東北放射光施設構想の概要と計画推進について -...

14
東北放射光施設構想の概要と計画推進について - project “SLiT-J” - 東北7国立大学東北放射光施設推進会議 推進室 濱 広幸 (東北大学電子光理学研究センター/大学院理学研究科物理学専攻) Synchrotron Light in Tohoku, Japan 光(電磁波)のスペクトル 1 建物  テニスボール  細胞 タンパク質 原子 (オングストローム = 0.1nm) 10 -12 10 -9 10 -6 10 -3 10 0 10 3 波長 (m) キロ               ミリ      ミクロン      ナノ       ピコ km m mm μm       nm pm 10 6 10 3 10 0 10 -3 10 -6 10 -9 エネルギー (eV) neV μeV meV eV       keV MeV ナノ       ミクロン      ミリ      キロ       メガ ラジオ波 マイクロ波 赤外線 紫外線 軟X線 硬X線 γ線 光(電磁波)は波長が短いほどエネルギーが大きい 光の種類 ▶ 放射光のエネルギー範囲 可視光 X線     γ線 200nm ~ 600nm  10pm ~ 10nm   < 1pm (5eV ~ 1.5eV)  (100keV ~ 100eV)  (>1MeV) 可視光:人に見える光。電磁波の広いスペクトルの中で、非常に僅 かな波長範囲。 線 :紫外線よりエネルギーが高いが、人体への影響はγ線に比 べると小さい電磁波。レントゲン撮影に使うX線と同じ。 γ 線 :主として原子核由来の電磁波。非常にエネルギーが高く、 生体細胞に与える影響が大きい。 nm(ナノメートル)=10 -9 m pm(ピコメートル)=10 -12 m 1eV(電子ボルト)= 1.6×10 -19 J(ジュール) 1keV(キロ電子ボルト)= 10 3 eV 1MeV(メガ電子ボルト)= 10 6 eV

Upload: others

Post on 03-Feb-2020

4 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

東北放射光施設構想の概要と計画推進について

- project “SLiT-J” -

東北7国立大学東北放射光施設推進会議 推進室 濱 広幸

(東北大学電子光理学研究センター/大学院理学研究科物理学専攻)

Synchrotron Light in Tohoku, Japan

光(電磁波)のスペクトル

1

建物  テニスボール  細胞 タンパク質 原子

1Å (オングストローム = 0.1nm)

10-12 10-9 10-6 10-3 100 103 波長 (m)

キロ               ミリ      ミクロン      ナノ       ピコ km m mm μm       nm pm

106 103 100 10-3 10-6 10-9 エネルギー (eV) neV μeV meV eV       keV MeV

ナノ       ミクロン      ミリ             キロ       メガ

ラジオ波 マイクロ波 赤外線 紫外線 軟X線 硬X線 γ線

可視光

光(電磁波)は波長が短いほどエネルギーが大きい

光の種類 ▶

放射光のエネルギー範囲     可視光 X線        γ線 200nm ~ 600nm  10pm ~ 10nm    < 1pm (5eV ~ 1.5eV)  (100keV ~ 100eV)  (>1MeV)

可視光:人に見える光。電磁波の広いスペクトルの中で、非常に僅かな波長範囲。

X 線 :紫外線よりエネルギーが高いが、人体への影響はγ線に比べると小さい電磁波。レントゲン撮影に使うX線と同じ。

γ 線 :主として原子核由来の電磁波。非常にエネルギーが高く、生体細胞に与える影響が大きい。

nm(ナノメートル)=10-9 m pm(ピコメートル)=10-12 m

1eV(電子ボルト)= 1.6×10-19 J(ジュール) 1keV(キロ電子ボルト)= 103 eV 1MeV(メガ電子ボルト)= 106 eV

X線の歴史①

1895年 レントゲン、X線の発見

レントゲン (Wilhelm C. Röntgen、独)

1845 - 1923

「X線」を発見 陰極線を観測するための装置「クルックス管」から、物質を透過する何かが出ていることを発見。数学で未知を意味する“X”を用いて、エックス線と名付ける。

医師アルベルト・フォン・ケリカーの手のX線写真(1896.1.23)

人体を透視できるX線はたちまち巷で話題になった (当時のポストカード)

☞  イメージング

2

X線の歴史②

1912年 ラウエ、X線回折現象の発見

ラウエ (Max.T. F. von Laue、独)

1879 - 1960

「X線は電磁波」を証明 X線を結晶に当てると。透過したX線が結晶格子で回折されて、斑点をつくることを発見。(1914ノーベル物理学賞)

☞ 広い分野でのX線利用が始まる。

結晶

ラウエ斑点

1913年 ブラッグ親子、X線分光器・ブラックの法則

「X線結晶構造研究」の幕開け X線分光器を開発し、X線回折パターンから塩の結晶構造を明らかにした。(1915ノーベル物理学賞)

☞ 結晶構造解析の進化  ☞ DNAの構造解析(1953)

ブラッグ親子(ヘンリー、ローレンス) (W.H. Bragg, W.L. Bragg、英) 1862 ‒ 1942, 1890 - 1971

☞  結晶構造解析

3

X線の歴史③

X線管(クーリッジ管)

現在もレントゲン撮影等に使われるX線管は、クーリッジ管とほとんど同じ構造。

4

明るいX線を求めて!

レントゲンのX線の発見から1960年頃まで、X線の明るさはあまり変わらなかった。 1970年代、高エネルギー加速器の電子ビームから放たれる「放射光」は何桁もクーリッジ管より明るいことが分かり、放射光利用専用の電子加速器が各国でつくられるようになった。

1990年代以降は、より明るい放射光を生成する技術が進展し(ウィグラー、アンジュレータ)、2000年代には輝度(明るさ)がX線管の10兆倍以上に到達した!

クーリッジ(X線)管から放射光へ!

X線管

1013倍 (10兆)

X線管の輝度 ~ 107~8

放射光の輝度 ~ 1020~21

放射光とは①

双極子放射

電子が動く(加速度運動)と 電磁波を放射する。

◀ 世界初の電子シンクロトロン (1947、GE社、米) 放射光も初めて観測された

ドップラー効果(ローレンツ変換) 電荷からの放射

5

電子蓄積リング (Storage Ring)

電子バンチ

ウィグラー

アンジュレータ

偏向電磁石

放射光

電子蓄積リングと呼ばれる高エネルギー加速器を用いて、ほぼ光速で運動する高エネルギー電子を、強力な磁場で進行方向を曲げることで放射光を発生する。

放射光 (synchrotron radiation)

放射光とは②

偏向磁石からの放射 (第1、2世代放射光リング)

挿入光源(アンジュレータ、ウィグラー)からの放射 (第2、3世代放射光リング、自由電子レーザーにも使われる)

(1980年代の高度化)

6

SPring-8(第3世代放射光) の放射光スペクトルの明るさ

放射光(X線)で見えるもの①

       放射光(X線)で何が見えるか

   可視光 放射光(X線)

物質の形が見える  ☞ 原子•分子の形(構造)が見える (X線回折/散乱)

物質の色が見える  ☞ 原子•分子の性質(電子状態)が見える (X線分光:吸収/蛍光)

物質の性質を変える ☞ 原子•分子の結合を変える (放射線効果)

東京大学雨宮慶幸教授の講演スライドより

物質 入射光(X線)

透過X線 イメージング XAFS

散乱・回折X線 結晶構造解析 X線小角散乱 コンプトン散乱

蛍光X線放出 微量元素分析

二次電子(光電子)放出 表面構造解析

7

代表的なX線利用法

1.蛍光X線分析 X線を照射して試料から放出される原子の蛍光X線を測定。蛍光X線は元素固有のエネルギーを持つため、試料の元素分析が可能。非破壊で試料を分析でき、極めて微量の元素にも敏感なため汎用性高い分析手法。

2.XAFS(X線吸収微細構造) 試料を透過するX線を測定。吸収されるX線のエネルギースペクトルから、物質内の特定元素の電子構造やその周囲の構造を調べる。非結晶の物質でも測定が可能。

3.光電子分光 X線を照射し、試料表面から放出される光電子の運動エネルギー分布や放出角度分布等を測定し、物質表面及び内部の電子状態や化学結合状態を調べる。

4.X線結晶回折 X線を結晶に照射して現れる回折像を測定。回折パターンの位置や強度を解析することによって、結晶の構造に関する情報が得られ、数学的手法等によって結晶の立体構造を決定することができる。

放射光(X線)で見えるもの② 元素分析・状態観察:蛍光X線、XAFS 等

1923年、ヘヴェシーはX線を用いて元素固有の特性X線を励起する蛍光元素分析を行う。(1943年ノーベル化学賞)

・レアメタルを用いない新イオン電池

☜ シンクロトロン放射の赤外線を用いた吸収分光  

九谷の土のほかに、肥前の土で作られた古九谷も多い!! (SPring-8)

・ストラディバリウスの音色は?

・古九谷はどこで焼かれたか?

Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 197-201

放射光リングからは赤外線も放射される。 大きな分子の固有励起エネルギーは低い。

「高エネルギーX線蛍光分析」寺田靖子(JASRI/SPring-8)、中井泉(東京理科大) 放射光 Vol17, No. 6 (2004)

ストラディバリウスには特別な秘法などはなかった。当時の普通に使われていたニスを普通の技術でヴァイオリン木材に施していた。ただ、極めて丁寧で奇麗に仕上げたことだけが、特別な職人の業であった。 (SOLEIL)

リチウムを全く用いず、資源が豊富なナトリウムを電気エネルギー貯蔵に利用する新しいエネルギーデバイス「ナトリウムイオン電池」の立証に成功。スマートグリッド用の定置用大型電池や電気自動車の電源として応用が可能な技術として世界中から大きな注目。(SPring-8)

東京理科大学・総合研究機構 藪内直明、駒場 慎一 Nature Material, Vol11, June 2012

XAFS: X-ray Absorption Fine Structure(X線吸収微細構造)

8

放射光(X線)で見えるもの③ 生体分子の立体構造:X線回折法

1953年、フランクリンとウィルキンスがDNAの2重螺旋構造を示唆する結晶回折写真を撮影。ワトソンとクリックがそれを確定するモデルを提唱*。(1962年ノーベル医学生理学賞) Rosalind E. Franklin

(1920 ‒ 1958 英) Franklinが撮影したDNA結晶の回折像 Crickのノート

*Watson, J.D. & Crick, F.H.C., Nature 171, 737-738 (1953).

・分子標的薬の設計

P.コールマン(豪)はインフルエンザウイルスの二つの主要なコートタンパク質の一つであるノイラミニダーゼの構造を決定。構造解析に基づいた薬剤設計によって、初めて抗インフルエンザ薬ザナミビル(商品名リレンザ™)が開発された(1989年)。(日本の放射光施設)

放射光X線回折で得られたノイラミニダーゼの立体構造

ノイラミニダーゼを攻撃するザナミビル分子

Varghese JN, McKimm-Breschkin JL, Caldwell JB, Kortt AA, Colman PM (November 1992), Proteins 14 (3): 327‒32, doi:10.1002/prot.340140302, PMID 1438172

1H1Nウィルス(スペイン風邪、Aソ連型) H:ヘマゲルチニン(宿主細胞にウィルスを吸着させる。) N:ノイラミニダーゼ(複製ウィルスを解き放つ。変異はゆっくり)

構造生物学 から創薬へ!

すでに90,000以上のタンパク質構造が決定され、データバンク(PDB)に登録されている。

(創薬に重要な鍵を握る膜タンパクのデータは、まだ100程度)

放射光を使った初めてのタンパク質(グリコーゲンホスホリラーゼ)X線回折(1978)。 (DCI、仏)

X線管:13時間 DCI-SR:6分 (現在ならばおそらく1ミリ秒以下)

放射光によるX線結晶回折とスーパーコンピューターによる解析・モデル計算の協奏が

次世代創薬を切り開く。

9

世界の放射光施設、日本の放射光施設①

光源は点ではないので、その空間的広がりと角度広がりを考慮した光子密度 輝度 =1秒あたりの光子数/光源の大きさ/光源の角度広がり/バンド幅(0.1%)

放射光リングの電子ビームの性質で決まる物理量 =>「エミッタンス」

電子ビーム        アンジュレータ       放射光

暗い!

明るい!

エミッタンスが大きい

エミッタンスが小さい

エミッタンスの単位 nm.rad

(大きさ×角度)

10

              1 放射光の輝度 ∝ ----------------------------------         (電子ビームのエミッタンス)2

明るさ(輝度)とは何か?

世界の放射光施設、日本の放射光施設②

加速器は素粒子・原子核物理学のものだった

放射光専用 加速器

低エミッタンスリングとアンジュレータで高輝度へ

加速器とアンジュレータの高度化、更に明るく!

第1世代光源 1960 ~ 1970年代 素粒子・原子核実験用大型電子シンクロトロンに寄生する光源利用(円形加速器で電子を加速する場合、放射光はエネルギーを失うだけの邪魔者であった)

第2世代光源 1970年代後半 ~ 1980年代 放射光専用の電子蓄積リングが建設される(偏向電磁石からの放射光利用が中心) 世界初は東京大学物性研SOR-Ring(1974)

第3世代光源  1990 ~ 2000年頃まで 低エミッタンス高輝度放射光施設(アンジュレータ放射の最大活用) 硬X線 APS(米)、ESRF(欧)、 SPring-8(日)

軟X線 ALS(米)、ELETTRA(伊)、PLS(韓)・・・ 高度第3世代光源 2000年頃 ~

超低エミッタンス高輝度光源リング、第3世代光源の10 ~ 100倍の明るさ。 世界各国が3GeVクラスの軟X線リングを建設 (フランス、イギリス、スイス、中国、カナダ、...)

11

エミッタンスの大きさ

500nm.rad

100nm.rad

10nm.rad

5nm.rad

ビームの大きさ

世界の放射光施設、日本の放射光施設③

ALS: Advance Light Source (1992 ~, LBNL, Berkeley, CA, USA)

入射用シン クロトロン

前段線形 加速器

アンジュレータ

アンジュレータ

ウィグラー

ビーム 診断

X線 顕微鏡

標準計量 測量

表面材料 科学

化学反応動力学

原子分子科学

分子材料科学

表面化学

X線微細分析

X線光学

材料科学 生物化学

X線リソグラフィー

蓄積リング

偏向電磁石

アンジュレータ

収束用 電磁石

蓄積リング

電子蓄積リングの一部分

ビームライン

分光器室

実験室

実験制御室

蓄積リング

12

年 リング エネルギー(GeV) 国 エミッタンス

(nm.rad)

1992 ESRF 6 フランス 4 ALS 1.5-1.9 アメリカ 6.3

1993 TLS 1.5 台湾 25 1994 ELETTRA 2.4 イタリア 7

PLS 2 韓国 5.8 MAX-II 1.5 スウェーデン 8.7

1996 APS 7 アメリカ 3 LNLS 1.37 ブラジル 100

1997 SPring-8 8 日本 3.7 1998 BESSY-II 1.9 ドイツ 5.2 2000 ANKA 2.5 ドイツ 50

SLS 2.4 スイス 5 2004 SPEAR-3 3 アメリカ 9.8

CLS 2.9 カナダ 18.2 2006 SOLEIL 2.8 フランス 3.7

DIAMOND 3 イギリス 2.7 ASP 3 オーストラリア 10 MAX-III 0.7 スウェーデン 13

2008 SSRF 3.4 中国 3.9 2009 PETRA-III 6 ドイツ 1 2011 ALBA 3 スペイン 4.3

世界の放射光施設、日本の放射光施設④ ◀ 1990年以降に建設された世界の第3世代放射光リング

2000年以降は、3GeVクラスの最先端高輝度リングが各世界各国で建設されてきた。エミッタンスは10nm.rad以下まで小さくなった。

3GeVクラス第3世代高輝度放射光施設

ALBA (Spain, 2011)

SOLEIL (France, 2006) DIAMOND (UK, 2006)

SSRF (China, 2008)

4.3 nm.rad

2.7 nm.rad 3.7 nm.rad

3.9 nm.rad

13

ESRF 6 GeV ‒ 4 nm

APS 7 GeV ‒ 3 nm PLS-II

3 GeV ‒ 5.8 nm

SPring-8 8 GeV ‒ 3.4 nm

ALS 1.9 GeV ‒ 6.3 nm SPEAR-3

3 GeV ‒ 9.8 nm

ELETTRA 2.4 GeV ‒ 7 nm

MAX-II 1.5 GeV ‒ 8.7 nm

BESSY-II 1.7 GeV ‒ 5.2 nm

SLS 2.4 GeV ‒ 5 nm

DIAMOND 3 GeV ‒ 2.7 nm

SOLEIL 2.75 GeV ‒ 3.7 nm

SSRF 3.5 GeV ‒ 3.9 nm

ALBA 3 GeV ‒ 4.3 nm

ASP 3 GeV ‒ 10 nm

PETRA-III 6 GeV ‒ 1 nm

建 設 中

MAX-IV 3 GeV - 0.28 nm

NSLS-II 3 GeV ‒ 0.55 nm

SIRIUS 3 GeV ‒ 0.28 nm

TPS 3 GeV ‒ 1.7 nm

ILSF 3 GeV ‒ 0.94 nm

運 転 中

世界の放射光施設、日本の放射光施設⑤ 建設中の新3GeV高輝度リングのエミッタンスは1nmradまたはそれ以下へ

(輝度は2桁近く向上する)

14

硬 X 線

九州シンクロトロン光センター (1.4 GeV)

SPring-8 (8 GeV)

広島大学HiSOR

(0.7 GeV)

分子科学研究所UVSOR (0.75 GeV)

兵庫県立大ニュースバル(1.5 GeV)

立命館大学 オーロラ (0.6 GeV)

KEK-PF (2.5 GeV)

KEK-PF-AR (6.5 GeV)

あいちシンクロトロン光センター

(1.2 GeV)

3GeVクラスの第3世代高輝度中型放射光施設の有用性が世界的に認知され、2000年以降建設ラッシュ。

世界の放射光施設、日本の放射光施設⑥

本邦は、関東地区の南・西7ヶ所に、9つの放射光リングを保有している(世界的には類例がない)。 低エネルギーのリングが大部分で、X線光源の第3世代放射光施設はSPring-8のみ。 軟X線領域(0.1~10keV)で、1keV付近に最大輝度を持つ世界の先端を走る光源はない。

1nm.rad 3 GeV

15

世界の放射光施設、日本の放射光施設⑦

線形加速器SACLA (自由電子レーザー)

電子蓄積リング (放射光源)

入射用 シンクロトロン

前段線形加速器

日本が誇る第3世代放射光施設SPring-8:周長約1.5km (1997 ~、兵庫県佐用町 )

16

東大の380MeV-SORリング  (1974~1997、田無、日本)

世界初の 放射光専用電子蓄積リング 世界最高の性能を持つ硬X線放射光リング

しかし、近未来の科学技術を支える 軟X線高輝度リングは、日本にない

☟ これこそが、東北放射光のミッション

東北放射光計画の概要①

この構想検討のきっかけと経緯

3・11の大震災で、東北経済が国内総生産に占める割合は高くはないが、東北地域は重要部品の生産工場が多く、我が国のみならず世界のサプライチェーンとしての機能が確認された

甚大な被災に同情は集まったが、重要部品の生産拠点が、東北以外の地域に移動する傾向も現われた → 職場の減少 → したがって、地域振興として根本的な対策が必須

震災から5年後の復旧完了を見据えた、例えば、「ものつくり」拠点として東北を着実に再機能させる施策 → 広範なイノベーション推進研究を強力に支援する「東北地区の拠点形成の実現」を! + 原子力災害に苦しむ福島(大学)への支援

「放射光」と言う最先端の基盤インフラが、その一つの可能性を持っている

▲ 平成24年1月4日 日経新聞

SLiT-J; 東北の未来を加速する放射光施設

東北放射光計画の概要② SPring-8-II (2019?)

SLiT-Jの目標

東北放射光施設(SLiT-J : Synchrotron Light in Tohoku, Japan)

設計指針 ① 世界の最新放射光に匹敵する輝度を持つ3GeV軟X線光源 ② 電子ビームのエミッタンス1nm.rad程度 ③ 1 - 5keVの軟X線の輝度1021 ④ 最もコンパクトで省エネルギーの先端的第3世代放射光リング ⑤ 本邦の優れた加速器技術を最大限活用し、建設期間3年

1 はじめに 2 ラティス 3 入射システム 4 電磁石 5 高周波加速システム

6 真空システム 7 ビーム診断系 8 入射器 9 制御システム 10 挿入光源

11 ビームライン 12 建屋・設備 13 放射線遮蔽

SLiT-J デザインレポート(2014.7) ▶

何故3GeVか? ・ 軟X線の発生に最も適した電子ビームエネルギーで、特性X線が軟X線領域(1~5keV)にある炭素(C)や酸素(O)、窒素(N)等の軽元素を活用する元素戦略に極めて有効。

・ 10keV以上の硬X線領域も、あるいはエネルギーが低い真空紫外領域(EUV、VUV)の光も高い輝度で発生できる汎用性が高い電子ビームエネルギー。

18

単位セル内の光学関数。赤線と青線はそれぞれ水平方向と垂直方向のβ関数、緑線は水平方向の運動量分散関数。

東北放射光計画の概要③ ①蓄積リング:ラティス ②蓄積リング:電磁石の配列(ユニットセル)

青:機能複合型偏向磁石(1ファミリー・4台、B’は重畳された発散四極磁場を示す)、赤:収束四極磁石(5ファミリー・16台)、黄:六極磁石(6ファミリー・14台)。

これをユニットセルと呼び、14個で1周を形成する。

③蓄積リング:ビームサイズ

挿入光源が置かれる直線部でのビームの大きさは、標準偏差値で水平方向は135μm、垂直方向は6μm。

④蓄積リング:電磁石の設計

偏向電磁石(ビームを曲げる)  4極電磁石(ビームを収束する) 6極電磁石(色収差を消す)

オーストラリアンシンクロトロン (2006、シドニー、豪)

偏向電磁石

4極電磁石 6極電磁石 19

東北放射光計画の概要④

SLiT-J電子蓄積リング エネルギー 3 GeV 周長 340 m

エミッタンス 1.13 (0.85*) nm.rad

108 m

SLiT-J 3GeV高輝度入射器 C-バンド線形加速器(SACLAの技術)

(将来は軟X線自由電子レーザーのドライバー) ~120 m

偏向電磁石

多極ウィグラー

アンジュレータ

4極磁石

6極磁石

アンジュレータ ビームライン

多極ウィグラー ビームライン

高周波 加速空洞

ビーム輸送路

ビーム 入射点

ビームライン 1)アンジュレータ(最大12本) 2)多極ウィグラー(最大14本) 3)偏向磁石*(最大56本)

*偏向磁石からの光は原則的に利用しない

20

* 短直線部全てに多極ウィグラーを挿入した場合

アンジュレータビームライン

多極ウィグラー ビームライン

東北放射光計画の概要⑤

真空(極端)紫外 軟X線 硬X線 現在建設中の最も先端光源とされるMAX-IV(スウェーデン)の放射光輝度

SLiT-Jの明るさ

1 数keVの軟X線領域で世界最高レベルの1021の輝度

2 1-10keVの領域でSPring-8を凌ぐ輝度

3 0.1-5keVではSPring-8の10-50倍の輝度

4 硬X線領域でも偏向磁石からの光の10-100倍以上の明るさ

5 建設中の世界最先端の3GeV放射光施設と肩を並べる性能

21 ▲ SLiT-Jデザインレポートより

東北放射光計画の概要⑥

Low Emittance 3 GeV Light Sources at a Glance

TPS (台湾) NSLS-II (米) MAX-IV (スウェーデン)

Sirius (ブラジル) SLiT-J SLIt-J

(16-cell)

ビームエネルギー (GeV) 3 3 3 3 3 3

周長 (m) 518.4 791.5 528 518.3 339.9 388.5

ラティス構造 Double-bend Achromat

Double-bend Achromat

7(6)-bend Achromat

5-bend Achromat

DD-B Non-

achromat DD-B

Non-achromat

ユニットセルの数 ( 偏向磁石の数) 24 (48) 30 (60) 20 (120) 20 (100) 14 (56) 16 (64)

長直線部の 長さと数 12.0 m × 6 8.6 m × 15 4.7 m × 20 7.0 m × 10 5.3 m × 14 5.3 m × 16

短直線部の 長さと数 7.0 m × 18 6.6 m × 15 1.3 m × 40 6.0 m × 10 1.4 m × 14 1.4 m × 16

エミッタンス (nm.rad)

4.9 (2.6, 1.6)

2.1 (0.9, 0.55)

0.33 (0.26) 0.28 1.13

(0.85) 0.78 (0.55)

最大輝度 5×1020 3×1021 7×1021 9×1021 1×1021 3×1021

Low emittance strategy Non-achromat Damping

wiggler Multibend Wiggler

Mutibend SC dipole

Mutibend Non-

achromat Wiggler

Mutibend Non-achromat

Wiggler

世界の最新3GeV光源と比べてみました SLiT-Jが最もコンパクトな高輝度放射光源 !!

基本設計を変えることなく2セル増やし、一回り大きい16セルに拡張し

た場合

22

SLiT-Jの現在案 ▲

東北放射光計画の概要⑦ 消費電力見込み

光源リング 2.02 線形入射器 0.25 制御系 0.10 ビームライン・実験系(24本) 0.24 施設・ユーティリティ 1.10

計 3.71 MW

加速器構成機器を極めてコンパクトに設計したため、消費電力は小さい(SPring-8は施設全体で約30MW)。

約15400平米の加速器施設棟の屋上に0.22kw/m2の発電能力を持つソーラーパネルを設置すれば約3.4MWの発電量を得ることができ、ほぼ運転消費電力をまかなうことができる。

◀ フロアプラン この他に研究棟等の付帯施設が必要

23

産業利用へ、イノベーションへ①

24

SPring-8の軟X線BL(BL27SU)における、過去5年間の課題申請状況

産業利用・産学連携研究課題

 直近5年で3倍に増加  2012年は全体の約40%  競争倍率は約2倍:  課題:ニーズの半数が未執行

産業利用へ、イノベーションへ②

◀ 2012年度SPring-8 SACLA年報より

放射光利用 解析基礎研究

新物質・新物性発見 新デバイス発明

放射光利用 解析応用研究

新素材開発 新デバイス開発

商品開発

放射光利用 劣化診断、信頼性

産学連携

産業利用

機能を直接支配する電子状態の解析は産業利用に直結 特に動作中の電子状態(オペランド)の解

析は死の谷の克服に必須

魔の川

死の谷 ダーウィンの海 ▶

東京大学尾嶋正治特任教授のスライドより

「魔の川」:基礎研究から応用研究までの間の難関・障壁 「デスバレー(死の谷)」:応用研究からニュービジネスあるいは、製品化(パイロットライン)までの間の難関・障壁 「ダーウィンの海」:ニュービジネスあるいは、製品化(パイロットライン)から、事業化までの間の難関・障壁 25

イノベーションへ

民間企業が代表者として、年間に約300件(全利用の約20%)の利用研究を実施。 ただし、官学が代表者として実施された産官学連携課題が存在するため、産業利用課題は実際はこれより多い。 BL27SUの実績から類推すると、年間で500~600件の産業利用・産官学連携利用を実施。

ー SLiT-J が目指す課題解決型イノベーションサイクルモデル ー

地域振興

産業利用へ、イノベーションへ③

26

東北6県の産学官で構成されるタスクフォース「(仮称)東北放射光施設推進協議会」

◀ 河北新報   平成25年1月12日

SLiT-J経済波及効果 東北大学経済学研究科 林山泰久教授試算 設置後10年で 

生産誘発効果:3千2百億円   雇用創出効果:1万4千人

27

東北の情熱と All Japanの支援を結集して粘り強い、かつ 継続的な ご支援を よろしくお願いします。