これからの学校歯科保健活動 -...

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生きる力をはぐくむ学校での歯・口の健康つくり 食育の視点を持った これからの学校歯科保健活動 社団法人 長野県歯科医師会 平成19年度歯の衛生週間図画・ポスターコンクール 中学生の部(ポスター)最優秀賞 宮田村立宮田中学校2年 枝廣 結 さんの作品

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Page 1: これからの学校歯科保健活動 - nagano-da.or.jpnagano-da.or.jp/patient/8020/documents/shokuikutebiki_000.pdf · スクの児童・生徒、その中に含まれるネグレクトなどの虐待を受けている児童・生徒、軽度発達障害を

生きる力をはぐくむ学校での歯・口の健康つくり

食育の視点を持ったこれからの学校歯科保健活動

長 野 県 衛 生 部長 野 県 教 育 委 員 会社 団 法 人 長 野 県 歯 科 医 師 会

平成19年度歯の衛生週間図画・ポスターコンクール中学生の部(ポスター)最優秀賞 宮田村立宮田中学校2年 枝廣 結 さんの作品

Page 2: これからの学校歯科保健活動 - nagano-da.or.jpnagano-da.or.jp/patient/8020/documents/shokuikutebiki_000.pdf · スクの児童・生徒、その中に含まれるネグレクトなどの虐待を受けている児童・生徒、軽度発達障害を

生きる力をはぐくむ学校での歯・口の健康つくりの理念と食育の推進 学校歯科保健活動は、生涯のスタート期にあって児童・生徒の生涯にわたる健康つくり、あるいはQOL※ の向上を目標にした活動であり、自立的な健康つくりを目指し「生きる力をはぐくむ歯・口の健康つくり」を目標にしたものである これからの学校歯科保健には、いままでの 「むし歯予防」 のみでなく「歯周病の予防」「咀嚼などの口腔機能の育成」「歯・口の外傷の予防」 など、現代の子どもの口腔保健の多様な課題に対応しながら、従来の保健管理中心から保健教育を重視する健全な口腔保健の新しい方向性が求められている 健全な口腔機能の育成のためには、むし歯や歯周疾患の予防を中心にした器質面の健康の現状を踏まえつつ、給食などの場での食事体験を通して「生きる力をはぐくむ」保健指導が求められている 学校歯科医は児童・生徒が「食べ方」の課題を学ぶことができるように学校歯科保健教育や歯科保健指導の場で、 養護教諭や栄養教諭・栄養職員らと連携して、「食べ方」支援を学校における食育の中で行う必要がある 児童・生徒の歯・口の健康つくりと「食」とは深い関係にあり、豊かな人間性をはぐくみ「生きる力」を身につけていくためには何よりも「食」が重要である 今改めて「食育」が生きる上での基本であって「知育」、「徳育」および「体育」の基礎となるべきものと位置づけ、心の豊かさを実感できる 「食育」を推進する学校での具体的な実践が求められている

※QOL(quolity of life の略)人が充実感や満足感を持って日常生活を送ることが出来ること

学校保健における口腔機能育成の課題

児童・生徒の生活習慣・食生活(食行動)と健康課題

1)食習慣、 食生活が影響する健康課題 ① 肥満(高脂血症、 高血圧、Ⅱ型糖尿病) ② 痩身志向(貧血、骨粗しょう症) ③ アレルギー体質(アトピー性皮膚炎、小児喘息) ④ 過食症、 拒食症 ⑤ むし歯、 歯周病

2)現代の食生活(食行動)・食習慣に関する課題 ① 朝食の欠食 ② 家族揃って夕食をとる頻度が減少 ③ 間食(おやつ)を規則的に与えることが減少   (頻回食)

 ④ 食に関する知識や技術の不足(調理法、 食事マ   ナーを知らない) ⑤ 外食が多く、 高エネルギー食の摂取が多い ⑥ 市販の調理済み食品等の利用の増加 ⑦ 間食、食事に甘味食品、飲料類の摂取が多い   (食事量が少ない) ⑧ 噛まない、噛めない、よく飲み込めない ⑨ 逸脱的食行動(特定の調味料をたくさん使う) ⑩ 食習慣(主食と副食を交互に食べない、熱いも   のを食べない) ⑪ 伝統食料理および地域物産料理の減少

徳育 体育知育食 育

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3)生活習慣改善に関する課題 ① 運動不足  ・体を動かす機会が少なく体を動かさなくてよい状況  ・過剰栄養摂取(肥満傾向)と栄養不足(ヤセ志向 ) ② 夜型生活習慣(睡眠時間の短縮)  ・不定愁訴の訴えが多くなる  ・就寝時に間食類の摂取が多くなる

 ③ 情報の氾濫・メディア漬け  ・種々雑多な情報が氾濫し食の情報が混乱し判断   に誤りを生じる  ・CMなどの影響を受け、正しい食物選択ができ   なくなる  ・生体時計の調整が乱れ不定愁訴を訴える 

歯・口の健康つくりとしての学校での「食育」の 具体的な取り組み方、 進め方

1.全体計画の作成  学校歯科医は学校やその周りにあるマンパワーを児童・生徒のために役立たせるコーディネーターと しての役目を担いながら、学校と協力して全体計画を立てる

2.指導の展開 ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ  児童・生徒、学校関係者、 地域を含む保護者などの集団を対象にしたポピュレーションアプローチ (例えばむし歯、歯周病など口腔疾患の予防・抑制を目的にした、“プラークコントロール”と“シュガー コントロール”としての食育、食指導や歯科講話など)と、ハイリスクアプローチとして、上手に食べられ ない、飲み込めない、また肥満傾向、過度の痩身、偏食傾向の児童・生徒や、むし歯、歯周病のハイリ スクの児童・生徒、その中に含まれるネグレクトなどの虐待を受けている児童・生徒、軽度発達障害を 持った特別支援教育の児童・生徒を対象に、保健管理面から、保護者とともに個別な「食」に関する健康 相談・保健指導を展開する

3.学校給食を生きた教材として活用 口腔機能(とくに食べる機能)の 育成支援を目的にした食育・ 食指導  “よく噛まない”“上手に飲み込めない” “噛まなくていい食材、調理”“早喰いの 食習慣”などの摂食機能上の問題に対し て支援を行う  また「味覚教育」や食材、食べる機能を 通して児童・生徒の五感を触発し啓発する

立案における注意事項1. 児童・生徒本人の身体的、精神的に負担が過重にならないように指導する2. 指導内容は学内の学級担任・養護教諭・栄養教諭・栄養職員や家庭にも示し協力を求める3. 指導目標が達成できるように最も適切な指導方法を連携状況を考慮して選択する4. 機能評価に基づいて学校内で可能な具体的な支援・指導目標を立てる5. 実態を把握して指導方針、指導項目、指導時間、指導回数を明確にした指導計画を立てる

五感

視覚

嗅覚

触覚味覚

聴覚

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4.学校と地域との連携  学校保健委員会・PTA・地域活動、乳幼児健診や保育所・幼稚園での食指導と学校保健の食指導と の連携

5.推進の評価  歯科健診による歯・口腔の状況、全身的な健康状態あるいは個人を対象にした生活・食習慣調査など を通じて、食の現状や生活習慣に関する実態調査を行い、動機づけなどから児童・生徒自身の自己点検・ 自己評価(セルフチェック票など)を活用する

○セルフチェック票(例)

児童生徒口の持つ機能をとおして健康つくりを支援する

組織活動における連携地域行政他教育施設

学校管理者

教 諭

栄養教諭管理栄養士

養護教諭

地域住民

家 族

学校薬剤師 学校歯科医 学校医

児童生徒の健康つくり全体をコーディネートする学校歯科医

チェック結果はどうでしたか?

 気がついたことを書いてみよう       年   組    番   名前

チ ェ ッ ク 結 果 ~幼児・小学生編~

食 環 境 歯と口の状態

口腔衛生習慣生 活 習 慣

食 生 活食 情 報

2

3

2

3① むし歯 

②生えかわり

③かみあわせ

④歯みがき

⑤手洗い

⑥寝る時間⑦

好き嫌い、かむ習慣

食べる速さ⑧

ぺちゃぺちゃ食べ⑨

流しこみ食べ⑩

食べる仲間⑪

お手伝い・はしの使い方⑫

チェック日   月    日

※(財)日本学校保健会 平成19年2月発行「歯・口の健康と食べる機能Ⅱ」より資料引用

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心身の発達段階からみた食育支援のポイント

小学校低学年前歯の生え変わりと 6 歳臼歯の生え方に応じた食べ方をしよう

◦前歯が生え変わる時期はしっかり唇を閉じて食べよう◦前歯が生え揃ったら前歯で噛み取る食べ方をしよう◦乳歯の奥に生えてきた奥歯は汚れやすいので工夫してよく磨こう◦前歯が生え変わるときに前歯の役割を通して体の役割について 学ぼう◦しっかり噛む食べ方と美味しさとを関連させて美味しい食べ方 を学ぼう◦五感が満たされる食べ方を学ぼう

小学校中学年奥歯の生え変わりに応じた食べ方をしよう

◦奥歯が生え変わる時期は、唇をしっかり閉じて頬の内側に食べ 物が残らないようにしよう◦噛み合う前の時期の歯は、汚れやすいので工夫してよく磨こう◦奥歯が生え変わる時期には噛む回数を増やした食べ方をしよう◦早食いの食べ方と肥満との関連から健康な食べ方を学ぼう◦生え変わる歯を通して歯の役割の違いについて学ぼう◦歯・口の状態によって食事時間への配慮が必要なことを学ぼう◦五感が満たされる食べ方を学ぼう

小学校高学年永久歯列に応じた食べ方をしよう

◦左右の奥歯を使って上手にしっかり噛んで食べよう◦噛む力の大きな奥歯を清潔に保ち、ゆっくり噛んで食べよう◦早食いの食べ方と肥満との関連から健康な食べ方を学ぼう◦咀嚼に果たす唾液の役割から健康な食べ方を学ぼう◦五感が満たされる食べ方を学ぼう

注)※1 ※2 (財)日本学校保健会 平成11年2月 発行「歯・口の健康と食べる機能」より資料引用

    前歯の生えかわりの時期  ※1

    臼歯の生えかわりの時期  ※2

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中学生・高校生食事の果たす役割を意識した食べ方をしよう

◦意識して五感が満たされる食べ方をしよう◦上下の歯をしっかり噛み込むことでスポーツの能力が向上することを知ろう◦早食いの食べ方と肥満との関連から健康的な食べ方を学ぼう◦心に満足感の得られる食べ方を学ぼう◦味わいに果たす唾液の役割などから唾液の心身の健康に果たす役割を学ぼう◦消化液など食べ方と消化の関連など食べ方とその及ぼす効果を学ぼう

特別支援が必要な児童・生徒安全・安心を基本にした食べ方をしよう

◦誤嚥・窒息の予防を意識した食べさせ方の支援◦咀嚼・嚥下の機能程度に合わせ選択できる給食の食形態支援(栄養士と連携)◦食べ方の学習から口腔機能の発達を支援◦食事で五感が満たされることを食べ方を通して学ぼう

児童・生徒の口腔機能育成

指導・助言

指導・助言相談

支 援 支 援支 援指導助言

情報提供情報交換 情報提供

指導・助言

医療者としての  学 校 歯 科 医         (児童・生徒のかかりつけ歯科医)

養護教諭 学級担任

家  庭

栄養教諭・栄養職員

教育者としての  学 校 歯 科 医

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食育に関係した歯科講話と展開例

   1.健康つくり    ① 健康の定義    ② 健康と疾病の定義    ③ わが国の健康つくり施策:健康日本21    ④ ヘルスプロモーションの考え方

   2.歯・口の健康    ① 健康な歯・口とはどのようなものか    ② 歯・口の働きについて    ③ 歯・口の病気    ④ むし歯・歯周病予防の基本(2-1、2-2)    ⑤ 歯・口・顔面の成長発達について(2-3)    ⑥ 不正咬合とは(2-4)

   3.噛むことの重要性

(2-1)(2-3)

(2-4)

(5)

(2-2)

(6)

(1)

(2)

(3)

(4)

(7)

(9)

(8)

(8-1)

(8-2)

(8-3)

(8-4)

(10)

よく噛むためにはどうしたらよいのか

むし歯予防

歯周病予防

食品の選択食習慣の形成

夕食後の再食予防

朝食の欠食予防

健康つくり

早寝 早起き

不正咬合とは

顎・顔面の成長・発育

登校までの時間の確保

朝食時間の確保よく噛む歯磨き時間

歯磨き習慣の形成

良質な生活習慣の形成

歯・口の健康

噛む効果の体験学習

咀嚼の役割唾液の働き

むし歯にならない食品の選び方

噛むことの重要性

4.よく噛むためにはどうしたら  よいのか

5.歯磨き習慣の形成

6.噛む効果の体験学習

7.咀嚼の役割、唾液の働き

8.良質な生活習慣の形成 ① 早寝、早起き ② 登校までの時間の確保 ③ 朝食時間の確保 ④ 朝食の欠食予防、夕食の再食予防

9.むし歯にならない食品の選び方

10.食品の選択・食習慣の形成

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チューイング(咀嚼)コントロール摂食・嚥下機能の向上言語の明瞭化前歯交換期の留意点臼歯交換期の丸のみ食べる環境つくりなど

不良習癖への支援指しゃぶり・爪かみ・舌突出癖

口呼吸など

フードコントロール食 べ 物食 べ 方

食欲増進による体力運動能力の向上

健康教育 - 食育

カリエスコントロールシュガーコントロールプラークコントロール

歯科健診事後措置健康教育

子どもの健康QOLの向上

保健教育 保健管理ポピュレーションアプローチ リスクアプローチ

器質面の健康

機能面の健康心身の健康及び社会性の向上

問い合わせ先 社団法人 長野県歯科医師会 〒380ー8583 長野市岡田町96 TEL 026ー227ー5711 FAX 026ー224ー1188 URL http://naganokenshi.or.jp

口腔機能と歯科保健活動

編集協力:社団法人 日本学校歯科医会参考文献健全な口腔機能育成のための指針 (社)日本学校歯科医会日本学校歯科医会誌 98号 (社)日本学校歯科医会歯・口の健康と食べる食機能Ⅰ・Ⅱ(財)日本学校保健会