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25 から、やったことがない調湿外気処理機は面白そう、僕 これやりますと、言ったんです」 僕たちは、お客様を あっと言わせるものを考えるべきだ エアコンの冷却・加熱と、「DESICA」の除湿・加湿 を専用化することで、温度と湿度の個別制御を可能にし、 快適性と省エネ性を両立させる。「DESICA」の開発当 初、根本的なシステム自体は評価されており、技術的に も可能であることが知られていた。最大の問題は、この デシカの熱交と、8個必要なダンパーシステムを、いか にコンパクトにして製品化できるか、だった。 薮は、ダイキンの営業担当者に見せて意見を聞いた。 さらに得意先を呼んでもらい、製品を説明して、さらに 意見を聞く。それを朝から晩まで1週間続けたこともあ った。10年経って、ようやく製品化できた時には、「薮 があそこまでやって、良いものができたんやから、売っ たらなあかん」と、営業担当が味方になってくれた。 2011年には、公益社団法人発明協会が主催する全国発 明表彰で特別賞「経済産業大臣発明賞」を受賞した。 「シーズを投入して、初めてニーズが生まれる。僕たち はお客様をあっと言わせるものを考えるべきだと思って います」 空気のことなら何でも知っている。 世界初の「空気の医者」になる 空気に対してダイキンは、IAQ技術グループは、「何 でも知っていないといけない」と薮は言う。「空気の相 談がしたいならダイキンのTIC内のIAQ技術グループ に聞け、全て教えてくれる」と言われたい。さらに快適 性ならこの担当者、臭いについてはこの担当者、となり たい。IAQ技術グループの研究者たちには「空気の医者 になれ」と言っている。「そうしたら僕はヤブ医者か も」と、薮はジョークを飛ばすが、まだどこにもいない 空気の医者が本当に誕生したら、面白い。 「医者は悪いところを治すことが大前提。その先にある 楽しいことや気持ちの良いことも、空気によって作りだ すことができたら」と薮は、IAQの未来を語る。 「仮説をもって仕事をしていくことが大事」と薮。IAQ技術グループを 率いる薮は、常に「君はこれを買いたいか?」と若い研究者に問う。自 分が買いたい、自分が売りたいと思えるものでないと提案ではない、と グループの部下たちに主体的な仕事を求める。 「challenge」第2号の座 談会に集まったときとは、 違ったメガネで現れた薮 (2 号25ペ ー ジ 参 照)。形 も色も異なる10種類ほど のメガネを持つお洒落な一 面も。「気分によってメガ ネを変えているだけです」 と笑う。 情報は脳のキャッシュメモリに 記憶しておく。新しい情報と 電気信号ですぐに融合できるように。

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24 Challenge 2018 Vol. 03 25

交感神経優位のもとでリラックスした状態になるのか、なども測定することができ、さらには、それと紐づけて空気をエアコンでコントロールすることも可能になる。「今のエアコンは、『暑い』『寒い』などからしかモードを選べませんが、未来のリモコンには『リラックスしたい』『集中し続けたい』といったモードで自動運転することも可能になるかもしれません」 空気の温度や湿度と人間の感性を紐づける「ものさし」と、それを実現させるための差別機械であるアクチュエーション(動作)。そして、人それぞれ多様に存在する最適な空間の中から、何を選ぶかのソリューション

(回答)。「これからの時代、この三つの一つでも欠けてしまうと価値を認められないと思います。三位一体でやっていかないといけない」と薮は言う。

モノ作りをする人たちに大切なのは 「愛」と「やる気」と「好奇心」

 薮は、IAQ技術グループの教育スローガンとして「愛とやる気と好奇心」を掲げる。愛とは、製品を世に出してからも追いかけていくこと。やる気は、技術開発を進めるモチベーションであり、今の技術者はある程度持っている。一方で、好奇心が足りないのではないか――。「自分ができること、はすでに自分でわかっているのだから、それはいったん置いておいて、全く新しいことを一つでもいいから設けるようにして、自分の領域を広げてください、と言い続けているんです」 薮の日常を見ると、自席にいる時間はわずかしかない。一日中、誰かと話をするためにTIC内を走り回っているのだ。「新しい情報が入ってこないときが一番つまらない。新しい情報とアレをくっつけてみよう、と考えて

いることが楽しい」と笑う。自分を広げていくには、自分がもっている情報に、新しい情報を組み合わせること。薮にとって、好奇心とはコミュニケーションであって、それは「愛」や「やる気」を支えるものなのだ。「情報は脳のハードディスクではなく、できる限りキャッシュメモリに記憶させるんです。新しく入ってきた情報と電気信号で、すぐに融合できるように。情報は、常に表面に置いておくことが大事なんですよ」

「精一杯」の一つ上、をやることが 自分を成長させることにつながる

 1991年にダイキンに入社した薮は、音振動グループに入った後、油圧ポンプの騒音低減や、冷媒通過音の研究に携わった。その後、配管の振動の装置試験を1年していた。来る日も来る日も、配管を1000回も叩く日々。

「僕は、どこにいても楽しむタイプ。その時は、一発で良い音が鳴って、データが取れるように挑戦しました。僕にとって知らないことは面白いこと」。どこに行っても、そこで何か得ることはある。「精一杯」の一つ上を目指すことが自分を成長させる。 その後、半年間、埼玉・小手指の家電量販店「ラオックス」(現在は閉店)の店頭に立ち、接客販売をした。直接カスタマーと関わることで、自分たちが作ってきた商品を、最後まで追いかけていく大切さを学んだ。 2007年に製品化された調湿外気処理機「DESICA デシカ」への挑戦も、好奇心が原動力になった、と思う。1997年頃、薮には、次に進む研究対象として三つ選択肢があった。給湯機の省エネ、エアコンの省エネ、後の

「DESICA」の先駆けとなる調湿外気処理機である。「給湯機もエアコンも、世の中にすでにありました。だ

から、やったことがない調湿外気処理機は面白そう、僕これやりますと、言ったんです」

僕たちは、お客様を あっと言わせるものを考えるべきだ

 エアコンの冷却・加熱と、「DESICA」の除湿・加湿を専用化することで、温度と湿度の個別制御を可能にし、快適性と省エネ性を両立させる。「DESICA」の開発当初、根本的なシステム自体は評価されており、技術的にも可能であることが知られていた。最大の問題は、このデシカの熱交と、8個必要なダンパーシステムを、いかにコンパクトにして製品化できるか、だった。 薮は、ダイキンの営業担当者に見せて意見を聞いた。さらに得意先を呼んでもらい、製品を説明して、さらに意見を聞く。それを朝から晩まで1週間続けたこともあった。10年経って、ようやく製品化できた時には、「薮があそこまでやって、良いものができたんやから、売ったらなあかん」と、営業担当が味方になってくれた。2011年には、公益社団法人発明協会が主催する全国発明表彰で特別賞「経済産業大臣発明賞」を受賞した。

「シーズを投入して、初めてニーズが生まれる。僕たちはお客様をあっと言わせるものを考えるべきだと思っています」

空気のことなら何でも知っている。 世界初の「空気の医者」になる

 空気に対してダイキンは、IAQ技術グループは、「何でも知っていないといけない」と薮は言う。「空気の相談がしたいならダイキンのTIC内のIAQ技術グループに聞け、全て教えてくれる」と言われたい。さらに快適性ならこの担当者、臭いについてはこの担当者、となりたい。IAQ技術グループの研究者たちには「空気の医者になれ」と言っている。「そうしたら僕はヤブ医者かも」と、薮はジョークを飛ばすが、まだどこにもいない空気の医者が本当に誕生したら、面白い。「医者は悪いところを治すことが大前提。その先にある楽しいことや気持ちの良いことも、空気によって作りだすことができたら」と薮は、IAQの未来を語る。

研究者の群像 シリーズ❸

Copyright (C) 2017 DAIKIN INDUSTRIES, ltd. All Rights Reserved■ 理化学研究所(CLST)×ダイキン ■ 大阪大学×ダイキン理化学研究所のライフサイエンス技術基盤研究センター

(CLST)と連携し、多様な温湿度下で人に対する疲労度測定を行う実験設備を、2017年11月1日に開設した。

2017年7月には、大阪大学の研究者とダイキンの技術者が、空間における快適さや生産性、安全性などの研究成果を実用化するために、共同研究を行うことを発表した。

「仮説をもって仕事をしていくことが大事」と薮。IAQ技術グループを率いる薮は、常に「君はこれを買いたいか?」と若い研究者に問う。自分が買いたい、自分が売りたいと思えるものでないと提案ではない、とグループの部下たちに主体的な仕事を求める。

「challenge」第2号の座談会に集まったときとは、違ったメガネで現れた薮

(2号25ページ参照)。形も色も異なる10種類ほどのメガネを持つお洒落な一面も。「気分によってメガネを変えているだけです」と笑う。

情報は脳のキャッシュメモリに記憶しておく。新しい情報と電気信号ですぐに融合できるように。