我が国の自転車利用の実態把握...る。これによると、自転車は1km...
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土木技術資料 51-4(2009)
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我が国の自転車利用の実態把握 -自転車ネットワーク計画策定を見据えて-
諸田恵士* 大脇鉄也** 上坂克巳***
1.はじめに 1
平成19年6月の改正道路交通法により自転車の
車道通行が改めて確認され、歩行者と分離された
自転車走行空間の整備の必要性が高まっている。
自転車走行空間を整備する上で、自転車の特性を
生かし、円滑な移動を確保するためには、自転車
の利用実態を考慮し、ネットワークとしての機能
をもたせることが重要である。そのためには、一
般的な自転車の利用特性を理解した上で、地域に
よって異なる特性を的確にとらえる必要がある。 本稿では、既存の統計情報や調査結果に基づき、
自転車走行空間の整備状況や自転車の利用分担率
等の利用状況について示す。加えて、自転車利用
の目的地や都市の特性による自転車の使われ方の
違いなど、ネットワーク計画策定に資する利用特
性について中心に述べる。
2.自転車走行空間の整備状況
自転車と歩行者の混在が問題となっている自転
車歩行者道は、昭和45年に道路構造令が改正さ
れた際に定められた。これ以降、自転車歩行者道
の整備は、全国的に広がった。 図-1は、全国の自転車走行空間の整備状況を示
しており、自転車のみの走行空間が確保されてい
るのは、約2,500kmにすぎない。これに対し、自
転車歩行者道として整備され、歩行者と自転車が
混在している空間は約71,000kmである。この図
から過去40年間、歩行者と自転車を混在させる
道路整備や交通規制が中心に行なわれてきたこと
が分かる。
3.自転車の利用距離、走行速度
3.1 自転車の利用距離 図 -2は平成10年東京都市圏パーソントリップ調
査(以下「PT調査」という。)をもとに、自転車
の1トリップの利用距離の頻度を示したものであ
──────────────────────── Investigation of reality of the situation of bicycle use in Japan
る。これによると、自転車は1km程度のトリップ
が最も多く、5km以内のトリップが95%以上を
占めている。この結果をもとに、自治体等が自転
車のネットワークを検討する際に、範囲を決める
上で参考になるものと考えられる。 3.2 自転車の走行速度 図 -3は、香川県高松市における現地調査に基づ
く自転車の走行速度について示したものである。
改正道路交通法において、原則車道走行を維持し
つつも、幼児・児童、高齢者が運転する自転車に
ついては歩道通行が認められた。これに基づき、
今回の調査は、幼児・児童、高齢者とそれ以外の
一般成人、学生を分類し、走行速度の特性を調査
した。その結果、幼児・児童、高齢者は11km/h、一般成人、学生は15km/h程度となり、速度差が
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10~
構成比(累積)
構成比
トリップ頻度
累積トリップ頻度
(km)図-2 自転車の距離帯別のトリップ頻度
図-1 自転車走行空間の整備状況1)
特集:安全・快適な自転車走行空間の整備に向けて
土木技術資料 51-4(2009)
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見られた。 自転車走行空間の整備を進める上で、この2つ
の属性の自転車をそれぞれ道路のどこを走らせる
かを、現地の状況を鑑みて、安全性、快適性に留
意し、検討する必要がある。
4.利用者層
図-4は、東京都市圏PT調査(S63、H10)から
自転車利用トリップ数の年齢構成比を示したもの
である。通学の手段として自転車が用いられるこ
とに起因し、15~19歳の若年層の構成比が最も
高い。また、30~50歳の自転車利用も比較的多
く見られる。しかし、都市によっては若年層の利
用が他の層に比べて著しく高い地域もあるため1)、
各都市において傾向を把握する必要がある。 また、昭和63年と平成10年の年齢構成比の変
化を見ると、20歳以下の年齢層の構成比は減少
している一方、60歳以上の自転車利用が増加し
ており、高齢社会の傾向を顕著に示している。今
後、走行速度が低い高齢者に対して、どう考慮す
るかについても重要な課題である。
5.ピーク特性
図 -5は、地方毎に自転車交通量が最も多い区間
を抽出し、その時間集中割合を示したものである。
自転車交通は、通勤・通学に多く利用される交通
手段であるため 2)、朝のピークが大きいことが顕
著である。なお、通勤・通学においては、企業や
学校などの施設に向かうため、周辺の道路におい
ては方向別の交通量が偏る可能性が高い。
6.自転車の利用分担率
図 -6は、国勢調査の通勤・通学手段を常住地
ベースで単純集計したものであり、自転車交通に
着目してみると、全国総数で自転車の利用分担率
は12%である。大阪市では25%にも達しており、
0% 5% 10% 15%
5-
10-
15-
20-
25-
30-
35-
40-
45-
50-
55-
60-
65-
70-
75-
年齢
図-4 自転車利用者の年齢構成(全利用目的)
図-5 自転車ピーク特性(時間集中割合)
0%
5%
10%
15%
20%
25%
7時台
8時台
9時台
10時台
11時台
12時台
13時台
14時台
15時台
16時台
17時台
18時台
時間集中割合(%) 北大横断線
(札 幌 市:4,938台)
一般国道4号
(仙 台 市:6,231台)
環状8号線
(大 田 区:6,494台)
一般国道7号
(新 潟 市:4,808台)
久屋町線
(名古屋市:4,659台)
大阪高槻京都線
(大 阪 市:8,219台)
一般国道53号
(岡 山 市:6,242台)
一般国道11号
(徳 島 市:6,593台)
一般国道2052号
(福 岡 市:7,365台)
一般国道58号
(那 覇 市: 801台)
0
100
200
300
400
500
600
700
0 2 4 6 8 10 12 14 16 20 22 24 26 28 30
(人)
自転車速度(km/h)
幼児児童、高齢者 学生・成人
【幼児、高齢者】サンプル数 722人平均速度 11.4km/h標準偏差 2.39
【学生・大人】サンプル数 2447人平均速度 14.6km/h標準偏差 3.1
図-3 自転車の走行速度
10%
14%
5%
16%
21%
25%
6%
23%
25%
26%
25%
1%
12%
3%
5%
6%
3%
2%
2%
27%
54%
54%
24%
23%
37%
45%
4%
6%
4%
3%
8%
21%
39%
8%
18%
37%
22%
14%
23%
52%
48%
41%
46%
32%
45%
10%
9%
9%
9%
9%
10%
10%
5%
6%
7%
6%
15%
8%
13%
9%
12%
10%
22%
8%
13%
13%
12%
21%
19%
44%
10%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
札 幌 市(北 海 道)
特 別 区(東 京 都)
横 浜 市(神奈川県)
名古屋市(愛 知 県)
京 都 市(京 都 府)
大 阪 市(大 阪 府)
神 戸 市(兵 庫 県)
岡 山 市(岡 山 県)
高 松 市(香 川 県)
松 山 市(愛 媛 県)
高 知 市(高 知 県)
長 崎 市(長 崎 県)
全 国
鉄道自家用車自転車 歩行者 その他
端末交通:自転車 端末交通:その他
10%
14%
5%
16%
21%
25%
6%
23%
25%
26%
25%
1%
12%
3%
5%
6%
3%
2%
2%
27%
54%
54%
24%
23%
37%
45%
4%
6%
4%
3%
8%
21%
39%
8%
18%
37%
22%
14%
23%
52%
48%
41%
46%
32%
45%
10%
9%
9%
9%
9%
10%
10%
5%
6%
7%
6%
15%
8%
13%
9%
12%
10%
22%
8%
13%
13%
12%
21%
19%
44%
10%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
札 幌 市(北 海 道)
特 別 区(東 京 都)
横 浜 市(神奈川県)
名古屋市(愛 知 県)
京 都 市(京 都 府)
大 阪 市(大 阪 府)
神 戸 市(兵 庫 県)
岡 山 市(岡 山 県)
高 松 市(香 川 県)
松 山 市(愛 媛 県)
高 知 市(高 知 県)
長 崎 市(長 崎 県)
全 国
鉄道自家用車自転車 歩行者 その他
端末交通:自転車 端末交通:その他
図-6 自転車の利用分担率
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東京都23区でも14%と全国平均を上回っている。
その他で、特徴的なところでは岡山市や高松市等
の中国、四国地方の晴天が多い都市では、20%以
上の高い分担率を示している。一方、横浜市、神
戸市、長崎市などの平坦な土地が少なく、坂道が
多い都市では、著しく分担率が低い。以上のとお
り、気候や地形の特性により、自転車分担率に影
響を与える傾向が見受けられる。 国勢調査の結果は全国の都市の利用分担率を把
握するために有効で、自治体が自転車施策を進め
る際の現状把握のために利用できる。ある程度自
転車分担率が高い場合には、施策の方向として適
正利用を目的とし、分担率が低い場合には利用促
進を考えるなど、施策の方向性を決定するための
情報として活用することが考えられる。
7.自転車の目的地と利用エリア
日常的に駅前に違法駐輪をよく見かけるため、
自転車は、駅に集中すると思われがちである。自
転車の目的地を分析するため、平成10年東京都
市圏PT調査の結果を用いて、図 -7に東京都23区における通勤トリップに関する自転車の町丁目間
ODを示した。ここで、100トリップ以上のODに
対して、端末交通手段(駅まで自転車を利用し、
電車に乗り換えた場合)としての利用が卓越して
いるODは青、代表交通手段(他の交通手段を乗
り換えず、自転車を利用して直接勤務先に向かう
場合)としての利用が卓越しているODは赤の線
で示した。また、併せて示したグラフは23区の
駅端末利用と代表交通のトリップの構成比を示し
たものである。 図 -7から、まず、全体的に代表交通手段として
の利用が卓越していることが伺える。特に江東区、
江戸川区、大田区では多くのトリップが発生して
おり、このあたりでは特に規則性を持たず、あら
ゆる方向のトリップが発生しており、目的地を特
定することが困難である。一方、端末交通手段と
しての利用が卓越している地域も練馬区等の都心
からやや離れたところで見られる。これらのODは、一点と放射状につなぐ線が見られ、駅等の交
通結節点を中心に自転車が集散する様子が伺える。 したがって、地域によって違いがあるものの、
全体的に自転車は端末交通より、直接目的地へ向
かう代表交通としての利用が多い。その場合は目
的地が分散している。このため、自転車走行空間
ネットワークを考える際に、駅に向かう経路に重
点をおいて計画を立てるだけでは、十分ではない
場合もあるので、地域の実情を把握すべきである。
図-7 東京23区における自転車利用OD
0 2.5
Kilometers
5
※代表交通手段にていては、50トリップ未満を非表示としている〔H10年 東京都市圏パーソントリップ調査結果を基に集計〕
駅端末交通手段:100トリップ以上 (595)駅端末交通手段:100トリップ未満 (1489)代表交通手段>0 かつ 駅端末交通手段>0 (288)代表交通手段:100トリップ未満 (2562)代表交通手段:100トリップ以上 (427)
10%77%
50%58%
74%74%
54%84%
68%62%
71%74%77%
70%53%54%58%
55%71%
62%65%
59%56%
63%
90%23%
50%42%
26%26%
46%16%
32%38%
29%26%23%
30%47%46%42%
45%29%
38%35%
41%44%
37%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
千代田区
中央区
港区
目黒区
品川区
大田区
豊島区
文京区
新宿区
渋谷区
荒川区
台東区
墨田区
江東区
中野区
杉並区
世田谷区
練馬区
板橋区
北区
足立区
葛飾区
江戸川区
合計
自転車トリップ構成
代表交通手段 駅端末手段
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8.駅端末利用割合
前述のとおり、全体的には自転車は代表交通手
段として利用されることが多く、地域によっては
端末交通手段の利用が多いところもあることがわ
かった。ここでは、対象エリアを広げ、東京都市
圏全体での端末交通と代表交通としての利用を比
較する。図-8に東京都、神奈川県、千葉県、埼玉
県および茨城県における通勤・通学時に自転車が
利用されたトリップにおいて、端末交通手段とし
ての利用の割合を示した。つまり、通勤・通学の
際に利用される全ての自転車のうち、電車に乗り
換えるため、駅に向かう比率を示したものである。 図 -8から都心の10km圏内は、代表交通がほと
んどを占めているものの、10km~50kmにかけ
て端末交通が多い地域が増える傾向が見受けられ
る。この距離帯は都心のベットタウンが多く、通
勤時には、駅まで自転車に乗り、電車に乗り換え
て通勤する人が多いためであると推察される。さ
らに、50km以上都市圏から離れていると都心の
通勤圏から外れるため、自転車利用者は直接市内
近郊の通勤先へ向かっているものと考えられる。 したがって、都市の特性により自転車の利用特
性も異なるため、この点を考慮した上で、ネット
ワーク計画の方向性を定めることが重要である。
9.まとめ
本稿では、統計調査や現地調査の結果を用いて
自転車の速度や利用される目的地等の特性に関し
て考察を行い、主に以下の知見を得た。 ①自転車の移動距離は、1km弱が最も多く、95%
の自転車利用が5㎞以内の利用である。 ②幼児・児童、高齢者が運転する自転車と学生、
大人が運転する自転車には速度差があり、現地
調査によると、各々約 11km/hと約 15km/hで
あった。 ③自転車の利用分担率は、都市によって異なり、
要因としては、天候や地理的特性が考えられる。 ④自転車は、代表交通手段としての利用が一般的
には多い。ただし、大都市圏のベットタウンな
ど、端末交通手段での利用が多い都市もある。 以上のとおり、自転車の利用実態は都市によっ
て異なる部分が多く、自転車走行空間をネット
ワークとして整備を進めていく際には、各都市に
おいて自転車の利用特性を把握する必要がある。
参考文献 1) 第1回新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会
資料、国土交通省HP[http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/bicycle_environ/1s.html]
2) 交通工学ハンドブック、(社)交通工学研究会
諸田恵士*
大脇鉄也**
上坂克巳***
国土交通省国土技術政策総合研究所道路研究部道路研究室 研究官 Keiji MOROTA
国土交通省国土技術政策総合研究所道路研究部道路研究室 主任研究官 Tetsuya OWAKI
国土交通省国土技術政策総合研究所道路研究部 道路研究室長、博士(工学) Dr. Katsumi UESAKA
図-8 駅端末利用比率の地域分布
10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km10km
30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km30km
0 15
Kilometers
30
50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50km50kmさいたま市さいたま市さいたま市さいたま市さいたま市さいたま市さいたま市さいたま市さいたま市
水戸市水戸市水戸市水戸市水戸市水戸市水戸市水戸市水戸市
佐倉市佐倉市佐倉市佐倉市佐倉市佐倉市佐倉市佐倉市佐倉市
千葉市千葉市千葉市千葉市千葉市千葉市千葉市千葉市千葉市
印西市印西市印西市印西市印西市印西市印西市印西市印西市
蓮田市蓮田市蓮田市蓮田市蓮田市蓮田市蓮田市蓮田市蓮田市
横浜市横浜市横浜市横浜市横浜市横浜市横浜市横浜市横浜市
川崎市川崎市川崎市川崎市川崎市川崎市川崎市川崎市川崎市
船橋市船橋市船橋市船橋市船橋市船橋市船橋市船橋市船橋市
八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市八王子市
相模原市相模原市相模原市相模原市相模原市相模原市相模原市相模原市相模原市
自転車利用に占める代表交通手段の割合
(%)90 - 100
80 - 90
70 - 80
60 - 70
50 - 60- 50