me-gi用高圧燃料ガス供給システム - jst
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Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
1. はじめに
国際海事機関 IMO による船舶からの大気汚染防止
に関する国際的な環境規制の強化 1)を背景に,排気ガ
スのクリーンな天然ガス燃料の利用に注目が集まって
いる.また,米国のシェールガス革命に端を発して,
天然ガストレードが活況を呈しており,ガス供給量の
増加や入手経路先の多様化に伴い,石油エネルギーに
比べて安価な燃料としても天然ガスへの期待は大きい.
環境負荷を低減すると同時に輸送コストを削減する観
点から,天然ガスを主機燃料として推進する船舶の需
要は今後 高まることが予想される. 多様化する燃料への対応は,MAN Diesel & Turbo
社および三井造船が共同で開発した低速ガスインジェ
クションディーゼルエンジン GIDE 2)による陸上発電
設備において1994年からの約20,000時間に及ぶ実証
運転にさかのぼる.その後,天然ガスおよび重油の両
方を燃料として使用できるデュアルフュエル(DF)対応のME-GIエンジンが登場した.2012年には,TOTE向けコンテナ船ならびに Teekay 向け LNG 運搬船に
それぞれ天然ガス焚き ME-GI エンジンの搭載が決ま
り,2015 年末から 16 年にかけて海外ヤードにおいて
引渡しされる予定である.日本国内では,三井造船が
2015 年からME-GI 商用機の出荷を開始した. 一方,これらME-GIエンジンの実用化と並行して,
国際的には IMO により,ガス焚き機関を搭載する船
舶の安全性を確保するために,設備,制御,監視装置
などの詳細要件を規定した IGF コード 3)の適用が
2017 年 1 月から義務化される.国内では 2013 年 6月
に国土交通省海事局による「天然ガス燃料船に関する
総合対策」4)および 2014 年 12 月に日本海事協会資源
エネルギー部による「ガス燃料船ガイドライン Ver.3」5)がそれぞれ策定され,天然ガス燃料船の早期
実用化に向けた環境整備が図られた.これらの中では,
燃料タンクの設計・配備要件やエンジンに高圧燃料ガ
スを供給するシステムに関わる要件も規定されており,
ガス燃料船建造のための安全指針が示されている.
本稿では,ME-GI エンジンに燃料ガスを供給するシ
ステム(Fuel Gas Supply System,以下ではFGSS)について,RORO 船,コンテナ船などLNG 燃料船向
けと LNG を海上輸送する LNG 運搬船向けとに分け
て,それぞれの主要な構成機器および特徴を,現在の
ところ種々提案されているシステムの中から抜粋して
簡単に述べる.
2. LNG燃料船向けFGSS
2.1 ME-GIエンジンの燃料ガス供給条件 表 1に,ME-GI エンジンの 100%負荷時におけるガ
ス燃料供給条件を示す.天然ガスの場合は 45℃,
30MPa の仕様である.また,エタンはシェールガス
採取の際に随伴ガスとして採取され,米国では安価な
燃料としても注目されている.エタン焚きの場合は
40MPa が要求仕様である.ちなみに,表中にはガス
燃料ではないが,多様な燃料に対応するME-LGI エン
ジンへの供給条件も併せ示した.
2.2 LNG高圧液ポンプによるシステム 図 1に,高圧液ポンプを使用したFGSS の主要な機
器の構成例を示す.-162℃のLNG を高圧液ポンプに
よって液相のまま昇圧した後に気化器によってガス化
して ME-GI エンジンへ供給する.キーハードである
ポンプの主な供給メーカとしては,ACD社,Cryostar社,三菱重工などが挙げられる.一方,図 2に,高圧
液ポンプの例として三井造船による開発機の外観図を
示す.2014 年にLNG を用いた性能実証運転を完了し
たものである.供給メーカ各社とも基本的にはクラン
ク機構の水平往復動式ポンプを採用している.LNGを昇圧するシリンダの部分 Cold-end には外部から入
熱を遮へいするために,真空ジャケットを外層に有す
るタイプもある.ポンプはエンジンの圧力デマンド指
ME-GI用高圧燃料ガス供給システム*
難波 浩一** 和田 裕太郎** 辻 康之**
表 1 燃料供給条件 ME‐GI ME‐LGI
Kind of fuel LNG Ethane Methanol Ethanol LPG DMEInlet press. 30MPa 40MPa 0.8MPa 0.8MPa 4MPa 3MPaFuel state Gas LiquidInlet temp. 45±10℃ 2~60℃*原稿受付 平成 27年 11月 2日.
**三井造船株式会社(玉野市玉3-1-1).
ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム*
難 波 浩 一** 和 田 裕太郎** 辻 康 之**
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和文表題
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
令に従って,駆動モータの回転数により吐出流量を調
整する.モータにはインバータ電動モータあるいは油
圧モータが採用されている.ただし,米国船籍の場合
は,United States Coast Guard の定める天然ガス燃
料システムの設計基準では, FGSS が設置される天
然ガスポンプ室あるいは圧縮機室はHazardous area,Zone 0 に区分けされ,防爆モータも含めて一切の電動
機を設置できない 6).この場合は油圧源を確保した上
で油圧モータを利用,あるいはバルクヘッドシールに
よるポンプと電動モータを隔離する必要があるので注
意を要する.また LNG タンクの下流側で,ポンプの
吸込み部においてキャビテーションを防止するために,
図のようにサクションドラムを設ける,あるいはブー
ストポンプを利用することによってポンプの有効な正
味吸込みヘッドを確保する対策がとられる.なお,冗
長性の観点から,ポンプ本体を常用とスペアの 2台セ
ットで設置するのが推奨されている. ポンプのLNG 吐出温度は-140℃程度であるため,
気化器において高熱源側の流体には凍結を防止する理
由からグリコール水の利用が一般的である.熱交換部
の型式にはシェル&チューブ式が一般的である.最近
では,Heatric 社をはじめとしてコンパクトなPrinted Circuit Heat Exchangers (PCHE)の採用も図られて
いる.ポンプの下流ではピストンの往復動に伴う吐出
圧力の脈動を吸収するために,気化器の上流側に脈動
吸収ボトルを装備する場合が多い.一方,図 1 の例で
は気化器の下流側に同様なタンクを挿入したケースを
示しているが,ガス状態では液状態に比べて比較的大
きな容積のボトルとなるため,船上ではとくに設置ス
ペースの確保が必要である. 前述の IGF コードでは,FGSS の安全機能としてエ
ンジンごとに通常停止時および緊急時には燃料マスタ
ー弁と直列に配備した 2つの遮断弁を閉じて,同時に
それらの間のガスを排出するブリード弁を装備するダ
ブルブロック&ブリード弁(DBBV)の設置が義務づ
けられている. また,ポンプ方式は,後述の高圧ガス圧縮機を使用
する場合に比べると,所要動力やフットプリントが小
さい点で有利である.
2.3 LNG燃料タンク LNG 燃料船に用いられる燃料タンクの容積は,従
来の重油燃料の場合に比べて例えば2倍程度の大きさ
になる.燃料タンクの構造には,IMO のType C に分
類される独立型の円筒形の圧力容器が有力視されてい
る 7).供給メーカとしては,例えばTGE Marine Gas Engineering 社ではガス運搬船用Type C の燃料タン
クに多くの納入実績を有している 8).Type C ではタン
クのき裂および漏洩が起こらないよう安全な強度を有
しているため,2 次防壁は要求されない.また,ボイ
ルオフガス(Boil Off Gas,以下ではBOG)をタンク
内に溜めておける点でも他の Type に比べて有利であ
る. ちなみに,燃料の補給方法として以下の 3 つが運用
されている.すなわち,陸上の LNG タンクに直結し
た固定注入ラインから補給する方法Shore To Ship 方
式であるが,日本国内ではインフラ整備になお時間を
要する.つぎに,接岸した船舶に横付けしたタンクロ
ーリからフレキシブルホースにより補給する Truck To Ship 方式が北欧で採用されており,国内でも初の
LNG 燃料船に対して燃料補給が開始された 9).一方,
LNG バンカー船を海上で横付けして補給する Ship To Ship 方式は北欧のフェリー客船に運用されている.
3. LNG運搬船向けFGSS
3.1 高圧液ポンプ方式とBOG再液化の組合せ
図 1 LNG 高圧液ポンプ方式の例
図 2 LNG 液ポンプ(油圧モータ駆動)の例
Bunker station
LNG storage tankType C
LNG pump
VaporizerM
PC
PC
Buffer tank
ME‐GI engine
Suction drum Vent
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ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム24
日本マリンエンジニアリング学会執筆要項
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -3- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
LNG 運搬船では,カーゴタンクから自然発生する
ボイルオフガス BOG を安全にかつ経済的に処理する
必要がある.従来のLNG 運搬船の推進システムでは,
BOG を DF ボイラの燃料として用い,スクリューに
直結した蒸気タービンを駆動する方式が一般的である.
しかしながら,輸送コスト低減のため,熱効率の高い
ディーゼルエンジンが採用されつつある. LNG 運搬船のカーゴタンクの容量は,現状各地の
LNG受入れ基地側のサイズや貯蔵容量の物理的制限,
北米からシェールガスを運搬するときに 2016 年に開
通の新パナマ運河を通過できる船幅などの制約から,
最近の主流は 155,000m3~180,000m3 である 10).ま
た,カーゴタンク容積に対する BOG の発生率はカー
ゴタンクの防熱性能に左右され,モス方式の場合
0.08%/day,一方メンブレン方式の場合 0.1%/day が最
近の仕様である. 図 3に,前述の高圧液ポンプ方式FGSS とBOG 再
液化システムを組合せた推進システム系統図の例 10)
を示す.ME-GI エンジンへは高圧液ポンプ方式によっ
て燃料を供給する.一方,BOG を低圧ガス圧縮機に
よって昇圧した後,再液化装置COLD BOX において
窒素冷媒を利用することによって天然ガスを液化して
カーゴタンクへ回収する.また,再液化とは別のライ
ンを設けて船内の補機動力用にDF ディーゼル発電機
へ送る,あるいは余剰分をガス燃焼装置GCU へ送る.
BOG全量を再液化処理できるような大型の装置では,
駆動系の電力消費量が比較的大きいことが経済性の点
で注意を要する. 3.2 高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプ方式の組合せ
図 4に,高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプ方式を併用
したFGSS を模式的に示す.積荷航海時や空荷航海時
のタンク冷却スプレー作業中では,BOG をそのまま
高圧ガス圧縮機によって昇圧して ME-GI エンジンに
供給する.船の推進速度に応じて BOG だけでは
ME-GI エンジンが要求する燃料量をまかなえない場
合は,高圧液ポンプのラインから燃料を供給する.ま
た空荷航海時にスプレーを行わないとき BOG が十分
な量発生しない場合にも,液ポンプのラインから燃料
を供給する.逆に,BOG発生量がME-GI エンジンや
後述の船内補機動力用DF ディーゼル発電機での消費
量を上回る場合は,その余剰 BOG を GCU により焼
却処理するか,あるいは BOG を部分的に再液化して
LNG タンクに回収する. BOG 用高圧ガス圧縮機の例として,Burckhardt 社
の往復動圧縮機が採用されているようであるが,ここ
では三井造船が陸上Oil & Gas市場向けに実績のある
往復動圧縮機を舶用に転用したものを示す.図 5 に,
本圧縮機ユニット図を示す.ヤードでの艤装を容易に
するため,圧縮機本体,ドライバである電動モータ,
補機類(後述のガスクーラ,脈動吸収用スナッバ,バ
イパス制御弁など)をスキッド上にすべて搭載してい
る.本圧縮機の基本仕様を表 2 に示す.5 段構成の計
6 シリンダからなる水平対向式往復動圧縮機である.
水平対向式の有利な点としては,段ごとのメンテナン
気化器
Vaporizer
ME-GI
高圧ガス圧縮機HP gas compressorBOG
30MPa45℃
高圧液ポンプHP liquid pump
LNGカーゴタンク
-162℃
図 3 LNG 高圧液ポンプ方式とBOG 再液化の組合せ
図 5 高圧ガス圧縮機ユニット
図 4 高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプ方式の組合せ
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和文表題
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -4- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
スが容易なこと,往復動のバランスとりが容易なこと
が挙げられる.-160℃の低温ガスを昇圧して,ME-GIエンジンに最大33.5MPaの高圧燃料ガスを供給する.
また,吐出流量は現在主流の LNG 運搬船カーゴタン
ク容量とBOG レートを前提として,ME-GI エンジン
および船内補機動力用のDF ディーゼル発電機へ供給
にも対応するように 3500~4000kg/h に設定した.図
6 に,本圧縮機の制御フローを模式的に示す.図中の
破線は信号を表す.ME-GI エンジンからのデマンドに
対して,十分な応答性能を実現するために,吐出温度
を制御するガスクーラ,吐出流量を制御するバイパス
制御弁,吸込側および吐出側にそれぞれ脈動吸収スナ
ッバなどを全段に装備している.さらに,シリンダに
搭載した吸込弁アンローダと組合せて,0%から 100%の広範囲かつ正確な供給流量の調整が可能である.な
お,吸込み弁アンローダとは吸込み弁を開放状態に拘
束して運転するステップ状の容量調整機構である.
ME-GI エンジンのデマンドには基本的には 5 段目の
バイパス制御弁によって追従する.その上流側 1段~
4 段までは段ごとに所定の圧力となるように各段のバ
イパス制御弁が調整する. また,途中の段からの抽気を以下のように利用する
ことにも対応できる.例えば,2 段目下流からの抽気
を船内補機動力用のDF ディーゼル発電機へ供給する.
さらに,余剰なBOG の再液化にも抽気を利用できる.
すなわち,再液化に際しては,BOG の圧力が高いほ
ど効率よく液化できる.圧力が高くなると配管材質の
選定などに注意が必要となるが,再液化装置の冷媒装
置をコンパクトにできるメリットもある.抽気したガ
スを圧縮機入口の冷熱と熱交換させて,冷えたガスを
断熱膨張させることによりガスの一部を再液化させる
ことも可能である.本圧縮機は,1 段から 4 段目まで
は無潤滑のピストンリングによるシール方式を採用し
ており,上述のように段ごとにバイパス制御を行うこ
とと併せて,抽気を利用する部分再液化に適した仕様
になっている.
3.3 FGSS実証設備
三井造船では,図 4に示すような高圧ガス圧縮機と
高圧液ポンプを組合せたFGSS をME-GI エンジン陸
上試運転用の社内設備として2015年6月に完成させ,
そこには上述の高圧ガス圧縮機の初号機を導入した.
陸上ではあるが世界で初めて,ME-GI 受注機に対して
FGSS の高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプを連成させた
燃料供給を実現した.図 7に,そのFGSS の主要機器
の構成を示す.本設備では,LNG 貯槽タンクが実際
の LNG 運搬船カーゴタンク容量に対して相当小さい
ため,十分な BOG を確保するために本圧縮機の上流
側に強制気化器を配備した.図 8 に,圧縮機本体を上
空から見た写真を示す. 3.4 FGSSより商用ME-GIエンジンへ燃料供給
図 9 に,商用 ME-GI エンジンに本圧縮機単独で燃
料供給を行った運転チャートの例を示す.エンジン燃
料を重油からガスに切り換えたとき,およびガス運転
中に急速にガス燃料遮断の指令を受けたときの運転結
果である.圧縮機はあらかじめバイパス運転による待
機モードから,エンジンからの圧力デマンドに応じて
表 2 高圧ガス圧縮機の基本仕様
圧縮機型式
6MBL
水平対向型往復動圧縮機
シリンダ数 6
段数 5
圧縮機吸入圧力 MPaA 0.103
最低吸入温度 ℃ -160
吐出流量 kg/h 3500~4000
最終段吐出圧力 MPaA 24 ~ 33.5
圧縮機所要動力 kW 1000 ~ 1100
駆動機定格動力 kW 1250
圧縮機回転数 rpm 590
BOG-140℃
ME-GI33.5MPaA
(Engine 100% Load)
ControlSystem
Fuel Gas Compressor
: Compressor Cylinder (1st - 5th stage): Gas Cooler (1st - 5th after cooler)
: Control Valve: Check Valve
PT
LNGTANK
: Pulsation Suppression Device
PT PT PT PT
1st2nd 3rd 4th 5th
図 6 高圧ガス圧縮機の制御フロー
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日本マリンエンジニアリング学会執筆要項
Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -5- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)
自動的に燃料供給を開始する.これに伴いエンジンの
ガス燃料による出力がスムースに上昇することがわか
る.またガス燃料遮断時にも過渡的に不安定な吐出圧
力の上昇もなく圧縮機は安全に待機モードへ移行する
ことがわかる. 図10に,高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプからME-GIエンジンへ同時に燃料供給を行った例を示す.ポンプ
流量はその回転数で表し,また圧縮機流量は5段バイ
パス制御弁の開度(MV)によって表した.エンジン負荷
を75%から85%に上昇させる際は,圧縮機からの供給
量を増加させた(ポンプ回転数はほぼ一定,バイパス制
御弁開度は低下).その後100%に負荷を上げる際は,
圧縮機とポンプからの供給量を同時に増加させた(ポ
ンプ回転数も上昇,バイパス制御弁開度はさらに低下).
なお,ここでは高圧液ポンプを圧力制御に使用し,一
方で高圧ガス圧縮機をエンジンからの出力デマンドに
応じて運転した.
3.5 FGSSの過渡応答シミュレーション
LNG運搬船上でME-GIエンジンからのデマンドに
対するFGSS の過渡応答性能を,実際に船上でエンジ
ンとFGSS を組み合せたガストライアルの前に,あら
かじめ制御設計の段階で把握しておくことは重要であ
る.ME-GIエンジン,余剰のBOGを燃焼させるGCU,
補機動力用のDF ディーゼル発電機,再液化装置など
のガス消費速度は機器ごとに異なる.これらのガス消
費側とBOG を吸込みカーゴタンク内の圧力を制御す
る高圧ガス圧縮機からのガス供給側とのガスの収支を
バランスさせるように制御システムによる全体の調整
が必要である.安定かつ十分なシステム応答性を実現
するために,システム全体のシミュレーションが有効
である. 図 11 に,図 7 の設備において高圧ガス圧縮機単独
によりME-GI エンジンに燃料を供給した際,ME-GIエンジンのガス負荷を約 45%から 55%の間で変動さ
Forced vaporizer ME‐GI
Combustor
CNGBottle
バッファタンクBuffer tank
▲
F. W.pump Gas return
tank
Vaporizer
HP液ポンプ
HP liquid pumpSuction drum
LNG storage tank
Hydraulic drive unit
強制気化器
LNGタンク
気化器
高圧ガス圧縮機HP gas compressor
図 8 高圧ガス圧縮機の外観
図 9 高圧ガス圧縮機からの単独燃料供給
40
50
60
70
80
90
100
110
120
1500
2000
2500
3000
3500
4000
4500
0 300 600 900120015001800210024002700
Gas
flow
rate
[kg/
hr] Gas flow rate to ME-GI
ME-
GI g
as lo
ad[%
],
MV
[%]
Pum
p ro
tatio
n sp
eed
[%]
MV of comp. 5th stage bypass valve
ME-GI gas load
Pump rotation speed
Time [sec]300
図 10 圧縮機とポンプからの同時燃料供給
2030405060708090100
25
26
27
28
29
0 100 200 300 400
ME‐GI ga
s loa
d [%
]
Gas p
ressure[M
PaG]
time [sec]
Experiment
Simulation
Load index
図 11 圧縮機吐出圧力のシミュレーション
図 7 工場設備FGSS の主要機器構成
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和文表題
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せたことに対するガス供給圧力の変動を示す.実線で
示す試験結果では,負荷変動に対応して圧縮機吐出圧
力が増減している.破線はシミュレーション計算結果
である.試験結果に比べ計算結果は振幅が若干大きく
なっているが圧力変動をよく再現できている.このと
きの圧縮機 5 段のバイパス制御弁の開度を比較して,
図 12 に示す.実線が試験結果,破線がシミュレーシ
ョン計算結果である.両者に若干のオフセットがみら
れるものの,バイパス制御弁の過渡的な動きを予測で
きていることがわかる.
4. おわりに
従来に比べて燃費性能に優れ、クリーンな排気ガス
の天然ガス焚き ME-GI エンジンの市場投入が開始さ
れた.ME-GI エンジンへ燃料ガスを供給するシステム
FGSS について,LNG 燃料船においては高圧液ポン
プ方式,一方 LNG 運搬船においては同ポンプ方式と
BOG 再液化装置を組み合わせたパターン,あるいは
BOG を昇圧してエンジンへ供給する高圧ガス圧縮機
を組み合わせたパターンについて、それぞれ概要を紹
介した.本稿が経済的かつクリーンな推進システム普
及の一助になれば幸いである.
参考文献
1) 川上,日マリ学誌,49-6(2014-11),750-755 2) 近藤,日マリ学誌,45-6(2010-11),876-881 3) IMO ウェブページ,
http://www.imo.org/en/MediaCentre/PressBriefings/Pages/26-MSC-95-ENDS.aspx あるいは, 日本海事協会,2015 年秋季技術セミナー資料,LNG 燃料船について ~IGF コード発効に向けたNK の
取組み~,(2015) 4) 国土交通省海事局,天然ガス燃料船に関する総合対
策,(2013) 5) 日本海事協会資源エネルギー部,ガス燃料船ガイド
ラインVer.3,(2014) 6) United States Coast Guard,CG-521 Policy
Letter No.01-12,April 19,2012 7) 日本海事協会,2012 ClassNK 春季技術セミナー資
料,ガス燃料船の実用化とNK の取り組み,(2012) 8) TGE Marine Gas Engineering 社資料,LNG Fuel
Gas Systems (http://www.tge-marine.com/files/140819_-_fuel_gas_brosch__re_final.pdf )
9) 日本郵船,ニュースリリース,日本初のLNG 燃料 船「魁」が竣工,2015 年 9 月 1日 (http://www.nyk.com/release/3560/004044.html )
10) 渡邉・柴田,日マリ学誌,49-1(2014-1),13-19
著者紹介
姓 名 難波 浩一 1962 年生 三井造船㈱機械・システム事業
本部 機械工場 技術開発部
姓 名 和田 裕太郎 1989 年生 三井造船㈱機械・システム事業
本部 機械工場 産業機械設計部
姓 名 辻 康之 1967 年生 三井造船㈱技術開発本部 玉野
技術開発センター
写真 (30×25)
写真 (30×25)
写真 (30×25)
図 12 5段バイパス制御弁開度のシミュレーション
0
20
40
60
80
100
0 100 200 300 400
Valve ‐ope
ning
[%]
Time [sec]
Experiment
Simulation
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