家を中心とする健全な需要増が続き、それを相殺すると我々は考えています。米国外の投資家に

よる米国の長期地方債の保有は、世界的に記録的な低金利と、欧州の保険会社の資本要件を定

めたソルベンシーⅡ規制法の実施を受けて、過去5年間で毎四半期増加しています。ソルベンシー

Ⅱ規制の下では、「適格インフラ投資」はその他の社債よりも低いキャピタルチャージ(資本賦課)が

適用されることによるメリットを受けられます。例えば、BBB格の適格インフラ投資債に課されるキャ

ピタルチャージは、その他の社債よりも33%低いため、資本収益率(ROC)を50%上昇させることに

なります 23 。ソルベンシーⅡ規制法では「適格インフラ投資」と見なされる条件が定められており、

有料道路や給水施設、病院などのレベニュー地方債は適格であるようです(ただし、これらの施設

のみに限定されているわけではありません)24 。

100万米㌦

地方政府の中でも、特に税率が高い自治体の政府が税制改革法からの悪影響、とりわけ①SALT控除の上限額設定と、②支払利息控除の対象となる住宅ローンの上限額引き下げの影響を も受

けやすいと見られます。これは、地方政府が運営費や債務の元利金支払い原資を主として不動産

税収に依存しているからです。①も②も不動産の評価額にマイナスに影響する可能性があります。

税制改革法が②の上限額を75万米ドルに制限したことから、住宅価格は調整を余儀なくされるか

もしれません。ある調査によると、米国で住宅価格が も高い20の郡(カウンティ)が、税制改革後

も改革前と変わらない税引き後の住宅ローン及び不動産関連月間税収を維持するには、当該カウ

ンティの住宅価格の中間値が平均で10%下落する必要があるそうで 25 、結果的に、不動産評価額

は下落が予想されます。地方政府の首長は税率の引き上げによって不動産評価額の下落を補うこ

とは可能ですが、前述のとおり、SALT控除の上限額設定で住民の課税後所得が減少することを踏

まえると、今後数年間の増税は政治的にかなり難しくなったと言えるでしょう。

非営利ヘルスケア

一部の非営利病院は、税制改革法から短期的な悪影響を受けることになるでしょう。とはいえ、ヘ

ルスケアセクター全体は、耐久性やさまざまな規制サイクルへの順応力を示してきました。税制改

革法が成立した結果、医療保険制度改革(オバマケア)法で求められた個人の 低限の保険加入

義務は撤廃され、保険未加入者数が増えるのみならず、非補償型保険のコストが若干上昇すると

予想されます。この変化は、個人経営病院や、地方(あるいは低所得地域)における小規模な地域

医療機関に大きな打撃を及ぼすことでしょう。一方、大規模な医療機関や著名な学術医療センター、

小児科医院などへの影響は限定的だと予想されます。この10年間、多くの医療機関はバランス

シートを強化し、規制が二転三転することによる短期的な運営リスクを乗り越えられるようになって

きました。加えて、我々は業界内での再編や戦略的提携も続くと予想されます。再編における 重

要目標は、規模の経済を確立し、健康保険会社や労働組合、サプライヤー、製薬会社などとの交

渉力を改善することになるでしょう。

高等教育

我々は、税制改革法の高等教育セクターへの影響は以下の3点だと予想しています。当セクター全

体のクレジットの質への影響はわずかではあるものの、卒業生からの支援に依存している小規模

な教育機関は難局に直面する可能性があるというのが我々の見方です。

1. 正規学生1人あたり50万米ドル以上の資産を有する私立の単科・総合大学の投資収益に対す

る1.4%の課税(寄付税)の新設

豊富な寄付資産を有する大学がこの税から も大きな影響を受けることとなります。ただし、そ

うした教育機関は財務の柔軟性や豊富な資金源を有することから、クレジットへの影響は限定

的なものとなるでしょう。加えて、そのような教育機関は学術的な評判や旺盛な入学希望者を有

するほか、慈善団体から強固な支援を受けています。

2. 100万米ドルを超える個人への報酬のうち、高額な5名分に21%を課税 26

この条項は教育機関の営業利益に影響し、大学が才能豊かな人材の引き留めることを難しくす

る可能性があります。ただし、大手私立大学のバランスシートの規模を踏まえると、この課税も

影響は限定的と予想されます。

3. 標準控除の増額

この条項によって少額の慈善寄付の魅力が小さくなります。その影響は、慈善団体からの支援

や卒業生からの寄付が少なく、少額の寄付に補完的な運営費を依存してきた小規模大学に対

しては大きくなる可能性があります。

6

アクティブ・マネージャーをパートナーに持つ重要性

地方債市場は、複雑化しながら拡大を続けており、現在では36,000以上の政府・非政府債務者が

存在しています 27 。現在、この市場に投資するには、これまで以上に綿密な調査が必要になると考

えられます。2008年の世界金融危機以前は、圧倒的多数の米国地方債に保証が付されており、

根本的に発行体は保証者と同等の信用リスクを持つと見られていました。しかし金融危機以降は、

地方債市場では保証者の信用力ではなく、発行体のファンダメンタルズにより重点が置かれるよう

になりました。この運用アプローチの変化により、米国地方債市場は過去に比べて金利よりもクレ

ジットからより強い影響を受けることとなり、ゆえに丁寧なクレジット調査が地方債投資においても

非常に重要な要素となりました。

IFIの地方債運用チームの運用哲学は、包括的かつ将来を重視したリサーチを通じて長期的な付

加価値を創造することこそが、リスク調整後リターンの 大化を目標とした分散されたポートフォリ

オをお客さまに提供するカギになるとの信念に基づいています。自社独自のクレジット調査とリスク

管理が運用プロセスの根幹を成しており、地方債ユニバースの全てに及ぶ専門性を持った経験豊

富な運用プロフェッショナルがそれを支えています。アナリストによるクレジット・ファンダメンタルズ

調査とポートフォリオ・マネジャーの市場に関する知識や投資経験とを融合し、統制がとれた協働体

制重視の投資プロセスを維持しています。

我々は運用資産残高で全米の上位10位内に入るトップの米国地方債運用者 28 であり、優先的な

投資機会や有益な市場情報にアクセスすることができます。我々の運用チームは米国で120社以

上の大手および地方の非課税債ディーラーとの関係を構築しています 28 。これらの既存関係に加

えて、我々の米国地方債市場でのプレゼンスの高さから、日々、流動性の高い取引の執行が可能

となっています。また、社内で運用する複数のポートフォリオの取引を統合することで、執行手数料

を引き下げることが可能となっていることも、パフォーマンスの改善に寄与しています。

7

1. 法律の正式名称: “Act to provide for reconciliation pursuant to titles II and V of the concurrent resolution on thebudget for fiscal year 2018” (https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/1)

2. 出所: JP Morgan、”Municipal Markets Weekly”、2018年1月19日。”Barclays, Municipal Strategy Monthly“、2018年1月3日。

3. 2017年11月半ばに可決された下院の税制改革法案はPABの廃止を企図していた一方、12月初めに可決された上院の法案はPABをそのままとする内容で、市場がPABの存続決定を知らされたのは、両院の 終案がまとまった12月15日でした。

4. 出所: Citi, “US Municipals Strategy Focus”, 2017年12月14日。

5. 出所: JP Morgan、“US Fixed Income Markets Weekly – Municipals“、2016年10月28日。

6. 出所: Barclays Municipal Research、“Bank Appetite for Munis under the New Tax Regime“、2018年1月11日。

7. SIFMA、https://www.sifma.org/resources/research/us-municipal-securities-holders/、2017年第3四半期時点

8. Asset Allocations & Management Company (AAM)、“Tax Reform Implications for Insurers”、2017年12月22日。

9. 出所: JP Morgan、“2018 Municipal Market Outlook”、2017年11月22日。

10. Barclays、“Tax-Exempt Municipal Index’、2018年1月25日。

11. 出所: Bond Buyer Market Data (https://www.bondbuyer.com/broker/bond-buyer-data?feed=00000159-f642-d111-af7d-ff7f36530000).

12. 出所: Bond Buyer Market Data (https://www.bondbuyer.com/broker/bond-buyer-data?feed=00000159-f642-d111-af7d-ff7f36530000).

13. 出所: Citi、”US Municipal Strategy Focus”、 2017年23月14日。Barclays、“Municipal Strategy Monthly“、2018年1月3日。

14. 夫婦合算申告者の標準控除額は12,700ドルから24,000ドルに増加しました。

15. 北米州・地方政府財務官協会(GFOA)、“The Impact of Eliminating the State and Local Tax Deduction”、2017年。

16. GFOA、“The Impact of Eliminating the State and Local Tax Deduction”、2017年。

17. 出所: Bloomberg、“How the Tax Bill will Affect Eight American Families”、2017年12月20日。

18. 出所: Barclays、”Municipal Strategy Monthly“、2018年1月3日。

19. 出所: Bloomberg、 2018年1月24日。

20. 出所: Morgan Stanley Research and Bloomberg、2018年1月25日。

21. 出所: Bond Buyer、2017年12月31日。

22. JP Morgan、“Municipal Markets Weekly”、2018年1月19日。

23. JP Morgan、“US Fixed Income Markets Weekly”、2017年7月11日。

24. Pensions and Investments、“European insurers looking to US munis”、2016年5月16日。

25. Barclays、“2018-19 US Housing Market Outlook”、2018年1月11日。

26. 出所: S&P Ratings Direct: “U.S. Tax Reform: What Will The New Law Do To Municipal Credit Quality?”、2017年12月21日。

27. Bloomberg、2017年11月21日。

28. 2017年12月31日現在のIFI米国地方債チームの運用談高は273億米ドルで、全米上位10位以内です。出所: StrategicInsight、Simfund/MF Desktop。

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MC2018-022