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7 2013 橫浜・福浦

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72013

橫浜・福浦

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ファブリ世界名画集平凡社版より

Lautrecロートレック深酒する女

     人生だ , 人生だ , 人生だ!    トゥールーズ・ロートレック

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5

七 月

縫物を膝から下ろす柿若葉

憲法の日象の花子はうしろむき

笑ってるのか怒ってゐるか放射能

杉の木の脇の自販機より冷茶

藤の花キリンのゐない動物園

おでんの端で辛子が乾く藤の花

笹舟の水際に寄りぬ押しやりぬ

佐藤喜孝

一郎さんの句に分らない言葉が

あったので問ひ合はせたことがあっ

た。お呪いだといふ。その本をコピー

してくれた。「小兒夜鳴・流行眼・

田蟲・疣・霜焼・風邪・鼠の出ぬ痔

脱肛・蜂刺され・蚤・烟にむせぬ・

火傷・疥癬・熱湯をさます・雷除・

船車によがぬ・暑中飯の腐らぬ・眼

中の塵を取る・男の嫉妬深きを止む

る・迷ひ子を早く見附ける・血止め・

嫌ひ物を嗜になる・蟻除け・胸のつ

かへ・糊に虫のつかざる・燈火の油

へ虫の入らざる・火災除け・夜道を

ゆきて物におそれぬ・瘧を治す・男

女縁ある・女の男をきらふ・夫婦和

合・麻疹にかゝらぬ・蠶にの鼠つか

ぬ・虫歯を治す・乳のはれを治す・

乳の出ざる・虫封じ・耳のきこえざ

る・海運盗まれ物を見付く」本の見

出を列記した。知りたいまじないが

ございましたらご一報下さい。

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67

焼上げる手より団子を夏木立

今年竹徳利に袴履かすやう

花十薬丘なす裾に遊水池

葦掴む脱皮のをはりぎんやんま

立浪草白の際立つ水兵さん

俺俺詐偽「わたし」は聞かぬ姫早百合

卯の花や這出て亀の泥塗れ 森

 

ミシシッピーニオイ亀、お休みの

日には水槽から庭の池に遊ばせて、

夕方になると水槽へ戻される。

昨年の九月頃、いつも居る筈の藻

の下に亀が居ない。総出で捜したけ

れども見つからない。

水漏して水位の下がっている池か

ら這い出せないだろう、猫か烏か誰

かが等々と、いろいろと思い付くま

まに勝手な想像で意見が出されたけ

れども、居ないものは居ない。

「ミメ」と名付けられた亀の事は

すっかり忘れられていたこの五月に

「あ!かめがいた!!」庭先で夫の

声。蛙が冬眠する同じ様な所で冬眠

していたらしく、泥塗れでした。

青粉、蜷が池から姿を消し、放射

能ではと疑い水質検査もしました。

亀は一回り大きくなって、水槽に戻

され、池には無数の蜷が生まれ、青

粉が発生しています。

杉山の鬱蒼として藤の花

東大寺鴟尾にあつまる五月の陽

参道は梅雨じめりなり奥の院

紫陽花やときどき浮ぶ鯉の口

亀の甲羅ほくろのやうに蠅とまる

消火器とバケツと箒花十薬

バス一台逃したあとのゼラニューム

吉成美代子

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89

かんばせをそそと引き寄す梅の花

恋猫の手鞠のやうに眠りこむ

何処から肉桂春風少しつよく

手枕の寝息乱るる春の猫

霧雨と花びら触るる両の頬

春の雨真綿のやうに糸をひき

ガラス戸に糸引く春の雨やまず

吉弘恭子

今回の吟行地は、大宮氷川神社で

あった。大いなる宮居として 大宮

の地名の由来となった古社である。

参道は幅広く欅等の古木が、トン

ネルを作っている。

三つの鳥居を抜け朱の鮮やかな神

橋、楼門から本殿へ案内して頂く。

その後 小動物園の近くで 種々

の木に感嘆しながら一時を過した。

お薦めのランチの後、竹内御夫妻

の住居の超高層マンションの共用ス

ペースで句会。二十七階からは地平

線が丸く感じられる程であった。

ホテルの様な最先端の建築と歴史

ある神社と。初めての大宮で両極端

の経験をさせていただいた。

企画され、丸一日私達と過ごして

下さった竹内さん、大変お世話にな

りました。有難うございました。

赤座典子

大宮氷川神社

参道や園児行進新樹光

団子屋に課外授業の夏帽子

丁石の然と十八椎の花

木下闇古木の杉は蓋をされ

大皿のロールキャベツと夏に向ふ

岩色の亀の子岩を蔽ひける

神池の緑に鰭長錦鯉

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井上石動

☆瓜蔓の自由はこれを保障する

白南風の天翔けゆくや番ひ鳥

軽くなる夢風羅坊ハンモック

タコ焼きを反す手並ぞサングラス

落ち縁の青道心や柿若葉

ポケットにもの溢れさせ更衣

身をひねり大月の鮎釣られけり

 パソコンがこんなに有益だとは

基本的に、ここ30年余、書類も手紙もす

べてワープロ・ワード頼み。だから、字を

忘れること忘れること。先日など「学校」

の「校」の字すら「あれ?どう書くんだっ

けか?」のテイタラク。で、近頃そのパソ

コンで「インターネット」に、ご多分に洩

れずの嵌りはじめ。ネットといっても、人

様が公表している「ウェブ」というのか、

個人個人の「お好みジャンルご意見欄」に、

ちょくちょく進入。たとえば私の好きな「神

社」で調べると、出るわ出るわ、こと細か

に、いろいろ教えてくれる。で、画面の文

字は、いよいよ老眼の私には「小さすぎ」

なので、コピーして、大きな文字の「石動

ノート」に貼りつける。本など購入せずと

も、明治時代の著作類はこの「ウェブ」で

拝読できる時代。

子規さんの多くの著作を今、拝見中。そ

の行間行間から、勇猛心と稚気あふるる

「愛すべき子規さん像」が浮かんでくる。

でも、新本・古本にかかわらず、手にした

ときのトキメキ、そして気づいたところを

マークするウキウキはまた別もの。やはり

「紙」の書籍あってこその悦び………であ

ります。

木村茂登子

大洋に潮の道あり初かつを

お國振り土佐は高知の塩かつを

薫風裡一人遊びの散歩する

つつましき女人の家も菖蒲の湯

新じやがの丸ごと皮つき甘辛煮

母の味なまり節入り胡瓜揉

梅雨兆す朝の烏の嗄れ声

二〇一三年五月印象に残ったこと。

三浦雄一郎さんのエベレスト登頂の

偉業である。

出発の時から無事を祈っていたが全

員無事帰還の報にホッとした。

それにつけても目的達成のための

日々の鍛錬の凄さ、あえて凄さと言い

たい程の行為、しかも去年から今年に

かけて心臓の大手術があったとか、ま

さに希望と言うより執念と言うべきで

あろう。

正直のところ、成功したから良かっ

た、と思う。

計画から資金の調達、入山手続、人

員構成その他大変な労力である。

ご家族スタッフの方々に頭が下が

る。心

からお祝を申し上げるとともに皆

様の一日も早い疲労恢復を祈ってい

る。

初かつを

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斉藤裕子

五月一六日、息子夫婦が新居へと引越

して行った。三年間の同居生活だった。

色々大変な事もあったがそこはお互い様

で、貴重な経験をさせてもらった。二人

にありがとう。

嫁いで新生活を始めた二階の二部屋

が、再び戻ってきた。がらーんとなった

部屋で、いろんな思いが込みあげてき

て、一頻り涙も流した。

次の日から、二階へ上がる回数が極端

に増えた。大掃除して、カーテンを新し

くした。板の間の壁と天井を次男に塗っ

てもらった。押入れの襖を貼り替えた。

ついでに一階の障子も貼り替えた。忙し

くなった。空いた部屋が物置と化する前

に、やらねばならない事が山積みしてい

る。

願ふ事親なればこそゆすら梅

花卯木よごれることのなき白さ

樟若葉盛り盛り萌えて陰深し

手の平に小さき蝋細工柿の花

塗畦は天下一品お父ちゃん

若葉風耳だけ動く昼寝猫

綿飴に顔うずめる子花菖蒲

篠田純子

京都旅行二日目は六波羅蜜寺に

行った。教科書にも載っていた空也

像は、見る方向に依って目が光り美

しい。悲しげな清盛像にも心魅かれ

る。午

後は高瀬川を散策。折しも公演

中の『鴨川をどり」を先斗町歌舞練

場の棧敷で見る。芸妓さん舞妓さん

の芸は素晴しく、伝統と意気地を感

じた。美しい舞妓が、ピンク地に藤

の模様の振袖で踊る姿が心に残っ

た。三

日目は高雄の神護寺。谷へ下っ

て又登る。参詣の後、土器飛ばしを

したり和気清麿の墓に参った。折し

も「虫払」をしていて、空海・政子・

家康等の書や、これも教科書に載っ

ていた頼朝の肖像画も見る事ができ

た。帰りは清滝川の川床で、河鹿を

聞きながら寛いだ。紅葉が有名な高

雄だが、新緑も素晴しかった。

蠛の解散してゐる駅の前

踏切は神社のはじめ青葉風

アメンボがアメンボ突つく辨天池

木の虚に竹立て掛けて走り梅雨

庭で採れたとさや豆もらふクラス会

アメンボの足に喰ひつく蝌蚪のくち

抜辨天へ飛ぶいちまいの白いシャツ

☆ 

一郎さん

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定梶じょう

揚雲雀空は大手を広げたる

山笑ふ校長先生新任で

春深しついては借銭でけへんか

あの辺り雲の緊迫山を焼く

挽きにけり誰が鋸薄暑かな

竹の脱ぐ皮に斑がありふと不安

緋目高も販ぎ朝市品くさぐさ

品くさぐさ

須賀敏子

私の紫陽花

二十歳の頃、生花で使った額紫陽

花を挿木した。翌年より花を咲か

せ、以来五十年近く毎年毎年咲き続

けている。碧紫色の小さな花は涼し

げで、小ぶりの葉には白い斑が入っ

ているのも良い。

この先も大切に守っていきたい私

の紫陽花です。

遠足の子らと乗り合ふ西武線

五月鯉五匹揃って武甲山

神職の浅葱の袴涼しげに

境内に大きな絵馬や風薫る

参道の十八丁目樟若葉

紫陽花や氷川団子は醤油味

新しきミシンを使ふ夏はじめ

楸邨に次の句がある。

朝顔の咲いてしまひぬといふ如く

花のひらききった瞬間を捉え、優

れた作と思う。

あるいは、「咲いてしまひぬ」と

言い切っておいて、続けるに「とい

ふ如く」と、読み手の当てを外す。

俳諧には「去り嫌ひ」なる言葉があ

り、単調を嫌う処から同季同字や類

似の詞を用いることを禁じた、と辞

書に説明してある。

掲句では坐五に竹垣なんぞを持っ

てきたら、それはそれで「咲いてし

まひぬ」が効いているから充分俳句

になったろうが、優れた俳人は違う

のだ。「俺、うっかり開いちまった」

と朝顔自らに言わせておいて、「そ

んなふうに咲いていることだよ」と。

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竹内弘子

☆長柄杓かたかた鳴らし彼岸過ぐ

春鴉羽撃ちて植木鉢落す

キリストの半裸まぶしき春祭

大根おろしの水分老年期長し

月明し追儺の声を出し惜しむ

竜の玉いくつ投げてもたよりなき

ぬれし葉の塩気をめでつ桜餅

田中藤穂

窓若葉新居に笑ひ声の満つ

縁側は青葉の匂鳩が鳴く

萬綠に気圧されてゐる

寿

いのちなが

石の椅子木椅子陶椅子青嵐

永坂の蕎麦屋の恋し青葉寒

葛切やこころの隅を風の吹く

芍薬にひかれて覗く余所の庭

私の実家は百米程先に諏訪神社が

あってその参道に面していた。その

間に小学校があって日暮里駅を使う

先生は皆家の前を通ってゆく。生徒

も大勢通るから朝夕は賑やかだ。七

軒程の先の角に長谷川さんという本

屋があって、教科書はそこで売るの

で年度変りには皆そこへ買いにく

る。幼年倶楽部が出るのは毎月七日

で、もう来たか来たかと何度も足を

運んだものだ。

大晦日に除夜の鐘がゴーンとなる

と初詣にゆく人が通りはじめる。闇

の中に足音だけが賑やかに続くのを

家の中で聞いていた。お寺も多いの

で、お会式の白衣の行列が太鼓を叩

きながら、火消の纏に似た白い細い

布が一杯ついた長い棒を振り振り通

るのはちょっと薄気味悪かった。

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長崎桂子

葉桜に一番乗りの若木なり

葉桜やいつも誰かが石の椅子

葉桜の木漏れ日なれば疑はず

葉桜や上り下りの電車過ぐ

葉桜を通り抜けたり祖父の墓

若葉道行けば主役を得たやうな

初蝶や薄ら日に風みどりなり

放射能のけぞってゐる三葉虫

 古い古い化石の三葉虫と、今世間を飛び回っ

ている問題の放射能の対比に驚きました。現代

社会に対して「エエッ!」と三葉虫が呆れての

けぞっているようでユーモラスに思いました。

この句には反核、反原発の意があると感じまし

た。〈純子〉

星あかりやもりの声の鳴きやまず 

吉成美代子

 掲句を読んでミャンマーの古都バガンに遊ん

だことを懐かしく思ひ出した。「パゴダからにじ

み出る夜大トカゲ」「天井扇闇に打込む有生の聲」

などと作った。「星あかり」は言葉どおりの感動

であらう。人工の明りが少なく本当に星明りと

いふことばにふさはしく星が幾万と輝いている。

ヤモリは生を謳歌するやうに夜を徹して星明り

の下で鳴いてゐる。旅のよき記念である。(喜孝)

古時計気儘に鳴りて春闌ける 

赤座典子

 「春闌ける」と「春闌くる」は微妙なちがひが

ある。「春深し」ともちがふ。違ひを言葉にする

のは難しい。古い時計、手巻の柱時計が似合ふ。

この句の「気儘になりて」がおもしろい。今時、

時計を持ち合はせなくとも不便を感じない。が

さういふ実務的な時刻と違ひ、気儘に時を打つ

古時計ののどかな音。そのやうな狂ひ時計の音

を楽しむのも豊かな句心がなせる収穫である。

(喜孝)

六月作品より  

篠田純子・佐藤喜孝

たまに所用があって電車に乗ると

微笑ましい情景に出会える。二人の

子供を連れた四十代と思われるお母

さんが、一人だけ座れる空いた席に

座り三、四歳の下のお子さんを膝に

乗せ、小学低学年と思われる上のお

子さんに、掴まる事の出来る場所を

指差しして立っているように言っ

た。上

のお子さんは「ハイ」と言って

其処に立っていた。二つ目の駅で席

が空くと、にっこりとお母さんと頷

いて座った。

電車に乗って席があると、先ず子

供を座らせて、御自分が立っている

お母さんに出会う事が多かったよう

に思い、心嬉しく思った出来事でし

た。

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あめんぼを跨ぎあめんぼあちら側 

 あめんぼは水みづすまし馬ともいふ。私の敬慕してゐた

俳人の句に

  跳ねてみて水面丈夫水馬

和田 魚里

がある。画家でもある魚里から句会で短冊をい

ただくのが無上の喜びであった。今手許に魚里

の磨り減らした遺墨(本当の意味)が有る。遺

族の方から戴いたといふより盗んできたやうな

墨の欠片である。まだ一度も使ったことがない。

使ふ気になれるやうせっせと短冊を練習してゐ

る。掲句からそれてしまった。小動物の句は私

も好きなテーマである。水面に数多のあめんぼ

が乗ってゐる。そのうちの一匹がひょいと隣の

あめんぼを乗越えて居場所を変へた。俳句の尺

度に古い新しい、深い浅いなどあると思ふが、

さういふ尺度で計らなくともよい句もある。作

者の師である藤田湘子に

  あめんぼと雨とあめんぼと雨と

がある。この師の句に半歩でも一歩でも寄り添

ひたいといふねがひが働いても不思議ではない。

私も魚里の句にあやかり「水面をはがす衝撃水

馬」「あめんぼのふまえしみづのへこみをり」と

句会に出句したがそのままになってゐる。(喜孝)

金目鯛捌く腹より小海老出て  

大日向幸江

 よく海老で鯛を釣ると言いますが正に大好物

の食事の直後に捕えられた金目鯛なのでしょう。

美味しく調理して奇麗に召上がったと思われる

作者。体に力が湧いたことでしょう。何度かこ

の句を鑑賞していると金子みすゞの「大漁」と

いう詩を思い出しました。

  浜は祭りの

  ようだけど

  海のなかでは

  何万の 

  鰮いわしのとむらい

  するだろう。

〈純子〉

待たされてゐて若葉風ほしいまま 

木村茂登子

 人間なにもせずに過すことはなかなか出来る

ものでない。旅先のバス停で乗換え時間がたっ

ぷりあるが、バスの時刻表は信用できずバス停

から余り離れられない時、掲句のやうに人をじっ

と待つ時間。得難い時空間と思へればしめたも

の。「若葉風ほしいまま」といふ度量の広さ、見

事な空白時間の処し方である。(喜孝)

河鹿鳴くなきやみてまたきょきょきょきょきょ

 コロラトゥーラソプラノ競ふ河鹿かな

稲畑廣太郎

と掲句を含め河鹿の句はほとんど声を対象にし

てゐる。掲句はその声だけで一句を構成しやう

といふ大胆な試みである。河鹿の鳴き声のオノ

マトペの「きょきょきょきょきょ」の成否だが、

私には「夜鷹」の声が浮んできて邪魔をする。

発想のユニークさを生かすには、もう一度河鹿

に耳を澄ましてみるとよい。蛙の鳴き声といへ

ば草野心平の詩が思ひ浮ぶ。声で無い河鹿の句

を一句。(喜孝)

  脚張って泳ぐ河鹿に朝日透く 

高島  茂

蕗の薹少し刻んでスパゲティ

 このありさうでない新鮮な料理法。食べたく

なる。美味しさうだ。和洋の食材の魅力ある組

合はせ。季節感溢るる作品である。(喜孝)

砂日傘マレーネ、ディトリッヒの脚 竹

 映画好きの作者ならではの句と思いました。

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男性の視点の句で砂日傘で隠れている女性の顔

を「見てみたい」「いや足だけが奇麗なのかも」

などと思いながら冷たいビールを飲んでいるの

では………と想像しました。〈純子〉

漱石の美禰子のやうな白日傘 

 漱石の『三四郎』に登場する美禰子は、三四

郎の前に白い花をわざと落したり「ストレイ 

シープ」とため息のように言ってみたりといろ

いろモーションをかけてきます。又、漱石の小

説を読み返したくなる。魅力的な句と思いまし

た。〈純子〉

朝寝して今日人来るを思ひ出す 

 気持よく朝寝を楽しんでゐたら、ふと人が来

る約束をしてゐたことを思ひ出す。その後のこ

とは書かれてゐない。俳句といふ器の分量、余

情を楽しむ句心。俳句は捻らなくとも良いこと

を知るが私はなかなか実行できないでゐる。(喜

孝)

大お

岡越前の立ちし石階手に温し 

 特別作品は銀座桜通のお花見吟行をまとめた

もの。時代小説に頻繁に登場する旧跡に手を触

れることの昂ぶり。街騒のなか見過しがちな所

を純子さんの名ガイドで、見て触れて句にする

ことが出来た。〝手に温し〟は実感でありまた懐

古のこころである。(喜孝)

散るさくら背に銀座の猫走る 

 大岡越前の後にこの句を読むと遠山金四郎を

連想する。調べると百十五歳も金四郎は若い。

越前が南町奉行、金四郎は北町奉行。どちらも

今でも人気ものである。銀座を走り回るこの猫

は背中に落花を乗せてゐるといふ。遊び心の一

句である。(喜孝)

 地名などのいわゆる固有名詞は、歌枕のむかしから

句歌に積極的にとりいれられてきましたが、俳諧俳句

に詠みこまれた地名を近年「俳枕」と呼んで、俳句誌

に特集が組まれたりしているのはご承知の通り。

 石川県は旧国名でいえば加賀・能登の二国よりなっ

ていて、どちらも二音ですから使いがってがいいので

しょう、比較的遣われます。むかし富山の俳人が、「越

中」なんて煩雑な地名は俳句に遣い難い、と嘆いたこ

とがありましたが、あるいはそうかもしれません。し

かし、つかい易いことと佳句が生まれることとはまた

別で、私見ですが、「能登」を読みこんでいい句とい

えるのは多くない。

  美しきあぎととあへり能登時雨

飴山  實

 女性の顎だけに焦点をあてて、配するに能登のしぐ

れ。高名な句であり、能登といえばマイナス・イメー

ジの先立つ内容が多い中でこんな美しい句を作ってく

能登だより(5)       定梶じょう

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れる、住人としてはまことに喜ばしいわけです。

 加賀の出身であり、能登にも詳しい作者です。近年、

角川から出た『地名俳枕必携』には、掲句の他に例句

が何句も掲載されています。

  能登の海春日昃れば照りにけり

清崎 敏郎

 能登の海の実景を捉えて、優れた句とは思いますが、

先の句ほどのインパクトはない。あるいは半島先端の

岬を詠んだ、

  雲は秋の禄剛岬萱ばかり  西垣  脩

 私の大好きな句なのですが、ネガティブの方に傾い

た句ではあります。

  能登晴れてホームに余る盆列車

千田 一路

 作者は、唯一能登から刊行されている俳誌の主宰者

であり、禄剛崎の周辺に住む。盆ともなれば帰省者が

多勢になって、列車も増結されるのです。したがって

ホームの長さに余ることになる。そんな奥能登線も今

は廃線。掲書は立ち読みですので、もともと記憶して

いる受誦句のみ挙げましたが、不遜を承知でいえば、

他はさ程のことはないと。

 しかし、です。四月号で石動さんが「いづこも同じ

………」と題して書かれて、富士〈真向ひに・を背に・

よりの風・の湧水〉を例にあげられた。

これは困った。どうも私も富士を目前にしたらそう書

きそうなのです。

 先ほど私は、他はさ程のことはない、なぞと申しま

したが、その中に、もしかしたら佳句があるかも。「能

登」に馴れているがゆえの見逃しがあるのかも。もう

一度、しかし、といわせてもらいますが、その地に住

まう人が佳しと思ったら、それは必ず佳句なのです。

富士を詠んだ句を石動さんが佳しとしたら必らず佳

句。能登の句を能登に住まう私達が佳しとしたら必ず

佳句。落語の「半分垢」ではありませんが、見慣れた

富士を石動さんに高いと思わせたら、その句は佳句な

のです。

  ふるさとは東京である夏休

内藤 ゑつ

 これほど小気味良く〈いくぶん躊躇感がこもってい

るとしても〉断定した句を知らない、と私には思われ

るのですが、東京育ちの方々はどう評価されているの

でしょう。能登に暮らす私には気になるところです。

もっとも、能登人が能登を詠んで他所と決定的に違う

ところが一つあります。厳しい地である、という負の

イメージでしかとらえていない。〈奥能登の厳しき冬

に絆あり〉〈荒れ狂ふ能登の外浦神の旅〉〈時雨るるや

能登の暗さの始まりし〉〈奥能登に齢重ねて去年今年〉

〈廃校の桜も遅くここは能登〉等々。但し、誰ひとり

自分が不幸な境涯のもとにあるとは思っていない。自

虐。

 〈雪が来て落ち着くことも能登住ひ〉が共感しうる

句である、というので入点するのは未だしも、〈ほと

とぎす啼かぬ日のなき能登に住む〉〈報恩講繰り返し

つつ能登に住む〉〈雪深き信心深き能登に住み〉等々

が合同句集に並んでいるのは、皮肉ではなく壮観。あ

る人が句集を上梓するために原稿を書きつぎ、結果、

「能登に住む」に類した表現が余りに沢山あって、本

人愕然としたそうです。ベテランの方ですから愕然と

したわけで、そうでない方なら当然として遣うわけで

しょう。

  奥能登の美しき水盗み合ふ

長徳谷とし

 『ホトトギス』同人の方の作ですが、こういう風に

遣いたいもの。坐五の措辞に諧謔。君がやるならぼく

もやる。

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  夏の雨黒砂糖しづかにありぬ

佐藤 喜孝

 皿の上にゆったり置かれた黒砂糖か、ガラス器の中に盛られてあるものか、どちらにしても静かに

ある黒砂糖の存在感が強烈である。夏の雨がまさに視覚的で秀れた油絵か映像を鑑賞するような思い

である。余談。私は夏になると、奄美や沖縄の黒砂糖を愛用する。夏の高校野球で沖縄の応援団がス

タンドで黒砂糖を食べて炎暑に抗するのと同じ。夏ばての活力になるからである。(一九九一年八月)

  ホトトギス鳴くや湯治の夜三更

伊万里梅城

  梅雨ながら露の生命や湯治客

 この六月に手術され、退院して山梨の増富温泉に湯治にゆかれた時の作品。一茶の句に「露の世は

露の世ながらさりながら」があるが、作者は承知して一茶の句を下敷に作られたものであろう。いく

日か一緒になった湯治客と鉱泉にしたりながら世間話をしたりして、自分も他の湯治人も露のいのち

にかわりない、一日一日を大切にと、その気持ちを詠ったのである。ご養生よくご快癒されたことを

悦びます。

(一九九二年八月)

  獐

高島茂 

選評

  傍らに熱き温ゆ泉の這ふ蝮草

竹内 弘子

  蝮草生れしばかりの真緑に

 若葉の萌える山の温泉。源泉から鉄管で浴場へ温泉を引き入れている。山の温泉場へ行くと、何処

ででも見られる風景である。温泉旅館の裏山。春の草がいっせいに緑立って眼にしみるようだ。熱い

温泉が山の上から引かれている。その山崖にいま出たばかりの真緑の蝮草がぬきっと立っている。蝮

草というとどこかグロテスクな、あの紅い実をぴっしり付けた姿を思い浮べる。それとはまったく異

なった姿で新鮮に萌え出ているのである。傍らに熱泉の走る鉄管。そこに生々しい真緑の蝮草を見つ

けた作者の驚きが素直な表現となって読者に伝わってくる。�

(一九九五年八月)

  まだ声は子烏ときどき口をあく

吉弘 恭子

  飛ぶ方を首まはし見る烏の子

 嘴太などの啼く声は、烏の中でもどこか短刀の利いたような啼き方である。生まれたばかりの鳥の

子は口ぱかりパクパク開けて、声ともならない鳴き方であるが、しばらくたつと、どうやら烏声に

なってくる。親鳥が餌を運んで来るのを待ちかねてときどき大きな嘴を開く。親烏が飛んでゆく方

向を首を廻しては見とどけているかのようである。共に写生俳句として丹念に表現されていてよい。

(一九九五年八月)

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神域の大樹より生る風みどり

神域の空へと群るる今年竹

風涼し欅の洞をのぞきこむ

団子屋に教師と児童夏の風

子ら馳けて夏の匂をまき散らす

舞殿へ朱の橋渡る青葉風

緑風に全身浸すベンチかな

万緑へ遠ざかりゆく赤ジャンパー

樟は白く細かき花散らす

実はすでに採られてをりし梅林

残像の母のほほゑむ烏麦

高階にしばし五月の天女とて

〔大宮氷川神社〕

田中藤穂

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埼玉県大宮氷川神社吟行

二〇一三年五月二八日 

十薬の花の丘なす湧水池

理 和

大海に乗り出したりしあめんばう

泰 江

団子屋に教師と児童夏木立

藤 穂

言葉なき亀の一生風薫る

節 子

お揃ひの紐掛帽子新樹光

典 子

消化器とバケツと箒花十薬

美代子

記憶の扉五月の杜へ風が抜け

喜 孝

木の虚に竹立て掛けて走り梅雨

純 子

足裏に小石の触るる土用東風

弘 子

神職の浅葱の袴涼しげに

敏 子

一郎わすれぐさ

堀 内 一 郎 さ ん の ホ ー ム ペ ー ジ よ り

  更衣へて市井の妻になりきれず

 『現代俳句』(現代俳句協会会報)四月号を見ると最後のページに入会申込書がついている。

現在では会費を支払えば入会出来るらしい。①入会金(

1万円)

、②年会費(

1万円)

、昔は

こう簡単ではなかった。

 「暖流」の票はすでに満杯で、私は諸先輩の力を借りて推薦状全国現代俳句協会員、五百

名の方々に出し、瀧主宰ほか高嶋茂氏にもお願いしたものだ。その効あって昭和四六年の会

員選挙で入会することが出来た。青木啓泰氏、藤田湘子氏も一緒の入会だった。中でも高柳

重信氏の一票は忘れられぬ思い出である。 

 〈二〇一〇・七・

一四〉

  

塩少し水たっぷりと魂迎へ

 

この処、勘違いが多くなってきた。勿論年のせい、僅かな残り時間ではあるが懸命に歩い

て行くつもりである。俳句があると、ホッとしたり緊張の連続である。それが刺激にもなる

が、一喜一憂世の動静にも似ている。

 

私事になるが、ゆくさき暗いのは道路拡幅で五六年内には現在地を離れねばならない。し

かし、それまでは無理かとも思い。何の手立てもしていない。のこる者に任せるほかはない。

 

先日、外科の担当医から貧血気味と聞かされ、再検査が八月から始まる。今回、句集で良

い思いをさせて頂いたのも束の間のこと。

 

さて、長年楽しませてくれたアナログ放送も明日、正午で画面から消える。今日は弟の祥

月命日。

〈二〇一一・七・

二三〉

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二〇一三年六月号

  

発行日   

六月九日

  

発行所   

東京都中野区中央2-

50-

3

  

電 

話   

090 

9828 

4244

  

ファックス 

03 

3371 

4623

  

印刷・製本・レイアウト      

�� 

竹僊房

カット/恩田秋夫・松村美智子

表紙・佐藤喜孝

   

会費 

一〇〇〇〇円(送料共)/一年

郵便振替 

00130-

6-

55526(あを発行所)

乱丁・落丁お取替えします。

 吟行案内

麻布蟇池附近散策

日時 七月二十三日〔火〕十時半

集合場所 「麻布十番駅」(南北線)改札出た所

昼食 楓林

港区麻布十番1-

4-

8マドモアゼルビル

2F

☎3588-6255

  

あとがき

 「能登だより」で

「 ふるさとは東京である夏休  内藤 ゑつ

これほど小気味良く〈いくぶん躊躇感がこもっていると

しても〉断定した句を知らない、と私には思われるのです

が、東京育ちの方々はどう評価されているのでしょう。」

私の両親は秋田生れ。父母健在の頃は訛が家に充満して

ゐた。私のふるさとは秋田でもなく東京でもない。ふるさ

とを持たぬ東京人は帰省の時期に一抹の寂しさがともな

ふ。それの裏返しの啖呵の句。東京だと自慢してゐるので

はない。開き直ってゐる、とこの句を最初に読んだ時思っ

た。夏休の淋しさである。初出は一九九五年八月の句会。

因みにゑつさんは外神田の生れ。

(喜孝)

昭和 6(1931) 年のがま池( 麻布鳥居坂警察署誌 )