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2 北海道自治研究 2017年9月(No.584) 使使

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Page 1: はじめに 「敬愛なるソウル市民の皆様。ソウル市職 …3 í 4(+¬ %Ê'2 >0>.>/>5 º>7 v>&>LR >' い公契約規整である。札改革等を通じた、生活賃金水準に基づく質の高

2北海道自治研究 2017年9月(No.584)

市民の人権を守る地方自治体の労働政策

  ― 韓国・ソウル市の取り組み

 

上 

林 

陽 

大長征」と称してソウル市内の様々な現場を訪ね

歩いた。

 「労働尊重特別市、ソウル」という考え方は、

二〇一一年の市長選立候補時の選挙公約=「希望

約束」の中で、「創造的で持続可能な、良い就職

づくり」としてすでに示されていた。そして冒頭

で紹介したように、二〇一六年の年頭挨拶で、市

長は就任以来の労働政策を一つ一つ取り上げ、労

働の常識を取り戻し、雇用の質を大きく改善させ

るソウルを目指すことを市民に約束したのである。

 

これまで進められてきた労働政策において、ソ

ウル市は地方自治体として次の三つの役割を果た

してきたと筆者は整理している。

 

第一に、事業主としてのソウル市で、直接・間

接雇用の非正規労働者の正規化事業に取りくんで

きた。

 

第二に、地域最大の経済主体としてのソウル市

で、生活賃金条例の制定と、業務請負契約等の入

はじめに

 「敬愛なるソウル市民の皆様。ソウル市職員の皆

様。

 

すべての成長の目標は人であるべきです。すべ

ての成長の結果は、人の幸せであるべきです。ソ

ウルのすべての成長の果実は、市民一千万人みん

なが享受できるものでなければなりません。働き

たい人は皆働ける雇用創出につながり、成長した

分だけ質の良い雇用が増える雇用特別市を目指す

べきです。

 

二〇一六年は「労働尊重特別市、ソウル」が定

着するでしょう。「労働者の権益保護」「模範的使

用者の役割の定立」など、市民の労働基本権が保

障される環境が構築されます。経済と社会の根幹

を安定化させる人への投資も一層強化します。生

存するための最低賃金にとどまらず、人間らしい

生活を保障する生活賃金制度を民間分野にも広げ、

二〇一七年までに非正規雇用の正規雇用への転換

を一〇〇%完了させることにより、労働の常識を

取り戻し、雇用の質は大きく改善されるソウルを

目指してまいります。」

朴パク・ウォンスン

元淳ソウル市長 

二〇一六年年頭挨拶から抜粋>

 

二〇一一年一〇月の前市長辞職に伴う選挙で当

選した朴元淳市長は、矢継ぎ早に、市民重視の政

策を実現している。革新的政策の中心になってい

るのが、ワンパッケージとして計画され展開され

ている「労働尊重特別市、ソウル」という名称に

表現される一連の労働政策である。

 

韓国も日本と同様に、労働行政は国の権限とさ

れ、地方自治体が労働政策を展開することはなかっ

た。このようななかでソウル市は、地方自治体と

してはじめて、労働政策専門部署として労働政策

課を設置した。そして独自の労働行政を進めるた

めに、労働組合、使用者、学者のほか、女性団体、

青年団体等と協議を進め、また朴市長自ら「雇用

Page 2: はじめに 「敬愛なるソウル市民の皆様。ソウル市職 …3 í 4(+¬ %Ê'2 >0>.>/>5 º>7 v>&>LR >' い公契約規整である。札改革等を通じた、生活賃金水準に基づく質の高

3 北海道自治研究 2017年9月(No.584)

札改革等を通じた、生活賃金水準に基づく質の高

い公契約規整である。

 

そして第三に、労働政策主体としてのソウル市

で、労働者としてのソウル市民の権益を保護する

施策を次々と実現している。

2.正規化事業 

事業主としてのソウル市

⑴ 

韓国 

公共部門・非正規労働者の正規化事

 

韓国社会は、一九九七年のIMF危機以降、労

働の非正規化が加速し、政府統計によると、二〇

〇四年に三七・〇%でピークに達した。

 

この時点で、中央政府は、公務の率先垂範を打

ち出し、非正規労働者の正規化対策を講じた(

1)。

① 

廬ノ・ムヒョン

武鉉政権における「公共部門非正規職対

策」

 

まず、廬武鉉政権における「公共部門非正規職

対策」である。

 

二〇〇三年四~一〇月にかけ、公共部門で働く

非正規労働者の実態に関する調査(二〇〇三年実

態調査)を実施し、非正規労働者が二三万四三一

五人(全体の一八・八%)で、このうち「調理補助」

「事務補助」「環境美化員」「期間制教師」「時間講

師」が四三・一%に及ぶことを明らかにする。こ

の結果を踏まえ、二〇〇四年五月に「公共部門非

正規職対策」として、上記の職種の雇用安定と処

遇改善として、環境美化員、道路補修員、職業相

談員等の契約職を無期転換することを打ち出す。

 

さらに、二〇〇六年八月「公共部門非正規職総

合対策」を策定し、常時・持続的な業務従事者を

無期転換することを打ち出すとともに、二回目の

公共部門非正規労働者の実態に関する調査(二〇

〇六年実態調査)を実施した。同調査では、公共

部門の非正規労働者の範疇を、直接雇用の非正規

職だけでなく、業務請負先の非正規労働者も公共

部門の非正規職と捉え対象とした(

2)。同調査結果に

おける非正規労働者は、直接雇用二四万六八四四

人、間接雇用<

派遣・請負・用役>

六万四八二二

人、合計三一万一六六六人というものであった。

 

この結果を踏まえ、二〇〇七年六月に「無期契

約転換、外注化改善及び差別是正計画」が策定さ

れ、常時・持続的な業務従事者で、二〇〇七年五

月三一日現在で勤務期間が二年以上の者を無期転

換するとした(ただし、研究者、大学教員のよう

に、期間制及び短時間労働者保護等に関する法律

以下、「期間制法」という>

四条一項但書に規

定される例外事由=入口規制該当は適用除外とし

ていた)。

 

二〇〇七年七月に、期間制法が施行する。同法

は、有期雇用の総期間が二年を超える場合は、例

外条項に該当しない限り、期間の定めのない労働

契約とみなすというもので、その他にも労働条件

の書面明示義務、優先雇用の努力義務等、非正規

職労働者の保護のための条文が規定された。

 

同法は、韓国の国・地方自治体の直接雇用の非

正規労働者に適用されている。なぜなら、これら

公共部門直接雇用の非正規労働者には公務員法が

非適用で、かつ、期間制法四条一項但書(適用除

外)は、特別の法律で任用される任期付公務員の

みを適用除外にしているからであった。

② 

李イ・ミョンパク

明博政権の「公共部門非正規職雇用改善

対策」

 

公共部門の非正規職対策は、李明博政権でも引

き継がれる。

 

二〇一一年六月二七日、李明博は、「正規職と非

正規職の間で理不尽な差別があってはいけないし、

公共部門が率先しなくてはいけない」と指摘した。

この発言の背景には、地方選挙での当時の与党勢

力の敗北があったといわれる。同年一一月二八日

には、「公共部門非正規職雇用改善対策」が打ち

出され、三回目の実態調査が行われる。

 

この二〇一一年実態調査では、非正規職三四万

六三六人(直接雇用二四万九三三人+間接雇用<

派遣・請負・用役>

九万九六四三人)というもの

であった。二〇〇六年調査と比較すると、直接雇

用非正規労働者数は横ばいで、間接雇用非正規労

働者数は、むしろ増えている。期間制法は、公務

部門でも間接雇用(業務委託等)へシフトする圧

力として作用したのである。

 

同調査結果を受け、李明博政権は、二〇一二年

一月一六日、「常時・持続的業務従事者の無期契約

転換基準等公共部門非正規職雇用改善推進指針」

を策定し、常時・持続的業務(過去二年以上、将

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4北海道自治研究 2017年9月(No.584)

来二年以上)従事者/一年のうち一一か月以上勤

務する者(これ以下は間歇雇用者)/五五歳未満

の者を正規化対象者とし、その人数は、直接雇用

非正規労働者の約三割に該当する六万三七三五人

であるとした。(ただし、実際に正規化したのは

二万二〇六九人に過ぎなかった。)

③ 

朴パク・クネ槿恵政権の公共部門非正規職の正規職転

換計画

 

朴槿恵政権でも、公共部門非正規職対策は継続

する。

 

二〇一三年に、「二〇一三~二〇一五年 公共部

門非正規職の正規職転換計画」が立てられ、非

正規二五万一五八九人のうち、六万五七一一人

(二六・一%)を対象とした。この計画は、はじめ

て実績が計画を上回り、三年間の実績で七万四〇

二三人(一一二%)という結果となったのだが、

これには、皮肉にも、朴槿恵政権の政敵でもあっ

た朴元淳施政のソウル市の無期転換事業が寄与し

たのである。

 

⑵ 

ソウル市 

非正規労働者の正規化事業

 

韓国中央政府は、労働市場の非正規化対策とし

て、二〇〇七年に期間制法をはじめとする非正規

労働者保護法を施行し、公共部門の非正規化対策

も進めてきたものの、非正規労働者の処遇改善・

権利保護の改善はめざましいものではなかった。

 

これに対し、二〇一一年一〇月にソウル市長に

当選した朴元淳市長は、その選挙公約である「希

望約束」で、「持続可能な発展と社会・経済の二

極化の解消による社会統合を図るために非正規労

<表1> 部門別公共部門正規・非正規比較(2006-2013)

<表2> 2013年改善対策と3年間の転換実績

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転換の対象者とすることができた。五五歳以上高

齢者の場合も然りである。さらに期間算定も、契

約期間ではなく在職期間とすることで、即座に無

期転換を実現している。これらの結果、二〇一二

年五月時点の直接雇用の非正規労働者四九九〇人

のうち一三六九人(二七・四%)の職員を、第一

次非正規職雇用改善対策として無期契約転換とし

たのである。

 

処遇改善を伴う正規化(非正規職への差別を解

消) 

韓国社会では、非正規労働者の無期契約転

換後の労働条件が、非正規時の低い労働条件のま

まである事例が数多く散見され、これらのケース

は、正規でも非正規でもない「中規職」と呼ばれた。

 

これに対しソウル市における無期転換事業は、

処遇改善を伴うもので、まさしく正規化事業と呼

ぶに相応しいものであった。

 

正規公務員と直接雇用非正規労働者との格差解

消は、まず給料表の適用問題として現われた。日

本と同様に、韓国の公務員給与制度も経歴・勤続

年数による号俸制をとっている。

 

ソウル市では、無期転換した労働者に号俸制を

全面的に適用し、勤続年数に応じ昇給するものと

した。その結果、直接雇用転換者の年収は大幅に

アップし、年収一五〇〇万ウォンから一八〇〇万

ウォンへと二割上昇した。このほか、福祉ポイン

ト、退職金、健康診断料、年次有給休暇の買い上

げ、時間外手当等も整備した。とりわけ「福祉ポ

イント」は正規公務員と同一適用している。

働者問題に先導的に対応する」ことを掲げ、就任

後、次々と「希望約束」を実現してきた。

 

① 

直接雇用非正規労働者の正規化事業

 

二〇一二年三月、ソウル市は、「公共部門第一次

非正規職雇用改善対策」を公表し、五月一日に第

一次措置として一一三三人、続いて二〇一三年一

月一日に第二次措置として二三六人、合計一三六

九人の直接雇用非正規労働者の無期転換措置を実

施した。

 

広い適用範囲 

ソウル市の無期転換措置の特徴

は、第一に、その適用範囲にある。

 

先述の通り、李明博・朴槿恵政権での無期転換

基準は、①年間継続する業務で、過去二年以上続

き、今後二年以上維持継続する見込みの業務に従

事する者で、②年間一一か月勤務する者のうち、

③五五歳未満の者を無期契約転換対象者とすると

いうものであった。

 

これに対しソウル市の無期転換対象者は、①年

間継続する業務で、今後二年以上維持継続する見

込みの業務に従事する者で、②一年のうち九か月

以上勤務する者のうち、③六〇歳未満の者を無期

契約転換者と見なすというものであった。

 

無期転換対象者の範囲は、中央政府よりソウル

市は広く、このためたとえば冬期間の二か月につ

いてソウル市を流れる漢江や公園緑地の清掃作業

を行えない非正規労働者のように、中央政府の基

準ではこれを満たさない者も、ソウル市では無期

 

さらに今後の新規採用者についても、新たな号

俸制に基づいた賃金と昇給制度等が適用となった。

 「公務職」という名前の付与 

直接雇用・無期

転換しながらも、転換された者には、ソウル市で

働く「公務員」とは異なるという心理的な壁の問

題があった。

 

二〇一一年一二月一九日、就任直後の朴市長は、

民間の公共サービス事業の労働者を組織化する労

働組合の幹部と面会した。面会の折、労働組合幹

部は、朴市長に要求書を提出するとともに、次の

ような要請を行った

 「私どもは名前の無い労働者です。だから私達

に名前を下さい、公務職という名前を下さい。」

 

二〇一二年五月一日、ソウル市では、新たに直

接雇用した労働者について、公務員法が適用とな

る「公務員」と対比させ、「公務職」と名づける

規程の制定を行い、「公務職証」と書かれた身分

証を発行した。

 

清掃、警備・施設管理等の現業部門に従事する

労働者の呼称は、最初は「日雇人夫」と言われ、

その次は「常用人夫」と言われ、一九九九年から

は「常用職」に変更され、そして市民に公共サー

ビスを提供する主体であることを表わす「公務職」

という名前の付与へとつながっていった(

3)。

 

転換対象から外された者の処遇も改善 

先に指

摘したように、今次の無期転換措置は、一定の要

件を付して実施されたことから、ソウル市に勤務

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6北海道自治研究 2017年9月(No.584)

ら四二五五人の有期の直接雇用労働者が無期転換

している。

 

第二段階(二〇一四~一五年)は、施設関係並

びに警備関係の間接雇用労働者を対象とし、一二

四九人を有期の直接雇用とし、期間制法による無

期転換措置が有効となる二〇一六年四月に無期転

換を果たした。

 

さらに第三段階(二〇一五~一六年)として、

駐車場整理、案内、運転などその他分野の間接雇

用労働者四二三人をソウル市の有期の直接雇用化

し、二〇一七年四月に無期転換している。

 

したがって、ソウル市では、二〇一七年四月段

階で、ソウル市の業務委託事業で働いていた間接

雇用労働者五九二七人を直接雇用化し、無期雇用

に転換しているのである。

 

さらに上記の正規化事業の進捗を確保するため、

二〇一五年一月、「ソウル特別市非正規職勤労者の

無期契約職転換など雇用環境改善支援条例」を施

行した。同条例では、雇用改善の対象者は直接雇

用の非正規労働者と無期転換した契約労働者(二

条)、市長は非正規労働者の雇用改善総合計画を

策定し(四条)、公共各部門の長は、長期勤続の

奨励や処遇改善を進め、正規化事業を派遣・用役・

社内下請労働者に拡大し、不当な雇止めや差別処

遇を禁止する(五~七条)というものであった。

 

脆弱労働者を優先適用 

ソウル市が、第二次非

正規職雇用改善対策で、清掃、施設、警備業務を

ターゲットにしたのは、特にこれら業務に従事す

していた非正規労働者全員が無期転換したわけで

はない。

 

表3に示したように、全非正規労働者の七割強

の三六二一人は転換除外となった。これら転換除

外職員を放置したままでは、新たな格差を生じる

ことから、ソウル市では、これら非正規労働者の

処遇改善を進めた。

 

まず、公務員・公務職・非正規労働者に関わら

ず、年間福祉ポイントを、一人当たり一三〇万ウォ

ン付与することとした。さらに、正月などの休暇

手当として、年一一〇万ウォンを付与することと

した。

 

② 

間接雇用労働者の直接雇用化・無期転換措

  

 

二〇一二年一二月、ソウル市は公共部門第二次

非正規職雇用改善対策として、ソウル市の業務委

託事業で働く間接雇用労働者を対象とし、今後五

年間で段階的に無期転換すると発表した。ソウル

市の出資団体であるソウル地下鉄、都市鉄道が七

割を占め、大部分が清掃労働者である。

 

計画では、第一段階(二〇一三~一四年)とし

て、間接雇用の清掃労働者四二五五人をソウル市

関連の子会社の直接雇用の有期雇用労働者に転換

し、期間制法による無期雇用転換措置が有効とな

る二〇一五年四月をまって無期転換するというも

のであった。間接雇用の清掃労働者の平均年齢は

高く、委託事業者での定年年齢も五七~五八歳で

あったことから、ソウル市はソウルメトロ環境、

都市鉄道グリーン環境という子会社を設立(前者

は二〇一三年六月一日、後者は同年四月一日)し、

同会社での直接雇用として六五歳までの定年を保

障することとした。そして、二〇一三年六月一日

から、順次、子会社に移籍し、二〇一五年四月か

<表3> ソウル市1次・2次直接雇用非正規職の正規職転換実態    (単位:人)

<表4> ソウル市間接雇用非正規職の正規職転換過程

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7 北海道自治研究 2017年9月(No.584)

 

処遇改善措置 

第二次非正規職雇用改善対策で

も、二〇一四年にソウル市の直接雇用となった施

設・警備業務の労働者の平均賃金が七・三%引き

上げられるとともに、福祉ポイントや休暇手当等

が付与され、六五歳定年制も導入された。

 

ソウル地下鉄の清掃分野でも、月給が三〇万ウォ

ン程度上昇し、勤続年数も伸びた。また八人の中

間管理職のうち四人が退職した時点では、女性の

清掃労働者がはじめて管理職に昇進するという職

場環境の変化も現われている。

 

予算も削減 

このような処遇改善にもかかわら

ず、ソウル市の予算はむしろ削減されている。具

体的に清掃部門の状況を見ると、業務委託の際の

一〇七二億ウォン(人件費六五七億ウォン+経費

四一五億ウォン)から直接雇用の際の一〇一九億

ウォン(人件費七六五億円+経費二五四億ウォン)

へ五三億ウォン、五%ほど削減されている。主な

要因は、業務委託に係る管理経費(委託先企業の

利益部分)が大幅に削減されたためであった。ま

た、予算削減には、業務委託を直営に戻すことに

より、委託業者に追加的に付加していた一〇%分

の付加価値税の支払いが不要になったことも寄与

した。

 

③ 

民間業務委託労働者の正規職転換

 

第二次正規化事業が完了を間近にして、ソウル

市は、二〇一四年三月、第三次非正規職雇用改善

対策を公表した。第三次は、民間業務委託労働者

る労働者の労働条件が劣悪だったためといわれる。

 

ソウル市から公共部門第二次非正規職雇用改善

対策の策定を依頼された民間の労働シンクタンク

である韓国労働社会研究所では、①低賃金、②女

性、③高齢者、④労組が無く保護を受けられない

労働者という四つの基準が当てはまる者を、保護

や救済が最も必要とされる脆弱労働者とし、優先

的に正規化を進めるべき労働者とした。そして、

先の四つの脆弱基準を満たし、最も劣悪だったの

が清掃労働者、そして警備と施設管理だったので

ある。したがって、清掃からはじめ、順次、警備・

施設警備というように段階的無期転換措置を進め

ることとしたのである。

 

委託労働者は間接雇用 

ソウル市の間接雇用労

働者の数値について、ソウル市は、当初、約一〇

〇〇人であると中央政府に報告していた。これは

いわゆる派遣労働者数のみの数値であった。一方、

韓国労働社会研究所では、無期転換対象の間接雇

用労働者をトータルで六二三一人と算定した。こ

の差は、業務委託をどのように見るかにかかって

おり、ソウル市の当初のカウントは、委託事業は

ソウル市の事業であるが従事労働者は民間委託先

の直接雇用であり、請負労働者は間接雇用とみな

せないとしていたのに対し、韓国労働社会研究所

のカウントは、委託事業はソウル市からの請負事

業であり、従事労働者は間接雇用者と見なすとい

うもので、韓国で一般的な非正規職概念を重視す

るものであった。

を対象とし、コールセンターや水道メンテナンス

の事業について財団化を進め、当該事業に従事す

る非正規労働者を同財団において正規化するとい

うものであった。

 

二〇一七年三月段階で、上下水道の検針員四三

八人、茶タ

サン山コールセンターの四四四人が財団で無

期転換された。

 

同年七月一七日には、ソウル交通公社などソウ

ル市の投資・出捐機関一一か所で働く無期契約職

二四四二人全員および期間制労働者一〇八七人を

正規職転換するという「労働尊重特別市第二段階

計画」を発表している。

 

このように順調に進みつつあるソウル市におけ

る非正規労働者の正規化事業であるが、すでに、

<図1> ソウル市 清掃部門 直接雇用化に     よる予算削減と処遇改善

出典)ソウル市提供資料

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8北海道自治研究 2017年9月(No.584)

適用対象労働者たちに人間として最小限の人間ら

しい生活を保障する水準として決定される賃金と

定義され(条例一条・二条)、上記の機関は従事

労働者に対し、生活賃金委員会の審議を経て市長

が定める金額以上の賃金を支払わなければならな

いとする。

 

二〇一七年段階では、韓国全土の法定最賃が六

四七〇ウォンなのに対し、ソウル市が定めた生活

賃金は八一九七ウォンである。また、ソウル市で

は、二〇一八年に九〇〇〇ウォン台に引き上げて、

二〇一九年までに一万ウォンを超えることを目標

としている。

 

生活賃金(リビング・ウェイジ)運動は、日本

でもようやく制定が進められてきた公契約条例制

定運動の二つの源流のひとつである。

 

公契約運動の第一の源流は、一九世紀末、公共

工事の受注者間のダンピング競争による窮乏化を

防止するために、自治体が地域相場の生活できる

水準の労賃を支払うこととしたフランスの公契約

規整令(一八九九年)で、アメリカでも、大恐慌

時の公共工事に従事する労働者の賃金を世間相場

並みとするためのディビス・ベーコン法(一九三一

年)が制定されていた。特に後者は、ILO九四

号条約「公契約条約」(一九四九年)につながっ

ていった(

4)。いうなれば、公共工事の従事労働者の

賃金水準のあり方を焦点とするものである。

 

この源流とは別に、アメリカでは、自治体の条

例で業務請負企業等の労働者の労働条件を定める

リビングウェイジ運動が展開され、一九九四年に

限界点に突き当たっている。限界点とは、中央政

府によって各自治体に課された総額人件費(基本

人件費の伸び率上限は三%以内。これをこえると

地方交付税の削減対象)と定員管理規制である。

 

これらの規制は、中央政府の行政自治部が定め

る。定員には、公務員法適用の公務員だけでな

く、新たに直接雇用した公務員法非適用の「公務

職」も含まれる。一方、定員管理対象は正規職

で、有期雇用の期間制労働者については管理外に

あった。したがって、規制に触れることを嫌った

自治体関係者は、非正規労働者の正規化に消極的

となっている。

 

これら制度的限界のため、第二次非正規職雇用

改善対策では、直接雇用時にすぐに無期転換する

のではなく、二年間を期間制労働者として採用す

ることで猶予期間を設け、その間に、規制緩和に

むけ中央政府との交渉を進めることとした。また、

第三次非正規職雇用改善対策における茶山コール

センターや水道メンテナンスに関して、財団化を

進めるとしたのも、上記の総額人件費や定員管理

規制を回避する目的もあった。

2.地域最大の経済主体として、良質な雇用

 

を作るソウル市

 

二〇一五年一月、ソウル市は、同市ならびに市

の投資・出捐機関の直接・間接雇用者を対象とす

る「生活賃金条例」を制定・施行した。「生活賃金」

とは、国の既存最低賃金制度の問題点を補完し、

ボルティモア市で、初めて生活賃金条例(Living

Wage O

rdinance

)が制定された。当時の連邦最低

賃金が時給四・三五ドルだったのに対し、ボルティ

モア市は条例で時給六・一ドルを最低賃金と定め、

同市と業務請負契約をしている民間事業者の労働

者に適用することとなった。その後、こうした連

邦最低賃金を上回る金額の時給を定める地方自

治体独自の生活賃金条例制定が全米に広がり、

二〇〇八年四月時点で、一六〇の市郡で生活賃金

条例が制定されている(

5)。

 

ソウル市の生活賃金条例は、後者のリビング

ウェイジ運動を源流とする。きっかけは、アメリ

カのコーネル大学に留学し、労使関係を研究して

いたクォン・スンウォン(淑明女子大学教授)が

二〇〇五年一〇月に韓国労働研究院の雑誌で紹介

したことを契機として、学会、労働団体に広まっ

ていったことにある。そして、二〇一三年に京キ

ョンギ畿

道ドウ

の富プ

チョン川市ではじめて生活賃金条例が制定され、

二〇一四年には、広域自治体である京畿道で制定

されるに至った(6)。

 

ソウル市では、二〇一五年に生活賃金条例を制

定したが、これが実質的な先鞭となって、同条例

の制定の動きは韓国全土に広がり、二〇一七年八

月段階で、全二四四自治体中九五自治体が制定し

た。ただし、制定自治体のうち、多くは正規職転

換事業を実施しないで、生活賃金条例だけを制定

し、五〇〇~一〇〇〇ウォンの賃金引き上げにと

どめている例が多い。

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9 北海道自治研究 2017年9月(No.584)

権益本部(=働き手の権利を守る中核的役割)と

模範的使用者役割定立(=職員の雇い主として雇

用者モデルを確立)の役割を果たすと宣言した。

 

⑴ 

勤労者権益保護政策

 

第一の分野である勤労者権益保護に関しては、

例えば、感情労働に従事する働き手を守る対策と

して、二〇一六年一月、「ソウル特別市感情労働

従事者の権利保護などに関する条例」を制定・施

行している。

 

同条例では、感情労働を、「顧客応対など業務

遂行過程で自身の感情を節制して自身が実際感じ

る感情とは異なる特定感情を表現するように業務

上、組織上要求される勤労形態」と定義し(二条)、

過度な感情労働の要求を規制するとともに、感情

労働従事者は暴言・セクハラなど不当な行動に対

し自身を保護できる作業中止権など適切な権限を

付与され(九条)、感情労働従事者を使用する者は、

感情労働に対する禁止行為が発生した場合、感情

労働者に対する治療および相談支援を施し、刑事

告発若しくは損害賠償訴訟など必要な法的措置を

講じることとした(一六条)。

 

また、二〇一五年一一月には、失業率が高い青

年層の就労活動の支援のため、ソウル市青年活動

支援事業として、青年手当の給付を発表した。

 

公表された青年手当制度の概要は、ソウルに一

年以上居住(住民登録基準)した満一九~二九歳

のうち、勤務時間三〇時間未満か未就業期間六か

月以上の低所得層の青年に、最長六か月間月五〇

万ウォンの活動費を現金で、選定委員会で選定さ

れた青年三〇〇〇人を対象に給付するというもの

であった(予算総額九〇億ウォン)。

 

これに対し、朴槿恵政権の中央政府の保健福祉

部は、青年手当の執行停止・是正命令をソウル市

に行った。それにもかかわらずソウル市は、二〇

一六年八月三日、青年活動支援費(青年手当)対

象者三〇〇〇人を選定し、支給を開始した。これ

に対し保健福祉部は、職権取り消し措置を講じ、

一方のソウル市は、処分取消と仮処分を求め裁判

所に提訴するという事態に発展した。

 

ソウル市は、生活賃金条例の適用範囲を、入札

改革を通じ、業務委託先の労働者に拡大し、地域

最大の経済主体として公正な労働を実現すること

を目標としているが、ここで国法の地方契約法と

の抵触問題が惹起している。

 

地方契約法六条一項は、契約相手方の契約上の

利益を不当に制限してはならないと規定しており、

生活賃金条例の適用が契約相手方に不利益を及ぼ

すことから、同法に抵触するおそれがあると指摘

されているのである。このためソウル市では、間

接雇用労働者の使用者が生活賃金を支払えるよう

当該追加負担分に係る委託費を確保することを通

じ、適用対象とする事態に追い込まれた。

 

なお、ソウル市は、上記の課題を解決するため、

文ムン・ジェイン

在寅政権の中央政府に地方契約法の改正を求め

ている。

3.労働政策主体として、市民の権益を保護

 

するソウル市

 「労働尊重特別市、ソウル」の政策理念の特徴は、

地方自治体として、はじめて労働政策を策定し、

労働者としてのソウル市民の権利・利益を保護す

る役割を自らに課したことにある。

 

二〇一四年三月には、「ソウル市特別区勤労者

権利保護及び増進のための条例」を施行し、ここ

では、市長の責務として労働者権利保護を定め、

五年ごとに労働政策基本計画を策定することを規

定した。また、労働尊重特別市ソウルは、勤労者

<図2> 労働尊重特別市ソウルの役割 勤労者権益保護・     模範的使用者役割定立

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10北海道自治研究 2017年9月(No.584)

 

しかしながら、朴槿恵弾劾後に行われた大統領

選挙で、文在寅氏の選出が確実視された二〇一七

年四月には、保健福祉部とソウル市が青年手当制

度を修正(進路模索・力量強化プログラムへの参

加を義務づけ/求職活動と関連した職業体験の参

加費や資格講座の受講費、試験登録費や面接費な

どだけに支出)して実施することに合意し、二〇

一七年六月に改めて実施方針が示された。

 

⑵ 

模範的使用者役割定立

 

ソウル市は、非正規職、低賃金労働者、高齢者・

<表5> 中央政府(雇用労働部)と地方政府(ソウル市、     仁川市、京畿道)の青年支援事業

障害者・女性労働者のような「脆弱労働者」の権

利保護推進のため、たとえば、ブラックバイト対

策として、二〇一三年九月、「アルバイト青年権

利章典」を設定した。ソウル市内の流通産業等の

協力のもと、雇用契約書の裏側に印刷するなどの

取り組みを進めている。さらに朴市長と韓国外食

中央会の会長との間で、「アルバイト青年の権利保

護及び労働環境の改善のための共同協力協約書」

が締結されている。同協約書では、「アルバイト青

年たちが快適で安全な労働環境の中で労働の大切

な価値に気づき自我を成就することができるよう、

〝ソウルアルバイト青年権利章典”を誠実に遵守

し、青年たちの正当な権利保護及び労働環境の改

善のために相互協力する」と謳われている。また、

労働者に優しい施策を展開するソウル市と組むこ

とが企業のインセンティブになっている。

 

二〇一六年には労働権利オンブズマンを一〇〇

人選出し、ファストフードやカフェチェーンなど

に対するモニタリングも実施している。

ソウルアルバイト青年権利章典

 

青年たちにとってアルバイトは、社会で初めて自

身の労働を通じて対価を得る意味のある労働であ

る。我が青年にとってアルバイトは、好奇心や深い

情熱を刺激し、真理を内包する意味のある労働とし

て、楽しく学びのある労働でなければならない。また、

青年の誰にとっても職場における労働の真正な意味

は、憲法が保障する人間の尊厳と価値、そして労働

基本権が実現し、私たち社会の未来における暮らし

の価値を探る希望の過程を内包しなければならない。

 

しかし、今日のアルバイト青年は、職場で人格的

に待遇されず、使用者から不当な待遇を受け、又は

使用者若しくは顧客から不快な言行を受けて、法定

労働条件にも充たない低い賃金と休息のない仕事を

強要される等否定的な経験を多くしている。そこで

私たちは、この社会で青年たちが普遍的な人権の観

点から人間らしい暮らしを享受できるよう、職場で

差別されることなく正当な賃金及び待遇を受けて、

快適で安全な労働環境の中で労働の大切な価値に気

づき自我を成就することができるよう、この権利章

典を宣言する。

二〇一三年九月二三日

おわりに

 

上記で紹介したソウル市の労働政策は、実は一

部に過ぎない。

 

このほかに、①従業員一〇〇人以上のソウル市

の公社、公団、出捐機関について、労働者の経営

参加として労働者理事制度を導入、②市民からの

労働相談を受け、その解決に向けた活動拠点とな

る労働権益センターの創設、③労働安全人権宣言

と労働安全衛生の取り組み、④残業なき時短政策

などが挙げられる。

 

ソウル市の取り組みは、労働行政が国の権限の

もとであったとしても、地方自治体も相当程度の

ことが実施可能であることを示している。そして

出典)前掲表4の54頁図表。

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11 北海道自治研究 2017年9月(No.584)

の無期契約勤労者への転換と課題」『労働法律旬

報』(一八五四)二〇一五年一二月下旬号、二八

頁以下を参照。

(2) 

韓国社会における正社員と区別される非正規職

とは、日本の有期雇用・短時間雇用・派遣社員や

個人請負社員等の間接雇用に限らず、社内下請工

や零細企業の従業員等も含まれる。「韓国におけ

る正規雇用と非正規雇用の違いは、労働基準が(概

して)守られる大企業と十分には守られない零細

企業との違いに相応する部分が大きく、また同じ

企業で働いている「正規雇用」と「非正規雇用」

の違いも。結局は、直接雇用された従業員と、請

負業者に雇われた社内下請従業員との違いである

場合が多い」(有田伸『就業機会と報酬格差の社

会学―非正規雇用・社会階層の日韓比較』東京大

学出版会、二〇一六年、二二六

二二七頁。)す

なわち同じ事業場で働く委託業者の従業員も「非

正規」なのである。廬武鉉政権以降の調査で、下

請企業の従業員が間接雇用の非正規として把握さ

れているのはこのためである。「非正規」対象を

このように捉えると、日本の非正規割合はさらに

高まるはずである。

(3) 

ソウル特別市訓令九九九号「公務職管理規程」

=就業規則。なお、「公務職」は韓国内の自治体

に広がり、今では二四四自治体のうち一三三の自

治体が「公務職」を使うようになっている。また、

文在寅政権下で立法化される見込み(韓国公共運

輸労組ソウル地域公務職支部イ・ウゴン委員長ヒ

アリング記録、二〇一七年六月八日)。

(4) 

古川景一「公契約規整の到達点と課題」『季刊・

労働者の権利』(二九〇)二〇一一年七月、八四

頁以下。

(5) 

佐々木健吉「日本の公契約条例(法)制定運動

その効果は、「実践にて実証済み」なのである。

 

翻って、日本はどうだろう。日本の労働者の非

正規率は四〇%に迫っている。賃金水準は正規職

の半分ほどだ。地方自治体に勤務する職員の三分

の一は非正規公務員で、賃金水準も正規職の四分

の一~三分の一程度である。業務委託先の労働者

の非正規化・低賃金構造も、広く存在する。日本

の地方自治体は、内と外に官製ワーキングプアを

発生させ、公共サービスは貧困を構造化して提供

されているのである。

 

このような状況の放置は社会の亀裂を一層深め

る。千葉県野田市が公契約条例を制定したのが二

〇〇九年。今日、制定自治体は一五市区に拡大し

たものの、社会の亀裂を治癒するための雇用・労働

政策を、自らの施策と考える地方自治体は少ない。

 

ソウル市の事業は、このほど大統領に就任した

文在寅政権でも採用され、公共部門が率先垂範し、

非正規労働者の正規化に取り組むとしている。

 

韓国と日本の公務員法制の大きな違いは、非正

規公務員にも、労働契約法やパート労働法のよう

な非正規労働者保護の法律が適用されていること

である。そして政権の意思で、正規化事業に取り

組んでいるのか否かということである。

 

韓国以上に非正規化が進んでいる日本社会は、

韓国に学ばなければならないのではないだろうか。

【注】

(1) 

韓国中央政府の公共部門における非正規労働者

の無期転換事業の経緯については、徐侖希「韓国

の公共部門における非正規勤労者(期間制勤労者)

の検討

アメリカのリヴィング・ウェイジ運動を

手がかりとして

」『龍谷大学大学院法学研究』

(一一)二〇〇九年七月、八七頁以下。

(6) 

妹尾知則「韓国における雇用安全網関連の法令・

資料(四)

ソウル特別市生活賃金条例

」『龍

谷法学』四九(一)二〇一六年八月、一七三頁以下。

【参考文献】 

本文注のほか、下記を参照。

・ 

呉学殊ほか『韓国における労働政策の展開と政

労使の対応(JILPT資料シリーズ N

o.1

55

)』

二〇一五年五月、労働政策研究・研修機構

・ 

上林陽治「ソウル市における非正規労働者の正

規化事業」『労働法律旬報』(一八五四)二〇一五年

一二月下旬号、二〇頁以下

・ 

竹信三恵子「雇用のブラック化に挑むソウル市」

『労働法律旬報』(一八五四)二〇一五年一二月下旬

号、一三頁以下

・ 

白石孝「パク・ウォンスンソウル市政に見る

非正規労働者政策」『労働法律旬報』(一八五四)

二〇一五年一二月下旬号、六頁以下

・ 

社会公共研究院(公務運輸労組の研究機関)発

行『公共部門非正規職政策評価研究』二〇一七年三

月(ハングル)

・ 

脇田滋「韓国における雇用安全網関連の法令・

資料(五)

ソウル特別市労働政策・非正規職関連

条例

」『龍谷法学』四九(四)、二〇一七年三月

かんばやし 

ようじ・公益財団法人地方自治総合研究所研究員>