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X 線 CT スキャナ及びデジタル画像相関法を用いた ホイールトラッキング試験供試体の変位・ひずみ特性の分析 An Analysis of Displacement and Strain Characteristics on Wheel Tracking Test Specimens using X-ray CT Scanner and Digital Image Correlation 谷口 聡 木村 孝司 ** 大谷 順 *** TANIGUCHI Satoshi, KIMURA Takashi and OTANI Jun 本研究は、アスファルト混合物の変形特性及びひずみ特性を把握するため、ホイールトラッキング 試験と X 線 CT 撮影を実施し、さらに撮影画像を用いたデジタル画像相関法により、変位及びひず みを算出した。その結果、ストレートアスファルトを用いた密粒度アスファルト混合物において、変 位が混合物の深部へ伝播していく様子や、ポリマー改質アスファルトⅡ型を用いた密粒度アスファル ト混合物では表面に大きな引張りひずみが発生すること、ポーラスアスファルト混合物では混合物の 内部で大きな引張りひずみが発生するなど、それぞれの混合物での変位及びひずみ特性を確認するこ とができた。 《キーワード:X 線 CT;デジタル画像相関法;ホイールトラッキング試験》 This study conducted wheel tracking test, X-ray computed tomography(CT)scanning, and digital image correlation to grasp displacement and strain characteristics of asphalt mixtures. This study found out each displacement and strain characteristic such as propagation of large displacement in dense-graded asphalt mixture using strait asphalt, large strain on the surface of dense-graded asphalt mixture using polymer modified asphalt, and large strain in internal of porous asphalt mixture. 《Keywords:X-ray CT;Digital Image Correlation;Wheel Tracking Test》 報 文 寒地土木研究所月報 №741 2015年2月 15

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X 線 CT スキャナ及びデジタル画像相関法を用いたホイールトラッキング試験供試体の変位・ひずみ特性の分析

An Analysis of Displacement and Strain Characteristics on Wheel Tracking TestSpecimens using X-ray CT Scanner and Digital Image Correlation

谷口 聡* 木村 孝司** 大谷 順***

TANIGUCHI Satoshi, KIMURA Takashi and OTANI Jun

 本研究は、アスファルト混合物の変形特性及びひずみ特性を把握するため、ホイールトラッキング試験と X 線 CT 撮影を実施し、さらに撮影画像を用いたデジタル画像相関法により、変位及びひずみを算出した。その結果、ストレートアスファルトを用いた密粒度アスファルト混合物において、変位が混合物の深部へ伝播していく様子や、ポリマー改質アスファルトⅡ型を用いた密粒度アスファルト混合物では表面に大きな引張りひずみが発生すること、ポーラスアスファルト混合物では混合物の内部で大きな引張りひずみが発生するなど、それぞれの混合物での変位及びひずみ特性を確認することができた。

《キーワード:X 線 CT;デジタル画像相関法;ホイールトラッキング試験》

 This study conducted wheel tracking test, X-ray computed tomography (CT) scanning, and digital image correlation to grasp displacement and strain characteristics of asphalt mixtures. This study found out each displacement and strain characteristic such as propagation of large displacement in dense-graded asphalt mixture using strait asphalt, large strain on the surface of dense-graded asphalt mixture using polymer modified asphalt, and large strain in internal of porous asphalt mixture.

《Keywords:X-ray CT;Digital Image Correlation;Wheel Tracking Test》

報 文

寒地土木研究所月報 №741 2015年2月 15

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写真-1 アーティファクトに伴う画像の白色化

表-1 供試体の諸元

る放射状の白い線が発生し、画像全体が白色化する(写

真-1)。このため、両端75mm を切り落とし、幅150mm、長さ300mm、厚さ50mm として、X 線を透過しやすくし、アーティファクトを軽減させ、試験を実施した。 なお、各供試体にはマーキング骨材として密度の高い電気炉酸化スラグを挿入した。

2.2 WT 試験

 WT 試験の試験回数は、近藤ら4)の文献を参考に、圧密変形が大きいと考えられる載荷段階(初期載荷)として600回までの載荷を実施した。また、初期載荷後の挙動を調べるため、すべての供試体について累計2,400回までの載荷を実施した。さらに、変形量が大きい供試体①については累計6,000回までの載荷を実施した。なお、試験温度は日本の路面の最高温度を考慮し60℃とした。

2.3 CT 撮影

 本試験では、熊本大学所有の産業用 X 線 CT スキャナ(TOSCANER-23200、写真-2)により CT 撮影を実施した。スキャナの原理を図-1に示す6)。医療用X 線 CT スキャナとは異なり、産業用 X 線 CT スキャナは X 線発生器及び検出器が固定され、供試体が回転する機構となっており、往復並進及び回転運動を行う

1.はじめに

 アスファルト舗装のわだち掘れは、地域を問わず、重交通道路において問題となっている。また、わだち掘れが発生しにくい道路では舗装表面から発生する「縦ひび割れ」が報告されている1)。アスファルト混合物の耐流動性を評価する試験は、一般にホイールトラッキング試験(以下、WT 試験)2)が用いられ、この試験から得られる動的安定度は塑性変形輪数として、『車道及び側帯の舗装の構造の基準に関する省令』3)おける基準に用いられている。しかし、WT 試験では走行荷重による供試体表面の変形を評価しているにすぎない。わだち掘れだけのみならず、縦ひび割れ等も含めたアスファルト舗装の破損のメカニズムを把握するためには、供試体内部の挙動を把握する必要がある。近藤ら4)をはじめ、WT 試験用型枠の垂直直角方向の一面をガラス板とし、骨材の動きを断続的に撮影することで、骨材の挙動を追跡する試みがなされているが、これらの研究では、主に供試体の側面に着目して評価したものである。 このため、本研究では、供試体内部の評価を目的として、物体の内部を可視化する技術の一つである X 線CT スキャナを用いて、WT 試験前後のアスファルト混合物供試体を撮影するとともに、撮影画像をデジタル画像相関法(以下、DIC)によって解析することにより、アスファルト混合物の変位及びひずみ特性を把握することを試みた。

2.試験概要

2.1 供試体の概要

 本研究で使用した供試体は3種類である。最大粒径13mm の密粒度アスファルト混合物(以下、密粒度)にストレートアスファルト(以下、ストアス)を添加したもの(以下、供試体①)及びポリマー改質アスファルトⅡ型(以下、PMA- Ⅱ)を添加したもの(以下、供試体②)、並びにポーラスアスファルト混合物(以下、ポーラス)にポリマー改質アスファルト H 型(以下、PMA-H)を添加したもの(以下、供試体③)である。各供試体の諸元を表-1に示す。 通常、WT 試験で使用される供試体のサイズは幅300mm、長さ300mm、厚さ50mm である。しかし、アスファルトは密度の高い骨材が多く、X 線を吸収しにくい材料であること、また長さと厚さの比が6:1であることから、撮影画像にアーティファクト5)と呼ばれ

16 寒地土木研究所月報 №741 2015年2月

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(x, z) (x+u0,

u0,

z)

(x+u , z+w0)0(x, z+w0)

x

z

u0

w0

w0

100 100 100 0 0 0 100 100 100

100 100 100 0 0 0 100 100 100

100 100 100 0 0 0 100 100 100

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0

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100 100 100 0 0 0 100 100

100

100 100 100 0 0 0 100 100

100

300m

m

X-ray

X-ray

X-ray

y = 250mm

y = 150mm

y:

150mm

100mm 25mm

:

y = 50mm

25mm

x

z

y

ことにより、供試体の CT 撮影を実施する。 図-2に撮影方法及び座標系を示す。X 線の照射は供試体を直立させ、前部、中央部及び後部の3箇所を各20枚ずつ撮影し、電気炉酸化スラグが写し出されている載荷前後の類似の CT 画像を、解析用画像として抽出した。X 線 CT 撮影条件は、X 線管電圧を300kV、ビーム厚を1mm とした。また、撮影領域を直径150mm とし、その範囲の画素数を2,048×2,048ピクセル(1ピクセル≒0.073mm)としたことから、空間分解能は0.073×0.073×1mm3である。

2.4 DIC

 DIC は、測定対象物の輝度値に着目して、測定対象

写真-2 X線 CT スキャナ

図-1 X線 CT スキャナの原理

図-2 X線 CT 撮影方法

図-3 DIC の概念

(b)相関窓と検索窓

(a)画像分割の定義

物の変形前後をデジタルカメラや CT スキャナ等で撮影し、得られたデジタル画像の輝度分布から試料内部の変形量と方向を同時に求める手法である7)。この手法の利点は、骨材の部分のみならず、対象物全体の変位及びひずみを計算できることである。 DIC における解析手順は以下のとおりである(図-

3)。

①変形前後のデジタル画像の取得②変形前の画像の中に節点を定義③検索窓、相関窓の定義④相関窓を動かしながら式(1)により相関係数を算定

(1)

 ここに、CC(u, w):相関係数、I1(x, z):変形前の画像輝度値、I2(x + u, z + w):変形後の画像輝度値、u:x 方向の移動量、w:z 方向の移動量

⑤相関係数が最大となる位置を移動後の領域と同定し、 移動量を算出⑥移動量をもとにひずみを算出

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2.5 DIC のための画像処理

 本研究で用いた画像処理の流れを(図-6)に示す。 通常、X 線検出器などからデジタル変換した画像には様々なノイズが含まれる。エッジや線等、画像の重要な情報を損なうことなくノイズを取り除くため、メディアンフィルタ(図-6(b))8)による画像処理を施した。 次に、DIC で精度良く解析するためには、骨材の輪郭を抽出する必要がある。骨材を抽出する画像処理手法としてエッジ処理(図-6(c))を行った。 さらに、骨材以外の情報を取り除くため、骨材と骨材以外を分けるしきい値によって画像処理を行った(図

-6(d))。 これらのエッジ処理を施した画像及びしきい値処理

図-5 ひずみ算出のための座標系の設定

図-6 DIC のための画像処理

図-4 接点間隔、検索窓、相関窓の設定

 DIC 解析は熊本大学が保有する DIC プログラム"TomoWarp" 7)により行った。また、本研究では、図

-4に示すように、節点間隔を14ピクセル(約1.03mm)、相関窓は6号砕石(13mm ~5mm)の粒度範囲の対数中間値である110ピクセル(約8mm)に設定した。相関窓の移動範囲(検索窓)は z の+方向を WT 試験の最大変位と画像解析の双方から検索窓に対し+35ピクセル(約2.56mm)、z の-方向及び x 方向は、載荷前後の CT 画像を比較した結果から、検索窓に対しそれぞれ-15ピクセル(約1.10mm)、±25ピクセル(約1.83mm)とした。 ひずみの計算は図-5に示すように xz 座標系を設定し、4つの節点の中心において計算を行う。4節点の中心における x 方向のひずみ εx は式(2)、z 方向のひずみ εz は式(3)により表される。

(2)

(3)

ここに:u0:x 方向の節点間隔、w0:z 方向の節点間隔

18 寒地土木研究所月報 №741 2015年2月

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画像に対して and 演算を行うことにより、DIC を行うための骨材抽出画像(図-6(e))を作成した。

3.結果及び考察

3.1 CT 画像

 2,400回載荷時における各供試体中央部の CT 画像を図-7に示す。CT 画像により表面のわだち掘れの形状が確認できるとともに、内部の骨材、空隙の状況を確認することができる。CT 画像をもとに DIC 解析を実施した。 ここで、WT 試験によるわだち掘れ深さと CT 画像におけるわだち掘れ深さを表-2に示す。なお、画像によるわだち掘れ深さの測定は、画像解析ソフト

「ImageJ」9)の「Rectangular selection tool」(長方形選択ツール)を用いた。その結果、供試体①及び供試体②でほぼ一致した。一方、供試体③については0.28mm の誤差があったが、ピクセル数で見た場合には4ピクセルであり、誤差は小さいと考えられる。

3.2 DIC 解析

3.2.1 DIC による変位特性

 供試体①~③の後部における各載荷回数毎の水平変位を図-8、鉛直変位を図-9に示す。後部としたのは、供試体の X 線 CT 撮影時に供試体を立てて撮影したため、中央部及び前部において、供試体のぶれの影響が現れたためである。なお、水平方向については青が左方向、赤が右方向の変位を示し、鉛直方向については青が上方向、赤が下方向の変位を示す。なお、色の濃淡が移動量を示している。 以下に各供試体の変位特性を示す。

(1)供試体①(密粒度ストアス)

 0~ 600回においては、載荷位置(-25≦ x ≦25mm)の直下において鉛直下方向への移動が卓越している。また、水平方向は側方部において外側への移動が卓越しており、その大きさは1mm 程度である。両者の動きから骨材が放射状に移動しているものと考えられる。 600 ~ 2,400回においては、載荷位置直下における鉛直下方向への変位が小さくなる一方、側方部で鉛直上方向の変位が大きく、側方で隆起していることが確認できた。また、水平方向は0~ 600回と同様の傾向が確認できた。しかし、変位量そのものは、0~ 600回,600 ~ 2,400回,2400 ~ 6,000回の3ケースの中で最も小さかった。近藤ら4)はこのケースの骨材挙動について「圧密及び流動がほとんど生じていない」、「空隙の

図-7 2,400回載荷時における CT 画像

(a) 供試体①(密粒度ストアス)

(b) 供試体②(密粒度 PMA- Ⅱ)

(c) 供試体③(ポーラス)

表-2 CT 画像解析及び WT 試験による

 わだち掘れ深さ測定結果

減少や骨材のかみ合わせ等により、走行荷重に対して安定した状態になっている」と結論づけており、本研究においてもほぼ同様の結果が得られた。2,400 ~6,000回においては、鉛直方向よりも水平方向の変位が大きいことが確認された。(2)供試体②(密粒度 PMA-Ⅱ)

 0~ 600回においては、輪荷重直下を中心に鉛直下方向の変位が発生しているが、供試体①に比べると非常に小さくなっている。これは PMA- Ⅱの特性である塑性変形抵抗性やたわみ追従性が発揮されたためと考えられる。 600 ~ 2,400回においては、水平方向、鉛直方向とも、変位は0~ 600回に比べ非常に小さいことから、PMA-Ⅱを用いた効果が発揮されたものと考えられる。(3)供試体③(ポーラス)

 0~ 600回においては、輪荷重直下を中心に鉛直下

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-3 -1.5 0 1.5 3

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250 50-25-50

-3

-1.5

0

1.5

3(mm)

図-8 水平方向の変位

(3) 供試体③(ポーラス) (3) 供試体③(ポーラス)

(2) 供試体②(密粒度 PMA-Ⅱ) (2) 供試体②(密粒度 PMA-Ⅱ)

(1) 供試体①(密粒度ストアス) (1) 供試体①(密粒度ストアス)

図-9 鉛直方向の変位

20 寒地土木研究所月報 №741 2015年2月

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-60 -30 0 30 60 (%)

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250 50-25-50

60

30

0

-30

-60(%)

図-10 水平方向のひずみ

(3) 供試体③(ポーラス) (3) 供試体③(ポーラス)

(2) 供試体②(密粒度 PMA-Ⅱ) (2) 供試体②(密粒度 PMA-Ⅱ)

(1) 供試体①(密粒度ストアス) (1) 供試体①(密粒度ストアス)

図-11 鉛直方向のひずみ

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が発生していることが確認された.Taniguchi ら10)は北海道の高速道路のポーラスアスファルト混合物を用いて X 線 CT 撮影を行った結果,「縦ひび割れは舗装の表面からだけでは無く,舗装の内部または下部から発生する」と結論づけているが,今回の試験からもこの結論が裏付けられた.600 ~ 2,400回においては,大きなひずみの発生は見られなかった. 鉛直方向においては、0~ 600回において荷重直下の深い部分(深さ30 ~ 40cm)において大きなひずみの発生が見られた一方,600 ~ 2,400回においては水平方向同様,大きなひずみの発生は見られなかった.

4.まとめ

 X 線 CT スキャナ及び DIC は、ホイールトラッキングトラッキング試験におけるアスファルト混合物の変位特性、ひずみ特性を把握するのに有効な手段であることが確認できた。特に、ストレートアスファルトを用いた密粒度アスファルト混合物において変位が混合物の深部へ伝播していく様子や、ポリマー改質アスファルトⅡ型を用いた密粒度アスファルト混合物では表面に大きな引張りひずみが発達すること、ポーラスアスファルト混合物では混合物の内部で大きな引張りひずみが発達するなど、それぞれの混合物での変位、ひずみ特性を確認することができた。これらの結果は、従来から言われている「縦ひび割れ」の発生原因を裏付ける結果となった。 なお、今回は一般地域で用いられる混合物で検証を行ったが、今後は寒冷地特有の舗装の破損のメカニズム解明等に X 線 CT スキャナを活用していきたい。

参考文献

1) 松野三朗:アスファルト舗装の破損とパフォーマンス写真集、理工図書、2011

2) 日本道路協会:舗装調査・試験法便覧、2007.3) 日本道路協会:舗装の構造に関する技術基準・同

解説、2001.4) 近藤崇、森吉昭博、吉田隆輝、高橋正一:ホイー

ルトラッキング試験におけるアスファルト混合物内部の骨材の移動特性、Journal of the Japan Petroleum Institute、46(3)、pp.172-180、2003.

5) 椋木俊文:地盤工学における X 線 CT 法の適用に関する研究、熊本大学博士論文、2001.

6) 谷口聡、西崎到、大谷順:X 線 CT スキャナを用

方向の変位が発生するとともに、供試体の深い部分(約40mm 付近)においても鉛直方向の大きな変位が確認できた。また、水平方向の移動は供試体②に比べ大きくなっており、近年問題となっているポーラスアスファルト舗装の側方流動の兆候であると考えられる。 600 ~ 2,400回においては、供試体②と同様、水平方向、鉛直方向とも水平方向、鉛直方向とも、変位は0~ 600回に比べ非常に小さく、供試体②同様、PMA-Hが持つ塑性変形抵抗性及び骨材飛散抵抗性の効果が発揮されたものと考えられる。3.2.2 DIC によるひずみ特性

 供試体①~③の後部における各載荷回数毎の水平ひずみを図-10、鉛直ひずみを図-11に示す。

(1)供試体①(密粒度ストアス)

 水平方向においては、載荷回数が増加するに従って、ひび割れ発生の原因となる引張りひずみが大きくなる傾向が見られた。また、0~ 600回においては供試体の浅い部分で大きな引張りひずみが発生しているが、2,400回、6,000回と載荷回数が増えるに従い、引張りひずみの大きな部分が深いところにまで達していることが確認できた。これは上部では骨材の流動によって外側に引っ張られることにより発生したものと思われる。 鉛直方向においては、圧縮ひずみが層状に発生しており、0~ 600回、2,400 ~ 6,000回、600 ~ 2,400回の順に圧縮ひずみが小さくなるという、変位の大きさと連動する傾向が見られた。なお、表面部分に引張りひずみが発生しているが、これはわだち掘れによって発生した空間によるものであり、供試体のものではない。

(2)供試体②(密粒度 PMA -Ⅱ)

 水平方向においては、0~ 600回において荷重直下の浅い部分で供試体①よりも大きい引張りひずみが発生していることが確認された。これは、供試体②は供試体①に比べ「縦ひび割れ」が発生しやすいことを示唆している。600 ~ 2,400回については大きなひずみの発生は見られなかった。松野1)は「わだち割れ」と呼ばれる「縦ひび割れ」の原因の一つとして「交通解放後に入るものが多い」ことを挙げているが、これを裏付ける結果となった。 鉛直方向については、供試体①と同様、圧縮ひずみが層状に発生し、圧縮ひずみの大きさと連動する結果となった。

(3)供試体③(ポーラス)

 水平方向においては、0~ 600回において密粒度とは異なり,荷重直下の深い部分で大きい引張りひずみ

22 寒地土木研究所月報 №741 2015年2月

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ク、東京大学出版会、2004.9) Schneider, C.A., Rasband, W.S. and Eliceiri,   K.W. "NIH Image to ImageJ: 25 years of image

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study of Longitudinal Cracking in Asphalt Pavement using CT scanner, Road Materials and Pavement Design, vol. 9, issue 3, pp.549-558, 2008.

いたアスファルト混合物内部の品質評価手法の開発、土木技術資料、55(2)、pp.2-5、2013.

7) Hall, S.A., Lenoir N., Viggiani G., Desures J. and Besulle P.: Strain Localization in Sand under Triaxial Loading: characterization by X-ray Micro Tomography and 3D Digital Image Correlation, Proceeding of International Symposium on Computational Geomechanics

(COMGeo09), 2009.8) 高木幹雄、下田陽久:新編 画像解析ハンドブッ

木村 孝司**

KIMURA Takashi

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ寒地道路保全チーム

上席研究員

大谷 順***

OTANI Jun

熊本大学大学院自然科学研究科教授Ph.D

谷口 聡*

TANIGUCHI Satoshi

寒地土木研究所寒地保全技術研究グループ寒地道路保全チーム主任研究員

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