p35-38

4
パルス通電焼結法を用いた材料加工技術の開発(その2) ・超硬合金の焼結特性に及ぼすボールミルの効果につぃて、 材料環境部 玉井富士夫川上雄士円城寺隆志 パルス通電焼結法による超硬合金の焼結に関し,実用的見地から重要である製品形状の 大型化に伴う焼結ムラ, 密性低下等の問題にっいて,特にボールミルの効果にっいて検 討した.その結果,(1)ボールミルの効果は顕著であり,6kS間のポールミル混合によって, FO-46NiバインダーおよびC0バインダーの場合,ともに超硬合金焼ホ割本の曲げ強度は飛躍 的に大きくなる.(2)C0を金属バインダーに用いたWC、20M.%C0焼結体では,ボールミル を行うことで市販の超硬合金とほぼ同等の曲げ強度1.5Gpaが得られる.(3)ボールミルの効 果が現れた理由は,均一混合と凝集WCの破砕による焼結密度の向上および焼結組織の微 細化である.以上を明らかにした 1.はじめに 超硬合金は高硬度,強 材料であるため,切削工 具,金型等の耐摩耗工具を始め,メカニカルシール 材,軸スリーブ材,ポンプ部品等の耐摩耗機械部品, 士木建設用の士砂摩耗部品にも広く応用が進められ ているD.県内企業に特徴的な士木・建設関連の機械 製品製造企業においても,各種機械装置の使用環境 が過酷さを増していることを背景に,高クロム鋼(鋳 鉄),ハイマンガン鋼等の金属材料に代わる耐摩耗材 料として,超硬合金ヘの切換えが検討されている.し かし,一品生産色の強い士木・建設機械用の耐摩耗部 品は,多品種少量生産が基本であり,少量生産に適し た超硬合金部品の安価・迅速な製造方法の確立が望 まれている ノ弌ルスj重1言丈尭糸吉1去(pulsed electric、current sintering PECS)は,型内に充填した圧粉体粒子間に直流パル ス状の大電流を印加し,粉体間に発生するジュール 熱拡散,電場による電解拡散等を複合的に利用する 焼結方法である.そのため,急速昇温,短時間焼結が 可能であり,多品種少量生産型の超硬合金部品の安 価・迅速な製造方法として,実用的見地から大いに期 待されている2)・3).しかしながら一方で,複雑形状 への対応困難,製品形状の大型化に伴う焼結ムラ, 密性低下等の問題が指摘されており, NCS関連技術 についての更なる研究開発が望まれている 本研究では,士木・建設機械用部品として実用的 意義が大きい中・大型形状の超硬部品のPECSに関し て,焼結ムラの解消, 密性の向上を目的として,超 硬合金原料粉体にボールミル加工を行い,その効果 について検討した 2.実験方法 2.1 焼結方法 PECSに用いた粉体は平均粒径4.67μmのWC粉未 に,金属バインダーとしてC0粉末またはFe、46Wt.% Ni粉末を20M%添加し,混合したWC/C0粉体とWC Fe・46Wt.%Ni粉体の 2種類である 混合方法はアルミナ乳鉢を用いた3.6kSの手動混合 と遊星ポールミルを用いた60OS混合,6kS混合の3 方法とした これら混合粉体おぉよそ50gを,内径:30,外径 80,高さ:80mmの円柱状の力ーボン製型に充填し, 住友石炭工業(株)製のPECS装置(SPS320MK4) 結した.図1にPECS装置の概略を示す.焼結は赤外 放射温度計を用いた温度制御で行い,昇温速度はIK/ S,焼結保持時間は60OS,加圧力は20Mpa(すべてー Vacuum ch日mber Sample Powder Upper electrode (治rbon die Catbon 1力d 10wer electNde 111f地r.d thermometer -35- C) ^ Oil pN ⅡN 図I SPS装置の概略 Pt0客捻m contNⅡer Ⅱnit 1)C PⅡ1詫 CⅡr詑nt SⅡPply 11nit r ず、'f

Upload: z

Post on 30-Jun-2015

83 views

Category:

Documents


1 download

TRANSCRIPT

Page 1: p35-38

パルス通電焼結法を用いた材料加工技術の開発(その2)・超硬合金の焼結特性に及ぼすボールミルの効果につぃて、

材料環境部

玉井富士夫川上雄士円城寺隆志

パルス通電焼結法による超硬合金の焼結に関し,実用的見地から重要である製品形状の大型化に伴う焼結ムラ,緻密性低下等の問題にっいて,特にボールミルの効果にっいて検

討した.その結果,(1)ボールミルの効果は顕著であり,6kS間のポールミル混合によって,FO-46NiバインダーおよびC0バインダーの場合,ともに超硬合金焼ホ割本の曲げ強度は飛躍

的に大きくなる.(2)C0を金属バインダーに用いたWC、20M.%C0焼結体では,ボールミル

を行うことで市販の超硬合金とほぼ同等の曲げ強度1.5Gpaが得られる.(3)ボールミルの効果が現れた理由は,均一混合と凝集WCの破砕による焼結密度の向上および焼結組織の微細化である.以上を明らかにした

1.はじめに

超硬合金は高硬度,強靱材料であるため,切削工

具,金型等の耐摩耗工具を始め,メカニカルシール

材,軸スリーブ材,ポンプ部品等の耐摩耗機械部品,

士木建設用の士砂摩耗部品にも広く応用が進められ

ているD.県内企業に特徴的な士木・建設関連の機械

製品製造企業においても,各種機械装置の使用環境

が過酷さを増していることを背景に,高クロム鋼(鋳

鉄),ハイマンガン鋼等の金属材料に代わる耐摩耗材

料として,超硬合金ヘの切換えが検討されている.し

かし,一品生産色の強い士木・建設機械用の耐摩耗部品は,多品種少量生産が基本であり,少量生産に適し

た超硬合金部品の安価・迅速な製造方法の確立が望まれている

ノ弌ルスj重1言丈尭糸吉1去(pulsed electric、current sinteringPECS)は,型内に充填した圧粉体粒子間に直流パル

ス状の大電流を印加し,粉体間に発生するジュール

熱拡散,電場による電解拡散等を複合的に利用する

焼結方法である.そのため,急速昇温,短時間焼結が

可能であり,多品種少量生産型の超硬合金部品の安

価・迅速な製造方法として,実用的見地から大いに期

待されている2)・3).しかしながら一方で,複雑形状

への対応困難,製品形状の大型化に伴う焼結ムラ,緻

密性低下等の問題が指摘されており, NCS関連技術

についての更なる研究開発が望まれている

本研究では,士木・建設機械用部品として実用的

意義が大きい中・大型形状の超硬部品のPECSに関し

て,焼結ムラの解消,緻密性の向上を目的として,超

硬合金原料粉体にボールミル加工を行い,その効果

について検討した

2.実験方法

2.1 焼結方法

PECSに用いた粉体は平均粒径4.67μmのWC粉未

に,金属バインダーとしてC0粉末またはFe、46Wt.%

Ni粉末を20M%添加し,混合したWC/C0粉体とWC/

Fe・46Wt.%Ni粉体の 2種類である

混合方法はアルミナ乳鉢を用いた3.6kSの手動混合

と遊星ポールミルを用いた60OS混合,6kS混合の3方法とした

これら混合粉体おぉよそ50gを,内径:30,外径

80,高さ:80mmの円柱状の力ーボン製型に充填し,

住友石炭工業(株)製のPECS装置(SPS320MK4)で焼

結した.図1にPECS装置の概略を示す.焼結は赤外

放射温度計を用いた温度制御で行い,昇温速度はIK/

S,焼結保持時間は60OS,加圧力は20Mpa(すべてー

Vacuum ch日mber

SamplePowder

Upperelectrode

(治rbon

die

Catbon

1力d

10wer

electNde

111f地r.d

thermometer

-35-

C)^

Oil pN鶚ⅡN

図I SPS装置の概略

Pt0客捻m contNⅡerⅡnit

1)C PⅡ1詫 CⅡr詑ntSⅡPply 11nit

r ず、'f 'i r r 卜一气゛「'

user
テキストボックス
平成15年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書
Page 2: p35-38

3

^

図2曲げ試験片採取場所と曲げ試験の概略

定)とした

22焼結体の評価方法

PECS後,密度測定と曲げ強度試験を行い,ボール

ミルの効果について検討した

密度測定では,PECS終了後の焼結体重量および体

積から密度を算出し,理論密度と比較した

曲げ強度は下部曲げスパン:25mmの三点曲げ試験

によって評価した.ここで,表面近くと内部で焼結状

態の違いが懸念されるため,試験片は図2に示すよ

うに焼結体の全体的強度を反映するように採取し,

C、R方向に試験した.曲げ試験後,破面のフラクトグ

ラフィ的観察を行った

併せて,ロックウェル試験機を用いた硬さ(HRA)

試験,光学顕微鏡による組織観察を行った

3.結果および考察

3.1 曲げ強度特性に及ぼすボールミル効果

図3 にWC・20(FO-46Nり超硬合金粉体50gを用いて,1403Kの温度で60OS間焼結した円盤状試料から切り

出した試験片の三点曲げ試験結果を示す.横軸は粉

体の混合方法で整理している.なお,円盤の厚み,す

なわち試験片の幅は試料間で少し異なっているが,

これは焼結条件の影響を受けた焼結後の試料の密度

の違いによる

遊星ボールミル時間が60OSと短い場合の曲げ強度

は60OMpa程度であり,アルミナ乳鉢を用いた3.6玲

手混ぜ混合とほぼ同じである.しかし,遊星ボールミ

ル時間が6kSと10倍程度に長くなると,曲げ強度は

Ⅱ70Mpaと飛躍的に向上する

ボールミル効果は同様に,硬さ特性や密度測定結

果,組織観察結果にも現れている.6kS間のポールミ

1200

、N

Sintered Temperature :1403KHolding time :0.6 kPressure :20Mpa

Atmosphere :1n vacuumBindin套 metal: Fe・46Nia110y

30

3

[000

3 3

SO0

600

3.6 k 0.6 k planetaryhand mixing micro miⅡ

Mixing method

図 3 WC、20(FO-46ND超硬合金の曲げ強度と原料・粉体混合方法との関係

ル混合によって,硬さは67HRA (アルミナ乳鉢手動

混合),および70HRA(60OS間ボールミル混合)から,

80HRAヘと向上し,密度も理論密度比で82%(アル

ミナ乳鉢手動混合),および84%(60OS間ポールミル

混合)から,93%へと大きく向上している.組織的に

も6kS間のボールミル混合によって, WC相と金属バ

インダー相がより均質化され,空隙等の欠陥が少な

くなっているのが確認される.ボールミル混合に

よって均一化,WC凝集粒子等の破砕が進んだ結果と

老えられるが,詳細は次項で記述する

図4にWC、20C0超硬合金粉体50gを用いて,13乃K

および1423Kの温度で60OS間焼結した円盤状試料か

ら切り出した試験片の三点曲げ試験結果を示す.横

軸は焼結温度であり,'印がアルミナ乳鉢を用いた

3.6kS間手動混合を,口が遊星ボールミル6kS間混合

をそれぞれ示す

焼結温度が13乃Kと低い場合には,両者の曲げ強

度特性にはそれほど違いがない.焼結温度が低く焼

結が進んでいないためと考えられる.焼結温度が

1423Kと高い場合には,ボールミル効果が顕著に現

れ,6kS問遊星ボールミル混合を行った場合には,曲

げ強度が1.5Gpa と手動混合の場合のⅡ6%となって

いる

そして, WC、20(Fe、46Ni)超硬合金の場合と同様,

WC、20C0超硬合金の場合にも,硬さ特性や密度測定

6 k planetarymicro miⅡ

-36-

邸曳、⇔

,鳥尽号0。三で忌.一号.'

user
テキストボックス
平成15年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書
Page 3: p35-38

1600

1400

^ 3.6 ks hand mixin留

[コ 6 k planetary micro miⅡ

Holding time :0.6 kPressure :20Mpa

Atmosphere :1n vacuumBindin套 metal: CO

1200

1000

800

600

1373 1423

SinteredTemperature,11K図4各焼結温度におけるWC.20C0超硬合金の

曲げ強度に及ぼす原料粉体混合方法の違い

結果,組織観察結果にポールミル効果が認められる

1423Kの焼結温度での硬さは83HRA (手動混合)か

ら85HRAヘと向上し,密度も理論密度比で95%(手

動混合)から町%へと向上している.組織的にもWC

相と金属バインダー相の均質化,および空隙等の欠

陥減少が同様に確認される

3.2ボールミル効果についての老察

図5および6に曲げ試験後の破面観察結果を示す

ともに破壊起点近くの破面であり,仏)がマクロ的観察結果を,(b)がミクロ的観察結果をそれぞれ示してい

る.図5 に示すWC・20(Fe・46ND超硬合金,3.6kS間手

動混合の曲げ試験後の破面は,全体的に粗い感じで,

多くのポアが観察され,緻密化が進んでいない.粒子

径サイズも図6 に示すWC、20C0超硬合金,6kS問遊

星ボールミル混合試験片の破面と比ベると大きく,

平均で2,3 μ m程度である.曲げ強度が60OMpa程

度と小さかったこととよく符合すると考えられる

一方,図6に示すWC・20C0超硬合金,6kS間遊星

ボールミル混合の曲げ試験後の破面は,全体的に細

かい緻密な感じで,観察されるポアの数も格段に少

なくなり,ポアサイズも極めて小さくなっている.併

せて,粒子径も1μm以下程度にまで小さくなって

いる.ボールミル混合の効果と考えられ,曲げ強度が

1.5Gpa程度と市販の超硬合金程度に大きくなってい

ることと符合する

図7および8に焼結前の混合粉体のSEM観察結果

をまとめて示す. WC・20(FO-46Nり超硬合金, WC、20CO

超硬合金ともに遊星ボールミル混合の影響は明らか

400

C^

J

、"'、,宝鼻

之UU'"

,丸

ヨ,一学,

男*

三麹

4L

図53.6kS問の手動混合,焼結温度1403K,焼結時間

60OSでのWC・20(FO-46Nり超硬合金焼結体の曲げ試験破面

(上:マクロ観察結果,下:破壊起点近くの拡大)

f

?CO"当

'ぎ

'驫す

^

ゞ,

ノ"

J子広ナン三'、ι

1

'J゛1J

膨一4鰍

ナ,、、1 三Jj、イう

跡4

二0」m

'芽

^「

冬皐

キ亀

'

ヌ達i;"芋、耐→溌iι支',゛'

'五す*, LJ 'ノ

・.憾1 遷ξ'毛、、ヌ

、_ニ

図66kS間の遊星ボールミノW昆合,焼結温度1423K,焼結時間60OSでのWC・20C0超硬合金焼結体の曲げ試験破面

(上:マクロ観察結果,下:破壊起点近くの拡大)

V

五゛

20OJm

-37ー

ミ、

、磯

際御f

,4色

4亀、

燮漣1盲

,き別

.;一.ー

洗1.嘆

叫 J

t尊

WA

゛,

、,4 ,

J占、丸ナ、

り一

口'

'才

、,町一

'くJ-ゞ

\,

雌史、⇔,乱旦目M悶三で忌'一号、{

口'

叉欝ミ,ンゞ

与゛气

,,"吏.尋

.,

夕.'゛ユ

;、、き

Y

部篤

user
テキストボックス
平成15年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書
Page 4: p35-38

声、

蓉゛

"璽

(a) Hand mixing f013.6 ks (b) planetary miclo miⅡ mixing for 6 ks

図7WC・20(F.・46Nり超硬合金原料粉体

純峡

、、

愈〆

゛、,ー

・4

.'

(b) planetary micro miⅡ mixing fof 6 ks(a) Hand mixing fot 3.6 ks

図8WC、20C0超硬合金原料粉体

であり,6kS間の遊星ボールミル混合によって,凝集 a)ポールミルの効果は顕著であり,6kS間のボールミ

粒子の破砕, WC粒子と金属粒子の均一化混合,見かル混合によって, Fe・46NiバインダーおよびC0バイ

けの充填率の向上等が認められる.焼結前の原料混ンダーの場合,ともに超硬合金焼結体の曲げ強度は

合粉体のポールミル効果によるこのような違いが焼飛躍的に大きくなる

結後の超硬合金の緻密性,均一性,微細化に影響した(2)C0を金属バインダーに用いたWC・20wt.%C0焼結

結果,曲げ強度,硬さ等の力学特性が大きく改善され体では,ボールミルを行うことで市販の超硬合金と

ほぼ同等の曲げ強度1.5GP.が得られるたと考えられる

(3)ポールミルの効果が現れた理由は,均一混合と凝

集WCの破砕による焼結密度の向上および焼結組織4.おわりに

PECSによる超硬合金の焼結に関し,実用的見地かの微細化である

ら重要である製品形状の大型化に伴う焼結ムラ,緻

密性低下等の問題について,特にボールミルの効果参考文献等

について検討した.得られた結果を整理すると以下 1)htゆ://WWW.n批肌.CO.jp

2)鴇田,粉体工学会誌,30, P26 (1993)のとおりである

3)川原,鴇田, zahyoo・to・Kaokyo",50, PP45-48 (2001)

'、r

竜゛

,

」ノ'

',

..

^

4

^

M当

"'、

^

'、

勇、

J

^

'

や'

1^ J

' J

愚、

^

憂'雫゛

.弐¥

W゛〕

t髪

゛貞

-38-

J

"、

注1、゛

倉¥

,,、*

.声」

Jイ

レえ

user
テキストボックス
平成15年度 佐賀県工業技術センター 研究報告書