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![Page 1: Neoplastic angioendotheliosisの像を呈したB細胞リ …drmtl.org/data/097131575.pdf1576 高岡 和子ほ力 図2 真皮深層の小血管内に異型細胞を多数認める.](https://reader031.vdocuments.net/reader031/viewer/2022011814/5e5716898cb6ca59611e4a30/html5/thumbnails/1.jpg)
日皮会誌:97 (13), 1575-1578, 1987 (昭62)
Neoplastic angioendotheliosisの像を呈したB細胞リンパ腫
高岡 和子 川部美智子
要 旨
症例:60歳主婦.初発症状は全身倦怠感と両下腿の
多発性皮内硬結.内科にて,膠原病を疑われて,ステ
ロイド剤を投与されたが反応しなかった.硬結部の病
理組織学的検査では,真皮上層から皮下脂肪織にかけ
ての小血管内に,リンパ球様異型細胞が多数認められ,
neoplastic angioendotheliosisと診断された.同部の
免疫組織学的検索では,前述の異型細胞は第VIII因子陰
性,LCA強陽性, pan B 抗原であるB-1, LN-1, LN-
2は全て陽性, pan T抗原であるT-11, Leu 4は陰性
であった.以上の結果より本症例における腫瘍細胞は
悪性リンパ腫細胞であり, LSG分類ではビマゾ性大細
胞型にあたるB一細胞リンパ腫と診断された.
患者は発症より6ヵ月後死亡しか.
緒 言
Neoplastic angioendotheliosis (NAE)は1959年。
Tappeinerらl)によりその第1例が報告された.その
報告例は31歳の女性で,四肢と躯幹に爪甲大の紅斑で
初発し,数週で手掌大内外の浸潤性紅斑へと変化する
皮疹を主症状とし,皮疹部の組織検査では真皮と皮下
脂肪織における毛細血管増殖と,その管腔内における
多数の大型単核細胞の充満像と力号忍められている.彼
等はこの症例を全身の血管内で内皮細胞が増殖する新
しい疾患と考えた.その後の報告例は剖検例が多く,
名古屋大学医学部皮膚科学教室(主任 大橋 勝教
授)
*愛知医科大学病理学教室
Kazuko Takaoka, Michiko Kawabe, Takashi
Yasue and Kazuo Hara : Neoplastic angioen-
dotheliosislike B-celllymphoma
Department of Derwatology, Nagoya Universit\'
School 0fMedicine, Nagoya, 466 Japan (Direc-
tor : Prof. M. Ohashi)
Reprint request to : Kazuko Takaoka, Dent. of
Dermatology, Nagoya University school of Medi-
cine, Nagoya, 466 Japan
Key words : Neoplastic angioendotheliosis
昭和62年3月5日受付,昭和62年7月14日掲載決定
別刷請求先:(〒466)名古屋市昭和区鶴舞町65 名古
屋大学医学部皮膚科 高岡和子
安江 隆 原 一夫*
主として神経病理学的領域で注目されてきた.近年,
免疫組織学的手法によって,本症の腫瘍細胞のマー
カーの検索がなされた結果,その由来が次第に明らか
となり, NAEの大部分は悪性リンパ腫に属する疾患
であり,その中でもB細胞リンパ腫が多いとする考え
方が有力となっている.本邦では,皮膚科領域からの
報告は調べ得た限りではまだみられなト.今回我々は,
定型的な皮膚症状を呈し,皮疹部の免疫組織学的倹素
にて,B細胞リンパ腫と診断し得た本症の1例を経験
したので報告する.
症 例
症例:60歳,主婦.
初診:昭和61年5月8日.
家族歴,既往歴:特記すべき事なし.
現病歴:昭和60年12月中句より,全身倦怠感両下腿
の浮腫と,同部における皮内硬結が出現し,硬結は次々
と上行性に多発して‥--部は索状硬結となった.近医に
て,静脈炎,リンパ腺炎などの病名にて治療をうけた
が効果なく,当科を受診した.3ヵ月間で4kgの体重減
少をみたとトう.
初詞時所見:両下肢内側に数個の索状の硬結が存在
してトだ(図卜.表面には凹凸がみられ,皮夫の色調
は赤色または茶褐色を呈し,硬結部の周辺に表在血管
図1 下肢の硬結.索状の配列を示す(初診時所見).
![Page 2: Neoplastic angioendotheliosisの像を呈したB細胞リ …drmtl.org/data/097131575.pdf1576 高岡 和子ほ力 図2 真皮深層の小血管内に異型細胞を多数認める.](https://reader031.vdocuments.net/reader031/viewer/2022011814/5e5716898cb6ca59611e4a30/html5/thumbnails/2.jpg)
1576 高岡 和子ほ力
図2 真皮深層の小血管内に異型細胞を多数認める.
矢印は異型細胞を示す. (HE染色,×50)
図4 第VIII因子に腫瘍細胞は陰性である.血管内皮細
胞は強陽性に染まっている.
図6 Pan-B抗原である.LN・1に腫瘍細胞は陽性を
示す.
の拡張を認める部も存在した.下床との癒着はなかっ
た.同様の硬結は腰背部にも認められた.表在リンパ
節は触知せず,全身倦怠感は著明であったが,神経症
図3 異型細胞はリンパ芽球様である.矢印は異型細
胞を示す. (HE染色,×100)
図5 白血球,リンパ球のマーカーである.LCAに腫
瘍細胞は陽性を示す.
図7 Pan・T抗原であるMT-1に腫瘍細胞は陰性で
ある.
状や発熱は認められなかった.精査の為5月14日内科
に入院した.
入院時検査成績(表1):異常所見としては,表1の
![Page 3: Neoplastic angioendotheliosisの像を呈したB細胞リ …drmtl.org/data/097131575.pdf1576 高岡 和子ほ力 図2 真皮深層の小血管内に異型細胞を多数認める.](https://reader031.vdocuments.net/reader031/viewer/2022011814/5e5716898cb6ca59611e4a30/html5/thumbnails/3.jpg)
値,汎血球減少症,血清LDH値上昇等に関して多少の
改善がみられたが,入院16病日から前胸部の圧迫感,
呼吸困難,発熱,蛋白尿などが出現し,血清BUN値,
クレアチェソ値,尿酸値の上昇, LDH値の再上昇,血
清GOT,GPT値の軽度上昇がみられた.なおこの時
点で,エコー検査にて肝牌腫も認められている.入院
後約1ヵ月目の6月22日,全身の浮腫,意識障害が悪
化し,腎不全にて死亡した.剖検は施行出来なかった.
考 按
1959年Tappeinerら1)の最初の報告に引き続いて報
告された7症例についての詳細が1976年Cancer of
the Skin3)にまとめられている.
Tappeinerらの症例は,発症7年後に患者の消息が
不明となっているが,残る6症例はすべて発症後長く
とも2年以内に死の転帰をとっている.その中の2例
では脳症状の出現をみ,他の4例でも皮膚以外の臓器
の侵襲が認められている.
NAEは脳をはじめ,全身諸臓器の小血管内にて特
異な腫瘍細胞が増殖することを特徴とする疾患で,こ
とに脳,腎,心,皮膚,副腎,肝,骨髄などが侵襲を
受けやすいことが知られている4),診断がつかないま
ま死亡し,剖検にて初めて診断がつく例も多い5),脳症
状のみで皮膚症状を呈さない場合も多い.皮膚症状の
好発部位は躯幹と四肢の伸側である.皮疹は数個ある
いは多数の爪甲大から手掌大に及ぶ皮内または皮下の
結節状の浸潤として始まる.この結節は皮表とは癒着
しているが,下床に対しては可動性があり,表面は斑
状または多少隆起し,比較的硬い.皮表の色調は紫紅
色から赤褐色で,周囲に紅量を有し,圧痛はあっても
血液一般検査
赤 血 球
血 色 素
ヘマクリット
血小板数
白血球数
白血球像 (%)
表1 入院時異常検査所見
314×10* /mm'
9.7g/dl
29、7%
10×10* /mm=
2500 /mm''
St. 25
Seg. 21
mono. 16
Eosi. 2
lym. 33
myel. 2
meta. 1
血沈
CRP
Neoplastic angioendotheliosis
表2 本症例に使用したマーカーのまとめ
自験例
1577
94mm/lhr
3+
血液生化学的検査
A/G 1.13
T.T.T. 13.5 KU
Z.T.T. 16.7KU
LDH 516 U/L
血清免疫学的検査
IgG 2020 mg/dl
IgA 560 mg/dl
IgM 320 mg/dl
ツ反 陰性
自験例
(十)
LCA
LN~1
NN-2
B-1
HLA・DR(la)
白血球共通抗原
Bリンパ球(芽中心)
Bリンパ球
Bリンパ球
マクロファージ,単球
Bリンパ球,活性化Tリンパ球
レ)
Factor VIII
Keratin
EMA
CEA
Leu-1
Leu-4
MT-1
T-11
内皮細胞
上皮細胞
上皮細胞
上皮細胞
Tリンパ球
Tリンパ球
Tリンパ球
Tリンパ球如く,汎血球減少症,血沈値の著明な完進,CRP陽性,
血清LDHの上昇, A/Gの低下,血清IgG, IgA, IgM
値の上昇,ツー反陰性が認められた.尿一般検査,血清
GOT,GPT,A1,P,総ビリルビン値,総蛋白値には異
常はなかった.
病理組織学的所見:真皮特に真皮深層から桟下脂肪
織にかげての小血管(主に細小静脈)内に異型細胞を
多数認め,一部では血栓形成を伴っていた(図2).
その胞体は明るく,泡沫状で,濃染性のクロマチン
を有する類円形の核と2~3個の核小体を有し,リン
パ芽球様であった.核分裂像もみられた.血管内皮細
胞とは明らかに異なる形態を有していた(図3).
免疫組織学的検索:PLP (periodate-lysine・
paraform aldehyde)固定凍結切片およびホルマリン
固定パラフィソ包埋切片を用いた免疫組織学的検索を
酵素抗体間接法及びモノクp-ナル抗体に関しては
ABC (Avidin-Biotin-Peroxidase Complex)法にて
行った町腫瘍細胞は内皮細胞のマーカーである第VUI
因子は陰性(図4),上皮性マーカーであるケラチソ,
EMA (epithelial membrane antigen), CEACcarcino
embryonic antigen)も陰性,リンパ球,白血球のマー
カーであるLCA (leukocyte common antigen)が強
陽性(図5 ), pan B 抗原であるB-1, LN-1, LN-2は
全て陽性(図6), la抗原も陽性で,又, pan T 抗原で
あるLeu-1, Leu-4, MT-1は陰性(図7),表面免疫グ
ロブリンはIgM-kであった(表2入
以上の結果から,腫瘍細胞はB細胞由来の悪性リン
パ腫の細胞であり, LSG分類ではビマソ性大細胞型に
あたると考えられた.
治療および経過:内科にて膠原病を疑われ,プレド
ユソ1日50mgの経口投与が行われていた.一時,血沈
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1578 高岡 和子ほか
著明ではない,リンパ節や粘膜への侵襲はみられない
とされている3)6)
本症の本態であるが,その組織学的特徴に加えて,
近年免疫組織学的検索7)により,自験例の如く,腫瘍細
胞が内皮細胞のマーカーである第VIII因子陰性, LCA強
陽性, LN-1, LN-2, B-1,全て陽性,la一抗原陽性で,
表面免疫グロブリンIgM-k鎖がモノクローナルに認
められるなどの点からB細胞リンパ腫と診断される
に至った症例の報告が多い8)~10)しかしNAEのすべ
ての症例がB細胞リンパ腫であるか否かに関しては
今後の検討を待つ必要があろう.
文
1) Pfleger L, Tappeiner J : Zur Kenutnis der
systemisierten Endothliomatose der cutanen
Blutgefasse,月ぶitavzt. 10 : 359-363, 1959.
2) Hsu SM, Raine L,Fanger H : Use of avidin-
biotin-peroxidase complex (ABC) in im・
munoperoxidase techniques, / HistochemC}ノ加-
chem.29 : 577-580, 1981.
3) Tappeiner J, Pfleger L : Angioendoth-
eliomatosis proliferans systemisata, Cαμぼyが
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学的および細胞学的側面,病理と臨床,3 : 987
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久:神経症状を主症状としたneoplastic angioth-
eliosisの1剖検例,神経内科,11 : 48-55, 1979.
6)萬年 徹:Neoplastic angioendotheliosis一臨床
的側面,病球と臨床,3 : 995-997, 1985.
7) Mori S, Itoyama S,Mobri N, Shibuya A, Hirose
T, Takahashi R, Oshimi K, Mizoguchi H, Alan
E : Cellular characteristics of neoplastic an-
gioendotheiiosis―An immunohisto logical
marker study of 6cases, VircfitosArcfiA,407:
自験例は残念ながら,適切な治療がなされずに,発
症より6ヵ月後に死亡した. NAEは特徴ある皮疹形
態と組織所見を示し,皮疹が存在する場合はその診断
は,比較的容易である.免疫組織学的検索により,悪
性リンパ腫か否かを調べることも今日では可能であ
る.抗白血病療法にて数年の寛解を得ることに成功し
た症例が報告されていることも考え合わせると11)12)
本症例も早期診断と適切な治療がなされていれば,も
う少し延命が可能ではなかったかと残念に思われた.
本論文の要旨は第158回東海地方皮膚科学会にて発表し
七献
167-175, 1985.
8) Wick MR, Mills SE, Scheithauer BW, Cooper
PH, Davitz MA, Parksinson K : Rassessment
of malignant "Angioendotheliomatosis, Am y
涵智励治ol, 10(2):112-123, 1986.
9) Carroll TJ, Schelper RL, Goeken JA, Kemp JD:
Neoplastic angioendotheliomatosis―Im・
munopathologic and morphologic evidence for
intravascular malignant lymphomathosis, j斑
JClinPafhol,85: 169-175, 1986.
10) Scheibani K,Battifora H, Winberg CD, Burke
JS, Ben-ezra J,Ellinger GM, Quidgley NJ,
Ferunandez BB, Morrow D,Rappaport H :
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11)塩崎宏子,星野 茂,押見和夫,溝口秀昭,続本千
春,肥田野信,森 茂郎:多薬併用療法(CHOP)
が奏効したneoplastic angioendotheliosisの1
例,日内会誌,73 : 374-378, 1984.
12)高梨美乃子,泉二登志子,押見和夫,溝口秀昭,森
茂郎:肺に多発性結節状陰影を伴ったNeophas-
tic angioendotheliosisの1例,臨床血液,27 :
4(540-545), 1986.