正常妊婦における妊娠中期および後期の子宮動脈血流抵抗指...

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15 北里医学 2011; 41: 15-22 Received 11 January 2011, accepted 14 January 2011 連絡先: 金井雄二 (北里大学医学部産婦人科学) 252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1 E-mail: [email protected] 子宮動脈は子宮を栄養する血管であるが,妊娠成立 とともに胎児への主要な栄養血管の役割も担う。そし て子宮動脈の血流は妊娠成立とともに増加し,非妊時 には94.5 ml/分であったものが妊娠末期には342 ml/分と 3倍以上に増加するといわれている 1 。これは胎盤の成 立に伴う血管床の急激な増大によるものでトロホブラ ストが子宮動脈の末梢のらせん動脈を破壊,侵入し, これにより栄養膜合胞体層の裂孔が拡大し,血液を満 たした絨毛間腔に絨毛が繁茂している血絨毛膜胎盤の 状態となるための末梢の血管抵抗の低下が起こること によると考えられている。末梢の血管抵抗の低下は子 宮動脈の血流波形に反映され,超音波検査上血管抵抗 指数 (resistance index: 以下RI) の低下として計測され 2 。妊娠子宮による血流波形は,血管抵抗の低下によ り妊娠進行に伴って次第に拡張末期の成分が増加し, なだらかなスロープ様の形状を持つようになるといわ れている 2 。妊娠高血圧腎症 (pregnancy induced hypertension: 以下PIH) や胎児発育不全 (fetal growth restriction: 以下FGR) となる症例ではトロホブラストの 侵入障害によって血管抵抗が高いまま推移する 3 ため血 流波形も正常とは異なる推移を示し,発症前の予測に も用いられる 4 ことがある。日々の妊婦健診をするにあ たって子宮動脈血流波形は非常に有用な情報となる が,本邦ではこれまで子宮動脈の妊娠週数別の基準値 の報告はなく海外の基準値を用いているのが現状であ る。今回の研究はまず当センターにおける子宮動脈RI の週数別の基準値を作成することを目的とした。な お,本検討は北里大学医学部・病院倫理委員会の承認 を得た (B倫理11-08)対象と方法 対象 北里大学病院総合周産期母子医療センターで200211日より2002630日までに筆者の健診を受けた 妊婦において結果的に正期産で出生し経過中PIH FGRを認めなかった症例の計測記録を後方視的に検討 した。妊娠12週以前の超音波計測で妊娠週数の正確な 正常妊婦における妊娠中期および後期の子宮動脈血流抵抗指数 (resistance index) 基準値作成のための後方視的検討 金井 雄二,天野 完,海野 信也 北里大学医学部産婦人科学/北里大学病院総合周産期母子医療センター 背景: 子宮動脈血流抵抗指数 (RI) は通常の妊婦健診でも計測されるもののひとつである。妊娠週数 とともに低下する傾向をとるが妊娠高血圧腎症 (PIH) や胎児発育不全 (FGR) となる症例では血管 抵抗が高いまま推移し血流波形も正常とは異なる推移を示し,発症前の予測にも用いられる。しか し,本邦ではこれまで子宮動脈の妊娠週数別の基準値の報告はみられない。今回の研究は当セン ターにおける正常妊婦の子宮動脈RIの週数別の基準値を作成することが目的である。 方法: 北里大学病院総合周産期母子医療センターで200211日より2002630日までに筆者の健 診を受けた症例の後方視的検討。左右の子宮動脈を胎盤側,非胎盤側に分類し週数別の基準値を作 成した。また血流の拡張早期切痕 (notch) の有無についても週数別に検討した。 結果: 妊婦248例に対し610回の計測を行った。RIは胎盤側,非胎盤側のいずれも妊娠週数の経過と ともにゆるやかな低下傾向をみとめた。同じ週数で比較すると非胎盤側のほうがRIは高かった。子 宮動脈拡張早期切痕 (notch) は胎盤側では非胎盤側より早期に消失し,両側妊娠20週で50%の消失 であったが,妊娠正期にはおおよそ90%まで消失していた。 結論: 今回,当センターにおける正常妊婦の子宮動脈RIの基準値を作成することができた。これま での報告同様の結果で妊娠週数の経過とともにRIの低下を認め,値も相違ないことからも今回の基 準値が使用できうると思われた。 Key words: 子宮動脈RI,基準値,子宮動脈血流拡張早期切痕 (notch)

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 原  著 北里医学 2011; 41: 15-22 

Received 11 January 2011, accepted 14 January 2011連絡先: 金井雄二 (北里大学医学部産婦人科学)〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1E-mail: [email protected]

序  文

 子宮動脈は子宮を栄養する血管であるが,妊娠成立

とともに胎児への主要な栄養血管の役割も担う。そし

て子宮動脈の血流は妊娠成立とともに増加し,非妊時

には94.5 ml/分であったものが妊娠末期には342 ml/分と

3倍以上に増加するといわれている1。これは胎盤の成

立に伴う血管床の急激な増大によるものでトロホブラ

ストが子宮動脈の末梢のらせん動脈を破壊,侵入し,

これにより栄養膜合胞体層の裂孔が拡大し,血液を満

たした絨毛間腔に絨毛が繁茂している血絨毛膜胎盤の

状態となるための末梢の血管抵抗の低下が起こること

によると考えられている。末梢の血管抵抗の低下は子

宮動脈の血流波形に反映され,超音波検査上血管抵抗

指数 (resistance index: 以下RI) の低下として計測され

る2。妊娠子宮による血流波形は,血管抵抗の低下によ

り妊娠進行に伴って次第に拡張末期の成分が増加し,

なだらかなスロープ様の形状を持つようになるといわ

れている2。妊娠高血圧腎症 (p regnancy induced

hypertension: 以下PIH) や胎児発育不全 (fetal growth

restriction: 以下FGR) となる症例ではトロホブラストの

侵入障害によって血管抵抗が高いまま推移する3ため血

流波形も正常とは異なる推移を示し,発症前の予測に

も用いられる4ことがある。日々の妊婦健診をするにあ

たって子宮動脈血流波形は非常に有用な情報となる

が,本邦ではこれまで子宮動脈の妊娠週数別の基準値

の報告はなく海外の基準値を用いているのが現状であ

る。今回の研究はまず当センターにおける子宮動脈RI

の週数別の基準値を作成することを目的とした。な

お,本検討は北里大学医学部・病院倫理委員会の承認

を得た (B倫理11-08)。

対象と方法

対象

 北里大学病院総合周産期母子医療センターで2002年

1月1日より2002年6月30日までに筆者の健診を受けた

妊婦において結果的に正期産で出生し経過中PIH,

FGRを認めなかった症例の計測記録を後方視的に検討

した。妊娠12週以前の超音波計測で妊娠週数の正確な

正常妊婦における妊娠中期および後期の子宮動脈血流抵抗指数

(resistance index) 基準値作成のための後方視的検討

金井 雄二,天野 完,海野 信也

北里大学医学部産婦人科学/北里大学病院総合周産期母子医療センター

背景: 子宮動脈血流抵抗指数 (RI) は通常の妊婦健診でも計測されるもののひとつである。妊娠週数とともに低下する傾向をとるが妊娠高血圧腎症 (PIH) や胎児発育不全 (FGR) となる症例では血管

抵抗が高いまま推移し血流波形も正常とは異なる推移を示し,発症前の予測にも用いられる。しか

し,本邦ではこれまで子宮動脈の妊娠週数別の基準値の報告はみられない。今回の研究は当セン

ターにおける正常妊婦の子宮動脈RIの週数別の基準値を作成することが目的である。

方法: 北里大学病院総合周産期母子医療センターで2002年1月1日より2002年6月30日までに筆者の健診を受けた症例の後方視的検討。左右の子宮動脈を胎盤側,非胎盤側に分類し週数別の基準値を作

成した。また血流の拡張早期切痕 (notch) の有無についても週数別に検討した。

結果: 妊婦248例に対し610回の計測を行った。RIは胎盤側,非胎盤側のいずれも妊娠週数の経過とともにゆるやかな低下傾向をみとめた。同じ週数で比較すると非胎盤側のほうがRIは高かった。子宮動脈拡張早期切痕 (notch) は胎盤側では非胎盤側より早期に消失し,両側妊娠20週で50%の消失

であったが,妊娠正期にはおおよそ90%まで消失していた。結論: 今回,当センターにおける正常妊婦の子宮動脈RIの基準値を作成することができた。これまでの報告同様の結果で妊娠週数の経過とともにRIの低下を認め,値も相違ないことからも今回の基

準値が使用できうると思われた。

Key words: 子宮動脈RI,基準値,子宮動脈血流拡張早期切痕 (notch)

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金井 雄二,他

ことが確認されているものを対象とした。計測の時期

は経腹超音波検査で一定の計測部位を同定しうる週数

として,妊娠20週から40週までとした。母体に基礎疾

患があるものや子宮奇形 (双角子宮・中隔子宮) を認め

るものは除外した。計測体位は基本的には仰臥位で

行ったが,妊娠後期には長時間の仰臥位では妊娠子宮

の下大静脈圧迫による仰臥位低血圧症候群を引き起こ

すため,仰臥位で気分不快が出現した場合は軽度の左

側臥位として計測した。超音波診断装置はALOKA社

製ProSound SSD-5000,プローブは経腹用コンベックス

型を使用した。妊娠中期から後期にかけては子宮収縮

が不規則に起き,収縮時には血管抵抗が高くなり血流

波形に変化を及ぼすため妊婦の自覚症状および検者の

触診により子宮が弛緩していることを確認した上で測

定した。

子宮動脈RIの計測方法

 子宮動脈は内子宮口の高さで子宮に達し頸管方

向に向かう下行枝と子宮体部に向かう上行枝とに

分枝する。このうち胎児への栄養血管は主に上行

枝であるため測定位置は上行枝とした。走査方法

は,子宮動脈上行枝の同定には超音波カラードプ

ラ法を用い,鼠径部にプローブをあて,まず外腸

骨動脈を同定しそれと交差し子宮壁を上行する血

管である子宮動脈 (図1) を同定した。測定位置は

統一を図るため外腸骨動脈交差部直近とし,血流

波形は5波形同様の波形が得られたものを使用

し,収縮期最高血流速度と拡張末期血流速度を計

測 (図2) した。評価法はresistance index (RI) を用

いた (RI = (収縮期最高血流速度−拡張末期血流速

度)/収縮期最高血流速度)。

胎盤との関係の判定方法

 子宮動脈血流は胎盤の付着位置によって変化する5た

め胎盤の位置により胎盤へ近い側の子宮動脈を胎盤

側,遠い側を非胎盤側とした。妊娠中子宮体部は体内

でやや回旋し偏位する。このため胎盤位置の評価は臍

部を正中とした外表からの2分ではなく,左右の子宮動

脈を基準に中央で2分割しその左右どちらに付着面積が

広いかによって付着側を判定した。

データ解析の方法

 得られたデータは妊娠週数別に集計し胎盤側,非胎

盤側に分けて週数別の5パーセンタイル,50パーセン

タイル,95パーセンタイルを算出した。また子宮動脈

血流の末梢側の抵抗が高い状態を示す拡張早期の一時

図1. 外腸骨動静脈と交差する子宮動脈

鼠径部やや内側にプローブをあてると太く併走する

外腸骨動脈と外腸骨静脈が確認できそれに直行する

これらの動静脈よりやや細く子宮を上行する子宮動

脈を同定出来る。

図2. 子宮動脈RI

妊娠24週の血流波形 (写真右) RIは0.615であった。

図3. 子宮動脈血流拡張早期切痕 (矢印)

↓の部分がnotchである。計測部位より末梢の血流抵抗が高いことを示している。子宮動脈RIは0.76 (妊娠27週)

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妊娠中・後期の子宮動脈RI

的な血流速度低下による切痕 (notch) (図3) の有無につ

いても週数別に検討を行った。子宮動脈RIの妊娠週数

による変化を検討するため,対象を検査時期により3群

(妊娠20〜26週,27〜33週,34〜40週) に分けた。Paired

t-test及びKruskal-Wallis検定を用いて解析した。多群間

の比較にはDunn's testを用いた。P < 0.05を統計学的有

意水準とした。統計解析はSigmaStat for Windows Ver

3.5 (Systat Software Inc.) を用いて行った。

結  果

 研究対象期間中に子宮動脈血流計測を613回実施し

た。2例は母体の不整脈,1例は子宮奇形 (双角子宮) の

図4. 各症例のRI (胎盤側RI)。図中の直線は線形近似曲線

表1. 妊娠週数別の症例数

妊娠週数 症例数 妊娠週数 症例数

20 16 31 3021 14 32 3822 14 33 2423 12 34 4324 21 35 3425 15 36 5926 33 37 5827 20 38 4928 40 39 1629 23 40 830 43 合計 610

図5. 各症例のRI (非胎盤側)。図中の直線は線形近似直線

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診断のため除外した。248例の妊婦に対する610回の検

査を対象として検討を行った。計測不能症例や両側の

子宮動脈を同定できなかった症例はいなかった。母体

平均年齢は31歳 (20〜44歳),各週数の検査回数は表㈵

のごとくであった。また全検査の子宮動脈RIを週数ご

とに胎盤側,非胎盤側でプロットした結果を図4,図5

に示した。いずれも妊娠週数の経過とともにRIのゆる

やかな低下傾向をみとめた。また各週数別の5パーセン

タイル,50パーセンタイル,95パーセンタイルは表2

のごとくであった。各週数において胎盤側RIは非胎盤

側RIと比較して有意に低値を示した (paired t-test,P <

0.001)。全検査値及び各妊婦の初回検査値を妊娠時期

によって3群に分け,Kruskal-Wallis検定によって解析

したところ,全検査値では妊娠20〜26週群,妊娠27〜

33週群,妊娠34〜40週群の各群間に有意の差を認め,

在胎期間とともにRI値の低下が認められた (図6)。ま

た,初回検査値のみを対象とした場合,妊娠20〜26週

群と比較して妊娠27〜33週群,妊娠34〜40週群は有意

に低値を示した。しかし,妊娠27〜33週群,妊娠34〜

40週群の間には差を認めなかった (図7)。また同一妊娠

における子宮動脈RI値の変化を検討する目的で,7週

間以上の検査間隔で検査を反復した妊娠72例について

最初と最後の検査値の比較を行ったところ,妊娠24.7

表2. 子宮動脈RI

胎盤側 非胎盤側

妊娠週数

5th 50th 95th 5th 50th 95th

20 0.40 0.54 0.66 0.48 0.63 0.7521 0.43 0.55 0.73 0.50 0.59 0.7722 0.35 0.52 0.68 0.52 0.60 0.8023 0.43 0.59 0.67 0.54 0.60 0.7124 0.35 0.50 0.64 0.35 0.54 0.7525 0.40 0.51 0.71 0.44 0.56 0.7226 0.36 0.48 0.65 0.43 0.54 0.7027 0.41 0.53 0.63 0.44 0.57 0.6928 0.36 0.46 0.62 0.44 0.54 0.6729 0.35 0.51 0.59 0.40 0.56 0.6630 0.36 0.44 0.56 0.38 0.50 0.6831 0.33 0.46 0.56 0.40 0.49 0.6432 0.30 0.43 0.57 0.34 0.46 0.6333 0.40 0.48 0.55 0.41 0.52 0.5834 0.35 0.44 0.62 0.37 0.49 0.6935 0.34 0.44 0.59 0.35 0.53 0.6736 0.33 0.42 0.54 0.32 0.46 0.6337 0.34 0.42 0.53 0.35 0.46 0.6138 0.32 0.40 0.56 0.34 0.46 0.6239 0.32 0.41 0.52 0.38 0.45 0.6140 0.38 0.42 0.53 0.38 0.46 0.53

図6. 全検査値の妊娠週数別3群間の比較

金井 雄二,他

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図7. 各妊婦の妊娠週数別3群間の比較

表3. 子宮動脈拡張早期切痕 (notch)

妊娠週数 症例数 両側 (+) 胎盤側 (+) 非胎盤 (+) 両側消失

20 16 4 (25.0) 2 (12.5) 2 (12.5) 8 (50.0)21 14 3 (21.4) 0 3 (21.4) 8 (57.2)22 14 1 ( 7.1) 0 3 (21.4) 10 (71.5)23 12 3 (25.0) 0 2 (16.7) 7 (58.3)24 21 2 ( 9.5) 1 ( 4.8) 1 ( 4.8) 17 (80.9)25 15 1 ( 6.7) 1 ( 6.7) 3 (20.0) 10 (66.6)26 33 3 ( 9.1) 0 5 (15.2) 25 (75.7)27 20 1 ( 5.0) 2 (10.0) 4 (20.0) 13 (65.0)28 40 3 ( 7.5) 2 ( 5.0) 3 ( 7.5) 32 (80.0)29 23 0 1 ( 4.3) 4 (17.4) 18 (88.3)30 43 1 ( 2.3) 2 ( 4.7) 5 (11.6) 35 (81.4)31 30 2 ( 6.7) 1 ( 3.3) 4 (13.3) 23 (76.7)32 38 2 ( 5.3) 1 ( 2.6) 1 ( 2.6) 34 (89.5)33 24 0 1 ( 4.2) 4 (16.7) 19 (79.1)34 43 4 ( 9.3) 1 ( 2.3) 6 (14.0) 32 (74.4)35 34 3 ( 8.8) 0 2 ( 5.9) 29 (85.3)36 59 1 ( 1.7) 1 ( 1.7) 6 (10.2) 51 (86.4)37 58 3 ( 5.2) 0 4 ( 6.9) 51 (87.9)38 49 1 ( 2.0) 0 7 (14.3) 41 (83.7)39 16 0 0 1 ( 6.3) 15 (93.7)40 8 1 (12.5) 0 0 7 (87.5)

妊娠中・後期の子宮動脈RI

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± 3.3 (平均±標準偏差) 週における初回検査と妊娠36.4

± 2.8週における最終検査の間で胎盤側 (初回: 0.519 ±

0.098,最終0.418 ± 0.061),非胎盤側 (初回0.571 ±

0.103,最終0.478 ± 0.080) となり,ともに有意の低下

を示した。これは海外からのこれまでの報告2,6と同様

の結果であった。子宮動脈拡張早期切痕 (notch) は胎盤

側では非胎盤側より早期に消失し,両側消失例は妊娠

20週で50%であったが,妊娠正期にはおおよそ90%に

達していた (表3)。

考  察

 今回,当センターにおける子宮動脈RIの基準値を作

成することを目的に610回の子宮動脈血流波形につい

て検討した。これまでの報告2,6同様の結果で妊娠週数

の経過とともにRIの有意の低下を認めた。妊娠子宮で

の子宮動脈血流波形の変化は主として拡張期血流速度

の相対的上昇によるが,これは胎盤完成に伴う血管床

の急激な増大に伴う血流コンプライアンスの上昇に由

来すると考えられる。これまでの報告でも胎盤が左右

に偏在する場合は胎盤付着側の子宮動脈では非胎盤側

に比べるとRIは低値になる5とされている。このため左

右おのおのを胎盤側,非胎盤側に分けて考える必要が

ある。今回の検討でも胎盤側,非胎盤側に分けて検討

した。その結果胎盤側のRIが有意に低値を示すことが

明らかになった。

 週数による緩やかなRIの低下は週数ごとの3群に分

けた検討で在胎期間の進行とともに低下していること

が明らかになった。また,これは同一妊娠のみにおけ

る子宮動脈RI値の変化の検討でも有意な低下が認めら

れた。しかし,初回検査値のみを対象とした検討では

妊娠20〜26週群と比較して妊娠27〜33週群,妊娠34〜

40週群は有意に低値を示したものの,妊娠27〜33週

群,妊娠34〜40週群の間には差を認めなかった。これ

は,各症例では妊娠週数とともにRIは低下する傾向で

あるが同一週数であってもRI値に個体差が大きいこと

によるものと考えられた。今後は決められた症例を週

数ごとに計測し追跡が可能であればさらに精度の高い

基準値が求められるであろう。

 子宮動脈の計測においては以下の点に留意する必要

がある。主たる血管床を構成する胎盤は子宮内腔に存

在し子宮動脈の分枝である弓状動脈は子宮筋層を貫通

して流入する。したがって子宮収縮時には子宮動脈RI

の上昇が起こる。これは陣痛のみならず妊娠中の生理

的な収縮でも影響を受けると考えられるため,今回の

計測ではその影響を排除するために計測前に妊婦への

問診と検者自らの触診にて子宮収縮のないことを確認

した上で,血流波形が一定であることを確認してから

計測を行った。他に血流波形に影響を与え得る因子と

して母体血圧や体位などがある。本研究では母体の体

位は原則的には仰臥位としていたが仰臥位低血圧症候

群のために軽度の左側臥位とせざるをえない症例が

あった。また,母体の不整脈の有無は子宮動脈波形の

計測に大きな影響を与える。本研究でも2回目以降の計

測において波形の安定化が認められないことを契機に

母体不整脈が診断された2例を除外する必要が生じた。

子宮奇形も子宮動脈RI計測に影響を与える可能性があ

る。子宮動脈は通常,分枝して弓状動脈となり子宮筋

層1/3の深さで子宮を前後に覆うようにネットワークを

形成し,左右の弓状動脈は子宮のほぼ中央で吻合する7。

双角子宮ではこの吻合が存在しないもしくは不完全で

あるため血流波形にも変化をきたす可能性がある。期

間中1例の双角子宮の妊娠例が分娩後に診断され,これ

も対象外とした。

 測定者間の誤差を考慮して測定者は1名とし,同一の

超音波測定装置を用いて計測を行ったものを対象とし

た。その結果,これまでの報告2,6されている結果とほ

ぼ一致する値が得られた。RI値の異常域に関しては

Sciscione8らは妊娠末期では胎盤側RIが0.58以上という

報告をしている。Kurmanaviciusら6は妊娠30週の95thセ

ンタイルが0.59,妊娠40週では0.57と報告している。

今回の検討でも胎盤側のRIは妊娠36週以降95thパーセ

ンタイルがそれ以下となっておりこれまでの報告と一

致するものであった。これらはしばしばFGRの発症予

測として用いられるが,Cnossenら9は61編のFGRの研

究についてメタアナリシスを行い重症FGRに対してRI

値の上昇 (RI > 0.58) が最も有効な予測因子となってい

たと報告しておりこの報告からも今回の基準値を使用

しうると考えられる。

 さらにこれらの子宮動脈血流測定によるスクリーニ

ングで高値を示し,ハイリスクと考えられた場合に

FGRやPIHとなる前に何らかの介入が可能であるかど

うかを検討した報告がある。Goffinetら10やYuら11は低

用量アスピリン療法を,Chappelら12はvitamin Cと

vitamin Eの併用療法による介入を行っている。これら

の結果ではいずれの介入も無効であったと報告されて

いる。現状ではハイリスク群と判断することは可能で

あるが,判断されても注意深い経過観察を行うことし

かなく現在はまだ臨床的には有用性はいまだ見いだす

ことはできていない。これは胎児を栄養する血管が子

宮動脈のみからではなく左右の卵巣動脈の卵管枝も子

宮動脈と吻合して関与してくることにも関係してく

る。主に栄養しているのはもちろん子宮動脈と考えら

れるが胎盤の付着位置によっては卵巣動脈より栄養を

供給されている割合が多いことも考えられることがあ

る。アカゲザルの実験によれば,非妊時にはごくわず

かである卵巣動脈からの子宮への血流が,妊娠後期で

は子宮上部1/3の範囲における血流の約半分を担うよう

になるという報告がある13。このような妊娠子宮の栄

養血管の複雑さが子宮動脈の単一血管の測定のみでは

金井 雄二,他

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子宮の血流動態の解釈を行うのが難しいひとつの要因

になっていると考えられた。

 また,子宮動脈血流に異常の認められない重篤な

FGRの存在も指摘されている14。FGRに関してはかな

らずしも胎盤機能だけに原因を求め得るものだけでは

なく原因はさまざまであることも解釈の妨げとなって

いると考えられる。

 R Iによる定量的評価法とあわせて拡張早期切痕

(notch) の有無による定性的評価を加えた評価法を用い

る報告も多数15-17見られる。Cnossenら15は診察所見,生

化学的検査,超音波検査とPIH発症との関連について

もメタアナリシスをおこなっている。その中で両側の

notch,body mass index 30以上,αフェトプロテイン,

フィブロネクチンが90%以上の特異度を示したとして

いるが感度が90%以上となる予測因子はなく子宮動脈

血流波形でのどちらかの一側のnotch,RIそしてnotchと

RIの組み合わせのみが60%の感度となっていたとして

いる。今回,われわれの検討でもnotchの有無について

の検討も行っており,妊娠20週で両側notchを認める症

例は25%であった。胎盤側でみると妊娠週数とともに

減少,また両側消失例は妊娠20週で50%の消失であっ

たが,妊娠正期には90%まで消失している結果であっ

た。今後は今回の検討をふまえてRI値とnotchの組み合

わせでも更なる検討をしていきたいと考えている。

結  語

 今回当センターにおける正常妊婦の子宮動脈RIの基

準値の確立を行った。この結果はこれまでの報告と同

様の結果であった。RIの変化はPIHやFGRの成立以前

から認めることが多く,今後はこれを日々の臨床上

PIHやFGRの発症予知に利用出来得るように他のパラ

メーターともあわせて評価をするなど,さらなる検討

を加えていきたい。

文  献

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妊娠中・後期の子宮動脈RI

Page 8: 正常妊婦における妊娠中期および後期の子宮動脈血流抵抗指 …mlib.kitasato-u.ac.jp/homepage/ktms/kaishi/pdf/KI41-1/KI...E-mail: yuji@moon.sannet.ne.jp 序 文

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Examination of the uterine artery blood flow resistance index inthe second and third trimesters in normal pregnant women

Yuji Kanai, Kan Amano, Nobuya Unno

Department of Obstetrics and Gynecology, Kitasato University School of medicine/Divisions of Obstetrics Center for Perinatal Medicine, Kitasato University Hospital

Background: The uterine artery resistance index (RI) is measured on regular pregnancy checkups. Thisindex decreases with gestational age. However, in patients with pregnancy induced hypertension or fetalgrowth restriction, vascular resistance remains high, and changes in blood flow waveforms differ from thosein normal pregnant women. The RI is also employed for pre-onset prediction. However, in Japan, to ourknowledge, no study has reported any reference values of the RI regarding gestational age. The purpose ofthis study was to prepare reference ranges of the RI regarding gestational age in our center.Methods: We retrospectively investigated patients who underwent pregnancy checkups in Kitasato UniversityHospital between January 1 and June 30, 2002. The left and right uterine arteries were classified into placentaland non-placental sides, and gestational age-matched reference ranges were prepared. Presence or absence ofearly diastolic notches was examined and compared with gestational age.Results: The RI was measured 610 times in 248 pregnant women. On both the placental and non-placentalsides, it slightly decreased with the course of pregnancy. When comparing the RI at the same gestational age,it was higher on the non-placental side. This was similar to the results of previous international studies. Onthe placental side, early diastolic uterine arterial notches disappeared earlier than on the non-placental side.In Week 20 of pregnancy, 50% of the patients showed disappearance of bilateral notches. In the third trimester,such disappearance was noted in approximately 90% of the patients.Conclusion: In this study, we established the reference range of the RI in our center. The RI decreased withthe course of pregnancy, as previously reported. The values obtained were similar to those reported in previousstudies; therefore, the reference values established in this study may be applied.

Key words: uterine artery resistance index, reference values, notch

金井 雄二,他