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州立アルバータ大学の歴史
現在カナダには薬学部のある大学が9つあり、なかでもアルバータ州の州立大学であるアルバータ大学薬学部の歴史は古く、1914年に医学部として1年間の資格学位制と2年間のPhmB(薬学)学位制から始まりました。そこから学部名が人文科学部(Arts and Science)、さらに薬学部(Pharmacy and Pharmaceutical Sciences)へと変化し、1921年にイギリス連邦(大英帝国)の中で初めて薬学部4年制の卒業生を輩出した大学としての歴史を誇っています。1961年にはカナダで初めてphD(薬学博士)の学位を与え、1989年から1990年にかけて薬学部が4年制から5年制(学部課程1~数年+専門課程4年)に切り替わりました。国家試験においても優秀な成績を修めてい
る大学としても知られており、過去19年のうち合格率1位であった年が17年間あり、さらにアルバータ大学の学生が最高得点を獲得した年が11年間という功績を残しています。これまでの記事でも、医療システムや医療制度においてアルバータ州の様々な先進的な取り組みを紹介してきましたが、薬学教育においても興味深い歴史をみることができます。
日本にはない薬学部入学に設けられたハードル
カナダの薬学部教育は日本と異なり、高校卒業から直接薬学部に入学できる訳ではありません。1年から数年間で英語、生物学、無機化学、
様々ですが、早い時期から現場を経験する機会を与えています(表2)。1年次の初期に医療現場を体験する目的として、ボランティア経験をカリキュラムに含んでいることからも、その意図がうかがえます。日本においても、見学型の早期体験学習を取り入れている大学が見受けられますが、カナダの場合は見学に止めず、ボランティアとして直接患者と接する期間を設けている部分が異なります。さらに最終学年次には、16週間という長い期間をかけて担当患者のモニタリングを行うため、より患者との関係が密接な実習を経験することができます。また、最終学年次にはそれ以外にも特別選択授業を組み込むことで、個人の興味や将来構想に合わせた知識の習得が可能と
有機化学、数学、統計学の単位を取得する必要があります。また、薬学部を入学する志望理由や将来の夢、仕事に関連した経験やボランティア経験等を述べる小論文の提出も求められ、これらを総合的に評価することで入学を制限しています。そのためかなり競争率も高く、優秀な学生しか薬学部に入学できないそうです。薬学部入学後の条件も厳しく、5年間で4年間の専門課程を修了しなければならず、学生たちが毎日図書館で必死に勉強している理由も納得できます。現在514名の学部生と24名の大学院生が在籍しています。
カリキュラム
カリキュラムの概要は表1に示した通りです。特徴としては、低学年のうちから現場を経験する実務研修が組み込まれていることです。4年間の中で4回(合計約1000時間)の実務研修が組み込まれており、その期間は年度によって
ここ数年日本の薬学教育が大きく変化するなか、現場や大学は手探りで変化に対応している状態が続いています。2年間教育を延長することで果たしてどのような成果を得られるのか。その結果を知るにはまだまだ時間がかかりそうですが、みなさんはどのような教育がなされたらより有益であると考えますか? そもそもなぜ薬学教育が6年制に変更されたのでしょうか? 私の最後の記事では、今後の薬剤師の職能の変化を生むきっかけになるであろう薬学教育についてご紹介したいと思います。
MIL vol.45 2011 Spring
カナダの薬学教育第12回(最終回)
ごみ・さやか●2006年3月、明治薬科大学卒業。2006年4月より日本調剤勤務。退社後、2007年からオーストラリアへ移住。2008年4月に帰国し、同年7月よりカナダのエドモントンで薬局のテクニシャンとして勤務。2009年9月に帰国した後は、グローウェルホールディングス・ウエルシア関東で薬剤師・リクルーターとして勤務している。今年5月からカナダの薬剤師免許取得のため再度渡加予定。 Contact:[email protected]
Reporter 五味さやか(明治薬科大学卒業)
薬学・薬剤師を知る旅 カナダ体験レポート好奇心が原動力!
アルバータ大学薬学部4年生と授業の後で(筆者右から2番目)
アルバータ大学キャンパス内 アルバータ大学病院上空からの写真
アルバータ大学病院
薬学1年生の実習生(左から2番目)と実習先の従業員
アルバータ大学図書館内
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なります。特別選択授業では薬学に関連した授業の選択が必要ですが、Option(選択授業)では、学部に関係なく授業に参加ができるため、自分の興味や知識を広げる目的で他学部の授業を受講することもできます。
薬学生の就職先
カナダの薬学生達の就職先は、日本同様に薬局、病院、製薬会社、公務員、研究、教育などで、他にも弁護士やジャーナリスト、コンサルタント、特別な領域(感染症やがん、糖尿病等)で活躍する人もいるようです。日本との違いは、薬局に就職する学生の割合が全体の8割程度もあることです。9割近くの学生が薬局でアルバイトの経験をしていることから、日本の薬学生に比べて薬剤師として働く事の意味やその目的を、学生のうちから強く意識しているのが感じられます。
【参考】Canadian Pharmacists Association http://www.pharmacists.ca/index.cfmUniversity of Alberta HP http://www.ualberta.ca/IPSF(International Pharmaceutical Studentsユ Federation) http://www.ipsf.org/
学生の時に出会った世界薬学生連盟(IPSF)の学生たちに大きな影響を受け、自分の目で見てみたいという衝動にかられて行ったオーストラリアとカナダでの生活を通して、私はかけがえのないものを得ることができました。海外の薬学生たちのモチベーションや医療にかける想いは、同じ薬学生として感銘を受けるどころか尊敬に値するものがあります。そんな学生たちを見ていると、自分たちももっと頑張らないとなぁと元気をもらっていました。もちろん学生の中にも意識の違いはありますが、薬学部入学の時点で自分の将来を意識して薬剤師としての役割を考える時間があることが、学生生活を意味のあるものにしているようにも感じました。私が勤務していた薬局に薬学部1年生が実習のために勤務していたことがあり、希望に満ちた様子で働いていたことが印象に残っています。1年生であるにも関わらず実習の最後のほうには、薬剤師の代わりに投薬を行っている姿をみて、カナダの薬学教育ではどのようなことを学べるのだ
ろうと興味を抱いたことを覚えています。日本でも6年制になったことで目的や意識を高く持って入ってくる薬学生たちは多くいると思いますが、現場を経験できないまま難しい内容を4年間も勉強していると、自分はなんのために勉強しているのだろう? という疑問を抱く学生たちもいるのではないでしょうか。実際に、5年次の実習に参加して今までの勉強の重要性を感じ、もっとしっかり勉強していればよかったと後悔している学生の話も耳にします。入学時の学生のモチベーションが高くても、それを維持できる教育の提供は重要であると感じます。今後の薬剤師の職能を盛り上げてくれる若い薬剤師たちが、よりよい薬学教育を受けることで、高い志と能力を身につけて出てこられる環境づくりに薬剤師全体が取り組める日がくることを願いつつ、カナダの体験レポートを終了させていただきます。今まで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。
今回で2年間にわたった連載が最終回を迎えます。12回にもおよぶ執筆、ありがとうございました。連載を通して、カナダの薬剤師に興味を持ち、五味さんの熱い言葉に励まされた薬学生も数多いことと思います。最後に読者に向けて、感想やメッセージなどをお聞かせください。
MIL vol.45 2011 Spring
Sayaリポーターに聞いてみよう!
アルバータ大学教授たちと(左:病院薬剤師(教員)、中央:バチンスキー教授、右:コックス教授)
薬学部4年生実務実習前のカウンセリング授業
学年 コース内容 単位数
1年生
Experiential Learning ① 実務研修① 1Introduction to Medical Chemistry 医化学入門 2.5Drug Information(DI) 医薬品情報 0.5Experiential Learning ② 実務研修②(薬局) 4Introductory Biomedical Science 生物医科学入門 2.5Dermatology, eye, ear, nose and throat 皮膚科学(眼・耳鼻科) 2.5Communications ① 医療コミュニケーション入門① 1Pharmacy Biotechnology & Immunology 生物工学・免疫学 2.5Canadian Health Care System カナダの医療システム 2Evidence Based Medicine(EBM) 実証的医療入門(EBM) 1Pharmaceutics ① 薬剤学① 3Communications ② 医療コミュニケーション入門② 1.5Pharmaceutical Analysis & Pharmacy Math 製剤分析・数学 2Introduction to Drug Use Control Process & Patient Care 医薬品適正使用・患者医療入門 2.5Option 選択授業(他学部受講可) 3
2年生
Radiopharm & Diagnostic Imaging 放射線薬学・画像診断 1Experiential Learning ③ 実務研修③(病院) 2Nutrition 栄養学 2Comprehensive Assessment ① 総合的評価① 0.5Hematology 血液学 1.5Biopharmaceutics & Pharmacokinetics 生物薬剤学・薬物動態学 2Gastrointestinal 胃腸学 2.5Pharmaceutics ② 薬剤学② 3Pharmacy Laws & Ethics 薬事法・倫理学 1Cardiology 心臓学 4.5Immunotherapeutics & Transplant 免疫治療学・移殖 1.5Pediatrics & Geriatrics 小児科学・老年医学 1.5Pharmacoepidemiology & Pharmacy Practice Research 薬剤疫学・薬局実務研究 1.5Lab Values, Urology & Nephrology 検査値・泌尿器学・腎臓学 2.5Pain 疼痛学 2Internship インターンシップ 3
3年生
Pharmacy Management 薬局経営 2Provincial & Canadian Healthcare 医療制度 3Infectious Diseases ① 感染症① 4Neurology 神経学 3Comprehensive Assessment ② 総合的評価② 0.5Bone and Joint 骨関節学 2Psychiatry 精神医学 2.5Oncology 腫瘍学 2.5Infectious Diseases ② 感染症② 4Pulmonary 肺疾患 2Endocrine 内分泌 2Women’s & Men’s Health 女性・男性疾患 2Option 選択授業(他学部受講可) 3
4年生Experiential Learning ④ 実務研修④ 16Specialized electives 特別選択授業 9Option 選択授業(他学部受講可) 3
表1 薬学部専門課程(4年)のカリキュラム学年 研修内容
1年生
実務研修①60時間
学生を医療現場に適応させるために、患者と直接関わる機会を与えることで患者の疾患やニーズに気付き、理解させることを目的としている。患者ケアエージェントや組織が提供しているボランティアのプログラムに参加している。
実務研修②(薬局)160時間
実践での経験を通して、授業で学んだ知識と技術を現場で活用する機会を与えている。薬物治療規範と哲学をもとに、問診力を磨き、薬物治療計画を立て、投薬・DI業務を行い、地域の健康増進に寄与し、薬剤師としての態度や心構え、倫理観を持ち始めるようになることを目的としている。
2年生
実務研修③(病院)98時間
(2.5週間)
実習期間を病院に移し、体験学習②で行う内容を病院で実施している。
4年生実務研修④640時間(16週間)
学生最後の実習では、薬物治療を実施する上で医療者(薬剤師)としての能力や適性を証明することが求められる。実際に患者に関わる業務である、薬物治療モニタリングや問診、投薬、DI業務、チーム医療における寄与も実習に含まれている。
表2 実務実習のカリキュラム