2004年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナー...

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1/34 2004 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文 ブログの流行と変身願望 A0142409 飯野 友理 2005.1.15 提出

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2004 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール

卒業論文

ブログの流行と変身願望

A0142409 飯野 友理

2005.1.15 提出

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2005.1.15 提出

論文目次

Ⅰ はじめに

Ⅱ ブログの概要と流行に至る経緯

ブログの概要

特徴/目的/日記との違い

ブログ流行の現状と流行に至る経緯

流行に至る経緯と要因

Ⅲ 問題定義と分析

問題の背景/問題の説明

Ⅳ 仮説の定義と分析

仮説検証方法/この仮説に至った経緯/なぜブログで変身できるのか/

変身に至る意識の経緯/いかにして変身するのか/そもそも変わることができるのか

ブログ中毒の原因/コンピュータ・コミュニケーションの利点

Ⅴ ブログの流行は何を意味するのか

Ⅵ まとめ

脚注

参考文献

アンケート調査用紙

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Ⅰ はじめに

ブログは「民主的メディア革命」といわれ、現在国内外問わずブームが起こっている。Blog

を調査する Technorati によると、「ブロゴスフィア」(Blog 圏)は 1 年半ほど前から 5 か月単

位で倍増しているという。Blog はこの期間中、侮辱的にもとれる言葉から、老齢の上院議員が

大統領選挙に利用するほどのオンライントレンドへと変化した。この猛烈な急成長を受け、ネッ

トには Blog 現象を示すグラフがあふれ、一部には矛盾も見られるようになった。また、gooリ

サーチとjapan.internet.comによる共同企画調査(2004 年 12 月 6 日から 10 日まで実施)による

と、過去 1 か月以内に他人が作成した Blog を見たことが「ある」人は、第 1 回(2004 年 4 月

5日から9日まで実施)より 26.7 ポイント増えて 53.3%。「Blog についてよくわからない」と

回答した人は 19.1 ポイント減少して 21.7%だった。このことから、Blog を知っている人は

78.3%で、1 か月につき約 3 ポイントのペースで Blog を見た人が増加していることになるとい

う結果がでた。

ブラウザから直接文章を入力するだけでサイトに公開することができるため、専門知識のない

人でも簡単にはじめることができる。また、トラックバックやコメントといった機能がついてい

るので、ただ記録をつけていく日記サイトとは異なり、双方向性のあるサイトをつくることがで

きる。

日本では Weblog という言葉はなじみの薄いものであったが、ツールの日本語化などにより、

2002 年ごろから急速に広まった。Weblog という言葉が日本で普及する以前から、日本には Web

日記や個人ニュースサイトといったジャンルのサイト、およびそれに付随するコミュニティが存

在していたが、流行することはなかった。いったいなぜブログは流行したのだろうか。

本論文では、ブログが流行した背景には、人々の変身願望が影響を及ぼしたという仮説を提唱

する。そしてアンケート調査や文献レビューによりブログの流行と変身願望の関係を調べ、この

仮説の予測と一致するかどうかを検証することを目的とする。また、ブログに夢中になることに

よって人はどのような影響を受けるのかを検討する。

そのためにまず、ブログの概要や流行に至るまでの経緯を簡単にまとめる(第Ⅱ 節)。次いで、

問題の背景や定義をまとめ(第Ⅲ 節)、仮説の背景と「HN(ハンドルネーム)の時は、本名の

時とは異なる“ 自分” になることができる」ということでどのようなことが意味されているのか

を明らかにする(第Ⅳ節)。 後に、変身願望を達成するためにブログに夢中になることが、日

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常生活において、どのような帰結を生むのかを検討する(第Ⅴ 節)。

Ⅱ ブログの概要と流行に至る経緯

ブログの概要

ブログ(Blog)とは Weblog のことで(web + log つまり記録することのできるウェブサイト

という意)、これが略されて「ブログ」と呼ばれるウェブページの一種である。ウェブログをや

っている人をウェブロガー、またはブロガーという。

Weblog という言葉が日本で普及する以前から、日本には Web 日記や個人ニュースサイトとい

ったジャンルのサイト、およびそれに付随するコミュニティが存在していた。日本では Weblog

という言葉はサイトのジャンルというよりも、ブログ向けのツールを使って作られたサイトを指

すことが多い。

「一つ一つの記事でウェブページへのポインタを示し、それについてのコメントの集合として

のウェブサイトというものがある。そのほかの定義にしても、一つ一つの項目の集合体という認

識では共通している。それぞれの項目にはタイトルがつけられ、時間軸やカテゴリで投稿を分類

する構造となっている。用途は広く、日記的なものから、手軽な意見表明の場として、時事問題

などについて論説するものもある。そのため、ブログ界(Blogosphere)とも呼ばれる。」(出典: フ

リー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)と定義されている。

ブログは、主として管理者が記事を投稿する私的ニュースサイト的な体勢を取ることが多い。

ブログを投稿する方法は決まっていないが、ブログ向けのソフトウェア(MovableType など)

があり、それをレンタルやダウンロードをして使えば、HTML を知らなくてもブラウザから手軽

に情報の発信・更新ができる。こういったものには RSS フィードを使って更新を自動通知した

り、トラックバック機能を使用したり、他のウェブログからの引用やリンクを自動で行えるなど

の充実した編集機能が備わっていることが多いため、アメリカを中心に急速に広まっている。

さらに、ウェブログにはいくつかのタイプがあり、PC から更新し文章がメインとなる「ブロ

グ」、写真が中心の「フォトログ」、携帯機器から更新したり読んだりする「モブログ」などがあ

る。

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Blog は「ウェブというメディアに 適化された publish 形態」として広がった。そしてそのス

タイルが、新しいエントリがページの一番上に配置されるというフォーマット、外部へのリンク

を多用したエントリの頻繁な更新とアーカイブ化、そして blog ツールの登場以降は、RSS など

のメタデータによるサイト情報の利用促進という形で具現化されている。(上記の図参照)

開設されているブログのジャンルは日記が 4 割、さまざまなテーマのレポートが 2 割、特定

のテーマのレポートが 1 割、ニュースが 1 割、作品発表が1割、その他1割となっている。(ア

スキー調べ)

特徴

ブログの特徴は以下の点にまとめられる。

・ HTML を覚えなくても良い気軽さ

・ 記事投稿の手軽さ

・ 下書き機能

・ 双方向コミュニケーション(コメント機能・トラックバック機能)

・ Google などの検索で上位にヒット(SEO:サーチエンジン 適化)

・ RSS(XML ベースのフォーマット)の自動生成

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HTMLを覚えなくても良い気軽さ・記事投稿の手軽さ

「ブラウザソフトを使ってホームページを見ることができ、電子メールを書いて送ることができ

る」程度の知識があれば記事を書いて投稿する事ができる。

記事投稿の手軽さ

先にも述べたとおり、携帯電話から写メールを送る感覚で記事を投稿する事ができる。

下書き機能

日記の場合投稿した瞬間が一般公開の瞬間となるが、ブログの場合は下書き機能というものが

ついており、記事の作成と公開が別々にできる。

双方向コミュニケーション(コメント機能・トラックバック機能)

トラックバックとは、いままでのホームページ間のリンクとは異なり、リンクをした人のエン

トリーの情報が、リンクされた側のエントリーのトラックバック一覧に自動的に表示される仕組

みのことである。「強制相互リンク機能」と呼ばれることもある。トラックバックが画期的なシ

ステムであるといわれるのは、どこへリンクしたか、を明示するのはウェブサイト制作者の思い

のままだが、どこからリンクされたか、を適切に表示できるようにしたということからだ。トラ

ックバックとコメントの違いは、「その記事のあるところで発言している」か、それとも「自分

のブログで発言している」という点にあるといえる。コメントの場合は当然全文がその場で読め

るが、トラックバックの場合は参照元のページをたどらなければ、その発言の全貌はわからない。

Googleなどの検索で上位にヒット(SEO:サーチエンジン 適化)

google は、「多くのサイトからリンクされている」「特に、重要なサイトからリンクされてい

る」「キーワードとなる言葉をテーマにしたサイトからリンクされている」ようなサイトを「重

要なサイト」としてランク付けする。これを「ページランク」という。おおむね、ランクが高い

順に検索結果が表示される。

ウェブログはトラックバックなどを持ち、記事にもリンクが多く、お互いにページランクを高め

合う結果となり、google で重視される条件を備えていることになる。

さらに、ブログツールで作成されたページは、基本的に検索サイトで読み取りやすいようにペ

ージの情報がきちんと整理されて掲載されているため、今までのたいていのウェブページよりも

「機械に優しい」作りとなっているので、非常に有利な位置を占めることになる。そのため、個

人だけでなく、ビジネスの媒体としても利用されている。

RSS(XMLベースのフォーマット)の自動生成

簡単に言えば、ブラウザその他のソフトなどで(=機械的に)読み取ることのできる形式で出

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力された「サイトの情報の要約」のことである。RSS による XML を使った定型での情報配信は、

それぞれのブログから配信される RSS を自動巡回サービスで取りまとめて、更新があったとき

にユーザに通知するサービスを生み出した。また、データ配信の形が定まっているため、ニュー

ス配信も容易で、大手のマスコミがニュースを RSS で配信し始めるようになった。これをブロ

グは、エントリーが完了した時点で自動生成する機能を持っている。

目的

ブログの目的には以下のものがある。

・ 個人の記録としてのブログ

-自分のための記録

・ データベースとしてのブログ

-検索できるメモ

-エントリーという情報の単位(情報を小さく分ける)

-データを分類できる(情報にラベルをつける)

・ コンテンツ管理システムとしてのブログ

・ 公開できる個人メディアとしてのブログ

-公開する日記

-自分の意見を述べる

-仲間を集めるメディア(ブログの執筆者と読者、執筆者同志など)

自分のための記録というのは日記であったり、備忘録のようなものであったりする。Blog を作

成する理由のトップは「自分の備忘録として書き残したい」(60.0%)

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検索できるメモというのは、ブログ内に投稿されたエントリーの中から自分が探しているキーワ

ードを検索用の小窓に入力したり、探している情報に関連するカテゴリーからエントリーをみつ

けたりすることができるので、ただメモパッドやテキストエディタに書き留めるよりは活用がし

やすい。

blog がジャーナリズムになるかということについては、レベッカ・ブラッドも『Weblog

Handbook』の中で「結局のところ、ウェブログとジャーナリズムはまったく別物」と断じてい

る。blog は飽くまで情報公開の敷居を下げた民主的なムーブメントであり、ジャーナリスティ

ックな価値を持つかどうかは他のメディア同様、書き手の力量、置かれた状況次第である。

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日記との違い

両者の決定的な違いに読者の有無が挙げられる。日記は自分のためにその日に起こったことを

書くが、ブログは誰かに読まれることを予期し、そのために言葉を選んで書いたり説明をつけた

りリンクを張ったりして、読む人に優しい文体に纏め上げる。つまり、人に見られること、認め

られることを欲している人々が多くいる。

根底はどちらも同じ「書く」作業であり、「よく更新される」もので、「写真や画像も載せるこ

とができる」ため、非常に似ている。しかし、先のも述べたとおり、ブログはウェブ日記にはな

い特徴や性質を持ち合わせている。

普通のホームページではページ単位でファイルを作成し、画面に表示するが、ウェブ日記は一

ページの中に複数の投稿は可能だが、別々のデータ(文章や写真)を記事単位のかたまりとして

管理することはできない。しかしブログではエントリーを情報の単位として扱うため、データを

記事単位で扱うことができる。

ウェブ日記や掲示板も「よく更新される」が、それらはブログではない。ウェブ日記は、ウェ

ブログに入るか入らないかの境界線である。個人ニュースサイトでも日記的なものもあるし、

「はてなダイアリー」は非常にウェブログ的だ。また、日記同士で相互にリンクし合って議論す

るというのもウェブログ的だといえる。しかし、「私のは日記であってブログではない」と言う

人や、「ウェブログはリンクとコメントがメインであって、管理人の日常生活を書いたものをブ

ログとは呼ばない」と主張する人もおり、結局のところそれぞれのサイトの運営者の判断にゆだ

ねられているのが実情である。

また、掲示板は基本的にウェブログとはいわない。ただし、slashdot は集団ウェブログの見本

と呼ばれている。読者からのコメントを受け付けているウェブログが多いものの、あくまでも話

題を振った人の見解が尊重されるのがウェブログといえるのではないだろうか。

weblog コミュニティが日本の個人サイトコミュニティと一番大きく違う点は、100 万を超え

るといわれる個々の weblog の情報を再利用する中央集権的な仕組みができあがりつつあるとい

う点にあると思う。Scripting News の Dave Winer が運営している Weblogs.com は、各 weblog

からの更新情報を集めているサイトである。Movable Type など主要な weblog ツールには、ユ

ーザーがサイトを更新したときにこの Weblogs.Com に自動的に更新されたことを知らせる機

能がついている。これらの weblog ツールは同時に、記事の概要をどんな環境でも読めるように

XML という言語で記述したファイル(RSS)に書き出す機能も持っている。

blog がコミュニケーション志向でウェブ日記がそうでないというのも正しくない。ウェブ日

記初期から、他サイトに言及することで議論になることなど珍しくなく、少なくとも紙に書く日

記をそのままウェブに持ってきたようなウェブ日記が多数派ということはなかった。

注目すべきは、日本の個人サイトが主に「日記」という内向きな名称に収斂していったのに対

し、一方では blog という記事単位、トピック単位での publish に重点が置かれたことである。

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時々blog のジャーナリズム性が話題になるが、これはアメリカ人の国民性、自分の意見を外に

向けて publish することを訓練する教育の影響があるのかもしれない。

ブログ流行の現状と流行に至る経緯

さて本当にブログが広がりだしているのかどうかを確かめるために、Nielsen//Netr

atingsによる調査の結果をまず見ていただきたい(下図参照)。

これは 2003 年と 2004 年を比較する事でその伸び率について表しているものだが、伸び率が

453%のライブドアと 203%のはてなはどちらもブログ提供ポータルである。

前出のgooリサーチとjapan.internet.comによる共同企画調査の調査結果をみてみると(上図参

照)、

過去 1 か月以内に他人が作成した Blog を見たことが「ある」人は、第 1 回より 26.7 ポイント

増えて 53.3%。「Blog についてよくわからない」と回答した人は 19.1 ポイント減少して 21.7%

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だった。このことから、Blog を知っている人は 78.3%で、1 か月につき約 3 ポイントのペース

で Blog を見た人が増加していることになる。つまり、知名度も閲覧度も上昇しているという事

る。大統領選挙でブログが有効活用されたこ

4 年 12 月の総

上の事実により、ブログは日本において広がりを見せているといって良い。

因として考えられる技術

ていた。日本にブログが入

てきたのは 2002 年後期で、正確な日にちは不明とされている。

は形式と

たちはつながりあうことで、世界を変え

だ。

また米国のピュー・インターネット・アンド・アメリカン・ライフ・プロジェクトによると、

インターネット・ユーザーのうち 27%(約 3240 万人)がブログを読んでおり、7%(約 840 万人)

が自分でも開設していることが分かった。昨年 11 月に実施された調査だが、2 月時点ではそれ

ぞれ 17%、5%だったため、読者が急激に増えてい

とが、普及に一役買ったという結果もでている。

株式会社はてな は 2005 年 1 月 6 日、同社が運営する各サービスにおける 200

PV が 2 億 800 万、総ユーザー数 17 万 9,000 人を突破した、と発表している。

行に至る経緯と要因

流行に至る経緯として時間的な流れを説明するとともに、流行の要

的・機能的要因及びマスコミと企業の策略をまとめる。

Weblog という言葉が日本で普及する以前から、日本には Web 日記や個人ニュースサイトとい

ったジャンルのサイト、およびそれに付随するコミュニティが存在し

ブログの始まりは、英語圏のウェブにおいて、自分が気になったニュースやサイトなどの URL

を、寸評つきで紹介したこととされ、Blogger、Movable type などの Blog 用のツールの出現、

イラク戦争の時には現地から更新される Weblog が話題となり、Weblog の知名度を大きく引き

上げる結果となった。ウェブログコミュニティが 初にたち現れたとき、ウェブログはあまたの

Web サイトの中から面白&お役立ちページをフィルタリングして紹介するサイト群(フィルタ

ー)を指す言葉だったようだ。こうした形式のサイトは 1997 年くらいから少しずつ登場してい

ようだが、1999 年にはこのサイト群が寄り集まって1つのコミュニティを形成し始めた。

Rebecca Blood は『The Weblog Handbook』の中で「1999 年の時点で、ウェブログ

ては目新しいものではなかった。新しかったのはコミュニティだ」と言っている。

また、「1999 年に団結した人々は、コミュニティの一部であることの利点を理解し、彼らのネ

ットワークを利用した。おたがいのサイトをネタ元として表記した。サイト間で会話した。興味

深いトピックを知らせることで読者をひきつけ、自分と似たような他のサイトを教えた。こうし

て彼らの読者は融合し、影響力は広がっていった」「私

れるんじゃないかと思ったのだ」とも言っている。

ブログが広がりだした当初、企業オンラインマガジンに寄稿しているプロのライターや自主制

作オンラインマガジンの編集者たちは、ウェブログに対してかなり冷淡な態度をとっていた。旧

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メディアの価値観にとらわれていた彼らにとって、ウェブログとはリンクを張ったり社交したり

しているだけでジャーナリストたちが苦心して作り上げたコンテンツと張り合おうとしている、

お気楽な活動以外の何者でもなかったようだ。オンラインマガジン界でも salon.com のコラム

ニスト Scott Rosenberg のように、ウェブログを同業者たちから擁護しようとするエッセイを書

難する人は、同じテーマを多くの人が論ず

人 イトが主役になった革命なのかもしれない。」(Rebecca Blood ” weblog

hi

テロ当時のデジタル情報アーカイブ The September 11 Digital Archive で知る

人もいたが、それはごく少数であった。

こうした批判に対して、ウェブログコミュニティはいっせいに反発した。「ウェブログは本物

のライティングではない」という批判に対しては、簡潔に書くのは難しいと反論し、「お互いに

リンク張りあって。近親相姦リンクじゃないか」という中傷に対しては、ネット上の個人の声を

組織化して増幅する草の根ネットワークの力を強調し、「どのウェブログも同じサイトばかりに

リンクを張っている」という不平には、人々が簡単に情報を共有できるのが web の特性なのだ

と反論した。サイト間の会話(cross-blog talk)を非

ことの価値をまだ理解していないとみなされた。

企業サイトが圧倒的に優勢だったアメリカの web 界に、初めて企業サイトに対抗しうる個人

サイト群として現れたウェブログは、必ずしも快く迎えいれられたわけではなかったようだ。

「アメリカではなまじ高品質なオンラインマガジン文化があったために、個人サイトは周縁に追

いやられざるをえない状態にあったのではないか。紙媒体で活躍していたライター、編集者によ

り念入りに作られたコンテンツにかなうサイトというのはなかなか個人で生み出せるものでは

ない。しかしどれを読んだらいいのか迷ってしまうほどに Web にコンテンツがあふれてきたと

き、趣味のよい個人によって運営され、面白いページのありかを指し示すリンク集としての

weblog が、個人サイトとして初めて脚光を浴びるようになった。weblog 革命とは、アメリカで

初めて個 サ

story” )

2001 年 9 月 11 日、米国同時多発テロ事件が起こった時、いち早く詳細を知ろうと人々は CNN

やニューヨーク・タイムズのサイトに殺到し、一連のニュースサイトは過負荷のためアクセスし

づらくなった。そこで脚光を浴びたのが weblog である。weblog の中には、自分が経験したテ

ロの生々しい体験をそのまま記述するものあり、近隣から撮影した動画をアップしているものあ

りで、不安から情報を集めようとする一般的な米国民の興味関心を集めた。また、日を追って事

件関連の情報がネット上にあふれてゆくにつれ、「どれを読めばいいかわからない」と悩める

人々が管理人の視点で情報をセレクトしたフィルター型の weblog へ殺到した。「私は大丈夫」

という 1,2 行の書き込み、グラウンド・ゼロ近くでの生活がどのようなものかを伝える日記、血

液提供の呼びかけ、さまざまな情報が weblog 上で飛び交った。なぜ人々は情報を集め、共有し

ようとしたのか? 古くからある有名 weblog の 1 つ Scripting News の Dave Winer は「私たち

は何が起きたか、それが何を意味しているのか、私たちはどこへ行くべきなのかを知りたいのだ」

と書いている。テロ当時、weblog でどのようなやりとりがなされたかについてはニューヨーク

市立大学大学院(the City University of New York Graduate Center)の American Social History

Project が作成した

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ことができる。

ging

通して社交を広げ

スタートし、半年で 100 万件の登録があった

登録している人の数はブログを知っているもしくは、ブログをやっている人

HotWiredJapan でもおなじみの伊藤穣一氏や mesh の人達が中心となって Japan Blog

Association(JBA)を作るという動きも、同様に批判的な意見に晒されることとなった。

日本でブログが注目されるようになったのは、2004 年に入ってから、友達を

という SNS(ソーシャルネットワークサービス)の影響が大きいといえる。

Google が提供する orkut というサービスは日本語入力ができないにもかかわらず、1 ヶ月で 1

万5千人が参加し、日本国内 大規模の Gree.jp もスタートから 2 ヶ月で 2 万人が参加している

という。SNS の元祖ともいえるのは 2003 年春に

Friendster(http://www.friendster.com)である。

上図はGreeのものである。

これらの SNS にはプロフィールページがあり、そこで自分という人間の性格や興味、仕事の

内容などをより詳しく知ってもらうためのツールとして、ブログへのリンクが張れる仕組みにな

っている。SNS に

数に相当する。

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海外ではビジネスをするためのソーシャルネットワークを広げるために SNS は活用されてい

、倉木麻衣、室井佑月、野田義治な

べき姿とは言えないだろう。しかしこれもブ

グが流行した理由のひとつであると思われる。

末現在)で、ア

年 2 月の時点では 48.47%であったが、2004 年 2 月の時点で 52.70%と初めて半数を

通話 27.8%と、メー

ったことで、気軽に「変身体験」ができるようになっ

ブログが流行していると唱える論拠は、ブログの認知度及び開設数の増加量にある。

るが、日本の SNS はどちらかというと新出会い系サイトといった感じだ。

その後、SNS 参加者から広がったブログは、プロ野球ニュースなどで有名になった LIVE DOOR

(大手 BLOG 会社)や有名人ブロガー(木村剛、松井稼頭夫

ど)の影響を受け、ますます広がりを見せている。

CNET に掲載されたはてなダイアリー代表の近藤淳也氏のインタビューで、氏は「日本人の引

きこもり性」「文系と理系の融合」に関する指摘をしたが、それは実に的確である。ただ、現状

の分析が正しいからといって、それがそのままある

インターネットの普及率や携帯電話の普及率もそれを幇助していると考える。

自宅の機器から、勤務先/学校の機器から、携帯電話/PHSからの利用で重複を除いた日本国

内のインターネット利用者数は前年から 11.3%増の 6,284.4 万人(2004 年2月

リカ・中国に続き第三位の数である。また、人口普及率は 49.25%である。

日本国内における携帯電話/PHSの所有世帯率は 80.13%で、携帯電話/PHSによるイン

ターネット利用率は 65.77%の世帯となった。携帯電話/PHSの所有者のインターネット利用

率は 2003

えた。

携帯電話で も利用している機能は、全体でインターネットを利用したメールが 50%、通話

が 33.5%と、メールが通話を上回った。特に 30 代以下はこの傾向が顕著で、30 代ではメール

と通話で 17.2 ポイントの開きがあった。さらに 20 代ではメール 57.0%、

を主とする利用者が通話の 2 倍を超える。(『インターネット白書』)

また、カメラ付き携帯電話保有率は 9 割でそのうち 7 割が利用している。

このようにインターネット環境が身近にな

たのも流行の要因ではないかと考える。

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また次のような記事もある。(http://japan.internet.com/research/20041217/1.html)

インターネットコム株式会社と株式会社インフォプラントが行った企業 Blog に関す

る調査によると、利用者の約 4 割が自社の社長 Blog を読んでみたいと思っているこ

とがわかった。

調査対象は、20 代~50 代の Blog を読んだことがある会社員 300 人。 年齢層は 20

代 26.0%、30 代 47.3%、40 代 21.0%、50 代 5.7%。 男女別構成比は男性 71.0%、

女性 29.0%。

ブロガーの多数にあたる 85.3%は、無料のレンタルブログを借りている。 近では様々な会

社が参入してきており、差別化を図るために多種多様なサービスが無料でうけられるようになっ

てきている。有料のレンタルサービスを受けると、無料のときよりもカスタマイズでき、より高

いレベルでブログをつくることができるようになる。

ブログという名の戦略という考えについては、マーケティングとプロモーション機能のミック

スにより広告収入ビジネスをより効果的に行うための企業側の戦略ではないかということであ

る。やたら高サービスを無料で提供したり、有名人たちがこぞってブログを始めたりと、意図的

にブログを流行らせようとしている仕掛けが見られる。

ユーザーを囲い込むために、現在ではウェブマーケティングからデータベースマーケティング

へと進化した。Yahoo!BBが駅前でADSLを配布している様子が記憶に新しいが、それと同様に、

無料で配る代わりに顧客の趣味や思考、職業などの詳細なデータを集めようと、無料で高サービ

スの新興ブログサービス提供ポータルサイトが次々と出現しているのではないか。

自分たちのポータルサイトの価値をあげるためには、知名度を上げていくことが重要である。

より新しく快適でおもしろそうな付加価値をつけることに、ブログ提供会社は四苦八苦している。

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そうすることによってブログ開設者が多くそのポータルサイトに集まり、それに比例して顧客の

データが集まるからだ。つまり、結果的に広告を自社ブログに出させる際に、広告掲載費用の価

値がぐんと上がることになる。

現在利用できるブログツールは以下の通り。

[編集]

Blog を公開するための主なソフトウェア

出版・編集ソフト

<サーバ設置型>

Movable Type (http://www.movabletype.org/)

Pivot (http://www.pivotlog.net)

Blosxom (http://blosxom.com/)

pMachine (http://www.pmachine.com/)

Radio Userland (http://radio.userland.com/)

WordPress (http://wordpress.xwd.jp/)

Nucleus (http://japan.nucleuscms.org/)

ppBlog (http://blog.tagscript.com/)

GsBlog (http://www.waf.jp/)

Blogn (http://www.blogn.org/)

<サービス提供型>

AOL ダイアリー (http://diary.jp.aol.com/)

b2 (http://cafelog.com/)

Beblog (http://www.oneoffice.jp/beblog/)

Bloghorn (http://www.bloghorn.com/)

Blogsome (http://www.blogsome.com)

Blogger (http://www.blogger.com)

Boxer Blog (http://www.boxer.ne.jp/top/index.html)

Doblog (http://www.doblog.com/weblog/PortalServlet)

ele-log (http://www.election.ne.jp/)

Excite Blog (http://www.exblog.jp/)

gooBlog (http://blog.goo.ne.jp/)

iBlog (http://www.lifli.com/Products/iBlog/main.htm)

JUGEM (http://www.jugem.jp/)

livedoor Blog (http://blog.livedoor.com/)

Lovelog (http://blog.dion.ne.jp/)

MSN スペース (http://spaces.msn.com/)

Seesaa Blog (http://blog.seesaa.jp/)

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So-net Blog (http://blog.so-net.ne.jp/)

TypePad (http://www.typepad.com)

アメーバブログ (http://ameblo.jp)

ウェブリブログ (http://webryblog.biglobe.ne.jp/)

ココログ (http://www.cocolog-nifty.com/)

ドリコムブログ (http://blog.drecom.jp/)

はてなダイアリー (http://d.hatena.ne.jp/)

ブログ人 (http://blog.ocn.ne.jp/)

ヤプログ (http://www.yaplog.jp/)

楽天広場ブログ (http://plaza.rakuten.co.jp/)

<ブログ検索エンジン>

NAMAAN (http://www.namaan.net/)

未来検索ライブドア (http://sf.livedoor.com/)

feedback (http://naoya.dyndns.org/feedback/)

<その他のソフト、ツール>

Textism (http://www.textism.com/tools/textile/)

Blogrolling (http://www.blogrolling.com) - publish a blogroll (links to other blogs)

w.bloggar (http://wbloggar.com/)

MTBlogtimes (http://nilesh.org/mt/blogtimes/)

YACCS (http://rateyourmusic.com/yaccs/)

<ブログランキング>

BlogRanking (http://blog.ocn.ne.jp/)

Myblog (http://www.myblog.jp/)

Ⅲ 問題定義と分析

問題の背景

以前からもウェブ日記という形でブログに近い物は日本において存在していた。しかしなぜ日

記に夢中になることなく、ブログに夢中になったのだろうか。先にも述べたとおり、ブログは更

新が簡単である。また、機能性も良い。そして、インターネットの普及率も上昇する一方である。

しかしそれだけで流行につながると言い切れるのか。いったいブログのなにが人々を魅了し、夢

中にさせているのか。

そもそもブログ夢中になっている人たちが多くいるとなぜ言い切れるのか。

それは、いままでに公開日記を書いたことがない人やHPを持ったことがない人たちさえもブロ

グに魅了され、開設している事実があるからだ。

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私のブログにおいて有志読者に、また無作為抽出により選ばれたブロガー計 100 名にメールで

調査を実施した。男女比は男 72:女 28。回答者は、主にブログランキング登録者、ライブドア

ブログの“ 日記ジャンル” に登録しているブログオーナー。数値は%で表示し、小数点 1 以下

を四捨五入して表記する。

その結果によるといままでに公開日記を書いたことはないがブログを始めた人は全体の 9 割に

登る。

インターネット利用者の性別構成比は 2000 年には男性 78.1%女性 27.9%だったのに対し、

2004 年は男性 53.2%、女性 46.8%と女性の割合が増加している。20 代、30 代においては女性

の割合は 50%を超している(『インターネット白書』)。普通、日記をつけるという行為は女性的

なものとされているがブログでは男性がオーサーをつとめるサイトが約 8 割である。

また、インターネット利用者の女性の年齢は年々低年齢化している。

近ではブログが原因で解雇になったというニュース(注 1)やブログ燃えつき症候群(注 2)

に関しても報告がある。

昨年 1 年間の全国の保健所・精神保健福祉センターにおけるひきこもりに関する相談は、電

話相談 9986 件(延べ)、来所相談で 4083 件(実数)であり、あわせて 14069 件ある(新規・

継続問わない・厚生労働省調べ)。そして、ネット中毒やひきこもりの人達が多く集う「2ちゃ

んねる」の伸び率は前年に比べて 33%増加している。

問題の説明

「ブログに夢中になる」といのはどのような状態であるかをここで定義しておく必要がある。

定義の対象範囲は、性別や年代、居住地域に関わらず、日本国内に住みブログを開設している

人で、ブログ中毒の人である。

まず更新頻度に関しては、Gooリサーチによると「週に 2~3 回が も多く 28.2%。次いでほ

ぼ毎日 20.7%、週に 1 回 16.3%。週 1 回以上更新する人は 65.2%で、第 1 回より 2.7 ポイント

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増加している。」という調査結果が出ている。(下図参照)そこで、毎日更新している人と 1 日

に何度も更新する人を中毒者とする。

インターネット中毒尺度

1.インターネットに夢中になっている

2.ある程度の接続時間がないと満足できない

3.ネットへの接続をやめる(時間を減らす)のを失敗したことがある

4.接続を切断する時に憂鬱な気持ちになる

5.ついつい予定より長く接続してしまう

6.インターネットのせいで、仕事や学校を休んだことがある

7.家族やセラピスト、その他の親しい人間に、どの程度ネットに接続しているか正直に答えられなかったことがある

8.日常生活でイヤなことがあるとネットに接続してそれを解消する

ブログ更新のために使う時間に関して、一般のブログユーザーの約 50%は 1 日に 60 分以内答

えているが、18%の人は2時間以上であると答えている。携帯電話から記事を更新すること・

見ること・コメントすること、記事について考えること・記事を探すことなども含め、1 日の内

ブログに占められる割合が 120 分以上の人たちを夢中であると定義する。

また、ヤングの“ 中毒者と非中毒者を選別するチェックリスト” を参考にする。表に示したヤン

グのリストでは、全8項目のうちYESが5つ以上あれば中毒者、5つ未満の者を非中毒者とし

ている。(下図1)

また、その他にはグリフィスの“ テクノロジー中毒の中核的要素” を用いる。(下図2)

(図1)

(図2) 要素 内容

ある特別な行動が、その人の生活においてもっとも重要な活動となり、思考・感情・

顕現性 行動を支配すること

人々がその活動に従事したことによって得られる主観的な経験のこと。それらは、

ムード調節 コーピングの一種とも考えられる。

以前その行動によって得た結果を上回るものを求めるためにその行動が増加する

耐性 こと

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それらの活動が続けられなかったり、急激に減少したりすると感じる不快感(ex.いら

禁断症状 だち、手の振るえなど)

葛藤 中毒とそれ以外の行動(仕事、趣味など)との葛藤や、中毒による人間関係の葛藤。

何年かそれをやめていたにもかかわらず、それをしていた初期の活動と同程度のレ

再発 ベルで再び行ってしまうという傾向

Ⅳ 仮説の定義と分析

「HN(ハンドルネーム)の時は、本名の時とは異なる“ 自分” になることができる」という仮

説を立てたわけだが、まずはその言葉の定義について説明する。

ハンドルネーム(HN):ウィキペディアによると「電子掲示板やメーリングリスト、ウェブサ

イトなどをはじめとして、ネットワーク上で活動するときに用いる別名のこと」と定義されてい

る。ペンネームや芸名のインターネット版といったところである。ブログを作成する時にももち

ろんHNを使う。「仮想世界における私」という意味をここでは持つ。

本名:広辞苑による「号、芸名、筆名などに対して、まことの名。実名。」という意味のままで

あり、そこには、「いま現実の世界と対面している私」という意味が含まれる。

異なる“ 自分” になる:つまり、「変身」である。辞書で引くと「姿を変えること、またその変

えた姿」と載っている「大胆な自分」「スターな自分」「積極的な自分」など、現実の自分とは違

う、人のうらやむような性格および存在への上昇願望、その逆の堕落願望、透明人間やお姫様、

犯罪者やスパイなど一風変わった存在になりたいという異化願望をさす。

ブログを開設するときにはまずIDを登録する。それがすなわちハンドルネームとなる。普段の

生活ではあまり積極的に発言できない人がブログでは面白おかしく自分の日記を書き、積極的に

読者と交流を持とうとする。普段は普通のOLでも、ブログの世界では“ 株の指南役フライトア

テンダント” という立場をとる。ライター風にきどった書き方をするブログや、恋人に語りかけ

るような文体で書き綴るブログもある。こういったブログが私の知る範囲でも数多くあり、それ

らのブログは更新頻度がとても高い。普段の生活では見せられない自分、こうなりたいと望む自

分を現実の世界ではなくブログの世界において具現化しようとする人々が増えているから、ブロ

グは広がり始めているのだという仮説を立てた。

仮説検証方法

質問紙調査と観察による調査方法をとり、仮説を検証する。

自分自身を実験台とし、2004 年 4 月 26 日からブログを始めた(☆ ユーリブログ☆

http://blog.livedoor.jp/yuuriblog)。そこにおいて現実の自分とブログ界の自分との間にギャップ

が生じていればそれを「変身」とみなし、自分自身の記録を公表する事により観察調査とする。

また、私のブログにおいて有志読者に、また無作為抽出により選ばれたブロガー計 100 名に

メールで調査を実施した。男女比は男 72:女 28。回答者は、主にブログランキング登録者、ラ

イブドアブログの“ 日記ジャンル” に登録しているブログオーナー。数値は%で表示し、小数点

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1 以下を四捨五入して表記する。

この仮説に至った経緯

まずこの仮説の大前提として「人には変身願望があるのか」という疑問が生じる。実施したアン

ケート調査の結果を織り交ぜながら話をすすめる。

「変身」は大昔から人々の興味をひいてきた。世界中の神話や民話には必ずといっていいほど、

変身の話が登場してくる。近代文学ではカフカの『変身』や中島敦の『山月記』をはじめ、強烈

な印象を残す作品があるし、マンガやアニメ、テレビドラマではビジュアル技術を駆使した変死

が繰り広げられる。また、溝苦学や医学、心理学の領域でも、元服、婚姻、出家などの通過儀礼

や脳移植、クローン、性転換、多重人格などの関連で変身について語られる。

なにも好きなキャラクターに変装して遊ぶコスプレや、髪を染め上げ奇抜なメイクで演奏する

ビジュアル系バンドのように変身するということだけではない。雑誌やテレビで毎日目にする

「変身」のように身近な変身でもよい。エステや整形、ダイエット、人口毛髪などのキャッチワ

ードであるばかりでなく、現代生活のさまざまな試みが「変身」や「変身願望」と結び付けられ

語られている。「夏に向けて変身」「積極は人間に変身!」など、雑誌広告で目にしたことがある

人も多いと思う。

実際、人は誰でも日常生活の中で変身している。メイクやお酒に酔うことなどである。また、

「落ち込む」と変わる。これもある種の変身であり、変身願望の成就である。

人は高価な服を買うより頻繁に手軽な服を買う。その時々の気分、感性、個性、ライフスタイル

を表示する。たびたび着替えるのは「社会的なみせびらかしをしたいからではなく、着替えの喜

びのため、自己の偽装と変身のお祭り騒ぎのため」(G.リポヴェツキ『束の間の帝国』)である。

さらに旅行もまた変身を容易にする手軽な手段である。

子供の頃にごっこ遊びをしたことがあるかという問に対しては全員が「ある」と答えた。また、

服を多く持っているかという問に対しては 6 割が「持っている」と答え、女性は全員であった。

また、ダイエットやイメージチェンジに興味があるかという問に対しては7割が「興味がある」

と答えた。女性は全員であった。

いまの自分に満足しているかという問いに「満足」と答えた人は 27%、「不満」は 59%「どち

らでもない」は 14%であった。「不満」と答えた人はよりよい自分へ変わりたいという変身願望

が見られた。「満足」と答えた人に「より向上したいですか」という質問をしたところ「より向

上したい」と答えた人が 37.03%いた。つまりアンケートをとった約7割は変身願望があると答

えた。男女の差はみられなかった。

以上より人には変身願望があるといえる。

なぜブログで変身できるのか

『変身願望』の中で宮原は次のことをいっている。

変身には死と再生がともなうものと考えれば、この死の様相に対する恐怖は必然であ

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る。しかし、変身は同一性の侵犯ではあっても、同一性の廃棄ではない。それは死と

再生の連動であり、たんなる死ではない。(中略)やはり、変身を語るために不可欠な

のは、恐怖や不安よりも、喜びや悦楽なのである。

実際に「変身」するとして、一度死んで今の自分という人生を終らせ、新たな人生を生きるので

は「私」からすれば変身ではなく死である。つまり、ブログという仮想現実の世界においては、

身体の苦痛を伴わずにいくつもの人生を歩むことができるのである。生を受けるのはブログサー

ビスプロバイダでIDを取得した瞬間であり、死は更新を放棄しID抹消を行う時である。

また、宮原は次のことを述べている。

現代人は生まれてから死ぬまでただひとつの名前で通すことを要求される。芸能人や

作家のように複数の名前のもとに生きるのは例外的である。ところが、明治期以前に

さかのぼれば、複数の名前をもって生きるのが普通であった。柳田国男によれば、「一

生の間に何回も名前を取替え、また時によっていろいろの名を以って呼ばれること、

これが日本人の古来の習慣であった」。すくなくとも成年と隠居を境に「名替え」が行

われたほか、通り名やあだ名、屋号や家名など、同一人物が時と場合によって様々な

名前の下に生きていた。

近代社会では、一方では職業、結婚、住所、腹蔵などが個人の選択にゆだねられ、変身の自由

が制度化したかのように見える。しかし他方では、人は個人として一貫した同一性を築くことを

要求されることになった。いまや民族社会や封建社会の不自由を脱して、何でも個人の自由に変

えることができるといわれているが、その反面では、一生を終始一貫した個人として生きなけれ

ばならないという新しい不自由がある。意外なことに近代は変身しにくい時代なのだ。

ブログにおいて名前の変身は容易である。自分が好きな名前でID登録をすればそれで済むこ

とである。IDを公表せずにHNだけ公表しているのであれば名前の変更も容易である。「今日

からOOOという名前にしました」と宣言してしまえばいいことである。

ただひとつの名前のもとに生きるという習慣は、まさに「私は一生私でなければならない」と

いう自己同一性の規範を強化する。そこで、「自己の実現」「アイデンティティの確立」「自己表

現」などの必要がさかんに叫ばれる。それと同時に、その自己が「個性的である」「ユニークで

ある」「他人と違う」ことが望ましいものとされてくる。こうして人々は同一性と差異化をめぐ

るアイデンティティの迷路に迷い込む事になる。

「他人と違う本物の自分」を求める努力は、いわゆる変身願望の温床となる。それは、「人と

は違う、個性的な人間になりたい」という願望であり、あくまでも変身の結果(望ましい姿)へ

の願望であって、変身そのものへの欲望ではない。それは自己同一性そのものをたえず侵犯する

のではなく、ただ自分の嫌いな古いアイデンティティを捨て、自分の好きな新しいアイデンティ

ティを手に入れようという、着なおし願望である。

どんなに恵まれた人でも絶対に自由にならないものがある。ひとつは、時間である。

過去に起きたことは取り返しがつかない。時計の針を逆に戻すことはできない。どん

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なに悔やんでも、過ぎ去った時間は帰ってこない。もうひとつは、空間である。自分

はこの体というちっぽけな場所しか占められない。

と、宮原は言っているが、ブログの世界それは覆されることとなる。

時間に関して、ブログにおいてはないものとできる。毎日毎日日付はきちんと刻まれるし、投稿

した時間は秒単位まで記録される。しかし、ブログの特性は、その日時を自分の意思で指定する

ことができるのだ。昨日の夕方に設定することも、一週間後でも一年後でも、自分が好きな日時

として公開することができる。空間においては先にも述べたように、どんな人物にでもなること

ができるブログにおいては関係のないことである。つまり、ブログにおいては時間も空間もすべ

ての支配はオーサーにゆだねられることとなり、オーサーは自分のブログの支配者となる。

ブログでなければ変身が出来ないかというと、そうでもない。実生活でもやろうとおもえば変

身は可能であるし、インターネット上を徘徊するときに「自分はいまHNであって本名ではない」

と言い聞かせるだけでも良いかもしれない。しかし変身をしたと自分自身に言い聞かせ、自己満

足を得るだけでは変身願望のある中毒者の中ではまだ変身を達成したとは言いがたい。

次に人が欲求するもの、すなわち他者からの認知が必要となる。人は、変身した新しい自分を

誰かに認めてもらう事ではじめて、満足感と安心感を得る。

ブログでは、「変身」の必要条件が満たされる 大のポイントがある。新しい自分の「日記」

を書き公表することによって、読者がそれを読み、そこにその新たな自分の存在を認め、記事に

対してのリアクションとしてコメントやトラックバックをつけることが可能なのだ。そのコミュ

ニケーションこそが変身願望を徐々に達成させていく。

変身に至る意識の経緯

日本人は古来日記というものが好きで、今から 1000 年前も日本では日記ブームであった。土

佐日記、陽炎日記、和泉式部日記、更級日記などの、いわゆる平安時代の日記文学といわれるも

のだ。高尚な方々は時間に余裕があり、才能にも溢れていたので日記をつけることがステイタス

であったようだが、現代の日記サイトブームやブログブームに通ずるものを感じる。日記文学よ

りさらに読者を意識した形態が随筆である。

読者を意識するようになれば、自然に「楽しい文章、おもしろい文章を書こう」という気持ち

が湧いてくる。それをさらに推し進めると、書き手である自分を演出し、キャラクター立ちのし

た印象的なブログを作るという発想も出てくる。このキャラクター立て作戦はハマれば多くの固

定読者を獲得する事が出来る。

変身願望とは本来誰しもに存在する欲求である。そこに、ブログのアクセスアップ、より多くの

読者の心を捉えたいという欲求が重なりあい、新たな自分を作り出してしまう。

いかにして変身するのか

先にも述べたように、現実世界においては小さなレヴェルの変身(イメージチェンジや服を着

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替えるなど)をすることは可能であるが、ここでいう「変身」をすることは不可能である。ブロ

グを介していかに変身するか。それにはネットの匿名性を利用する。それが現代人にとっての仮

面ライダーの変身ベルトであり、秘密のアッコちゃんの変身コンパクトである。

そもそも変わることができるのか

私自身が実験台となったブログにおける、「変身」を実際に体験する試みの結果を報告するこ

とで変わる事ができるという論証とする。

普段の生活において、私は普通の都内の大学に通う女子大生である。しかし読者を意識し、書

き手である自分を演出することにしたため、ブログの世界では私は「ブログキャスター」なる立

場をとることにした。簡単に説明すればニュースキャスターのブログ版といったところで、アナ

ウンサーやキャスターのように中立的な立場から自分の気になったニュースや出来事、思考など

を一般に「放送」するというものだ。

書き始めた当初はイメージを読者に植え付ける為に細心の注意が払われた。まず、アナウンサ

ーやキャスターは才色兼備を匂わせなくてはならない。また、恋人の影や低俗な話題には触れな

い。喋り方も丁寧できれいな日本語を使う事を心がける。そういった一連の「役作り」がなされ

ると、普段使わない言葉などをブログ上では使うようになり、もうひとりの私が確立されていく。

ブログキャスターとして記事を書く私との交流をもっている読者は約 1000 人にのぼる。1 日の

アクセスは 400-500 だが、10 日間のユニークアクセスを分析すると 1000 人近くの数字が出た。

読者からすれば「私」は「ブログキャスター」であり、他者から認められることによって 初は

半信半疑であった私自身も、自分は「ブログキャスター」なんだと思うようになる。ログインす

る時に気持ちがいつのまにかブログキャスターに変身しており、ブログキャスターになっている

ときの自分がするコメントは、普段の私であればしないようなコメントになっている。オンライ

ンの時のみ変身するという体験を実際にし、ブログを通しての「変身」は可能であると実証する。

ブログ中毒の原因

ブログ中毒はすなわちインターネット中毒である。中毒になってしまう原因と考えられている

ものは2つある。一つは現実逃避で、もう一つはインターネット特有のコミュニケーションであ

る。その説明として小林久美子は以下の事を言っている。

まず一つ目の現実逃避とは、人間関係や仕事、成績などに問題を抱えている現実生活

から一時的にでも解放され、逃避したいがためにネットにはまり、中毒になるという

ものである。こうした中毒者についてヤングは「彼らにとって、それは逃避の一つの

形態であり、オンラインは悩みを忘れさせてくれる大切な場所なのだ」と述べている。

こうしたタイプの中毒の場合、逃避が目的である為、インターネットは飲酒や薬物と

いった別のものでも代替は可能であると考えられる。すなわちインターネットは逃避

のための手段のひとつであり、その症状はインターネットに限定されるものではない。

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それに対し、二つ目の考え方は、インターネットでなければ中毒にならないとする点

で対照的なものである。インターネットは例えばテキストベースである。匿名性が高

いといった特有の性質を持っているが、それらの性質を持つコミュニケーションに楽

しさや満足を感じる事で、中毒になってしまういうのである。これについては、チョ

ウらの大学生を対象に行った調査によって中毒症状とネット上のコミュニケーション

体験に関連があることが確認されている。

こうしたことが原因である場合、ネットでのコミュニケーションは楽しめるが、何らかの要因で

現実生活のコミュニケーションに自身が持てないものなどが、中毒傾向を強めていくのかもしれ

ない。

コンピュータ・コミュニケーションの利点

機械を介するコンピュータ・コミュニケーションでは、自分の好きなときに利用でき、リアル

タイムの応答が不要である。そして不特定多数の人と、ハンディキャップがある人も健常者と同

等のコミュニケーションができる。また、地位・性別・障害の有無などによる偏見が解消される。

またアメリカのJ.シーガルたちが行った 3 つの実験では、下図に示したように、いずれもコ

ンピュータを通じた非対面会議において発言数の偏りがなくなる現象が見られた。

また、人は集団に所属したがる傾向にあるということも要因であると考える。ネットになじみ

があり日記や文章を書くことが好きな人たちは取り残されてはいけないという焦りや集団に属

したい欲求から、ブログのコミュニティへと参加したからではないか。人が集団に所属する理由

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は5つある。

第一に、他の人々から注目されたい、好意を得たいというような、心理的な要求を、集団に属す

ることで満足させられる可能性がある。

第二に、一人では成し遂げられない目標の達成を、集団が援助してくれる可能性がある。また、

共同で作業することによって、良い成果が上げられることもある。

第三に、個人の資格や知識では得られない情報を、集団に属することによって得られる可能性が

ある。

第四に、集団に属することによって、外からの敵に集団で対処するようになるため、自分の身の

安全が守れる。

後に、集団に属することによって、肯定的な社会的アイデンティティ(社会との関係で自己自

身を確認すること)が得られる可能性がある。

以上の5つの利点はブログをすることで得られる可能性がおおいにあるといえる。

Ⅴ ブログの流行は何を意味するのか

仮説が正しいとして、「異なる自分」が「本当の自分」に対する侵略度が高まると今後どうな

るのか。ブログの流行は何を意味し、今後どのような危険が想定されるのか。

ブログをはじめとして、電子メールやチャット、電子掲示板といったツールは、われわれの遠

く離れた家族や友人とのコミュニケーションを簡便にしたり、見ず知らずの他人との関係形成を

も可能にしたりしてくれる。したがって、それらはわれわれに対人関係の強化・拡大など好まし

い影響をもたらしてくれるかもしれない。

しかし近年報告される研究には、そうした影響とはむしろ反対の結果を示すものがいくつか見

られるようになってきた。すなわち、インターネットは家族や友人との関係を希薄にしたり、ひ

いては家族関係の崩壊など社会的不適応を招くというのである。

これを踏まえ、インターネットがそのような悪影響をもたらすことを示した研究を取り上げ、

悪影響がなぜ生じるのか、またどのようなプロセスで生じるのか、さらにはそれにどう対処して

いけばよいかを簡単にまとめる。

クラウトらはインターネットを導入する前後で対人関係及び精神的健康についての調査を実施

した。調査の対象者はアメリカのピッツバーグ地域に住む 93 世帯 256 名である。 検討点 質問内容

対人関係 1)家族とのコミュニケーション 「家族のメンバーそれぞれと 1 日何分くらい話しますか」

2)近隣の社会的ネットワーク 「月1回以上、会ったり話をしたりする人が、ピッツバーグ内に

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何人いますか」

「1年に1回以上、会ったり話をしたりしたいと思う人がピッツバ

3)遠方の社会的ネットワーク ーグ以外の場所に何人いますか」

「仕事を変えたり、新しい仕事を探すことになった時、アドバイス

4)社会的なサポート を求めることができる人がいる」

など 16 項目に当てはまる程度を5段階で回答

心理的健康 「私は仲間づきあいがしたくても、そういう仲間がみつからない」

1)孤独感 など 3 項目に当てはまる程度を 5 段階で回答

「車が故障した」「家族が病気になった」といった日常に怒りうる

2)ストレス 49 の項目のストレスのうち、前月に経験したものを報告

「例え家族や友人が助けてくれても、憂鬱な気持ちを振り払うこ

3)抑うつ とはできないと感じた」など 15 項目に当てはまる程度を 3 段階で回答

この結果より、対人関係の側面では、家族とのコミュニケーションと近隣の社会的ネットワーク

に変化が見られ、インターネットを使用するにつれ家族とのコミュニケーションが減少し、近隣

の人との交流が少なくなると示された。また、心理的健康については、孤独感と抑うつが高まる

ということが示された。

ネット上では主にコミュニケーションが行われているにもかかわらず、このような関係の希薄化

が生じてしまう矛盾を、クラウトらは“ インターネットパラドクス” と呼んでおり、このような

現象が生じる理由として、「インターネットを通じた相互作用の質の貧しさ」を挙げている。

また、インターネット中毒やひきこもりによる社会的不適応も考えられる。インターネット中

毒とは別の言葉では「ネット依存症」や「インターネットの病的な使用」(pathological use)な

どとも称されるが、明確に規定する定義は確立されてこなかったため、症状についての統一的な

見解はない。「ひきこもり」とは、厚生労働省の定義によれば、「6ヶ月以上自宅にひきこもって、

会社や学校に行かず、家族以外との親密な対人関係がない状態」のことをさす。

対処法として、メリーランド大学などはグループ治療を行っているし、ネット上に設立された自

助グループやサポートグループ、メーリングリストなどに頼る事も出来る。さらに自力で治療を

試みる人には、ヤングの紹介する対処法が参考になるだろう。確立された方法ではないが、個人

的に成功したケースを中心に次の6つを紹介している。

① ネットに割いている生活時間を把握し、一日のスケジュールを決めなおす

② 目覚し時計など接続を抑制する外部刺激を用いる

③ どのブログをみるかなど、その日に何をするかをあらかじめ明確に決める

④ 禁酒のように、全く接続しない事を試みる

⑤ インターネットをする事で生じる問題と、やめることによる利益をそれぞれ5つ

ずつ書き出す

⑥ インターネットをするようになってからの日々の活動を列挙し、それらの重要度

を評定する

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後に、インターネット中毒について、これまでと異なる見解を主張するものについても紹介し

ておく。

アジェイはメディアと社会化という観点から、インターネット中毒などの問題につ

いて、それ はいくらか自然な過程であると主張する。それはいわばわれわれが、

人よりテクノロジーとより多くの時間を過ごすようになってきたことの現われである

というのだ。また彼らは近年のインターネットの隆盛を、以前テレビやラジオが発明

された時代から見られるような、社会化の主体が家族や友達からテクノロジーに移行

したものと捉えており、そうした観点から、人々のインターネット使用は、社会と関

わるいち手段であると述べている。(小林)

アジェイが指摘するように、今やインターネットが社会科のいち手段となっているということは、

否定できないと思われる。しかし問題はそのインターネットが単なるいち手段ではなく、唯一の

手段となった場合ではないだろうか。そうした状況がインターネット中毒であり、現在は主に成

人について、経済的問題や対人関係などへの影響が問題視されているが、今後発達段階にある子

供にも中毒が生じた場合、その者には健全な人格形成や社会的スキルの獲得などが行われるのか、

といったところが懸念される。こうした問題については、今のところはほとんど考慮されていな

いが、今後早急に検討していく必要があるだろう。

以上、インターネットが対人関係に悪影響を及ぼすという研究を報告してきたが、インターネッ

トは我々の対人関係を一向に悪化させるばかりではないようだ。関係強化、拡大などいわば好ま

しい影響をもたらすとするものも、いくつか報告されている。例えばネット上の関係形成につい

て検討したパークスとロバーツの研究では、仮想空間内に、ユーザー独自の仮想キャラクターを

持ち、文字を通して他者との相互作用を楽しむMooと呼ばれるチャットに注目した所、多くの

ものがネットで関係を形成していること、またそれは現実生活で形成した関係と劣らないほど深

い関係を築いていること、さらにそれがきっかけで恋人をみつけたり、婚姻関係を結ぶものがい

ることなどを報告している。この結果は、 初に紹介したクラウトらの研究で指摘されていた「ネ

ット上の相互作用は質が低い」とする意見とは異なるものであり、インターネットの可能性を示

唆するものでもある。

また、現実生活の対人関係に問題がある者に対して、その問題改善にインターネットが良い影

響をもたらしたという例もある。例えばタークルは、Mooと類似の仮想空間を持つチャットで

あるMUDが、様々な人物として振舞う事によって人々の立場が理解できるという、心理療法で

しばしば用いられるロールプレイングと似た機能を持つ事に注目し、精神的に十分健康であれば、

そこでの経験を現実生活の適応にいかせるとしている。実際、アメリカには現実生活に不適応で

ある者がMUDでした体験を、現実にも生かすための治療をしている臨床かもいるようであり、

そうしたMUDの効果を示唆する実験研究の結果もみられている。

今や日本でも不登校の子をネットでつなぐという試みが行われるなど、インターネットを用い

て関係形成のために有効利用しようとする動きは少なからずあるようだ。それらの実践を有意義

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にするためにも、先述の悪影響がどのようなプロセスで起こってしまうのか、またそれらを導か

ない為にはどうしたらよいかなどについて、さらに検討を重ねていく事が必要である。

Ⅵ まとめ

本稿で私は、ブログが流行した背景や要因と思われる仮説を検証した。また、ブログが流行す

る事によってどのような危険性が考えられるかを過去になされた研究を紹介しつつ述べた。

結局のところ、アメリカの blog 文化の良質なところを取り入れ、自分に一番合った、 もそ

の人の力を発揮できる形式・手段で情報公開を行い、我々の生活を豊かにしていけばそれでよい

のではないか。「インターネットを使って個人の生活を豊かにしたい」という非常に素朴な、し

かしこれ以上ない原則にまず立ち戻るべきだろう。

しかし、本稿では十分にブログ流行論を考察する事が出来なかった。変身願望に対する立ち入

った議論が出来なかった。以上の二点を反省として、今後の課題としたい。

脚注)

(注 1)アメリカにおいて、社外秘の研究製品の写真を撮り、ブログに載せたことによって会社

から解雇されたブロガーがいるというニュース

(注 2)日本人は熱しやすく冷めやすい国民性といわれており、女性は特にその傾向が強いと言

われている。ブログ燃え尽き症候群と呼ばれる症状が見られるブロガーも出てきている。

ブログ燃えつき症候群とは、当初はひとつひとつほ記事に対してこと細かく書いていた情熱が

一気に冷め、ブログをすることが疲れる事と位置づけられて、ブログを続ける意味や価値が見出

せなくなる症状である。

参考文献

井上隆二・山下富美代『社会心理学』ナツメ社,2003.

インプレスムック『はじめよう!みんなのブログ』インプレス,2004.

沖山克弘『ブログの力』株式会社九天社,2004

林信行「SNS で広がる友達の輪」『週間アスキー別冊 300 万人のブログ大全』株式会社アスキ

ー,2004;pp.86-89

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小比木啓吾『ケータイ・ネット人間の精神分析』飛鳥新社,2000.

Kraut,R., Patterson,M.,Lundmark,V., Kiesler,S., Mukophadhyay,T., & Scherlis,W."Internet

paradox"American psycologist, 1998.

宮原浩二郎『変身願望』ちくま新書,1999.

日本インターネット協会(編)『インターネット白書 2004』インプレス,2004.

小林久美子「インターネットと社会的不適応」パトリシア・ウォレス,川浦康至『インターネッ

トの心理学』NTT出版,2001;pp.122-134.

ピ ュ ー ・ イ ン タ ー ネ ッ ト ・ ア ン ド ・ ア メ リ カ ン ・ ラ イ フ ・ プ ロ ジ ェ ク ト

http://www.pewinternet.org/pdfs/PIP_blogging_data.pdf

Rebecca Blood ” weblog history”

http://www.rebeccablood.net/essays/weblog_history.html , 2000.レベッカ・ブラッド『ウェブ

ログ・ハンドブック』毎日コミュニケーションズ,2003.

和田秀樹『自己愛の構造』講談社選書メチエ,1999

ブロガーの意識調査

この度、上智大学経済学部経営学科網倉ゼミにおいて、ブログ流行の背景について研究すること

になりました。このアンケートは今後の研究活動の資料とさせていただくことを目的としており、

お答えいただいた内容につきましては統計処理されますので、ご迷惑をおかけするようなことは

一切ございません。少々お時間を頂戴いたしますが、ぜひご協力をお願いいたします。

ご記入にあたってのお願い

*ご回答はご自身でご記入くださるようお願いいたします。

*ご記入に当たりましては、あまり深くお考えにならず、お気軽にお答えください。

*ご回答の仕方、ご記入の方法につきましては、下記を参照してください。

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・あらかじめ回答項目が用意されているので、適する項目を残し、それ以外の回答項

目は削除して下さい。(選ぶ項目の数は質問文の最後の【ひとつだけ】や【いくつで

も】などの指示を守ってお付けください。)

・あらかじめ用意されている回答項目の中に、あなたの回答と一致するものがない場

合やそれら以外にご回答がある場合は、「その他」の項目に用意されている回答欄に

具体的にご記入ください。

*ご記入が終わりましたら、ご面倒かと思いますが、記入漏れがないかどうかいま一度ご確認く

ださい。

◎ご回答に際して何かご不明な点は、下記までご連絡ください。

担当者名: 飯野友理 連絡先:[email protected]

Q1/ブログ開設前にホームページは持っていましたか。【ひとつだけ】

A) はい B) いいえ

Q2/ブログを始める前にウェブ日記を書いていましたか(書いていますか)?【ひとつだけ】

A) している B) していない

Q3/どんなきっかけでブログをはじめましたか。【いくつでも】

A) SNS との兼ね合い B) ニュースで知って C) 友達に勧められて

D) 有名人ブロガーの影響 E) 更新が簡単 F) デザインがオシャレ

G) その他( )

Q4/ブログを開設したのはいつですか。【ひとつだけ】

A) 2003 年以前 B) 2003 年 1-6 月 C) 2003 年 7-12 月

D) 2004 年以降

Q5/あなたはどんな種類のブログを所有(または管理)していますか。【ひとつだけ】

A) 独自ドメイン上の MovableType B) 独自ドメイン上のその他

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C) レンタルブログ有料 D) レンタルブログ無料

Q6/あなたは自分のブログでアフィリエイトをしていますか。【ひとつだけ】

A) している B) していない

Q7/アフィリエイトをしない理由として当てはまるものを選び、その回答の理由を書いてくださ

い。【ひとつだけ】

A) そうしたくないから B) やりかたがわからないから

C) 使っている無料ブログホストで許可されていないから

D) その他( )

理由( )

Q8/デザインなどのカスタマイズはしていますか。【ひとつだけ】

A) デフォルトのまま使用 B) 既存のテンプレートに少し手を加えている

C) ほかのサイトで公開されているテンプレートを使用 D) 自分で1から作成

Q9/どれくらい頻繁にブログを更新したり見たりしますか。【ひとつだけ】

A) 1 日 1 回 以上 B) 1 日 1 回 C) 週に 2~4回

D) 週 1回 E) 週 1回以下

Q10/記事内への画像使用頻度はどのくらいですか。【ひとつだけ】

A) テキストが中心 B)たまに画像を使う C) 記事の半分程度に使っている

D) ほとんどの記事につけている

Q11/あなたはどこでブログをしますか。当てはまるものを選び、その回答の理由を書いてくだ

さい。【いくつでも】

A) 家 B) 学校・職場 C) 携帯電話

D) その他( )

理由( )

Q12/他の人のブログは良く見ますか。【ひとつだけ】

A) ほとんど閲覧しない B) 必要に応じて時々閲覧 C) 毎日決まったブロ

グを中心に閲覧 D)毎日たくさんのブログをランダムに閲覧

Q13/トラックバックはよくしますか。

A) ほとんどしたことがない B) たまにする C)かなりの頻度でする

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Q14/トラックバックはどれくらいされますか。

A) ほとんどされない B) たまにされる C)かなりの頻度でされる

Q15/コメントはよくしますか。

A) ほとんどしたことがない B) たまにする C)かなりの頻度でする

Q16/コメントはどれくらいされますか。

A) ほとんどされない B) たまにされる C)かなりの頻度でされる

Q17/ブログをしていて楽しいのはどんな時ですか。【ひとつだけ】

A) いい記事が書けたとき B) アクセス数が伸びた時 C)コメントが付いた時

D) トラックバックされたとき E) 友人・知人が感想を言ってくれたとき

F) ブログをきっかけに知り合いができたとき G) その他( )

Q18/なぜブログをしていますか。非常にあてはまると思う項目は 5、やや当てはまると思う項

目は 4、どちらともいえないと思う項目は 3、やや当てはまらないと思う項目は 2、まったく当

てはまらないと思う項目は 1 を、各項目1つずつ選んでください。その他に理由がある方は(7)

その他の項目に記入してください。

非常に当てはまる やや どちらともいえない やや 全く当てはまらない

(1)楽しむため 5 4 3 2 1

(2)書く練習 5 4 3 2 1

(3)友達作り 5 4 3 2 1

(4)世界とのつながり 5 4 3 2 1

(5)仕事のため 5 4 3 2 1

(6)お金のため 5 4 3 2 1

(7)その他( )

Q19/いまの自分に満足しているか。

A) 満足 B) 不満 C)どちらでもない

「不満」と答えた方に質問します。では、どうなりたいですか。記述してください。

( )

「満足」と答えた人に質問します。より向上したいですか。

A) はい B) いいえ C)どちらでもない

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ありがとうございました。以上でブログに関するアンケートは終わりです。最後にあなたご自身

のことについてお伺いします。これからの質問は、統計処理され用いられるものであり、個人の

情報がそのまま漏れるようなことは決してありませんので、お気軽にお答えください。

F1/あなたの性別を教えてください。【ひとつだけ】

① 男 ② 女

F2/あなたの年齢を教えてください。【ひとつだけ】

①10代 ②20代 ③30代 ④40代 ⑤50代以上

F3/それぞれあてはまるものを選んで下さい。

① 子供の頃ごっこあそびをした (1) はい (2) いいえ

② 服を多く持っている (1) はい (2) いいえ

③ ダイエットやイメージチェンジなどに興味がある (1) はい (2) いいえ

以上でアンケートは終了です。ご協力誠にありがとうございました。