spirit - index - キリスト教思想の諸側面 thoughts/xt resumee.pdfキリスト教思想1...

33
キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected] ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 1 キリスト教思想の諸側面 シラバスの説明 0.世界の中のキリスト教 0.1. 宗教的趨勢 0.2. キリスト教とユダヤ教 0.2.1. 聖書 0.2.2. 伝統 B+C+D=キリスト教> 4-5 世紀成立 キリスト教的伝統 (教義・位階性など) D 新約聖書 C 旧約)聖書 B ユダヤ教的伝統 A (ミシュナ、タルムード、シナゴーグ伝統など) A+B=ユダヤ教> 0.3. キリスト教の教派 0.3.1. カトリック 0.3.2. プロテスタント 0.3.3. 正教 0.4. 教えと組織

Upload: others

Post on 06-Aug-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

1

キリスト教思想の諸側面 シラバスの説明 0.世界の中のキリスト教 0.1. 宗教的趨勢 0.2. キリスト教とユダヤ教 0.2.1. 聖書 0.2.2. 伝統 <B+C+D=キリスト教>

∥ 4-5 世紀成立 キリスト教的伝統

(教義・位階性など) D

新約聖書

C (旧約)聖書

B ユダヤ教的伝統 A

(ミシュナ、タルムード、シナゴーグ伝統など) ∥

<A+B=ユダヤ教> 0.3. キリスト教の教派 0.3.1. カトリック 0.3.2. プロテスタント 0.3.3. 正教 0.4. 教えと組織

Page 2: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

2

1. 創造論 (creation)

1.0. まえおき 1.0.1. ユダヤ教伝来の基本思想 1.0.2. 創造主(Creator)と被造物(creature):その差と一体性 1.1. 聖書の記事 1.1.1. 創世記

a. バビロン捕囚の時代 b. 苦難ゆえの普遍的地平の獲得

1:1 初めに、神は天地を創造された。 1:2 地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いてい

た。 1:3 神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった。 1:4 神は光を見て、良しとされた。神は光と闇を

分け、 1:5 光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。

1:6 神は言われた。「水の中に大空あれ。水と水を分けよ。」 1:7 神は大空を造り、大空の下と大空の上に水を

分けさせられた。そのようになった。 1:8 神は大空を天と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第二の日である。

1:9 神は言われた。「天の下の水は一つ所に集まれ。乾いた所が現れよ。」そのようになった。 1:10 神は乾いた

所を地と呼び、水の集まった所を海と呼ばれた。神はこれを見て、良しとされた。 1:11 神は言われた。「地は草

を芽生えさせよ。種を持つ草と、それぞれの種を持つ実をつける果樹を、地に芽生えさせよ。」そのようになった。

1:12 地は草を芽生えさせ、それぞれの種を持つ草と、それぞれの種を持つ実をつける木を芽生えさせた。神はこ

れを見て、良しとされた。 1:13 夕べがあり、朝があった。第三の日である。

1:14 神は言われた。「天の大空に光る物があって、昼と夜を分け、季節のしるし、日や年のしるしとなれ。 1:15

天の大空に光る物があって、地を照らせ。」そのようになった。1:16 神は二つの大きな光る物と星を造り、大きな

方に昼を治めさせ、小さな方に夜を治めさせられた。 1:17 神はそれらを天の大空に置いて、地を照らさせ、 1:18

昼と夜を治めさせ、光と闇を分けさせられた。神はこれを見て、良しとされた。 1:19 夕べがあり、朝があった。

第四の日である。

1:20 神は言われた。「生き物が水の中に群がれ。鳥は地の上、天の大空の面を飛べ。」 1:21 神は水に群がるも

の、すなわち大きな怪物、うごめく生き物をそれぞれに、また、翼ある鳥をそれぞれに創造された。神はこれを見

て、良しとされた。 1:22 神はそれらのものを祝福して言われた。「産めよ、増えよ、海の水に満ちよ。鳥は地の

上に増えよ。」 1:23 夕べがあり、朝があった。第五の日である。

1:24 神は言われた。「地は、それぞれの生き物を産み出せ。家畜、這うもの、地の獣をそれぞれに産み出せ。」

そのようになった。 1:25 神はそれぞれの地の獣、それぞれの家畜、それぞれの土を這うものを造られた。神はこ

れを見て、良しとされた。 1:26 神は言われた。「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう。そして海の魚、

空の鳥、家畜、地の獣、地を這うものすべてを支配させよう。」 1:27 神は御自分にかたどって人を創造された。

神にかたどって創造された。男と女に創造された。 1:28 神は彼らを祝福して言われた。「産めよ、増えよ、地に

満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ。」 1:29 神は言われた。「見よ、

全地に生える、種を持つ草と種を持つ実をつける木を、すべてあなたたちに与えよう。それがあなたたちの食べ物

となる。 1:30 地の獣、空の鳥、地を這うものなど、すべて命あるものにはあらゆる青草を食べさせよう。」その

ようになった。 1:31 神はお造りになったすべてのものを御覧になった。見よ、それは極めて良かった。夕べがあ

り、朝があった。第六の日である。

2:1 天地万物は完成された。 2:2 第七の日に、神は御自分の仕事を完成され、第七の日に、神は御自分の仕事を

離れ、安息なさった。 2:3 この日に神はすべての創造の仕事を離れ、安息なさったので、第七の日を神は祝福し、

聖別された。2:4 これが天地創造の由来である。

Page 3: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

3

1.1.2. 詩篇 139 篇

139:1 主よ、あなたはわたしを究め/わたしを知っておられる。 139:2 座るのも立つのも知り/遠くからわたし

の計らいを悟っておられる。139:3 歩くのも伏すのも見分け/わたしの道にことごとく通じておられる。 139:4 わ

たしの舌がまだひと言も語らぬさきに/主よ、あなたはすべてを知っておられる。 139:5 前からも後ろからもわ

たしを囲み/御手をわたしの上に置いていてくださる。 139:6 その驚くべき知識はわたしを超え/あまりにも高

くて到達できない。139:7 どこに行けば/あなたの霊から離れることができよう。どこに逃れれば、御顔を避ける

ことができよう。 139:8 天に登ろうとも、あなたはそこにいまし/陰府に身を横たえようとも/見よ、あなたは

そこにいます。139:9 曙の翼を駆って海のかなたに行き着こうとも 139:10 あなたはそこにもいまし/御手をもっ

てわたしを導き/右の御手をもってわたしをとらえてくださる。 139:11 わたしは言う。「闇の中でも主はわたし

を見ておられる。夜も光がわたしを照らし出す。」 139:12 闇もあなたに比べれば闇とは言えない。夜も昼も共に

光を放ち/闇も、光も、変わるところがない。 139:13 あなたは、わたしの内臓を造り/母の胎内にわたしを組み

立ててくださった。 139:14 わたしはあなたに感謝をささげる。わたしは恐ろしい力によって/驚くべきものに造

り上げられている。御業がどんなに驚くべきものか/わたしの魂はよく知っている。 139:15 秘められたところで

わたしは造られ/深い地の底で織りなされた。あなたには、わたしの骨も隠されてはいない。 139:16 胎児であっ

たわたしをあなたの目は見ておられた。わたしの日々はあなたの書にすべて記されている/まだその一日も造られ

ないうちから。 139:17 あなたの御計らいは/わたしにとっていかに貴いことか。神よ、いかにそれは数多いこと

か。 139:18 数えようとしても、砂の粒より多く/その果てを極めたと思っても/わたしはなお、あなたの中にい

る。 1.1.3. イザヤ 46:3-4

46:3 わたしに聞け、ヤコブの家よ/イスラエルの家の残りの者よ、共に。あなたたちは生まれた時から負われ/

胎を出た時から担われてきた。46:4 同じように、わたしはあなたたちの老いる日まで/白髪になるまで、背負っ

て行こう。わたしはあなたたちを造った。わたしが担い、背負い、救い出す。

1.1.4. 新約聖書より

ルカ 12:24-28

Lk12:24 烏からす

たちをつぶさに見よ。蒔かず、刈らず、納屋もなければ、倉もない。しかし神は彼らを養って下さ

る。あなたたちは鳥とり

たちよりもどれほど優れた者であろうか。Lk12:25 あなたたちのうちの誰が、思い煩ったか

らといって、自分の背丈を〔一〕ペキュス(=約 46cm)ほどでも伸ばせるだろうか。

Lk12:26 もしもこのように、最小限のこともなし得ないのならば、なぜあなたたちはほかのことで思い煩うのか。

Lk12:27 草花がどのように育つか、つぶさに見よ。労することをせず、紡ぐこともしない。しかし私はあなたた

ちに言う、栄華の極みのソロモンですら、これらの〔草花の〕一つほどにも装ってはいなかった。Lk12:28 もし、

今日きょう

野に生は

えていても明日は炉に投げ込まれる草を〔すら〕、神はこのようにまとわせて下さるのであれば、まし

てあなたたちを〔まとわせて下さるのは〕なおさらのことであろう、信〔頼〕の薄い者らよ。

マタイ 10:29

Mt10:29 二羽の雀は一アサリオンで売られているではないか。しかしその中の一羽ですらも、あなたたちの父な

しに地上に落ちることはない。

Page 4: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

4

1.2. 宗教史的概観 1.2.1. 創造論の類型

a. 一神のみによる創造 ヤハウェ〔ユダヤ教〕/アフラ・マズダ〔ペルシャ〕 マルドゥク〔vs. ティアマット:バビロニア〕

b. 二神(天の神と大地の神など)による創造 ウラノスとガイア〔ギリシャ〕/ヌトとセブ〔エジプト〕/イザナギノミコトとイザナミノミ

コト〔日本〕 1.2.2. 創造は反復される――creatio continua(創造の持続)

a. 毎年の創造反復(ペルシャ、バビロニア、未開諸族) 「アッラーは創造を成就し、かくてこそ繰り返す」(イスラム)

b. 新年祭の基盤観念

1.3. 「創造論」の人間学的根源――「神秘への驚嘆」が核 1.3.1. 宇宙・世界・事物の「秩序」への驚き 1.3.2. 「起源」への驚き(「第 1 原因」──アリストテレス) 1.3.3. 「美」への驚き(芸術) 1.3.4. 不可測な「エネルギー」への驚き

(参考・Big Bang の発想〔George Gamow, ロシア生まれ、米国ユダヤ系、1948 年発表〕180-120 億年前

10-23cm から誕生、それ以後膨張し続ける宇宙。銀河系は約 100 億年前、太陽系は約 46 億年前)

1.3.5. 生かされていることへの驚き creatio ex nihilo(「無よりの創造」──アウグスティヌス) 「小さき人間」への配慮 Footprints

One night I dreamed a dream.

I was walking along the beach with my Lord.

Across the dark sky flashed scenes from my life.

For each scene, I noticed two sets of footprints in the sand.

One belonging to me, and one to my Lord.

When the last scene of my life shot before me,

I looked back at the footprints in the sand.

There was only one set of footprints.

I realized that this was at the lowest and saddest times of my life.

This always bothered me and I questioned the Lord about my dilemma.

"Lord, you told me when I decided to follow you,

You would walk and talk with me all the way.

But I'm aware that during the most troublesome times of my life

Page 5: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

5

There is only one set of footprints.

I just don't understand why, when I needed You most, You left me."

He whispered, "My precious child, I love you and will never leave you .

Never, ever, during your trials and testings.

When you saw only one set of footprints it was then that I carried you."

(Margaret F. Powers)

1.4. 創造論への懐疑を巡って――「神秘への驚嘆」が失せるとき 1.4.1.「この世/生」への絶望に面して

a. 「よりよい世」を招来し、現状を克服するように尽力 b. よい「来世」が来ることへの希望 c. 「この世/生」とその創造主への憎しみ、呪い

c.a. ニヒリズム、自暴自棄 c.b. 「グノーシス主義」

d. 絶望の逆転 1.4.2. 苦難のどん底で

a. この生を憎むか、この生を愛するか 詩篇 88 篇 88:1 (2)主よ、わたしを救ってくださる神よ

昼は、助けを求めて叫び

夜も、御前におります。

88:2 (3)わたしの祈りが御もとに届きますように。

わたしの声に耳を傾けてください。

88:3 (4)わたしの魂は苦難を味わい尽くし

附論:グノーシス主義(紀元後1世紀末―4世紀頃) a. 定義

1. 至高者と自己の本質の同一性の認識(gnosis/悟り)を

救済原理とする 2. 宇宙論的霊肉二元論(反宇宙・反現世・反世界) 3. 天からの救済者を描く、神話的世界観を展開する

b. 歴史状況 ローマ帝国の周縁地帯、紀元1世紀終り/2世紀始め頃成立 ローマ帝国の絶対覇権

c. ユダヤ教の換骨奪胎が多い(ユダヤ教徒のユダヤ教離反) キリスト教内部にも浸透→キリスト教「グノーシス派」

d.「ナグ・ハマディ文書」の発見

Page 6: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

6

命は陰府にのぞんでいます。

88:4 (5)穴に下る者のうちに数えられ

力を失った者とされ

88:5 (6)汚れた者と見なされ

死人のうちに放たれて

墓に横たわる者となりました。

あなたはこのような者に心を留められません。

彼らは御手から切り離されています。

88:6 (7)あなたは地の底の穴にわたしを置かれます

影に閉ざされた所、暗闇の地に。

88:7 (8)あなたの憤りがわたしを押さえつけ

あなたの起こす波がわたしを苦しめます。

88:8 (9)あなたはわたしから

親しい者を遠ざけられました。

彼らにとってわたしは忌むべき者となりました。

わたしは閉じ込められて、出られません。

88:9 (10)苦悩に目は衰え

来る日も来る日も、主よ、あなたを呼び

あなたに向かって手を広げています。

88:10 (11)あなたが死者に対して驚くべき御業をなさったり

死霊が起き上がってあなたに

感謝したりすることがあるでしょうか。〔セラ

88:11 (12)墓の中であなたの慈しみが

滅びの国であなたのまことが語られたりするでしょうか。

88:12 (13)闇の中で驚くべき御業が

忘却の地で恵みの御業が

告げ知らされたりするでしょうか。

88:13 (14)主よ、わたしはあなたに叫びます。

朝ごとに祈りは御前に向かいます。

88:14 (15)主よ、なぜわたしの魂を突き放し

なぜ御顔をわたしに隠しておられるのですか。

88:15 (16)わたしは若い時から苦しんで来ました。

今は、死を待ちます。

あなたの怒りを身に負い、絶えようとしています。

88:16 (17)あなたの憤りがわたしを圧倒し

あなたを恐れてわたしは滅びます。

88:17 (18)それは大水のように

絶え間なくわたしの周りに渦巻き

Page 7: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

7

いっせいに襲いかかります。

88:18 (19)愛する者も友も

あなたはわたしから遠ざけてしまわれました。

今、わたしに親しいのは暗闇だけです。 b.「にもかかわらず――」の発想

詩篇 23 篇

23:1 主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。

23:2 主はわたしを青草の原に休ませ

憩いの水のほとりに伴い

23:3 魂を生き返らせてくださる。

主は御名にふさわしく

わたしを正しい道に導かれる。

23:4 死の陰の谷を行くときも

わたしは災いを恐れない。

あなたがわたしと共にいてくださる。

あなたの鞭、あなたの杖それがわたしを力づける。

23:5 わたしを苦しめる者を前にしても

あなたはわたしに食卓を整えてくださる。わたしの頭に香油を注ぎ

わたしの杯を溢れさせてくださる。

23:6 命のある限り

恵みと慈しみはいつもわたしを追う。

主の家にわたしは帰り

生涯、そこにとどまるであろう。

c. 「それゆえにこそ――」への転換 聖書外の記事から

c.a. A CREED FOR THOSE WHO HAVE SUFFERED

I asked God for strength,

that I might achieve,

I was made weak,

that I might learn humbly to obey.

I asked for health,

that I might do greater things,

I was given infirmity,

that I might do better things.

I asked for riches,

that I might be happy,

私は色々なことを達成出来るように

神に力を求めた

──〔ところが〕私は弱くされた

謙遜に、従うことを学びうるためだった。

私はもっと偉大なことが色々出来るように

健康を求めた

──〔ところが〕私には病が与えられた

よりよいことを色々できるようになるためだった。

私は幸福になるために

富を求めた

Page 8: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

8

I was given poverty,

that I might be wise.

I asked for power,

that I might have the praise of men,

I was given weakness,

that I might feel the need of God.

I asked for all things,

that I might enjoy life,

I was given life,

that I might enjoy all things.

I got nothing that I asked for -

but everything that I had hoped for,

Almost despite myself,

my unspoken prayers were answered.

I am among all men

most richly blessed.

──〔ところが〕私には貧困が与えられた

私に知恵が与えられるためだった。

私は人の賞讃を得るために

権力を求めた

──〔ところが〕私には弱さが与えられた

私が神を必要とするようになるためだった。

私は人生を楽しもうと

全てのことを求めた

──〔ところが〕私には、「いのち」が与えられた

全てのことを楽しめるようになるためだった。

私は求めたものは何一つ得なかった

しかし私が望んでいたものの全てを得た。

ほとんど気付かないうちに

口にしなかった祈りは尽く答えられた。

すべての人の中で

私ほど恵まれた者はいない。

無名の南軍兵士の作と言われる。Institute of Physical Medicine and

Rehabilitation (400 East 34th Street, New York City)に掲示。

c.b. 星野富弘氏

1946.4 群馬県生まれ 1970.4 高崎市の中学校に体育教師として赴任 1970.6 クラブ活動の指導中、頸髄損傷、手足の自由失う。 1974.12 受洗

(受洗時を思い返して)

私が入院する前の母は、昼は畑に四つんばいになって土をかきまわし、夜はうす暗い電燈の下で金が

ないと泣きごとを言いながら内職をしていた、私にとってあまり魅力のない母だった。私がけがをした

時、話をきいただけで貧血をおこし、気管切開の手術あとをみてへなへなと坐りこむ母だった。母が世

間一般にいう強い人なら、私をおいて家へ帰り、私のために自分のすべてを犠牲にするようなことはし

ないで、もっと別な方法を考えたかもしれない。しかし母には私をおきざりにできない弱さがあった。

そのどうにもならない弱さが、いまの母を支えているもっとも強い力なのではないだろうか。

もし私がけがをしなければ、この愛に満ちた母に気づくことなく、私は母をうす汚れたひとりの百姓

の女としてしかみられないままに、一生を高慢な気持ちで過ごしてしまう、不幸な人間になってしまっ

たかもしれなかった」(星野富弘『愛、深き淵より』p. 135)。

d. 現代への創造論的メッセージ:「絶望的状況」から逃げない。 「今は見えない意味」があることに賭けて、一歩踏み出す

Page 9: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

9

2. 終末論(eschatology) 2.1. 定義 2.1.1. 一般的な理解:「世の終わり(to eschaton)に関する事柄(ta eschata)を扱う言葉・思想」

2.1.2. 拡大した理解:「全く新しい事態がまもなく到来する、あるいはすでに到来したという事

態と時間の認識」 2.2. 聖書的・キリスト教的終末論 の概観 2.2.1. 旧約の預言者たちの終末論――共同体的終末論

a. 「記述預言者たち」(イザヤ書、エレミヤ書、エゼキエル書、十二小預言書) 捕囚期前の預言者たち(アモス、ホセア、イザヤ、ミカ、エレミヤ、エゼキエル) 捕囚期および捕囚期以後の預言者たち(エゼキエル、第二イザヤ、第三イザヤ、ハガイ、 ゼカリヤ等)

b. 例 アモス 8:2:

「我が民イスラエルの終りが来た。私は再び彼らを見過ごしにしない」。

イザヤ40:9-11:

「よきおとずれをシオンに伝える者よ、高い山にのぼれ。よきおとずれをエルサレムに伝える者よ、強

く声をあげよ、声をあげて恐れるな。ユダのもろもろの町に言え、『あなたがたの神を見よ』と。見よ、

主なる神は大能をもってこられ、その腕は世を治める。

見よ……主は牧者のようにその群れを養い、そのかいなに小羊をいだき、そのふところに入れて携えゆ

き、乳を飲ませているものをやさしく導かれる」。

イザヤ24:1-6. 17-20:

「見よ、主は地を裸にして、荒廃させ/地の面をゆがめて住民を散らされる。 民も祭司も、僕も主人も、

女の僕も女主人も/売る者も買う者も、貸す者も借りる者も/債権者も債務者も、すべて同じ運命にな

る。地は全く裸にされ、強奪に遭う。主がこの言葉を語られた。地は乾き、衰え/世界は枯れ、衰える。

地上の最も高貴な民も弱り果てる。地はそこに住む者のゆえに汚された。彼らが律法を犯し、掟を破り

/永遠の契約を棄てたからだ。それゆえ、呪いが地を食い尽くし/そこに住む者は罪を負わねばならな

かった。それゆえ、地に住む者は焼き尽くされ/わずかの者だけが残された……

地に住む者よ、恐怖と穴と罠がお前に臨む。恐怖の知らせを逃れた者は、穴に落ち込み/穴から這い上

がった者は、罠に捕らえられる。天の水門は開かれ、地の基は震え動く。地は裂け、甚だしく裂け/地

は砕け、甚だしく砕け/地は揺れ、甚だしく揺れる。地は、酔いどれのようによろめき/見張り小屋の

ようにゆらゆらと動かされる。地の罪は、地の上に重く/倒れて、二度と起き上がることはない」。

2.2.2. 「黙示思想」(apocalypticism)の終末論――世界的・宇宙的終末論 a. 旧約的終末論の世界大・宇宙大の表象的展開(紀元前3世紀頃以降) b. 恒常的な異邦人支配への怒り(弾圧への抵抗としてのダニエル書[前 160 年代]など) c. 地上的展開への絶望

Page 10: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

10

d.「世界/宇宙の終末」――「新しい創造」という視点 「創造論」の対概念としての「終末論」

e.「審き」:「審き手」と「復活」(2 種)、「天国」と「地獄」 f. 具体例

ダニエル書 12:1-3:

「12:1 その時、大天使長ミカエルが立つ。彼はお前の民の子らを守護する。その時まで、苦難が続く

国が始まって以来、かつてなかったほどの苦難が。

しかし、その時には救われるであろう

お前の民、あの書に記された人々は。

12:2 多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。ある者は永遠の生命に入り

ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。

12:3 目覚めた人々は大空の光のように輝き

多くの者の救いとなった人々はとこしえに星と輝く。」

モーセの遺訓 10:

「その時、彼(神)の国がそのすべての被造物のうちに現れるであろう。

その時、悪霊は終局を迎えるであろう。

そして、悲しみは(悪霊)とともに取り〔去ら〕れるであろう。

その時、み使いの手が充たされるであろう。

彼は最高(の地位)に立てられた者、

彼ら(民)を直ちにその敵どもから解放する者である。

天的なかたが、そのみ国の玉座から〔立ち上が〕り、

その子らのための憤りと怒りをもって、その聖なる住居から出てくるであろう。

地は震え、その果てに至るまで揺り動かされ、

高い山は低くされて揺り動かされ、谷底〔へ〕落ち込むであろう。

太陽は光を放たなくなるであろう。

そして、闇のうちで三日月の両先端は変わって砕け散り、

(月は)全体として血に変わるであろう。

そして、諸星(をいだく)天空は混乱するであろう。

海は深淵にまで退いて水の泉は枯れはて、川は干上がるであろう。

それは、永遠にして唯一のいと高き神が立ち上がって

異邦人に仇うちをするために公然と来臨し、

彼らの偶像をことごとく滅ぼすだろうからである。

その時、イスラエルよ、あなたはしあわせになるであろう。

あなたは鷲の頸と翼に乗り、(鷲の翼は)みたされるであろう。

神はあなたを高く挙げ、あなたを諸星の天に、

(諸星)の住居の場に留まらせるであろう。

あなたは高みから眺めて地上にあなたの敵どもを見、

Page 11: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

11

彼らの(ことを)知って喜び、

あなたの創造主に感謝し、また(彼を)ほめたたえるであろう」

(「モーセの遺訓」土岐健治訳)。

2.2.3. イエスの終末論

a.「神の王国」の接近・開始 「神の王国は近づいた」(マルコ 1:15)。

「あなた達のうえに神の王国は到来した」(ルカ 10:9 並行)。

「稲妻がひらめいて、大空の端から端へと輝くように、人の子もその日に現れるからである」(ルカ 17:24

並行)

「ノアの時代にあったようなことが、人の子が現れるときにも起こるだろう。ノアが箱舟に入るその日

まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていたが、洪水が襲って来て、一人残らず滅ぼし

てしまった」(ルカ 17:26-27 並行)。

b.悪の滅した社会(非差別・非抑圧社会)到来のヴィジョンに主眼、異邦人滅亡はなし c. 到来しなかった「神の王国」

2.2.4. 原始キリスト教の終末論――中間時 (interim time) a. イエス・キリストの出来事とこの世の終末との中間時としての今 b. パウロ

――「誰でもキリストにあるならば、その人は新しく造られたものである。古いものは過ぎ去った、見よ、

すべてが新しくなったのである」(2コリント 5:17)。

――「すなわち、キリストとその復活の力とを知り、その苦難にあずかって、その死のさまとひとしくな

り、なんとかして死人のうちからの復活に達したいのである。わたしがすでにそれを得たとか、すでに完

全な者になっているとか言うのではなく、ただ捕えようとして追い求めているのである。そうするのは、

キリスト・イエスによって捕えられているからである。兄弟たちよ。わたしはすでに捕えたとは思ってい

ない。ただこの一事を努めている。すなわち、後のものを忘れ、前のものに向かってからだを伸ばしつつ、

目標を目ざして走り、キリスト・イエスにおいて上に召して下さる神の賞与を得ようと努めているのであ

る」(フィリ3:10-14)。

c. ヨハネの黙示録 「わたしはまた、新しい天と新しい地を見た。最初の天と最初の地は去って行き、もはや海もなくなった。

更にわたしは、聖なる都、新しいエルサレムが、夫のために着飾った花嫁のように用意を整えて、神のも

とを離れ、天から下って来るのを見た。

そのとき、わたしは玉座から語りかける大きな声を聞いた。『見よ、神の幕屋が人の間にあって、神が人と

共に住み、人は神の民となる。神は自ら人と共にいて、その神となり、彼らの目の涙をことごとくぬぐい

取ってくださる。もはや死はなく、もはや悲しみも嘆きも労苦もない。最初のものは過ぎ去ったからであ

る』」(21:1-4)。

2.2.5. キリスト教的終末論(2世紀頃以降) a. 切迫性の喪失、終末論の排除 b. 時代遅れとなって行く表象的枠組み――「終末論」から「終末思想」へ

Page 12: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

12

「ニカイア・コンスタンティノポリス信条」(4世紀) 「わたしたちは、唯一の神、全能の父、天と地と、見えるものと見えないものすべての造り主

を信ずる。

わたしたちは、唯一の主、神の独り子、イエス・キリストを信ずる。主はすべての時に先立っ

て、父より生まれ、光よりの光、まことの神よりのまことの神、造られずに生まれ、父と同質で

あり、すべてのものはこの方によって造らた。主は、わたしたち人間のため、またわたしたちの

救いのために、天より降り、聖霊によって、おとめマリアより肉体を取って、人となり、わたし

たちのためにポンティオ・ピラトのもとで十字架につけられ、苦しみを受け、葬られ、聖書に従

って、三日目によみがえり、天に昇られた。そして父の右に座し、生きている者と死んだ者とを

さばくために、栄光をもって再び来られる。その御国は終わることがない。

わたしたちは、主であり、命を与える聖霊を信ずる。聖霊は、父と子から出て、父と子ととも

に礼拝され、あがめられ、預言者を通して語ってこられた。わたしたちは、唯一の、聖なる、公

同の、使徒的教会を信ずる。わたしたちは、罪のゆるしのための唯一の洗礼を、信じ告白する。

わたしたちは、死人のよみがえりと来るべき世の命を待ち望む。アーメン」。

「使徒信条」(成立不詳、2世紀~中世) 「天地の創造主、 全能の父である神を信ずる。父のひとり子、わたしたちの主イエス・キリストを信ずる。

主は聖霊によってやどり、おとめマリアから生まれ、ポンティオ・ピラトのもとで苦しみを受け、十字架

につけられて死に、葬られ、陰府(よみ)に下り、三日目に死者のうちから復活し、天に昇って、全能の

父である神の右の座に着き、生者と死者を裁くために来られる。聖霊を信じ、聖なる普遍の教会、聖徒の

交わり、罪のゆるし、からだの復活、永遠のいのちを信ずる。アーメン」。

2.3. 終末論の本質 2.3.1. 人間生来の「将来志向」性

a. 「将来」を好もしい形に造形し、望まぬ結果を予め迂回しようとする性向 b. 現在をこえるものとしての「将来」への期待――将来への「投企」、幸福の追求 c. 「将来」のある

、、事態の鮮明化――「終末論」の現出

2.3.2. 「終末」の接近1 a. まもなく来る――将来的終末論 b. もう始まった――現在的終末論

2.3.3. 「終末」の接近2 a. 望ましい形態にて――幸いの終末論 b. 望ましくない形態にて――禍いの終末論 c. 混合的な形態にて

2.3.4. 「終末」の接近3 a. 個人的次元――個人的終末論 b. 共同体的次元――共同体的(民族的)終末論 c. 全世界的・全宇宙的次元――世界的・宇宙的終末論

Page 13: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

13

2.3.5. 例 a. 不治の病の宣告 b. 婚約と結婚 c. 建国と亡国 d. 彗星に打たれる地球(SF)

e. 映画や小説の基本モチーフに

2.4. 「終末論」的時間構造自体――現代でも妥当する、 ただし将来予言などのあやふやさ・非到来

2.4.1. 「現在」が相対化される視点を提供――「終り」から「今」を見る a. 時代的状況――現在の環境破壊、人心崩壊 b. memento mori. 「死を憶えよ」の人間真実。

2.4.2. 「希望」、「夢」(=ヴィジョン)を持つ――人間の必然性 a. 「悪」の克服へのヴィジョン b. 人間のあり得る姿への憧憬

2.4.3. 極限的観察・「いのち」の構造自体の終末論的性格――毎瞬毎瞬を顕微鏡的に見る a. 毎瞬が絶えざる「終末」の到来 b. 毎瞬が絶えざる、無償の新しい「いのち」の発生

「私たちの外なる人は滅びゆく一方、内なる人は日ごとに新しくされていく」(2コリント 4:16)。

Page 14: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

14

3.契約論 3.1.「契約」という言葉 3.1.1. contract

a. 対等の者が合意の上で取り交わす b. 権利と義務

3.1.2. convenant/berît: 「聖契約」?「聖約」? a. 神が無償で救いを提供

「無資格者」を一方的な善意で「選ぶ」 b. 人間は応答(response)を要請される

・受け入れること ・それにふさわしく生きること

c. 古代オリエントの「宗主権条約」(=封建的主従関係)との類似 3.2. 背後の人間的真実 3.2.1. 驚くべき恵みの体験(=救われた、としか感じられない体験) 3.2.2.「体験」と「思想」

a. 「体験」の言語化・表象化としての「思想」 b. 「思想」の拡大伝播と「追体験」

3.2.3. 「個人」の重要性と主体性 3.3. 旧約聖書における様々な「契約」 3.3.1. 「ノアの契約」

a. 創世記 9:8-17[P] 9:8 神はノアと彼の息子たちに言われた。 9:9 「わたしは、あなたたちと、そして後に続く子孫と、

契約を立てる。 9:10 あなたたちと共にいるすべての生き物、またあなたたちと共にいる鳥や家畜や

地のすべての獣など、箱舟から出たすべてのもののみならず、地のすべての獣と契約を立てる。 9:11

わたしがあなたたちと契約を立てたならば、二度と洪水によって肉なるものがことごとく滅ぼされる

ことはなく、洪水が起こって地を滅ぼすことも決してない。」 9:12 更に神は言われた。「あなたた

ちならびにあなたたちと共にいるすべての生き物と、代々とこしえにわたしが立てる契約のしるしは

これである。 9:13 すなわち、わたしは雲の中にわたしの虹を置く。これはわたしと大地の間に立て

た契約のしるしとなる。 9:14 わたしが地の上に雲を湧き起こらせ、雲の中に虹が現れると、 9:15 わ

たしは、わたしとあなたたちならびにすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた契約に心を

留める。水が洪水となって、肉なるものをすべて滅ぼすことは決してない。 9:16 雲の中に虹が現れ

ると、わたしはそれを見て、神と地上のすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた永遠の契

約に心を留める。」 9:17 神はノアに言われた。「これが、わたしと地上のすべて肉なるものとの間

に立てた契約のしるしである。」

c. 被造物全体との保守契約

Page 15: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

15

3.3.2. 「アブラハム契約」 a. 創世記 12:1-3、15:1-3[J]. 5-6 [E]. 7-12.17-18 [J]

12:1 主はアブラムに言われた。「あなたは生まれ故郷、父の家を離れて、わたしが示す地に行きな

さい。 12:2 わたしはあなたを大いなる国民にし、あなたを祝福し、あなたの名を高める、祝福の源

となるように。 12:3 あなたを祝福する人をわたしは祝福し、あなたを呪う者をわたしは呪う。地上

の氏族はすべて、あなたによって祝福に入る。」

15:5 主は彼を外に連れ出して言われた。「天を仰いで、星を数えることができるなら、数えてみる

がよい。」そして言われた。「あなたの子孫はこのようになる。」 15:6 アブラムは主を信じた。主

はそれを彼の義と認められた。

15:7 主は言われた。「わたしはあなたをカルデアのウルから導き出した主である。わたしはあなた

にこの土地を与え、それを継がせる。」 15:8 アブラムは尋ねた。「わが神、主よ。この土地をわた

しが継ぐことを、何によって知ることができましょうか。」 15:9 主は言われた。「三歳の雌牛と、

三歳の雌山羊と、三歳の雄羊と、山鳩と、鳩の雛とをわたしのもとに持って来なさい。」 15:10 ア

ブラムはそれらのものをみな持って来て、真っ二つに切り裂き、それぞれを互いに向かい合わせて置

いた。ただ、鳥は切り裂かなかった。 15:11 禿鷹がこれらの死体をねらって降りて来ると、アブラ

ムは追い払った。 15:12 日が沈みかけたころ、アブラムは深い眠りに襲われた。すると、恐ろしい

大いなる暗黒が彼に臨んだ。・・・

15:17 日が沈み、暗闇に覆われたころ、突然、煙を吐く炉と燃える松明が二つに裂かれた動物の間を

通り過ぎた。 15:18 その日、主はアブラムと契約を結んで言われた。「あなたの子孫にこの土地を

与える。エジプトの川から大河ユーフラテスに至るまで、 15:19 カイン人、ケナズ人、カドモニ人、

15:20 ヘト人、ペリジ人、レファイム人、 15:21 アモリ人、カナン人、ギルガシ人、エブス人の土

地を与える。」

b. 「アブラハムの子孫」との、土地授与の契約

3.3.3. 「シナイ契約」――ユダヤ教の中核 a. 一部の者たちの出エジプト体験――苦難からの救済体験

出エジプト20:1-2 神はこれらすべての言葉を告げられた。「わたしは主、あなたの神、あなた

をエジプトの国、奴隷の家から導き出した神である。

b. その思想の共有化 26:5-11 あなたはあなたの神、主の前で次のように告白しなさい。「わたしの先祖は、滅びゆく一アラム

人であり、わずかな人を伴ってエジプトに下り、そこに寄留しました。しかしそこで、強くて数の多い、大

いなる国民になりました。エジプト人はこのわたしたちを虐げ、苦しめ、重労働を課しました。わたしたち

が先祖の神、主に助けを求めると、主はわたしたちの声を聞き、わたしたちの受けた苦しみと労苦と虐

げを御覧になり、 力ある御手と御腕を伸ばし、大いなる恐るべきこととしるしと奇跡をもってわたしたち

をエジプトから導き出し、この所に導き入れて乳と蜜の流れるこの土地を与えられました。わたしは、主

が与えられた地の実りの初物を、今、ここに持って参りました。」あなたはそれから、あなたの神、主の

Page 16: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

16

前にそれを供え、あなたの神、主の前にひれ伏し、あなたの神、主があなたとあなたの家族に与えられ

たすべての賜物を、レビ人およびあなたの中に住んでいる寄留者と共に喜び祝いなさい。

c. イスラエルの民との契約 出エジプト24:4 モーセは主の言葉をすべて書き記し、朝早く起きて、山のふもとに祭壇を築き、十

二の石の柱をイスラエルの十二部族のために建てた。 24:5 彼はイスラエルの人々の若者を遣わし、

焼き尽くす献げ物をささげさせ、更に和解の献げ物として主に雄牛をささげさせた。 24:6 モーセは

血の半分を取って鉢に入れて、残りの半分を祭壇に振りかけると、 24:7 契約の書を取り、民に読ん

で聞かせた。彼らが、「わたしたちは主が語られたことをすべて行い、守ります」と言うと、 24:8 モ

ーセは血を取り、民に振りかけて言った。「見よ、これは主がこれらの言葉に基づいてあなたたちと

結ばれた契約の血である。」

d. 契約の徴としての「割礼」 e. 「トーラー」(「教え」、律法)の付与――敬神の道と隣人への正しい振舞い

出エジプト20:1 神はこれらすべての言葉を告げられた。

20:2 「わたしは主、あなたの神、あなたをエジプトの国、奴隷の家から導き出した神である。

20:3 あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない。

20:4 あなたはいかなる像も造ってはならない。上は天にあり、下は地にあり、また地の下の水の中

にある、いかなるものの形も造ってはならない。

20:5 あなたはそれらに向かってひれ伏したり、それらに仕えたりしてはならない。わたしは主、あ

なたの神。わたしは熱情の神である。わたしを否む者には、父祖の罪を子孫に三代、四代までも問う

が、

20:6 わたしを愛し、わたしの戒めを守る者には、幾千代にも及ぶ慈しみを与える。

20:7 あなたの神、主の名をみだりに唱えてはならない。みだりにその名を唱える者を主は罰せずに

はおかれない。

20:8 安息日を心に留め、これを聖別せよ。

20:9 六日の間働いて、何であれあなたの仕事をし、 20:10 七日目は、あなたの神、主の安息日で

あるから、いかなる仕事もしてはならない。あなたも、息子も、娘も、男女の奴隷も、家畜も、あな

たの町の門の中に寄留する人々も同様である。 20:11 六日の間に主は天と地と海とそこにあるすべ

てのものを造り、七日目に休まれたから、主は安息日を祝福して聖別されたのである。

20:12 あなたの父母を敬え。そうすればあなたは、あなたの神、主が与えられる土地に長く生きる

ことができる。

20:13 殺してはならない。

20:14 姦淫してはならない。

20:15 盗んではならない。

20:16 隣人に関して偽証してはならない。

20:17 隣人の家を欲してはならない。隣人の妻、男女の奴隷、牛、ろばなど隣人のものを一切欲し

てはならない。」

20:18 民全員は、雷鳴がとどろき、稲妻が光り、角笛の音が鳴り響いて、山が煙に包まれる有様を

見た。民は見て恐れ、遠く離れて立ち、

Page 17: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

17

20:19 モーセに言った。「あなたがわたしたちに語ってください。わたしたちは聞きます。神がわ

たしたちにお語りにならないようにしてください。そうでないと、わたしたちは死んでしまいます。」

20:20 モーセは民に答えた。「恐れることはない。神が来られたのは、あなたたちを試すためであ

り、また、あなたたちの前に神を畏れる畏れをおいて、罪を犯させないようにするためである。」

20:21 民は遠く離れて立ち、モーセだけが神のおられる密雲に近づいて行った。

f.「契約的遵法主義」(covenantal nomism)

3.3.4. 「ダビデ契約」 a. サム下 7:8-17

7:8 わたしの僕ダビデに告げよ。万軍の主はこう言われる。わたしは牧場の羊の群れの後ろからあなた

を取って、わたしの民イスラエルの指導者にした。 7:9 あなたがどこに行こうとも、わたしは共にいて、

あなたの行く手から敵をことごとく断ち、地上の大いなる者に並ぶ名声を与えよう。 7:10 わたしの民

イスラエルには一つの所を定め、彼らをそこに植え付ける。民はそこに住み着いて、もはや、おののく

ことはなく、昔のように不正を行う者に圧迫されることもない。 7:11 わたしの民イスラエルの上に士

師を立てたころからの敵をわたしがすべて退けて、あなたに安らぎを与える。主はあなたに告げる。主

があなたのために家を興す。 7:12 あなたが生涯を終え、先祖と共に眠るとき、あなたの身から出る子

孫に跡を継がせ、その王国を揺るぎないものとする。 7:13 この者がわたしの名のために家を建て、わ

たしは彼の王国の王座をとこしえに堅く据える。 7:14 わたしは彼の父となり、彼はわたしの子となる。

彼が過ちを犯すときは、人間の杖、人の子らの鞭をもって彼を懲らしめよう。 7:15 わたしは慈しみを

彼から取り去りはしない。あなたの前から退けたサウルから慈しみを取り去ったが、そのようなことは

しない。 7:16 あなたの家、あなたの王国は、あなたの行く手にとこしえに続き、あなたの王座はとこ

しえに堅く据えられる。」 7:17 ナタンはこれらの言葉をすべてそのまま、この幻のとおりにダビデに

告げた。

b. ダビデ王家存続の保証 3.3.5.「新しい契約」

a. エレ 31:31-34 31:31 見よ、わたしがイスラエルの家、ユダの家と新しい契約を結ぶ日が来る、と主は言われる。 31:32

この契約は、かつてわたしが彼らの先祖の手を取ってエジプトの地から導き出したときに結んだもので

はない。わたしが彼らの主人であったにもかかわらず、彼らはこの契約を破った、と主は言われる。 31:33

しかし、来るべき日に、わたしがイスラエルの家と結ぶ契約はこれである、と主は言われる。すなわち、

わたしの律法を彼らの胸の中に授け、彼らの心にそれを記す。わたしは彼らの神となり、彼らはわたし

の民となる。 31:34 そのとき、人々は隣人どうし、兄弟どうし、「主を知れ」と言って教えることはな

い。彼らはすべて、小さい者も大きい者もわたしを知るからである、と主は言われる。わたしは彼らの

悪を赦し、再び彼らの罪に心を留めることはない。

b. 将来の新契約への展望

Page 18: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

18

3.4. 新約聖書における「契約」(「新しい契約」) 3.4.1. ナザレ村のイエスの活動(28-30 年ごろ) a. 「神の王国」の宣教

マルコ 1:15 〔彼は〕言い〔続け〕た、「〔この〕時は満ちた、そして神の王国*は近づいた。回心せよ、そして福音の中で信ぜよ」。

b. 没落者・被差別者との連帯 マルコ 2:15-17 さて、彼の家でイエスが〔食事の座で〕横になるということが生じる。さらに、多くの徴

税人や罪人が、イエスやその弟子たちと一緒に横になっていた。彼に従っていたそのような者たちは、

実に大勢いたのである。するとファリサイ人びと

たちの律法学者らが、彼が罪人や徴税人と食事をしている

のを見て、彼の弟子たちに言うのであった、「なぜ彼は、徴税人どもや罪人らと共に食事などをするのか」。

そこでイエスは〔これを〕聞いて彼らに言う、「丈夫な者らに医者はいらない、いるのは患っている者た

ちだ。私は『義人』どもを呼ぶためではなく、『罪人』たちを呼ぶために来たのだ」。

3.4.2. イエスへの裏切り(マルコ 14:50、14:66-72 参照)――弟子たちの「パラダイム」崩壊

マルコ 14:50 すると全員が、彼を見捨てて逃げて行った。・・・

マルコ 14:66-72 さて、ペトロが下の中庭にいると、大祭司の女中の一人がやって来る。 そしてペトロ

が暖をとっているのを見、彼をしげしげと眺めて言う、「お前さんも、あのナザレ人イエスと一緒だった

ね」。 しかし彼はそれを否定して言った、「俺はお前なぞが何を言っているか知らないし、わからない」。

そして彼は、外の前庭に出て行った。[すると鶏が啼いた。] そこで例の女中が彼を見て、かたわらに

立っている者たちに再び言い始めた、「この男も彼らの一味なのよ」。Mk14:70 しかし彼は再び否定する

のであった。そして少し間をおいて、かたわらに立っている者たちがまたペトロに言い出した、「ほんと

うにお前はあいつらの一味だ。なぜといって、お前はガリラヤ人だからな」。 そこで彼は、呪い始め、

また誓い〔始めた〕、「俺はお前たちの言っているあんな人間なぞ知らない」。するとすぐに、鶏が二度目

に啼いた。そこでペトロは、「鶏が二度啼く前に、あなたは三度私を否むだろう」、とイエスが彼に語っ

た時の言葉を想い出した。そして、どっと泣き崩れた。 3.4.3. 「イースター事件」(30 年)──死んだイエスが生きている

a. 覚醒体験=「(彼は)ケファに現れた」(1コリント 15:5-8、ルカ 24:34) 裏切りへの赦しとして理解

b.「起こし」(復活)として定式化:「神はイエスを死人の中より起こした」(ロマ 10:9,使 2:24,等多数)

c. 帰結: エルサレム原始教会の発生、その他 3.4.4. 新しい救いの「契約」として把握

a. 「古い契約」の決定的更新としての「新しい契約」という発想 最後の夕食――十二人の弟子たちと結ぶ契約=総ての新しいイスラエルと結ぶ契約

1コリント11:23 わたしがあなたがたに伝えたことは、わたし自身、主から受けたものである。すなわち、主イエス

は、引き渡される夜、パンを取り、 11:24 感謝の祈りをささげてそれを裂き、言った、「これは、あなたがたのた

めのわたしの体である。わたしの記念としてこのように行いなさい。」 11:25 また、食事の後で、杯も同じように

して、言った、「この杯は、わたしの血によって立てられる新しい契約である。飲む度に、わたしの記念としてこの

Page 19: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

19

ように行いなさい。」 11:26 だから、あなたがたは、このパンを食べこの杯を飲むごとに、主が来られるときまで、

主の死を告げ知らせるのである。

マルコ14:22 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、賛美の祈りを唱えて、それを裂き、弟子たちに与

えて言った。「取りなさい。これはわたしの体である。」 14:23 また、杯を取り、感謝の祈りを唱えて、彼らに渡し

た。彼らは皆その杯から飲んだ。 14:24 そして、イエスは言った。「これは、多くの人のために流されるわたしの

血、契約の血である。 14:25 はっきり言っておく。神の国で新たに飲むその日まで、ぶどうの実から作ったもの

を飲むことはもう決してあるまい。」

b. 「罪」と「死」の克服としての「新しい契約」 1 コリント 15:3-5 「キリストは、聖書に従って、私たちの〔諸々の〕罪のために死んだ、そして埋葬された、そして聖書

に従って、三日目に〔死者たちの中から〕起こされ〔て今に至っ〕いる、そしてケファに現れ、次に十

二人に〔現れた〕」。

c. イスラエル共同体の枠の突破→後にさらに拡大(異邦人への無償提供) マタイ28:18 イエスは、近寄って来て言った。「わたしは天と地の一切の権能を授かっている。28:19 だから、あ

なたがたは行って、すべての異邦人をわたしの弟子にしなさい。彼らに父と子と聖霊の名によって洗礼を授け、

28:20 あなたがたに命じておいたことをすべて守るように教えよ。わたしは世の終わりまで、いつもあなたがたと

共にいる。」

Page 20: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

20

4.贖罪論・贖い(redemption/redeem) 4.1. 一般的な日本語法: 「償い(つぐない)」――私が私のために 「贖い(あがない)」――他者が私のために 4.2. 但し、「贖う」とは、元来「買う」こと。

「罪」を「買う」とは?――意味が不鮮明になる原因1。 それ以外の類義語あるいは関連語との関連不明確――意味が不鮮明になる原因2。

4.3. 代苦・代死の思想 4.3.1. 旧約聖書より 4.3.1.1. 代理:本来神に捧げるべきものの代わりに、別のものをささげる(祭儀律法) 驢馬の初子の代わりに小羊(出 13:13)、男の初子の代わりに 5 シェケルの金(民 18:15-16)、 家畜や畑の代わりに奉納金(レビ 27:13-20)、など。 4.3.1.2. 代死:本来自分が「償う」はずのものを、動物等に代わって(「贖って」)もらう

――動物祭儀の一意義 レビ 4-5 参照

4:27-31 一般の人のだれかが過って罪を犯し、禁じられている主の戒めを一つでも破って責めを負い、

犯した罪に気づいたときは、献げ物として無傷の雌山羊を引いて行き、献げ物の頭に手を置き、焼き尽

くす献げ物を屠る場所で贖罪の献げ物を屠る。祭司はその血を指につけて、焼き尽くす献げ物の祭壇の

四隅の角に塗り、残りの血は全部、祭壇の基に流す。奉納者は和解の献げ物から脂肪を切り取ったよう

に、雌山羊の脂肪をすべて切り取る。祭司は主を宥める香りとしてそれを祭壇で燃やして煙にする。祭

司がこうして彼のために罪を贖う儀式を行うと、彼の罪は赦される。 4.3.1.3. 古代人の感覚的前提 「罪」は復讐する。誰かがそれを受け止めて初めて、「罪」のエネルギーが無化される。 (「罪」のブーメラン運動) 4.3.1.4. イザヤ 53 章

53:1 わたしたちの聞いたことを、誰が信じえようか。主は御腕の力を誰に示されたことがあろうか。 53:2

乾いた地に埋もれた根から生え出た若枝のように/この人は主の前に育った。見るべき面影はなく/輝か

しい風格も、好ましい容姿もない。 53:3 彼は軽蔑され、人々に見捨てられ/多くの痛みを負い、病を知

っている。彼はわたしたちに顔を隠し/わたしたちは彼を軽蔑し、無視していた。 53:4 彼が担ったのは

わたしたちの病/彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに/わたしたちは思っていた/神の手にか

かり、打たれたから/彼は苦しんでいるのだ、と。 53:5 彼が刺し貫かれたのは/わたしたちの背きのゆ

えであり/彼が打ち砕かれたのは/わたしたちの咎のゆえであった。彼の受けた懲らしめによって/わた

したちに平和が与えられ/彼の受けた傷によって、わたしたちはいやされた。 53:6 わたしたちは羊の群

れ/道を誤り、それぞれの方角に向かって行った。そのわたしたちの罪をすべて/主は彼に負わせられた。

53:7 苦役を課せられて、かがみ込み/彼は口を開かなかった。屠り場に引かれる小羊のように/毛を切る

者の前に物を言わない羊のように/彼は口を開かなかった。 53:8 捕らえられ、裁きを受けて、彼は命を

Page 21: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

21

取られた。彼の時代の誰が思い巡らしたであろうか/わたしの民の背きのゆえに、彼が神の手にかかり/

命ある者の地から断たれたことを。 53:9 彼は不法を働かず/その口に偽りもなかったのに/その墓は神

に逆らう者と共にされ……た。……53:12 ……彼は自らをなげうち、死んで/罪人のひとりに数えられた。

多くの人の過ちを担い/背いた者のために執り成しをしたのは/この人であった」。

4.3.2. 新約聖書より 4.3.2.1. イエスの死を、「代死」として

単語: lytron 「身代金」、 hyper/dia/pros 「のゆえに/ために」 ・「10:42 そこでイエスは、彼らを呼び寄せ、彼らに言う、「あなたたちが知っている通り、異邦人たちの支

配者と思われている者どもは、彼らを〔暴圧で〕支配し、彼らの大いなる者どもは、彼らに圧政を加えて

いる。10:43 しかし、あなたたちの間ではそうではない。むしろ、あなたたちの間で大いなる者になりた

いと思う者は、あなたたちに仕える者となるだろう。10:44 また、あなたたちの間で筆頭の者でありたいと

思う者は、万人の奴隷になるだろう。10:45 なぜならば、《人の子》も仕えられるためではなく、仕えるた

めに来たのだ。そしてまた、自分の 命いのち

を多くの人のための身代金(lytron)として与えるために〔来たの

だ〕」(マコ 10:42-45、特に 45 節=マタ 20:28)。

・「彼はすべての人の身代金(antilytron)として自分を捧げた」(1 テモ 2:6)。

・「15:3 キリストは、聖書に従って、私たちの〔諸々の〕罪のために(hyper)死んだ、15:4 そして埋葬さ

れた、そして聖書に従って、三日目に〔死者たちの中から〕起こされ〔て今に至っ〕ている」 (1 コリ 15:3-4)。

――直弟子たちの、イエスへの裏切り体験 ――代死を遂げた者への罪責意識と感謝との同居

4.3.2.2. 人間的現実として

a. 他者が当事者(私)のために、禍いを(代わって)受ける事態の発生 →その衝撃の言語化(イエスと弟子たちの関係の例)

b. 代苦・代死に満ちた現実――→生命の一実相 誰かが我々の代わりに苦しみ、死んでいく 我々は誰かの代わりに苦しみ、死んでいく

4.3.2.3. 「キリストは私たちの(罪の)ために」というキリスト教的定式の問題性 a. 教義的お題目になりがち b. 類似状況→追体験→はじめて理解が可能に

Page 22: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

22

5. 三位一体論(さんみいったいろん・さんいいったいろん・trinitas/trinity) 5.1. 神は「父」「子」「聖霊」という3つの「ペルソナ/位格」(personae)と1つの「実体」(substantia)

においてあるという、キリスト教の中心的教義 5.1.1. 新約聖書には明確な思想としてはない(マタイ 28:19、2 コリント 13:13 などモチーフとしてのみ)

アンティオキア主教のテオフィロス(180 頃):神、ロゴス、知恵を trias と呼んだ。 教父テルトゥリアヌス(150/160-220 頃)が trinitas という語を造った。

5.1.2. 諸信条における表現 「古ローマ信条」(2 世紀後半)と「使徒信条」(4-8 世紀、下線部分が付加される)

「我は天地の造り主、全能の父なる神を信ず。 我はその独り子、我らの主、イエス・キリストを信ず。主は聖霊によりてやど

り、処女マリヤより生れ、ポンテォ・ピラトのもとに苦しみを受け、十字架に

つけられ、死にて葬られ、陰府にくだり、三日目に死人のうちより甦り、天に

昇り、全能の父なる神の右に坐し給えり、かしこより来りて生ける者と死せる

者とを審きたまわん。 我は聖霊を信ず。聖なる公同の教会、聖徒の交わり、罪の赦し、身体の甦り、

永遠の生命を信ず。アーメン」

〔『信条集 前篇』より、ただし漢字を改め、若干の訂正を付加〕。

「ニカイア・コンスタンチノポリス信条」(4世紀-451)における確立 「我らは、全能の父なる唯一の神、天と地、すべて見えるものと見えざるもの

との創造者を信ずる。 また、我らは、唯一の主イエス・キリスト、あらゆる代のさきに御父より生ま

れ給える、神の生み給える独りの御子、光より出でたる光、真の神より出でた

る真の神、生まれ給いて造られず、御父と同質たる御方を信ずる。万物は、主

によりて成り、主は我ら人間のため、また我らの救のために、天よりくだり、

聖霊と処女マリヤとによって肉をとって人となり、ポンテォ・ピラトの時、我

らのために十字架につけられ、苦しみを受け、葬られ、聖書に応じて三日目に

甦り、天に昇り、御父の右に坐し、生ける者と死せる者とを審くために、栄光

のうちに再び来り給う。その御国は終ることがない。 また、我らは、聖霊、主となり活かし、御父[と御子]より出で、御父と御子と

ともに礼拝せられ崇められ預言者らを通して語り給う御方を信ずる。 我らは、一つであって聖き公同たる使徒的教会を信ずる。我らは罪の赦しのた

めの一つなる洗礼に同意を告白する。我らは、死人の甦りと来るべき代の生命

とを待ち望むのである」

〔『信条集 前篇』より、ただし漢字を改め、若干の訂正を付加〕。

5.1.3. 美術による表現 5.1.3.1. 円、三角形など

5.1.3.2. キリスト(幼児、受難者、あるいは全能者)を抱く父なる神、そして鳩(12 世紀以来)

Page 23: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

23

5.2. 「3つのペルソナ、1つの実体」(tres personae, una substantia)(アウグスティヌス、354-430、その

『三位一体論』399-419 [中沢宣夫訳『三位一体論』東京大学出版会、1975 など種々の訳あり]) 5.2.1. persona(e)

ギリシャ語の hypostasis の訳として、テルトリアヌスが使った。 元来の意味は「仮面」→「演じている役」

5.2.2. substantia 3つの personae に共通の一体性 一致・統合の表現

→3つの異なる「役(者)」が存在する、それを通して単一の作者の世界が実現する 3つの区別される「あり方」を通して、単一の実体が実現する

世俗的例:<家族>=父、母、子供 <大学>=学生、教師、事務職

5.3. 教理史から 5.3.1. 前提条件

ユダヤ教的一神論(ただし歴史に介入する神)に対して、どのように差異化を図るか 異教の多神論に対して、どのように一神論を展開できるか グノーシス派の霊的キリスト論(←受肉のロゴスとしてのキリスト(ヨハネ 1:14)) イエスの神格化――すると神は二人いるのか、という疑問にどう答えるか 一即複、複即一の論理の必然性が浮上

(cf. プロティノス [204/5-270] の「一者からの流出としての多」の応用 プロチノス『善なるもの・一なるもの』岩波文庫)

5.3.2. Distinci non divisi, discrete non separeti 「区別されるが分けられない」「異なっているが分離されない」

5.3.3. 東方教会と西方教会のニュアンスの差 a. 東方教会:

父の「唯一原理性」(モナルキア、monarchia) 父から、子も聖霊も出ている

カッパドキアの3教父(カイサリアのバシレイオス、ニュッサのグレゴリオス、ナジア

ンゾスのグレゴリオス)に代表される b. 西方教会:

3つの persnonae の関係は相互の交わりにある。 父と子とから聖霊は出ている(filioque「御子からもまた」問題)

聖霊とは「愛」(charitas)であり、「父」と「子」を結合させ、我々と神を結合

させるもの(アウグスティヌス) c. 1054 年の東西決定的分裂の根にある filioque

5.3.4. ペリコーレシス(perichoresis/mutual interpenetration):personae の相互浸透という考え 5.3.5. 「内在的三位一体論」(immanent trinity)と「救済史的三位一体論」(salvation-historical trinity)

Page 24: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

24

三位一体は、神のこの世への活動形式であると把える見方。 神が世界と人間とに対して自己啓示し、救いを成就する実際的次元を考慮する。 「内在的三位一体論」=神それ自身の存在(本質)における、理論的次元の三位一体 「救済史的三位一体論」=内在的三位一体論への批判

三位一体は、それ自体で抽象的に論じられるべきではない 三位一体は、神のこの世への活動形式であり、救済史的事件と一体であ

ると理解されるべき。 5.4. イエスの十字架事件の言語化としての三位一体論

a.「子」=受難のイエス b.「父」=十字架事件の背後の深淵

、、、言説をこえた主体

c.「聖霊」=「私」を感動させる力、<美> d. 三者渾然一体(perichoresis)のリアリティ 5.5. 人間存在の現実に遡源する「三位一体」 5.5.1. 人間の精神的認識の構造:

a. 一種の règle de trios(3 の法則)としての 3 元的構造 ・現象的には把えられない根源――「父」 ・現象的に把えられる事態・対象――「子」 ・上記二者を一体とし、「私」を引き込む力 ――「聖霊」

b. 音楽の例――作曲家、演奏家、音楽の美 5.5.2. 仏教における3の法則の例

・「三宝(さんぼう)」 仏(Buddha)、法(Dharma)、僧(Sangha)

・仏陀の「三身」(さんじん) 「法身」(ほっしん、dharma-kaya)――永遠身 「応身」(おうじん、nirmana-kaya)――釈迦牟尼仏 「報身」(ほうじん、sanbhoga-kaya)――上記二者の統一身 ・「色即是空、空即是色」(般若心経)――「空」と「色」と「即是」

Page 25: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

25

6. 救済論(soteriology) 6.1. 「救済」(salvation)とは何か 6.1.1. 「苦」(suffering) の現実からの脱却

自力による脱却な可能な時――「救済」とは呼ばない(一般的生活の次元) 自力による脱却が不可能な時――「救済」という範疇が浮上する

6.1.1.1. 仏教の理解より 「四苦八苦」

「四苦」:生、老、病、死 釈迦牟尼の「四門出遊」の伝説: 「それから、ある日のこと、ボーディサッタは遊園へ出かけようと思いたち、御者を呼ん

で、『車の用意をしなさい』といわれた。彼は、『かしこまりました』と答えて、高価な最上の車にとりわけよく飾りつけをして、白蓮の花弁の色をした四頭の国王用のシンドゥ産の馬をつないで、ボーディサッタにその旨を告げた。ボーディサッタは神々の宮殿にも似た車に乗って、遊園へ向かって進んだ。神々は、『シッダッタ王子の正しいさとりをひらかれるときが近づいた。その前兆をわれらが示すことにしよう』と、一天子を、老い朽ちて、歯が抜け、前屈みのくたびれはてた身体で、杖を手にわななき震えている者に作りだして見せた。それをボーディサッタも御者も目にした。そこで、ボーディサッタが御者に、『これ、この人は何という者であるか。この者の髪は他の者たちのとは違っている』と、たずねられ、その〔御者の〕返答を聞くと、『ああ、生まれることとはなんと厭わしいものか――じつに生まれたものに老いが認められるとは』と、心も乱れ、その揚からひき返して宮殿にあがってしまわれた。王は、『どうしてわしの息子は急に戻ってきたのか』とたずねた。『王さま、老人をごらんになったからでございます。老人をごらんになると、あのかたは出家なさるでしょう』と〔廷臣たちは〕答えた。『どうしてわしを困らせるのか。早く息子のために歌舞の用意をせよ。幸せを感じているうちは、出家の気持ちを起こすまい』といって、見張りをふやし、すべての方角にそれぞれ半ヨージャナにわたって配置した。 また、ある日のこと、ボーディサッタが同じように遊園に行こうとしていたときに、神々が作りだした病人に目をとめ、前と同じようにたずね、心乱れて、ふたたびひき返して宮殿にあがってしまわれた。王もやはり質問し、前述のように手配して、またも見張りをふやし、四方あまねく三ガーヴタの区域に配置した。 さらにまた、ある日のこと、ボーディサッタが同じように遊園に行こうとしていたときに、神々が作りだした死人に目をとめ、前と同じようにたずね、心乱れて、ふたたびひき返して宮殿にあがってしまわれた。王もやはり質問し、前述のように手配して、またも見張りをふやし、四方あまねく一ヨージャナの区域に配置した。 さらにまた、ある日のこと、〔ボーディサッタが〕遊園に行こうとしていたときに、前と同じように神々が作りだした、整然と上下の衣をつけた出家者に目をとめ、『これ、この人は何という者であるか』と御者にたずねられた。御者は、それまで仏の出現されることがなかったため、出家者や出家者の功徳を知らなかったけれども、神々の威力によって、『王子さま、これは出家という者でございます』と答え、出家の功徳を説明した。ボーディサッタは出家ということに感銘を受けて、その日は遊園まで行かれた」(Jataka, vol. I, pp. 58-59, 中村元『ゴータマ・ブッダ I』163-165)。

「ああ短いかな、人の生命よ。百歳に達せずして死す。たといこれ以上長く生きるとも、ま

た老衰のために死す」(『スッタニパータ』804)。

「八苦」:愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦 6.1.1.2. 仏教の「苦」の範疇から漏れるもの――「罪/罪責/悪」の問題

6.1.2. 人間存在に内在する4つの根本苦: 挫折、孤独、死、罪悪 これらの問題の解決としての「救済」

Page 26: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

26

6.2. 「挫折」からの救済 6.2.1. 挫折の状況――「求不得苦」と「喪失」

6.2.1.1. 求めても手に入らない a. 合理化(すっぱい葡萄のイソップ話) b. 放棄(日常的・常識的処理法) c. 合理化も放棄も不可能な場合

・トラウマ化する場合 ・否定性のままで肯定化する可能性

A CREED FOR THOSE WHO HAVE SUFFERED

I asked God for strength,

that I might achieve,

I was made weak,

that I might learn humbly to obey.

I asked for health,

that I might do greater things,

I was given infirmity,

that I might do better things.

I asked for riches,

that I might be happy,

I was given poverty,

that I might be wise.

I asked for power,

that I might have the praise of men,

I was given weakness,

that I might feel the need of God.

I asked for all things,

that I might enjoy life,

I was given life,

that I might enjoy all things.

I got nothing that I asked for -

but everything that I had hoped for,

Almost despite myself,

my unspoken prayers were answered.

I am among all men

most richly blessed.

私は色々なことを達成出来るように

神に力を求めた

──〔ところが〕私は弱くされた

謙遜に、従うことを学びうるためだった。

私はもっと偉大なことが色々出来るように

健康を求めた

──〔ところが〕私には病が与えられた

よりよいことを色々できるようになるためだった。

私は幸福になるために

富を求めた

──〔ところが〕私には貧困が与えられた

私に知恵が与えられるためだった。

私は人の賞讃を得るために

権力を求めた

──〔ところが〕私には弱さが与えられた

私が神を必要とするようになるためだった。

私は人生を楽しもうと

全てのことを求めた

──〔ところが〕私には、「いのち」が与えられた

全てのことを楽しめるようになるためだった。

私は求めたものは何一つ得なかった

しかし私が望んでいたものの全てを得た。

ほとんど気付かないうちに

口にしなかった祈りは尽く答えられた。

すべての人の中で

私ほど恵まれた者はいない。

無名の南軍兵士の作と言われる。Institute of Physical Medicine and Rehabilitation (400 East 34th

Street, New York City)に掲示。

Page 27: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

27

ロマ 8:28 「私たちは知っている、『神を愛する者たち……にとっては、すべてのことが共に働いて善へと至

る』、ということを」。

6.2.1.2. 喪失(とりわけ愛する者)

a. 生別――離別、失恋、など b. 死別――「喪の作業」(mourning work)

親しい人が死んで失われてしまった現実に向き合い、その人との一体性を自他に証するこ

とによって喪失を乗り越え、均衡のある生活を再獲得しようとする人間の心的作業。

c. キリスト教的解決 ――a. と b.の場合: 否定性のままで肯定化 ――b. の場合: 再会の希望 ヨハネ 16:20

「アーメン、アーメン、あなたがたに言う。あなたがたは泣き、嘆き、他方、世は喜ぶことにな

る。あなたがたは悲しむ。しかし、あなたがたのその悲しみが喜びに変わることとなるであろう。」

6.3. 「孤独」からの救済 6.3.1. 「神われらと共に」(インマヌエル:イザヤ 7:14、マタイ 1:23)

詩篇 139:8-11 「139:8 ……わたしがたとえ陰府に身を横たえようとも、見よ、あなたはそこにいます。139:9

曙の翼を駆って海のかなたに行き着こうとも 139:10 あなたはそこにもいまし、御手をもって

わたしを導き、右の御手をもってわたしをとらえてくださる。 139:11 わたしは言う。『闇の中

でも主はわたしを見ておられる。夜も光がわたしを照らし出す。』」 6.3.2. イエスの恒常的臨在

マタイ 28:20 「見よ、私は世の終わりまで、いつもあなたたちと共にいる」。

6.3.3. コミュニティの存在 1 コリント 12:26-27

「12:26 一つの部分が苦しめば、すべての部分が共に苦しみ、一つの部分が尊ばれれば、すべて

の部分が共に喜ぶ。あなたたちはキリストの体であり、また、一人一人はその部分である。」

6.4. 「死」からの救済 6.4.1. 「死」の問題

6.4.1.1. 他者の死(6.2.1.2.参照)ではなく、自分の死 6.4.1.2. 直接迫り来る「死」 ←不安の根源

(キルケゴール『不安の概念』、シェストフ『不安の哲学』、ハイデガー『存在と時間』)

6.4.2. 旧約聖書より

Page 28: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

28

6.4.2.1. 古代の「死」観 a. 「生」の領域と「死」・「陰府」の領域 b. 長命、幸福、成功←→病、飢饉、戦争、死

6.4.2.2. 「死」・「陰府」からの救済の希望 詩篇 88:1-5. 10-13

88:1 (2)主よ、わたしを救ってくださる神よ

昼は、助けを求めて叫び

夜も、御前におります。

88:2 (3)わたしの祈りが御もとに届きますように。

わたしの声に耳を傾けてください。

88:3 (4)わたしの魂は苦難を味わい尽くし

命は陰府にのぞんでいます。

88:4 (5)穴に下る者のうちに数えられ

力を失った者とされ

88:5 (6)汚れた者と見なされ

死人のうちに放たれて

墓に横たわる者となりました。

……

88:10 (11)あなたが死者に対して驚くべき御業をなさったり

死霊が起き上がってあなたに

感謝したりすることがあるでしょうか。〔セラ

88:11 (12)墓の中であなたの慈しみが

滅びの国であなたのまことが語られたりするでしょうか。

88:12 (13)闇の中で驚くべき御業が

忘却の地で恵みの御業が

告げ知らされたりするでしょうか。

88:13 (14)主よ、わたしはあなたに叫びます。

朝ごとに祈りは御前に向かいます。

……

詩篇 6:6-8 6:6 死の国へ行けば、だれもあなたの名を唱えず

陰府に入ればだれもあなたに感謝をささげません。

6:7 わたしは嘆き疲れました。夜ごと涙は床に溢れ、寝床は漂うほどです。

6:8 苦悩にわたしの目は衰えて行き

わたしを苦しめる者のゆえに老いてしまいました。

詩篇 49:16 ……神はわたしの魂を贖い、陰府の手から取り上げてくださる。

詩篇 16:10-11

Page 29: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

29

16:10 あなたはわたしの魂を陰府に渡すことなく/あなたの慈しみに生きる者に墓穴を見させず

16:11 命の道を教えてくださいます。わたしは御顔を仰いで満ち足り、喜び祝い

右の御手から永遠の喜びをいただきます。

詩篇 139:8-10 139:8 天に登ろうとも、あなたはそこにいまし

陰府に身を横たえようとも、見よ、あなたはそこにいます。

139:9 曙の翼を駆って海のかなたに行き着こうとも

139:10 あなたはそこにもいまし

御手をもってわたしを導き、右の御手をもってわたしをとらえてくださる。

イザヤ 25:8 主は、死を永久に滅ぼしてくださる。主なる神は、すべての顔から涙をぬぐい、御自分の民の恥を地上か

らぬぐい去ってくださる。これは主が語られたことである。

イザヤ 26:19 あなたの死者が命を得、わたしのしかばねが立ち上がりますように。

塵の中に住まう者よ、目を覚ませ、喜び歌え。

あなたの送られる露は光の露。あなたは死霊の地にそれを降らせられます。

ダニエル 12:2-3 12:2 多くの者が地の塵の中の眠りから目覚める。

ある者は永遠の生命に入り、ある者は永久に続く恥と憎悪の的となる。

12:3 目覚めた人々は大空の光のように輝き、多くの者の救いとなった人々はとこしえに星と輝く。

6.4.3. 新約聖書より――「復活」の希望

6.4.3.1. 十字架事件――「復活のイエス」との遭遇 1コリント 15:3-8

15:3 最も大切なこととしてわたしがあなたがたに伝えたのは、わたしも受けたものである。すなわち、キリ

ストが、聖書に書いてあるとおりわたしたちの罪のために死んだこと、 15:4 葬られたこと、また、聖書に

書いてあるとおり三日目に起こされたこと、 15:5 ケファに現れ、その後十二人に現れたことである。 15:6

次いで、五百人以上もの兄弟たちに同時に現れた。そのうちの何人かは既に眠りについたにしろ、大部分は

今なお生き残っている。 15:7 次いで、ヤコブに現れ、その後すべての使徒に現れ、 15:8 そして最後に、

月足らずで生まれたようなわたしにも現れた。

弟子たちの絶望は自己意識の崩壊 それによって、逆に意識総体の変貌 = 生死をこえた或る体験 死んでも生きているイエスのリアリティに遭遇→「イエスは起こされた」と表現

6.4.3.2. 死は原理的に乗り越えられた、との理解

自らの「死」を体験することで、確認 1 コリント 15:36

「あなたが蒔くものは、死ななければ命を得ないではないか」

Page 30: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

30

6.4.4. 現代世界に可能なヴィジョンとは 6.4.4.1. 黙示思想的な、最後の審判における死からの救い? 6.4.4.2. 「死ねば無」という発想は啓蒙思想時代(17 世紀末から 18 世紀末)以降 6.4.4.3. 生死をこえた<生>の次元の確約

「千の風」 A Thousand Winds

-- author unknown

Do not stand at my grave and weep;

I am not there, I do not sleep.

I am a thousand winds that blow;

I am the diamond glints on snow;

I am the sunlight on ripened grain;

I am the gentle autumn rain.

When you awaken in the morning hush,

I am the swift uplifting rush

Of quiet birds in circled flight;

I am the soft stars that shine at night.

Do not stand at my grave and cry;

I am not there, I did not die.

千の風

作者不詳

私の墓に立って涙を流さないで下さい。

私はそこにいません、私は眠ることはありません。

私は吹き抜ける千の風。

私は雪の上のダイヤの輝き。

私は実った穀物に注ぐ陽の光。

私はしめやかな秋の雨。

あなたが朝の静けさのうちに目覚める時

私は弧を描いて音もなく舞い上がる

素速い小鳥たち。

私は夜やさしく輝く星々。

私の墓に立って泣かないでください。

私はそこにいません、私は死んではいません。

6.4.5. 新しい世界観・宇宙観的枠組みの必要性――「転生」の可能性

1 コリント 15:42-44 「15:42 ……朽ちゆくもののうちに蒔かれ、不朽なるもののうちに起こされる。

15:43 恥のうちに蒔かれ、威光のうちに起こされる。

弱さのうちに蒔かれ、力のうちに起こされる。

15:44 自然的な体として蒔かれ、霊的な体として起こされる。

もし自然的な体があるのなら、霊的な体もまた存在する」。

6.5. 「罪悪」からの救済 6.5.1. 世の罪悪 6.5.1.1. 神義論(theodicy) a.この世における悪の栄え

ヨブ記21:6-31:

Page 31: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

31

21:6 わたし自身、これを思うと慄然とし、身震いが止まらない。 21:7 なぜ、神に逆らう者が生き永らえ、

年を重ねてなお、力を増し加えるのか。 21:8 子孫は彼らを囲んで確かに続き、その末を目の前に見るこ

とができる。 21:9 その家は平和で、何の恐れもなく、神の鞭が彼らに下ることはない。 21:10 彼らの雄

牛は常に子をはらませ、雌牛は子を産んで、死なせることはない。 21:11 彼らは羊の群れのように子供を

送り出し、その子らは踊り跳ね 21:12 太鼓や竪琴に合わせて歌い、笛を吹いて楽しむ。 21:13 彼らは幸

せに人生を送り、安らかに陰府に赴く。 21:14 彼らは神に向かって言う。「ほうっておいてくれ。あなた

に従う道など知りたくもない。 21:15 なぜ全能者に仕えなければならないのか。神に祈って何になるの

か。」 21:16 だが、彼らは財産を手にしているではないか。…… 21:17 神に逆らう者の灯が消され、災

いが襲い、神が怒って破滅を下したことが何度あろうか。 21:18 藁のように風に吹き散らされ、もみ殻の

ように、突風に吹き飛ばされたことがあろうか。21:19 神は彼への罰を、その子らの代にまで延ばしてお

かれるのか。彼自身を罰して、思い知らせてくださればよいのに。 21:20 自分の目で自分の不幸を見、全

能者の怒りを飲み干せばよいのだ。…… 21:23 ある人は、死に至るまで不自由なく、安泰、平穏の一生を

送る。 21:24 彼はまるまると太り、骨の髄まで潤っている。 21:25 また、ある人は死に至るまで悩み嘆

き、幸せを味わうこともない。…… 21:29 通りかかる人々に尋ねなかったのか。両者の残した証しを、否

定することはできないであろう。 21:30 悪人が災いの日を免れ、怒りの日を逃れているのに 21:31 誰が

面と向かってその歩んできた道を暴き、誰がその仕業を罰するだろうか。

コヘレトの言葉 8:10-12a.14:

8:10 だから、わたしは悪人が〔まっとうな〕葬儀をしてもらうのも、聖なる場所に出入りするのも、また、

正しいことをした人が町で忘れ去られているのも、〔双方とも〕見る。これまた、空しい。 8:11 悪事に

対する条令が速やかに実施されないので、人は大胆に悪事をはたらく。 8:12 罪を犯し百度も悪事をはた

らいている者がなお、長生きしている。…… 8:14 この地上には空しいことが起こる。善人でありながら、

悪人の業の報いを受ける者があり、悪人でありながら、善人の業の報いを受ける者がある。これまた空し

いと、わたしは言う。

b.神から「私」への理不尽な攻撃

ヨブ記 16:9-14:

16:9 神がわたしを餌食として、怒りを表されたので、敵はわたしを憎んで牙をむき、鋭い目を向ける。

16:10 彼らは大口を開けて嘲笑い、頬を打って侮辱し、一団となってわたしに向かって来る。 16:11 神は

悪を行う者にわたしを引き渡し、神に逆らう者の手に任せられた。 16:12 平穏に暮らしていたわたしを神

は打ち砕き、首を押さえて打ち据え、的として立て 16:13 弓を射る者に包囲させられた。彼らは容赦なく、

わたしのはらわたを射抜き、胆汁は地に流れ出た。 16:14 神は戦士のように挑みかかり、わたしを打ち破

り、なお打ち破る。 16:15 わたしは粗布を肌に縫い付け、わたしの角と共に塵の中に倒れ伏した。 16:16

泣きはらした顔は赤く、死の闇がまぶたのくまどりとなった。 16:17 わたしの手には不法もなく、わたし

の祈りは清かったのに。

a. 回答のモデル 1) 神の神秘(人間の知恵では分からない)

Page 32: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

32

ヨブ 42:1-3: 42:1 ヨブは主に答えて言った。 42:2 あなたは全能であり、御旨の成就を妨げることはでき

ないと悟りました。 42:3 「これは何者か。知識もないのに、神の経綸を隠そうとするとは。」

そのとおりです。わたしには理解できず、わたしの知識を超えた、驚くべき御業をあげつら

っておりました。

2) 神の配慮(後になれば分かる) 詩 29:6: 夜は夜もすがら泣き悲しんでも、朝と共に喜びが来る。

3) 神の教育(練達を生む) 詩 66:10: 66:10 神よ、あなたは我らを試みられた。銀を火で練るように我らを試された。 66:11 あな

たは我らを網に追い込み、我らの腰に枷をはめ 66:12 人が我らを駆り立てることを許された。

我らは火の中、水の中を通ったが、あなたは我らを導き出して、豊かな所に置かれた。

4) 終末における神の補填 黙示録 21:3-4: 21:3 そのとき、わたしは玉座から語りかける大きな声を聞いた。「見よ、神の幕屋が人の間

にあって、神が人と共に住み、人は神の民となる。神は自ら人と共にいて、その神となり、 21:4

彼らの目の涙をことごとくぬぐい取ってくださる。もはや死はなく、もはや悲しみも嘆きも

労苦もない。最初のものは過ぎ去ったからである。」

モーセの遺訓10:

それは、永遠にして唯一のいと高き神が立ち上がって異邦人に仇うちをするために公然と来

臨し、彼らの偶像をことごとく滅ぼすだろうからである。その時、イスラエルよ、あなたは

しあわせになるであろう。あなたは鷲の頸と翼に乗り、(鷲の翼は)みたされるであろう。

神はあなたを高く挙げ、あなたを諸星の天に、(諸星)の住居の場に留まらせるであろう。

あなたは高みから眺めて地上にあなたの敵どもを見、彼らの(ことを)知って喜び、

あなたの創造主に感謝し、また(彼を)ほめたたえるであろう。

6.5.2. 自分の罪悪 6.4.2.1. 「罪」とは

a. hêt(hattâ’t): 道を誤って、逸そ

れて行くこと→過失 b. ‘âwâh/‘âwôn: 曲がったもの、真っ直ぐでないもの、悪しき行為で入り込んでしまう状態 c. pesa ‘: 関係の断絶、反抗 d. ’âsâm: とが(の負い目、負担) e. hamartia: 的を外すこと

f. 定義:神(命の本源)との本然的な関係から、自分のエゴイズムによって逸そ

れること。 6.4.2.2. 罪の深刻化:万人が罪人

ラビ・ユダヤ教の「悪しき衝動」説

Page 33: SPIRIT - index - キリスト教思想の諸側面 Thoughts/XT Resumee.pdfキリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/msato Email: msato-pax@grp.rikkyo.ne.jp----- 1 キリスト教思想の諸

キリスト教思想1 2008 年度後期 佐藤 研/http://www.rikkkyo.ne.jp/~msato Email: [email protected]

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

33

ロマ 3:9-18:

3:9 では、どうなのか。わたしたちには優れた点があるのか。全くない。既に指摘したように、ユダヤ人

もギリシア人も皆、罪の下にある。 3:10 次のように書いてあるとおりである。「正しい者はいない。一

人もいない。 3:11 悟る者もなく、神を探し求める者もいない。 3:12 皆迷い、だれもかれも役に立たな

い者となった。善を行う者はいない。ただの一人もいない。 3:13 彼らののどは開いた墓のようであり、

彼らは舌で人を欺き、その唇には蝮の毒がある。 3:14 口は、呪いと苦味で満ち、 3:15 足は血を流すの

に速く、 3:16 その道には破壊と悲惨がある。 3:17 彼らは平和の道を知らない。 3:18 彼らの目には神

への畏れがない。」

ロマ 5:12:

5:12 このようなわけで、一人の人によって罪が世に入り、罪によって死が入り込んだように、死はすべて

の人に及んだ。すべての人が罪を犯したからである。

6.4.2.3. 「原罪」(original sin)の教理

アウグスティヌス、de dono perseverantiae XIV, 35: 「人間の本性は、確かに最初は罪(vitium)も汚れもなく造られた。しかし人間の本性は、各人がアダムか

らこの本性を引き継いで生まれるため、今や医者を必要とする。なぜなら、それは健全でないからである。

造られた時、生命・感覚・精神を与えられたすべての善なる者は、創造者にして造り手である神からそれを

受けている。しかし、これらの自然のよき性質を暗くし弱めている弱点は、……罪のない創造者に由来して

いるのではなく、自由意思(liberum arbitrium)によって犯したところの原罪から(ex originali peccato)

生じている。それゆえ、我々の罪深い本性は、正当な罰を受けねばならない。……しかし、恵みに富みたも

う神は、我々が罪の中で死んでいた時でされ、我々を愛して下さった大いなる愛ゆえに、……キリストと共

なる命へと立たせてくれた。キリストのこの恵みは、これなしには幼児も成人も救われないものであるが、

功績に基づいて支払われるのではなく、値なしに(gratis)与えられる。それゆえに恩恵(gratia)と呼ば

れるものである。……

6.4.2.4. 赦し

a. イエスの代死 ――古代人的な「罪の復讐エネルギー」を無化するイエス b. 逆対応としての赦し・肯定

ロマ 5:20: 罪が増したところには、恵みはなおいっそう満ちあふれた。

「神が赦し得ない罪はない」