「シルバー」デモクラシーから 「全世代参加型」デモクラ …2 要 第1章....

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「シルバー」デモクラシーから 「全世代参加型」デモクラシーへ 18 歳選挙権導入に際し、ユース世代から現代日本社会への提言― 「ユース世代による政治改革」グループ 平成28年3月4日 「ジュニア・アカデメイア」第1期生政策提言発表会 主催 日本アカデメイア

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「シルバー」デモクラシーから

「全世代参加型」デモクラシーへ

―18 歳選挙権導入に際し、ユース世代から現代日本社会への提言―

「ユース世代による政治改革」グループ

平成28年3月4日

「ジュニア・アカデメイア」第1期生政策提言発表会

主催 日本アカデメイア

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目次

第1章. 課題設定 〜私たちの問題関心~

第2章. 現状分析 ~私たちの考え方~

(1) シルバーデモクラシーの現状 ~なぜ若者の声は政治に届かないのか~

(2) 渋谷ハチ公前インタビューから紐解くユース世代の政治意識

(3) 新宿区選挙管理委員会へのヒアリングと主権者教育の現状

(4) 国会議員へのヒアリングとインターネットを用いた政治の現状

第3章. 提言 〜私たちの主張〜

Ⅰ.選挙制度改革

(1) ユース世代のための世代別クオータ制導入

(2) 被選挙権および供託金の引き下げ

(3) ユース世代の一票に重み付けをする「投票プレミアム制度」の導入

Ⅱ.議会制度改革

(1) ユース世代の民意を反映した無作為抽出法の予備採決制度を実施

Ⅲ.投票システム改革

(1) ユース世代からの要望が強い「インターネット投票」を実施

(2) 短期在外居住者向け選挙制度の拡充

(3) 選挙運動期間の拡大

Ⅳ.政治に関する情報アクセス改革

(1) ユース世代を繋ぐ連帯的な組織づくり

(2) 政治家評価サイト「政治家ログ」の設立と運営

(3) 選挙における投票選択を容易にする「ボートマッチ」の拡充

(4) 面白くて分かりやすい政見放送づくり

Ⅴ.シティズンシップ教育改革

(1) シティズンシップ教育科目の義務化と指導マニュアルの整備

(2) 選挙運動期間中に学校で「公開討論会」を実施

(3) 地方政治における「子ども議会」の義務化

(4) 高校生が政治に関わろうとする取り組みが評価される入試制度改革

巻末 グループ参加者名簿

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要旨

第1章. 課題設定 〜私たちの問題関心~

今夏の参議院選挙から解禁される 18 歳選挙権導入を機に、私たち若い世代=「ユース世

代」が自らの力で、「シルバーデモクラシー」と称される政治状況を「全世代参加型デモク

ラシー」へと変える。選挙制度改革・議会制度改革・投票システム改革・政治に関する情

報アクセス改革・シティズンシップ教育改革の5大改革によって、ユース世代が主体的に

政治参画をする社会を実現する。

第2章. 現状分析 ~私たちの考え方~

私たちはシルバーデモクラシーの現状を考察した上で、3つのヒアリングを実施した。

(1) 渋谷ハチ公前インタビューから紐解くユース世代の政治意識

(2) 新宿区選挙管理委員会へのヒアリングと主権者教育の現状

(3) 国会議員へのヒアリングとインターネットを用いた政治の現状

第3章. 提言 〜私たちの主張〜

I.選挙制度改革

・ 世代別議席配分の導入/立候補者予備選挙実施

・ 被選挙権および供託金の引き下げ

・ ユース世代の一票に重み付けをする「投票プレミアム制度」の導入

Ⅱ.議会制度改革

・ ユース世代の民意を反映した予備採決制度を実施

Ⅲ.投票環境改革

・ 「インターネット投票」の実施/短期在外居住者向け選挙制度

Ⅳ.情報アクセス改革

・ ユース世代を繋ぐ連帯的な組織づくり/政治家評価サイト「政治家ログ」の運営

・ 「ボートマッチ」の拡充/面白くて分かりやすい政見放送づくり

Ⅴ.シティズンシップ教育改革

・ シティズンシップ教育科目の義務化と指導マニュアルの整備

・ 選挙運動期間中に学校で「公開討論会」を実施

・ 地方政治における「子ども議会」の義務化

・ 高校生が政治にかかわろうとする取り組みが評価される入試制度改革

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第 1 章. 私たちの問題関心

「え、今日って選挙だったの。知らなかった。」若い世代においては選挙に行く人が少な

いことは知っていた。しかし、こう話したのは都内有数の私立大学、それも法学部政治学

科に通う大学生である。この言葉を聞いたとき、私たちのような若い世代の声は本当に政

治まで届いているのだろうか、ふと疑念が頭をよぎった。

「お、君は高校生か。高校生にはビラは要らないね。」その瞬間私は絶望感と脱力感に苛

まれた。来る衆議院選に向けて、各候補者が行う街頭演説。当時政治に関して、幼いなが

らも関心を持っていた私は、熱弁を振るう候補者とそれを取り囲む支持者、足を止めて演

説を聞く帰宅途中のサラリーマン、それらに混ざり演説を聞いていた。しかし自分だけが、

高校の制服を着ていたという理由だけで支持者が配るビラをもらえなかったのだ。私は思

った。誰のための政治なのだ。投票権がなければ政治から排除されていいのか。

「私、親が先月失業しちゃって、学校に通い続けられるか不安なんです。奨学金も返せ

るかわからなくて。どうしようもないんです。」アルバイト先のカフェで休憩していると、

いつも仲の良い女の子から急に打ち明けられた。急な打ち明けに戸惑った私は、「それは自

分じゃどうしようもない問題かもしれない。でもきっと政治や経済が今後良くなるはずだ

から。」深く考える間もなく、力を込めてそう返事をした後、僕は思った。本当に政治が良

くなれば、経済が好景気になれば、僕ら若者の境遇は好転するのだろうか。

以上は、今回共同研究を行ったメンバーの実体験に基づくエピソードである。共通する

のは、ユース世代(後述参照)が現状の政治に対して不満や不安を抱いていることだ。少

子高齢化社会においてユース世代は少数派であり、民主主義制度下ではどうしても意見が

反映されなくなってしまう。しかし、これからの日本を支えていくのはまさしくユース世

代である。その意見が反映されない今の体制で良いのだろうか。

本論文は現代日本において少数派となってしまったユース世代の意見を政治の場で少し

でも反映される仕組みを提案する。この仕組みによって世代間格差をなくし、より長期的

な視点から政策形成が行われる体制を作り出す。この体制を通して少子高齢化先進国であ

る日本が世界に先駆けて持続可能な社会を構築し、世界の模範となることを目指す。

本稿における用語の定義

ユース世代: 18 歳から 29 歳までの若者世代。上の世代と比較して長期間社会に関わる

ため長期的な視点で政策課題を考えることができる。財政難・少子高齢社会の日本で今

後、不利益を受容し続けなければならない世代。

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シルバーデモクラシー:「票」になる高齢者世代を優遇する政策が多数打ち出されること

によって将来世代の不利益が増大し続ける民主政治の状態

第 2 章.現状分析 〜私たちの考え方〜

(1)シルバーデモクラシーの現状 〜なぜ若者の声は政治に届かないのか~

「シルバーデモクラシー」という言葉が聞かれるようになって久しい。少子高齢化社会

の進行に伴い、政治家は「票」になる高齢者層の支持する政策を追求する傾向にある。最

近の例を挙げれば、日本政府は昨年の補正予算において、低所得高齢者向けに 3 万円の臨

時福祉給付金を盛り込むと発表した。政府の説明によると、「一億総活躍社会」の実現を目

指し、アベノミクスによる賃上げの恩恵を受けない層を支援するのが目的だという。しか

し、給付が参議院選挙直前の 6 月にかけて行われることを鑑みると、高齢者層の票集めと

いう印象を持たざるをえない。こうした政策に対して簡単に予算はつくものの、ユース世

代の教育費や将来世代のための保育所増設などには予算がつかない。

このような高齢者向けの政策は日本の長期的な展望を危うくする。高齢者層は「死」に

よる退出が可能なので、日本の将来に責任を負っていない。そのため彼らは「利益の分配」

を求めることになる。一方でこれからの日本はかつてのような経済成長は期待できず、し

かも高齢化による社会保障費の増大が見込まれるので、いまや「利益の分配」ではなく、

「不利益の分配」へと転換していかなければならない。しかし、高齢者世代は仮に日本が

将来破綻してもそのときには既に社会から退出しているため、負担を受け入れようとしな

いのである。

ではシルバーデモクラシーを生んでいる根本的な原因は何だろうか。それはまさにユー

ス世代の持つ政治的影響力の欠如である。この点については、以下の図に沿って説明をし

ていきたい。なお各世代の政治的影響力については、選挙過程に限定した議論を行う。高

齢者が数多く加入する社会集団による政治システムへの影響力については割愛する。

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(概念図:筆者作成)

ユース世代の政治的影響力が弱いことについては、以下のような要因があると考えられる。

1、ユース世代の人口規模の小ささ

これまでの日本では、年齢が若いほど人口が多く、年をとるほどに人口が減っていく「ピ

ラミッド型」の人口構造を前提として、社会保障制度をはじめとする諸制度が設計されて

きた。しかし、今では少子高齢化の進行でピラミッド構造がひっくり返り、その前提は大

きく崩れ始めている。実際の数字を見ると、いわゆる団塊の世代が育児の真っただ中にあ

った今から 30 年ほど前の 1980 年には 20%弱に過ぎなかった 60 歳以上の世代は現在、有

権者の 38%程度を占め、2050 年には 52%程度と過半数を超えると予測されている。こう

した状況では、再選を重視する政治家も、高齢者向けの政策を打ち出さざるを得ない。

2、ユース世代の投票率の低さ

この不均衡をさらに悪化させるのが、ユース世代の低投票率である。国政選挙の年代別

投票率は、平成 26 年 12 月に行われた第 47 回衆議院議員総選挙において、20 歳代が 32.

58%、30 歳代が 42.09%となっており、平成 25 年 7 月に行われた第 23 回参議院議員通常

選挙では、20 歳代が 33.37%、30 歳代が 43.78%と、いずれの選挙でも他の年代と比べて、

低い水準にとどまっている (下図参照) 。前項で挙げた人口規模の不均衡と合わせて、こ

の低投票率がユース世代の声を政治に届きづらくしている。

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年代別投票率の推移

(出典:明るい選挙推進協会「年代別投票率の推移」2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/071syugi/693/])

ではどうしてユース世代は低投票率なのだろうか。ユース世代の立場からこの点を考え

た結果、2つの答えに行き着いた。1つ目は、政治関心の低さ (それに伴う政治的知識の

欠如) 、2つ目が、政治的有効性感覚 (自分の行動が政治に影響を及ぼしているという感

覚) の欠如である。以下それぞれについて説明を行う。

① 政治関心の低さ (それに伴う政治的知識の欠如)

ユース世代は一般的に政治関心が低い。その結果選挙に興味がなくなってしまう。また

関心が低いと政治知識を得ようとしなくなり、選挙の争点が分からなくなってますます選

挙に行かなくなってしまう。

なぜ政治関心が低いのかと問われれば、それはまず自らの生活がいかに「政治」に規定

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されているかを実感できていないことにある。これは社会経験の少ないユース世代には仕

方のない側面はあるが、中学・高校において政治教育が十分でないことにも一因がある。

また教育の他にも政治関心が低くなっている要因として、ユース世代とかけ離れた年齢層

の政治家が多いこと、政治ニュースがユース世代層には一見難解であること、政治的な経

験を与えてくれる社会集団に所属していないことが挙げられる。

② 政治的有効性感覚 (自分の行動が政治に影響を及ぼしているという感覚) の低さ

ユース世代は政治経験がほとんどなく、自らの行動が政治に影響を及した体験を持って

いない。そのため一般に政治的有効性感覚が低くなり、投票もしなくなる。特にシルバー

デモクラシーの下では、ユース世代の一票が政治に及ぼす影響が小さくなるので、一票を

投じても無駄だと考えればますます投票所に行かなくなるだろう。

本論では、こうした現状を改善するためにいくつかの政策提言を行う。

政策提言を行うにあたって、本グループは実際に3つの現場インタビューならびにヒア

リングを実施した。1 つ目が渋谷ハチ公前におけるユース世代へのインタビュー、2つ目

が新宿区選挙管理委員会へのヒアリング、そして3つ目が現役国会議員である平将明衆議

院議員へのヒアリングである。これらのインタビュー・ヒアリングを踏まえ、私たちは政

策提言を行う。

(2)渋谷ハチ公前インタビューから紐解くユース世代の政治意識

私たちのグループは、政治への関心が低いと言われるユース世代が、実際に政治参加に

対してどのような考えを持っているのかを知るために、2 月 12 日渋谷駅ハチ公前でインタ

ビューを行った。質問項目は「若者が政治に対して関心が低く、実際に投票率が低い現状

があるが、どうしたら投票に行くようになるか。また、行きたくなるのか。」である。また、

調査対象は「2 月 12 日、14 時〜16 時、渋谷駅ハチ公前のユース世代」である。

このインタビューの結果、4つの意見が浮かび上がってきた。

1つ目は、投票システムへの不満の声である。投票所まで行くことに手間がかかるため、

大学の中に投票所を作って欲しいという意見があった。また、インターネット上で投票が

できるようになれば、より気軽に投票できるという声もあった。

2つ目は、政治に関する教育がなされていないという声である。政治がより分かるよう

になれば政治に対する意見も生まれ、投票につながるのではないかという意見が聞かれた。

教育段階で、より政治を教えることで身近に感じられるのではないかという意見もあった。

3つ目は、被選挙権の引き下げについての意見である。例えば自分の友達のように身近

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な人物が選挙に立候補することで、興味が高まり実際に投票に行くという意見があった。

4つ目は、政治を教育以外の場で身近に感じられるようにしてほしいという声である。

例えば、ユース世代が読むファッション雑誌で政治の話題を扱うようにすると政治に対し

ての意識が高まり、選挙に行くようになるのではないか。という意見もあった。

今回の 18 歳から 20 代のユース世代から得られた ①投票システムへの不満 ②教育への

不満 ③被選挙権の引き下げ ④身近な政治作り、という 4 つの意見を政策提言に反映させ

る。

(3)新宿区選挙管理委員会へのヒアリングと主権者教育の現状

冒頭でユース世代の低投票率の原因として政治関心が低いことを指摘したが、その一因

として中学・高校の主権者教育が不十分であることが挙げられる。そこで政治教育を改善

しようとする取り組みの一例として、新宿区の選挙管理委員会の方々に、取り組みの概要

と主権者教育の課題について伺った。

新宿区の選挙管理委員会では数年前から、区内の小学校で模擬投票などの出前授業、中

学校向けには生徒会選挙支援など、各学校の要望に応えて行っている。その取り組みのう

ち特徴的なものは、地元の大学生と協力して主権者教育に関するプログラムを行う取り組

みである。

この取り組みのメリットは、企画する側の大学生自身も携わる中で意識が変わっていく

ことである。通常、主権者教育というと、企画する側=大人、教わる側=子どもという構

造をイメージしてしまいがちである。しかしこの取り組みでは、企画する側にも大学生な

どのユース世代が入ることで、企画する側も携わる中で多くのことを学んでいけるという

構図になっている。大学生など高校卒業以降のユース世代への働きかけと高校生以下の子

どもへの働きかけは通常区別して語られることが多いが、このようなプログラムを行えば

両方に働きかけができる。ここで重要なことは、決して大学生に強制的に行わせるべきで

はないということだと選挙管理委員会の方は言った。自主的に携わる中でこそ、こうした

相乗効果が生まれるのである。

また強調されていたのは、政治的有効性感覚を育てる重要性であった。自分が投票をす

ることによって社会が変わるということを目に見えるかたちで体験したことがあれば、政

治的有効性感覚を持つようになるだろう。この例として挙げられていたのが、給食のメニ

ューに関する模擬投票である。給食のメニューの模擬投票の後で実際に給食のメニューが

変われば、投票で社会が変わることが実感できる。このように小さいことであっても、投

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票を通じて社会が変わることが実感できるような取り組みを行うことが重要だという。

一方政治に関する教育を支援するにあたっての課題については、主に3点挙げられてい

た。1 つ目が、選挙管理委員会が学校などで行うプログラムなどは一回限りのものとなっ

てしまいがちであり、継続性がないことがある。継続性がなければ、当然効果は限定的な

ものになってしまう。2つ目は、あくまで学校が主導しなければならないということであ

る。学校でのプログラムを実施する主体は学校自身であり、選挙管理委員会は協力を行う

という立場である。したがって学校側がこうしたことに積極的でなければ、選挙管理委員

会としてできることは限られてくる。3点目が、投票率を上げること自体が目標ではない

ということである。主権者教育に期待する効果としては、とかく投票率に目が行きがちで

あるが、自分の考え方にあった候補者を選べるようになることなど、政治参加する際に適

切な判断が行えるようになることがより重要である。

私たちのグループは、実際に選挙管理委員会が行った出前授業の見学もした。見学を踏

まえて見えた課題点は、こうしたプログラムを行うためには予想以上に多くの人員が必要

であることである。例えば、見学した授業では一つの授業に 10 人程度の大人+大学生がか

かわっていた。このような取り組みは自治体の人員が比較的豊富で、大学生も多い大都市

圏であれば可能であるが、地方においてこれだけの人員を割いてプログラムを行うのは難

しいと思われる。

(4)国会議員へのヒアリングとインターネットを用いた政治の現状

インターネットを用いた選挙活動は既に解禁済みである。その中で現役の国会議員は、

どのような取り組みを行っているのか。私たちのグループは前述の2つの取り組みに加え、

前内閣府副大臣・平将明衆議院議員にヒアリングを行った。平議員は政治家の中でもとり

わけ、ユース世代を対象とした情報発信に力を入れている議員である。このヒアリングか

らは、ユース世代をとりまく政治の現状について意見を得ることができた。

平議員によると、今日における日本の選挙運動は、どうしても街頭演説と個人演説会が

中心になっているという。そしてそれぞれの問題点として、街頭演説は有権者が立ち止ま

ってじっくり聞くことができない点、個人演説会は聴衆が既存の支持者、特に高齢者が中

心となってしまう点を指摘する。そのためユース世代は候補者についての情報を得ること

ができず、政治家もまた高齢者を意識した政策を主張しやすくなる。

そこで平議員が力を入れているのが、インターネットによる情報発信である。インター

ネットは、ユース世代を含めた他の有権者にも発信するという点において、非常に有効な

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手段であるという。その活動内容は主に2つある。1つ目は Facebook「Q&A セッション」

である。平議員は直近の衆議院議員総選挙において、選挙運動期間中に Facebook の「Q&A

セッション」機能を用いて、インターネットに親和性の高いユース世代を含めたあらゆる

有権者と接触することを試みた。2つ目は「カフェスタ」による動画配信である。平議員

はほぼ毎週、自民党オープンカフェスタジオ「カフェスタ」に出演し、「ニコニコ生放送」

「Ameba FRESH!」「YouTube」経由の積極的な発信を行っている。特に「ニコニコ生放

送」ではリアルタイムで視聴者コメントが入り、質問コメントに対してすぐに反応するな

どして、ユース世代の声も拾えているのではないかと平議員は考えている。実際にこれら

の取り組みに対してユース世代の反応は良く、彼らの政治関心を高めるのに効果的だとい

う。今回の平議員へのヒアリングから得られた知見は、インターネットがユース世代の政

治関心増大に大きく貢献できることであった。

第3章.提言 〜私たちの主張〜

本章では、前章の現状分析に基づき、5つの角度から改革の提言を行う。

Ⅰ.選挙制度改革

Ⅱ.議会制度改革

Ⅲ.投票システム改革

Ⅳ.情報アクセス改革

Ⅴ.シティズンシップ教育改革

平議員へのヒアリング風景

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I.選挙制度改革

(1)ユース世代のための世代別クオータ制導入

問題意識であげた現状を打破するため施策の1つとして、この節では参議院における世

代別議席割当 (世代別クオータ制) の導入を提言したい。参議院では現在、議員構成が衆

議院と似通っていることから、「衆議院のカーボンコピー」という批判もなされている。そ

こでシルバーデモクラシーの影響を受ける衆議院と構成を変え、ユース世代の代表を参議

院に送り出す制度改革を提言する。この改革によって参議院が衆議院で反映されにくい民

意を抽出することができ、第二院としての新たな意義も生まれる。具体案は以下の通りで

ある。

まず、参議院を世代代表の性格を持たせることを前提として、全国比例代表制を導入す

る。そこで、有権者をユース世代 (18 歳から 29 歳) とその他という区分で世代別に分け、

投票できる議席の割合を決める。参考に 2012 年度の有権者割合の図を見ると、有権者全

体での 20代の割合は 13%であり、20~39歳での割合で見た場合も 30%以下となっている。

一方で、60 歳以上の有権者全体の割合は約 40%と非常に高いことが分かる。

(総務省統計局『人口推計』平成 24 年 11 月 20 日発表〔2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/201211.pdf]〕をもとに筆者作成)

具体的な施策として、参議院の定数 242 議席のうち約 3 割である 72 議席を 18 歳から

29 歳のユース世代に割り当てる。3 割というのは実際の人口割合よりも約 2 倍大きく、ユ

ース世代の意見が政策に大幅に反映される。なおこの制度によってユース世代の一票の価

13%

16%

17% 15%

17%

13%

9%

日本の世代別有権者割合(2012年11月1日現在)

20〜29歳

30〜39歳

40〜49歳

50〜59歳

60〜69歳

70〜79歳

80歳以上

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値が上の世代の 2 倍以上 (2.4 倍) になるが、これは現状の参議院選挙区 (旧地方区) にお

ける投票価値の不均衡よりもはるかに小さな格差である。

(概念図:筆者作成)

ここで重要な点は、各世代区割当において立候補者の年齢制限は設けないことである。

つまり 18 歳から 29 歳が投票できる区分から、ユース世代を重視した政策を訴える 30 歳

以上の候補者が当選することも十分にあり得る。彼らは若年層に欠けがちな政策専門性も

補うことができるだろう。また候補者の被選挙権は参議院が現在 30 歳からであるが、次節

で提言するようにこれも 20 歳まで引き下げる。

また投票は現行の参議院比例区のように有権者は個人名と政党名を書く形式とする (非

拘束名簿式比例代表制) 。こうすることで政党も「質」の良いユース世代代表を公認する

ようになる。また政党が候補者を公認にあたって公募制度を積極的に用いるよう促し、ユ

ース世代が政治に参入する場を作り出す。

(2) 被選挙権および供託金の引き下げ

現在の制度では、被選挙権年齢は衆議院議員の場合満 25 歳以上、参議院議員の場合満

30 歳以上となっている。これはユース世代が選挙に出馬しづらい状況を作り出している。

また供託金制度によって選挙に出馬する際に、300 万円を供託所に預けることが義務づ

けられている。供託金制度の目的は泡沫候補の出馬を抑止することであるが、ユース世代

にとって 300 万円という金額は大金であり、資金調達をすることは非常に難しい。

30%

70%

各世代が投票できる議席の割合

18歳から29歳

30歳以上

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そこでユース世代が選挙に出馬しやすくするために、以下2つの制度改革を行う。1つ

目は被選挙権年齢を 20 歳とすることである。日本における現行法制上 20 歳という年齢は、

成人として認められる年齢とされる。また社会的にも 20 歳という年齢が「大人」として認

知されている。本論でも提言しているシティズンシップ教育を拡充すれば、たとえ 20歳で

あっても正常な政治的判断力を持つことは可能であろう。この制度改革によって大学を卒

業したユース世代は就職という選択肢だけでなく、職業としての政治家を選べるようにも

なる。

2つ目の改革は、被選挙権を付与される者の年齢が満 20 歳以上 25 歳未満の場合、選挙

供託金を 50 万円とすることである。供託金制度を完全に廃止すると泡沫候補が出馬しやす

くなるため、供託金制度は廃止しなかった。ユース世代が選挙に出馬するにあたって障壁

とならないと考えられる金額を設定することで、泡沫候補を防止しつつユース世代の政界

進出の壁を取り払う。

なお 50 万円という数字はユース世代の所得を考慮して設定している。文部科学省の統計

によると、日本人の高校進学率は 2014 年において約 95%、大学進学率は約 40%となって

いる。したがって 18 歳まではお金を稼ぐことが非常に難しく、年間を通してアルバイトを

行ったとしても所得税のかからない 103 万円以下であると推測される。また高校卒業後も

40%が大学に進学するため、18 歳から 21 歳のうち 40%は年間 103 万円以下の所得である

と考えられる。これらを踏まえ、満 20 歳以上の人が選挙に出るために選挙出馬費用以外の

供託金として年間収入の 100 万円以上を準備させることは難しい。よって、事実上の上限

年収の半額である 50 万円を供託金として設定することを提案する。

※参考資料:文部科学省「資料7 進学率」2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/008/toushin/030301/07.htm]

(3)ユース世代の一票に重み付けをする

「投票プレミアム制度」の導入

ユース世代の意見を国会でより反映させるために、参議院の選挙制度において「投票プ

レミアム制度」という仕組みの導入を提言する。本項で述べる「投票プレミアム制度」と

は、2016年以降に新たに有権者になる人々の投票価値を、最大2倍になるまで毎年5%ずつ

割増しする仕組みである。例えば、2016年に新しく18歳となった有権者は1.05票を持ち、

2017年に18歳となった有権者は1.10票を持つ (1つ上の世代は1.05票のまま) 。2036

年には18歳が2票を持つことになる。なお有権者が得た1票以上の票はユース世代の29歳

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を過ぎても維持されるものとする。2036年時点で少子化傾向が改善されていなければ、29

歳以上の票の価値を1に引き下げる。

この制度を導入することでユース世代の投票価値が高まり、彼らの意見が政治に反映さ

れやすくなる。政党や政治家もユース世代向けの政策提案や選挙活動を活発化させること

が予想される。またユース世代は高い投票価値を得ることで投票所に行くモチベーション

が得られる。

また世代別クオータ制と比較してのメリットは以下の3点である。1つ目は、クオータ

制だとユース世代は上の世代の割当の候補者を選べないなど制限が多い制度であるが、こ

ちらの制度なら投票先に関する制約は小さくなる点だ。2つ目は0.5ずつの漸進的な変化な

ので、高齢者層の反対が弱まるという点である。3つ目は2036年時点で投票価値が1に引

き下げられることを恐れる比較的若い層が少子化を改善しようとするので、少子化対策が

とられやすくなる点である。

以下に、この投票プレミアム制度導入後の、年代ごとの投票価値の分布を示す。

このグラフは制度導入後 20 年の姿である。制度の効果は極めて顕著で、制度による補正

後の投票価値の人口換算での分布と、推計人口分布の違いは一目瞭然である。なお投票価

値の補正は最大 2 倍である。

(グラフ:「国立社会保障人口問題研究所 将来人口推計(平成 24 年)」をもとに筆者作成

〔2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/sh2401top.html]〕)

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15

また本制度は地方政治においても導入を検討する価値がある。現在日本では「地方消滅」

が叫ばれているように地方の少子高齢化が深刻化している。そこで首長が未来志向の政策

決定をできるように首長選挙に投票プレミアム選挙を導入することはひとつの案となろう。

Ⅱ.議会制度改革

(1)ユース世代の民意を反映した無作為抽出法の予備採決制度を実施

ユース世代の意見を政策に反映させ、またユース世代の政治的有効性感覚 (政治に影響

を与えているという感覚) を高めるために、本節ではユース世代の民意を反映した無作為

抽出法の予備採決制度を提言する。政治家の法案採決にあたってユース世代の意見を反映

させる仕組みを作ることで、ユース世代一人ひとりに政治で取り扱う課題を考えさせ、他

人ごとではなく「自分ごと」として捉えられるように促す。

本施策の手続きは以下の通りである。まず間接民主制の選挙制度は維持し、有権者は自

分の代理人(国会議員と以下表記)を選ぶ。次に今まで通り国会議員に政策を提案・審議

させる。しかし、一部の重要法案についてはユース世代による予備採決方式を取る。ユー

ス世代に提示する法案の決定については、第三者機関を衆議院ならびに参議院議長下に設

置し、様々な業界から集まった有識者が選定する。これは法案の決定を政治家に任せた場

合、真に議論すべき法案が提示されなくなる懸念があるためである。

次にユース世代有権者(満 30 歳まで)の中から無作為に抽出された 1000 人に採決権を

与える。そして国会議員は重要法案 (対案を含めた 2 つのことも) をユース世代の代表者

に示す。そして採決権を持つ代表者が賛成・反対のどちらかを選ぶ (2 つの場合はどちら

か一方の案を選ぶ) 。ただし、1000 人のうち過半数(500 人以上)が投票しなければその

採決は無効となる。次に賛同を得た法案に対して国会議員が再度議論したうえで採決を取

る。ユース代表によって否決された法案については議題に上がらず、不成立となる。

一連の流れをまとめると以下のようになる。

予備採決をする法案の提示 →10日程度議論 →ユース世代による採決(日曜日)

→ 1週間程度再審議 →国会議員採決

さてこのプロセスの注意点について補足する。まずユース世代の代表者に対して採決の

判断をするのに十分な量の情報を書面およびインターネットで開示する。有権者は各自治

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体またはインターネットを通して情報をいつでも入手できる。またこの時期には、マスメ

ディアなどが法案に関する報道を大々的に行うことを想定している。

また有権者が採決にかける法案について学ぶため、議員は有権者採決日程をかなり早い

時期から予め提示しておく。提示後に有権者の無作為抽出および採決参加案内を送付する。

官僚は抽出者の個人情報以外の書類フォーマットを作成しておき、採決日決定後速やかに

送付できる体制を整える。投票の方法はインターネット投票を基本とする。ただしインタ

ーネットで投票できない方に対しては郵便投票を可能とする。インターネット投票の結果

については即日開票し、後日郵便投票の結果を踏まえて採決結果を公示する。

この制度の特徴は、1 つの重要法案についてユース世代を中心に全国的な議論が巻き起

こることである。ここで参考になるのが、「討論型世論調査」と呼ばれる試みである。これ

はスタンフォード大学のジェームス・フィシュキン教授らが発案したもので、単発の世論

調査で終わらずに無作為抽出された有権者に討論をさせたうえで再度調査を実施するもの

である。このプロセスを踏むことでユース世代ひとりひとりが政策に対して関わりを持ち、

政治に対する関心が高まる。またより成熟した政策意見を持つようになる(「討論型世論調

査」の仕組みに関しては下図参照)

(図:慶應義塾大学 DP研究センターHPより引用〔2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://keiodp.sfc.keio.ac.jp/]〕)

本施策では討論型世論調査の仕組みを参考にし、国会制度に合わせた形にした。

Ⅲ.投票システム改革

(1) ユース世代からの要望が強い「インターネット投票」を実施

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第 2 章で述べたハチ公前の街頭インタビューにより、ユース世代が持つ現行の投票制度

に対する不満と要望の中に「投票所まで行くのが面倒くさい」、「インターネット投票だっ

たら投票する」という意見があった。上記を踏まえて、本節ではインターネット投票導入

政策を提言する。

インターネット投票は既に海外の一部で導入されている制度である。世界で最も IT化が

進んでいる国のひとつエストニアは、「電子政府の先進国」と呼ばれており、2007 年 2 月

に世界で初となる国政選挙でのインターネット投票が実施された。

インターネット投票を導入するメリットとしては以下の5点が挙げられる。第1に開票

(集計)時間の短縮である。デシタル集計が可能なため圧倒的な時間コストの削減につな

がる。第2に人件費の削減である。立会人や集計人の代筆への人件費が削減でき、選挙公

報に注力できる。第3は疑問票や無効票が出ないことである。誤字や解読不可能な乱雑し

た文字がなくすことができる。第4は投票が容易になり有権者の物理的コストの削減につ

ながることである。第5は投票率向上である。アメリカのアリゾナ民主党予備選挙におい

てインターネット投票を導入したところ、6 倍の投票率を記録した実例がある。その中で、

4 割の人がインターネット投票を活用したという実例がある。特にユース世代におけるネ

ット普及率、使用率は顕著に高いため、日本でもユース世代の投票率向上が期待できる。

一方で、インターネット投票のデメリットは3点ある。1つ目はセキュリティー問題、

ハッカー対策の観点である。二重投票の防止や外的攻撃への対策に莫大なコストがかかる。

秘密選挙の原則を堅実に守ることのできる安全なセキュリティーシステムが必要となる。

2つ目は回線負荷への対処である。サーバーのキャパシティーを超えるほどのアクセスが

起こった場合の遡及的回復を実現させる。3つ目は、投票所にいくことが儀式化されるこ

とで形成されるコミュニティの断絶される可能性がある。利便性の向上と投票率の向上に

因果関係がないことは、期日前投票、不在者投票の結果からみても証明されている。

しかしながら、ネット投票導入で達成されるメリットはデメリットを上回るものだと考

える。現行の国政選挙や地方選挙では、投票所入場券を投票所に持参することで本人確認

を行っている。ネット投票の場合には、本人確認の手段としてマイナンバーを活用するの

がベストだと考える。すでにエストニアで実施されているように、マイナンバーを活用す

ると、在外邦人が国政選挙に参加する在外選挙制度にも活用できる。

※参考資料

・SeiZee ホームページ 2016年 2月 22日アクセス[http://seizee.jp/politics/1492]

・山田肇「18 歳選挙権の次は、ネット投票の実現を」2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://www.huffingtonpost.jp/hajime-yamada/online-voting_b_8261554.html]

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(2) 短期在外居住者向け選挙制度の拡充

近年、社会・経済のグローバル化に伴って留学生の増加が叫ばれている。日本政府も「ト

ビタテ!留学 JAPAN」を設立するなど、学生の海外留学を奨励している。

さて在外投票制度の仕組みを見ると、在留 3 ヶ月以上の人は居住区近くの大使館あるい

は領事館へ赴き、在外選挙人名簿に登録して投票できるようになっている。しかしながら、

在留 3 ヶ月未満の人は登録ができない。したがって、1 ヶ月の短期留学中に選挙が告示さ

れた場合などは、留学先で投票ができない制度となっている。このような制度は、これか

ら増加すると考えられる短期出張者や留学参加者にとって投票権を失わせるものとなり、

また政府による海外活動の奨励という方針にそぐわない。本施策はこの矛盾を解決するた

めに提案する。

現在の公職選挙法を改正し、短期在外者向けの制度を作る。具体的には3点の改正が必

要である。1点目は3ヶ月未満の在外居住者は大使館・領事館を通して短期在外者選挙人

名簿に登録する。2点目は登録内容に基づき、インターネットを通じて自身の選挙区の候

補者への投票を可能にする。3点目は、投票期間は期日前投票における投票期間と同一に

する。在外の場合時差もあるため、投票時間は 24時間とすることである。この制度改革に

よって、海外留学や出張のためにユース世代の政治参加が阻害されなくなるだろう。

(3)選挙運動期間の拡大

現在の選挙制度では衆議院議員総選挙で 12 日前、参議院議員選挙で 17 日前に公示され

る。選挙運動は公示(告示)されてから行われ、運動期間は実質約 2 週間となる。これは

国際的にみても短期間である。

選挙運動期間が短いことのデメリットは 2 つある。1 つ目は、日頃政治に触れることの

少ないユース世代が政治に関われる貴重な機会が少なくなってしまうことである。学生は

平日の 5 日間地元にいない可能性が高く、候補者の情報を集めたり候補者の演説を聞きに

行ったりすることは難しい。したがって有権者が候補者のことを知ることができるチャン

スは土日祝日だけとなってしまい、2 週間という運動期間の中でわずか 4 日間しか候補者

の情報を収集できる日がなくなってしまう。そうなるとユース世代の政治関心は高まらず、

政治に常日頃関心を持っている高齢者との間に投票率の差が生まれてしまう。

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もう 1 つは選挙運動期間が短くなると、アピールの機会が減って新人候補者にとって不

利になると考えられるため、新人として政治参入することになるユース世代の候補者が不

利になることである。

以上 2 点の理由から選挙運動期間の拡大を提案する。なお具体的な期間としては、選挙

告示日を投票日の 30 日前とする。ただ、政治家の議会活動に支障を及ぼさない選挙運動期

間の設定は難しい。日本は選挙の数が多いため、毎回長期の選挙運動期間を確保すること

には課題も残る。

また選挙運動期間が拡大されることで政治家に時間的な余裕が生まれると予想されるた

め、後で提言する候補者による学校での「公開討論会」の実施も導入しやすくなる。

Ⅳ.政治に関する情報アクセス改革

(1) ユース世代を繋ぐ連帯的な組織づくりを実施

第 2 章で紹介したハチ公前調査で明らかになったように、ユース世代にとって政治は身

近なものではない。そこで、ユース世代の各コミュニティ (主に大学を想定) に、主体的

な政治参加を目的とするサークルのような団体を作ることによって、政治意識の向上が芽

生えることを期待する。また各大学に設置したコミュニティ間の横の連携を強化し、その

輪を広げていくためにも、ネット上で「草の根運動」を展開する。このユース世代をつな

ぐ連帯的な組織は、本論で提言した参議院のクオータ制下で「若者党」として政治運動を

展開することも可能である。

全国の各国公立大学及び、私立大学にサークルを設置する以外の具体的な策は、2つあ

る。1点目は特定の政治家支援者の連帯をつくる SNS「ダッシュボード」 (複数の情報源

からデータを集め、概要をまとめて一覧表示する機能) である。「ダッシュボード」に登録

することで地元の選挙区のリーダーや支援活動がわかり、直接連絡を取って参加すること

が可能となる。これによってサークル単位で支援者をリクルートすることが可能となる。

さらに、サークル構成員同士が情報を共有したり、リーダーが全体を把握したりすること

で、迅速かつ効果的なフィードバックも行える。つまり、サークル内でのチームリーダー

と構成員とのコミュニケーションを促進し、陣営の結束力を高めることも期待できる。こ

のダッシュボードはアメリカのオバマ大統領の支持者がキャンペーンの中で使用した。

2点目は、電子メールを使った定期的なアンケート調査を行う。構成員を把握するため

に行う1回目のアンケートでは年齢、性別、学歴、居住地、職業、人種、宗教といった属

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性を調査する。2回目以降は、移民受け入れや原発の受け入れ是非、その理由などについ

て調査し、このデータをもとに、考え方の近い構成員どうしや対立する争点について、活

動の一環として構成員同士で討論や運動を行う際にコミュニティを再構成する補助として

用いる。アンケートでは、「どのような議題ならば、運動へ参加しますか」などアイデアを

出す項目も設け、運営と構成員の双方向型のコミュニケーションを行う。

※参考:朝日新聞 DIGITAL「政治に動く若者たち」2016 年 2 月 22 日アクセス

[http://www.asahi.com/international/president/analysis/TKY200802230128.html]

(2)政治家評価サイト「政治家ログ」の設立と運営

現状分析における渋谷ハチ公前調査でも意見が出たが、ユース世代にとって政治は「よ

く分からない、知ることが難しいもの」である。さらにユース世代は、政治について「何

か分かりやすく解説してくれるものがあればいいのに」と願っている。そこで私たちは、

ユース世代と親和性の高いインターネットを用いて、政治家評価サイト「政治家ログ」の

設立と運用を提言する。

正しい投票を行うためには権力を行使する国会議員を正しく見極め、選挙の際、熟慮に

基づいた投票を行うことが必要である。そこでユース世代が政治家の情報を取り入れるに

あたってはインターネットを使用することが一番の得策である。例えば新聞行為者率(15

分以上新聞を読んだ人の割合)については「男女 20 代以下は1割に満たない」。それに対

して、インターネット利用時間は全世代において「2010 年と比べて、平日・土曜・日曜で

行為者率と全員平均時間が増加している」(NHK放送文化研究所、「2015 年国民生活時間調

査」、 2016 年)。これから分かるように、インターネット上に政治情報をまとめたプラッ

トホームを構築すれば、ユース世代の政治に関する情報環境は大きく改善される。

本施策の「政治家ログ」はインターネットを用いた、誰でもアクセスすることのできる

政治家情報サイトである。運営主体は、非宗教・政治的中立団体(NGOなど)とする。「政

治家ログ」には主に2つの機能がある。1つ目は、人々が「政治家ログ」にアクセスする

ことによって、任意の政治家の公表情報を知ることはもちろん、法案に対する賛否や関連

新聞記事、出演テレビ番組、著作などを知ることができる機能である。2つ目は、誰でも

「政治家ログ」を用いて、閲覧した政治家に対して賛否両論の「評価コメント」を付ける

ことができる機能である。「政治家ログ」の2つの機能によって、人々はより自分の考えや

政治信条に近い議員かどうかを、判断する材料にすることができる。「政治家ログ」の健全

な運用によってユース世代を中心に、新聞やテレビなどの従来のメディアとは違った新た

な視座を手に入れることとなる。

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「政治家ログ」のメリットは3点ある。1点目はユース世代が手軽に政治家情報に触れ

ることができる点である。受け身のメディアである新聞やテレビに対して、インターネッ

トは自ら活用して知識を得る、主体的なメディアである。「政治家ログ」はインターネット

の特性を生かし、「スマホ世代」ともいわれるユース世代にとって、政治家評価の次世代モ

デルとなることが期待される。

2点目は、ユース世代含め「有権者自らが政治家をつくっているのだ」という主権者意

識を強く持てるようになる点である。「政治家ログ」においては一般ユーザーも口コミによ

る書き込みや点数付けが可能になり、それがオンライン上に反映される。情報収集ツール

として主にインターネットを用いるユース世代は「政治家ログ」の普及後、「政治家ログ」

を参考にして候補者選びを行うことが予想される。その点数付けや評価コメントに自らが

参画できるという状況は、主権者としての自覚を促し、相乗効果的に積極的なアクセスが

見込まれる。

3点目は、政治参加が少なかったユース世代が「政治家ログ」を通して政治と急接近す

ることである。「政治家ログ」の登場は政治家や政党が、ユース世代を従来よりも重要視せ

ざるを得ない状況を生む。従来のメディアに加えて、有権者と政治家の相互監視の関係が

成立することで、議員活動がより精力的になることが期待される。ユース世代にとっては

政治に影響力を(間接的に)行使する絶好の場となり、「政治家ログ」を媒体として議員に

世論を届けることができる。「政治家ログ」が議員とユース世代を繋ぐ架け橋となり、より

世代均衡のとれた政策が増加することが期待される。

以上に論じたように、「政治家ログ」の設立と運用は、中立的かつ緻密に設定されたアル

ゴリズムによって政治家を点数化し、より自分の立場や考え方に近い候補者に一票を投じ

る手助けになると考えられる。これは日本の「シルバーデモクラシー」に風穴を開けるこ

ととなり、ユース世代が積極的に政治に参画する契機となるものである。

(3) 選挙における投票選択を容易にする「ボートマッチ」の拡充

第 2 章で述べた渋谷での街頭インタビューにおいて、「政策が良く分からない」という意

見が多くみられた。そこでボートマッチを拡充することで、政治知識の少ないユース世代

でも自身の利益を代表する政党・候補者を見つけやすくなる。

特に今回提言するボートマッチでは、有権者の政策選好と各政党の選挙公約(マニフェ

スト)の相性を計測するだけでなく、政策が分からないユース世代のために、「年齢」と「重

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視する政策」を入力しただけで支持すべき政党・候補者が出てくるという設定も作る。ま

た候補者に新聞社が政策選好を尋ねることで政党レベルだけでなく、候補者レベルでのボ

ートマッチを可能となるようにする。

※参考:「政くらべ ボートマッチ 2014 衆議院選挙版」2016 年 2 月 22 日アクセス

[https://www.say-kurabe.jp/votematch/vm2014.php]

(4) 面白くて分かりやすい政見放送づくり

アメリカ大統領選の熱気は予備選の候補者同士の討論会、民主党・共和党の大統領候補

者の公開討論会に現れている。その模様をメディアは全米で中継し、有権者はその様子を

見て、選挙の際の判断材料とする。日本においては党首討論が導入されているが、米大統

領選ほどの熱狂はない。国会中継を視聴する人も多くない。党首討論は政権獲得後の与党

と野党の代表が議会内において質問をぶつけ合うものだが、そこに有権者を含めた国民と

の議論の余地はない。現在では「ニコニコ生放送」を使い、党首討論の模様が中継されて

いるが、あくまでインターネット上のコミュニティに終始してしまっている現状がある。

こうした国会での党首討論に加え、選挙期間中にも党首討論に限らず議員同士の議論を

公開討論会という形で行い、その模様が中継されるのが望ましい。討論会をより開かれた

ものにし、アクセスという面においてもより目に触れやすい形へと改善すべきだ。こうし

た公開討論会の狙いは政治の側(議員など)の緊張感、子供から親世代までを巻き込んで

の政治的コミットメントを高めることにある。政治がメディアによって国民に幅広く浸透

し、国民の側も多くの判断材料を持った上で選挙に行く。有権者側も早くからこうした政

治的な話題に触れることで、将来の有権者教育にもなるだろう。駅前演説や講演会という

一方向の議論ではなく討論の中で他の候補者との違いを可視化することも可能だ。公開討

論会がテレビで取り上げられることで、お茶の間にも政治の話題が出ることも考えられ、

家族で選挙や候補者について議論することにつながれば、学校教育だけにとどまらず、継

続的な有権者教育になるだろう。なお、公開討論会については次章第2節でも取り上げる。

Ⅴ.シティズンシップ教育改革

シティズンシップとは市民であることを示す概念であり、それを養成するのがシティズ

ンシップ教育である。シティズンシップ教育は適切な政治参加を促すような教育を含んで

いる。従来日本では政治的中立性などの懸念から取り組みはあまり行われていなかったが、

18 歳選挙権の実現に伴って注目を集めている。ここ最近マスメディアでもシティズンシッ

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プ教育はとりあげられており、文部科学省でも副教材の作成、次期学習指導要領の見直し、

「高等学校における政治的教諭と政治的活動について」(昭和 44 年文部省初等中等教育局

長通知)の見直しなどの作業が進められている。諸外国でも取組みが進められており、例

えばイギリスでは若者の政治への無関心さなどが問題になり、シティズンシップ教育の義

務化・必修化が行われた。そこでは啓発や制度的知識の提供にとどまらず、実際に政治問

題となっている議題を取り上げ議論するようなことも行われている。また、アメリカでも

1990 年代に政治への無関心などへの問題意識からシティズンシップ教育に注目が集まっ

た。対応は州によって異なるものの、時事問題に関して自分で情報収集をし、議論を行う

授業を展開している州なども存在する。そのほかドイツなどでもシティズンシップ教育は

推進されている。

こうした教育の目的には主として2つのものが挙げられる。まず、社会参加への意識を

高める目的である。より具体的には、投票を促すこと、啓発によって投票の義務感を増加

させること、知識を与えることによって選挙に関する情報収集のコストを下げたりするこ

とを通じて、ユース世代の選挙での投票を促すことが挙げられる。現在、ユース世代の低

投票率が問題になっていることから、この目的がクローズアップされることが多い。

しかし、単に選挙での投票をはじめとする政治参加を促せばよいわけではない。自分の

考え方にあった候補者を選べるなど、政治参加に際して適切な判断が行えるようになるこ

とがより重要である。政策的課題に関する議論などを通じて、こうした能力を養えるよう

にすることもシティズンシップ教育の重要な目的である。実際、そうした観点から先に述

べたように政策的課題に関する議論が諸外国の授業では行われている。

以下では具体的なシティズンシップ教育の提言を行う。

(1) シティズンシップ教育科目の義務化と指導マニュアルの整備

現在の日本ではシティズンシップ教育は総合的な学習の時間を活用して部分的に行われ

ているだけであり、それ自体が 1 つの科目として義務化されていない。しかしシティズン

シップ教育の目的は啓発や知識の提供ではなく政策的課題に関する判断力をみにつけさせ

ることが第一におかれるため、時間をかけた体系的な指導が必要である。この指導を実践

するためにも、新規科目としてシティズンシップ教育の義務化を行うべきである。

その際、全国で統一的な指導マニュアルを作成し、現場で混乱が起きないようにする。

シティズンシップ教育では政策の是非を論じるなど高度な議論が求められるため、現場の

教師に多大な負担を強いることになる。特に日本では様々な科目で暗記偏重が課題とされ

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ているため、実際に知識を活用し現実の諸課題について適切な判断ができるようにする授

業を行うことは教師側の困難が予想される。そこでマニュアルを整備することで、全国的

にシティズムシップ教育の質を担保することができる。

教育内容を充実させる上では選挙管理委員会との協力も欠かせないが、先に述べたよう

に実施主体はあくまで学校である。そのため学校の取り組みへの熱意によって選挙管理委

員会のプログラム実施が左右されてしまう。そこでシティズンシップ教育を義務化し、マ

ニュアルを整備することで学校の取り組みが全国一律となれば、選挙管理委員会の協力は

より体系立ったものになり、授業内容もさらなる改善が見込まれる。

(2) 選挙運動期間中に学校で「公開討論会」を実施

第2章で述べた渋谷での街頭アンケートから「政治がわからない」ために政治参加をし

ないユース世代が多いことが浮かび上がっている。政治が分からなくなってしまった原因

の一つとして考えられるのが、実際の政治現場を知る機会がほぼないことである。

政治の現場を知る機会として選挙期間中に地域で行われる討論会や講演会が挙げられる。

しかしそもそも関心を持っていないユース世代の人々は、そのような催しに出席すること

はほとんどない。現役国会議員にインタビューをした際も、討論会や講演会を行っても政

治関心のある高齢者が多く見られ、ユース世代を見ることはほぼないという意見を頂いた。

それでは学校教育内で政治の現場を知る機会はないのであろうか。義務教育課程におい

て学生が政治家や官公庁および自治体の職員と会話する機会は社会科見学で訪れたとき、

もしくは調べ学習にて自主的に訪問したとき、または学校行事において式辞を述べる人物

が政治家であるときである。つまり学校教育現場では実際の政治ではなく、見世物として

の政治が学生の目の前に現れてしまっている。政治家同士、政治家と役人がぶつかってい

るところや政策立案の過程など、生の政治に触れる機会はない。これでは、いくら学生が

義務教育課程で徹底的に政治を勉強しても、選挙を行う際に必要となるであろう「何がど

のように議論されて決められているのか」という現状を知らないまま卒業し、社会に出て

有権者になってしまう。

以上の現状を踏まえ、学校教育内でより政治の現場を知ることのできる機会を作れば、

「政治がわからない」という状態を抜け出すことが可能であると考える。そこで本施策は

義務教育課程における学生と政治をより密接に結び付けることを目的とする。

本施策は義務教育課程内つまり小中学生と政治を関わらせるものである。ここでは全く

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政治の知識のない小学生ではなく、政治の基礎知識を一度は学んでいる中学生にターゲッ

トを絞る。公開討論会の場所は地域の公共施設(公立学校の体育館なども含む)とする。

施策の内容は以下の通りである。選挙期間中に候補者は公開討論会を必ず実施する。そ

の後、討論会に引率教員とともに地域の中学生が必ず参加するようにする。中学生がいる

ことから、候補者は中学生に向けて納得できるように政策を説明することが求められる。

質問も基本的に中学生から行われる。

この施策によって、中学生は実際の政治現場にはどのような考えを持つ政治家がいるの

か実感を持つことができる。また、別節で述べた授業施策と合わせて、公開討論会を踏ま

えた模擬選挙を行えばより身近に選挙を実感することもできる。そしてこの実感が「政治

がわからない」という状態を脱することに通ずるであろう。

本施策の課題として挙げられるのは、候補者が公開討論会の実施に強く反対する可能性

がある。候補者の合理的な利益を考えると、有権者ではない中学生相手に討論会を開いて

も全く利益がないので討論会を行うインセンティブはない。また現行の選挙期間では時間

がないために利益のない行為はやらないことが候補者にとって合理的な選択である。結果、

公開討論会開催に対して候補者から反対意見が多数あがると推測される。

これに対しては、まず別節で述べた「選挙期間の延長」との組み合わせが必要である。

時間にゆとりがなければ、このような公開討論会への出席は見送るとみられるため、選挙

期間を延長してからでなくては実施が難しい。

次に中学生相手に話すことが候補者にとって利益になるかについて論じる。私たちが提

言する討論会は「公開討論会」という形式をとっているために、一般有権者も参加可能と

なる。すると、中学生の親や地域の高齢者などが中学生と一緒になって会に参加する可能

性は大いに考えられる。また、中学生相手に話す事が前提のため、候補者は簡易的に説明

することが求められる。言い換えれば、候補者の話がわかりやすくなることを意味する。

わかりやすい討論を聞けるとなれば、一般有権者も選挙のために会へ参加するインセンテ

ィブが高い。したがって有権者が最終的に多く参加する可能性が高くなる。

以上から、中学生向けに公開討論会を実施することは、選挙期間を延長すれば候補者に

とって決して無駄な会とはならず、選挙期間中の公開討論会設置義務化への反対意見を抑

えることができるであろう。

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(3) 地方政治における「こども議会」の義務化

本項ではユース世代 (18 歳~29 歳) よりも下の「子ども世代」による「子ども議会」を

通常の議会として設置を義務化し、そこで可決された「条例案」・「決議案」を地方議会で

の審議対象とすることを提言する。この施策によって子ども議会の審議にリアリティーを

もたせることができ、中高生のシティズンシップ教育や政治的有効性感覚の向上に資する。

加えて、従来の議会を未来志向にしたり、子どもの斬新なアイデアを取り入れたりするこ

とができるようになる。「地方自治は民主主義の学校」という言葉があるように、子どもた

ちにとって自分たちの街づくりやコミュニティづくりを考えることは、一人ひとりが政治

に対して真剣に考える良い契機となる。

現在、多くの自治体で小学生から中学生を対象に政治への理解を深める教育目的で、「子

ども議会」が開催されている。「子ども議会」は事前に役場・学校・生徒で協議を重ねた上

で、代表の生徒が議員になりきり、一般質問形式によって地域の課題点や今後の政策展望

を首長や担当者に答弁させるものである。「子ども議会」開催後は自治体広報にて広く知ら

せることで、曖昧な答弁や単なるイベント化を防いでいる。

しかし現状の「子ども議会」の問題点は、どれだけ良い審議を重ねられたとしても、そ

れが実際の政策には反映されないことである。それでは子どもにとって真剣に参加するモ

チベーションが湧かなくなってしまう。

そこで私たちはこの「子ども議会」の設置を義務化した上で、可決された「条例案」・「決

議案」は地方議会での審議に送られる仕組みを提唱する。「子ども議会」は毎年 1 回以上開

催し、議員には各学校の代表委員や生徒会、有志の生徒がなる。各学校やクラスでは事前

に、地元の諸問題に関する質問や、自治体宣言、制定したい条例などについて話し合い、

生徒全員でまとめてもらう。そして当日の「子ども議会」では実際の地方議会議場にて、

生徒自らが考えた質問などについて、自治体首長や行政担当者に答弁させる。また議決を

採る性質のものでは実際に子どもたちに議決を採らせ、可決されれば所管する地方議会に

条例案などを付託する。所管する地方議会は、「子ども議会」における答弁内容の履行や可

決条例の再審議の義務を負うこととする。

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(4)高校生が政治に関わる取り組みを評価する入試制度改革

一般にシティズンシップ教育は、子ども全体が主権者としての意識を持ち、政治参加を

積極的に行うとともに、政治参加に際して適切な判断ができるようになることを目的とし

ている。しかし、それだけがシルバーデモクラシーを克服するうえで教育が果たすべき役

割ではない。政治を変えるには、実際に選挙に立候補する人をはじめ、リーダーとして政

治に携わるユース世代を育成していくことも重要である。そのためにも高校生の頃から、

様々な政治活動を体験させることで、問題意識を持たせ、政治の実情を実感してもらうこ

とが有効である。先に提言した子ども議会なども、そうした子どもを育てるうえで大きな

役割を果たし得ると考えられる。

しかし、こうした活動に子どもが取組むとして大きな障壁となるのが現状の大学入試制度

である。多くの大学入試では、各科目の知識を問う筆記試験が主となっている。政治活動

に積極的に携わることで入試への準備が進まなくなってしまうことは、大学生の課外活動

参考:広報おごせ 平成 26 年 2 月号「特集:越生町子ども議会」

上:埼玉県越生町における「子ども議会」の様子

下:「こども議員」による「一般質問」内容(写真提供:越生町)

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の大きな妨げとなる。大学入試や将来的なキャリアを考えて、こうした活動への参加をた

めらう学生が増えてしまうだろう。

したがって、上に挙げたような大学生の取り組みが入試の際に評価されるような制度作り

を提言する。具体的には、AO 入試をはじめ、政治に触れる活動を早期からしてきたこと

が評価されるような入試制度を拡大していくことである。高校の側も、入試の実績につな

がるとなればこうした活動を行おうとする生徒を積極的に支援していくだろう。この入試

制度改革によって将来政治のリーダーとなるユース世代が養成されるようになると考える。

おわりに

しばしば政治参加における世代間格差を縮小するために、若者の自発的な意識改革や勇

気ある政治活動を求める声が聞かれる。それに対して私たちの提言は、現行の政治制度に

対する新たな改革案である。本論の基本的な立場は「アクターの行動を変えるためには、

制度や環境といったゲームのルールを変えなければならない」というものだ。ユース世代

による低調な政治参加は、彼らを取り巻く制度や環境において最も合理的な選択であり、

その均衡状態を変えることは困難だと考える。そこで本論では①まず制度や環境を変革し、

②その結果ユース世代の動機や意識を変化させ、③最終的にユース世代の政治参加を促す、

という現実を直視しながらも理想を追い求める道筋を提示した。

しかし私たちの提言は政治制度改革に次いで、ユース世代の自発的な意識改革や政治活

動への情熱を求める。政治における制度や環境の改善と同時に求められるのは、私たちユ

ース世代が掴みとった新たな制度や環境を最大限に活用しようとする「意志」の力である。

本論の最後に、ユース世代の意識改革も重要であることを強調する。

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グループ参加者名簿

「ユース世代による政治改革」グループ

荒井翔央 早稲田大学政治経済学部4年

市川勘太郎 慶應義塾大学総合政策学部4年

金光玲奈 学習院大学法学部政治学科3年

高宮秀典 東京大学大学院法学政治学研究科修士1年

竹田哲郎 慶應義塾大学総合政策学部4年

橋口徳愼 慶應義塾大学文学部2年

松村竜貴 早稲田大学政治経済学部2年