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7
第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流 第2章 気候に関連する海洋の変動 2.2 日本近海の海洋変動 2.2.4 対馬暖流 対馬暖流 診断概要 診断内容 日本海の表層には、南部を中心に対馬海峡から流入する高温の対馬暖流が、北部を中心 に対馬暖流系の暖水より低温の海水が広がっている。ここでは、冬季の日本海側に大量の 降水をもたらす要因の一つとされる対馬暖流の長期変動について診断する。 診断結果 対馬暖流の勢力(100 m深の水温が10 ℃以上の海域の面積)は、1985 2010 年の26 年間 では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、1990年代以降はおおむね平年(19852010 年の平均値)より強い状態が続いている。 日本海の基礎知識 (1)日本海の海底地形 日本海は、アジア大陸と日本列島に囲まれ た縁海で、平均水深は 1667m Menard and Smith, 1966 )であるのに対し、隣接する海洋 とは浅く狭い海峡でつながっている(図2.2.4- 1)。海盆は、中央の大和堆と呼ばれる浅瀬に よって、その北側の日本海盆と南東側の大和 海盆に分かれている。また、大和堆から南に は浅い隠岐海脚が連なっており、その西には 対馬海盆がある。 (2)日本海の海洋構造の特徴 日本海の海洋構造は、約300m深を境に表層 とそれ以深で分けることができる。更に表層 は、北緯40 度付近を境に南部と北部に分ける ことができる。 南部の表層には、東シナ海の大陸棚斜面を 流れる黒潮水を主な起源とし、対馬海峡を 通って流入する高温・高塩分水(以下、暖 水)が広がっている。その大部分は津軽海峡 を通って太平洋に、一部は宗谷海峡を通って オホーツク海に流出する。この暖水の流れが 対馬暖流であり、南部の表層を高水温・高塩 分の状態に維持している。北部の表層には、 対馬暖流よりも低温・低塩分な海水(以下、 2.2.4-1 日本海の海底地形 水深は、米国海洋大気庁地球物理データセンター 作成の ETOPO5 緯度経度 5 分格子の標高・水深 データ)による。 180

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

第2章 気候に関連する海洋の変動

2.2 日本近海の海洋変動

2.2.4 対馬暖流

対馬暖流

診断概要

診断内容

日本海の表層には、南部を中心に対馬海峡から流入する高温の対馬暖流が、北部を中心

に対馬暖流系の暖水より低温の海水が広がっている。ここでは、冬季の日本海側に大量の

降水をもたらす要因の一つとされる対馬暖流の長期変動について診断する。

診断結果

対馬暖流の勢力(100m深の水温が10℃以上の海域の面積)は、1985~2010年の26年間

では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、1990年代以降はおおむね平年(1985~2010

年の平均値)より強い状態が続いている。

1 日本海の基礎知識 (1)日本海の海底地形

日本海は、アジア大陸と日本列島に囲まれ

た縁海で、平均水深は 1667m( Menard and Smith, 1966)であるのに対し、隣接する海洋

とは浅く狭い海峡でつながっている(図2.2.4-1)。海盆は、中央の大和堆と呼ばれる浅瀬に

よって、その北側の日本海盆と南東側の大和

海盆に分かれている。また、大和堆から南に

は浅い隠岐海脚が連なっており、その西には

対馬海盆がある。

(2)日本海の海洋構造の特徴

日本海の海洋構造は、約300m深を境に表層

とそれ以深で分けることができる。更に表層

は、北緯40度付近を境に南部と北部に分ける

ことができる。 南部の表層には、東シナ海の大陸棚斜面を

流れる黒潮水を主な起源とし、対馬海峡を

通って流入する高温・高塩分水(以下、暖

水)が広がっている。その大部分は津軽海峡

を通って太平洋に、一部は宗谷海峡を通って

オホーツク海に流出する。この暖水の流れが

対馬暖流であり、南部の表層を高水温・高塩

分の状態に維持している。北部の表層には、

対馬暖流よりも低温・低塩分な海水(以下、

図2.2.4-1 日本海の海底地形

水深は、米国海洋大気庁地球物理データセンター

作成のETOPO5(緯度経度5分格子の標高・水深

データ)による。

180 180

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

第2章 気候に関連する海洋の変動

2.2 日本近海の海洋変動

2.2.4 対馬暖流

対馬暖流

診断概要

診断内容

日本海の表層には、南部を中心に対馬海峡から流入する高温の対馬暖流が、北部を中心

に対馬暖流系の暖水より低温の海水が広がっている。ここでは、冬季の日本海側に大量の

降水をもたらす要因の一つとされる対馬暖流の長期変動について診断する。

診断結果

対馬暖流の勢力(100m深の水温が10℃以上の海域の面積)は、1985~2010年の26年間

では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、1990年代以降はおおむね平年(1985~2010

年の平均値)より強い状態が続いている。

1 日本海の基礎知識 (1)日本海の海底地形

日本海は、アジア大陸と日本列島に囲まれ

た縁海で、平均水深は 1667m( Menard and Smith, 1966)であるのに対し、隣接する海洋

とは浅く狭い海峡でつながっている(図2.2.4-1)。海盆は、中央の大和堆と呼ばれる浅瀬に

よって、その北側の日本海盆と南東側の大和

海盆に分かれている。また、大和堆から南に

は浅い隠岐海脚が連なっており、その西には

対馬海盆がある。

(2)日本海の海洋構造の特徴

日本海の海洋構造は、約300m深を境に表層

とそれ以深で分けることができる。更に表層

は、北緯40度付近を境に南部と北部に分ける

ことができる。 南部の表層には、東シナ海の大陸棚斜面を

流れる黒潮水を主な起源とし、対馬海峡を

通って流入する高温・高塩分水(以下、暖

水)が広がっている。その大部分は津軽海峡

を通って太平洋に、一部は宗谷海峡を通って

オホーツク海に流出する。この暖水の流れが

対馬暖流であり、南部の表層を高水温・高塩

分の状態に維持している。北部の表層には、

対馬暖流よりも低温・低塩分な海水(以下、

図2.2.4-1 日本海の海底地形

水深は、米国海洋大気庁地球物理データセンター

作成のETOPO5(緯度経度5分格子の標高・水深

データ)による。

180

第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

冷水)が広がっている。暖水と冷水の境界と

なる北緯40度付近には、東西に延びる極前線

と呼ばれる水温・塩分の不連続線が形成され

ている(図2.2.4-2)。

一方、日本海の約300m以深は、日本海固有

水と呼ばれる水温0~1℃程度、塩分34.1程度

のほぼ均質な海水で占められている。日本海

は、その地形のため、周辺の海との海水交換

図2.2.4-2 100m深の水温の平年分布図(単位:℃)と極前線の平年の位置

左上:2月、右上:5月、左下:8月、右下:11月。海洋大循環モデルとデータ同化の解析結果による。平

年値は1985~2010年の26年平均値。白線は極前線の平年の位置で、100m深における月ごとの極前線の指

標水温(重岡 , 2010)を用いて位置を決定した。

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

が行われるのは表層に限られており、日本海

固有水は外洋から孤立している。 図2.2.4-4は、越前岬から北西に延びる観測

定線(PM線;図2.2.4-3)における冬季と夏季

の平均水温、及び平均塩分の断面図である。

北緯40度に近いPM-10付近の表層に水温・塩

分の等値線が混み合う極前線が存在し、その

南側に対馬暖流がもたらす暖水が、その北側

に冷水が分布している。約300m以深には、水

温が1℃以下の日本海固有水が分布している。 日本海では、春季から夏季には暖水側、冷

水側ともに海面から昇温し、海面から数十mの深さまで明瞭な水温躍層(以下、季節躍

層)が形成される。この季節躍層より浅い層

では、水温の南北差が小さくなるため極前線

は不明瞭となる。また、日本海固有水が占め

る約300m以深では、表層にみられる明確な水

温・塩分の南北差がなく、極前線はみられな

い。海面付近に形成される季節躍層より深く

日本海固有水よりも浅い表層であれば極前線

は年間を通じてみることができ、北日本や朝

鮮半島の近海を除くとおおむね北緯40度付近

に位置し、対馬暖流が岸に沿って流れている

北日本の近海ではおおむね岸と平行に位置し

ている(図2.2.4-2)。

(3)対馬暖流

ア 流路

対馬暖流の流路は不連続で複雑な形状を示

すことが多いが、対馬海峡や津軽海峡に近い

海域では比較的安定した流路をとっている。

水温の分布において、水温の水平勾配が大き

く等温線の間隔が狭くなっているところには、

等温線に沿って水温が高い側を右にみる方向

の流れが存在する。この流れは、等温線の間

隔が狭いほど強い。対馬海峡から隠岐諸島に

至る海域には等温線の間隔が狭くなっている

ところがあり、これとは別に、朝鮮半島の東

側にも等温線の間隔が狭くなっているところ

がみられ、いずれも対馬暖流の流路に相当す

ると考えられる(図2.2.4-2)。対馬暖流の流

路に相当する部分の水温の水平勾配を季節ご

とに比べてみると、8月及び11月は2月及び5月に比べて大きく明瞭なことからわかるように、

対馬暖流の流れは、冬季から春季に弱く、夏

季から秋季に強いという季節変動をしている。 イ 流量

対馬海峡から日本海に流入する流量とその

季節・経年変動については、海峡を挟む水位

差や海底ケーブルの電圧差からの推定や、係

留した流速計や船舶搭載の海流計によって直

接測定するなど、様々な方法で見積もられて

いる(Teague et al.,2002など)。Chang et al.(2004)は、これらの観測結果をまとめ、対

馬海峡を通過する流量には季節変動があり、

夏季から秋季にかけて大きいことを示した。

Fukudome et al.(2010)は、船舶に搭載した超

音波式ドップラー多層流速計による1997年2月~2007年2月の観測結果から、対馬海峡を通過

する流量は、平均すると2.65×106m3/sで、月

平均の最大値は10月で3.10×106m3/s、最小値

は1月で2.01×106m3/sであったとしている。

図2.2.4-3 定期的に観測を行っているPM線及び大

和海盆南西部(PM-5)、大和海盆北東部、日本海盆

東部及び日本海盆北東部の観測点の位置

PM線の北側は、1996年から青の実線に変更している。

182 182

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

が行われるのは表層に限られており、日本海

固有水は外洋から孤立している。 図2.2.4-4は、越前岬から北西に延びる観測

定線(PM線;図2.2.4-3)における冬季と夏季

の平均水温、及び平均塩分の断面図である。

北緯40度に近いPM-10付近の表層に水温・塩

分の等値線が混み合う極前線が存在し、その

南側に対馬暖流がもたらす暖水が、その北側

に冷水が分布している。約300m以深には、水

温が1℃以下の日本海固有水が分布している。 日本海では、春季から夏季には暖水側、冷

水側ともに海面から昇温し、海面から数十mの深さまで明瞭な水温躍層(以下、季節躍

層)が形成される。この季節躍層より浅い層

では、水温の南北差が小さくなるため極前線

は不明瞭となる。また、日本海固有水が占め

る約300m以深では、表層にみられる明確な水

温・塩分の南北差がなく、極前線はみられな

い。海面付近に形成される季節躍層より深く

日本海固有水よりも浅い表層であれば極前線

は年間を通じてみることができ、北日本や朝

鮮半島の近海を除くとおおむね北緯40度付近

に位置し、対馬暖流が岸に沿って流れている

北日本の近海ではおおむね岸と平行に位置し

ている(図2.2.4-2)。

(3)対馬暖流

ア 流路

対馬暖流の流路は不連続で複雑な形状を示

すことが多いが、対馬海峡や津軽海峡に近い

海域では比較的安定した流路をとっている。

水温の分布において、水温の水平勾配が大き

く等温線の間隔が狭くなっているところには、

等温線に沿って水温が高い側を右にみる方向

の流れが存在する。この流れは、等温線の間

隔が狭いほど強い。対馬海峡から隠岐諸島に

至る海域には等温線の間隔が狭くなっている

ところがあり、これとは別に、朝鮮半島の東

側にも等温線の間隔が狭くなっているところ

がみられ、いずれも対馬暖流の流路に相当す

ると考えられる(図2.2.4-2)。対馬暖流の流

路に相当する部分の水温の水平勾配を季節ご

とに比べてみると、8月及び11月は2月及び5月に比べて大きく明瞭なことからわかるように、

対馬暖流の流れは、冬季から春季に弱く、夏

季から秋季に強いという季節変動をしている。 イ 流量

対馬海峡から日本海に流入する流量とその

季節・経年変動については、海峡を挟む水位

差や海底ケーブルの電圧差からの推定や、係

留した流速計や船舶搭載の海流計によって直

接測定するなど、様々な方法で見積もられて

いる(Teague et al.,2002など)。Chang et al.(2004)は、これらの観測結果をまとめ、対

馬海峡を通過する流量には季節変動があり、

夏季から秋季にかけて大きいことを示した。

Fukudome et al.(2010)は、船舶に搭載した超

音波式ドップラー多層流速計による1997年2月~2007年2月の観測結果から、対馬海峡を通過

する流量は、平均すると2.65×106m3/sで、月

平均の最大値は10月で3.10×106m3/s、最小値

は1月で2.01×106m3/sであったとしている。

図2.2.4-3 定期的に観測を行っているPM線及び大

和海盆南西部(PM-5)、大和海盆北東部、日本海盆

東部及び日本海盆北東部の観測点の位置

PM線の北側は、1996年から青の実線に変更している。

182

第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

日本海中央部での対馬暖流の流量については、

PM線での観測データから地衡流量を求めるこ

とができる。この海域には、直径数十~百数

十km程度の渦がしばしば存在することから、

対馬暖流の流量は、日本側から極前線までの

正味の北東向き流量(北東向きの全流量から、

図2.2.4-4 PM線における冬季と夏季の水温(単位:℃)と塩分の平均分布

左上:冬季の水温、右上:冬季の塩分、左下:夏季の水温、右下:夏季の塩分。1972~1988年の冬季及

び夏季の水温・塩分を平均した(舞鶴海洋気象台 , 1990)。図中赤い点線で囲った等値線の混み合う箇所

が、極前線を示している。

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

南西向きの全流量を差し引いたもの)となる。

この流量にも、対馬海峡での通過流量と同様

に夏季から秋季にかけて大きいという季節変

動があり、1972~2008年までの夏季から秋季

の平均値は3.0±0.7×106m3/s(±の後の数値は標

準 偏 差 ) で 、 冬 季 か ら 春 季 の 平 均 値

2.5±0.6×106m3/sより大きくなっている。欠測

を含む年を除いた、1972~2008年までの年平

均値は2.8±0.7×106m3/sである。 ウ 気候への影響

対馬暖流によって供給された表層の暖水は、

冬季に大気海洋間での熱と水の交換を経て大

気に大量の水蒸気を供給しており、日本列島

の日本海側に大量の降水をもたらしている。

Hirose and Fukudome(2006)は、日本海側の

冬季降水量とその直前の秋季における対馬暖

流流量との間に、強い正の相関があるとして

いる。 また、日本海は、秋季から冬季にかけて大

気に熱を供給し、我が国の気候を温和なもの

にしているが、対馬暖流は日本海に暖水を供

給することで、日本海から大気に奪われる熱

を補い海水温の低下を和らげている。

2 対馬暖流の診断 (1)診断に用いるデータ

対馬暖流の勢力の指標として、海洋大循環

モデルとデータ同化の解析結果による、日本

海全域における100m深の水温が10℃以上の海

域の面積を診断に用いた。また、対馬暖流の

流量の指標については、舞鶴海洋気象台(現 日本海海洋気象センター)が1972年冬季から

2009年冬季まで各季節に観測していたPM線

(図2.2.4-3)の水温・塩分から求めた地衡流

量を用いた。 (2)対馬暖流の変動状況

1985年以降の対馬暖流の勢力の時系列を図

2.2.4-5に示す。期間内の対馬暖流の勢力は

1986年に最も弱く、その後1980年代末にかけ

て勢力を大きく増した。1990年以降は1996年や2006年に極小値を示したもののおおむね勢

力の強い状態が継続している。 PM線を横切る対馬暖流の地衡流量の経年変

動を図2.2.4-6に示す。流量は、1970年代半ば

から1980年代半ばにかけて減少傾向にあり、

最小値を記録した 1985年の年平均値は平年

(1985~2010年の平均値)より1.3×106m3/s少なかった。その後、流量は平年並まで増加し、

1990年以降は2009年までおおむね平年並ある

いは平年より多い状態が続いた。

3 診断

対馬暖流の勢力は、1985~2012年の28年間

では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、

1990年代以降はおおむね平年より強い状態が

続いている。また、日本海中央部での対馬暖

流の流量からも、同様の変動が確認されてい

る。

184 184

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

図2.2.4-5 対馬暖流の勢力の経年変動(1985~2012年)

海洋大循環モデルとデータ同化の解析結果による、100m深の水温が10℃以上の海域の面積の平年差の時

系列。図中の赤線が月の実況の平年差を、黒丸(●)が実況の平年差の年平均値を示している。平年値は

1985~2010年の過去26年間の平均値である。濃い青は1985~2010年の26年間に出現した月ごとの対馬暖流

の勢力の上位1/3及び下位1/3の事例を除いた範囲を、薄い青は1985~2010年の26年間に出現した上位1/10及び下位1/10を除いた範囲を示している。 診断では、濃い青の範囲を「平年並」、薄い青の範囲を「平年より強い(弱い)」、それ以外の範囲を

「平年よりかなり強い(弱い)」としている。

図2.2.4-6 PM線を横切る対馬暖流の地衡流量の経年変動(1972年冬季~2009年冬季)

黒線は観測値、赤線は年平均値。青線は年平均値の平年値(1981~2008年の平均値)。

185

第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

南西向きの全流量を差し引いたもの)となる。

この流量にも、対馬海峡での通過流量と同様

に夏季から秋季にかけて大きいという季節変

動があり、1972~2008年までの夏季から秋季

の平均値は3.0±0.7×106m3/s(±の後の数値は標

準 偏 差 ) で 、 冬 季 か ら 春 季 の 平 均 値

2.5±0.6×106m3/sより大きくなっている。欠測

を含む年を除いた、1972~2008年までの年平

均値は2.8±0.7×106m3/sである。 ウ 気候への影響

対馬暖流によって供給された表層の暖水は、

冬季に大気海洋間での熱と水の交換を経て大

気に大量の水蒸気を供給しており、日本列島

の日本海側に大量の降水をもたらしている。

Hirose and Fukudome(2006)は、日本海側の

冬季降水量とその直前の秋季における対馬暖

流流量との間に、強い正の相関があるとして

いる。 また、日本海は、秋季から冬季にかけて大

気に熱を供給し、我が国の気候を温和なもの

にしているが、対馬暖流は日本海に暖水を供

給することで、日本海から大気に奪われる熱

を補い海水温の低下を和らげている。

2 対馬暖流の診断 (1)診断に用いるデータ

対馬暖流の勢力の指標として、海洋大循環

モデルとデータ同化の解析結果による、日本

海全域における100m深の水温が10℃以上の海

域の面積を診断に用いた。また、対馬暖流の

流量の指標については、舞鶴海洋気象台(現 日本海海洋気象センター)が1972年冬季から

2009年冬季まで各季節に観測していたPM線

(図2.2.4-3)の水温・塩分から求めた地衡流

量を用いた。 (2)対馬暖流の変動状況

1985年以降の対馬暖流の勢力の時系列を図

2.2.4-5に示す。期間内の対馬暖流の勢力は

1986年に最も弱く、その後1980年代末にかけ

て勢力を大きく増した。1990年以降は1996年や2006年に極小値を示したもののおおむね勢

力の強い状態が継続している。 PM線を横切る対馬暖流の地衡流量の経年変

動を図2.2.4-6に示す。流量は、1970年代半ば

から1980年代半ばにかけて減少傾向にあり、

最小値を記録した 1985年の年平均値は平年

(1985~2010年の平均値)より1.3×106m3/s少なかった。その後、流量は平年並まで増加し、

1990年以降は2009年までおおむね平年並ある

いは平年より多い状態が続いた。

3 診断

対馬暖流の勢力は、1985~2012年の28年間

では、1986年が最も弱く、それ以降は増大し、

1990年代以降はおおむね平年より強い状態が

続いている。また、日本海中央部での対馬暖

流の流量からも、同様の変動が確認されてい

る。

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第2章 気候に関連する海洋の変動 対馬暖流

参考文献

Chang, K.-I., W.J. Teague, S.J. Lyu, H.T. Perkins,

D.-K. Lee, D.R. Watts, Y.-B. Kim, D.A. Mitchell,

C.M. Lee and K. Kim, 2004: Prog. Oceanogr., 61,

105-156.

Fukudome, K., J.-H. Yoon, A. Ostrovskii, T.

Takikawa and I.-S. Han, 2010: J. Oceanogr., 66,

539-551.

Hirose, N. and K. Fukudome, 2006: SOLA, 2, 061-

063.

舞鶴海洋気象台,1990:日本海海洋観測25年報.

Menard, H.W. and S.M. Smith, 1966: J. Geophys.

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