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Monthly Lecture Meeting 第 42 回 月例発表会 第 4 巻 10 号 同志社大学生命医科学部 医療情報システム研究室 Published by the Medical Information System Laboratory of Doshisha University, Kyotanabe, Japan Vol.4, No.10, 22 January 2015

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Monthly Lecture Meeting

第 42回 月例発表会

第4巻 10 号

同志社大学生命医科学部

医療情報システム研究室

Published by the Medical Information System Laboratory

of Doshisha University, Kyotanabe, Japan

Vol.4, No.10, 22 January 2015

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Medical Information System Laboratory

Monthly Lecture MeetingContents

ヒトの協調作業時における脳血流変化を用いた脳機能の検討

後藤 真櫻 . . . 1

技能習得における習熟度と脳血流変化の関係の検討

早川 温子 . . . 5

GPGPUを用いた時空間画像処理による細胞領域分割システムの精度向上と性能評価

井上 楓彩 . . . 10

視覚刺激と聴覚刺激に対する注意度合いと脳血流変化の類似性の検討

木村 茜 . . . 14

雑音環境が記憶作業時の脳血流変化と心理状態に及ぼす影響

將積 彩芽 . . . 18

脳血流量変化によるワーキングメモリ容量の検討:リーディングスパンテストを用いた検討

真島 希実 . . . 22

対話型遺伝的アルゴリズムを用いた専門家が良好と判断する角膜内皮細胞画像生成システムの構築

松浦 秀行 . . . 29

fNIRSデータに対する体動除去手法の提案と評価

中村 友香 . . . 35

DICOMタグを用いたユーザへの通知機能を有する医用画像管理システム

西村 祐二 . . . 38

肘関節屈曲運動イメージにおける左右識別のための EEGを用いた特徴量の検討

大久保 祐希 . . . 43

fMRIデータを用いた快のレベル識別の検討

大村歩 . . . 46

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色温度環境が選択的注意時の課題成績および脳活動に及ぼす影響の検討

大西 夏子 . . . 51

2値化と成長型ニューラルガスを用いた画像セグメンテーションによる

培養角膜内皮細胞の培養指標抽出システムの提案

関谷 駿介 . . . 55

2クラス分類の為の多目的遺伝的プログラミングを用いた特徴量変換手法の検討

白石 駿英 . . . 59

視聴覚GO/NOGO課題の難易度変化が脳活動に及ぼす影響のfNIRSを用いた検討

杉田 出弥 . . . 65

fNIRSデータにおけるチャンネルの最適選択による関心領域の検討

吉田 倫也 . . . 70

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

ヒトの協調作業時における

脳血流変化を用いた脳機能の検討

後藤 真櫻

Mao GOTO

背景:他者との相互作用の中で生成される社会脳科学への関心が高まっている

研究目的:他者と協力して行う作業における生産性を向上する

発表の位置づけ:協調作業を遂行中の協調時の脳活動の検討を行う

方法:同期協調タッピング課題を行った際の脳血流変化を fNIRS 装置を用いて計測する

結果:上手く協調できたペアでは,下前頭回,側頭葉,右中前頭回,左頭頂葉において脳血流の増加が見られた

1 はじめに

複数の人間が一緒に作業をする際,お互いに影響を及ぼし合いながら作業を進めていく.人

間同士の協調作業を円滑にするために不可欠なのが,互いのタイミングを合わせることであ

る.その人間のタイミング機構を明らかにするための研究を三宅らが行っている.三宅らは外

的イベントが単純である場合と複雑な場合では人間のタイミング制御機構が異なることを報

告しているが 1) ,これは人間が与えられるリズムに一方的に合わせる実験系である.人間同

士の協調作業で見られるタイミングの共有という,双方向の過程を測定することができない.

本稿では人間のコミュニケーションの基盤となる双方向的なタイミング共有過程を調査する

ために先行研究 2) に基づき,同期協調タッピング課題を行う際の 2名の被験者の脳の活動を

fNIRS (functional near-infrared spectroscopy)装置を用いて確認する.

2 同期協調タッピング課題

同期協調タッピング課題は,人間同士のタイミング合わせを調査するためにタイミング機

構研究における実験系の課題として用いられてきた 2) .本課題は 2名の被験者により行い,

それぞれの被験者に対して,他方の被験者のタッピングのリズムにできる限り同調してタッ

プを行う.ただし,両被験者のタップが徐々に加速,もしくはタッピングが止まってしまうの

を防ぐため,1∼2 秒の周期でタップするように前もって指示を出した.記録された n番目の

ボタン押し (Tap)時刻を Tap(n)として,2名の被験者間での非同期量 SE (Synchronization

Error) を解析の対象とし,以下の式 (1) に定義する.また,個々の被験者のタップ周期 ITI

(Inter Tap-onset Interval)を式 (2)に示す.Fig.1に同期協調タッピング課題における時間的

関係を示す.

SE(n) = TapA(n)− TapB(n) (1)

ITIA(n) = TapA(n+ 1)− TapA(n)

ITIB(n) = TapB(n+ 1)− TapB(n)(2)

Fig. 1 Temporal relationship of tapping onset between subjects

1

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3 実験

3.1 実験概要

本実験では 2名の被験者が 1組となって同期協調タッピング課題を行っている際の脳血流変

化について検討を行う.同期協調タッピング課題は,一方の被験者のボタン押し動作が,他方

の被験者に音刺激として与えられる構造をしている.被験者は,2名を 1ペアとし,女性健常

者 7名 21ペア (年齢:23-24歳,利き腕:右)を対象とした.以下,各ペアの被験者を被験者

A,被験者 Bとする.実験環境として温度は 20.6∼25.7 ◦C,湿度は 28∼62 %であった.両被

験者間をパーティションで仕切り,聴覚刺激を阻害する可能性のある雑音源をできるだけ排除

するためノイズキャンセラー付イヤホン (ATH-ANC23,オーディオテクニカ)を使用した.

脳血流変化の計測には fNIRS装置 (ETG-7100,日立メディコ)を用いた.fNIRS装置のサン

プリング周波数は 10 Hzである.プローブの設置は脳波電極配置の国際基準である国際 10-20

法を参考に行った.プローブは正中線を中心とした左右に 3×5のプローブを 1人につき 2つ

設置した.

3.2 実験設計

被験者は椅子に座ったまま,イヤホンを装着し提示される音刺激に合わせる同期協調タッピ

ング課題を行う.本実験では刺激提示を行うプログラムを Presentationソフト1を用いて作成

した.提示音刺激には,100 ms,500 Hzの sin波を用いた.タッピングの動作に慣れるため

に,被験者ペアは実験前に同期協調タッピング課題の練習を行った.実験中一貫して画面中

央に表示される「+」を注視した.計測時間は前レスト 30 秒,タスクを 150 秒,後レスト 50

秒とし,画面注視を行った.

3.3 データ解析

3.3.1 行動データ

同期協調タッピング課題の行動データより,協調できている・協調できていないを次のよう

に定義する.n回目のタッピングの際,被験者 Aが先にタップした場合,n+1回目では被験

者 Aは遅くタップする.一方,被験者 Bは,n回目のタッピングで被験者 Aよりも遅くタッ

プするので n+1回目では早くタップする.また,被験者 Bが先にタップした場合も同様であ

る.このように SEを小さくするよう,相手とのタップに基づき自分のタップを修正する状態

を協調できているとする.n回目における協調できている・協調できていないの 2値を SE(n),

∆ITIA(n),∆ITIB(n)の 3つのパラメータを用いて導出する.∆ITIA(n),∆ITIB(n)は以下

の通り算出する.

  ∆ITIA(n) = ITIA(n)− ITIA(n− 1)  ∆ITIB(n) = ITIB(n)− ITIB(n− 1)

SE(n),∆ITIA(n),∆ITIB(n)はそれぞれ正と負の値を取るので,3つのパラメータの組み合

わせは 8通りある.そのうち,協調できている状態は被験者 Aが先にタップする場合と,被

験者 Bが先にタップする場合があるので上記の 3つのパラメータを用いると以下の二通りが

ある. SE < 0かつ∆ITIA ≥ 0かつ∆ITIB < 0

SE ≥ 0かつ∆ITIA < 0かつ∆ITIB ≥ 0(3)

上記の条件を満たした回数を,タスク全体の回数 (N)のうち協調できた回数 (Nc)とする.

その割合を協調率 (Ratio of Cooperation: ROC) とし,2人の被験者のタスクパフォーマンス

とした.

3.3.2 脳血流データ

解析にはタスクに関連した神経活動を反映するとされる酸素化ヘモグロビン (OxyHb)を用

いた.NIRS装置から取り出された脳血流データに対し,ローパスフィルタを 1.0 Hzを施し

た.そして被験者ペアで比較を行うため,タスク区間の平均値と標準偏差を用いて正規化を施

しゼロ点補正をした.ここまで処理を施したデータに対し,解析を進めた.

1Neurobehavioral Systems,http://www.neurobs.com/

2

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Fig. 2 Task performance using ROC

Fig. 3 The color-coded by integral value of ∆Oxy-Hb

協調している時点での脳血流変化を算出するために以下の処理を施した.式 (3)の条件を満

たすNc回のタッピングにおいて,SEに着目し SEの絶対値が小さいものから 20回分を選択

する.その時点から 50サンプル分の脳血流変化の積分値を算出する.20回分の積分値の総和

を脳血流データとして検討に用いた.

4 結果

4.1 タスクパフォーマンス

全ての被験者ペアにおける ROCの値を Fig.2に示す.全被験者ペアでの ROCの平均値は

69.59% であった.この平均値より高い ROCの値を持つペアを協調することが出来たペア群

(high ROC group,n=12),平均値より低いROCの値を持つペアを協調することが出来なかっ

たペア群 (low ROC group,n=9)とした.

4.2 脳血流変化

協調している際の脳血流変化の総和を,high ROC groupと low ROC groupの分類分けに

基づき値によって色分けした結果を Fig. 3に示す.総和が大きいほど濃赤,小さいほど濃青

を示している.

5 考察

Fig. 3より,high ROC groupでは下前頭回,側頭葉,右の中前頭回の一部,左の頭頂葉の

一部において脳血流の増加が見られた.中前頭回は外側前頭前野の領域と重なる.外側前頭前

野は計画を必要とする戦略的な行為において賦活するとされている 3) .high ROC groupは

協調するために,次のタップタイミングをどうすべきか計画を立てて課題を遂行したため外側

前頭前野が賦活したのではないかと考えられる.

low ROC groupでは,右側頭部の傾向は見られないが,左側頭部が全体的に減少傾向を示

した.脳の右半球は音の知覚に対して特化しているとされている 4) .そのため,low ROC

group では左側頭部の脳血流は減少したものの,右側頭部の一部においてわずかに脳血流が上

昇したのではないかと考えられる.high ROC groupとは異なり,協調する機能よりも音に対

して反応する機能が働いたのではないかと考えられる.すなわち high ROC groupにおいて

活動の見られた部位をうまく働かせることができなかったため,協調することができなかった

ことが示唆された.

6 まとめ

本稿では,2名の人間の協調作業における脳の活動の様子を検討するために,人-人モデル

において同期協調タッピング課題を用いた fNIRS実験を行った.SE,∆ITIA,∆ITIBを用い

3

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て ROCとして各被験者ペアを協調できているペアとできていないペアに分類した.そして協

調時の脳血流変化を算出した.上手く協調して同期協調タッピング課題を遂行できたペアにお

いて,下前頭回,側頭葉,右の中前頭回の一部,左の頭頂葉の一部において脳血流の増加が見

られた.できなかったペアではこれらの部位での活動は小さく,うまく働かせることができな

かったため,協調することができなかったことが示唆された.

参考文献

1) 武藤 ゆみ子, 三宅 美博, エルンスト・ペッペル. 複雑な外的イベントとの同期における 2

種類のタイミング制御機構:自動的な機構と認知に制御された機構. 第 19回自律分散シス

テム・シンポジウム資料, pp. 115–120, 2007.

2) 今誉, 三宅美博. 協調タッピングにおける相互同調過程の解析とモデル化. ヒューマンイン

タフェース学会論文誌, Vol. 7, No. 4, pp. 477–486, 2005.

3) J. Tanji and E. Hoshi. Role of the lateral prefrontal cortex in executive behavioral control.

Physiological Reviews, Vol. 88, No. 1, pp. 37–57, 2008.

4) H. Platel, C. Price, J. C. Baron, R. Wise, J. Lambert, R. S. Frackowiak, B. Lecheva-

lier, and F. Eustache. The structural components of music perception. A functional

anatomical study. Brain, Vol. 120, No. 2, pp. 229–243, 1997.

4

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

技能習得における習熟度と脳血流変化の関係の検討

早川 温子

Atsuko HAYAKAWA

背景:現在,習熟度は課題成績のみで評価している.しかし,技能を伴う課題では,習熟段階を測ることは困難である.

研究目的:生理的指標である脳血流変化を利用した客観的な習熟度評価方法の確立を目的としている.

発表の位置づけ:課題の訓練による習熟度変化について生理的指標である脳血流変化から学習時の脳機能の検討を行う.

方法:MRT を用いて 6 週間 1 日 2 分毎日訓練を行い,週に一度 fNIRS を使用し脳血流変化の計測を行った.

結果:課題成績が定常状態を示し,習熟しつつある被験者より,課題成績と脳血流変化に関係性があることが示唆された.

1 はじめに

人間は訓練を通じて反復した動作を経験の情報として脳に蓄積することで,より高度なパ

フォーマンスを可能としている.経験の情報として脳に蓄積したもののことを技能と呼ぶ.こ

の技能に関する記憶は手続き記憶と呼ばれ,言葉では表現しにくいが行為として記憶され,行

為として表現される記憶である 1) .技能の習得には理解と習熟の 2 段階があると考えられて

おり,特に手術や乗り物の操縦など人の命に直接関わる技能においては習熟段階に達している

ことが必須となる 2) .現在,習熟度は課題の点数という一過性の値のみで評価していること

が多いが,課題成績のみでの判断・評価は個人のレベルや習熟するまでの過程を測ることが

困難である.そのため,習熟度を客観的に判断するための課題成績以外の指標が必要となる.

そして,技能の習得には理解という段階が含まれていることから,脳が関係していることが分

かる.そこで,生理的指標の一つである脳血流変化を用いて習熟段階までの過程を検討する.

本研究の目的は生体情報を用いた客観的な習熟度評価方法の確立のための脳血流変化の検討

である.客観的な習熟度評価方法を確立することで,教育や人材育成に活用することが可能

となると考えている.脳血流変化の計測には,脳機能イメージング装置の一つである fNIRS

(functional Near-Infrared Spectroscopy)を使用した.本実験では,様々な技能習得のための

課題の中から数値として課題成績を算出しやすく,訓練課題として適している立体視課題 3)

及びメンタルローテーション課題(Mental Rotation Test: MRT)4) を用いた.両課題とも

空間認知に関係のある課題であるため,実験結果の比較も可能であると考えた.また,能力に

個人差があり,訓練により習熟できる課題であるため使用した.本稿では,メンタルローテー

ション課題を用いた実験結果について述べる.

2 メンタルローテーション課題

メンタルローテーション課題とは,被験者に角度差のある 2つの図形が正像か鏡像かの判

断を課すものである.メンタルローテーション課題は,被験者が判断するまでに要する時間が

2 つの 3 次元図形の角度差と相関があることが示されている 4) .本実験では,これらの中で

も最も基本的に用いられている 3 次元ブロック図形を使用した.

2.1 メンタルローテーションに関する脳機能

メンタルローテーション課題時の脳内メカニズムについて様々な研究がなされている 5, 6)

.これらの研究において,メンタルローテーションには頭頂連合野が関与することが明らかに

されてきた.また,頭頂連合野に加え運動前野は頭頂連合野と双方向性に連絡していることか

ら,メンタルローテーションに関与するとされている 7) .

5

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Fig. 1 課題成績と脳血流変化の関係性(仮定)

Fig. 2 実験の流れ

3 実験

3.1 先行研究の結果による仮説

先行研究によると,習熟に伴い脳血流変化は減少傾向になるとされている 8, 9, 10) .その

ため,この結果から「課題成績と脳血流変化に関係性がある」という仮説を立てた.習熟前に

おいては,課題成績の増減に伴い脳血流にも変化があり,一方,習熟後では課題成績が定常状

態となり,脳血流が減少傾向になると考えた.以降の実験結果・考察においては,Fig. 1に示

す仮説を踏まえて検討を行っていく.

3.2 実験内容

本実験は訓練と計測から構成され,6 週間行われた.訓練・計測内容は以下の通りである.

•訓練:6 週間毎日 2 分間(1 セット 1 分× 2 セット)MRTの訓練

•計測:訓練に伴う脳血流変化を fNIRS を用いて週に 1 度計測

実験では以下の実験設計で計測を行い,その流れを Fig. 2に示す.

•安静:画面中央の十字マークを注視+指をタッピング•課題:メンタルローテーション(~6 [s])

最初に 30 秒間安静状態を保ちながら画面中央の十字マークを注視し,タッピングを行う.

次に 60秒間の課題では,1 枚の画面に並列した 2つの 3次元ブロック図形のメンタルローテー

ションを行う.課題では最長 6 秒間課題の画像が表示されるようになっている.課題画面で

は,クリックでの回答後次の画面へ進めるように設定した.最後に安静の時間を 50 秒間設け,

最初の安静時と同様の注視,タッピングを行った.

3.3 被験者及び実験環境

実験では,日立メディコ製の fNIRS(ETG-7100)を使用し,国際 10-20 法に準拠して両側

頭部,後頭部,頭頂部,前頭部に計測プローブを設置した.

被験者は,健常者 10 名(男性:5 名,女性:5 名,年齢:22-24 歳)とした.そして,実験

を行った際の室温および湿度は 18.7~25.1 [℃],22~55 [%] であった.

3.4 fNIRS データの取り扱い

本実験での検討には,脳血流変化に伴う酸素化ヘモグロビン(以下 Oxy-Hb)濃度変化の

データを使用した.データ処理のパラメータは,脈波成分を取り除くためにローパスフィルタ

を 1.0 [Hz] とし,移動平均処理のサンプル時間は 5.0 [s] とした.

6

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Fig. 3 課題成績

Fig. 4 脳血流変化

3.5 解析方法

課題成績と脳血流変化について検討を行った.課題成績は,1 分間で正答した画像枚数で評

価した.

次に,脳血流変化データの解析方法について述べる.最初に,データ比較を行いやすくする

ために同一被験者内で式 (1)に示す Z-score を用いて課題区間データの正規化を行った.

Norm.OxyHb =OxyHb− ave

sd(1)

ここで, Norm.OxyHb は,正規化後の Oxy-Hb 濃度変化量を,OxyHb は,計測データを,

ave は,Oxy-Hb 濃度変化量の平均値を,sd は,Oxy-Hb 濃度変化量の標準偏差を示してい

る.Norm.OxyHb の値は各被験者,平均 0,分散 1 の形に正規化されている.その後,課題

開始の脳血流変化量を 0 点に補正した.

そして,活性量により週を追った領域の変化を検討するため,積分値を算出し,積分値の符

号(正負)などから 8 色に領域の色分けを行った.

3.6 実験結果

課題成績の結果を Fig. 3に示す.被験者 G,H,I,J においては,4 週目以降課題成績が

安定した.そのため,習熟した被験者と考えられる.以降,習熟したと考えられる被験者 G

の結果を用いて検討していく.

週を追った被験者 G の前頭部における脳血流変化の結果を Fig. 4に示す.訓練前,訓練 3

週目,4 週目,訓練最終週を表した.訓練前は脳血流が減少傾向であり,それ以降は訓練前と

比較すると増加したことが分かる.3 週目では減少傾向となり,4 週目では増加傾向を示した.

そして,最終週では再度減少傾向となった.

次に,被験者 G の前頭部における積分値により領域を色分けした結果を Fig. 5に示す.こ

の結果から,上述した脳血流変化の結果と同様のことが言え,訓練前は脳血流が減少傾向であ

り,それ以降は訓練前と比較すると増加,3週目では減少傾向となり,4週目では増加傾向を

7

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Fig. 5 積分値による領域の色分け

示した.そして,最終週では再度減少傾向となった.

4 考察

課題成績の結果から 3 週目から 4 週目にかけて成績が上がり,その後安定した.そのため,

被験者 G は,検討する上で立てた仮説からも習熟しつつある被験者であるといえる.そして,

脳血流変化の検討結果から 3 週目までで一度メンタルローテーションの方法を獲得したこと

で減少し,4 週目で課題成績が向上していることも鑑みて,再度試行錯誤したことで脳血流が

増加し,また,最終週にかけて減少しつつあることから再度方法を習得している段階であると

考えられる.被験者 G 以外の課題成績の安定した被験者においても,一度脳血流が減少傾向

となり,その後一度増加,再度減少する変化が見られた.脳血流が増加した週では,課題成績

も向上していた.このことから,方法を獲得した際に脳血流が減少し,再度試行錯誤を行い方

法を再検討することで脳血流が増加すると考えられる.以上の結果から仮説が正しく,脳血流

変化と課題成績には関係性があることが示唆された.

5 結論

現在,習熟度は課題成績のみで評価されているが,課題成績のみでは習熟の過程を測ること

は困難である.そこで,本研究では習熟に伴う脳活動の検討から客観的な習熟度評価方法の確

立のための脳血流変化の検討を目的とした.脳血流変化を習熟評価の新たな指標とするため,

fNIRS を用いた計測を行った.訓練課題として,メンタルローテーション課題を用いた.

脳血流変化を検討する上で,習熟に関する先行研究より「課題成績と脳血流変化に関係性が

ある」という仮説を立てた.この仮説を踏まえて,課題成績と脳血流変化を検討した.

課題成績が安定した,習熟した被験者においては脳血流は訓練開始から数週間は減少しつ

つ,その後一度増加,再度減少するという結果となった.脳血流が増加した週は,課題成績も

増加していた.以上の検討の結果,仮説が正しく,課題成績と脳血流変化に関係性があること

が示唆された.

参考文献

1) 橋本圭子, “運動スキル学習に関する考察 ―脳内経路の変化と記憶の固定をめぐって―,”

新潟工科大学研究紀要, Vol.12, pp.133–147, 2007.

2) 柴田庄一, 遠山仁美, “技能の習得過程と身体知の獲得 ―主体的関与の意義と「わざ言語」

の機能―,” 名古屋大学大学院国際言語文化研究科 言語文化論集, Vol.24, No.2, pp.77–93,

2003.

3) 田辺誠司, 藤田一郎, “両眼視差の脳内表現,” 日本神経回路学会誌, Vol.11, No.2, pp.64–73,

2004.

4) R.N. Shepard and J. Metzler, “Mental rotation of three-dimensional objects,” Science,

Vol.171, No.3972, pp.701–703, 1971.

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5) Kaoru S., “手のイメージの触運動感覚的操作 ―心的回転課題の刺激提示様式からの検討

―,” The Japanese Journal of Psychology, Vol.57, No.6, pp.342–349, 1987.

6) 石橋遼, “手のメンタルローテーション課題における被験者自身の手の状態の影響,” 電子情

報通信学会技術研究報告. HIP, ヒューマン情報処理, Vol.105, No.358, pp.125–129, 2005.

7) 楠元 史, 今井亮太, 兒玉隆之, 森岡 周, “メンタルローテーション課題における脳活動

と反応時間の関係 ―EEGを用いて―,” 理学療法科学, Vol.29, No.4, pp.479–483, 2014.

8) 長谷川靖, 綱島均, 丸茂喜高, 小島崇, “機能的近赤外分光 (fNIRS)装置を用いた列車運転

時の高次脳機能計測 (習熟による脳活動の変化について),” 第 14回鉄道技術連合シンポジ

ウム, pp.409–412, 2007.

9) 渡部直人, 永村慎吾, 齊藤泰範, 林雄太, 村山淳, 原田哲也, “実用的な VR訓練システムの

習熟評価に関する一考察,” The Virtual Reality Society of Japan, Vol.15, No.1, pp.45–52,

2010.

10) H. Lee, M.W. Voss, R.S. Prakash, W.R. Boot, L.T. Vo, C. Basak, M. VanPatter, G.

Gratton, M. Fabiani and A.F. Kramer, “Videogame training strategy-induced change in

brain function during a complex visuomotor task,” Behavioural Brain Research, Vol.232,

No.2, pp.348–357, 2012.

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

GPGPUを用いた時空間画像処理による細胞領域分割システムの精度向上と性能評価

井上 楓彩Fua INOUE

背景:近年, 生命現象を解き明かす手段として, 生きたままの細胞を観察する「ライブイメージング技術」が注目されている.

研究目的:コンピュータの画像処理向け専用プロセッサである GPU を活用した, 顕微鏡動画のリアルタイム処理手法の提案.

発表の位置づけ:GPU プログラミングの利用による処理速度の高速化を目指した, 顕微鏡動画から細胞輪郭を抽出する方法の検討.

方法:同一の動画処理アルゴリズムを用い, CPU のみの場合もしくは, CPU と GPU を併用した場合の処理速度を比較した.

結果:GPU を併用した際, CPU と GPU 間のデータ転送に時間を要したが, それ以降の処理速度は GPU の方が速かった.

1 はじめに近年, 生命現象を解き明かす手段として, 生きたままの細胞を観察する「ライブイメージング技術」が注目されている 1) . 例えば, 遺伝子細胞の研究では分子レベルでの解析が進み, 生きている細胞で内部の分子の動きを直接観察する取り組みが行われている1. 一方で, 細胞画像処理に関する研究は以前から行われており, その代表例として, 細胞画像から, 細胞が正常に培養されたかどうか判断するための品質評価手法などが挙げられる 2) . よって, 前述の顕微鏡動画技術の発展に併せ, 細胞画像の処理は静止画の域を越え, 動画の処理に対応する必要があると考えられる. そこで研究目的して, 並列処理手法の一つである GPGPU(General-purposecomputing on graphics processing units)の特性を上手く活用した効率の良い顕微鏡動画の高速処理システムの構築を目指す.

2 GPGPUを用いた時空間画像処理による細胞領域分割システム本システムの目標は次の 2項目である.

1. 時空間画像処理による細胞領域分割の精度向上.

2. GPGPUの並列性を利用した処理速度の高速化.

本システムの対象動画から 1フレーム抜き出し Fig. 1(a)に示した. 対象フレームの欠点として, コントラストが低いゆえ, 細胞領域の境界線が判別しづらいことが挙げられる. これを解決する方法として, 局所的ヒストグラム平坦化を用いた画像濃度補正を行った Fig. 2(b). 詳細を 2.1.1節に述べる. 一方, 利点として, 動画であるため, フレーム数が多いことが挙げられ

(a) Original (b) Overall

Fig. 1 Comparison of histogram equalization

る. これを利用し, 細胞領域の分割精度を向上させる手段として, 時空間画像処理を取り入れ1細胞内ネットワークのダイナミズム解析技術開発 http://www.nedo.go.jp/activities/ZZ 00184.html

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た. 詳細を Fig. 3に述べる. そして, GPGPUの並列性を活かし, 細胞領域分割の処理速度の高速化に取り組んだ.

2.1 細胞領域分割の精度向上2.1.1 ヒストグラム平坦化を用いた画像濃度補正ヒストグラム平坦化とは, 画素値の分布が平坦 (一様)になるように濃度値を変換する手法のことである. 各濃度値が一様になるため, コントラスト強調効果が得られる場合が多い. しかし, ヒストグラム平坦化は画像全体のヒストグラムを用いているため, ピクセル座標などの位置情報が考慮されていない. したがって, 今回の対象画像 (Fig. 1(a))のように, 撮影時の比較り環境によって細胞の写り具合が異なる場合, コントラストの差をより際立たせてしまう場合がある. Fig. 1(a)では, 僅かではあるが, 画像の中央部にいくほど濃度が高く (明るく) , 両端にいくほど濃度が低く (暗く) なっているためヒストグラム平坦化を行うと Fig. 1(b)のようになり, 濃度の高い中央部分が白く抜けてしまった. このような誤ったコントラスト強調は,領域分割の精度を下げる原因と成り得る. そこで, 画像全体のヒストグラムに変換処理を行うのではなく, 画像内のそれぞれ局所的な範囲でヒストグラム変換を行うことで, 画像のコントラストのばらつきを抑える方法を提案する. 提案手法のアルゴリズムを以下に示す. また, 概要を Fig. 2(a)に示す.

(a) Method (b) Local

Fig. 2 Histogram transform by each local areas

1. ヒストグラム平坦化を行う局所領域の大きさを指定する.

2. 対象画像の局所領域においてヒストグラム平坦化を行い, 処理後の画素値を記憶する.

3. ヒストグラム平坦化を行う局所領域を, 1ピクセルずつ未変換領域へ移動し (2)の操作を行う.

4. (2)と (3)の操作を対象画像の全ての局所領域で適用されるまで繰り返す.

5. 局所領域が重なるピクセルに置いては, それらの平均値を新しい画素値とする.

2.1.2 時空間画像処理時空間画像処理とは, 3次元処理とも呼ばれる. この場合の 3次元とは, 画像を構成する画素の x軸, y軸, そして動画の時間軸を指す. 今回の対象資料は動画であり, フレーム数を多く抱える. そこで, 複数枚のフレームを重ね合わせることによって, 細胞輪郭を強調し, その他のノイズ成分の軽減を図った. 概要を Fig. 3に示す. 重ね合わせられたフレームは, 任意の一定区間から抽出された細胞画像である. これらの細胞画像の画素値の平均を取り, 細胞動画を再構成した.

2.2 処理速度の高速化GPUを GPGPUとして扱うには, NVIDIA社2が提供する GPU向けの C言語の統合開発環境である Compute Unified Device Architecture(CUDA)が必要となる. CUDAの役割として主に, CPUとGPU間の通信制御が挙げられる. CUDAの処理の流れは以下の通りである.

2Parallel Programming and Computing Platform — NVIDIA http://www.nvidia.com/object/cuda

home new.html

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Fig. 3 Spatio-Temporal Image Processing

1. GPU側の計算領域を確保する.

2. 計算に必要なデータを CPUから GPUへ転送する3. カーネルを呼び出す.

4. 転送されたデータに対してカーネルを実行する. 結果は GPUメモリに保存される.

5. 計算されたデータを GPUから CPUへ転送する.

6. GPU側の計算領域を破棄する.

3 提案システムの性能評価本システムで使用した GPUの概要は Table. 1の通りであり, この GPUを Table. 2のスペックを有するマシンに搭載した.

Table. 1 Specification of NVIDIA GRID K2

GPU GK104 x2processor cores 1,536clock rate [MHz] 745global memory [Kbyte] 4memory clock rate [KHz] 2.5shared memory [Kbyte/block] 48L1 cashe [Kbyte] 64L2 cashe [Kbyte] 512

Table. 2 Specification of the machine

OS Microsoft Windows 7 EnterpriseOS version 6.1.7601 Service Pack 1

memory [GB] 16.38processor Intel c©Xeon R©CPU E5-2680 v2

clock rate [GHz] 2.8

3.1 画像処理の結果性能評価の際に用いたフィルタ群を Fig. 4(a)に示す. Fig. 4(b)はこのときの結果画像である.

3.2 処理速度の比較処理時間の結果を Fig. 5に示す. Fig. 4(a)の全行程をGPUで行った場合, その処理時間は

CPUの処理時間よりも遥かに上回る結果となった. 各処理ごとの処理時間を調査したところ,GPUで局所的ヒストグラム平坦化を実行すると, CPUよりも処理速度が低下することが判明した. そこで, 局所的ヒストグラム平坦化を CPUで行い, その他の処理をGPUで行ったところ (GPU’), CPUのみの処理よりも処理時間が削減されることが明らかとなった.

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(a) Filter process (b) Result image

Fig. 4 Comparison of histogram equalization

Fig. 5 Processing Speed

4 考察と結論GPUで局所的ヒストグラム平坦化を行った際の, CPUと GPUの処理記録を調査したところ, 平坦化の対象領域を 4ピクセルずつ移動させるごとに, Fig. 6の処理が行われていることが判明した. GPUで処理する際に特有の命令の変換や, GPU上での新たなメモリの確保, スレッドの同期処理など, 各種オーバーヘッドが発生し効率を低下させていた. したがって, 無用なオーバヘッドを極力発生させないことが, GPUでの処理には求められる.

Fig. 6 Local histogram equalization on GPU

参考文献1) H. Hirukawa, H. Nakayama, Y. Tanibata and Y. Kuwabara, “New technologies for csu-x1 confocal scanner

unit,” YOKOGAWA TECHNICAL REPORT-ENGLISH EDITION-, Vol.45, p.21, 2008.

2) T. Hiroyasu, S. Sekiya, S. Nunokawa, N. Koizumi, N. Okumura and U. Yamamoto, “Extracting rules for cellsegmentation in corneal endothelial cell images using gp,” in Systems, Man, and Cybernetics (SMC), 2013IEEE International Conference onIEEE, pp.1811–1816 2013.

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

視覚刺激と聴覚刺激に対する注意度合いと脳血流変化の類似性の検討

木村 茜Akane KIMURA

背景:視覚と聴覚の情報に対する注意度合いと脳血流変化について関係性が明らかになっていない.

研究目的:視聴覚に対する注意の脳機能を明らかにすることで,注意効率の向上や不注意による事故の防止を実現する.

発表の位置づけ:注意力の指標である反応時間と脳血流変化の関係について検討する.

方法:視覚刺激と聴覚刺激による GO/NOGO task を用い,反応時間と脳血流変化量の類似性を分析する.

結果:反応時間と脳血流変化の DTW 距離は,注意関連部位において類似性が高い傾向が見られた.

1 はじめに

注意減少 1) が誘因となる,歩行や自動車運転の際の事故が後を絶たない.注意行動の性能

と生体情報の関係性を明白にすることで,不注意による事故防止が可能になると考える.そこ

で注意度合いの変化を観察可能な GO/NOGO taskを実施し,注意性能指標として反応時間

(Reaction Time: RT),生体情報として fNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy)装置

による脳血流変化 (Cerebral blood flow: CBF)を計測する.本研究では,注意度合いが変化

する際の生体情報を計測することによりその関係性を明らかにすることを目的とする.

2 注意機能の計測

2.1 注意機能

注意は情報への集中と選択を行う働きであり,全ての認知機能の基盤といえる.大脳皮質

下の脳機能局在は Fig. 1 に示された部分に該当し,特に右背外側前頭前皮質 (Dorsolateral

Prefrontal Cortex: DLPFC)と右下頭頂小葉 (Inferior Parietal Lobule: IPL)では注意時の脳

活動と行動性能に負の相関がある 1) .そこで低拘束・非侵襲的に脳活動を記録できる 116チャ

ンネルの fNIRS装置を用いて,注意を行う際の CBFの変化を検討する.

Fig. 1 Cerebral cortex regions related to attention

2.2 GO/NOGO Task

GO/NOGO Taskとは 2種の信号 (GO,NOGO信号)を呈示する注意計測課題である.GO

信号に素早く反応し,NOGO信号に反応を抑制することで,信号に対する注意状態を観察す

る.注意状態の評価には,GO信号の呈示から被験者がキーを押すまでの RTを用いる.

3 実験概要

3.1 実験設計

健常者 19名 (23.5 ± 0.5)に視聴覚混合GO/NOGO taskを実施する.Fig. 2のように,課

題はレスト区間 30[s],タスク区間 600[s]のブロックデザインとする.被験者はタスク区間で,

視覚 GO信号 (“○”)と聴覚 GO信号 (1000[Hz])に反応し,視覚 NOGO信号 (“□”)と聴覚

NOGO信号 (1100[Hz])に反応を抑制する.

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Fig. 2 Schematic of experiment

3.2 データ処理方法

3.2.1 脳血流変化 (CBF)

CBFを 10[Hz]で計測し,Low-pass filter(LPF) 1[Hz]を用いて脈拍によるタスクに関係の

ない周波数を除去する.そしてタスク区間の脳血流データの標準化を行う.

3.2.2 反応時間 (RT)

被験者ごとに視覚刺激に対する RT(RTv)と聴覚刺激に対する RT(RTa)をそれぞれ標準化

し,正負符号を反転する.データは刺激呈示間隔 (約 6 [s])にのみ存在するため,10 [Hz]の

CBFデータに合わせて不等間隔線形補間を行う.また,平滑化の強度 (Window size)によっ

て比較する時系列データが異なるため,24から 120 [s]で移動平均処理を行う.

3.2.3 注意度合いの異なる区間

注意度合いにより脳の活動状態や活動部位は異なるため,注意状態の異なる 6区間を定義

する.定義には,聴覚刺激 (a)に対する RT(RTa),視覚刺激 (v)に対する RT(RTv)と視聴覚

刺激両方に対する RT(RTsum)を用いる.RTsumは,RTaと RTvを合算した時系列データ

である.そして最も RTの遅い時刻前後の区間 (MINa,MINv,MINsum),最も RTの速い

時刻前後の区間 (MAXa,MAXv,MAXsum)の 6区間について検討する.

3.2.4 DTW(Dynamic Time Warping)

RTと CBFの類似性の検討には DTWを用いる.DTWは 2シーケンス間の距離を最小化

するよう時間軸伸長を許容した距離尺度である.長さ n,mの時系列X,Y のDTW距離は式

(1)のように定義される.また血流動態の遅延に基づき,時間軸伸長の制約 2) を 6[s]にする.

3.2.5 判別分析法

判別分析法を用いて,116の DTW距離結果を類似・非類似の 2群に判別する 3) .RTと

CBFが類似・非類似と判別された例を Fig. 3に示す.その結果より,各チャンネル毎に全被

験者中の類似と判定された被験者の割合 (類似率)を算出する.

Fig. 3 Similar and dissimilar data by DTW results

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4 実験結果

先行研究 1) より,Fig. 4左に示す右DLPFCと IPLに着目した.Fig. 4右に示す平均類似

率はWindow sizeの違いによって上昇あるいは下降する傾向が見られた.平均類似率の高い

Window sizeは各注意状態の検討に適したWindow sizeであると考え,以下の検討に用いる.

Fig. 4 The average similarity rate on Window sizes

4.1 高注意状態と低注意状態の比較 (High/Low)

Fig. 4のWindow sizeの大きさより,低注意時より高注意時の方が RTと CBFの類似期間

は長かったと言える.また,脳全体と着目領域内の平均類似率を Fig. 5に示す.Wilcoxon順

位和検定より,高注意時より低注意時に RTvと RTsumの脳全体の平均類似率が有意に高い

と示された.着目領域において有意差はなかった.

4.2 聴覚と視覚と視聴覚の比較 (A/V/SUM)

Steel-Dwass法の多重検定より,高注意時においては脳全体でも着目領域でもMAXaの類

似率が他より有意に高いと示された.低注意時において有意な差はなかった.

Fig. 5 Similarity rate of all and interested channels

4.3 RTとCBFの類似部位

RTと CBFの類似チャンネル順位を被験者平均し Fig. 6に示す.右DLPFCと IPLが上位

となったが,視聴覚 RT共に遅いMINsumでは後頭部が上位となった.

5 考察

右 DLPFCと IPLにおける RTと CBFの類似率により,注意時の脳活動の観察に適した

Window sizeを決定した.注意度合いの高低変化に関して RTvあるいは RTsumに有意差が

あり,視聴覚間の注意対象の変化に関して RTaがその他より有意に高くなった.よって,そ

れらの注意状態はその他の注意状態と識別できると考えられる.しかし注意度合いによっては

着目部位以外で類似が上位に見られ,注意度合いは類似度に影響を与える可能性が示唆され

る.よって,全注意状態を一箇所で相関付けることは困難であると考えられる.

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Fig. 6 RT and CBF similar channels and their order

6 結論

視聴覚混合GO/NOGO Taskを用い,注意度合いの異なる際のRTとCBFの関係性につい

て検討した.結果より,注意状態はその他の注意状態と識別できる可能性が示唆された.RT

と CBFを用いて,注意行動の性能と生体情報の関係性を検討することは可能であるが,注意

度合いは類似度に影響を与える可能性が示唆される.

参考文献

1) R. Langner and S.B. Eickhoff, “Sustaining attention to simple tasks: a meta-analytic

review of the neural mechanisms of vigilant attention,” Psychological Bulletin, Vol.139,

No.4, pp.870–900, 2013.

2) H. Sakoe and S. Chiba, “Dynamic programming algorithm optimization for spoken word

recognition,” IEEE Transactions on Acoustics, Speech, and Signal Processing, Vol.26,

No.1, pp.43–49, 1978.

3) N. Otsu, “A threshold selection method from gray-level histograms,” IEEE Transactions

on Systems, Man and Cybernetics, Vol.9, No.1, pp.62–66, 1975.

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

雑音環境が記憶作業時の

脳血流変化と心理状態に及ぼす影響

將積 彩芽

Ayame MASAZUMI

背景:現代社会の中で多くの人が知的作業に携わっており,最適な作業環境が求められている.

研究目的:知的作業を行う際に最適な音環境の検討を目的とする

発表の位置づけ:作業環境として音環境に注目し,雑音環境による作業者への影響を検討する.

方法:異なる 3 つの音環境の中で数字記憶課題を行い,その際の脳血流変化と課題成績,外向性を検討する.

結果:外向性が向上する音環境において,高パフォーマンスを示し,下前頭回が活性した.

1 序論

現代社会では,多くの人がオフィスワークや学習のような知的作業に携わっており,効率

的な作業環境が求められる.これまでに脳波や心電図の計測より,音環境が作業に及ぼすこ

と,温度による影響には男女差があることが報告されている 1) .先行研究では被験者を男性

8名とし,音環境が作業と脳血流変化に影響を与えることを fNIRS(functional Near Infrared

Spectroscopy)を用いて報告しているが,男女差については検討されていない.本研究では,

雑音下で記憶課題を行い,脳血流変化,心理状態への影響の男女差について検討を行う.

2 知的作業と心理状態

ホワイトノイズは男女の自己開示性を変化させること,自己開示性は外向性と正の相関があ

ることが報告されている.先行研究においても,ホワイトノイズ提示時に男女で知的作業のパ

フォーマンスに差が生じたことが報告されているため,本研究では音環境が快の度合い,外向

性に及ぼす影響を調査する.

2.1 快の度合い・外向性の調査

被験者が音に感じる快の度合いの調査を目的として,VAS(Visual Analogue Scale)法を用

いたアンケートを行う.快・不快を 10cmの線分の両端に設置し,不快の点から,被験者がつ

けた印の長さを得点として算出する.

外向性の調査を目的として,20項目に対して「あてはまらない」= 1~「あてはまる」= 4

で回答する BIS/BASアンケート 2) を使用する.BIS7項目,BAS13項目で構成され,各尺

度の得点は,単純合計によって求める.その後,Fig. 1に示すように BISの得点 x,BASの

得点 yの点 A(x,y)から 45度回転した外向性の軸におろした垂線の交点を外向性得点とする.

3 3種類の音環境

本実験で用いる音環境は,静音,ピンクノイズ,ホワイトノイズの 3種類である.ピンク

ノイズは心身のリラックス効果があるとされているため,ホワイトノイズは先行研究で数字記

憶課題の成績を低下させることが報告されていたため使用する.静音時はノイズキャンセリン

Fig. 1 Score of extroversion

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Fig. 2 Flow of experiment

Fig. 3 Gender difference of score and pleasantness

Fig. 4 Activated area

グイヤホンを着用し,他の音環境は,実験ごとに平均音圧を 65± 0.5 [dB]に統一する.ただ

し,全ての音環境は fNIRSの動作音の音圧を含む.

4 実験概要

4.1 雑音環境での記憶作業時の成績と脳血流変化

本実験の目的は,音環境が作業成績及び脳血流変化に及ぼす影響の男女差を検討すること

である.被験者は成人男性 10名,女性 10名(23± 1歳)である.実験の流れを Fig. 2に示

す.安静時には画面を注視しながら軽くタッピングし,課題時には数字記憶課題を 30問行う.

作業時の音環境を静音,ピンクノイズ,ホワイトノイズの 3パターンに設定して計測を行い,

音の提示順序は被験者ごとにランダムである.

4.2 雑音環境が外向性に及ぼす影響

前実験において,ホワイトノイズ提示時に男女でパフォーマンスに差が生じた要因の調査の

ために,音環境が外向性に及ぼす影響を検討することが目的である.前実験と同様に,音環境

下で数字記憶課題を行い,その後,BIS/BASアンケートを実施する.また,各被験者の音環

境による外向性の変化を調査するため,静音状態でも対照となるデータを計測する.前実験と

同じ男性 10名,女性 10名に対し,3回の計測を別日に行う.

4.3 男女による成績,快の度合い比較

平均正答文字数,快の度合いの結果を Fig. 3に示す.男性は,静音>ホワイトノイズ>ピ

ンクノイズの順に,女性は,ホワイトノイズ>静音>ピンクノイズの順に高い成績,快の度合

いを示した.検定の結果,男女共に音環境の成績への影響はで有意であり,ホワイトノイズの

み男女の成績間に有意差が認められた.

4.4 静音時の成績による群分け

静音時の成績をもとに,男女それぞれ高成績群,低成績群に分類した.検定の結果,男女共

に低成績群のみ音環境の要因が有意である結果となった.各群の活性部位を Fig. 4に示す.低

成績群は活性 CHがほぼなかったのに対し,高成績群では下前頭回付近が広く活性していた.

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Fig. 5 Extroversion score

4.5 成績および心理状態と脳血流変化の関係性

各群の外向性得点を Fig. 5に示す.全群において,高成績を示す音環境ほど外向性が高い

結果となった.また,低成績群のみ音環境の要因が有意であった.Fig. 6に男性被験者,Fig.

7に女性被験者それぞれ一名の結果を例として示す.より快と感じ,外向性得点が高くなり,

良い成績を示す音環境において,Fig. 4に示す部位で大きい脳血流変化を示す結果となった.

Fig. 6 Male subject

Fig. 7 Female subject

5 考察

心理学研究によると,女性は男性に比べホワイトノイズを快と感じる.また,脳血流変化は

快音条件で増加,不快音条件で減少する.このことより,被験者は快適であると感じた音にお

いて,良い成績を示すことができ,脳血流変化が大きく増加したと考えられる.男女共に,高

成績群は音環境の要因は有意でなかったが,低成績群は音環境の要因が有意であった.外向性

が向上すると,前頭前野におけるドーパミン濃度が上昇し,ワーキングメモリが向上すること3) ことが報告されている.ワーキングメモリを必要とする本課題において,被験者は快と感

じた音環境で外向性が向上することにより,前頭前野にドーパミンが放出され,ワーキングメ

モリが向上し,高成績を示したと考えられる.これらのことより高成績者は,音を快と感じ,

外向性が向上し,前頭前野にドーパミンが放出されながらも,音を聞かないように注意・抑制

して課題に集中することができるため,ワーキングメモリを働かせ,高成績を示すことができ

たと考えられる.

6 結論

本研究では,音環境が知的作業と脳血流変化,心理状態に及ぼす影響の男女差の検討を目的

とした.3種類の音環境の中で数字記憶課題を行った結果,ホワイトノイズ提示下において,

課題成績に有意な男女差が見られた.また,快と感じる音,高成績を示す音環境と,外向性が

向上する音環境が一致する結果となった.低成績群に比べ高成績群では下前頭回付近が広く活

性していた.音を快と感じ,外向性が向上し,前頭前野にドーパミンが放出されながらも,音

を聞かないように注意して集中できると,高成績を示すことができたと考えられた.

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参考文献

1) 山本ゆう子, “温熱環境が作業効率に与える影響に関する基礎的研究 (修士論文梗概),” 生活

工学研究, Vol.3, No.1, pp.14–15, 2001.

2) 上出寛子, 大坊郁夫, “日本語版 bis/bas 尺度の作成,” 対人社会心理学研究, Vol.5, No.1,

pp.49–58, 2005.

3) Raija L., Antti H., Maria A., Ying H.L., Pekka T.M. and Matthew D.L., “Catechol

0-methyltransferase inhibitor tolcapone has minor influence on performance in experi-

mental memory models in rats,” Behavioural Brain Research, Vol.82, No.2, pp.195–202,

1997.

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第 42回 月例発表会(2015年 1月 22日) 医療情報システム研究室

脳血流量変化による

ワーキングメモリ容量の検討:

リーディングスパンテストを用いた検討

真島 希実

Nozomi MASHIMA

背景:情報の処理と保持を支えるワーキングメモリの機能は個人差があり,認知機能を及ぼすといわれている.

研究目的:ワーキングメモリ容量の差異と脳血流量変化の関係を検討し,作業効率の向上を目指す.

発表の位置づけ:RST の高成績群と低成績群で脳血流量の変化パターンから違いを検討すること.

方法:DTW 距離が最小になるように血流動態関数を作成し,群間の比較を行った.

結果:高成績群において前頭前野背外側部,ウェルニッケ領域などで活性が認められた.

1 はじめに

我々は,読んだり聞いたりした内容を並列的に保持しながら,続く情報処理に適切に対処す

ることによって様々な高次認知活動に対応している.例えば,会話の場面においても相手の話

した内容を覚えておかなければ,会話を続けることができない.ワーキングメモリはこうした

情報の処理と,処理した情報を活性化状態において一時的に維持する機能を支えている.しか

し,ワーキングメモリ容量には個人差があることや,加齢の影響によりワーキングメモリ容量

が低下し,認知課題や遂行能力の低下を及ぼすという報告が多くなされている 1, 2, 3) .また,

ワーキングメモリはトレーニングによって容量を増加させることができると考えられており,

直接トレーニングを行った課題だけでなく,様々な認知活動の向上にも貢献しているという報

告がある 4, 5) .このようにワーキングメモリは日常生活を送るために必須の能力であり,加

齢に伴う容量の減少を防ぐことや様々な認知機能の向上を図れることから,ワーキングメモリ

容量を増加させようとする動きが多くなされている.しかしながら,脳機能と関連したワーキ

ングメモリ容量の評価方法は確立されておらず,自身のワーキングメモリの状態を知ることは

困難である.この個人差が高次な認知活動,特に言語理解に様々な影響を及ぼしていることが

指摘されている 6) ことから,本稿では特に個人差が現れるとされる言語性ワーキングメモリ

に注目する.言語性ワーキングメモリ課題であるリーディングスパンテスト時の脳血流量変化

を fNIRSを用いて計測し,脳血流変化量の関係性を検討する.そのために,RSTの作業成績

をもとに被験者を高成績群と低成績群に分類した際の各群の活性部位の違いについて検討を

行う.

2 リーディングスパンテストとワーキングメモリ

リーディングスパンテスト (以下より RST)とはワーキングメモリの特に,言語の情報処理

に関連したワーキングメモリ資源を測定するために開発された課題である.RSTは被験者に

短文を口頭で読ませながら,その短文中の単語を保持させる課題である 7, 8, 9) .単語を記憶

する貯蔵,刺激文を読む処理,これらの作業を並列的に行うための制御がワーキングメモリの

保持と処理を支える機能と考えられている.つまり,読みと単語の保持がどの程度できるかに

より,ワーキングメモリ資源が測定されるのである.ワーキングメモリのモデルにはいくつか

のモデルが想定されているが,その中でも最も一般的なのは Fig. 1に示す Baddeleyのモデル

である 10, 11) .

このモデルは,中心的な役割を担う中央実行系の制御のもとに言語的な情報処理に関わる音

韻ループ,言語化できない情報を視覚情報・空間情報として維持する視空間スケッチパッド,

エピソードバッファの 3 つのサブシステムから構成される.サブシステムの一つである音韻

22

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Fig. 1 Working memory model

ループは音韻ストアに対応する領域が縁上回,構音リハーサルが下前頭回のブローカ領域で

処理されていると考えられている 12) .視空間スケッチパッドは右半球の前頭,運動前野,頭

頂領域が活性すると考えられている 13) .エピソードバッファはエピソード情報と音韻ループ

や視空間スケッチパッドで担いきれない情報を扱うために設定された 14) .そして,3 つのサ

ブシステムに対応した長期記憶の関与が想定されており,自己経験や意味的理解の働きを助け

るとされている.中央実行系の脳内機構については多くの研究で前頭前野の特に前頭前野背

外側部の活動が指摘されている 15, 16) .

3 RSTを用いたワーキングメモリ容量の評価実験

3.1 実験目的

本実験では,RSTを用いてワーキングメモリの容量の差異と NIRSにより測定した脳血流

の変化量の差異の関係性を検討する.そのために,RSTの作業成績をもとに被験者を分類し

た際の各群の脳血流変化量について検討を行った.先行研究 17) では高成績群のみに両群にお

いて強いネットワークがあることを示しており,競合状況を上手く抑制,情報の処理を行うこ

とができたと結論づけている.しかし,ネットワークの方向や成績によるネットワークの違

いがについて時間分解の高い fNIRS(functional Near-infrared Spectroscopy)18) を用いて検討

する.

3.2 被験者

同志社大学大学院,生命医科学研究科所属の右利き女性健常者 20名 (22-23歳)が参加した.

3.3 実験課題

苧坂らの日本語版RST8, 9) を参考に実験を行う.RSTに用いる短文は高等学校の教科書か

らディスプレイの一文に収まるように引用した.はじめに予備実験として 2文条件から 5文条

件までそれぞれ 5セットずつ行った.文中の単語は動詞,名詞,副詞など偏らないようにター

ゲット語とし,その単語の下に赤線を引いた.各文条件ごとに得点化したところ成績の悪い被

験者と成績の良い被験者の差が大きかったのは 5文条件であった.これより,5文条件が被験

者間でワーキングメモリ容量の差異が現れると考えた.また,十分に容量を使った時により個

人差が現れる 6) ということからもに 5文条件の RSTを課題とし,5文条件の RST課題時の

脳血流量変化を fNIRSで測定し,ワーキングメモリ容量の個人差の影響を検討する.

3.4 実験設計

fNIRSで測定するための実験設計を Fig. 2に示す.fNIRSは血流の変化量を測定するため

にベースとなる血流量 (レスト期間)から課題の中の血流量 (タスク期間)を検討することで測

定するためブロックデザインを用いる.

レスト期間は 60秒間画面に表示される”+”を注視しながら「あいうえお」と音読する.タ

スク期間は 1文を読みながら下線部のターゲット語を覚えることを 5文繰り返し,白紙の画面

23

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が表示されたら記憶した単語を口頭で回答する.これを 5回繰り返す.

Fig. 2 The RST block design.eps

被験者には口頭で実験の流れについて説明した.注意事項としてはっきりと音読すること,

最後に出てきた単語を最初に応えることのみ禁止した.

3.5 実験環境

NIRSは日立メディコ製の ETG-7100の 3プローブを用いて国際 10/20システム 20) に準拠

して測定した.使用したチャンネル数は前頭部 (22CH),両側頭部 (24CH x 2)の合計 70CHで

ある.サンプリング周波数は10 HZで,心拍の影響を取り除くため LPF1.0Hz,ノイズの影

響を取り除くためMoving Average 10sに設定した.使用したディスプレイのサイズは 316 x

26.6 mm,解像度は 1366 x 768 mmである.室温は 21.3~24.5 ℃,湿度は 47~52 % である.

3.6 検討方法

前処理として NIRSから得られたデータの処理は,ノイズの影響を取り除くため移動平均

処理,課題開始からの活性度を比較するために 0点補正を行った.NIRS測定時の RSTの正

答率より,正答率の高い被験者 6名を高成績群,低い被験者 6名を低成績群とした.比較する

ために扱うデータはタスク期間中の RST3回目までとする.さらに血流動態関数とサンプリ

ング数を揃えるためにタスク期間中を 33サンプルにリサンプリングし,そのうちの 20サンプ

ルを用いる.一般的な脳機能イメージング装置で用いられている解析手法は神経カップリンン

グから推定される血流動態関数から課題時間の矩形関数を畳み込み積分することで理想的な

モデルを仮定し,そのモデルとの類似生により活性かどうかを判断する 21, 22) .しかし,神

経血管カップリングは被験者ごとや部位間で差が出てくると考えられ,正しい血流動態関数を

仮定できていない可能性が考えられる.そこで今回は得られた血流変化から被験者ごとに最

適な血流動態関数を推定することで両群間に活性部位の差について検討する.本研究では先

行研究 21, 22) を参考に血流動態関数を以下の通りに定義する.

y(t) = A1(x(t)−δ 12

τ 1)e−(x(t)−δ 1

τ 1)2

τ 1+ C (1)

目的関数としてDTW距離 (Dynamic time warping)が最小になるように,L-BFGS-B法を

用いて最適化を行い,3つのパラメータを推定する.矩形関数は RST中の音読しながらター

ゲット語を記憶する時間を 1,単語を覚える時間の 0とする.DTW距離については次節で説

明する.先行研究より 23) 初期値をピークの平均の 6秒とし,4-9秒の間に収まるように制限

をかけた.

3.7 DTW距離

DTWとは動的時間伸縮法と呼ばれ,各々のシーケンスの中で時間軸を柔軟に変化させて距

離を算出し,2つのシーケンスの距離を最小化するように時間軸を伸長させる変換処理のこ

とである 24) .DTW距離は Fig. 3のように一番小さい値を取りながら距離を計算していき,

一番最後のセルの値が距離となる.DTW距離が近いほど血流動態関数と類似した活性をして

いると考えられ,課題に関する活性をすることができたと仮定する.

DTW距離が近いほど観測データと最適化することで作成された血流動態関数と似ていると

考えることができる.これは課題に対する活性を行うことができていると考えることができ

る.DTW距離の大きさにより,両群で活性度の違いを検討する.

24

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Fig. 3 Dynamic Time Warping

4 RST成績による脳血流量変化の結果

4.1 RST成績

RSTの得点法は正答率で評価する.RST5文条件の 20名の正答率をFig. 4の左に示し,正答

率の高い被験者 6名 (A,B,C,D,E,F)の平均値と分散,正答率の低い被験者 6名 (O,P,Q,R,S,T)

の平均値と分散を Fig. 4の右に示す.RSTの平均正答率は高成績群で 68.7± 5.79%で,低

成績群で 45.33± 1.97%であった.また各群での平均正答率を検定した結果,対応のない二

標本の t検定により有意差 (p<.01)が認められた.

Fig. 4 Correct answers of each subject and high- and low-groups.

4.2 血流動態関数の作成

最適化なパラメータで作成された血流動態関数の一例を Fig. 5に示す.左が最も成績の高

かった被験者,右に最も成績の低かった被験者を示す.

Fig. 5 Hemodynamic Responce Function

これより高成績者は全ての部位で血流動態関数を作成することが出来たが,低成績者におい

て上手く血流動態関数を作成できない部位が存在することが示された.

4.3 血流動態関数と両群間の比較

課題に関する部位の検討を行うために得られた血流動態関数を両群で比較を行った.最適な

血流動態関数を被験者のそれぞれの CHごとに作成したが,上記の通り,血流動態関数が作成

できない場合や,きれいに作成できていてもDTW距離が大きい場合がある.DTW距離が大

きいと課題に対する活性ができていないと考えることが出来る.そこで,両群の DTW距離

を t検定により比較した結果を以下に示す.Fig. 6に t検定の結果,赤くなるほど p値は小さ

25

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く,DTW距離の両群の差が大きいことを示す.反対に p値が大きいほど両群の差は小さく,

青く示す.

Fig. 6 Difference of DTW distance

また上記の結果,高成績群が低成績群に比べて有意に低い (p<.05)DTW距離が得られた部

位を Fig. 7に示す.

Fig. 7 Difference of DTW distance (The region of significantly difference)

前頭部の赤い部位はは前頭前野背外側部,左側頭部の青い部位はウェルニッケ領域,緑の部

位は運動や付近であると考えられる.Fig. 7より高成績群は課題中に必要なワーキングメモリ

に関わる部位を活性させていたことがわかる.さらにこの部位が,成績に差がつく部位である

と考えられる.

5 考察

DTW距離の比較より,高成績群においてワーキングメモリのモデルに関わる前頭前野背外

側部とウェルニッケ領域において課題に対する活性が示唆された.前頭前野背外側部は中央実

行系の制御,ウェルニッケ領域は情報の貯蔵を行うとされており,この二つの領域はワーキン

グメモリモデルの重要な部位である.低成績群はこの二つの部位で活性が認められなかったの

で,中央実行系の制御が上手くできなかったためにウェルニッケ領域も活性することが出来な

かったと考えられる.

そこで高成績群において中央実行系からウェルニッケ領域にかけてのネットワークがあるか

を確認する.高成績者 6名の中で両部位間で相関が 0.8以上あった 4名で検討する.

Fig. 8 Times of peak

Fig. 8より高成績群において前頭前野背外側部からウェルニッケ領域にネットワークがある

ことが示唆された.つまり低成績群では中央実行系の活性がないことからターゲット語を覚

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えるための制御ができず,情報を貯蔵するウェルニッケ領域の活性もなかったことが考えられ

る.このことから先行研究でも言われているように低成績群において情報の制御が弱いこと

が確認され,それが課題成績に影響を及ぼしていると考えられる.

6 まとめ

本研究では,RSTを用いてワーキングメモリ容量の高成績群と低成績群の脳血流量変化の

関係性について検討することを目的とした.方法としては脳機能イメージング分野の解析に

おいて一般的に用いられている血流動態関数を観測データから最適化することによって作成し

た.そして得られた血流動態関数を DTW距離によって比較し,距離が小さいほど課題に対

する活性部位と定義として検討を行った.その結果,高成績群においては,前頭前野背外側部

とウェルニッケ領域,運動野付近で活性が認められ,これの部位が成績の差を及ぼすと考えら

れる.またワーキングメモリモデルの中で重要な前頭前野背外側部とウェルニッケ領域におい

て,高成績者の中でネットワークを検討したところ前頭前野背外側部からウェルニッケ領域に

かけてネットワークがあることが示唆された.つまり低成績者は中央実行系の活性がしなかっ

たことでウェルニッケ領域も活性せず,情報制御ができなった可能性が示唆された.

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27

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第 42回 月例発表会(2015年 1月 22日) 医療情報システム研究室

対話型遺伝的アルゴリズムを用いた専門家が良好と判断する

角膜内皮細胞画像生成システムの構築

松浦 秀行Hideyuki MATSUURA

背景:大規模システムによる細胞培養の自動化が求められている.

研究目的:角膜内皮細胞診断における専門家の診断基準を抽出し,診断の自動化につなげる.

発表の位置づけ:データベースを利用したシステムの有効性を検討する.

方法:一般ユーザを用いて評価実験を行い,目標画像との距離と画像の分布からシステムの有効性を検証した.

結果:実験において,データベースを利用したシステムが有効であることが示唆された.

1 はじめに

近年,失明の原因となる角膜の病気が増加している.角膜は俗に「黒目」とよばれる部分に

相当する光学レンズの役目をもつ透明な組織であり,その組織の一番内側に位置しているの

が角膜内皮と呼ばれる組織である 1) 2) .この角膜に関連する病気の治療法の一つとして,ド

ナー角膜を培養し患者に移植する再生医療が注目されている.この治療では,角膜を培養する

必要がある.角膜内皮細胞画像の例を Fig.1に示す.この図からもわかるとおり,良好な画像

は面積のバラつきが少なく六角形の形をした細胞が多いが,不良な画像は崩れた細胞が多い.

現在,この培養状態の評価は専門家が目視による主観的判断で評価している.すなわち,専門

家は,角膜内皮細胞の正常性を角膜内皮細胞の細胞の数,細胞面積のバラつき (面積 SD値),

全体的に占める六角形細胞の割合などをパラメータとして採用し判断している 3) .今後,角

膜を培養し患者に移植する再生医療を普及させるためには,培養を大規模に行いコストを下

げる必要がある.それを実現するためには,この培養状態の判断を専門家の主観的な判断では

なく,客観的な基準を作成し,自動化につなげる必要がある.

 これに対して,本研究グループでは,角膜内皮細胞における専門家の客観的な評価基準を確

立することを目的とし,その前段階として専門家が良好と判断する細胞画像を抽出するシス

テムを構築している 4) .これは,角膜内皮細胞のモデル画像をリアルタイムで生成し,専門

家が良好と判断する細胞画像を抽出するインタラクティブなシステムである.このシステムを

構築し,複数の専門家が良好と判断とする細胞画像を生成することで,専門家が良好と判断す

る細胞画像は同一なのか,もしくは同一でないのかが明らかになる.同一であれば,良好と判

断する基準に同一の基準があることが示唆され,その基準を抽出することが望まれる.しか

し,角膜内皮細胞のモデル画像の生成には非常に時間がかかるため,専門家に画像を提示する

間隔が長くなってしまう.この問題を解決するための手法としては,あらかじめ数多くのモデ

ル画像を生成しデータベースに登録しておき,システムが決定したパラメータ値に近い画像

を専門家に提示することが挙げられる.ところがこの手法では,システムが決定したパラメー

タに最も近い画像を提示しているため,精度を高めたい場所の探索を行うことができない.こ

の問題を解決するために本発表では,システムが決定したパラメータ値に近い画像がデータ

ベースに登録されていない場合,リアルタイムで生成した画像をデータベースに追加し,専門

家に画像を提示するシステムを提案する.こうすることにより,専門家への画像提示の時間の

高速化を図り,専門家が良好と判断する画像を生成することが可能である.

 本稿では提案するデータベースを利用したシステムの概要を説明する.続いて,一般ユーザ

による評価実験の結果について述べる.

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良好な画像 不良な画像

Fig. 1 角膜内皮細胞画像

Fig. 2 角膜内皮細胞のモデル画像

2 構築システムにおける応用技術

本研究で構築したシステムは,ユーザが良好と判断する細胞画像を提示することを目的とし

ている.本システムにおいてユーザが良好と判断する細胞画像を生成するためには,まずユー

ザに提示する画像が必要である.次に,どの細胞画像をユーザに提示するかを決定するため

に,それらの細胞画像の情報を保存し,高速に画像を検索できるデータベースが必要である.

そして最後に,ユーザに提示し,評価された画像に基づいてユーザが良好と判断する細胞画像

を生成するアルゴリズムが必要である.

 以下にこれらの三つの要件に対して適用した手法と詳細を記述する.

2.1 ユーザに提示する角膜内皮細胞画像の生成

本システムで提示する画像には,事前に用意した大量の角膜内皮細胞のモデル画像を使用し

た.専門家の判断基準を抽出するには多様な細胞画像を提示する必要があるため,実際の細胞

画像では用意することが困難である.よって,本システムではボロノイ図を用いた角膜内皮細

胞のモデル画像を使用した.

 ボロノイ図とは,平面上に与えられた任意の点集合の中で,平面上の点が点集合の中のどの

点に最も近いかによって平面上の領域をいくつかの小領域に分割する図のことである 7) 8) .

モデル画像の生成方法としては,まず母点を与え,その母点を基にボロノイ分割することで画

像を領域分割する.母点の数が細胞数に相当し,その母点の位置関係により,細胞の形状を変

えることができる.よって,母点の数や位置を制御することで指定したパラメータの値を持つ

細胞画像を生成することが可能となる.本システムで使用するモデル画像が持つパラメータ

は,細胞数と面積 SD値,そして六角形細胞率の三つである.

 生成されたモデル画像の例を Fig.2に示す.

2.2 画像提示のためのデータベースの利用

本システムでは,多くのモデル画像を生成し,ユーザに提示する必要がある.しかしなが

ら,この細胞のモデル画像を作成するためには多くの時間が必要であり,リアルタイムで処理

を行うことが難しい.また,画像提示時間の長期化はユーザの疲労に影響し,時間が長くなる

ほどユーザにも負担となる.そのため本研究では,様々なパラメータ値を持つ画像をあらかじ

め生成し,データベースに保存する.ユーザへの画像提示の際には,特定のパラメータ値に近

い値を持つ画像をデータベースから探索し,高速化を図る.

また,データベースを探索する際に,ある値以内に画像がなかった場合は画像を選択している

裏側で画像を生成し,画像を追加する.こうすることにより,ユーザが良好と判断する画像を

提示することが可能となる.保存する画像パラメータは細胞数,面積 SD値,そして六角形細

胞率の三つである.

30

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Fig. 3 システムインターフェース

Fig. 4 目標画像

2.3 最適な画像を決定するアルゴリズム

角膜内皮細胞の診断は専門家の主観的評価によるものが大きいため,本システムでは対話

型遺伝的アルゴリズム (interactive Genetic Algorithm:iGA)を用いた.iGAは,生物の進化

を模倣した遺伝的アルゴリズム (Genetic Algorithm:GA)の評価部分を人間の主観によって

行うアルゴリズムであり,遺伝的操作を繰り返し行うことで解の探索を行う手法である 5) 6)

.本システムでは,ユーザに画像を 8枚提示し,その中から良好だと判断する 2枚を選択する

評価方法を採用した.複数枚の画像の中から画像を選択する評価は,点数付けや一対比較に比

べ評価がしやすく,ユーザの負担を軽減することができる.

3 一般ユーザによる評価実験

3.1 実験概要

構築したシステムのインターフェースを Fig. 3に示す.本実験では,専門家に適用する前

段階として専門知識を有しない一般ユーザによる画像診断で画像が正常に更新されるかを検

証した.実験では,ユーザは細胞画像の状態を主観的に判断することが出来ないため,別の画

面で目標画像を見ながら,提示されている 8枚の画像のうち目標画像に似ていると判断して

いる画像を 2枚選択する.本実験における目標画像を Fig.4に示す.

 本実験における終了世代は 20世代とし,実験パラメータを Table.1,2に示す.

3.2 評価実験結果

本実験では,目標画像と 20世代後に生成された画像のパラメータの値が近くなっているこ

とが望ましい結果である.Fig. 5に初期世代から 20世代までにおける目標画像とのパラメー

タの差の平均値と,データベースを利用した場合の標準偏差の変移を示す.また,実験で提示

した画像と各実験の最終世代で得られた画像を Fig. 6に示す.Fig. 5(a)において,横軸が世

Table. 1 iGAにおけるパラメータ

パラメータ 値

画像数 500

個体数 8

世代数 20

交叉手法 UNDX

交叉率 0.75

突然変異 なし

31

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Table. 2 目標画像のパラメータ

パラメータ 値

細胞数 176

面積 SD値 45

六角形細胞率 0.22

代数,縦軸が目標値との距離を示している.Fig. 5(b)においては,横軸が世代,縦軸が標準

偏差を示している。

  Fig. 5には,画像追加機能を一度行った結果と一度目の実験で追加された画像データベー

スを利用して異なる被験者に二度目の実験を行った結果を示す.Fig. 5(a)に示す通り,20世

代においてはデータベースを用いた一度目の実験では画像を追加する機能を利用していない

システムよりも目標画像に近い値をとっていることがわかる.また,データベースを用いたシ

ステムでは一度目の実験,二度目の実験共に世代が進むにつれてある値に収束していること

がわかる.これは,各被験者それぞれが目標画像に近いと考える画像が異なるからである.ま

た,Fig.5(b)に示す通り,一度目の実験よりも二度目の実験の方が世代が進むにつれ標準偏差

が小さくなっていることから,よりユーザが良好だと判断する画像を生成出来ていることがわ

かる.このことにより,データベースを用いたシステムの方がユーザが良好と判断する画像を

生成することができていることがわかり,繰り返しデータベースを更新したシステムの方がよ

り有効であることがわかる.しかし,データベースを利用したシステムでは,システムが画像

をユーザに提示する時間より,新たに画像を生成する時間の方が多く時間を要するため,画像

を生成する順番やより高速な画像生成法の確立が今後必要となる.

目標画像との距離の平均

世代

(a) 平均値の変移

標準偏差

世代

(b) 標準偏差の変移

Fig. 5 目標画像とのパラメータの距離

3.3 画像生成結果

本システムでは,データベースに登録してある画像に加え,システムによって生成されたパ

ラメータに近い画像がない場合,新たに画像を生成している.あらかじめ登録されていた画像

パラメータと新たに追加された画像パラメータの分布図を Fig.6に示す.Fig.6(a),Fig.6(b),

Fig.6(c)より,新しく生成された画像が目標画像付近に生成されていることがわかる.しかし,

六角形細胞率に関しては目標画像に近い画像を生成することができていない.これは,画像を

生成する際に六角形細胞の数を指定して生成することが難しいためである.

4 擬似ユーザを用いたシミュレーション実験

前章において二人のユーザから得られた画像データベースの有効性を検証するため,それぞ

れの画像データベースにおいて擬似ユーザを用いたシミュレーション実験を行った.Fig.7に

シミュレーション実験の結果を示す.Fig.7では 100回試行の平均値を用いた.

  Fig.7に示す通り,画像を追加していないデータベースよりも画像を追加したデータベース

の方がより目標画像に近い画像が得られていることがわかる.このことにより,リアルタイム

に更新された画像データベースの有用性が示された.

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細胞数

⾯積SD値

(a) データベースの画像における細胞数・面積 SD 値の

分布図

六角形率

⾯積SD値

(b) データベースの画像における面積 SD 値・六角形率

の分布図

六角形率

細胞数

(c) データベースの画像における細胞数・六角形率の分

布図

Fig. 6 データベース画像の分布図

5 まとめと今後の課題

本研究では,角膜内皮細胞の正常性診断における専門家の評価基準を確立することを目的

としている.本研究では,専門家の評価基準を確立する前段階として,専門家が良好と判断す

る細胞画像を生成するシステムを構築した.本システムは,提示された 8枚の細胞画像を見

て,良好だと思う細胞画像を選択し,これを何度も繰り返し行っていくことで専門家が良好だ

と判断する画像を生成する.本研究で提案するシステムは,あらかじめ提示する画像候補を作

成し,データベースに格納しておき,パラメータが決定された後,類似する画像をデータベー

スから呼び出して提示するシステムである.また,決定されたパラメータに近い値を持つ画像

がデータベースに存在しなければ,新たに画像を生成し,データベースに登録する.これによ

り,リアルタイムで画像を生成するよりもはるかに高速な処理を可能とし,同時に新たな画像

を生成することで,より専門家が良好と判断する画像を得ることができる.本稿では,システ

ムの概要を述べ,一般ユーザによる評価実験を行った.今回の実験では,ユーザに目標画像と

なる画像を常に見せ続け目標画像に近いと判断する画像をユーザに選択させることで,目標

画像と同じ画像を生成することができるかを検証した.また,データベースを利用したシステ

ムと利用していないシステムの結果を比較することで,データベースを利用したシステムの

有用性を確認した.実験の結果,ユーザが基準とした目標画像に近いパラメータを持つ画像が

生成されていることが確認できた.また,実験中に追加された画像の分布から,目標画像に近

い画像がシステムの裏側で得られ,データベースに追加されていることがわかった.そして,

擬似ユーザを用いたシミュレーション実験により,構築されたデータベースの有用性が示され

た.しかし,新たに画像を生成する場合,画像が追加されるまでに多くの時間を要するため,

今後はユーザへの提示時間も考慮した最適化アルゴリズムを構築することを目指すと共に,被

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エリート個体の目標画像との距離

世代

Fig. 7 各世代におけるエリート個体の変移

験者数を増やし提案手法の有効性を検討していく.

参考文献1) 西田幸次.角膜の再生医療.東北医学雑誌,Vol.118,No.2,pp.117-122,2006.

2) 原口祐次,清水達也,大和雅之,菊池明彦,岡野光夫.細胞シート工学を用いた組織再構築および再生医療への応用.日本再生歯科医学会誌,Vol.2,pp.83-92,2002.

3) 小泉範子,奥村直毅,木下茂.臨床応用を目指した角膜内皮再生医療の開発.同志社大学理工学研究報告書,Vol.52,pp.31-36,2012.

4) Tomoyuki Hiroyasu,Kiyofumi Uehori,Utako Yamamoto,Misato Tanaka.Construction of anInteractive System Aims to Extract Expert Knowledge about the Condition Cultured CornealEndothelial Cells.Proceeding of IEEE international conference on systems, man, and cybernet-ics,pp.1805-1810,2013.

5) 高木英行,畝見達夫,寺野隆雄.対話型進化計算法の研究動向.人工知能学会誌,Vol.13,pp.692-703,1989.

6) 中西弘樹,金城寛,中園邦彦,山本哲彦.可変確率分布を用いた実数値 ga の交叉方法.電子情報通信学会技術研究報告ニューロコンピューティング,Vol.105,No.131,pp. 51-54,2005.

7) 渡辺秀臣,今井敏行.点ボロノイ図を利用した線分ボロノイ図の位相構造決定法.情報処理学会研究報告,Vol.5,pp.7-14,2005.

8) 渡邊貴史,村島定行.2次元離散ボロノイ図を O(1) の計算時間で描く方法.電子情報通信学会論文誌,Vol.79,No.3,pp.114-122,1996.

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

fNIRSデータに対する体動除去手法の提案と評価

中村 友香

Yuka NAKAMURA

背景:fNIRS は非侵襲,低拘束,簡易な脳機能計測手法である.しかし,体動が測定結果に影響を及ぼすという問題点がある.

研究目的:体動を除去した,正確な脳活動のみの fNIRS データを得る.

発表の位置づけ:ICA を用いた提案手法と既存手法を fNIRS 計測データに対し適用し,提案手法の有効性の検討を行う.

方法:fNIRS 計測データに対し,既存手法と提案手法を適用し,体動除去精度の評価と比較を行った.

結果:既存手法のように学習データを必要とせず,同等の精度を示す提案手法が有効であることが示唆された.

1 はじめに

近年,脳機能に関する関心が高まっている.非侵襲脳機能計測装置の一つである fNIRS

(functional Near-Infrared Spectroscopy)は脳活動に伴う脳血流変化を計測することで,間接

的に脳活動を計測している.fNIRS装置は自由な姿勢,発声や運動を行いながらの測定が可

能である.しかし,脳活動だけではなく,頭の動きや傾きなどの体動により,脳血流変化が生

じるという問題点がある.そのため,より正確な脳活動を得るために体動による脳血流変化を

除去する必要がある.そこで,本研究では ICA (Independent Component Analysis)と頭部に

設置した加速度センサからのデータとの相関を用いた体動除去手法を提案し,既存手法であ

るWiener filterを用いた体動除去手法 1) と比較し,評価を行った.

2 ICAと加速度との相関を用いた提案手法

ICAとは,複数の観測信号から未知の独立な原信号を推定する手法である.しかし,ICA

によって分離された成分が何に由来するものであるか特定できないため,加速度センサによっ

て体動を計測することにより,体動成分を特定する.また,fNIRSデータは加速度センサデー

タよりも時間的に遅れているため,加速度センサデータとの相関が減少し,体動成分の特定が

困難になるという問題点がある.そこで,fNIRSデータの遅れ時間を考慮した体動除去手法

を提案する.提案手法の流れを以下に述べる.

1. fNIRS装置と加速度センサでの同時計測を行う.

2. ICAの前処理として,中心化,無相関化を行う.

3. FastICAアルゴリズム 2) を用いて,fNIRSデータに対し ICAを行う.この処理を行う

ことで,fNIRSデータが独立な原信号に分離される. 

4. ICAにより分離された複数の原信号を加速度の大きさと比較することで体動の特定を

行う.この際,fNIRSデータの時間的遅れを考慮する.ICAによる分離信号を時間的

にずらし,加速度と最も高い相関を持つ時間の値を遅れ時間として採用する.ICAに

よる分離信号と加速度との比較には相関係数を用い,分離信号の中で,加速度との相関

が高い (相関係数の値が 0.7以上)成分を体動とみなし,除去する.分離信号は符号の

正負が逆転している可能性があるため,相関係数は絶対値を用いる. 

5. 体動を除去した ICAによる分離信号を逆変換し,fNIRSデータに再変換する. 

6. 再変換後のデータには高周波ノイズ成分が含まれるため,移動平均処理を行う.

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(a) Original fNIRS data (b) After removing the motion

artifacts using Wiener filter

(c) After removing the motion

artifacts using ICA

Fig. 1 Examples of fNIRS data

Table. 1 Evaluation of motion artifact removal accuracy (The average of all Channels)

∆SNR ∆CC Correlation with fNIRS data

without motion artifact

Original fNIRS data -11.29 -0.02 0.49After removing the motion artifactsusing Wiener filter -11.32 -0.21 0.67After removing the motion artifactsusing ICA -9.62 -0.15 0.60

3 体動除去結果の評価

体動除去結果の評価として以下の三つを用いる.

• ∆ SNR (Signal to noise ratio)

∆SNR = SNRe − SNRi (1)

SNRe は体動が含まれない時と体動除去後の fNIRSデータの分散の SN比,SNRi は体

動が含まれない時と体動時の fNIRSデータの分散の SN比である.∆SNRの値が大きい

ほど,体動除去の精度が良い 1) .

• ∆CC (Correlation Coefficient)

∆CC = CCe − CCi (2)

CCeは体動が含まれない時と体動除去後の fNIRSデータの相関係数である.CCiは体動

が含まれない時と体動時の fNIRSデータの相関係数である.∆CCの値が大きいほど,体

動除去の精度が良い 1) .

•体動が含まれていないデータとの相関体動除去後に脳活動による脳血流変化が除去されていないことを確認するために体動が

含まれていない fNIRS計測データとの相関値を用いる.

4 提案手法の検証実験

本実験では,脳機能計測時に前方への体動が含まれる fNIRS計測データに体動除去手法を

適用した際の提案手法の有効性の検討を目的とした.fNIRS計測データに対し,Wiener filter

を用いた体動除去手法と提案手法である ICAを用いた体動除去手法を適用し,体動除去精度

の評価と比較を行う.Wiener filterを用いた体動除去手法では,学習データが必要である.し

かし,同一被験者で同様の課題を行っても,脳の状態は絶えず変化しており,全く同じ状態の

脳活動を計測することはできない.そこで,はじめに学習データの計測を行った.そして,異

なる日に計測した fNIRSデータに両手法を適用し,手法の比較,評価を行う.

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4.1 実験概要

fNIRS装置 (ETG-7100,日立メディコ)と三軸加速度センサ (TSND121,ATR-Promotions)

を用い,計測を行った.どちらもサンプリング周波数は 10 Hzである.fNIRS装置では,国

際 10-20法に準拠し,前頭部 (3× 5,22 CH)を計測した.三軸加速度センサは被験者の頭

頂部に固定した.被験者は女性健常者一名 (23 歳,右利き)を対象とした.実験環境は,室温

22.0 ℃,湿度 61 %であった.120 秒間の計測を行い,レスト時 (タスク前後 30 秒間) は安静

状態を維持させ,被験者には画面の+を注視させながら発話をさせた.また,タスク 60 秒間

は,三桁の暗算での足し算課題を行い,眠気による前方への体動を模擬し,頭部を動かした.

体動除去手法を fNIRSデータに適用する際は,移動平均処理やフィルタ処理を行っていない

Oxy-Hbのデータを使用した.また,30から 90 秒の 60 秒間のタスク区間のデータに体動除

去手法を適用した.

4.2 結果と考察

Fig. 1(a)に体動除去前の fNIRSデータを示す.Fig. 1(a)より,タスク区間中に体動によ

る脳血流変化が生じていることがわかる.また,Fig. 1(b),Fig. 1(c)にWiener filter,ICA

による体動除去結果を示す.これより,体動による脳血流変化が低減していることがわかる.

Table. 1に体動除去結果の評価値を示す.これより,Wiener filterによる体動除去結果では,

∆SNR及び∆CC の値が体動除去前の値よりも小さくなっている.これは,学習データと異

なる日に計測したデータであるため,Wiener filterが有効に働かなかった可能性が考えられ

る.一方,ICAによる体動除去結果では,∆SNRの値が体動除去前の値よりも大きくなって

いる.また,体動が含まれないデータとの相関はどちらの手法においても値が大きくなってい

る.これより,体動除去手法を適用することによって体動成分のみを除去し,正確な脳活動を

求めることができたことが示唆された.これらの結果より,Wiener filterを用いた手法のよう

に学習データを必要とせず,同等の精度を示す ICAを用いた体動除去手法が有効であること

が示唆された.

5 まとめ

本稿では,体動を選択的に除去できる ICAと加速度との相関を用いた体動除去手法を提案

し,有効性を検討するために,既存手法であるWiener filterを用いた体動除去手法との比較

を行った.学習データと異なる日に計測した,暗算課題中に眠気による前方への動きを模擬し

た体動が含まれる fNIRSデータに対し,両手法を適用し,体動除去精度の評価を行った.そ

の結果,両手法共に脳活動による脳血流変化を低減することなく,体動成分を除去すること

ができた.また,評価値は既存手法よりも提案手法で値が大きくなった.これらの結果より,

Wiener filterを用いた手法のように学習データを必要とせず,同等の精度を示す ICAを用い

た体動除去手法が有効であることが示唆された.

参考文献

1) M. Izzetoglu, A. Devaraj, S. Bunce and B. Onaral, “Motion Artifact Cancellation in NIR

Spectroscopy Using Wiener Filtering,” IEEE Transactions on Biomedical Engineering,

Vol.52, No.5, pp.934–938, 2005.

2) A. Hyvarinen and E. Oja, “Independent Component Analysis: Algorithms and Applica-

tions,” Neural Networks, Vol.13, No.4-5, pp.411–430, 2000.

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第 42回 月例発表会(2015年 1月 22日) 医療情報システム研究室

DICOMタグを用いたユーザへの通知機能を有する医用画像管理システム

西村 祐二Yuji NISHIMURA

背景:近年,医療技術の進歩により病気の早期発見が非常に重要となってきている.

研究目的:注目していない他の臓器の情報取得を可能にし,早期発見を支援するシステムの構築を行う.

発表の位置づけ:DICOM タグを利用した病気の早期発見を支援する医用画像管理システムの提案

方法:DICOM 画像のメタデータに解析結果などをタグとして追加し,ある値に達するとユーザに通知する.

結果:提案システムを用いることで病気の早期発見を支援することが可能であると考えられる.

1 はじめに近年,癌治療や診断技術の進歩による長寿命化や生活習慣の悪化に伴い,複数の臓器に癌が発生する重複癌が問題となっている 1, 2, 3, 4) .重複癌の中では,それぞれの癌が1年以内に発生する同時性重複癌,1年以上経過してから発生する異時性重複癌など,人により様々である.そのため,癌の早期発見が非常に重要となっている 5, 6, 7) .現在,病気を見つけるための診断方法として画像診断が行われている.診断に使用される医用画像は,患者情報などを含んだ X線 CT (Computed Tomography) や MRI (MagneticResonance Imaging)などの画像診断装置から出力される DICOM (Digital Imaging and Com-munications in Medicine) 規格の医用画像が利用されている.しかし,通常,撮像されるのは注目している臓器のみである.これでは,併発しそうな癌情報など得ることができない.そのため,初期段階の病気が見落とされ,末期の状態まで発見されないということが発生する.そこで,初期の癌などの病気の見落としを防ぐために医師による複雑な画像解析が行われる8, 9, 10, 11) .しかし,画像解析には専門知識が必要であり,それをもった医師の減少により一人にかかる負担増加が考えられる.これらのことより,自動的に画像解析を行い,病気の見落としの防止を可能にするシステムが求められている.本稿では,患者情報などデータの格納が可能な DICOM 画像に注目し,その DICOM 画像が持つメタデータにシステムの裏側で行った解析結果を付加するシステムを提案する.ユーザは画像を提案システムにアップロードするだけで,システムの裏側にて自動的に画像解析が行われる.ユーザは処理が終了するまで待つ必要がない.これにより,ユーザは画像解析の専門知識が不要となり負担の軽減が可能となる.さらに,その解析結果を画像の持つメタデータへ追加することで,注目していない他の部位の解析結果を得ることができ,病気の早期発見を支援する.この提案システムを実環境で利用できるように webアプリケーションとして実装し,ユーザとシステムをつなぐユーザインターフェイスを作成した.そして,提案システムの有用性を確認するために実装したシステムを用いて実験を行う.画像解析を行うアルゴリズムとして,脳の部位の体積を計測する処理を設定し,メタデータに脳部位の体積のタグを追加し,脳の萎縮が見られる病気の早期発見に利用可能であるか確認する.

2 医用画像2.1 DICOM:医用画像規格現在,診断に用いられる医用画像は全てDICOM (Digital Imaging and Communications in

Medicine)という形式で保存されている.DICOMは画像そのものに加えて,データサイズや画像サイズなどの画像情報,患者の氏名や住所などの個人情報,撮影機器や造影剤などの検査情報がタグとしてメタデータに内容される.メタデータは 3000項目以上が規定されており,

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DICOM

・ patients information  name,address, sex,etc.・ inspective information  modality, contrast medium, etc.・ image information  image size, color model, etc.・medical information

Meta data

Fig. 1 DICOM

患者の検索や診断に大きく寄与している.メタデータに登録される DICOMタグは一つのタグにつき 4桁のグループ番号と 4桁のエレメント番号が割り振られている.グループ番号には患者情報や検査情報などの大枠の設定が行われる.そして,エレメント番号により,グループ番号に従った詳細な設定が行われる,また,DICOMには規格で設定されているもの以外の情報の追加が可能なプライベートタグ領域というエリアが存在する.Fig. 1に DICOM画像の概念図を示す.

3 提案システム本研究では,DICOMタグを用いたユーザへの通知機能を有する医用画像管理システムを提案する.Fig. 2に提案システムの概念図を示す.提案システムは画像を入力するだけでクラウド上で自動的に画像解析が行われる.これにより,画像解析の専門知識が不要となり負担の軽減が可能となる.また,解析した結果や他の部位の情報を DICOM画像にタグとして付加することで,ユーザは注目している部位以外の情報の取得が可能となる.そして,もし,解析結果などが病気の可能性と考えられる一定の値を越えた場合,ユーザに通知することで,病気の見落し防止や,初期段階の病気の発見に貢献することができる.

Send

Notify User

Input image

Analysis result

Image analysis

Addition

System

Other information

Fig. 2 提案システム

4 提案システムの実装実環境において提案システムを利用するため,webアプリケーションとして提案システムを実装した.webアプリケーションはインストールの必要がなく,ユーザはブラウザから提案システムにアクセス可能となる.また,外部サーバとの連携を行うことが可能であるため,クラウド上での画像解析が容易となる.

4.1 システム構成提案システムは簡易的な医用画像管理システムであるため,画像の保管を行うファイルサーバ,提案システムとユーザをつなげるための web サーバ,システム裏側で画像データの解析やメタデータへ情報の付加を行う解析サーバ,病気の早期発見を支援するために解析結果やメタデータから検索・通知を可能にするデータベースサーバから構成される.システムの構成図を Fig. 3に示す.また,今回使用したマシンのスペックを Table. 1に示す.

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Table. 1 マシン 1台のスペックOS debian7.5 64bit

Kernel 3.2.0-4-amd64CPU Quad-Core AMD Opteron(tm) Processor 2356 1.2GHzCore 4

Memory 8GB

Fig. 3 システムの構成

5 実験本実験は,実装したシステムを用いて提案システムが有効に利用可能か確認する.システムに適用する画像として,脳の DICOM 画像を適用する.正常の脳の画像と萎縮した画像を使用する.脳の画像を適用することによってアルツハイマーなどの脳に萎縮が見られる病気の早期発見に対して有効であると考えられるからである.脳に萎縮が見られる病気は早期発見が難しく,診断には脳の画像から脳の部位の体積を算出し診断される.実装システムで行う画像解析として,脳部位の体積を計測する処理を行う.そして,得られた体積をメタデータにタグとして追加する.追加するタグとして,アルツハイマー患者で萎縮すると言われる海馬を含む,5つの部位の体積を計測し,タグに追加する.つの部位は海馬(HIPPOCAMPUS:Hippo),小脳(CEREBELLUM),皮質脊髄路(Corticospinal tract:CST),下小脳脚(Inferior cerebellar peduncle:ICP),内側毛帯(Medial lemniscus:ML)である.追加するタグの番号はグループ番号が 0x0009,エレメント番号が 0x0001から 0x0005と設定した.実験方法として,ユーザインターフェースを通して画像を入力し,次に萎縮した画像を入力する.その際にシステムが異常値を検出し,病気の可能性をユーザへ通知するか確認する.

6 実験結果Fig. 4は実装システムによって DICOM画像のメタデータに追加されたタグの画面である.

Fig. 4より脳部位のタグの追加が確認できた.また,これは海馬(HIPPOCAMPUS:Hippo)の体積が 26 mm3,小脳(CEREBELLUM)の体積が 14 mm3,皮質脊髄路(Corticospinaltract:CST)の体積が 20 mm3,下小脳脚(Inferior cerebellar peduncle:ICP)の体積が 19mm3,内側毛帯(Medial lemniscus:ML)の体積が 22 mm3であることを示している.Fig.5は脳の海馬付近の萎縮が発生したと想定し,萎縮が見られる画像を送信した後のDICOMタグの画面である.Fig. 5より脳部位の体積が更新され,海馬の体積が 20 mm3へ減少してることがわかる.Fig. 6はシステムが海馬の体積の減少を検知した後に,ユーザへ通知を行った際のインターフェースの画面である.Fig. 6より,インターフェースにはアラートが表示され,ユーザにアルツハイマー型認知症の可能性があることを通知し,病気の早期発見を支援したことが確認できた.本実験の結果から,本システムを用いることで,病気の早期発見,見落し

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防止を支援することが可能であると考えられる.

Fig. 4 追加された脳部位のタグ

Fig. 5 更新された脳部位のタグ

7 結論とまとめDICOM画像のメタデータに解析結果などをタグとして追加し,ある値に達するとユーザに通知する医用画像管理システムを提案した.提案システムを実環境にて利用するためにwebアプリケーションとして実装した.その際に,ユーザとシステムを繋ぐインターフェースの作成を行った.本稿では,提案システムの有用性を確認するために,脳の DICOM画像を用いた評価実験を行った.実験の結果から本システムを用いることで,入力画像から異常値を検知しユーザに病気の可能性があることを通知することが確認できた.これより,提案システムは注目していない情報をユーザに通知することで病気の早期発見,見落し防止を支援することが可能であると考えられる.また,タグを利用することで,過去からどのように推移してきたかの情報である経時差分を得ることが可能となる.そのため,病気を予測したり,傾向を知ることが可能となると考えられる.

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Fig. 6 システムによるユーザへの通知

参考文献1) T. Kosak and K. Miwa and Y. Yonemura et al, “A clinicopathologic study on multiple

gastric cancers with special reference to distal gestrectomy Cancer,” Cancer, Vol.65,pp.2602–2605, 1990.

2) C.G. Moertel, J.A. Gargen and E.D. Soule, “Multiple gastric cancers; review of theliterature and study of 42 cases,” Gastroenterology, Vol.32, pp.1095–1103, 1957.

3) H. Yamagiwa, H. Yoshimura, O. Matsuzaki and A. Ishihara, “Pathological study ofmultiple gastric carcinoma,” Acta Pathol Jpn, Vol.30, pp.421–426, 1980.

4) H. Kurita, “A study of clinico-epidemiology on multiple gastric cancer,” Nagoya MedJ, Vol.22, pp.239–249, 1977.

5) M.S. Pepe, R. Etzioni and Z. Feng et all, “Phases of Biomarker Development for EarlyDetection of Cancer,” Journal of The National Cancer Institute, Vol.93, pp.1054–1061,2013.

6) D.E. Henson, S. Srivastava, B.S. Kramer, “Molecular and genetic targets in early de-tection,” Curr Opin Oncol, Vol.11, pp.419–425, 1999.

7) S. Srivastava, B.S. Kramer, “Early detection cancer research network,” Lab Invest,Vol.80, pp.1147–1148, 2000.

8) K.S. Fu and J.K. Mui, “A survey on image segmentation,” Pattern Recognition, Vol.13,pp.3–16, 1981.

9) J. Strom and P.C. Cosman, “Medical image compression with lossless regions of inter-est,” Signal Processing, Vol.59, pp.155–172, 1997.

10) K. Mori, A. Urano and J. Hasegawa et al, “Virtualized endoscope system―an applica-tion of virtual reality technology to diagnostic aid,” IEICE Transactions on Informationand Systems, Vol.E79-D, pp.809–819, 1996.

11) K. Mori, D. Deguchi, J. Sugiyama et al, “Tracking of a bronchoscope using epipolargeometry analysis and intensity-based image registration of real and virtual endoscopicimages,” Special Issue on Medical Image Computing and Computer-Assisted Interven-tion - MICCAI 2001, Vol.6, pp.321–336, 2002.

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

肘関節屈曲運動イメージにおける左右識別のための

EEGを用いた特徴量の検討

大久保 祐希

Yuki OHKUBO

背景:非侵襲脳機能計測装置の発展に伴い BMI が注目され,運動機能障害者における生活の質の向上が期待されている

研究目的:EEG を用いて得られる脳波を使用することで,外部機器に意図する運動を反映させることを可能とする

発表の位置づけ:運動イメージの左右識別に使用される特徴量を抽出するためのウィンドウ幅について検討した

方法:ウェーブレット変換,FFT を用いてオーバーラップ処理を行い左右識別を行った

結果:FFT ではウィンドウ幅が 512,ウェーブレット変換ではウィンドウ幅が 256 の時,最も良い結果であった

1 はじめに

近年,EEG (Electorencephalography)や fNIRS (functional Near-Infrared Spectroscopy)

などの非侵襲脳機能計測装置の発展に伴い,ヒトの脳機能に関する研究が活発化している.そ

れにより,ヒトの高次脳機能が解明されつつあり,BMI (Brain Machine Interface)が注目さ

れている.BMIとは末梢神経系,感覚器,運動器を介さず,脳と機械間で直接相互作用させ

る技術の総称であり,医療・福祉技術としての応用が期待されている.

本研究では,運動障害を持つ患者の日常生活における不便を解消するために,脳波を用いて

患者の意図する運動を外部機器に反映させ,生活の質を向上させることを目的とする.本実験

では,左右の肘関節屈曲運動における運動イメージ (Motor Imagery:以下MI) 時の脳波を計

測し,識別のための特徴量を検討した.そして,特徴量抽出のためのウィンドウ幅を変化させ

た時の識別率を検討した.MIの識別には,運動に関係する脳波である β 帯域や µ帯域 1, 2)

の信号を使用し,それぞれの帯域における特徴量抽出には FFT (Fast Fourier Transform)と

ウェーブレット変換を用いた.また,識別には SVM (Support Vector Machine)を用いた.

2 既存手法の問題点

BMIにおける過去の研究では,右手,もしくは左手のMI時における脳波を EEGで計測し,

FFT3) やウェーブレット変換 4) を用いて識別に用いる特徴量を抽出する方法が考案されてい

る.これらの研究ではMIを行う時間を 1秒以上とり,MIを行っている全ての時間における

脳波から特徴量を抽出している.しかし,実際に運動を行っている場面での BMIの利用を考

慮すると,MIには 1秒以上の時間を要しないため,不必要な脳波のデータ処理も行っている

可能性がある.さらに,BMIシステムにはリアルタイム処理が必要である.その際にはオー

バーラップ処理が必要となり,解析のためのウィンドウ幅は重要なパラメータの一つである.

次章でオーバーラップ処理を使用しウィンドウ幅を 1秒以下にした時の特徴量抽出方法につ

いて説明する.

3 オーバーラップ処理を用いた特徴量抽出方法

オーバーラップ処理により,最も強くMIを行ったとされる区間を算出した.その後,その

区間に周波数解析を適用して得られる値を特徴量として左右識別に使用した.以下に特徴量

抽出の手順を示す.

Step.1 感覚運動野付近に位置し,左右半球において対称に位置している C3–C4,FC1–FC2,

FC5–FC6,CP1–CP2の 4パターンのチャンネルの組み合わせに着目する.

Step.2 Step.1 で着目したチャンネルの脳波に対して,MIを開始した時間からウィンドウ幅

までの脳波に周波数解析を適用する.

43

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Step.3 周波数解析により得られた値から特定の周波数帯域における値の積分値を算出する.

Step.4 解析のためのウィンドウを 1サンプル移動し,Step.3 を行う.

Step.5 Step.2 – 4 をMIが終わる時間まで繰り返す.

Step.6 左右の運動野における積分値の差の絶対値が最大となる時間を算出する.

Step.7 Step.6 で得られた時間からウィンドウ幅までの区間を用いて全計測チャンネルに周波

数解析を適用し識別のための特徴量を抽出する.

4 実験

被験者は,年齢 22–24歳,左利き 1名,右利き 19名の成人男性計 20名である.被験者に

は,事前に本実験の趣旨,方法,課題等について十分に説明し,実験に関する同意を得た人を

対象としている.

使用機器は,生体計測器としてティアック社の Polymate AP1532を使用し,サンプリング

周波数は 1kHzである.電極の設置方法は国際 10-20法を参考に行い,基準電極に A1,A2,

探査電極に計 8チャンネル (C3,C4,FC1,FC2,FC5,FC6,CP1,CP2)を使用した.

課題はレストとタスクが交互に繰り返し行われる.レストでは画面中央に「+」を 5秒間表

示し,被験者はそれを注視する.タスクでは画面中央に左右のどちらかを向く矢印を 1.25秒

間表示し,被験者はその矢印が示す方向の肘関節屈曲のMIを行う.矢印の表示回数は,左右

でそれぞれ 10回ずつであり,1回の課題の合計施行時間は 130秒である.またこの課題を 5

回行い,各被験者は計 100回のMIを行った.

本実験では,β帯域として 13–30Hz,µ帯域として 8–12Hzの周波数帯域を使用した.また

周波数解析として FFTとウェーブレット変換を使用した.オーバーラップ処理における特徴

量を抽出するための区間を決定する積分値を,FFTでは β 帯域におけるパワースペクトル,

ウェーブレット変換では β 帯域におけるウェーブレット係数を用いて算出した.識別のため

の特徴量として,FFTでは β帯域のパワースペクトル積分値と µ帯域のパワースペクトル積

分値を使用した.また,ウェーブレット変換では β 帯域におけるウェーブレット係数の平均

値と標準偏差,µ帯域におけるウェーブレット係数の平均値と標準偏差を使用した.オーバー

ラップ処理におけるウィンドウ幅を FFTでは 256,512,1250とした.また,ウェーブレッ

ト変換ではウィンドウ幅を 128,256,512,1250と設定し,各ウィンドウ幅における識別率

を算出した.

識別方法には,SVMを用いた.SVMは教師あり学習を用いる識別手法の一種である.今

回の実験では識別に用いるチャンネルの数を 2–8とした.全ての測定チャンネルの組み合わ

せから,最も高いチャンネルの組み合わせの識別率を使用した.識別率の算出には 4–分割交

差検定を用いた.

5 実験結果と考察

Fig. 1に FFTを用いて特徴量を抽出した時の識別率の結果を示す.ウィンドウ幅が 256,

512の時はオーバーラップ処理を行い,1250の時はオーバーラップ処理を行っていない時の

識別率である.Fig. 1よりオーバーラップ処理を行った場合の識別率の方がオーバーラップ処

理を行わなかった場合の識別率より分散が小さいことから,被験者に依らず安定した識別率を

得ることができた.またウィンドウ幅を 512にした時の結果はウィンドウ幅を 256や 1250に

した時の結果より識別率の平均値と中央値が高く,且つ被験者間の分散が小さかった.そのた

め,FFTを使用する時はウィンドウ幅を 512にするべきであると考えられる.

Fig. 2にウェーブレット変換を用いて特徴量を抽出した時の識別率の結果を示す.ウィンド

ウ幅が 128,256,512の時はオーバーラップ処理を行い,1250の時はオーバーラップ処理を

行っていない時の識別率である.Fig. 2よりウィンドウ幅を 128とした時,識別率の平均値

が最も低い結果であった.この結果から,128のウィンドウ幅は左右のMIの解析時間として

不十分であることが分かる.また,ウィンドウ幅が 256,512,1250における識別率の平均値

に差異が見られなかった (一元配置分散分析,有意水準:5%).しかし,ウィンドウ幅が 256,

44

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Window Width

Cla

ssif

icat

ion A

ccura

cy [

%]

: Average

Fig. 1 Accuracy using FFT

Window Width

Cla

ssif

icat

ion

Acc

ura

cy [

%]

: Average

Fig. 2 Accuracy using Wavelet Transform

512の時の中央値はウィンドウ幅が 1250の時より高い結果であった.また,BMIシステムに

はリアルタイムでの応答が必要であるため,ウェーブレット変換を使用する際はウィンドウ幅

を 256にするべきであると考える.

6 まとめ

本研究では,脳波を用いてユーザの意図する運動を外部機器に反映させ,生活の質を向上

させることを目的としている.本実験では,左右の肘関節屈曲運動におけるMI時の脳波を計

測し,解析の際のウィンドウ幅を変化させた時の左右のMIにおける識別率を検討した.FFT

を用いた特徴量抽出による識別率の算出には,ウィンドウ幅を 512とした場合,最も良い結果

が得られた.またウェーブレット変換を用いた特徴量抽出による識別率の算出には,ウィンド

ウ幅を 256とした場合,最も良い結果が得られた.

参考文献

1) A. Engel et al., “Beta-band oscillations - signalling the status quo?,” Current Opinion

in Neurobiology, Vol.20, No.2, pp.156–165, 2010.

2) G. Pfurtscheller et al., “Mu rhythm (de)synchronization and EEG single-trial classifica-

tion of different motor imagery tasks,” NeuroImage, Vol.31, No.1, pp.153–159, 2006.

3) M. Polak et al., “Feature extraction in development of brain-computer interface: a case

study,” in Engineering in Medicine and Biology Society, Vol.4, pp.2058–2061, 1998.

4) P. Herman et al., “Comparative analysis of spectral approaches to feature extraction for

eeg-based motor imagery classification,” Neural Systems and Rehabilitation Engineering,

Vol.16, No.4, pp.317–326, 2008.

45

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

fMRIデータを用いた快のレベル識別の検討

大村 歩

Ayumi OHMURA

背景:近年,定量化が難しい感情などを推定しコミュニケーションをより円滑に行えるツールの開発が期待されている.

研究目的:脳機能情報を指標とし,快のレベルを推定する技術を開発する.

発表の位置づけ:快のレベルが異なる場合の個人の脳活動データから,快のレベルについて識別を行った.

方法:被験者 15 名の快のレベルが異なる際の脳活動データを対象に,SVM を用いて識別を行った.

結果:ほとんどの被験者において識別率は 50 %程度という結果となった.

1 はじめに

近年,脳機能イメージングの発展に伴い,脳機能を生理的に指標化しようとする研究が活発

になってきている.Brain Machine Interface (BMI)1, 2) の一端であるこれらの研究には,感

情など従来定量化が難しいとされてきたものも対象として含まれている.脳活動より感情の

識別を正確に行い,指標として数値化することが可能であれば,疾患等により感情表現が困難

な患者のコミュニケーション支援が可能であると考えられる.

本研究では,非侵襲生体計測装置である functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI)

を用いて感情を認識できるシステムの開発を目指す.そのための検討として,感情の上位概念

である快と不快について着目した.快と不快に関する先行研究が多く存在する 3, 4) .しかし,

実際に感情識別システムを利用する場合を考えると,快と不快の 2値の識別ではなく,レベル

の識別も重要になると考えられる.例えば,患者の体を拭く時や,温度や照明環境といった部

屋の環境等を考えると,どれくらい快いかを段階的に評価,識別することで,患者の感情をよ

り深く知ることができ,より支援の幅が広がると考えられる.その基礎的検討として,非侵襲

生体計測装置である fMRIを用いて,快のレベル別に選別した画像を用いて視覚実験を行い,

快のレベルにより,脳活動が異なるかを検証する実験を行った.また,実験で得られた脳活動

情報より,Support Vector Machine(SVM)5) を用いて識別できるかどうか検討を行った.

2 fMRI計測実験

2.1 実験目的

本実験の目的は,快のレベルによる脳の賦活の差異を用いて,快のレベルを識別することが

できるか検討することである.そのために,まずは快のレベル別に選別した画像を見せた際の

脳血流量の変化を fMRIを用いて計測し,次に,得られた脳の賦活のデータを用いて,SVM

にて識別を行った.

2.2 被験者

被験者は男性健常者 5 名,女性健常者 10 名(21-25 才,右利き)を対象とした.

2.3 画像選択

実験に使用する刺激画像は,NAPS(Nencki Affective Picture System)6) のデータセット

より,快のレベルをHigh,Middle,Neutralの 3段階で選出した.快と感じる画像は,valence

の指標値が高く,valenceの値が中間のものが快,不快感情を誘発しない中性の画像である 7, 6)

.しかし,画像の valence値と被験者の実際の快のレベルにも差があるため,実験を行う前に

あらかじめ全被験者に快画像に関して 7段階で点数付けを行ってもらった.本実験ではその結

果を基に,点数の最も高い画像をHigh画像,点数の最も低い画像をNeutral画像,High画像

と Neutral画像の中間の点数の画像をMiddle画像と定義した.

また,NAPSのデータセットは以下の 5テーマに画像が分類されているため,この各テー

46

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Fig. 1 実験設計

マにおいてそれぞれのレベルごとに画像を 4枚ずつ選出した.

1. Animals

2. Faces

3. Objects

4. Landscapes

5. People

2.4 実験設計

実験設計は先行研究 8) を参考に組み立てた.本実験の流れを Fig. 1に示す.最初のレスト

30 秒間は「+」マークを注視する.その後,快のレベルについて選別した画像をランダムに

6 秒間提示する.なお,刺激提示と刺激提示の間には 12 秒間のレストを挟む.3 種類の画像

提示を 1 ブロックし,このブロックを 10回繰り返す.これを 1 セッションとし,レストを 1

分挟んで,2 セッション行う.

2.5 実験環境

本実験では,MRI装置は日立メディコ製の ECHELON Vega(1.5 T)を使用した.実験を

行った際の室温は 23[℃]であった.

画像撮像のパラメータを Table. 1に示す.

2.6 データ処理方法

データ処理は SPM81を用いて以下の手順で行った.

まず,Realignで体動データの補正を行い,Slice timingで各スキャンでの撮像タイミング

を合わせる.次に Coresisterで被験者の機能画像と構造画像を合わせ,NormalizeでMNI標

準脳座標系を用いて標準化を行う.最後に Smoothingで FWHMを 8[mm]とし,データの

平滑化を行った後,有意水準 0.001で t検定を行った.

2.7 実験結果

男性被験者の集団解析結果を Fig. 5から Fig. 7,女性被験者の集団解析結果を Fig. 2から

Fig. 4に示す.Fig. 5から Fig. 7はそれぞれ,High画像,Medium画像,Neutral画像を男

性被験者に提示した際の集団解析結果である.情動に関連のある部位として,前頭部と大脳辺

Table. 1 スキャンパラメータ

スライス方向 Axialシーケンス GE EPI画像 T2*強調画像

FOV[mm] 192TR[ms] 150TE[ms] 40

スライス厚[mm] 5スライス[枚] 20

1Statistical Parametric Mapping: Matlab 上で動作する統計解析ソフト

47

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Frontal lobe

(SFG, MFG, IFG)

Amygdala

Hippocampus

Fig. 2 High画像提示時の集団解析結果 (女性)

Frontal lobe

(SFG, MFG, IFG)

Amygdala

Hippocampus

Fig. 3 Medium画像提示時の集団解析結果 (女

性)

Frontal lobe

(SFG, MFG, IFG)

Amygdala

Hippocampus

Fig. 4 Neutral画像提示時の集団解析結果 (女性)

Frontal lobe

(SFG, MFG, IFG)

Hippocampus

Fig. 5 High画像提示時の集団解析結果 (男性)

Frontal lobe

(SFG, MFG, IFG)

Hippocampus

Fig. 6 Medium画像提示時の集団解析結果 (男

性)

Frontal lobe

(SFG, MFG, IFG)

Hippocampus

Fig. 7 Neutral画像提示時の集団解析結果 (男性)

縁系を ROIとすると,High画像提示時にのみ Hippocampusに賦活が見られたが,Medium

画像提示時,Neutral画像提示時においては Hippocampusに賦活は見られなかった.また,

Fig. 2から Fig. 4それぞれ,High画像,Medium画像,Neutral画像を女性被験者に提示し

た際の集団解析結果である.同じく前頭部と大脳辺縁系を ROIとすると,High画像提示時

とMedium画像提示時において Amygdala,Hippocampus,Frontal lobeに賦活が見られた.

Neutral画像提示時においては Hippocampusと Frontal lobeに賦活が見られた.女性におい

ては,快のレベルが高いと Amygdalaが賦活し,快のレベルが低いと Amygdalaが賦活しな

いという結果となった.しかし,男性においては快のレベルの大きな違いは見られなかった.

48

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Cla

ssif

icat

ion a

ccura

cy [

%]

Females Males

Subjects

Fig. 8 各被験者の識別率

2.8 考察

女性被験者においては,快のレベルの差異はAmygdalaに表れた.Amygdalaは情動の中枢

で情動の根源的な部位である言われている.よって,快のレベルが高いほどより快の感情が誘

発され,快のレベルが高いほどAmygdalaが賦活したと考えられる.しかし,男性被験者にお

いて快のレベルによる明確な違いは見られなかった.また,Hippocampusは記憶を司る部位

であるが,情動記憶の中枢でもある.快のレベルが高いほど快の記憶をより想起させたため,

快のレベルが高いほど賦活したと考えられる.

3 fMRIデータを用いた快のレベルの識別

3.1 実験方法と実験結果

fMRI実験より得られた全被験のデータを対象とし,HighとNeutral,HighとMiddle,Mid-

dleとNeutralの識別が可能であるか各被験者ごとに SVMを用いて検討を行った.fMRI実験

の結果より,女性被験者においてのみであるが,快のレベルの差異は Amygdalaに表れたた

め,本検討では Amygdalaの全 voxelの t値を特徴量として用い,468次元で識別を行った.

各刺激に対する T値を抽出したため,ラベルは High,Middle,Neutralで各々20個である.

利用した各パラメータを Table. 2に示す.

各被験者の 2 class 分類の識別率について Fig. 8 に示す.識別率が 70 %以上の被験者も

いたが,識別率が 50 %程度の被験者もいる結果となった.集団解析においては男性被験者

は Amygdalaに賦活が見られなかったが,識別率は 50%以上とチャンスレベル以上の精度と

なった.

3.2 考察

識別率が 50%程度という結果もあったが,識別率が低いのはAmygdala全ての voxelの t値

を使用しており,次元数が大きいためであると考えられる.加えて,識別を行う際のパラメー

タを最適化していないためでもあると考えられる.次元数やパラメータの改善を行うことで,

快のレベル識別の識別率がより向上することが期待できる.また,男性被験者の集団解析にお

いて Amygdalaに賦活が表れていないが,識別率は 50%であった理由について考察する.実

験結果の図においては t検定の有意水準を 0.001に設定して行ったが,有意水準を 0.005と低

くする設定すると男性被験者においてもAmygdalaに賦活が表れた.このことより,女性被験

者よりは t値の値自体は低いが,快のレベルにおいて Amygdalaの t値に差分が表れたため,

識別率が 50%以上という結果になったと考えられる.以上の結果より,識別率が 70%を超え

る被験者も多かったため,Amygdalaの t値を用いて快のレベルの識別を行うことは十分に可

Table. 2 SVMのパラメータ

SVM type C-SVCKernel type linear

Cross-Validation Leave one out

49

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能であると考えられる.

4 まとめ

本稿では,快のレベルを識別することができるか検討することを目的とした.fMRI計測実

験においては快のレベルが異なる際の脳活動の違いについて検討を行った.女性被験者では

Amygdalaに快のレベルの違いが表れ,男性被験者においては快のレベルの明確な違いは見ら

れなかった.しかし,得られたデータを用いて快のレベルの識別を行うと男性被験者において

も快のレベルの識別は可能であった.また,性別で分類せずに見てみても,識別率が 50%程

度の被験者も居たが,70%以上の被験者も多く居た結果となった.以上の結果より,快のレ

ベルの識別は Amygdalaの t値を用いることで十分に可能であることが示唆された.

参考文献

1) Y. Miyawaki, H. Uchida, O. Yamashita, M. Sato, Y. Morito, C.H. Tanabe, N. Sadato,

and Y. Kamitani. Visual Image Reconstruction from Human Brain Activity using a

Combination of Multiscale Local Image Decoders. Neuron, Vol. 60, No. 5, pp. 915–929,

2008.

2) T. Yanagisawa, M. Hirata, Y. Saitoh, H. Kishima, K. Matsushita, T. Goto, R. Fukuma,

H. Yokoi, Y. Kamitani, and T. Yoshimine. Suppression of emotional and nonemotional

content in memory. Electrocorticographic control of a prosthetic arm in paralyzed patients,

Vol. 71, No. 3, pp. 353–361, 2012.

3) S. Paradiso, L.D. Johnson, C.N. Andreasen, S.D. O’Leary, L.G. Watkins, L.L. Ponto, and

D.R. Hichwa. Cerebral Blood Flow Changes Associated With Attribution of Emotional

Valence to Pleasant, Unpleasant, and Neutral Visual Stimuli in a PET Study of Normal

Subjects. The American Journal of Psychiatry, Vol. 156, No. 10, pp. 1618–1629, 1999.

4) E.T. Rolls and L.M. Kringelbach. Different representations of pleasant and unpleasant

odours in the human brain. European Journal of Neuroscience, Vol. 18, No. 3, pp. 695–

703, 2003.

5) J.A.K. Suykens and J. Vandewalle. Least Squares Support Vector Machine Classifiers.

Neural Processing Letters, Vol. 9, No. 3, pp. 293–300, 1999.

6) A. Marchewka, L. Zurawski, K. Jednorog, and A. Grabowska. The Nencki Affective

Picture System (NAPS): Introduction to a novel, standardized, wide-range, high-quality,

realistic picture database. Behav Res, Vol. 2, No. 46, pp. 596–610, 2014.

7) P.J. Lang, M.M. Bradley, and B.N. Cuthbert. International affective picture sys-

tem(IAPS): technical manual and affective ratings. 1999.

8) D. Sabatinelli, P.J. Lang, K. Andreas, and M.M. Bradley. Emotional Perception: Cor-

relation of Functional MRI and Event-Related Potentials. Cereb. Cortex, Vol. 17, No. 5,

pp. 1085–1091, 2006.

50

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

色温度環境が選択的注意時の課題成績

および脳活動に及ぼす影響の検討

大西 夏子

Natsuko ONISHI

背景:オフィスにおける知的生産性および快適性向上のための照明環境の高まり

研究目的:執務者の心理状態を考慮した作業効率および快適性向上のための色温度環境の検討

発表の位置づけ:色温度環境が視覚探索時の脳活動および課題成績に及ぼす影響の検討

方法:課題中の脳の活性量と血流動態反応関数を用いた時系列モデルと実データの比較

結果:Blue 環境で rIFG,rDLPFC の活性により課題成績の向上.Red 環境で眠気と成績に負の相関.

1 序論

近年,オフィスにおける知的生産性及び快適性の向上が求められている.先行研究により,

照明の色温度が執務者の作業効率および快や疲労などの心理状態に影響を及ぼすことが報告

されている 1) .照明と作業パフォーマンスにおける研究が進められている一方,色温度が脳

にどのような影響を及ぼすのかは未解である.そこで本研究では,3種類の色温度環境におい

て,視覚探索課題時の脳活動に及ぼす影響を調査した.脳活動の調査には,非侵襲性,低拘束

性,可搬性を備えた functional Near-infrared Spectoscopy(fNIRS)を用いた.

本研究では,課題成績に加え,色温度環境が心理状態および脳活動に及ぼす影響の検討を目

的とする.脳血流量の検討にAUC(area under the curve),脳血流変化の検討に血流動態反応

関数 (hemodynamic response function;HRF)を用いたモデルとの比較を行い,脳活動の評価

を行った.本稿では,被験者の課題成績により色温度環境の影響が異なることを示す.

2 注意機能と色温度環境

先行研究より,色温度が高い環境において注意をはかる課題のパフォーマンスの向上が確認

されている 2) .本研究では,注意の中でもオフィスで必要とされる多くの情報から必要な情

報を選択抽出する際に必要とされる,選択的注意に着目し検討を行う.選択的注意を測る課題

として,文字を用いた視覚探索課題を用いる.

3 実験概要

本実験の目的は,色温度環境が視覚探索時の課題成績に及ぼす影響を脳活動および心理状態

を用いて検討することである.実験は,13~17時の時間帯で統制し,照明環境が制御可能な

「D-SOL(Doshisha University Smart Office Laboratory)」にて行う.被験者は健康な成人 10

名(男性 5名,女性 5名,年齢:23.7± 0.4歳)である.実験は Fig. 1に示す 3種類の色温度

環境の下で行う.実験環境の詳細をTable. 1に示す.脳活動の調査にはOEG-16(Spectratech

製) を用いて脳血流変化を計測する.サンプリング間隔は 0.65 秒で,計測部位は前頭部 16CH

を国際 10/20 法に準拠し設置する.脳血流データは,脳の神経活動の際に増加するとされる

Oxy-Hbを用いて検討を行った.

実験は Fig. 2に示すように,課題前後に 30秒間,+を安静状態で注視し,視覚探索課題を

90秒間行った.本実験は,40個の妨害刺激「L」から目標刺激「T」を素早く探索し,回答さ

せるものである 3) .Lは,0°,90°,180°270°,Tは 90°もしくは 270°に回転させたも

のをランダムに表示させた.被験者には,Tが 90°であればmキー,270°であれば nキー

を素早く押すように指示した.各課題は Presentationにより,最大 3秒間表示され,被験者

が回答すると次の問題が提示されるように設定した.なお,実験前後には快・不快,集中およ

び眠気の 3項目について VASのアンケートを行う.

51

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3.1 課題成績にもとづく被験者分類

課題の平均反応時間をもとに被験者の群分けを行う.課題成績の評価に平均反応時間を用い

る.エラーは,反応時間が 3秒以上のもの(画像提示時間以内に回答できなかったもの)およ

び誤って回答したものとする.反応時間は,刺激が提示されてから被験者が反応するまでの時

間とし,平均反応時間は,エラーの場合を除く反応時間の平均値とする.

本研究では,被験者の平均反応時間を標準化するため,各被験者の平均反応時間の偏差値を

算出する.偏差値が 3環境ともに 50以上である被験者を高成績群,50未満である被験者を低

成績群と定義して検討を行う.

3.2 脳血流変化モデルを用いた脳活動の評価

色温度環境が課題成績に及ぼす要因を検討するため,脳活動の評価指標として fNIRSから

得られた Oxy-Hb濃度変化を用いる.本研究では,課題時の脳の活性量および脳血流の時系

列変化について検討を行う.なお,Oxy-Hbデータはタスク開始時点を基準としてゼロ点補正

を行い,被験者間での比較を行うため Z-scoreに変換した.各評価方法の詳細を以下に示す.

•脳活動量の評価法 課題中の血流量の積分値である AUCを算出し,脳活動量を評価する.その後,各被験者

群で CH毎に AUCの平均値を算出し,カラーマップを作成する.

•脳血流変化の評価法 課題中の脳血流変化モデルを作成し,実データとの類似度より,脳血流変化を評価する.

モデルは,HRFおよび選択的注意時に活性すると仮定した矩形関数を畳み込み積分し作

成する 4) .

3.3 心理状態の評価

VASのアンケートで左端を 0点,右端を 10点とし,被験者に 10cmの直線上に×印をつけ

てもらい,主観的心理状態を評価する.快の度合い,集中力および覚醒度合いが高いほど得点

が高くなるよう,アンケート項目を作成する.

Table. 1 Experiment Environment

Light Color Illuminance

condition temperature [K] [lux]

White 4535± 32.1 639± 11.4

Blue 7056± 20.9 971± 26.6

Red 3053± 31.4 305± 1.7

(a) White (b) Blue (c) Red

Fig. 1 Experimental environment

Fig. 2 Experimental design

52

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4 色温度環境が課題成績に及ぼす影響

実験結果を Fig. 3に示す.すべての色温度環境において高成績群が有意に反応が早い結果

が得られた (p <.05).また,低成績群に関しては BlueとWhiteの環境間で有意差が認められ

た (p <.05).

5 課題成績による色温度環境の影響の差異

5.1 脳活動に及ぼす影響

Fig. 4に課題中の脳活動量を示す.高成績群は Blueの環境下において広域で大きな活性量

が見られた.しかし,低成績群はどの環境下でも大きな活性は見られず,RedおよびWhite

では rDLPFC付近の CHにおいて減少傾向が見られた.また,rIFGおよび DLPFC付近の

AUCは高成績群で有意に大きい結果が得られた.

5.2 心理状態と課題成績の関係性

Spearmanの順位相関係数より,実験後の快・不快,集中,眠気の 3項目全てにおいて,ど

の色温度環境でも相関関係は認めれられなかった.しかし,Redの環境下において実験前の

「眠気」と課題成績に強い負の相関関係が認められた (ρ=-0.75, p<.01,S=288.75).

6 考察

6.1 色温度環境が脳血流変化に及ぼす影響

両群ともに Blueの環境下で課題成績の向上が見られたことより,選択的注意機能が促進さ

れたことが示唆される.脳機能との関係性を調査するため AUC値の上位 3CHを抽出し,時

系列変化をHRFモデルと比較して検討を行った.lIFG,rIFGおよび rDLPFC付近のCHが抽

出され,相互相関より,高成績群はすべての CHで,低成績群は lIFGのみでモデルと強い正

Fig. 3 Task performance

(a) High score group

(b) Low score group

Fig. 4 Degree of Activated Area

53

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0 30 60 90 120

⊿O

xy-H

b [

a.u

.]

Time [s]

(a) High score group

0 30 60 90 120

⊿O

xy-H

b [

a.u

.]

Time [s]

(b) Low score group

Fig. 5 Cerebral blood flow changes

の相関が見られた.Blue環境での各成績群の血流変化を Fig. 5に示す.両群ともに lIFGの

血流の立ち上がりが見られた後,rIFGおよび rDLPFCが上昇している.効率よく探索するた

めの復帰抑制を担う rIFG5) ,注意機能を担う rDLPFC付近の大きな活性により,高成績群

はより素早く反応できたことが示唆された.

6.2 実験前の心理状態の影響

Red の環境下において眠気と課題成績で負の相関関係が見られた.先行研究により,Red

の照明は眠気を誘発する作用があることが報告されている.これらより,Red の照明が眠気

に及ぼす影響は他の照明環境より大きいことが示唆された.

7 結論

本研究では,色温度環境が選択的注意課題の成績,脳血流変化および心理状態に及ぼす影

響の検討を目的とした.3種類の色温度環境の下で,視覚探索課題を行い,成績と課題時の脳

活動の関係性を調査した.その結果,Blueの環境下において課題成績の向上が見られた.活

性量および脳血流モデルとの比較結果より,注意機能および効率よく探索する rIFGおよび

rDLPFCの活性により高成績をもたらしたことが示唆された.また,Red環境において実験

前の眠気と課題成績の間に負の相関関係が見られたことより,被験者の眠気を増幅させ,課題

成績の低下をもたらしたことが示唆された.

参考文献1) K.C.H.J. Smolders, Y.A.W. deKort, P.J.M. Cluitmans, “A higher illuminance induces alertness

even during office hours: Findings on subjective measures, task performance and heart ratemeasures,” Physiology and Behavior, Vol.107, pp.7–16, 2012.

2) S.L. Chellappa, R. Steiner, P. Blattner, P. Oelhafen, T. Gotz, C. Cajochen, “Non-visual effects oflight on melatonin, alertness and cognitive performance:can blue-enriched light keep us alert?,”PLoS ONE, Vol.6, No.1, pp.1–11, 2011.

3) S.C. Mednick, T. Makovski, D.J. Cai, Y.V. Jiang, “Sleep and rest facilitate implicit memory ina visual search task,” Vision Research, Vol.49, pp.2557–2565, 2009.

4) D.A. Handwerker, J.M. Ollinger, Mark D’Esposito, “Variation of bold hemodynamic responsesacross subjects and brain regions and their effects on statistical analyses,” Neuro Image, Vol.21,pp.1639–1651, 2004.

5) J.-M. Hopf, K. Boelmans, M.A. Schoenfeld, S.J. Luck, H.-J. Heinze, “Attention to featuresprecedes attention to locations in visual search: Evidence from electromagnetic brain responsesin humans,” The Journal of Neuroscience, Vol.24, No.8, pp.1822–1832, 2004.

54

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

2値化と成長型ニューラルガスを用いた

画像セグメンテーションによる

培養角膜内皮細胞の培養指標抽出システムの提案

関谷 駿介

Shunsuke SEKIYA

背景:角膜内皮再生医療において,培養細胞の品質評価の自動化が求められている.

研究目的:角膜内皮細胞画像の細胞領域分割処理と培養指標の抽出を自動化することで,品質評価の支援を行う.

発表の位置づけ:培養指標を自動で抽出するシステムの提案

方法:2 値化で大局的な細胞境界を検出後,ベクトル量子化で生成したユニットを結合して未分割領域を分割する.

結果:既存ソフト及びシステムよりも高い領域分割性能を示し,有効な培養指標も抽出可能であることが示唆された.

1 はじめに

近年,角膜障害に対する新たな治療法として,角膜内皮再生医療が注目されている.角膜内

皮再生医療では,患者やドナーから得た角膜内皮細胞を培養して移植する.その際,培養した

細胞の状態を判断するための品質評価が重要となる.品質評価の方法として,画像から細胞数

や面積のばらつき,形状などの指標を計測する方法がある.そのため,これらを定量的に計測

することで品質評価支援を行うソフトウェアの開発が進んでいる.

画像から培養指標を計測するためには,細胞領域を正確に分割する画像処理が必要となる.

既存の画像解析ソフトウエアである ImageJ1) は予め実装されている複数の画像処理フィル

タを組み合わせて領域分割を行う.そのため,対象とする画像毎にユーザーがフィルタの組

み合わせを考案する必要があり,大きな負担となる.この問題を解決するために,Genetic

Programming (GP)を用いて,フィルタの組み合わせを最適化するシステムが提案されている2) .このシステムでは,画像の一部を学習領域とし,フィルタを自動で組み合わせた後,そ

の組み合わせを対象画像に適用する.しかしながら,学習に用いる画像を作成する必要がある

のに加え,適切な学習領域の位置決定が困難である.

このような背景から,本稿では培養角膜内皮細胞の品質評価の支援を目的とし,画像処理の

知識や学習領域を必要としない培養指標抽出システムを提案する.

2 提案システム

2.1 システム概要

提案システムの概要を Fig. 1に示す.本システムではまず,ユーザが対象画像をシステム

に入力する.システムに入力された画像は,領域分割処理が行われる.その後,領域分割結果

から培養指標の抽出が行われる.最後に,システムが対象画像の分割結果画像と培養指標の抽

出結果をユーザへ提示する.

55

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User

Step1. Input a cell image

Cell image

Step2. Segmentation of cell image

Cell image Result image

Result image

Step3. Extraction of indicators

Indicators

NumberSizeShape

Result image

Step4. Output results

Indicators

Input

Output

Fig. 1 Outline of proposal system

2.2 領域分割アルゴリズム

2.2.1 アルゴリズム概要

提案する領域分割アルゴリズムでは,エッジ検出ベースの 2値化を用いて大局的な細胞境

界を検出した後,未分割である領域を分割するアプローチをとる.提案アルゴリズムの概要

を Fig. 2に示す.まず,原画像に対してヒストグラム平坦化によるヒストグラム変換を行い,

画像のコントラストを強調する.その後,2値画像に変換する.そして,2値画像を入力ベク

トルとし,細胞境界のベクトル量子化を行い,最小全域木を求める Prim法によってユニット

同士を結合する.最後に 2値画像とユニット結合画像の論理和をとり,最終的な分割結果を得

る.これにより,2値画像生成時に未分割である細胞領域がユニットの結合により分割できる

ことが期待できる.次節にこれらの詳細について述べる.

Original image

Connection of units

Binary image

Vector quanitization

Histogrm transformation Logical sum Result image

Fig. 2 Outline of segmentation algorithm

2.3 2値化手法

2値画像への変換手法として Pieroらによって提案された平滑化,収縮,エッジ抽出,エッ

ジ補正,2値化から成る手法を用いる 3) .なお,本アルゴリズムでは前処理のコントラスト

強調による過分割を防ぐため,平滑化を 2回行う.また,2値化後も細かな細胞境界の誤検出

を防ぐため,細胞境界の面積が平均値よりも小さい部分は削除する.

2.4 細胞境界のベクトル量子化手法

細胞境界のベクトル量子化手法として,本アルゴリズムでは成長型ニューラルガス (Growing

Neural Gas : GNG)4) を用いる.GNGは,教師なしニューラルネットワークの一種であり,

入力ベクトルに対する距離の順位に基づいて全てのユニットを更新することでベクトル量子化

を行う.本アルゴリズムでは,前節の手法で生成した 2値画像を入力ベクトルとし,GNGを

用いて細胞境界のベクトル量子化を行う.

2.5 培養指標の抽出手法

提案するシステムでは,領域分割結果から細胞数,面積のばらつき (標準偏差),形状の計

測を行う.細胞数と面積のばらつきの抽出の方法としては,各細胞領域に異なるラベルを付け

るラベリング処理を用いる.また,角膜内皮細胞においては,六角形に近い細胞ほど正常な細

胞と判断される.そこで,各細胞が六角形かを判別し,全体の細胞数に対する六角形細胞の割

56

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合 (六角形細胞率)を形状の指標として抽出する.六角形の判別では,各細胞領域内で最も距

離が離れている画素の組を探索し,その 2画素を頂点とする正六角形を描画する.描画した正

六角形との被覆率を六角形率とし,六角形率が 85%以上の細胞を六角形細胞とする.

3 提案システムの有効性の検証

3.1 実験概要

本実験では,10枚の培養角膜内皮細胞画像に対する提案システムの有効性を検証する.実

験画像は,専門家が不良と判断した画像 (Image1~Image5)と良好と判断した画像 (Image6~

Image10)であり,一例を Fig. 3に示す.また,有効性の確認のために,ImageJ及び,GPを

用いた既存システムと比較する.ImageJで用いた処理はUser Guideに記載されている領域分

割を行う手順を参考とした.領域分割の精度評価として,角膜内皮再生医療の専門家が作成し

た正しい分割結果 (Ground truth)に対する誤差をGCE5) を用いて計算し,1.0からGCEを

引いた値を分割精度とする.最後に,得られた分割結果から培養指標を抽出し,比較を行う.

Image1 Image6

Fig. 3 Experimental images

3.2 実験結果

各実験画像における領域分割精度の結果を Fig. 4に,培養指標の抽出結果を Fig. 5に示す.

Fig. 4の結果から,全画像において提案システムの領域分割アルゴリズムが優れていることが

確認できる.また,Fig. 5は,プロットの半径が細胞数,横軸が面積のばらつき,縦軸が六角

形細胞率を表しており,提案システムの傾向は,専門家によって作成されたGround truthと

類似していることが確認できる.また,全ての培養指標において t検定により不良と良好細胞

間に有意差が認められた (p < .01).これらより,提案システムは培養角膜内皮細胞画像の品

質評価の指標を抽出可能であることが示唆される.

���

���

���

���

���

���

� � � � � � � ��

Acc

urac

y

Image

Proposal

GP

ImageJ

Fig. 4 Result of segmentation accuracy

57

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��

��

��

��

� ��� ���� ���� ����

Hex

agon

al r

ate[

%]

Size SD[pixel]

Ground truth

Bad

Good

��

��

��

��

� ��� ���� ���� ����

Hex

agon

al r

ate[

%]

Size SD[pixel]

GPBad

Good

��

��

��

��

� ��� ���� ���� ����

Hex

agon

al r

ate[

%]

Size SD[pixel]

Proposal

Bad

Good

��

��

��

��

� ��� ���� ���� ����

Hex

agon

al r

ate[

%]

Size SD[pixel]

ImageJ

Bad

Good

Fig. 5 Result of indicator extraction

4 まとめ

本稿では,角膜内皮再生医療における培養細胞の品質評価の支援を目的とし,培養指標抽出

システムの提案を行った.実験では,10枚の培養細胞画像を対象とし,既存の画像解析ソフ

トウェア,システムとの比較を行った.結果,全ての画像で提案システムが優れた領域分割精

度を有しており,抽出した指標は不良・良好の培養状態間における有意差を確認できた.以上

の結果より,提案システムによる培養角膜内皮細胞の品質評価の有効性が示唆された.

参考文献

1) M.D. Abramoff, P.J. Magalhaes and S.J. Ram, “Image processing with imagej,” Biopho-

tonics international, Vol.11, No.7, pp.36–42, 2004.

2) T. Hiroyasu, S. Nunokawa, H. Yamaguchi, N. Koizumi, N. Okumura and H. Yokouchi,

“Algorithms for automatic extraction of feature values of corneal endothelial cells using

genetic programming,” in 2012 Joint 6th International Conference on Soft Computing

and Intelligent Systems (SCIS) and 13th International Symposium on Advanced Intelli-

gent Systems (ISIS), pp.1388–1392, 2012.

3) P. Rangel-Fonseca, A. Gomez-Vieyra, D. Malacara-Hernandez, M.C. Wilson, W.D. R.

and E.A. Rossi, “Automated segmentation of retinal pigment epithelium cells in fluores-

cence adaptive optics images,” J. Opt. Soc. Am. A, Vol.30, No.12, pp.2595–2604, 2013.

4) F. Bernd, “A growing neural gas network learns topologies,” in Advances in Neural

Information Processing Systems 7, pp.625–632, 1995.

5) D. Martin, C. Fowlkes, D. Tal and J. Malik, “A database of human segmented natural

images and its application to evaluating segmentation algorithms and measuring ecolog-

ical statistics,” IEEE International Conference on Computer Vision, Vol.2, pp.416–423,

2001.

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第 42回 月例発表会(2015年 1月 22日) 医療情報システム研究室

2クラス分類の為の多目的遺伝的プログラミングを用いた特徴量変換手法の検討

白石 駿英Toshihide SHIRAISHI

背景: 癌患者数増加に伴い病理医の負担増加の為,正確な病理診断の為の補助ツールが求められている

研究目的: 病理診断の補助ツールにおける癌の良性・悪性判別システムにおいて識別に有効な特徴量の変換法の検討を行う

発表の位置づけ: 多目的 GP を用いた特徴量変換手法の検討を行う

方法: GP の特徴量変換平面の学習方法と最適化手法について検討した

結果:データ数の偏りの大きいデータに対して理想閾値法が閾値総当たり法をパレート最適フロントの精度で上回った

1 はじめに機械学習による識別は非常に有効であり,食品の金属成分の識別や癌の腫瘍の良性・悪性の識別といった様々な問題に適用されている 1) 2) 3) .代表的な識別器には,ニューラルネットワーク (Neural Network:NN),決定木 (Decision Tree:DT)や SVM(Support Vector Machine:SVM)等が用いられている 4) 5) 6) .これらの識別器によって識別を行う際の問題点として多次元のデータの識別が挙げられる.識別に有効な特徴量と不要な特徴量が混在することが識別器の汎化能力を低下させる為である.本稿では,識別器の識別精度を向上させるために,高次元特徴量空間を低次元特徴量空間に写像する方法を検討する.その為の 1つの手法として遺伝的プログラミング(Genetic Programming: GP7) )による特徴量変換を検討する.遺伝的プログラミングを用いることで識別に有効な特徴量を抽出することができ,識別の精度を高めることができる 8) 9) 10) .また,GPの特徴量変換の際の識別精度の評価は特に重要である.通常の識別では,各クラスのデータサンプルに偏りが生じる場合,多くのサンプルが存在するクラスに識別が偏ってしまう.具体的に,医療データにおける悪性データのサンプルが良性データのサンプルよりも採取することが難しいような場合である.このような問題を解決するためには,クラスごとの識別能力を同等に高めることが必要である.本稿では多目的遺伝的プログラミングを用いて,各クラスの識別率のバランスのよい特徴量変換式の導出について検討した.

2 遺伝的プログラミングを用いた特徴量変換Fig.1のように,遺伝的プログラミングによって表現された変換式を用いて,高次元データを低次元の特徴量空間に変換する.その後,導出された特徴量平面における情報純度を算出する等の評価値の計算を行い,変換式の集団を評価する.これに遺伝的操作を加えることによって最適化を図る 11) .

1

2

3

x1 x2 x3 x4 x5 x6 x7 x8 ...

31 24 51 23 23 11 15 36 ...

11 14 11 23 13 17 46 18 ...

21 44 56 33 11 44 12 24 ...

...

...

Fig. 1 Example of low reliability classification

ここでの最適化の評価関数は単一のものを用いている.この場合では 1章で述べたように,

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クラス間のデータ数に偏りが存在する場合には少数のサンプルを持つクラスの識別精度の低下が見られる.そこで,Bhowanらは各クラスの識別率を算出し,それぞれの識別率を 2目的の最適化問題として捉えることで,各クラスのバランスの良い識別を実現している 12) .本稿では,この問題の最適化手法と識別手法について検討する.

2.1 真陽性率と真陰性率を目的とした多目的最適化手法本稿では,多目的最適化の目的関数には各クラスの識別率は真陽性率(True Positive Rate:

TPR)と真陰性率(True Negative Rate:TNR)を用いている.これらは一般的にトレードオフの関係にある.Fig.2に 2クラス識別における識別における要素を示し,Eq.1に TPRとTNRの導出式を示す.

Fig. 2 2 Class classification overview

TPR =TP

TP + FNTNR =

TN

TN + FP(1)

多目的最適化手法には,既存の研究 12) と導出した解の精度を比較するために代表的なNSGA-II13) と SPEA-II14) を利用した.

3 識別のための閾値の決定GPの変換式によって変換された 1次元特徴量平面における識別手法について述べる.既存手法では,変換後の特徴量値を正負で識別した 12) .すなわち,識別のための閾値は0である.それに対して本稿では,次の 2つの閾値設定手法を検討する.1つ目の手法は,1次元へのデータ変換後にすべての候補となる閾値に対して学習データ間すべてを考慮して最も識別率の高い閾値を考慮する方法である.これは最適な方法と考えられるが,学習データによってはサンプル数の偏りのために,未学習データに対してはうまく識別できない可能性がある.もう一方の手法は各クラスのデータ数の比に応じて,全体のデータのどの領域に識別の閾値を設定するかを決定する方法である.

3.1 閾値の候補の総当たり法1次元に変換された学習データのサンプル間を閾値の候補とする.これらの候補となる閾値に対して,最も学習データの識別率が良い値を,最終的な閾値に採用する方法である.候補となる閾値は全探索手法で決定する(以下,閾値総当たり法:all).それぞれの学習データの間隔に設定する閾値の設定方法は,閾値の両側のサンプルの平均値とする.

3.2 学習データ数の比から閾値を設定する手法本稿では多次元データは 1次元データに変換される.学習データにおける 2クラスに属するデータ数がそれぞれ n1および n2である場合には,n1 : n2に識別するような閾値が設定されることが理想である.n1 : n2に識別する閾値を検討する(以下,データ数比法:ideal).境界値の導出方法は,事前にサンプル数に応じた理想的なクラス分布から境界の両側のサンプルの順位を求める.そして,学習データの 1次元変換値において,境界両側の順位に当たるサンプルを平均して識別境界値を得る.Fig.3に概要図を示す.データ数に偏りのある場合にこの境界値を目標とした最適化は有効と考えられる.

60

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ideal feature distribution

class boundary

transformed feature value

orderj k

boundary value

j k

Fig. 3 Classifier boundary value

4 評価実験多目的最適化手法の NSGA-IIと SPEA-IIを用いて TPRと TNRの 2つの評価値を目的とした多目的最適化問題を解く.その際の識別率の算出方法として閾値総当たり法とデータ数比法,並びに既存手法について検討を行う.

4.1 実験方法実験データに対しては,2つのデータを用いる.大気圏の層の分類についての Ionosophereデータ 15) (データ数 350,2クラスデータ比 1:2),心疾患についての Spect Heeartデータ(データ数 256,2クラスデータ比 1:4)の 2種類のデータを用いる.前者のデータに対して,後者のデータは各クラスの偏りが大きいデータである.また,識別率の算出は 2fold-crossvalidationを用いる.NSGA-IIと SPEA-IIの各手法の 2つの閾値設定手法のパレート解を導出し比較検討を行う.また,単目的における解と既存手法(NSGA-IIと SPEA-II)のパレート解による比較も同時に行う.

4.2 実験パラメーター表 1に今回の実験で用いるMOGPのパラメータを示す.

Table. 1 MOGPのパラメータパラメータ 値個体数 500世代数 50交叉率 0.6突然変異率 0.4

関数ノードの種類 +,-,×,÷選択方法 トーナメント選択

トーナメントサイズ 2

4.3 実験結果4.3.1 各最適化手法におけるパレート解の導出結果

NSGA-IIと SPEA-IIを用いた際の 2つの識別手法(all,ideal)のそれぞれにおいて,10試行で最大の識別率を持つ個体を含んだパレート解を導出し,TNR,TPRの 2目的の評価値空間に図示した.また,その結果を Fig.4(a)と Fig.4(b)に示す.Fig.4(a)は Ionosophereデータについてのパレート解の導出結果であり,Fig.4(b)は Spectデータについてのパレート解の導出結果である.Fig.4(a)と Fig.4(b)に単目的GPと既存手法(Bhowanらの手法)によって得たパレート解も併せて図示した.Fig.4(a)において,Ionosophereデータではパレート中央付近の解において,既存手法よりも検討手法の精度が上回っている.2つの最適化手法でのパレート解の精度の差異は見られないが,識別手法において,データ数比法は総当たり法とは

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異なり,左上の領域の解が見られなかった.データ数の偏りの少ないデータにおいて,データ数比法では一定の値を閾値に用いる為,多様性の維持が困難であることが考えられる.一方,Fig.4(b)において,Spectデータでは NSGA-IIと SPEA-IIの 2つの最適化手法でデータ数比法が閾値総当たり法をパレート解の識別精度で上回った.特にパレート解の中央付近の解に差が表れている.これらは既存手法によって得たパレート解の精度を特にパレートの右下の領域で上回っている.また,Fig.4(a)と Fig.4(b)の 2つの単目的GPの結果に比べ,多目的最適化手法によって得たパレート解の識別精度は TNRと TPRを総合して上回っている.

(a) Pareto space Ionosphere (b) Pareto space Spect Heart

Fig. 4 Results of deriving Pareto space

4.3.2 各最適化手法における最大識別率の比較TPRと TNRの最大化に関して,特に NSGA-II(ideal)を Spect dataに対して行った際のパレート最適フロントの性質について示す.実験 4.3.1の Spect dataにおいて,NSGA-II(ideal)に対するパレート最適フロントからTPRが高い解から順に high,niddle,lowの 3つの個体を抽出し,その個体の持つ特徴量平面について調べた.Fig.5(a),Fig.5(b),Fig.5(c)に特徴量平面のヒストグラムを示す.TPRが高い領域では positiveクラスの分布が片方の領域に固まっている.TPRが低下するにつれ positiveクラスの分布は広がるが,一方で,negativeクラスの分布がもう片方の領域に固まるようになる.Fig.5(a)のようなデータ数の多い negativeクラスの識別率 TNRが高いときに全体的な識別率は最も高くなるが,Fig.5(b)のように両クラスの識別率が高い時に,識別線に対して各クラスのデータ頻度のバランスの良い分布が得られている.

(a) Feature space (Ideal: high) (b) Feature space (Ideal: middle) (c) Feature space (Ideal: low)

Fig. 5 Results of deriving Pareto space

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5 考察5.1 NSGA-IIと SPEA-IIの比較本稿ではNSGA-IIと SPEA-IIの二つの最適化手法を用いた.今回の実験結果において,各々の最適化手法において目立った差異は見られなかった.その理由として,両手法は 2つの母集団を用いて探索を進める点やエリート個体を残す機構を有する点,さらには多様性を維持する機構において類似していることが考えられる.それぞれの機構のアルゴリズムの差異は存在するが,今回の課題においてはその影響はほとんど見られなかった.他の最適化手法を用いた時の影響について考える必要がある.

5.2 データ数比法と閾値総当たり法の比較パレート解の導出結果により,データ数の偏りが 1:2である Ionosophereデータにおいて,識別手法としては閾値総当たり法とデータ数比法の間に差異は見られなかった.この結果はデータ数の偏りが比較的少ないことにより,学習に識別率のバランスの影響がでなかったことによると考えられる.一方,データ数の偏りが 1:4である Spectデータにおいて,識別手法としてデータ数比法が閾値総当たり法を上回った.これについて,Fig.5(b)と Fig.6(b)に各識別手法の 1次元変換特徴量のヒストグラムを示す.また,これらの解の評価値空間での散布図をFig6(a)に示す.比較する 2つの特徴量平面はパレート中央付近の解である.Fig6(b)の結果より,閾値総当たり法では識別率としては良い解が算出されたと言えるが,1次元変換特徴量平面では識別線よりも遠くに誤識別されたサンプルの分布を確認することができる.それに対し,Fig6(b)の結果により,データ数比法によって導出された最も識別精度の高い解における 1次元変換特徴量平面では誤識別されたサンプルが識別線付近にある.これにより,クラス間のデータ数に偏りのある場合,データ数比法は閾値総当たり法よりも識別に対してパレート解中央付近の解において優れており,結果として識別に対して信頼性の高い変換特徴量平面を得ることが示唆された.

(a) Pareto solution Ionosphere (b) Pareto space Spect Heart

Fig. 6 Results of deriving Pareto space

6 まとめ本稿ではデータ数の偏りのある場合に信頼性のある識別を行う為,2クラスそれぞれの識別精度の最大化を目的とした特徴量変換式の多目的GPを行った.その際,最適化手法はNSGA-IIと SPEA-IIを実行した.また,最適化の評価に用いる識別精度の算出方法として,2クラスのデータ数に応じて閾値を識別閾値として用いるデータ数比法と,全ての閾値を調査して,学習データでの最も高い識別閾値を算出する閾値総当たり法の 2手法について,得られたパレート解を比較検討した.本稿ではそれぞれの手法で 2つのデータセットを用いて実験を行い,単目的の結果よりも識別率のバランスが優れた結果が得られることを確認した.また,偏りの大きい Spect(クラス間データ比 1:4)データではデータ数比法が閾値総当たり法より良いパレート解を導出する結果を得た.特徴量平面についても,データ数比法は閾値総当たり法よりもバランスの良い分布を導出することが示唆された.今後は,変換特徴量の次元を増やし,

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SVM等の機械学習アルゴリズムを識別手法として用いて,パレート解を導出すること等を検討する.

参考文献1) C.C. Bojarczuk and H.S. Lopes and A.A. Freitas and E.L. Michalkiewicz, A constrained-syntax

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

視聴覚GO/NOGO課題の難易度変化が

脳活動に及ぼす影響のfNIRSを用いた検討

杉田 出弥

Ideya SUGITA

背景:脳機能の計測で用いられる課題において,難易度の違いが脳活動へ及ぼす影響は検討されていない.

研究目的:課題の難易度による脳活動への影響を明確にし,脳活動をより詳細に検討する.

発表の位置づけ:聴覚および視覚課題の難易度変化が脳血流変化へ及ぼす影響を検討する.

方法:難易度を設けた視聴覚 GO/NOGO 課題遂行時の脳血流変化を fNIRS 装置を用いて計測する.

結果:難易度変化に伴う脳活動変化は聴覚課題と視覚課題で異なる.

1 はじめに

近年,脳機能の研究が広く行われており,脳機能を計測する際には,計算課題や暗記課題な

ど様々な課題が用いられている.またそれぞれの課題の中でも,課題を構成する要素であるパ

ラメータを変化させることにより,異なった条件の課題を作成することができる.例えば,計

算課題において,1 桁× 1 桁を計算する課題と,5 桁× 5 桁を計算する課題では課題の難易度

が大きく異なると考えられる.しかし難易度が変化することにより脳活動がどのように変化す

るかについてはまだ明確になっておらず、正確な脳機能計測が行えていないのが現状の問題点

である。そこで本研究では,課題の難易度変化が脳へ及ぼす影響を明確にし、より詳細に脳活

動の計測を行うことを目的とする.今までは聴覚課題および視覚課題それぞれのの難易度変化

による脳活動変化を検討してきた.その結果,各課題の難易度変化による脳活動への影響は,

部位の機能や被験者の成績の違いによって異なることが明らかになった.本稿では,これまで

の結果のまとめとして,聴覚課題および視覚課題の難易度変化による脳活動変化を比較する.

2 反応抑制とGO/NOGO課題

2.1 反応抑制とは

人間は将来の目標のために,適切な問題解決を行う精神的な構えを維持するために実行機

能という認知機能を持つ.その実行機能には抑制機能,認知的柔軟性・表象の柔軟性,ワー

キングメモリー,プランニング,注意の切り替えの異なる 5 つの因子が関係しており 1) ,そ

の中で,最も重要な機能が抑制機能の中の反応抑制であると報告されている 2) .反応抑制は,

信号に対して有意な行動を抑制する機能である.例えば点灯色が 2種類あるランプを用意し,

ある色ではボタンを押すが,もう片方の色では押さないとした時,ボタンを押さない時「ボタ

ンを押す」反応を抑制していることになり,この際に反応抑制が働いていると言える.この機

能が働くことによって,人はより正確な判断を行うことが出来ている.反応抑制を測定する際

に,よく使用される課題が GO/NOGO課題である 3) .この課題では NOGO反応時に反応

抑制機能が深く関係し,前頭葉の下前頭回が活動していると言われている 4) 5) .

3 聴覚GO/NOGO課題の難易度変化による脳活動への影響

3.1 実験方法

被験者は成人健常者 12 名(男性: 3 名,女性: 9 名)であり,年齢は 21~22 歳である.利

き手は 12 名全員が右手であり,聴覚に難を持つ者は含まれない.本実験では難易度付けした

聴覚GO/NOGO課題時の脳活動を fNIRS(functional near-infrared spectroscopy)を用いて

計測し,課題の難易度が変化することによる脳活動変化を検討する.実験設計を Fig. 1に示

す.実験はブロックデザインを採用し,30 秒のレストと 45 秒のタスクを 3 回繰り返す.また

聴覚 GO/NOGO課題の課題設計を以下に述べる.GO信号に 1000 Hzの正弦波,NOGO信

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号に 1020,1030,1040,1050,1060,1100 Hzの正弦波を提示する.本実験における難易度

設定は,GO信号と NOGO信号の周波数差が小さいほど難易度が高く,大きいほど難易度が

低いと定義し,難易度レベルを level 1~level 6で表す.

Fig. 1 実験設計

3.2 データ処理

3.2.1 成績データ処理方法

各難易度の課題において,被験者の平均反応時間(Response Time: RT)およびエラー率

(ERROR)を算出する.この成績を元に,成績上位 4 名を高成績者,次の 4 名を中成績者,

下位 4 名を低成績者とする.

3.2.2 NIRSデータ処理方法

難易度間において活性量変化を検討するために,各難易度における Oxy-Hb平均値を算出

し,1人の CHごとの Oxy-Hbの平均値を全 CHで平均 2,分散 1で標準化する.

3.3 聴覚GO/NOGO課題実験結果

着目部位は反応抑制が深く関わっているとされる下前頭回(inferior frontal gyrus: IFG),

未来の予知機能を担い GO/NOGO課題において信号の判断を行うとされる前頭極(Frontal

pole: FP),聴覚性の連合野であり,音の聞き分けを行うとされる上側頭回(Superior temporal

gyrus: STG)である.被験者全員の難易度変化に伴う平均活性量の推移を Fig. 2に示す.横

軸に難易度レベル,縦軸に Oxy-Hb平均値を示す.

Fig. 2 聴覚課題の難易度変化に伴う各部位における脳活性量の推移

これらの結果を難易度を要因とする1元配置分散分析により比較すると,FPにおいてのみ難

易度間で有意な差が認められた(IFG: F(5,66)=0.864, p > .05,FP: F(5,66)=4.317,p < .05,

STG: F(5,66)=0.393,p > .05 ).このことから,聴覚課題の難易度変化による脳活動変化に

は,課題の難易度が易しくなるほど FPにおいて活性量が大きくなることがわかった.また

IFG,STGにおいては,難易度変化による活性量の変化に個人差が大きい事が示唆されるた

め,成績別に検討する.IFG,STGにおける成績グループ別の難易度変化に伴う活性量の推

移を Fig. 3と Fig. 4に示す.

Fig. 3 成績別の視覚課題の難易度変化に伴う IFGにおける脳活性量の推移

IFGと STGにおいては,成績が良いほど難しい課題において活性量が大きくなる傾向が

あったことから,聴覚GO/NOGO課題の難易度変化に伴い,脳の活性量は被験者の課題成績

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Fig. 4 成績別の視覚課題の難易度変化に伴う STGにおける脳活性量の推移

により変化することがわかったので,脳活動を活発化させる難易度の課題を被験者に提供する

ためには,被験者の課題成績を考慮し,成績に合わせた難易度の課題を提供する必要があるこ

とが示唆される.

4 視覚GO/NOGO課題の難易度変化による脳活動への影響

4.1 実験方法

被験者は聴覚実験と同じである.本実験では難易度付けした視覚GO/NOGO課題時の脳活

動を fNIRSを用いて計測し,課題の難易度が変化することによる脳活動変化を検討する.視

覚GO/NOGO課題の課題設計を以下に述べる.GO信号に”〇”,NOGO信号に 7,9,10,

11,12,13 角形を提示する.GO信号と NOGO信号の概形が類似しているほど難易度が高

く,類似していないほど難易度が低いと定義し,難易度レベルを level 1~level 6で表す.

4.2 視覚GO/NOGO課題実験結果

着目部位は聴覚実験と同様で,下前頭回(IFG)と前頭極(FP),その他に視覚性の連合

野であり,形状の認知をするとされる下側頭回(inferior temporal gyrus: ITG)とする.難

易度変化に伴う活性量の推移を Fig. 5に示す.これらの結果を難易度を要因とする1元配置

分散分析により比較すると,IFGと ITGにおいて難易度間で有意な差が認められた(IFG:

F(5,66)=3.876, p < .05,FP: F(5,66)=0.629,p > .05,ITG: F(5,66)=2.880,p < .05).視

覚 GO/NOGO課題の難易度変化により,IFGと ITGでは課題が難しくなるに伴い活性量が

大きくなるが,難しすぎる課題では活性量が小さくなったことより,活性量が最大となる各被

験者に適した難易度が存在することが考えられる.また FPにおいては,難易度変化による活

性量の変化に有意な差が認められなかったため,難易度間で活性量に差がなかったことと,個

人差が大きい事が示唆される.

Fig. 5 視覚課題の難易度変化に伴う各部位における脳活性量の推移

そこで FPの活性量変化を成績別に検討する.FPにおける成績グループ別の難易度変化に

伴う活性量の推移を Fig. 6に示す.横軸に難易度レベル,縦軸に Oxy-Hb平均値を表す.高

成績者および中成績者では課題が易しいほど活性量が大きくなったのに対し,低成績者ではそ

のような傾向が見られなかった.FPの脳機能は過去の自らの行動を評価したり 6) ,未来の予

測 7) を行う際により活性すると言われている.高成績者と中成績者では易しい課題ほど GO

信号と NOGO信号の区別が付いていたと考えられる.一方で低成績者は,前頭極において難

易度変化に適応した活性量の制御ができなかったため,他機能の脳部位に血流量が分配されず

成績が悪かったことが示唆される.

以上の結果より,視覚課題の難易度変化による脳活動への影響は,IFGと ITGにおいて,

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Fig. 6 成績別の視覚課題の難易度変化に伴う FPにおける脳活性量の推移

難易度が上昇するに伴い活性量が大きくなるが,難易度が高すぎると活性量が減少することが

考えられる.またそのような活性量の推移は,課題成績の影響を受けないことも示唆される.

5 考察

課題時の IFGにおける活性量を比較すると,聴覚課題においては課題成績が良いほど活性

量が最大となる難易度が難しくなる傾向があったが,視覚課題においては課題成績に関係な

く,難しい課題において活性量が増大する傾向を示した.よって難易度変化による脳活動への

影響は視覚課題よりも聴覚課題のほうが大きいことが示唆される.このことより聴覚課題を

用いた脳機能計測をする際には,被験者ごとの難易度による脳活動への影響を排除するため,

被験者の課題成績を考慮し課題の難易度を設定する必要があることが考えられる.

6 結論

本研究では課題の難易度変化による脳活動への影響を明確にすることを目的とする.反応抑制

機能を測るために使用されるGO/NOGO課題に難易度付けを行うことによって,GO/NOGO

課題の難易度変化が脳活動に及ぼす影響を検討した.聴覚と視覚GO/NOGO課題時の脳活動

を fNIRSを用いて計測した.課題の難易度変化に対する脳活動への影響は,視覚課題よりも

聴覚課題のほうが課題成績の影響を受けることが示された.よって聴覚課題を用いて脳活動を

計測するときは,被験者の課題成績を考慮して難易度を設定することが,より詳細に脳活動を

計測するために必要不可欠であると考えられる.

参考文献

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第 42回 月例発表会(2015年 01月 22日) 医療情報システム研究室

fNIRSデータにおけるチャンネルの最適選択による関心領域の検討

吉田 倫也Tomoya YOSHIDA

背景:脳血流時系列データにおける汎用的なデータ処理方法が確立されていない

研究目的:脳機能の解明に貢献する為のシステム開発

発表の位置づけ:提案手法を用いた RST 時における脳機能部位と手法の検討を行う

方法:support vector machine と genetic algorithm を用いた関心領域抽出手法による検討

結果:提案手法によって抽出された脳機能部位からの有効性を示唆することが確認された

1 はじめに

近年,fNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy)装置 1) といった非侵襲脳機能イメー

ジング装置の利用が進んでいる 2, 3) .一方で,fNIRS装置においては,その歴史の短さから,

汎用的なデータ処理方法が確立されておらず,特に fNIRSの特性をうまく利用した解析方法

は今後の課題である 4) .

本稿では,ある課題を行った際に fNIRS装置から得られる脳機能情報に対して,機械学習

の識別器と進化計算による最適化を利用することにより,その課題に重要な脳部位を特定する

手法を提案する.fNIRS装置の各チャンネルに関連した特徴量を持ち,課題に対する高成績や

低成績などのラベル付けが行われている教師データに対して,交差検定法による識別器の精度

が最も高くなるような特徴量の選択つまりチャネル選択を進化計算を利用して行う.実際に,

特徴選択によっては,識別器の精度は異なる.識別を最大にするような適切な特徴選択は,対

象とする課題に関連する脳機能の中でもラベル分割するために最も重要な特徴量であるとい

え,この特徴量と深く関連する部位を決定することで,この課題における脳機能の関心領域の

特定を行うことができる.本手法で重要なのは,識別の際に利用する特徴量の決定,識別器の

選択およびチャンネル選択の方法である.特徴量は,各チャンネル間の類似度とした.類似度

の値には,dynamic time warping (DTW)5) を利用している.また,識別器には多くの問題

で成果をあげている support vector machines(SVM)6, 7) を使用ている.特徴選択(チャン

ネル選択)は全組み合わせを検討する必要があるが,組み合わせが膨大であり実時間内に解を

得ることが難しい.選択は離散的であり,進化計算の親和性が高い genetic algorithm(GA)を

用いた 8) .

本稿では,この提案手法を用いて reading span test

(RST)における提案手法の有効性の検討を行い,課題に関連する重要な脳機能部位を決定し

関心領域を検討した.

2 機械学習と特徴選択

機械学習において特徴選択は重要になる.目的変数と無関係な特徴量を使わないことで予測

精度を向上させ,学習された識別関数を定性的に解釈し易くするためである.本稿で重要とな

るのは,後者であり,識別されたデータのクラス間の違いを良く表す特徴を抽出つまりチャン

ネル選択ができると考える.

3 特徴量選択と識別による関心領域の特定

提案手法では,ある課題を行った際に,脳機能に起因するラベルが被験者につくような問題

を対象とする.例えば,ある環境下でタスクを行った際に,男女に有意差があるような場合

や,ある課題に対する成績の高低に有意さがあるような問題である.

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各被験者に対して,設計された実験を行い,fNIRS装置により脳血流時系列データを取得

する.また,その成績や血流量の結果から,被験者に対してラベル付けを行う.チャンネル数

が n個であれば,各被験者m人に対して n個の時系列データが得られる.各被験者が持つ特

徴量は,この n個の時系列データの類似度とした.よって,すべての n個の時系列データを

利用する場合には,nC2次元のデータとなる.本手法では,類似度を求める際に,DTW距離

を利用する.これは,各チャンネルにおける血流量変化は,刺激に対して厳密でなく,多少の

ずれが生じるため,これらに対応するためである.

各被験者がもつ nC2 次元の特徴量データから,いくつかの要素を抽出して,識別器を構築

するための入力データとする.このデータを利用してmサンプルに対して交差検定法を用い

て識別器を構築し識別率を求める.本研究では識別器に SVMを利用した.この識別率を最大

にするような特徴量の組み合わせを算出する.チャンネル選択においては,全探索を行うこと

が望ましいが,実時間で処理するために,この選択にはGAを利用する.この操作により,識

別率を最大にするような,特徴量の選択が行われた.特徴量には,チャンネル間の類似度を利

用している.そのため,対象とするタスクによるラベル識別を行うためには,選択されたチャ

ンネルのネットワークが重要であることがわかる.よって,本手法の結果から,重要なチャン

ネル(脳機能部位)がわかるだけでなく,重要なチャンネル間のネットワークも明らかになる.

3.1 提案手法の流れ

複数の被験者に対して fNIRS装置による測定を行いデータを取得する.被験者群の特性や

課題の成績から,2群のラベル付けを行っておく.この後,次の手順により,この課題結果か

ら群分けを決定すべきチャンネルを次の手順で求める.決定されたチャンネルに関連する部位

が,この課題における関心領域である.

Step.1 着目チャンネルの決定と DTW距離の算出

全チャンネルの中から着目するチャンネルを決定する.着目されたチャンネル間の類似

度をDTW距離を算出することで求める.着目されたチャンネルが例えば 5つのチャン

ネルであれば,各被験者のデータは 10次元のデータとなる.

Step.2 識別器の構築

被験者群のデータのうち,識別器構築に使うための教師データと識別器の精度を測るた

めのテストデータに分類する.教師データを利用して識別器を構築し,テストデータで

識別率を求める.交差検定法により,着目されたチャンネルに対する平均の識別率を求

める.

Step.3 最適なチャンネルの決定

別のチャンネルの組み合わせを作り,Step.1および Step.2を繰り返し,識別率を最大

とするチャンネルの組み合わせを算出する.ここではGAを用いた特徴選択を行う.こ

の時,GAの適応度の計算は SVMの識別率を用いて行う.識別率が高いほど環境に適

応してるとして遺伝的操作を行う.これらによって,識別率の高い特徴量の組み合わせ

を知ることが可能である.

4 実験

実験では,提案手法の有効性を確認するために,RST時における fNIRS時系列データを利

用しその有効性を検証した.

4.1 実験方法と実験データ

実験目的は,fNIRSデータに対して提案手法を適用することによって得られるチャンネル

の比較,検討することによって提案手法の有効性を検討する.実験の流れを次に示す.

RSTを用いた fNIRSデータを利用し,DTWによって類似度の抽出を行った.また,この

実験は,被験者数 19人に行われた.その後,正答数の高い高成績群 10人と正答数の低い低成

績群 9 人に分類した.fNIRS装置は日立メディコ製の ETG-7100の 3プローブ (70 チャネル)

を用いて前頭部を測定した.室温は 21.3-24.5[℃],湿度は 47-52[%] である.DTWの計算に

用いた fNIRSデータはタスク区間の 220-280[s] の区間を利用した.

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次に,得られた特徴量を利用し GA と SVM を用いて特徴選択を行った.特徴量選択につ

いて,使用するチャンネル間の類似度を 1,使用しないチャンネル間の類似度を 0 として,遺

伝子型を設計している.これらによって,得られた部位を既存研究の結果から比較,検討を

行った.

4.2 実験結果と考察

実験によって得られた,RST 時における関心領域を Fig. 1に示した.この時,これら関心

領域を利用した高成績と低成績の識別率は 84.21[%] であった.これらのチャンネルは,RST

時の高成績と低成績における脳機能部位に違いがみられる部位と推定できる.

141516171819202122

5678910111213

1234

2223241516171819202111121314

89101234567

2223241516171819202111121314

89101234567

Left RightFrontal

Fig. 1 Feature selection results

また後ろ向き特徴選択の結果より,右側頭部においてはチャンネル 5 が大きな因子に,左側

頭部においてはチャンネル 15 が大きな因子に,前頭部においては微小ではあるがチャンネル

1 が因子となっていることが推定された.つまり,RST における高成績もしくは低成績に関

係する部位はこれらのチャンネルが関係してると考えられる.これら選択された関心領域は先

行研究により RSTにおけるワーキングメモリに関与する部位であることが示されている.こ

れらの結果から提案手法の有効性が示唆された.

5 まとめ

本稿では,DTW による特徴量抽出と GA による特徴選択を行うことによって関心領域の

抽出の提案を行った.本手法では,fNIRS データに対して DTW を用いることによって特徴

量の抽出を行った.その後,DTW 距離を特徴量とする SVM による識別とGA による特徴選

択を行うことによって関心領域の抽出を行った.この手法を用いRST時の fNIRS データを利

用し提案手法の検証実験を行った.その結果,RST にかかわるワーキングメモリの部位を抽

出するできることが確認され,本提案手法の有効性を示唆することが確認された.

参考文献

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