t 多彩なコンテナメニューの開発で 生産者や産地の輸送需要...

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モーダルシフトで注目される 鉄道輸送,温度管理の 必要な国内貨物は約4,700t は,北海道の雪原を走る貨物列 車,貨物駅での荷役の様子。白い塗 装のコンテナは,通常の小豆色のJR コンテナとは違う,保冷コンテナ (UR形式) なのだ。太陽熱を庫内に 吸収しないよう反射させるため,白 い塗装が施されている。保冷輸送の 荷物が多い貨車であることがよく分 かる。 冬の北海道で,こうした保冷輸送 がなされている貨物の中身をご存知 だろうか。ジャガイモ,玉ねぎ等で, 特にジャガイモは冬場,保冷コンテ ナを利用しての輸送が多い農産物で あるそうだ。そしてこのコンテナを 用いる目的は,低温保持ではない。 冬の北海道は氷点下10~20℃程度 まで下がるため,保冷コンテナでは, 壁や床に断熱性の高い素材を採用。 冬場は外気よりも冷えないように, また夏場は外の気温ほど上がらない 涼しい環境をキープしているという わけだ。 近年,トラックドライバーの不足 を背景にトラックによる長距離輸送 や幹線輸送の代替手段として,鉄道 輸送のモーダルシフトに期待が集ま っている。このうち,今回本紙編集 部では,日本貨物鉄道 (JR貨物) 冷凍・冷蔵等一定の温度管理が必要 な定温輸送の動向や同社の取り組み を伺う機会を得た。 JR貨物 鉄道ロジスティクス本部 営業統括部 営業部 担当部長の川又 美哉氏 (取材当時の役職,2019年4月 1日付で日本郵船㈱へ復帰) によれば, 温度管理を必要とする国内貨物の 2015年度の年間輸送量は約4,700万t。 このうち鉄道シェアは約4%と推定 (UF/URコンテナ主体で約198万t程 度) ,航空機は約0.8% (約40万t) しか なく,大半はほとんどトラック (トレ ーラー) 輸送によっているとされる。 一方,鉄道貨物全体の年間輸送量約 2,200万tに上り,農産物輸送はその 1割弱 (約200万t) を占めるという。 農産物輸送の内訳を大まかに見る と,「半分は普通のドライコンテナで 輸送され,残り半分は通風コンテナ と保冷コンテナがちょうど半々で分 け合っている」 (川又氏) という。通風 コンテナとは,ドライコンテナに通 風装置を設け,コンテナ内部の空気 を換気できるようにしたもの。JRが 国鉄時代の1960年代に開発された。 主力のURコンテナは7,000 を超える, 10℃以下は SUPER URで取り扱い ここでは鉄道貨物輸送にて現在運 用中のコンテナから紹介していこう。 JR 貨物の定温輸送で最も多く使用 されているコンテナはURと呼ばれ る保冷コンテナだ。 は日本石油輸 送㈱ (JOT) 所有の12 ft URコンテナ で,約6,800個とJR貨物の取り扱い コンテナとしては最大規模。その他 の利用運送事業者等の私有コンテナ を含めて7,000超の保冷コンテナを 輸送している。 川又美哉氏 第171回 多彩なコンテナメニューの開発で 生産者や産地の輸送需要をカバー 取材協力 日本貨物鉄道㈱ 1 8 2019・5

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Page 1: t 多彩なコンテナメニューの開発で 生産者や産地の輸送需要 …...モーダルシフトで注目される 鉄道輸送,温度管理の 必要な国内貨物は約4,700万t

モーダルシフトで注目される鉄道輸送,温度管理の必要な国内貨物は約4,700万t

❶は,北海道の雪原を走る貨物列車,貨物駅での荷役の様子。白い塗装のコンテナは,通常の小豆色のJRコンテナとは違う,保冷コンテナ

(UR形式)なのだ。太陽熱を庫内に吸収しないよう反射させるため,白い塗装が施されている。保冷輸送の荷物が多い貨車であることがよく分かる。

冬の北海道で,こうした保冷輸送がなされている貨物の中身をご存知だろうか。ジャガイモ,玉ねぎ等で,特にジャガイモは冬場,保冷コンテナを利用しての輸送が多い農産物であるそうだ。そしてこのコンテナを用いる目的は,低温保持ではない。冬の北海道は氷点下10~20℃程度まで下がるため,保冷コンテナでは,壁や床に断熱性の高い素材を採用。冬場は外気よりも冷えないように,また夏場は外の気温ほど上がらない涼しい環境をキープしているというわけだ。

近年,トラックドライバーの不足を背景にトラックによる長距離輸送や幹線輸送の代替手段として,鉄道輸送のモーダルシフトに期待が集まっている。このうち,今回本紙編集部では,日本貨物鉄道(JR貨物)に冷凍・冷蔵等一定の温度管理が必要

な定温輸送の動向や同社の取り組みを伺う機会を得た。

JR貨物 鉄道ロジスティクス本部 営業統括部 営業部 担当部長の川又美哉氏(取材当時の役職,2019年4月1日付で日本郵船㈱へ復帰)によれば,温度管理を必要とする国内貨物の2015年度の年間輸送量は約4,700万t。このうち鉄道シェアは約4%と推定

(UF/URコンテナ主体で約198万t程度),航空機は約0.8%(約40万t)しかなく,大半はほとんどトラック(トレーラー)輸送によっているとされる。一方,鉄道貨物全体の年間輸送量約2,200万tに上り,農産物輸送はその

1割弱(約200万t)を占めるという。農産物輸送の内訳を大まかに見る

と,「半分は普通のドライコンテナで輸送され,残り半分は通風コンテナと保冷コンテナがちょうど半々で分け合っている」(川又氏)という。通風コンテナとは,ドライコンテナに通風装置を設け,コンテナ内部の空気を換気できるようにしたもの。JRが国鉄時代の1960年代に開発された。

主力のURコンテナは7,000個を超える,10℃以下はSUPER URで取り扱い

ここでは鉄道貨物輸送にて現在運用中のコンテナから紹介していこう。JR貨物の定温輸送で最も多く使用されているコンテナはURと呼ばれる保冷コンテナだ。❷は日本石油輸送㈱(JOT)所有の12ft URコンテナで,約6,800個とJR貨物の取り扱いコンテナとしては最大規模。その他の利用運送事業者等の私有コンテナを含めて7,000超の保冷コンテナを輸送している。川又美哉氏

第171回

多彩なコンテナメニューの開発で生産者や産地の輸送需要をカバー取材協力 日本貨物鉄道㈱

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保冷コンテナは日本国内では主に青果物輸送に用いられ,10~15℃帯の温度帯に対応。区間・品目の限定なしで利用できる。冬場は貨物温度が10℃に保たれていれば,外気温が零下でも各食物が持つ個体温度をキープできるという。一方,夏場の外気温が30~40℃の際はドライアイスを用いて,1wayの低コスト・低温輸送を実現。ジャガイモや玉ねぎは限られた収穫時期に一気に運ぶ青果物のため,トラック輸送では賄いきれず,鉄道輸送が多用されている。コンテナサイズでクーラーボックスの役割を担う。

これに対して,日持ちの悪いレタスやトマト等の青果物は主にSUPER UR❸やリーファートラック等で運搬されている。このうち,SUPER URは真空断熱パネルを採用し,URよりもさらに高い断熱性能を実現。温度帯は5~15℃と,URに比べて5℃ほど低い温度帯に対応しているため,10℃以上超えても良い荷物は主にUR,10℃以下をキープしたいセンシティブな荷物の場合は主にSUPER URといった形で棲み分けされる。ドライアイスを併用することで,夏場5℃で冷やした荷物の場合96時間後まで10℃以下に保つことができる点が特長だ。JR貨物では,JOT所有SUPER URの12ftタイプを260個,31ftタイプを11個稼働させている。

UF輸送量の7割は31ftタイプ新たに内容積を拡大した12ftタイプも増加

冷凍機なしで一定の温度保持ができる保冷コンテナに対して,ディーゼルエンジンにより冷凍機をコンテナ単体で駆動させ,厳密な温度管理設定が可能なのが,エンジン式発電機付き冷凍コンテナ(UF形式)だ。-25℃以上の全温度帯をカバーし,大量輸送が可能な31ftタイプが国内での年間のUFコンテナ輸送量の7

割程度に上る。31ft UFコンテナは,㈱ランテック

をはじめ,全国通運㈱,JOT等,利用運送事業者や顧客所有の私有コンテナがJR貨物のレールで稼働中❹。

31ft UFコンテナは主に大ロット

貨物,大企業の拠点間長距離輸送に用いられている。駅構内の作業スペースや荷役機器の関係で,全国で取り扱い駅が限定されている点は課題になる。

一方,12ft UFコンテナは丸和通

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運㈱が50個を超える導入を進めているほか,複数社がコンテナを所有しており,取り扱い可能駅が広範な点が大きな特長だ。特に丸和通運の初期型12ft UFコンテナは発電・冷

凍機ユニットの大きさから,内容積が通常の12ftコンテナよりも小さい点が課題だった。このため,新たに機器を小型化し15㎥以上の内容積のUFコンテナ⑤を投入している。

12ftタイプの場合,発着すべてを自社で手がけるわけではなく,1wayで貸し出すケースも多い。

鉄道ロジスティクス本部 営業統括部 営業部 国際営業グループ サブリーダーの佐藤智文氏は,「エンジン式発電の冷凍コンテナは,31ftも12ftも他から給電する必要がなく,コンテナ単位で動かせる点がメリット。一方,コンテナの製造費が高価なため,通常のコンテナと比べてトータルコストが若干高くなる点が課題です」,同 サブリーダーの漆原弘樹氏は「帰り荷等でいろいろなお客様同士を組み合わせる等の工夫

盛岡貨物(タ)駅インランドデポ

東京貨物(タ)駅全温度帯(-25℃~+25℃)❸温度帯40ftリーファーコンテナ❷接続コンテナ形式東京貨物(タ)~盛岡(タ)間❶輸送区間

給電コンテナと接続することで鉄道輸送中もISO40ftリーファーコンテナでの定温輸送が可能

図表1 40ft RFコンテナ+給電コンテナの事例

*JR貨物提供資料より本誌作成

ISO冷凍コンテナ ISO冷凍コンテナ

20RFコンテナとの接続図 実物写真

給電ケーブル取出口A

コンテナ形式

サイズ

ZG15A形式

長さ6,058mm 幅2,438mm 高さ2,591mmISO 20ftコンテナと同一寸法

コンテナ番号 ZG15A-101

給電ケーブル取出口B

図表2 20ft RFコンテナ2個+給電コンテナの事例

*JR貨物提供資料より本誌作成

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佐藤智文氏

漆原弘樹氏

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により,ラウンド輸送を推進し,コンテナを効率的に運用していきたいと考えています」と述べた。

給電コンテナとRFコンテナを組み合わせ多様な需要獲得目指す

エンジン式冷凍機付きのUFコンテナに対して,リーファー(RF)コンテナを給電コンテナに接続することで輸送中のRFコンテナを温度管理する形態のメニューも提供している。JR貨物は10ftサイズのコンテナ内に発電機と198ℓ燃料タンク2基が設置された給電コンテナを所有。40ftの海上RFコンテナへの接続用として開発。使用燃料は軽油で400ℓ弱まで満タンにすると,おおむね3日間(70時間)の発電機の連続運転が可能。図表1は東京貨物ターミナル駅~

盛岡貨物ターミナル駅間で運用されている40ftの海上コンテナと給電コンテナを接続させた事例になる。

一方,図表2は最大62ftの貨車の長さを利用し,真ん中に給電コンテナ,両端に20ftの海上コンテナを配置することにより,給電コンテナ1基で海上コンテナ2個と接続できる事例だ。10ftの給電コンテナを改修して専用ラックを取り付けた。給電コンテナのサイズを左右に拡幅し,荷役上のハンドリングを20ftコンテナと統一した。また,左右両側の余裕スペースに給電コンセントを設置したことによって,両端の2コンテナ同時に電源供給が可能な形へ改修されている。

現在は1基が試作機として改修され,韓国から20ft海上コンテナで輸入された加工食品を下関から東京へ運んでいる。1基のため,運行実績

はまだ少ないが,「韓国から日本には,園芸野菜のパプリカ等も多く輸入されており,そうした生鮮品や,一定の温度キープが必要となる高付加価値の工業製品等,何か別のコンテナも追加して2個同時に運べないか検討しています」という。

ただし,こうした給電コンテナとRFコンテナの組み合わせは取り扱い駅が少なく,通常の駅構内に電源設備がない点が課題だ。また,現在の給電コンテナは青函トンネル通過仕様にはなっておらず,普及に向けたハードルは依然として存在している。

5℃帯で約48時間の保冷輸送を実現,アイスバッテリーコンテナに注目

さらに,コスト面や鮮度維持の観点から有望視されているのが,アイ

図表3 20ft RFコンテナ+アイスバッテリーの事例

*JR貨物提供資料より本誌作成

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スバッテリーコンテナの取り組みだ。RFコンテナの天井部にアイ・ティ・イー株式会社(ITE)が開発した高機能蓄冷材(アイスバッテリー)約280個を内蔵(図表3)し,輸送前にRFコンテナの冷凍機を用いて蓄冷材を-25℃に冷却することにより,電源なしで5℃帯を約48時間キープする保冷輸送を実現している。

JR貨物は今年の1~2月にアイスバッテリーコンテナで熊本から東京までトマトを輸送するトライアルを実施。❻~❽はトマトを積んだアイスバッテリーコンテナを貨車に載せる作業の様子だ。JA熊本市野菜選果施設にてフォークを使ってトマトをコンテナに積み込み,熊本駅にてコンテナはトラックから貨車に積み替えられて鉄道輸送される。トライアルにて良好な結果を得たことから3月から出荷の続く6月までは定期輸送となる見込み。

今後の方策としては,アイスバッテリーコンテナの輸送と図表2で上述した給電コンテナ接続を組み合わせ,東京~九州間のフローズン貨物の需要を狙う。アイスバッテリーコンテナおよび給電コンテナとも発地の下関や熊本まで回送が必要なため,往復積荷化での定期運用を目指している。

JR貨物は2019年度から「中期経営計画2023」に着手。重点戦略として,URコンテナやUFコンテナをはじめ,上述したような様々な定温輸送手段を用いた新商品を導入していく計画だ。しかし,定温輸送の課題は,JR貨物自体がこれまで私有コンテナを持たずに運行のみを担ってきた歴史が証明している。まず特殊用途コンテナを所有する場合,日常の保守管理に手間がかかり,JR貨物にはそうしたノウハウを持った人員や設備も配備されておらず,莫大なコストがかかる点でこれまで踏み切ることができなかった。

背景にあるのは国鉄民営化だ。駅

の業務やコンテナの持ち方をなるべく簡素化・統一化し,汎用一般コンテナ以外の特殊コンテナは私有コンテナとして顧客や利用運送事業者に準備してもらう等,輸送会社としての責任範囲をある程度限定してきた経緯がある。

一方,特殊コンテナを自社で初期投資していない分,顧客に運賃メリットを提供するためには,高付加価値品を積載したコンテナを運んでも採算面で利益をあまり出せない構造が課題になっていた側面もある。このように,JR貨物が積極的に定温輸送で多彩なメニューを取り揃えることは,運賃水準の高い冷蔵・冷凍貨物の需要を取り込むべく,自らも投資を行って商品ラインナップを強化する方向に舵を切ったことを意味する。

佐藤氏は,「実際の作業領域をどこまで拡大できるかという我々の問題もありますし,片荷だと非効率,コスト高にもなります。通常のトラック輸送に比べてコンテナ化すると,製造コスト,メンテナンスコストも上がるので,それをカバーするには,いかにお客様同士をマッチングできるか。冷凍で来て,帰りはドライ品でも往復積み荷化の実現が不可欠。運用面,ソフト面でも工夫して取り扱いを拡大していく必要があります」と指摘。非効率な片道輸送を克

服する需要を獲得することも課題となる。

記者が鉄道コンテナによる定温輸送の今後の見通しを問うと,川又氏はきっぱり言う。「現在,トラックや航空貨物で輸送されるものを全て鉄道にというのは無理な話。単純に今まで鉄道利用がゼロだったお客様に,まず100台のトラックで運んでいたものを1コンテナから週1~2回やってみませんか,ということ。安定輸送があれば,生産者は心配なく作物を作ることができます。我々鉄道はトラックが減った分をきちんとカバーしたいということです」

生産者は売れる場所,販路があっても物流手段がなければ,ローカルで売るしかないため,需要は限られるが,1,000㎞運べばもっと稼ぐことができる。輸送会社が新しい輸送モードを作れば,生産者の販路がより一層広がることを意味する。図表4の通り,JR貨物のコンテナ

輸送では,農産物・青果物や食料品以外にも様々な貨物が取り扱っている。定温輸送の商品充実により,ますます様々な需要が開拓できる可能性がある。現在のコンテナ輸送でどれだけ新たなメニューを軌道に載せることができるかが,試金石になりそうだ。

MF

JR貨物 主要品目別輸送量(2017年度コンテナ)

合計2,243万t

エコ関連物資49万t(2%)

食料工業品375万t(17%)

紙・パルプ300万t(13%)

積合せ貨物等285万t(13%)

化学工業品210万t(9%)

その他385万t(17%)

農産品・青果物197万t(9%)

他工業品159万t(7%)

化学薬品151万t(7%)

家電・情報機器43万t(2%)

自動車部品88万t(4%)

図表4 JR貨物のコンテナ輸送の品目別内訳

*JR貨物提供資料より本誌作成

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