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- 1 - 令和元年度 教科リーダー養成講座(高等学校) 実践記録 歴史的な「見方・考え方」を働かせる世界史 -世界史B「ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成」の指導をとおして- 新潟県立柏崎翔洋中等教育学校 授業者 教諭 相澤 Ⅰ はじめに 新しい学習指導要領では、「社会的な見方・考え方」を働かせながら、資質・能力を育成する ことが重要であるといわれている。新学習指導要領で新設された必履修科目の一つである「歴史 総合」の総説によると、「歴史的な見方・考え方」を働かせる際は、時期や年代、推移、比較、 相互の関連や現代とのつながりなど、多様な視点に着目して捉え、課題を追究したり解決したり する学習を展開することが大切であるとしている。 日頃の授業では、授業プリントを使用した講義形式で、歴史への興味・関心を高め、分かりや すい授業づくりを心掛けている。しかし、生徒が課題を主体的に解決しようとする態度を養って いるとは言い難い。そこで、研究テーマとして、三十年戦争を題材に、主権国家体制の形成の学 習をとおして、生徒が歴史的な「見方・考え方」を働かせてヨーロッパの主権国家体制と同時代 の東アジアの冊封体制の類似・差異を比較し、二つの政治体制の因果関係を考察させる授業実践 を行うこととした。その具体的方法として、ミニ討論などのグループ活動やICT機器を効果的 に活用してみたい。 Ⅱ 学習指導案 1 日 時 令和元年 10 月4日(金) 6限(14:20~15:08 48 分) 2 指導学級 普通科 5年2組 (38 人) 3 教科・科目 地理歴史科 世界史研究(学校設定科目) 4 使用教材 教科書 山川出版社 『詳説世界史B』改訂版 副教材 第一学習社 『グローバルワイド最新世界史図表』 5 単 元 第8章 近世ヨーロッパ世界の形成 4 ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成 6 単元の目標 (1)宗教改革などを背景にヨーロッパ勢力の海外進出が活発となり、ヨーロッパ諸国の抗争の 中で、一定の領域と独立の主権を備えた主権国家体制が形成されたことを理解している。 (知識・技能) (2)ヨーロッパ諸地域の動向に関わる諸事象の背景や原因、結果や影響、相互の関連やつなが りなどに着目し、諸資料を比較したり関連付けたりして読み解き、主権国家の特徴と経済活 動との関連を多面的・多角的に考察し、表現している。(思考・判断・表現) (3)ヨーロッパ諸国が互いに独立した主権国家として競合しながら国際秩序を形成していった 過程に対する関心を高め、意欲的に追究している。(主体的に学習に取り組む態度) 7 生徒の実態 5年生(高2)の文系クラスである。本校では生徒のほぼ全員が大学進学を希望しており、 学習に真剣に取り組んでいる。文系クラスのため歴史が好きな生徒が多いと感じるが、世界史 を暗記科目と捉えて苦手としている生徒も少なくない。とても活発な学年で、他教科でジグソ ー法などを実践していることもあり、グループ活動は戸惑うことなくできると考えているが、 これまでは大学受験を意識した講義形式の授業展開であったため、上記のような授業改善はで きてきない。本講座によって、歴史を単なる暗記科目ではなく、他者との対話によって、同時 代における地域ごとの政治体制の違いについて考察し、生徒がより歴史学習に主体的に取り組 むことを期待している。

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令和元年度 教科リーダー養成講座(高等学校) 実践記録

歴史的な「見方・考え方」を働かせる世界史

-世界史B「ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成」の指導をとおして- 新潟県立柏崎翔洋中等教育学校

授 業 者 教 諭 相 澤 剛 Ⅰ はじめに 新しい学習指導要領では、「社会的な見方・考え方」を働かせながら、資質・能力を育成する

ことが重要であるといわれている。新学習指導要領で新設された必履修科目の一つである「歴史総合」の総説によると、「歴史的な見方・考え方」を働かせる際は、時期や年代、推移、比較、相互の関連や現代とのつながりなど、多様な視点に着目して捉え、課題を追究したり解決したりする学習を展開することが大切であるとしている。

日頃の授業では、授業プリントを使用した講義形式で、歴史への興味・関心を高め、分かりやすい授業づくりを心掛けている。しかし、生徒が課題を主体的に解決しようとする態度を養っているとは言い難い。そこで、研究テーマとして、三十年戦争を題材に、主権国家体制の形成の学習をとおして、生徒が歴史的な「見方・考え方」を働かせてヨーロッパの主権国家体制と同時代の東アジアの冊封体制の類似・差異を比較し、二つの政治体制の因果関係を考察させる授業実践を行うこととした。その具体的方法として、ミニ討論などのグループ活動やICT機器を効果的に活用してみたい。

Ⅱ 学習指導案

1 日 時 令和元年 10 月4日(金) 6限(14:20~15:08 48 分)

2 指導学級 普通科 5年2組 (38 人)

3 教科・科目 地理歴史科 世界史研究(学校設定科目)

4 使用教材 教科書 山川出版社 『詳説世界史B』改訂版 副教材 第一学習社 『グローバルワイド最新世界史図表』

5 単 元 第8章 近世ヨーロッパ世界の形成 4 ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成

6 単元の目標 (1)宗教改革などを背景にヨーロッパ勢力の海外進出が活発となり、ヨーロッパ諸国の抗争の

中で、一定の領域と独立の主権を備えた主権国家体制が形成されたことを理解している。 (知識・技能)

(2)ヨーロッパ諸地域の動向に関わる諸事象の背景や原因、結果や影響、相互の関連やつなが りなどに着目し、諸資料を比較したり関連付けたりして読み解き、主権国家の特徴と経済活 動との関連を多面的・多角的に考察し、表現している。(思考・判断・表現)

(3)ヨーロッパ諸国が互いに独立した主権国家として競合しながら国際秩序を形成していった 過程に対する関心を高め、意欲的に追究している。(主体的に学習に取り組む態度)

7 生徒の実態

5年生(高2)の文系クラスである。本校では生徒のほぼ全員が大学進学を希望しており、学習に真剣に取り組んでいる。文系クラスのため歴史が好きな生徒が多いと感じるが、世界史を暗記科目と捉えて苦手としている生徒も少なくない。とても活発な学年で、他教科でジグソー法などを実践していることもあり、グループ活動は戸惑うことなくできると考えているが、これまでは大学受験を意識した講義形式の授業展開であったため、上記のような授業改善はできてきない。本講座によって、歴史を単なる暗記科目ではなく、他者との対話によって、同時代における地域ごとの政治体制の違いについて考察し、生徒がより歴史学習に主体的に取り組むことを期待している。

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8 単元の評価規準

知識・技能 思考・判断・表現 主体的に学習に取り組む態度

15 世紀末からヨーロッパ諸国が主権国家体制を確立していった過程を、ルネサンスや宗教改革、ヨーロッパ諸国の海外進出など社会の変化と関連付けて理解している。

主権国家体制の特徴、体制の形成に向かうヨーロッパ諸国の領域地図、当時の肖像画や戦争の図版などの資料等を読み取り、多面的・多角的に考察し、その過程や結果を適切に表現している。

ヨーロッパ諸国が互いに独立した主権国家として競合しながら国際秩序を形成していった過程から、現代社会とつながりがあることに気付き、意欲的に追究している。

9 単元の構成(全3時間) 時 目 標 学習活動 評価と方法

ルネサンスや宗教改革など 普遍的価値への変化が主権 国家体制の形成に関わって いることを理解している。

近代国家の原型となった主権

国家体制の特色を理解する。

・主権国家体制の特色 ・イタリア戦争の対立構図

・ワークシート、 定期考査

ヨーロッパ諸国が独立した

主権国家として競合しなが

ら国際秩序を形成していっ

た過程を理解し、相違点を

主体的に学ぶ。

主権国家とヨーロッパ諸国の 動向を理解する。 ・スペイン、オランダ、イギ

リス、フランスの動向

・ワークシート 定期考査

3 (本時)

戦争の背景・経過を考察し、 ウェストファリア条約の意 義を適切に理解している。

三十年戦争で主権国家体制が

確立したことを理解する。 ・主権国家体制の確立

・ワークシート 定期考査

・グループ活動

10 本時の計画(3/3時間) (1)本時の目標 ・三十年戦争を通じて、主権国家体制が形成されていく過程を理解する。(知識・技能) ・講和条約であるウェストファリア条約で主権国家体制が成立したことを知り、ヨーロッパ

の主権国家体制と、同時代の東アジアの冊封体制との相違点を考察する。(思考・判断・表現) (2)本時における「研究テーマ」を実践するための具体的な方策 ・主権国家体制と冊封体制の特色を、ミニ討論をとおして考察させる。 ・ICT機器を使用し、生徒への解説を効果的に進める。

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(3)展開

時間 学習内容 教師の動き 生徒の動き 評価の観点と方法 指導上の留意点

導 入 (5分)

・前時の振り返り ・本時の学習内容の

確認

・ワークシートを配 付する。

・世界の国家数に関 するクイズを出す。

・既習内容である主

権国家について確

認する。

展開1 (15 分)

・16 世紀中頃のヨー

ロッパ情勢 ・三十年戦争 ・ウェストファリア

条約

・神聖ローマ帝国領

を示した地図から

当時の国際情勢を

考察させる。 ・三十年戦争の背景、

経過・結果につい

て説明する。 ・「参戦国で不自然

な国はどこか?」 ・条約で主権国家体

制が確立したこと

を考察させる。

・皇帝領(ハプスブ ルク家領)が少な く、支配権が弱い ことに気付く。

・ワークシートに記 入する。

・周囲で話し合い、 ワークシートに記 入する。

・当時のヨーロッパ の国際情勢を的確 に読み取ることが できる。

・戦争が宗教的対立 から始まり、途中か

ら政治的対立に変

化していることに

気付く。(知識・技

能) ・条約の成立と意義

を考察させる。

展開2 (25 分)

ヨーロッパと東アジ

アの同時代における

国際秩序を比較し、

違いを考察

<本時の課題> ・「あなたならヨー

ロッパの主権国家

体制と東アジアの

冊封体制のどちら

がよいか?」 ・グループで討論さ

せ、まとめさせる。

・まず個人で根拠を

考察する。 ・その後、グループ

で意見交換をす

る。

・適切に発言し、グ

ループの意見をま

とめることができ

る。(思考・判断

・表現)

まとめ (3分)

本時の振り返り

・本時の学習内容の

振り返りを指示す

る。

・本時の学習活動を

振り返りながら、

自分の考えをまと

める。

・学習に対して自分

の考えをもつこと

ができる。

(4)本時の評価

評価規準 「努力を要する」状況と 判断される例 指導の手立て

三十年戦争の背景・経過を

考察し、ウェストファリア

条約の意義を適切に理解し

ている。(知識・技能)

・資料を読み取り、気付いたことを

書き出すことができない。

・机間指導の際に発問に工夫を

加えて、理解しやすいように

支援する。

主権国家体制の形成を現代

の主権国家と比較し、自分

の意見を表現しようとして

いる。(思考・判断・表現)

・主権国家体制の特徴を理解してい

ない。 ・当時の国際秩序についての考えを

まとめることができない。

・既習内容を思い出すように助 言を行う。

・グループ内の意見交換が活発 になるように支援する。

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Ⅲ 授業の実際 <導入> 当時のヨーロッパでは国家という概念が薄いということは事前の授業でも学習済みだが、生徒に 改めて確認してもらうために簡単なクイズ形式にした。世界の国家数に関するクイズは予想以上 に盛り上がって生徒たちの緊張もほぐれて、その後のグループ活動の討論がより活発になったよ うに感じた。プロジェクターで当時のヨーロッパの地図を投影し、視覚的に確認できたことも効 果があったと思う。 <展開1> 〇三十年戦争、ウェストファリア条約の説明

主権国家体制が確立される契機となった三十年戦争について、授業プリントを活用し説明した。 もともとキリスト教の新旧両派諸侯間の宗教対立から始まった戦いが、しだいに政治的な対立に なっていったことを考察させた。旧教国であるはずのフランスが、なぜ途中から新教国側で参戦 したのかをペアワークにより考察させたが、フランスが参戦国として不自然なのは分かっても、 ブルボン家(フランス)とハプスブルク家(神聖ローマ帝国)のヨーロッパにおける覇権争いが 背景にあることに気付いた生徒は少なかった。時間が足りず、生徒に解答を急がせてしまったの で、もう少し全体で考えさせれば良かった。講和条約であるウェストファリア条約は、ヨーロッ パの主要な代表が集まったため、世界最初の国際会議といわれるが、生徒が所有する資料集には掲載されていない風刺画をプロジェクターで投影したことで、より実感がつかめたようだった。 <展開2>

〇グループ活動(ミニ討論) 本時の課題 「あなたなら、ヨーロッパの主権国家体制と東アジアの冊封体制のどちらの体制がいいですか。それぞれのメリット・デメリットをあげて、グループでミニ討論してみよう。」

17~18 世紀頃のヨーロッパの主権国家体制と東アジアの冊封体制を比較させ、自分ならどち らの国際秩序がよいか、グループ活動を通して生徒に歴史の見方・考え方を働かせることを試みた。まず、プロジェクターで東アジアの冊封体制とヨーロッパの主権国家体制を表す資料を投影して、それぞれの体制を確認してからグループ活動を始めた。活動を始めるにあたってミニ討論のルールを説明した。

最初から自分が支持する体制を決めて討論するのではなく、あえてじゃんけんをしてグルー プのメンバーを半分に分けた。これにより自分が支持していない体制であっても、メリット・ デメリットを考えることができた。また、自分が国王や国民の立場ならどちらがよいのかを考 えることで、生徒が多角的に類似や差異を明確にすることで、歴史的な「見方・考え方」を働 かせることを期待した。討論では付箋紙を活用し、自分が支持する体制のメリット・デメリッ トを付箋に記入し、A3用紙に貼って議論させた。

<グループ活動の様子> <付箋にメリット・デメリットを記入>

<ミニ討論ルール> ①グループでじゃんけんをして、主権国家体制派と冊封体制派の半分に分かれる。

(4名なら2名 vs2名) ②まず、個人で支持する根拠を考える。(4分) ③司会を決めて②の根拠を基にグループ内で討論する。 ④最後に、グループとしてどちらの体制がよいかまとめる。(10 分)

※安易な多数決で決めないこと。

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同時代の地域の国際秩序を比較するという個人 で答えを出すには難しいテーマを、グループで意 見を出し合うことで理解が深まったようだ。

その後、グループごとにどちらの体制に意見が まとまったか発表させた。私は主権国家体制の方 が多いのではないかと予想していたが、結果は 10 班中、主権国家体制が2、冊封体制が6、議論中 が2、という意外な結果であった。主権国家体制 だと国家同士が平等な関係になるものの、国家同 士の対立・紛争も起こることを、彼らなりに回避 したいという思いからのようだった。グループ活 動は過去にも数回やったことがあるが、影響力の <発表の様子> 強い生徒や司会者の意向に意見が流されやすかっ たので、今回のようにあえてじゃんけんでグルー プを分けることで様々な意見を出させる手法は、 効果的であった。

<まとめ>

最後に授業者から、今後、ヨーロッパ諸国が、アジアにも進出してくることでヨーロッパの主 権国家体制と東アジアの冊封体制が衝突することを説明し、今後の授業の展望を予想しながら授業を結んだ。

Ⅳ 実践の考察とまとめ (1)実践の分析 今回のテーマは「歴史的な見方・考え方を働かせる」ことであった。通常であれば、冊封体制

と主権国家体制は教科書の流れに沿って個別に学習していたものを、生徒に 17~18 世紀頃の同じ時代という時期に着目して、違う地域の国際秩序の類似・差異を明確にして因果関係を考察させることを目標とした。 <生徒のアンケートの結果>(回答人数 37 名)

① 授業への取り組みについて

◆授業に意欲的に取り組むことができた。 できなかった あまりできなかった 比較的できた よくできた 2(5%) 1(3%) 6(16%) 28(76%)

このクラスは男子と女子の仲も良く常に活発な雰囲気がある。本校では総合学習等で班活

動をする機会が多く、他教科でジグソー法を定期的に実施していることもあり、今回のグル ープ活動においても違和感なく意欲的に取り組むことができたようだ。

② 展開1(三十年戦争・ウェストファリア条約の学習)

◆三十年戦争について理解できた。 できなかった あまりできなかった 比較的できた よくできた 1(3%) 3(8%) 17(46%) 16(43%)

◆ウェストファリア条約について理解できた。

できなかった あまりできなかった 比較的できた よくできた 1(5%) 4(11%) 19(51%) 13(35%)

◆主権国家体制について理解できた。

できなかった あまりできなかった 比較的できた よくできた 2(5%) 2(3%) 13(35%) 20(54%)

展開1における三十年戦争とウェストファリア条約の説明はプリントによる説明であっ

たが、時間が不足したために発問と作業に多くの時間を掛けられなかった。その結果、理解度が少し低いようである。逆に、主権国家体制はプレゼンテーションソフトを活用して説明し、グループ活動で意見を交換することで理解が深まったようだ。

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③ 展開2(グループ活動) ◆グループ活動に積極的に取り組むことができた。

できなかった あまりできなかった まあまあできた できた 2(5%) 1(3%) 7(19%) 27(73%)

◆今後もグループ活動を定期的にやってほしい。

やってほしくない あまりやってほしくない たまにやってほしい やってほしい 0(0%) 3(8%) 14(38%) 20(54%)

◆ICT 機器による授業はわかりやすい。

思わない あまり思わない まあまあわかりやすい わかりやすい 0(0%) 1(3%) 19(51%) 17(46%)

先述したとおり、このクラスはグループ活動に慣れているところもあってミニ討論にも積

極的に取り組み、今後も定期的に活動をしてほしいという好意的な意見が多かった。ただし、数は少ないが、コミュニケーションをとることが苦手な生徒や、個人でじっくり考えることが好きな生徒もいるので、今後はグループ活動のメリットや目的を生徒に提示して定期的に取り組ませたい。ICT機器の利用は概ね好評で、特に地図や概念等の視覚化は効果的であった。

(2)研究協議の論点

<良かった点> ・導入のクイズで生徒を引き付けていた。 ・生徒が笑顔で参加していた。生徒の反応が良かった。 ・1人で思考作業させてからグループで討論させる手法が良かった。 ・班活動の机の配置が良かった。 ・同じ時代の国際秩序を比較させたことが良かった。 ・付箋での作業の際、グルーピングに工夫があった。 ・ストップウォッチで時間を明示していた。 ・プレゼンテーションソフトの地図・写真が理解しやすかった。 <ICT 機器を活用> <改善点> ・導入クイズ後のプリント学習の時間は、生徒が受け身になっていた。 ・プレゼンテーションソフトのより効果的な活用(拡大・書き込む等)について検討する。 ・「どちらの体制がよいか?」「どちらの立場がよいか?」という問いの設定に工夫が必要。 ・グループ活動のテーマのキーポイントを生徒に示しても良かった。 ・付箋の使い方を工夫する。例)メリット・デメリットで色分けする、など 研究協議では問いの設定の大切さ、グループ活動での工夫、プレゼンテーションソフトの効

果的な使用法などいろいろな貴重な意見を頂いた。これらを活かして、今後の授業改善につなげていきたい。

(3)授業実践を振り返って <生徒アンケート 感想記述より>

① グループ活動について ・分からないことをすぐ友達に聞けるのが良かった。 ・普段の授業では使わない脳が鍛えられて思考力がつきそう。 ・話し合いをすると自分と違う考えをもつ人の意見を聞けて楽しいし、視野が広まった。 ・論理的に相手に伝えようとするから、話す力がつくと思った。

② ICT機器の活用について ・ICT機器を使った方が集中してできた。 ・プレゼンテーションソフトを使うと先生の話が増えるので個人的には好きです。 ・図や地図はプレゼンテーションソフトの方が分かりやすかった。

③ 否定的な意見 ・普段の授業プリントで先生が話すスタイルの方が面白くて、分かりやすいです。 ・グループ活動も楽しいが、サクサクと授業が進む方が好きです。 ・グループ活動の方が理解が深まって良いと思うが、私は少し苦手でした。

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生徒のアンケートを見ると、グループ活動のような協働学習は個人で考える以上に他者の多様な意見を聞くことで理解が深まっていると感じていて、歴史的な見方・考え方を働かせる資質・能力を養うには効果的であったといえる。ただし、従来の授業のような、新しい知識・発見をたくさん得たいと思っている生徒もいるので、単元をとおしてどのような問いを設定し、グループ活動はどのタイミングで実施することが、より効果的なのか考える必要がある。ICT機器の利用は生徒からは概ね好評で、今後も定期的に活用していくとともに、今後はさらに、デジタル教科書の使用も研究してみたいと思っている。今回の研究授業を通して、改めて自分の授業を見つめ直し、改善をする機会となった。今後も生徒が、獲得した知識を活用し、歴史を多面的・多角的に考察することを通して、深い学びへと導くような授業が実践できるように、今後とも日々研鑽をしていきたい。

(4)今後に向けて

① 「問い」の設定の工夫 今回の研修を通して、一番苦労した点が「問い」の設定である。10 月の公開授業でミニ討

論やICT機器の活用などの具体的な方策は決めていたが、授業で生徒に何を考えさせ、理解させたいかを明確にするには単元を通じた「問い」の設定があらためて重要であることを実感した。当初は、主権国家体制が確立する前後を生徒に比較させて主権国家体制を理解させようと考えていたが、あえて同時代の東アジアの冊封体制と比較させることで類似・差異がより明確になり、今後の授業で扱うヨーロッパ諸国によるアジア侵略へのつながりがより理解できると考えた。結果、討論は非常に活発で想定通りの学習活動となった。反省点としては、生徒には国王や国民としての立場からも討論して欲しかったが、時間が不足したために二つの体制の比較に終始したことである。グループ活動の時間がもう少しあれば、討論もより深まったと思う。

② 評価の実施 今回の授業では、生徒による授業の振り返りなどが不十分だった。公開授業が終了した次

の時間に授業アンケートを実施したが、グループ活動や討論などの学習活動が効果的であったかを授業者が見取るだけでなく、生徒自身が理解したかどうかを確認するためにも、振り返りの時間は必要であったと考える。ルーブリック評価など授業の評価のあり方は今後の課題である。

③ ICT機器の効果的な活用 生徒との対話を確保するためには、ICT機器の活用が効果的であった。資料集と同じ地

図であっても黒板に投影することで生徒の視線も集中し、説明もしやすかった。本校では全ての教室にプロジェクターが設置されているので、今後も積極的に活用してデジタル教科書などの使用も研究していきたい。

最後に、令和4年度から、「歴史総合」「地理総合」「公共」が必履修科目となり、地理

歴史・公民科も大きな変革を迎えるが、今回の講座で学んだことを活かして、今後も授業改善に取り組んでいきたい。

【参考文献】

『世界の歴史 17』中央公論社 長谷川輝夫ほか 『見方・考え方 社会科編』東洋館出版社 加藤寿朗/澤井陽介 『世界史リブレット 29 主権国家体制の成立』高澤紀恵 『世界史リブレット 114 近世ヨーロッパ』近藤和彦

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13 期生世界史授業プリント No,66

第8章 近世ヨーロッパ世界の形成 年 組 番氏名 _ 4 ヨーロッパ諸国の抗争と主権国家体制の形成

教P,220~222 資料集P,200

17 世紀の危機と三十年戦争

(1)「17 世紀の危機」

a 16 世紀以来の経済成長の停止(17 世紀前半)……凶作・不況・疫病・人口の停滞

b 17 世紀半ば……全ヨーロッパ的規模の危機の時代へ

c 神聖ローマ帝国(のちドイツ)の情勢…主権国家の形成の遅れ(領邦の分立)→三十年戦争の勃発

(2)1____________(1618~48)

a 原 因

2________________(1555)の不備 → 新教・旧教諸侯の対立

b 発 端

オーストリアの属領3________(ボヘミア)の新教徒が神聖ローマ皇帝へ反乱

c 経 過

○スペイン……スペイン=ハプスブルク家として参戦

○デンマーク…国王クリスチャン 4 世の侵入

→皇帝側の傭兵ようへい

隊長4_____________の活躍 →デンマークの敗北 ○スウェーデン…国王グスタフ=アドルフの侵入→連戦連勝→ヴァレンシュタインにより戦死

○フランス……宰相5_________が参戦を提案

<対立構図>

★三十年戦争は「最後で最大の宗教戦争」といわれるが、図中のAとBに「新教側」と「旧教側」の

どちらかを記入しなさい。 A( ) B( )

ヴァレンシュタイン グスタフ=アドルフ

ウェストファリア条約

<問題>

Q 三十年戦争の参戦国の中で不自然な国はどこか。その理由は?

国名 ( )

理由

d 結 果……6_________________(1648 年)…世界最初の国際会議

①アウクスブルクの和議の再確認……ルター派のほか、7_________の承認

②フランス……8________とロレーヌの一部を獲得

③スウェーデン……北ドイツ沿海地域(西ポンメルンとブレーメン等)を獲得→「バルト帝国」へ

④9______・10________の独立を正式に承認

⑤領邦(諸侯領)……ほぼ完全な主権が認められる →神聖ローマ帝国の有名無実化

e 影 響

ドイツの国土荒廃・人口激減(1600 万→1000 万)→ 近代化の遅れが決定的に

ヨーロッパの主権国家体制の確立(大半のヨーロッパ諸国が参加した国際会議で決定)

________________________________________ 1.__________ 6.__________ 2.__________ 7.__________ 3.__________ 8.__________ 4.__________ 9.__________ 5.__________ 10.__________ 次回「東ヨーロッパの新しい動き」

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<本日の課題> メンバー___________________________ ※司会に○をつける

Q あなたなら、当時のヨーロッパの主権国家体制と東アジアの冊封体制のどちらの体制がいいですか メリット・デメリットをあげて、グループでミニ・ディベート(ミニ討論)し

てみよう。

(自分が国王の立場なら? 国民の立場なら?という視点からも考えてみよう)

私は主権国家体制がいいと思う 私は冊封体制がいいと思う

私たちのグループでは