me-gi用高圧燃料ガス供給システム - jst

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1. はじめに 国際海事機関 IMO による船舶からの大気汚染防止 に関する国際的な環境規制の強化 1) を背景に,排気ガ スのクリーンな天然ガス燃料の利用に注目が集まって いる.また,米国のシェールガス革命に端を発して, 天然ガストレードが活況を呈しており,ガス供給量の 増加や入手経路先の多様化に伴い,石油エネルギーに 比べて安価な燃料としても天然ガスへの期待は大きい. 環境負荷を低減すると同時に輸送コストを削減する観 点から,天然ガスを主機燃料として推進する船舶の需 要は今後 高まることが予想される. 多様化する燃料への対応は,MAN Diesel & Turbo 社および三井造船が共同で開発した低速ガスインジェ クションディーゼルエンジン GIDE 2) による陸上発電 設備において1994 年からの約 20,000 時間に及ぶ実証 運転にさかのぼる.その後,天然ガスおよび重油の両 方を燃料として使用できるデュアルフュエル(DF)対 ME-GI エンジンが登場した. 2012 年には, TOTE 向けコンテナ船ならびに Teekay 向け LNG 運搬船に それぞれ天然ガス焚き ME-GI エンジンの搭載が決ま り, 2015 年末から 16 年にかけて海外ヤードにおいて 引渡しされる予定である.日本国内では,三井造船が 2015 年から ME-GI 商用機の出荷を開始した. 一方,これらME-GI エンジンの実用化と並行して, 国際的には IMO により,ガス焚き機関を搭載する船 舶の安全性を確保するために,設備,制御,監視装置 などの詳細要件を規定した IGF コード 3) の適用が 2017 1 月から義務化される.国内では 2013 6 に国土交通省海事局による「天然ガス燃料船に関する 総合対策」 4) および 2014 12 月に日本海事協会資源 エネルギー部による「ガス燃料船ガイドライン Ver.35) がそれぞれ策定され,天然ガス燃料船の早期 実用化に向けた環境整備が図られた.これらの中では, 燃料タンクの設計・配備要件やエンジンに高圧燃料ガ スを供給するシステムに関わる要件も規定されており, ガス燃料船建造のための安全指針が示されている. 本稿では, ME-GI エンジンに燃料ガスを供給するシ ステム(Fuel Gas Supply System,以下では FGSSについて, RORO 船,コンテナ船など LNG 燃料船向 けと LNG を海上輸送する LNG 運搬船向けとに分け て,それぞれの主要な構成機器および特徴を,現在の ところ種々提案されているシステムの中から抜粋して 簡単に述べる. 2. LNG 燃料船向け FGSS 2.1 ME-GI エンジンの燃料ガス供給条件 1 に, ME-GI エンジンの 100%負荷時におけるガ ス燃料供給条件を示す.天然ガスの場合は 45℃, 30MPa の仕様である.また,エタンはシェールガス 採取の際に随伴ガスとして採取され,米国では安価な 燃料としても注目されている.エタン焚きの場合は 40MPa が要求仕様である.ちなみに,表中にはガス 燃料ではないが,多様な燃料に対応する ME-LGI エン ジンへの供給条件も併せ示した. 2.2 LNG 高圧液ポンプによるシステム 1 に,高圧液ポンプを使用した FGSS の主要な機 器の構成例を示す.-162℃の LNG を高圧液ポンプに よって液相のまま昇圧した後に気化器によってガス化 して ME-GI エンジンへ供給する.キーハードである ポンプの主な供給メーカとしては, ACD 社, Cryostar 社,三菱重工などが挙げられる.一方,図 2 に,高圧 液ポンプの例として三井造船による開発機の外観図を 示す. 2014 年に LNG を用いた性能実証運転を完了し たものである.供給メーカ各社とも基本的にはクラン ク機構の水平往復動式ポンプを採用している.LNG を昇圧するシリンダの部分 Cold-end には外部から入 熱を遮へいするために,真空ジャケットを外層に有す るタイプもある.ポンプはエンジンの圧力デマンド指 1 燃料供給条件 ME‐GI ME‐LGI Kind of fuel LNG Ethane Methanol Ethanol LPG DME Inlet press. 30MPa 40MPa 0.8MPa 0.8MPa 4MPa 3MPa Fuel state Gas Liquid Inlet temp. 45±10260*原稿受付 平成 27 11 2 日. **三井造船株式会社(玉野市玉3-1-1 ). ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム 難 波 浩 一 ** 和 田 裕太郎 ** 辻   康 之 ** Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第1 号(2016) ― 23 ―

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Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

1. はじめに

国際海事機関 IMO による船舶からの大気汚染防止

に関する国際的な環境規制の強化 1)を背景に,排気ガ

スのクリーンな天然ガス燃料の利用に注目が集まって

いる.また,米国のシェールガス革命に端を発して,

天然ガストレードが活況を呈しており,ガス供給量の

増加や入手経路先の多様化に伴い,石油エネルギーに

比べて安価な燃料としても天然ガスへの期待は大きい.

環境負荷を低減すると同時に輸送コストを削減する観

点から,天然ガスを主機燃料として推進する船舶の需

要は今後 高まることが予想される. 多様化する燃料への対応は,MAN Diesel & Turbo

社および三井造船が共同で開発した低速ガスインジェ

クションディーゼルエンジン GIDE 2)による陸上発電

設備において1994年からの約20,000時間に及ぶ実証

運転にさかのぼる.その後,天然ガスおよび重油の両

方を燃料として使用できるデュアルフュエル(DF)対応のME-GIエンジンが登場した.2012年には,TOTE向けコンテナ船ならびに Teekay 向け LNG 運搬船に

それぞれ天然ガス焚き ME-GI エンジンの搭載が決ま

り,2015 年末から 16 年にかけて海外ヤードにおいて

引渡しされる予定である.日本国内では,三井造船が

2015 年からME-GI 商用機の出荷を開始した. 一方,これらME-GIエンジンの実用化と並行して,

国際的には IMO により,ガス焚き機関を搭載する船

舶の安全性を確保するために,設備,制御,監視装置

などの詳細要件を規定した IGF コード 3)の適用が

2017 年 1 月から義務化される.国内では 2013 年 6月

に国土交通省海事局による「天然ガス燃料船に関する

総合対策」4)および 2014 年 12 月に日本海事協会資源

エネルギー部による「ガス燃料船ガイドライン Ver.3」5)がそれぞれ策定され,天然ガス燃料船の早期

実用化に向けた環境整備が図られた.これらの中では,

燃料タンクの設計・配備要件やエンジンに高圧燃料ガ

スを供給するシステムに関わる要件も規定されており,

ガス燃料船建造のための安全指針が示されている.

本稿では,ME-GI エンジンに燃料ガスを供給するシ

ステム(Fuel Gas Supply System,以下ではFGSS)について,RORO 船,コンテナ船などLNG 燃料船向

けと LNG を海上輸送する LNG 運搬船向けとに分け

て,それぞれの主要な構成機器および特徴を,現在の

ところ種々提案されているシステムの中から抜粋して

簡単に述べる.

2. LNG燃料船向けFGSS

2.1 ME-GIエンジンの燃料ガス供給条件 表 1に,ME-GI エンジンの 100%負荷時におけるガ

ス燃料供給条件を示す.天然ガスの場合は 45℃,

30MPa の仕様である.また,エタンはシェールガス

採取の際に随伴ガスとして採取され,米国では安価な

燃料としても注目されている.エタン焚きの場合は

40MPa が要求仕様である.ちなみに,表中にはガス

燃料ではないが,多様な燃料に対応するME-LGI エン

ジンへの供給条件も併せ示した.

2.2 LNG高圧液ポンプによるシステム 図 1に,高圧液ポンプを使用したFGSS の主要な機

器の構成例を示す.-162℃のLNG を高圧液ポンプに

よって液相のまま昇圧した後に気化器によってガス化

して ME-GI エンジンへ供給する.キーハードである

ポンプの主な供給メーカとしては,ACD社,Cryostar社,三菱重工などが挙げられる.一方,図 2に,高圧

液ポンプの例として三井造船による開発機の外観図を

示す.2014 年にLNG を用いた性能実証運転を完了し

たものである.供給メーカ各社とも基本的にはクラン

ク機構の水平往復動式ポンプを採用している.LNGを昇圧するシリンダの部分 Cold-end には外部から入

熱を遮へいするために,真空ジャケットを外層に有す

るタイプもある.ポンプはエンジンの圧力デマンド指

ME-GI用高圧燃料ガス供給システム*

難波 浩一** 和田 裕太郎** 辻 康之**

表 1 燃料供給条件 ME‐GI ME‐LGI

Kind of fuel        LNG        Ethane Methanol   Ethanol LPG     DMEInlet press. 30MPa     40MPa 0.8MPa     0.8MPa 4MPa   3MPaFuel state  Gas LiquidInlet temp. 45±10℃ 2~60℃*原稿受付 平成 27年 11月 2日.

**三井造船株式会社(玉野市玉3-1-1).

ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム*

難 波 浩 一**  和 田 裕太郎**  辻   康 之**

Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第 1 号(2016)― 23 ―

Page 2: ME-GI用高圧燃料ガス供給システム - JST

和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

令に従って,駆動モータの回転数により吐出流量を調

整する.モータにはインバータ電動モータあるいは油

圧モータが採用されている.ただし,米国船籍の場合

は,United States Coast Guard の定める天然ガス燃

料システムの設計基準では, FGSS が設置される天

然ガスポンプ室あるいは圧縮機室はHazardous area,Zone 0 に区分けされ,防爆モータも含めて一切の電動

機を設置できない 6).この場合は油圧源を確保した上

で油圧モータを利用,あるいはバルクヘッドシールに

よるポンプと電動モータを隔離する必要があるので注

意を要する.また LNG タンクの下流側で,ポンプの

吸込み部においてキャビテーションを防止するために,

図のようにサクションドラムを設ける,あるいはブー

ストポンプを利用することによってポンプの有効な正

味吸込みヘッドを確保する対策がとられる.なお,冗

長性の観点から,ポンプ本体を常用とスペアの 2台セ

ットで設置するのが推奨されている. ポンプのLNG 吐出温度は-140℃程度であるため,

気化器において高熱源側の流体には凍結を防止する理

由からグリコール水の利用が一般的である.熱交換部

の型式にはシェル&チューブ式が一般的である.最近

では,Heatric 社をはじめとしてコンパクトなPrinted Circuit Heat Exchangers (PCHE)の採用も図られて

いる.ポンプの下流ではピストンの往復動に伴う吐出

圧力の脈動を吸収するために,気化器の上流側に脈動

吸収ボトルを装備する場合が多い.一方,図 1 の例で

は気化器の下流側に同様なタンクを挿入したケースを

示しているが,ガス状態では液状態に比べて比較的大

きな容積のボトルとなるため,船上ではとくに設置ス

ペースの確保が必要である. 前述の IGF コードでは,FGSS の安全機能としてエ

ンジンごとに通常停止時および緊急時には燃料マスタ

ー弁と直列に配備した 2つの遮断弁を閉じて,同時に

それらの間のガスを排出するブリード弁を装備するダ

ブルブロック&ブリード弁(DBBV)の設置が義務づ

けられている. また,ポンプ方式は,後述の高圧ガス圧縮機を使用

する場合に比べると,所要動力やフットプリントが小

さい点で有利である.

2.3 LNG燃料タンク LNG 燃料船に用いられる燃料タンクの容積は,従

来の重油燃料の場合に比べて例えば2倍程度の大きさ

になる.燃料タンクの構造には,IMO のType C に分

類される独立型の円筒形の圧力容器が有力視されてい

る 7).供給メーカとしては,例えばTGE Marine Gas Engineering 社ではガス運搬船用Type C の燃料タン

クに多くの納入実績を有している 8).Type C ではタン

クのき裂および漏洩が起こらないよう安全な強度を有

しているため,2 次防壁は要求されない.また,ボイ

ルオフガス(Boil Off Gas,以下ではBOG)をタンク

内に溜めておける点でも他の Type に比べて有利であ

る. ちなみに,燃料の補給方法として以下の 3 つが運用

されている.すなわち,陸上の LNG タンクに直結し

た固定注入ラインから補給する方法Shore To Ship 方

式であるが,日本国内ではインフラ整備になお時間を

要する.つぎに,接岸した船舶に横付けしたタンクロ

ーリからフレキシブルホースにより補給する Truck To Ship 方式が北欧で採用されており,国内でも初の

LNG 燃料船に対して燃料補給が開始された 9).一方,

LNG バンカー船を海上で横付けして補給する Ship To Ship 方式は北欧のフェリー客船に運用されている.

3. LNG運搬船向けFGSS

3.1 高圧液ポンプ方式とBOG再液化の組合せ

図 1 LNG 高圧液ポンプ方式の例

図 2 LNG 液ポンプ(油圧モータ駆動)の例

Bunker station

LNG storage tankType C

LNG pump

VaporizerM

PC

PC

Buffer tank 

ME‐GI engine

Suction drum  Vent

Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第 1 号(2016)― 24 ―

ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム24

Page 3: ME-GI用高圧燃料ガス供給システム - JST

日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -3- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

LNG 運搬船では,カーゴタンクから自然発生する

ボイルオフガス BOG を安全にかつ経済的に処理する

必要がある.従来のLNG 運搬船の推進システムでは,

BOG を DF ボイラの燃料として用い,スクリューに

直結した蒸気タービンを駆動する方式が一般的である.

しかしながら,輸送コスト低減のため,熱効率の高い

ディーゼルエンジンが採用されつつある. LNG 運搬船のカーゴタンクの容量は,現状各地の

LNG受入れ基地側のサイズや貯蔵容量の物理的制限,

北米からシェールガスを運搬するときに 2016 年に開

通の新パナマ運河を通過できる船幅などの制約から,

最近の主流は 155,000m3~180,000m3 である 10).ま

た,カーゴタンク容積に対する BOG の発生率はカー

ゴタンクの防熱性能に左右され,モス方式の場合

0.08%/day,一方メンブレン方式の場合 0.1%/day が最

近の仕様である. 図 3に,前述の高圧液ポンプ方式FGSS とBOG 再

液化システムを組合せた推進システム系統図の例 10)

を示す.ME-GI エンジンへは高圧液ポンプ方式によっ

て燃料を供給する.一方,BOG を低圧ガス圧縮機に

よって昇圧した後,再液化装置COLD BOX において

窒素冷媒を利用することによって天然ガスを液化して

カーゴタンクへ回収する.また,再液化とは別のライ

ンを設けて船内の補機動力用にDF ディーゼル発電機

へ送る,あるいは余剰分をガス燃焼装置GCU へ送る.

BOG全量を再液化処理できるような大型の装置では,

駆動系の電力消費量が比較的大きいことが経済性の点

で注意を要する. 3.2 高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプ方式の組合せ

図 4に,高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプ方式を併用

したFGSS を模式的に示す.積荷航海時や空荷航海時

のタンク冷却スプレー作業中では,BOG をそのまま

高圧ガス圧縮機によって昇圧して ME-GI エンジンに

供給する.船の推進速度に応じて BOG だけでは

ME-GI エンジンが要求する燃料量をまかなえない場

合は,高圧液ポンプのラインから燃料を供給する.ま

た空荷航海時にスプレーを行わないとき BOG が十分

な量発生しない場合にも,液ポンプのラインから燃料

を供給する.逆に,BOG発生量がME-GI エンジンや

後述の船内補機動力用DF ディーゼル発電機での消費

量を上回る場合は,その余剰 BOG を GCU により焼

却処理するか,あるいは BOG を部分的に再液化して

LNG タンクに回収する. BOG 用高圧ガス圧縮機の例として,Burckhardt 社

の往復動圧縮機が採用されているようであるが,ここ

では三井造船が陸上Oil & Gas市場向けに実績のある

往復動圧縮機を舶用に転用したものを示す.図 5 に,

本圧縮機ユニット図を示す.ヤードでの艤装を容易に

するため,圧縮機本体,ドライバである電動モータ,

補機類(後述のガスクーラ,脈動吸収用スナッバ,バ

イパス制御弁など)をスキッド上にすべて搭載してい

る.本圧縮機の基本仕様を表 2 に示す.5 段構成の計

6 シリンダからなる水平対向式往復動圧縮機である.

水平対向式の有利な点としては,段ごとのメンテナン

気化器

Vaporizer

ME-GI

高圧ガス圧縮機HP gas compressorBOG

30MPa45℃

高圧液ポンプHP liquid pump

LNGカーゴタンク

-162℃

図 3 LNG 高圧液ポンプ方式とBOG 再液化の組合せ

図 5 高圧ガス圧縮機ユニット

図 4 高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプ方式の組合せ

Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第 1 号(2016)― 25 ―

ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム 25

Page 4: ME-GI用高圧燃料ガス供給システム - JST

和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -4- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

スが容易なこと,往復動のバランスとりが容易なこと

が挙げられる.-160℃の低温ガスを昇圧して,ME-GIエンジンに最大33.5MPaの高圧燃料ガスを供給する.

また,吐出流量は現在主流の LNG 運搬船カーゴタン

ク容量とBOG レートを前提として,ME-GI エンジン

および船内補機動力用のDF ディーゼル発電機へ供給

にも対応するように 3500~4000kg/h に設定した.図

6 に,本圧縮機の制御フローを模式的に示す.図中の

破線は信号を表す.ME-GI エンジンからのデマンドに

対して,十分な応答性能を実現するために,吐出温度

を制御するガスクーラ,吐出流量を制御するバイパス

制御弁,吸込側および吐出側にそれぞれ脈動吸収スナ

ッバなどを全段に装備している.さらに,シリンダに

搭載した吸込弁アンローダと組合せて,0%から 100%の広範囲かつ正確な供給流量の調整が可能である.な

お,吸込み弁アンローダとは吸込み弁を開放状態に拘

束して運転するステップ状の容量調整機構である.

ME-GI エンジンのデマンドには基本的には 5 段目の

バイパス制御弁によって追従する.その上流側 1段~

4 段までは段ごとに所定の圧力となるように各段のバ

イパス制御弁が調整する. また,途中の段からの抽気を以下のように利用する

ことにも対応できる.例えば,2 段目下流からの抽気

を船内補機動力用のDF ディーゼル発電機へ供給する.

さらに,余剰なBOG の再液化にも抽気を利用できる.

すなわち,再液化に際しては,BOG の圧力が高いほ

ど効率よく液化できる.圧力が高くなると配管材質の

選定などに注意が必要となるが,再液化装置の冷媒装

置をコンパクトにできるメリットもある.抽気したガ

スを圧縮機入口の冷熱と熱交換させて,冷えたガスを

断熱膨張させることによりガスの一部を再液化させる

ことも可能である.本圧縮機は,1 段から 4 段目まで

は無潤滑のピストンリングによるシール方式を採用し

ており,上述のように段ごとにバイパス制御を行うこ

とと併せて,抽気を利用する部分再液化に適した仕様

になっている.

3.3 FGSS実証設備

三井造船では,図 4に示すような高圧ガス圧縮機と

高圧液ポンプを組合せたFGSS をME-GI エンジン陸

上試運転用の社内設備として2015年6月に完成させ,

そこには上述の高圧ガス圧縮機の初号機を導入した.

陸上ではあるが世界で初めて,ME-GI 受注機に対して

FGSS の高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプを連成させた

燃料供給を実現した.図 7に,そのFGSS の主要機器

の構成を示す.本設備では,LNG 貯槽タンクが実際

の LNG 運搬船カーゴタンク容量に対して相当小さい

ため,十分な BOG を確保するために本圧縮機の上流

側に強制気化器を配備した.図 8 に,圧縮機本体を上

空から見た写真を示す. 3.4 FGSSより商用ME-GIエンジンへ燃料供給

図 9 に,商用 ME-GI エンジンに本圧縮機単独で燃

料供給を行った運転チャートの例を示す.エンジン燃

料を重油からガスに切り換えたとき,およびガス運転

中に急速にガス燃料遮断の指令を受けたときの運転結

果である.圧縮機はあらかじめバイパス運転による待

機モードから,エンジンからの圧力デマンドに応じて

表 2 高圧ガス圧縮機の基本仕様

圧縮機型式

6MBL

水平対向型往復動圧縮機

シリンダ数 6

段数 5

圧縮機吸入圧力 MPaA 0.103

最低吸入温度 ℃ -160

吐出流量 kg/h 3500~4000

最終段吐出圧力 MPaA 24 ~ 33.5

圧縮機所要動力 kW 1000 ~ 1100

駆動機定格動力 kW 1250

圧縮機回転数 rpm 590

BOG-140℃

ME-GI33.5MPaA

(Engine 100% Load)

ControlSystem

Fuel Gas Compressor

: Compressor Cylinder (1st - 5th stage): Gas Cooler (1st - 5th after cooler)

: Control Valve: Check Valve

PT

LNGTANK

: Pulsation Suppression Device

PT PT PT PT

1st2nd 3rd 4th 5th

図 6 高圧ガス圧縮機の制御フロー

Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第 1 号(2016)― 26 ―

ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム26

Page 5: ME-GI用高圧燃料ガス供給システム - JST

日本マリンエンジニアリング学会執筆要項

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -5- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

自動的に燃料供給を開始する.これに伴いエンジンの

ガス燃料による出力がスムースに上昇することがわか

る.またガス燃料遮断時にも過渡的に不安定な吐出圧

力の上昇もなく圧縮機は安全に待機モードへ移行する

ことがわかる. 図10に,高圧ガス圧縮機と高圧液ポンプからME-GIエンジンへ同時に燃料供給を行った例を示す.ポンプ

流量はその回転数で表し,また圧縮機流量は5段バイ

パス制御弁の開度(MV)によって表した.エンジン負荷

を75%から85%に上昇させる際は,圧縮機からの供給

量を増加させた(ポンプ回転数はほぼ一定,バイパス制

御弁開度は低下).その後100%に負荷を上げる際は,

圧縮機とポンプからの供給量を同時に増加させた(ポ

ンプ回転数も上昇,バイパス制御弁開度はさらに低下).

なお,ここでは高圧液ポンプを圧力制御に使用し,一

方で高圧ガス圧縮機をエンジンからの出力デマンドに

応じて運転した.

3.5 FGSSの過渡応答シミュレーション

LNG運搬船上でME-GIエンジンからのデマンドに

対するFGSS の過渡応答性能を,実際に船上でエンジ

ンとFGSS を組み合せたガストライアルの前に,あら

かじめ制御設計の段階で把握しておくことは重要であ

る.ME-GIエンジン,余剰のBOGを燃焼させるGCU,

補機動力用のDF ディーゼル発電機,再液化装置など

のガス消費速度は機器ごとに異なる.これらのガス消

費側とBOG を吸込みカーゴタンク内の圧力を制御す

る高圧ガス圧縮機からのガス供給側とのガスの収支を

バランスさせるように制御システムによる全体の調整

が必要である.安定かつ十分なシステム応答性を実現

するために,システム全体のシミュレーションが有効

である. 図 11 に,図 7 の設備において高圧ガス圧縮機単独

によりME-GI エンジンに燃料を供給した際,ME-GIエンジンのガス負荷を約 45%から 55%の間で変動さ

Forced vaporizer ME‐GI

Combustor

CNGBottle

バッファタンクBuffer tank

F. W.pump Gas return 

tank

Vaporizer

HP液ポンプ

HP liquid pumpSuction drum

LNG storage tank

Hydraulic drive unit

強制気化器

LNGタンク

気化器

高圧ガス圧縮機HP gas compressor

図 8 高圧ガス圧縮機の外観

図 9 高圧ガス圧縮機からの単独燃料供給

40

50

60

70

80

90

100

110

120

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

0 300 600 900120015001800210024002700

Gas

flow

rate

[kg/

hr] Gas flow rate to ME-GI

ME-

GI g

as lo

ad[%

],

MV

[%]

Pum

p ro

tatio

n sp

eed

[%]

MV of comp. 5th stage bypass valve

ME-GI gas load

Pump rotation speed

Time [sec]300

図 10 圧縮機とポンプからの同時燃料供給

2030405060708090100

25

26

27

28

29

0 100 200 300 400

ME‐GI ga

s loa

d  [%

]

Gas p

ressure[M

PaG]

time  [sec]

Experiment

Simulation

Load index

図 11 圧縮機吐出圧力のシミュレーション

図 7 工場設備FGSS の主要機器構成

Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第 1 号(2016)― 27 ―

ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム 27

Page 6: ME-GI用高圧燃料ガス供給システム - JST

和文表題

Journal of the JIME Vol.00,No.00(2005) -6- 日本マリンエンジニアリング学会誌 第 00 巻 第 00 号 (2005)

せたことに対するガス供給圧力の変動を示す.実線で

示す試験結果では,負荷変動に対応して圧縮機吐出圧

力が増減している.破線はシミュレーション計算結果

である.試験結果に比べ計算結果は振幅が若干大きく

なっているが圧力変動をよく再現できている.このと

きの圧縮機 5 段のバイパス制御弁の開度を比較して,

図 12 に示す.実線が試験結果,破線がシミュレーシ

ョン計算結果である.両者に若干のオフセットがみら

れるものの,バイパス制御弁の過渡的な動きを予測で

きていることがわかる.

4. おわりに

従来に比べて燃費性能に優れ、クリーンな排気ガス

の天然ガス焚き ME-GI エンジンの市場投入が開始さ

れた.ME-GI エンジンへ燃料ガスを供給するシステム

FGSS について,LNG 燃料船においては高圧液ポン

プ方式,一方 LNG 運搬船においては同ポンプ方式と

BOG 再液化装置を組み合わせたパターン,あるいは

BOG を昇圧してエンジンへ供給する高圧ガス圧縮機

を組み合わせたパターンについて、それぞれ概要を紹

介した.本稿が経済的かつクリーンな推進システム普

及の一助になれば幸いである.

参考文献

1) 川上,日マリ学誌,49-6(2014-11),750-755 2) 近藤,日マリ学誌,45-6(2010-11),876-881 3) IMO ウェブページ,

http://www.imo.org/en/MediaCentre/PressBriefings/Pages/26-MSC-95-ENDS.aspx あるいは, 日本海事協会,2015 年秋季技術セミナー資料,LNG 燃料船について ~IGF コード発効に向けたNK の

取組み~,(2015) 4) 国土交通省海事局,天然ガス燃料船に関する総合対

策,(2013) 5) 日本海事協会資源エネルギー部,ガス燃料船ガイド

ラインVer.3,(2014) 6) United States Coast Guard,CG-521 Policy

Letter No.01-12,April 19,2012 7) 日本海事協会,2012 ClassNK 春季技術セミナー資

料,ガス燃料船の実用化とNK の取り組み,(2012) 8) TGE Marine Gas Engineering 社資料,LNG Fuel

Gas Systems (http://www.tge-marine.com/files/140819_-_fuel_gas_brosch__re_final.pdf )

9) 日本郵船,ニュースリリース,日本初のLNG 燃料 船「魁」が竣工,2015 年 9 月 1日 (http://www.nyk.com/release/3560/004044.html )

10) 渡邉・柴田,日マリ学誌,49-1(2014-1),13-19

著者紹介

姓 名 難波 浩一 1962 年生 三井造船㈱機械・システム事業

本部 機械工場 技術開発部

姓 名 和田 裕太郎 1989 年生 三井造船㈱機械・システム事業

本部 機械工場 産業機械設計部

姓 名 辻 康之 1967 年生 三井造船㈱技術開発本部 玉野

技術開発センター

写真 (30×25)

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図 12 5段バイパス制御弁開度のシミュレーション

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Journal of the JIME Vol. 51, No. 1(2016) 日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第 1 号(2016)― 28 ―

ME-GI 用高圧燃料ガス供給システム28