理科分科会 主体的に学ぶ生徒の育成 · 2017-02-22 ·...

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平成 28 年度(第 60 回) 岩手県教育研究発表会発表資料 理科分科会 主体的に学ぶ生徒の育成 ~「学び合い、伝え合う」学習活動を中心に~ 平成 29 2 10 軽米町教育委員会 軽米町立軽米中学校

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平成 28 年度(第 60 回)

岩手県教育研究発表会発表資料

理科分科会

主体的に学ぶ生徒の育成

~「学び合い、伝え合う」学習活動を中心に~

平成 29年2月 10日

軽米町教育委員会

軽米町立軽米中学校

嶋 正 壽

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目 次

Ⅰ 研究主題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

Ⅱ 研究主題の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1~2

1 教育の今日的課題から

2 学校教育目標の具現化の視点から

3 生徒の実態から

Ⅲ 研究の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

Ⅳ 研究仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

Ⅴ 研究の内容と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2~4

1 目指す生徒像

2 研究内容

3 研究方法

4 研究主題、副主題に関わる基本的な考え

5 研究主題に迫るための具体的な授業づくりについて

6 研究の基本構想図

Ⅵ 教科としての捉え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5~7

1 生徒の実態

2 目指す生徒像

3 「学び合い、伝え合う」学習活動について

(1)教科としての捉え

(2)実践例

Ⅶ 授業実践・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7~24

1 平成26年度「小・中・高の系統性を意識した授業」・・・・・・・・・・・・・・・ 7~16

2 平成28年度 軽米町立軽米中学校学校公開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17~24

Ⅷ 研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25~28

1 研究の考察

2 研究の成果と課題

3 教科の成果と課題

4 おわりに

【引用文献】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

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Ⅰ.研究主題

研究主題 「主体的に学ぶ生徒の育成」

~「学び合い、伝え合う」学習活動を中心に~

Ⅱ.研究主題設定の理由

1 教育の今日的課題から

学習指導要領では、「生徒に生きる力をはぐくむことを目指し、創意工夫を生かした特色ある教育

活動を展開する中で、基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解

決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取り

組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」とある。

このことから、変化の激しい社会を担う子どもたちの「生きる力」をはぐくむためには、基礎的・基本

的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成をバランスよく育成することが求められている。

よって、教科指導においても、基本的な知識・技能を定着させながら、思考力・判断力・表現力を育成

するためにはどうすればよいか、日常の授業実践の改善から見いだそうとするのが私たちのねらいである。

2 学校教育目標の具現化の視点から

本校では、「躍進 誠実 親和」を校訓とし、「深く考え 進んで学ぶ生徒(知)」、「節度を持ち 思いや

りのある生徒(徳)」、「心身ともに 健康でたくましい生徒(体)」の3つを教育目標に掲げている。

その中の一つである「深く考え 進んで学ぶ生徒」を具現化するためには、学習への意欲を持ち、学習

の仕方が分かり、必要感を持って学習に取り組もうとする態度を育てることや、学んだことや考えたこと

を表現したり、次の学習や生活に生かしたりする指導が必要である。

3 生徒の実態から

本校は統合3年目となった町内1校の中学校である。本校は地域の方々に支えていただいており、生徒

は生き生きと学校生活を送っている。明るく素直な生徒が多く、自分の仕事に責任を持ってやり遂げよう

とする態度が育ってきている。さらに、体育祭や文化祭では上級生がよきリーダーとして集団を引っ張り、

後輩を育てる伝統がある。 授業では、間違えたり勘違いしたりする生徒を受容する雰囲気が徐々にではあ

るができてきている。

しかし、全国学力・学習状況調査や岩手県学習定着度状況調査の結果によると、基礎的・基本的な事項

の定着が決して良いとは言えず、また、学年が進むにつれて個人差が大きくなる傾向がある。また、「本当

はわかりたい」という思いは持っているものの、「与えられた課題には取り組むが、与えられなければ取り

組もうとしない」、「限られた友達とだけつきあい、積極的に多くの人と関わろうとしない」、「教師やリー

ダーに指示されたり友達に誘われたりすることを待つ」という受け身的傾向が強く、学ぶ意欲、学ぶ楽し

さを持っている生徒が尐ない。一方で、目的や課題がはっきりしている時や、自分たちが興味がある内容

の時は、主体的に活動する。

これらのことから、各教科の授業において、自ら考え、周囲の人と「学び合い、伝え合う」学習をしな

がら思考力や判断力を培う場面を意図的に設定し、真理を追究するような授業実践が必要であると考える。

Ⅲ.研究の目標

1 「学び合い、伝え合う」学習活動を中心とする学習指導の工夫を通して、主体的に学ぶ生徒の育成を

目指した指導の在り方について明らかにする。

2 各教科の特性を活かした、一授業時間の課題設定や振り返り活動の指導の在り方を明らかにする。

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Ⅳ.研究仮説

各教科の学習指導過程において次のような取り組みをすれば、主体的に学ぶ生徒の育成を図ることができ

るであろう。

1 学習の起点となる学習課題の吟味をし、まとめとの整合性を図る。

2 「学び合い、伝え合う」学習活動を指導過程に効果的に位置づける。

3 学習の終着点と新たな学習への意欲となる、まとめと振り返りを行う。

Ⅴ.研究の内容と方法

1 目指す生徒像

変化の激しいこれからの社会にあって、どんな状況でもたくましく生きるために、基礎的・基本的な知

識・技能を身に付け、自ら考え、判断し、主体的に解決していこうとする生徒を育てていきたい。そのた

めに、互いを認め合える、他の人の気持ちに心から寄り添える心の豊かさを育てながら、自分の意見をし

っかりもち、自ら解決策を考え、練り上げていける生徒を目指したい。また、高い目標に向かって努力し

ていくことや、苦難に立ち向かう強い意志を持った生徒にしたい。

2 研究内容

(1)「学び合い、伝え合う」学習活動を中心とする学習指導の改善を通して、主体的に学ぶ生徒の育成

を目指した指導の在り方について明らかにする。

(2)各教科の特性を活かした、一授業時間の課題設定や振り返り活動の指導の在り方を明らかにする。

3 研究方法

(1)研究主題に迫るための授業改善(授業実践)

(2)全国学力・学習状況調査、岩手県学習定着度状況調査等、各調査結果及び生徒アンケートによる変

容の分析

4 研究主題、副主題に関わる基本的な考え方

(1)研究主題:「主体的に学ぶ」生徒とは?

生徒に身につ

けさせたい力

① 学んだ知識や技能を着実に身につけようとする力

② 思考力(筋道を立てて考える力)

③ 判断力(考えを比較、選択し決定する力)

④ 表現力(自分の考えをわかりやすく伝える力)

具体的生徒像 ・自分なりの意見や考え、イメージ、予想や推論、わからないところや不確かな部

分をまとめ、述べることができる

・自分が得た知識や技能を理由や根拠をもとに相手に説明することができる

・わからないところや不確かな部分について理由や根拠をもとに尋ねあったり質問

しあったりすることができる

・相手の意見や考えに対して共通点や相違点を見出し、互いに加除修正を行いなが

ら真理に迫ることができる

・自分がわかったことや気づいたこと、考えが変わったことなどを振り返ることが

できる

本校における「主体的に学ぶ」生徒とは、一人一人が自ら学び、判断し、自分の考えを持って他者と学

び合い、考えを比較・吟味して、より良い考えや新しい知識を伝え合い、次の問いを見付ける力を持った

生徒である。

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(2)副主題:「学び合い、伝え合う」学習活動とは?

「学び合い、伝え合う」学習活動とは、それぞれが別個にあるものではなく、互いにつながり合ってい

るものであり、「伝え合いながら学び合う」ことでもあり、また、「学び合いながら伝え合う」という混在

とした学習活動である。

これらは単独で直線上にあるのではなく、例えば、話し合いなどの学習活動においては、ダイナミック

な学習効果を生むものであると考える。指導過程にこの活動を取り入れることで、確かな学力と主体的に

学ぶ生徒が育成されるものと捉える。

本校における「学び合い、伝え合う」とは、生徒同士が互いの情報や考えを交流し合うことで、個々

のイメージや思考、そして言語を共有したり理解を深め、学んだことを再構築していく活動である。

その方法の一つとして、個人、ペア、グループで練り合うような場面を想定しているが、単純にグルー

プを作り、グループ活動をさせることが主目的ではなく、後述する「研究主題に迫るための具体的な授業

づくり」を展開し、身につけさせたい力をつけるためのねらいを持ったものでなければならないと考える。

例えば、以下のような活動である。

・思考方法や表現方法、語彙や用語などを理解し、その時点での自分の考えをまとめる。

・自分の考えをもって、ペアやグループ・全体での学習に臨み、自分の考えを発表したり友達の考えを自

分の考えと比べながら聞いたりする。

・わからないことは、自分で調べたり友達や先生に質問したりする。

・一人一人が学習課題(学習問題)を解決するために、先生や友達の説明なども参

考にしながら、その解決方法や手順をつかむ。

・学習課題について、「学び合い」を通して深まったり広がったりした内容を

みんなで発表し合い、理由や根拠がわかるように記述したり話したりする。

5 研究主題に迫るための具体的な授業づくりについて

(1)学習の起点となる学習課題の吟味をし、まとめとの整合性を図る

生徒の学力が向上し、学習への意欲が高まるためには、生徒自身が学習に対して「受け身」ではな

く、「主体的に学ぶ」ようになることが必要である。その生徒の学びを主体的なものにする方法の一

つとして、「指導者が明確な見通しをもち、それを生徒にもわかる形で示すこと」が大切であると

捉える。つまり、「学んでいる生徒が、“これから何をどのようにして学び、どのような力が身に付

くのか”を見通すことができること」が、主体的な学びのための一つのカギとなるのではないかと

考えることから、以下のような取り組みをした。

・「なぜ」「どうして」を大事にした学習課題(学習問題)を設定し、この時間で、何ができるようになれ

ばよいか、何がわかればよいかという「本時の学習の終着点」をつかませる。

・学習課題を板書に位置付け、板書では青色で囲む。

(2)「学び合い、伝え合う」学習活動を指導過程に効果的に位置づける

集団の人数や構成を変えずに学び合ったり伝え合ったりする活動に導く場合、新しい情報を加えるこ

とも必要であろう。「迷いを感じさせる情報」や「異なる立場からの見解」などを与え、揺さぶることで、

学び合いによって出した結論を確かめたり、より良い結論を導いたりすることができると考える。この

部分は教師の働きかけが重要となる部分だと捉えている。

・自分の考えをもって、ペアやグループ・全体での学習に臨み、自分の考えを発表したり友達の考

えを自分の考えと比べながら聞いたり、わからないことは、自分で調べたり友達や先生に質問し

たりさせる。

・一人一人が学習課題(学習問題)を解決するために、学習課題について、「学び合い、伝え合う」学習活

動を通して深まったり広がったりした内容を、みんなで発表し合い、理由や根拠がわかるように記

述したり話したりさせる。

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(3)学習の終着点と新たな学習への意欲となる、まとめと振り返りを行う

生徒の意欲が高まり、学力が向上するには、生徒が「受け身」な学習態度ではなく、「主体的に学ぶ」

よう意欲を持たせることが必要である。そこで、一授業時間の終着点における生徒の学びを、主体的

なものにする方法の一つとして、「その一授業時間の学習活動を振り返り、学習課題のまとめと自分がで

きたことやできなかったことなどを自分の言葉で振り返る」ことが大切であると捉え、以下の取り組み

をした。

・学習課題のまとめを「学び合い、伝え合う」学習活動を踏まえて、自分の言葉でまとめさせる。

・授業を通して、できるようになったこと、できなかったこと、わかったこと、わからなかったこ

と、興味をもったことなどについて、自分の言葉で振り返らせる。

・評価問題を解いたり身に付いた力を確認したりして、学習の成果を実感させる。

・どのような学習プロセスによって自分がどのように変容したのかなどについて、自分の言葉で説

明させたり、「友達から学ぶことができた」など、学習活動の良さを実感したりさせる。

・まとめを板書に位置付け、板書では赤色で囲む。

6 研究の基本構想図

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Ⅵ.教科としての捉え

1 生徒の実態

平成27年度全国学力・学習状況調査及び岩手県学習定着度状況調査の結果、本校の理科において次のような

特徴が見られた。

県平均 本校平均 県比 差

H27 2年 県学調 理科 - - - -

科学的な思考・表現 - - - -

観察・実験の技能 - - - -

自然事象についての知識・理解 - - - -

H27 3年 全国学調 理科 - - - -

科学的な思考・表現 - - - -

観察・実験の技能 - - - -

自然事象についての知識・理解 - - - -

2学年は「科学的な思考・表現」「観察・実験の技能」「自然事象についての知識・理解」いずれも県平均を下

回った。また、3年生では「科学的な思考・表現」は上回っているものの、それ以外の2観点については県平均

を下回り、特にも「観察・実験の技能」については大きく下回った。両学年の傾向として、度数分布は全体とし

て点数の低い方へ寄っていた。また、県平均と比べると「自然事象についての知識・理解」が4ポイント程度下

回っている状況である。

2 目指す生徒像

理科として育てたい生徒像を以下のように考える。

・自然事象や学習課題について予想や見通しを立て、観察・実験を通して科学的に分析・解釈できる生徒

・「学び合い、伝え合う」活動を通して、自然事象や学習課題の解決に迫ることができる生徒

・日常生活の場面で、科学が活用されていることに気づき、学習したことと結びつけて考えることのできる生徒

研究の1年目は考察やまとめを自分の言葉で表現することを重視し、そこに多くの時間を割けるように構成し

て取り組んだ。2年目の今年度は、予想や見通しを持たせる場面を意識して作った。また、課題解決へ向けての

「学び合い、伝え合う」学習活動を行うために、一人一人が考える時間を確保して自らの考えをグループや全体

の場で発表させるような授業実践を行った。

3 「学び合い、伝え合う」学習活動について

(1)教科としての捉え

「学び合い、伝え合う」学習活動とは、単に予想や考察、自分やグループの考えなどを発表することではな

く、自然事象や学習課題に対して既習事項や経験から、一人一人の考えを出し合い、互いの共通点や相違点な

どを確認しつつ意見交流を通して解決に向かうことである。また、自己の考えを伝える際には、思考の材料と

してモデルや記号、伝達の方法としてホワイトボードや具体物などを使用することで、より学び合いが加速す

るものと考える。

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(2)実践例

ア 「学び合い、伝え合う」学習活動の実践例 ≪1年「光合成と二酸化炭素」≫

「植物が光合成を行うとき、二酸化炭素が使われるかどうかを確かめる」という学習課題で、対照実験が

必要な理由についてグループで「学び合い、伝え合う」学習活動を設定した。個人ではなかなか理解できな

い事柄だったが、グループの中で意見を交流する中で理解できた生徒が多くなった。

「学び合い、伝え合う」学習活動(小グループ)

イ 学習課題とまとめの整合性についての実践例 ≪3年「生物の成長と生殖」≫

「有性生殖はどのような生殖なのだろうか」という学習課題で、「なぜ」「どうなっているのか」などの言

葉を利用し、生徒が本時で何をすればよいのか、何を答えればよいのかが分かるような課題を設定するよう

に心掛けた。また、まとめについては学習課題に対して、できるだけ生徒個人の言葉で書けるようにし、そ

の後の生徒の発表や教師の助言などから赤ペンなどで加除修正をすることとした。

対照実験の必要性

について話し合っ

ている。

グループで話し

合った結果を発

表している。

赤ペンでの加

除修正

まとめは、加

除修正する。

課題は疑問の

形で設定する。

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ウ 振り返りについての実践例 ≪1年「光合成と呼吸」≫

「光合成と呼吸の関係を調べよう」という学習課題である。オオカナダモに光を当てたものと当てないも

のを用意し、光合成をしているのか呼吸をしているのかを確かめる実験を行った。実験結果から光を当てな

いと二酸化炭素が増加することから植物も光合成だけではなく呼吸もしていることが確かめられた。「振り返

り」では、植物が呼吸をしていることを知ったという記述が多く見られ、結果を強く定着させることにつな

がった。

Ⅶ.授業実践紹介

1 授業実践① 平成 26年度理科観察・実験等指導力向上研修での実践資料より抜粋

「小・中・高の系統性を意識した授業」

(1) 単元名 水溶液の性質

(2) 単元について

(ア)内容とねらい

本単元は,中学校学習指導要領の理科〔第1分野〕の内容「(2)身の回りの物質」の「イ 水溶液」を受けて設

定したものである。

イ 水溶液

(ア)物質の溶解

物質が水に溶ける様子の観察を行い,水溶液の中では溶質が均一に分散していることを見いだす

こと。

(イ)溶解度と再結晶

水溶液から溶質を取り出す実験を行い,その結果を溶解度と関連付けてとらえること。

単元の主なねらいは,物質が水に溶ける様子の観察を行い,結果を分析して解釈し,水溶液では溶質が均一に分

散していることを見いださせ,粒子のモデルと関連付けて理解させるとともに,溶液の温度を下げたり溶媒を蒸発

させたりすることによって溶質を取り出すことができることを溶解度と関連付けて理解させることである。

(イ)系統性について

私たち人間の生命や生活にとって,水は欠かせないものであり,様々な物質が溶け込んだ水溶液は私たちの身近

に存在し,日々の生活で利用されている。しかしながら,理科の水溶液の学習でそれを理解しやすくするような,

1種類の溶質が溶け込んだシンプルな水溶液は日常の生活場面ではあまり多くない。2種類以上の溶質が溶け込ん

だものやとけ残りのあるもの,コロイド溶液などが多く存在するため,日常生活中の水溶液をそのまま使用して溶

解現象や水溶液を理解することは難しい側面もある。したがって,表1のように,系統的かつ段階的に水溶液につ

いて学習することが望ましい。

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表1 水溶液にかかわる学習内容

学年 マクロ

(主に水溶液)

ミクロ

(原子・分子・イオン)

小5 物の溶け方

小6 水溶液の性質

中1

物質のすがた(身の回りの物

質とその性質,気体の発生と

性質)

水溶液の性質【本単元】

状態変化

中2 化学変化と原子・分子

中3 水溶液とイオン

酸・アルカリとイオン

高校 溶液と平衡

表2 溶質と溶媒に注目した系統性

学年 溶媒 溶質 思考のツール 関連

小学校 水 食塩,ホウ酸

二酸化炭素等 図や絵

透明性

溶ける限度

中1 水 有色の物質 粒子モデル 均一性 溶解度

中3 水 電解質

非電解質

イオンモデル

粒子モデル 電離

高校 極性溶媒

無極性溶媒

イオン結晶

極性分子

・非電解質

・塩化水素

イオンモデル

粒子モデル

構造式

水和

溶媒和

溶解平衡

水溶液について本格的に学習するのは小学

校の第5学年(小5)からである。小5では

初めに,固体の物(物質)が水に溶けていく

現象を観察し,透明になった液が水溶液であ

ることを学習する。その後,種々の物質,水

量,水温による溶ける量の違い,水に溶けた

物質を取り出せること,物質が水に溶けても

物質と水を合わせた重さは変わらないことを

学習する。加えて,小6では気体が溶けてい

る水溶液もあることや酸性,アルカリ性,中

性の水溶液があること,金属を変化させる水

溶液があることを学習する。小学校では,水

溶液について条件制御して調べたり,性質に

ついて推論したりしながら,マクロな視点で水溶液について理解することが主となる。物質を水に溶かす前後で重

さが変わらないことについて,図や絵で表現する活動が位置付けられているが,図や絵で表現することを通して事

象に対する意味付けするという要素が強く,ミクロな視点での科学的な表現は求められていない。

中学校の第1学年(中1)では,水溶液の学習の前に,物質(固体,気体)を区別する方法の一つとして水への

溶け方が扱われ,種々の物質がもつ固有の水溶性を学習する。ここでは,水を扱っているものの水溶液としての意

識はあまりなく,溶質となり得る個々の物質についてマクロレベルで学習している段階である。

そして,本単元(水溶液の性質)

では,有色の物質を用いてマクロ

な視点で観察して水溶液の均一性

について見いだすとともに,溶質

を粒子モデルで表して均一性を説

明できること,水溶液の濃さを質

量パーセント濃度で表せることを

学習する。また,冷却や水の蒸発

によって水溶液から溶質を取り出

せることを種々の物質の溶解度及

び溶解度曲線から予想し,実験で確かめることにより再結晶についての実感をもたせる。ろ過や再結晶の操作は小

学校でも同様のことを行っている。中1で大切にしたいのは,どちらも物質の分離方法の一つであることを理解さ

せることである。

生徒は中1の水溶液の学習で「物質が目に見えないほど小さな粒子からできている」ことを知ると同時に,初め

て水溶液についてミクロな視点で考えて理解することになる。しかしながら,中1における粒子についての概念の

扱いは十分ではない。物質を構成する粒子に固有の体積や質量があること,新しくできたりなくなったりしないこ

と等の初歩的な概念は,粒子の運動を扱う状態変化においても明確にはなっていない。よって,水溶液や状態変化

の質量保存を科学的に考え本質的に理解するためには,初歩的な粒子概念を前以て指導しておくか,あるいは中2

の「化学変化と原子・分子」で原子や分子の概念を学習した後,改めて水溶液等の事象を取り上げることが必要で

ある。本単元で重要なことは,「水溶液は透明で,溶質が液全体に均一に分散している」ことを表すために,粒子が

密集していれば私たちの目で“粒”を確認することができて,粒子がバラバラになっていれば私たちの目で粒子を見

ることができないことを実感させることである。

中3では,水溶液の電気伝導性の実験から,溶質には電解質と非電解質があることを見いだすとともに,酸性や

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アルカリ性の原因が水素イオンや水酸化物イオンであることを理解させる。塩化銅水溶液の電気分解実験などでは

水溶液の均一性を改めて確認でき,水溶液中の溶質の様子はイオンモデル等による表現から均一な分散を理解して

いるかどうか確かめることができるなど,1年生の学習の振り返りが可能である。

高校では,水溶液について,陽イオンと陰イオンによる水和の仕方の違いや非電解質中のヒドロキシ基との水和,

水分子の熱運動を含めながら,溶解の本質的なしくみを学習する。また,飽和に達した水溶液では,固体→溶液,

溶液→固体の平衡状態に達していることも学習する。

このように,水溶液の学習では,同じような物質や現象を用いながら,水溶液及び溶解について系統的かつ段階

的に理解する構造になっている(表2)。ビーカーやメスシリンダーなどの器具の扱い,ろ過や蒸発乾固などの実験

操作や溶解度などの資料の読み取りなども繰り返される。各学年で身に付けさせたい能力を明確にして,学習指導

を進めたい。

(ウ)生徒観

本単元の学習の前に,生徒の水溶液に関する理解や素朴概念を把握するため,小学校の既習内容を中心に,事前

調査を実施した。調査結果は表3の通りである。

項目1の「物質を水に溶かす前後で,物質と水とを合わせた質量は変わらないこと」については,約4分の1の

生徒が不正解であった。その多くは「溶かす前の質量の方が小さい」を選んでいる。一般的には,食塩が水に溶け

ると見えなくなるので「消えてなくなったから」溶かす前の方が大きいという誤概念をもつ生徒が多いが,今回の

調査では3%程度である。「溶かす前の質量の方が小さい」を選んだ生徒の理由を見ると「溶かした後は,溶かした

食塩の分,質量が増えるから」と記述している。調査では,溶かす前の食塩,水,容器全体と溶かした後の食塩水,

容器全体を比較した図を示していたが,問題の状況をしっかりと把握できていなかった可能性が高い。これを踏ま

えると,溶解前後の質量の関係についてはほとんどの生徒が理解していると考えられる。

項目2の水溶液の均一性について正しい選択をしたのは全体の約1割しかいない。小5の教科書(東書 p.110 )

表3 水溶液に関する事前調査の結果(N=69)

項目 問題 選択肢 選択率(%)

質量保存

食塩を水の入っている蓋のついた容器に入れ,

蓋を閉めてよく振ったら,食塩は完全に溶けた。

「溶かす前の全体の質量」と「溶かした後の全体

の質量」について正しいものを選びなさい。

ア 溶かす前の質量の方が大きい 2.9

イ 溶かす前後では質量は変わらない 73.9

ウ 溶かす前の質量の方が小さい 23.2

均一性

水に砂糖を溶かし,水が蒸発しないようにビー

カーに蓋をした状態で2ヶ月放置した。2ヶ月後

の砂糖水の濃さについて正しいものを選びなさ

い。

ア 砂糖水の上部(水面に近い方)が濃くなる 5.8

イ 砂糖水の下部(底に近い方)が濃くなる 84.1

ウ 砂糖水の上部も下部も濃さは変わらない 10.1

水溶液の見方・考え方

右のア~カの中で,水溶液をすべて選びなさ

い。

ア 食塩水 89.9

イ 溶け残りのある食塩水 20.3

ウ 砂糖水 91.3

エ 牛乳 5.8

オ デンプンを入れた水 59.4

カ デンプンを入れた水の上澄み 18.8

溶解度

20℃の水 100 mLにホウ酸 5 gを入れてよくか

き混ぜたところ,ホウ酸が尐し溶け残った。すべ

てとかす方法を二つ書きなさい。

「水量を増やす」と回答した生徒の割合 69.6

「水温を上げる」と回答した生徒の割合 84.1

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には「物の形が水の中で見えなくなり,液全体に広がることを,物が水にとけるという」と記されているが,無色

透明の水溶液しか扱っていないため,均一性についての理解に至っていなかったことが考えられる。また,小6の

地層の学習や日常生活におけるみそ汁や紅茶などの目に見える小さい粒の沈殿の経験が,溶けた物質もいずれ下に

沈むと考える原因になっているかもしれない。

水溶液の見方・考え方を問う項目3では,完全に溶質が溶けている食塩水と砂糖水についてはほとんどの生徒が

水溶液であると判断している。また,全体が透明でない牛乳については水溶液ではないと判断できている。しかし

ながら,飽和に達している場合や溶けずに固体が沈殿している場合は判断に迷っている生徒が多い。デンプンにつ

いては,中1の「物質の性質」で水に溶けないことを学習していたが,あまり定着していなかったことが分かった。

物質を水に溶かす知識について質問した項目4では,「水温を上げる」はほとんどの生徒が答えられたが,「水量

を増やす」方法を答えられない生徒が約3割いた。小5の教科書(東書 p.114~115,121~123)では,物質が 100 mL

の水と150 mLの水にそれぞれどれくらい溶けるかを調べ,物質が水に溶ける量には限度があること(溶解度)を学

習しているが,とけ残りがあった場合に全部溶かすにはどうするかなどの課題解決は行っていない。溶解度の考え

方を授業で取り扱った状況とは異なる場面に生かすことができなかった,あるいは,その知識を忘れていた可能性

がある。

以上のように,本単元で学習する水溶液の均一性について多くの生徒は誤概念をもっており,小学校で既習の溶

解度や再結晶にかかわる内容にも課題があることがわかった。

また,各項目に合わせて自分の回答に対する自信度(自信がある・尐しある・あまりない・ないの4段階)を調

査したところ,いずれの項目も約7割の生徒が自分の回答に「自信がない,あまりない」を選んでいる。

よって,本単元の学習では,水溶液の事象をじっくりと観察して課題を見いだし,目的意識をもって観察,実験

を行わせること,その結果もとに分析,解釈させること,また,獲得した知識や技能を活用させる機会を設定する

ことで,水溶液についての確かな知識を身に付けさせ,自信をもって活用したり,説明したりできるような丁寧な

指導が必要である。

(エ)指導観

本単元の主な内容は「物質の溶解」と「溶解度と再結晶」である。生徒の実態を踏まえ,一つ一つの事象をじっ

くりと観察させること,観察,実験の結果を根拠として思考させ,丁寧に意味付けをして理解させていくことが大

切である。

はじめに,有色物質としてコーヒーシュガーを用い,その溶ける様子をじっくりと観察させる。コーヒーシュガ

ーが自然に液全体に拡散するには数週間要するが,大事にしたいポイントはコーヒーシュガーの粒が見えなくなり,

濃い茶色透明になるプロセスである。見えていた粒がなぜ見えなくなるのか。また,自然に茶色透明になった時と,

ビーカー内の水を撹拌し液全体の色を均一にした時では,茶色の濃さが異なる。これらの観察結果から,粒子モデ

ルで水溶液を表す場合,粒子間のすき間が最重要であることを理解させたい。粒子がすき間なく密集していればコ

ーヒーシュガーは粒として見え,粒子間にすき間ができれば見えなくなる。そして,すき間が大きくなるほど,茶

色の濃さは薄まっていく。

水溶液の均一性と粒子モデルの関係を学習した後,撹拌して均一になったコーヒーシュガー水溶液にラップで蓋

をして,授業後も単元の学習が終わってもしばらくの間,理科室の一角の目につくところに置いておく。何週間経

過しても,均一性が保たれることを継続的に指導するためである。

小学校からこれまでの水溶液学習では,主に可溶性の溶質を用いている。本単元では,難溶性や不溶性の物質と

比較することで,さらに水溶液の理解を深めようと考えた。デンプンは不溶性の物質として扱われるが,同時に水

酸化カルシウムも比較として取り入れる。難溶性の水酸化カルシウムは,見た目はデンプンを水に入れたときとよ

く似ている。その上澄みの無色透明の部分に着目し,溶けているのか溶けていないのかを確かめるための検証方法

を考えるとともに,実験を通して明らかになったことから「水溶液とは見えない小さな粒子が分散している液,ろ

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過して蒸発乾固すれば確かめられる」ことを理解させたい。

質量パーセント濃度を学習する際には,「溶質を溶かした前後で液全体の質量は不変である」実験を合わせて行う。

質量パーセント濃度は,水溶液の質量保存が前提のものだからである。また,実験の精度の観点からも溶解現象の

観察と合わせて行う(東書pp.96~97)よりも有利と考えるからである。

溶解度と再結晶は,はじめに種々の物質の溶解度及び溶解度曲線について学習する。教科書(東書 pp.102~105)

では,溶解度曲線を学習する前に再結晶の実験が位置付けられている。水溶液の冷却によって再結晶できることは

小学校で既習であるので,目的意識をもって取り組める課題を設定したい。例えば,溶質の質量だけを決め,より

多く再結晶するためには,どのような条件で実験すれば良いか考えさせたり,不純物が入ったものから必要なもの

だけを取り出すにはどうすれば良いかを予想させたりするなど,実験のねらいを理解して課題解決するような授業

を展開したい。

観察,実験の技能においては,小学校の水溶液や中1のこれまでの学習で扱ったものもある。メスシリンダーに

よる計量やろ過,ガスバーナーの点火,消火などは生徒一人一人が操作できるよう実験方法やグループの役割分担

を工夫することで,技能を身に付けられるようにしたい。また,溶解現象や再結晶の様子などを生徒一人一人がし

っかりと観察できるよう,観察の方法やポイントを明示して指導していきたい。

本単元では,私たちにとって身近な水溶液について問題を見いだし,その解決策を考え,目的意識をもって観察,

実験したり,その結果について粒子モデルを用いて考察したりする中で科学的な思考力を高めていく。また,事象

をじっくり観察したり,課題解決に向けて教師と生徒,あるいは生徒同士で議論したりすることを通して水溶液に

ついての理解を深めていく。これにより,日常生活における水溶液についての新たな気付きが生まれ,意欲的に探

究しようとする態度がはぐくまれるよう単元全体で指導していきたい。

(3) 単元の目標と評価規準

(ア)目標

① 物質が水に溶ける様子の観察を行い,結果を分析して解釈し,水溶液では溶質が均一に分散していること

を見いださせ,粒子のモデルと関連付けて理解させる。

② 溶液の温度を下げたり溶媒を蒸発させたりすることによって溶質を取り出すことができることを溶解度と

関連付けて理解させる。

③ 水溶液の均一性や再結晶のしくみを理解するプロセスを通して,科学的な思考力や表現力を高めるととも

に,観察,実験の技能を習得させ,水溶液についての関心・意欲・態度の向上を図る。

(イ)評価規準

自然事象への

関心・意欲・態度 科学的な思考・表現 観察,実験の技能

自然事象についての

知識・理解

物質の溶解,溶解度と再

結晶に関する事物・現象に

進んでかかわり,それらを

科学的に探究しようとす

るとともに,事象を日常生

活とのかかわりに見よう

としている。

物質の溶解,溶解度と再

結晶に関する事象に課題

を見いだし,目的意識をも

って観察,実験などを行

い,その結果を基に科学的

に考察し,表現している。

メスシリンダーの使い

方やろ過などの基本操作

を習得するとともに,観

察,実験の結果の記録の仕

方を身に付けている。

水溶液の均一性につい

て溶質の粒子モデルと関

係付けて理解している。

再結晶のしくみについ

て,物質の溶解度と関係付

けて理解している。

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(4) 単元の指導計画及び評価規準(7時間扱い)

時 学習内容・授業のねらい 評価規準(塗りつぶしはその時間で重視する観点)

評価方法 関心・意欲・態度 思考・表現 技能 知識・理解

【物質の溶解と水溶液の均一性①】 コーヒーシュガーが水に溶ける様子を観察し,色の様子からコーヒーシュガーの拡散と水溶液の均一性を理解する。

(観・実)コーヒーシュガーと食塩の溶解

◎コーヒーシュガーが水にとける様子を意欲的に観察している。

○溶け残りのある食塩水を適切にろ過している。

○※溶質,溶媒,水溶液について,理解している。

・行動観察

【物質の溶解と水溶液の均一性②】 物質が目に見えない小さな粒子でできていることを知り,水溶液の均一性を粒子モデルで説明できる。

○コーヒーシュガー水溶液の溶質や色の濃さを粒子モデルで適切に表現している。

○※水溶液の均一性を粒子モデルを使って説明している。

・記述分析

1(

本時)

【物質の溶解と水溶液の均一性③】 水溶液かどうかを判断する方法を考えて検証する活動を通して,水溶液の理解を深める。

(実験)種々の水溶液等の比較

◎課題を解決するための実験方法を考え,実験結果を適切に分析している。

○種々の水溶液等を適切にろ過している。

○※水溶液と溶質の粒子の関係,水溶液か否かを判断する方法を関連付けて理解している。

・行動観察 ・記述分析

【質量パーセント濃度】 物質の溶解前後で質量が保存されることを実験で確かめ,質量パーセント濃度について理解し,計算できる。

(実験)溶解前後の質量保存

○※質量パーセント濃度の式を用いて,水溶液の濃度を正しく計算している。

○※溶質の溶解前後で,質量が保存されることを説明している。

・記述分析

【溶解度と溶解度曲線】 物質の溶解度と溶解度曲線について知り,それらを利用して効率よく物質を取り出す方法を考えることができる。

○溶解度曲線から,効率よく物質を取り出す方法を考えている。

○※物質の溶解度と溶解度曲線,飽和について理解している。

・行動観察 ・記述分析

【再結晶】 自分たちで考えた実験方法で,食塩と硝酸カリウムの再結晶をし,それぞれの結晶の特徴を説明できる。

(実験)食塩と硝酸カリウムの再結晶

◎水溶液のろ過や蒸発乾固等の実験操作を適切に行っている。

○※食塩や硝酸カリウムの結晶の特徴を説明している。

・行動観察 ・記述分析

【単元のまとめ】 不純物が混入した混合物から必要なものだけを取り出す方法を考え,実験計画書を作成することができる。

◎水溶液の学習を生かして,課題を意欲的に解決しようとしている。

◎課題について既習の内容を生かして考え,実験計画書を作成している。

・行動観察 ・記述分析 ・レポート

(◎:指導に生かすとともに記録して総括に用いる評価,○:主に指導に生かす評価,※は最終的に単元テストや定期試験で把握)

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(5) 本時について

(ア)目標

水溶液かどうかを確かめる方法を考え,検証する活動を通して,「水溶液とは,溶質が目に見え

ない粒子となって存在している水」であることを理解させる。

(イ)評価規準

① 種々の水溶液等が本当に水溶液であるかどうかを確かめる方法を考えて実験を行い,実験結

果を適切に分析している。(科学的な思考・表現)

② 水溶液中には溶質の粒子が分散していることと,ろ過して蒸発乾固することにより水溶液か

どうかを確かめられることを関連付けて理解している。(自然事象についての知識・理解)

(ウ)指導の構想

前時までに,有色物質であるコーヒーシュガーで用いて,物質の溶解と水溶液の均一性について

学んでいる。また,物質が目に見えない粒子が集まってできていることを知り,溶解現象や水溶液

の均一性について粒子モデルを使って表現している。 本時は,「溶け残りのある食塩水は水溶液

ではない」「デンプンが水にとけて水溶液になる」と考えている生徒が多いという実態を踏まえ,

そのような誤概念を科学概念に変容させることがねらいである。水に可溶,難溶,不溶の物質を比

べ,既習の内容を生かしながら水溶液についての理解を深めさせたい。

【導入】

本時の冒頭では,溶け残りのある食塩水,溶け残りのある水酸化カルシウム水溶液,デンプン水

を提示し,「これは水溶液か?」「本当に溶けているか?」という本時の課題に迫る揺さぶりをかけ

る。食塩水の場合はすぐに食塩の粒が沈殿し上澄みが無色透明となるが,水酸化カルシウムやデン

プンの場合はそうではない。透き通っていなければ水溶液ではないが,「デンプンは溶けない」と

分かっている生徒は「水酸化カルシウムも溶けない」と判断するかもしれない。

続いて,3種類の液をろ過して溶け残りを除去してろ液を比べる。すべての液が無色透明であり,

見た目だけでは水溶液かどうか判断が難しいことを確認し,課題意識をもたせる。

【展開】

課題を確認後,目的意識をもって実験に臨ませるために,生徒に実験方法を考えさせる。「どの

ように調べれば確かめられるか」「どのような結果が得られれば水溶液と言えるか」などと問いな

がら,既習内容を生かしながら実験方法を考えさせ,見通しをもたせる。さらに,水道水も調べる

必要性をここで問い,水道水も含めた4種類の液を調べることを理解させる。また,実験結果の分

析の際には「物質が出てくるかどうか」の視点と「水道水との比較」の二つの視点があることを確

認する。

実験では,1種類の液につき一人がろ過を行いグループ内の全員が操作するようにして,技能の

向上を図る。また,ろ液の蒸発乾固は,黒色に着色した一枚の金属板の上で行い,4種類の液の比

較が容易にできるようにする。

考察は,金属板上の実験結果をもとに,水道水も考慮して,物質の析出の有無から判断させる。

そして,理由とともに課題に対する結論を導き出させる。

【終結】

最後に,授業の振り返りを行う。見た目では水溶液かどうか判断できない3種類の液を,自分た

ちで実験方法を考え,解決してきた。なぜ,今回の方法が有効なのかをこれまでの水溶液の学びと

関連させてまとめさせたい。

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(エ)本時の展開

段階 学習の流れ 学習活動 ・指導上の留意点 ○評価

導入(10分)

1.前時の復習

2.3種類の液の提示

3.3種類の液のろ過

【演示実験】

4.課題設定

・水溶液とは,透明・均一であることを

確認する。

・溶け残りのある食塩水,溶け残りのあ

る水酸化カルシウム水溶液,デンプン

水を観察し,水溶液かどうか判断しよ

うとする。

・いずれの液も,水道水に

物質を入れものであるこ

とが分かるように明示し

ておく。

食塩水,水酸化カルシウム水,デンプン水のうち,「水溶液」といえるのはどれだろうか。

ロート台やスタンドを使用せず、あ

えて手で行うことで、ロートの足を

ビーカーのかべにつけるなどの注意

事項を確認できるようにした。

目の前で3種類を水道水にと

かす演示を見せ、とけ残りのあ

る3つの液体を観察し、水溶液

かどうか生徒に問いかけた。

3種類のろ液の様子を観察し,見

た目では水溶液かどうかの判断

が難しいことを理解する。

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展開(35分)

5.実験方法の検討

6.実験方法の確認

7.実験

8.考察

・どのように調べれば確かめられるかを

考える。

→ろ過して蒸発乾固

・どのような結果が得られれば水溶液と

言えるか確認する。

→蒸発して物質が残れば水溶液

・対照実験として水道水も調べなければ

ならないことに気付く。

・実験方法や注意点を確認する。

【実験結果】

水溶液等 結果

食塩水 ◎

水酸化カルシウム水溶液 ○

デンプン水 ×

水道水 ×

・実験結果をもとに考察を行う。

○実験方法を考えている。

【思考・表現】

・全体指導で進める。

・ろ過や蒸発乾固の方法や

注意点を確認する。

・1種類の液のろ過を一人

が担当し,4人全員がろ

過操作をする。

・デンプン水や水道水はは

っきりと物質が残らない

が,うっすらと跡が見え

る程度である。

○実験結果を適切に分析

し,表現している。【思

考・表現】

終結(5分)

9.まとめ

・授業の振り返りを行う。

・自分たちの力で課題解決

したことを評価する。

・これまでの水溶液の学習

が本時の課題解決に生か

されていることを価値付

けする。

○本時の学習を振り返りま

とめている。【知識・理解】

水溶液は,食塩水と水酸化カルシウム水である。なぜならば,この二つがろ過した液を蒸発させて物質が残ったから。

水溶液かどうかの判断は見た目では難しい場合があるが,ろ過をして水分を蒸発させれば簡単に判断することは可能である。なぜならば,水溶液とは溶質が見えない粒子となって水の中に分散しているものだからである。ただし,この方法は溶質が○○の場合に限る。

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(オ)板書計画

11/10

水溶液・・・物質が水にとけたもの ○結果

⇒透明・均一

○実験方法 ○考察

①ろ過⇒10ml程ずつ集める。

②蒸発 1 2 3 4

※金属の板 一滴ずつ

(カ)生徒のノートより

食塩水・水酸化カルシウム水・デンプン水の

うち、水溶液といえるものはどれだろうか?

1班の結果

2班の結果

3班の結果

4班の結果

5班の結果

6班の結果

1⇒食塩水

2⇒水酸化カルシウム水

3⇒デンプン水

4⇒水道水

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2 平成 28年度軽米町立軽米中学校学校公開研究会授業実践資料より抜粋

「主体的に学ぶ生徒の育成~「学び合い、伝え合う」学習活動を中心に~」

(1)単元名

4 地球と宇宙 第 2章 地球の運動と天体の動き

(2)単元について

(ア) 生徒について

平成 27年度岩手県学力状況調査において、以下のような結果であった。

県平均 本校平均 県比 差

H27 2年 県学調 理科 - - - -

科学的な思考・表現 - - - -

観察・実験の技能 - - - -

自然事象についての知識・理解 - - - -

全体的に下回っており、県と同様特に思考・表現の正答率が低くなっている。また、県と比較

してみると、特にも知識・理解の項目が4.4下回っている。

一方、質問紙の肯定的回答(思う・どちらかといえばそう思う)の結果は以下のとおりである。

県平均 本校平均 県比 差

理科の勉強は好きですか。 - - - -

理科の授業の内容はよく分かりますか。 - - - -

将来、理科や科学技術に関係する職業

に就きたいと思いますか。 - - - -

県平均よりも全項目が比較的高い数値を示しており、生徒の理科の学習への興味・関心が高い

ことがわかる。

観察による評価においても、授業に意欲的に取り組む生徒が多く、特にも観察・実験では積極

的に自ら活動しようとする。また、「学び合い、伝え合う」活動を行う際の個人の思考・グルー

プでの話し合いでは、課題解決に向けて積極的に取り組んでいる。しかし、学級全体の共有場面

になると挙手する生徒の数が尐なくなってしまう傾向が見られる。

(イ) 教材について

本単元は、理科の4つの柱すなわち「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」の内の「地球」に

関わる内容であり、第 2分野(6)「地球と宇宙」である。既習事項としては、小学校の第 3学年

において陰の位置が太陽の動きによって変わること、第 4学年で月や星が時刻の経過に伴って位

置を変えること、第 6学年で日の位置や形と太陽の位置との関係について学んできている。特に

も第 6学年では地上での視点から宇宙からの俯瞰的な視点を用いた学習を行ってきている。また、

前単元では、太陽の様子や太陽系の構造と関連付けて惑星、恒星などの特徴を学んでいる。

本単元では、太陽や星の日周運動が、地球の自転によっておこる相対的な動きによるものであ

ること、同じ時刻に見える星座の位置が変わるのは、地球の公転による見かけの動きであること

をとらえさせる。また、太陽の南中高度や、日の出、日の入りの時刻などが季節によって変化す

ることを、地球の公転や地軸の傾きと関連付けてとらえさせることがねらいである。

そのねらいに迫るため、太陽や星の日周運動や同じ時刻に見える星座の位置が変わるなどの地

上からの視点とその原因となる自転や公転、太陽と地球の位置関係などの宇宙からの俯瞰的な視

点の両方が求められる。しかし、生徒にとっては2つの視点を同時に、またはその時々に選択し

て使わなければならないため、2つの視点の変換に苦労すると考えられる。また、大きさや移動

距離などのスケールの違いなども、理解する上での難しさとなって生徒には捉えられると考えら

れる。そのため、モデルや地球儀などを用いて、今どちらの視点で考えているのか、どのくらい

のスケールで話をしているのかをイメージさせながら取り組むなどの工夫が考えられる。

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(ウ) 単元の指導にあたって

上述のように、本校の生徒は理科の学習に対して興味・関心が高い。また、観察的評価から観

察・実験、グループによる話し合いなどは積極的に行う生徒である。平成 27 年度岩手県学力状

況調査の結果から、「知識・理解」の項目が他の項目よりも下回っていることが分かったことか

ら、与えられた知識(受動的な知識)ではなく、悩んで得た知識(能動的な知識)にするために、

授業の展開部に「学び合い、伝え合う」活動を取り入れると共に、まとめや振り返り場面において

生徒の自身の言葉で書くことや説明することで、知識・理解の定着を図っていく。また、単元末

では習った知識を利用した活用問題なども利用し、知識の定着を図る。

まとめ、振り返り場面で生徒の言葉でまとめたり、説明したりするために、生徒自身が見通し

を必要とする課題解決型の授業を組み、考察場面において「学び合い、伝え合う」活動を取り入

れていく。その際、「学び合い、伝え合う」活動を行うために、個の思考・決定する時間を設定し、

その上でグループや学級全体での「学び合い、伝え合う」場面を意図的に設定して課題解決に向

かわせる。また、自分やグループの考え方をまとめ、説明するためにモデルやホワイトボードな

どを利用しながら活動させる。モデルや図などを利用することで、地上での視点と俯瞰的視点の

どちらの視点を利用しているのかも確認しながら取り組ませる。

(3)単元の指導目標及び評価規準

(ア)単元の目標

① 太陽や星座の日周運動の観察から、天体の日周運動が地球の自転との相対運動であることを

とらえさせる。

② 季節ごとの星座の位置の変化や太陽の南中高度の変化が地球の公転と地軸の傾きを関連付

けて考察させる。

③ 天体の位置関係や運動について、宇宙からの視点を持って相対的な見方・考え方をさせる。

(イ)単元の評価規準

ア:関心・意欲・態度 イ:科学的な思考・表現 ウ:観察・実験の技能 エ:知識・理解

天体の日周運動と

自転、年周運動と公転

などの事物・現象に進

んで関わり、事象を日

常生活のかかわりで

みようとする。

天体の日周運動や星座

の位置の変化などを地球

の自転、公転や地軸が傾

いていることと関連付け

てまとめ、説明している。

天体の日周運動や太

陽の南中高度の変化に

関する基本操作を身に

つけている。

天体の日周運動

や年周運動、南中高

度の変化が地球の

自転や公転、地軸の

傾きによるもので

あることを理解し

ている。

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(4)単元指導計画及び評価計画

ねらいと学習活動

◎ねらい ○主な学習活

地球の地軸の傾き自転・公転などにより天体の見

かけ上の動きが生じていることを理解する。

評価

規準

評価

方法

◎天体の位置や動きを表す方法を知る。

○天球上の天体の位置や動きを表すための方位について学習する。

観察

ノート

後日テスト

2 ◎地球の地軸の傾きや自転、一日の時間の経過が関連していることを知る。

○地球の地軸が23.4°傾いて自転していることを学習する。

○自転と一日の時間の経過を関連付けて考える。

観察

ノート

後日テスト

3 ◎太陽の見かけの動きが、地球の自転によるものであることを理解する。

○透明半球を用いて、太陽の動きの観察を行う。

○観察地点により南中高度が異なることを理解する。

観察

ノート

後日テスト

4 ◎星座の見かけの動きが地球の自転によるものであることを理解する。

○資料から太陽と同様に自転による見かけの動きであることを理解する。

○太陽と同様に、観察地点により星座の動きの見え方が変化することを知

る。

観察

ノート

後日テスト

5 ◎地球の公転により星座が移り変わることを理解する。

○資料や経験から星座が季節によって移り変わることを理解する。

○公転による真夜中(星座が南中する時間)や正午(太陽)の位置を図で

確認する。

観察

ノート

後日テスト

6 ◎一年間の太陽の動きと黄道について理解する。

○モデルを利用して、見える星座と太陽の位置を確認する。

○黄道の意味を学習する。

観察

ノート

後日テスト

7(

本時)

◎地球と太陽の位置関係と季節の関係を理解する。

○地軸を傾けたまま公転している事を確認する。

○日本の夏至、冬至、春分・秋分はどの位置であるかを、モデルや地球儀

などを利用して理解する。

観察

ノート

後日テスト

8 ◎季節により暑さが変わる理由を南中高度や日照時間と関連付けて理解す

る。

○モデルなどを利用して季節により南中高度や日照時間が変わることを理

解する。

○南中高度や日照時間の条件を変えて実験を行う。

観察

ノート

後日テスト

9 ◎南中高度の出し方を理解する。

○観測地点に地上と垂直な線などをひき、同位角などを利用しながら南中

高度を計算により求める。

観察

ノート

後日テスト

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(5)本時の指導

(ア)本時の目標

① 地軸の傾きによる昼の長さの違いと太陽の位置から季節を特定している。

【 科学的な思考 】

② 昼の長さに着目した季節の特定について、自分の考えを積極的に述べている。

【 関心・意欲・態度 】

(イ)本時の評価規準

評価の観点 「概ね満足である」と判断される状況(B)

(評価方法)

支援を要する生徒への

具体的な手立て

【科学的な思考】 太陽の位置と地軸の傾きによる昼の

長さの違いから季節を特定している。

( 観察評価、ノート )

地軸の傾きと太陽の光が当っ

ている場所を確認させ、昼の長

さに着目させる。

【関心・意欲・態度】 季節の特定について、自分の考えをも

ち、積極的に述べようとする。

( 観察評価、ノート )

他人の意見を聞き、自分の考

えを構築しても良いことを伝え

る。

(ウ)校内研究との関連

研究主題:主体的に学ぶ生徒の育成 ~「学び合い、伝え合う」学習活動を中心に~

① 育てたい生徒像

当たり前のように起きている季節の変化を、既習事項や他者との「学び合い、伝え合い」を

通して理解し、日常生活の中には科学的な事が存在し、その事物・現象を科学の知識で解決、

説明できることを実感できる生徒に育てたい。また、本時は小学校第 6学年で初めてでてくる

俯瞰的視点をより重視する場面である。地上での視点と俯瞰的視点の両方の視点から季節の変

化を理解できる力を身につけさせたい。

② 研究主題に迫るための授業づくりについて

(エ)本時の指導の構想

本時では、地球が地軸を傾けたまま公転することによる昼の長さの違いから地球と太陽の位置

がどのような位置関係になった時にどの季節となるのかを特定できるようにしたい。(今回は夏

至に注目させていく。)

導入では、地球は地軸を傾けたまま太陽の周りを公転していることを、実際に地球儀を動かす

ことで確認した後、その公転軌道のどの場所が夏至であるのかという疑問を投げかけ、学習課題

の設定へ向かう。

展開場面では、本校生徒の特徴であった「知識・理解の定着が低い」という点から「学び合い・

伝え合う」活動を重視した展開にすることで、「与えられた知識(受動的な知識)」ではなく「悩

んで得た知識(能動的な知識)」にすることで知識の定着を図りたい。グループや学級全体での

学び合いをより深い学びにするため、個人で考える時間をとり、その後のグループ・学級全体の

ア 学習の起点となる学習課題の吟味をし、まとめとの整合性を図る。

(本時)生徒自身がまとめを書けるような、問いかけの形となる学習課題を設定する。

イ 「学び合い、伝え合う」学習活動を指導過程に効果的に位置づける。

(本時)個人の思考・決定の時間を設け、その後のグループ・学級全体の考察場面を重視して

単位時間を編成する。

ウ 学習の終着点と新たな学習への意欲となる、まとめと振り返りを行う。

(本時)本時で学んだことを自らの言葉でまとめ、他者の意見も踏まえて加除修正した後に振

り返りを行うことで、より一層の理解に努める。

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学び合いに向かわせる。個人で考えさせる前には、課題解決の視点を全体で共有してから個人の

思考・決定の時間を設け、グループ活動になった際に同じ視点で課題解決に向かえるようにしす

る。

学級全体での学び合いでは、各班の結果の発表をホワイトボードに記入させて黒板に貼り、そ

の理由も発表させる。また、その場所の昼が長い理由を、地球儀や図などを利用して説明する場

面もつくりたい。

終末では、まとめを生徒一人一人に書かせ、その後の数名の生徒の発表、教師の付け加えなど

から自分のまとめに加除修正を行っていく。振り返り場面では、ノートのまとめの下に本時の振

り返りを記入し、ノートを回収して本時を終える。

(オ) 本時の展開 は本時の研究に関わる手だてや工夫「学び合い、伝え合う」には○学 をつける。

段階

学習活動及び学習内容 指導上の留意点及び評価(★)

導入5分

1 既習事項の確認

2 課題設定

・地軸の傾きと公転の仕方の確認

・どこが夏至であるかを問いかける。

学習課題 日本は、地球が図のどの位置のときに夏至となるのだろうか。

まとめと整合性のある学習課

地球儀と電球を利用して

地球の地軸の傾きと公転

について確認した。

・教師が口頭で課題を述べてか

ら黒板に記入する。

・生徒は教師の口頭で述べたも

のを聞いてノートに記入する。

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35

3 予想

・図のア~エのうち、どこが夏至であるか挙手

で問う。

・決定した根拠も聞く。

⇒根拠から、課題解決の着目点をしぼる。

4 課題の追求

・個人(5分)

⇒自分のノートに理由と共に記入させる。

・グループ(10分)

⇒それぞれの意見を持ち寄り、図やモデルを

利用しながらグループの結論を出してい

く。

※ホワイトボードに結論を書かせる。

※自分達に必要な道具は使わせる。

・さまざまな理由がある中から本時は「昼の

長さ」に着目させる。

・「温度」などの着目点は次回以降に検証して

いくことを伝える。

・太陽の光があたっているところが昼であり

ことも伝える。

・どのように調べるのかも考えてほしいこと

も伝える。

○学個別に考え、その後グループや学級全体で

話し合う。

・季節の特定について、自分の考えをもち、

積極的に述べようとしている。

★【関心・意欲・態度】

・できるだけ生徒の言葉で説明できるように

援助する。

・太陽の位置と地軸の傾きによる日の長さの

違いから季節を特定できている。

★【科学的な思考】

グループでの

活動のために

個の思考を大

切にした。

生徒は、既習事項や経験知識を活用して

思考錯誤している。

教師は、基本的に口出しをしない。

各グループホワイトボードに記入

し、互いの考えを交流する。

ミニ地球儀とLEDライト

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5 課題の解決(15分)

・各グループの発表。

・なぜ日が長いといえるのかを図やモデルなど

を利用して説明させる。

10

6 まとめ

・個人の記入後、数名の生徒発表と教師の付け

加え後に加除修正

7 振り返り

・ノートへ記入・回収

<まとめの際に確認すること>

・アの位置の時が夏至であること。

・アのとき、地軸の傾きによる日の長さが

一番長くなること。

(カ)板書計画と当日の板書(写真)

日本は、図のアの位置の時に夏至になる。

なぜなら、地軸の傾きにより、アの位置の時

に日が一番長くなるからである。

まとめと振り返り

日本は、地球が図のどの位置のときに

夏至となるのだろうか。

・昼が長い

・暑そう

・日本の位置が太陽

側にあるから

1班

2班

4班 7班

8班 5班

3班 6班 9班

日本は、図のアの位置の時に

夏至になる。

なぜなら、地軸の傾きによ

り、アの位置の時に日が一番

長くなるからである。

生徒による説明場面。

教師は場合によって補足をする。

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(キ)生徒の振り返りシートより

※自分達で模索することで、23.4°という微妙な地軸の傾きの大切さに気づいた。

※「反対」というのは南半球という意味であったが、新たな疑問を抱くことで、次の授業の課

題となりえた。

※理科が苦手な生徒でも「学び合い、伝え合う」学習活動を用いて学習することで、振り返り

をここまで書くことができるようになった。

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Ⅷ.研究のまとめ

1 研究の考察

目の前の生徒が尐しでも変化し成長することを願って授業実践をしてきた。それが生徒自身

にとってどのように受け取られているか、また、生徒が学習についてどのような意識を持って

いるかについて、定期的にアンケート調査を行ってきた。その結果の一部ではあるが、今次研

究の成果と課題を考察した。(調査は平成27年5月と平成28年5月に実施。)

質問2:解決しなければならない問題を自分でやり遂げようとしていますか。

質問4:学習のねらいやめあてをはっきり確認して授業を受けていますか。

質問9:授業中にわからないことが出てきたら、積極的に調べたり先生や友達に相談したりしていますか。

質問10: ノートやプリントをテスト勉強などに活用できるように丁寧に書いていますか。

質問11: 苦手な教科でも先生や友達の話を聞きながら真剣に取り組んでいますか。

39%

29%

46%

57%

11%

14%

3%

0%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 はい

ほぼ

あまり

いいえ

44%

33%

40%

45%

13%

20%

3%

2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 はい

ほぼ

あまり

いいえ

34%

34%

42%

38%

16%

22%

7%

7%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 はい

ほぼ

あまり

いいえ

41%

37%

32%

34%

22%

24%

5%

6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 はい

ほぼ

あまり

いいえ

48%

37%

42%

49%

8%

13%

3%

2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 はい

ほぼ

あまり

いいえ

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質問13: 授業の中でやったかいがあったと思うのはどんなときですか。(1つ選ぶ)

質問14: あなたは学習するときに常に心がけていることはなんですか。(1つ選ぶ)

質問2では、積極的肯定が1年前に比べ10ポイントほど増えている。このことから、生徒

が授業において課題解決のために積極的に取り組もうという姿勢が育ってきていると考えら

れる。

質問4においても、肯定的回答を合わせ、全体の84%まで向上している。課題を板書に明

確に示しながら、1単位時間の授業を丁寧に取り組んだことの成果と思われる。

質問9・10・11から、ノートを丁寧に取るといったことや、質問する、互いに相談し合

うといったことに肯定的に取り組んでおり、授業態度についても改善が見られるようになった。

さらに、質問13・14のように、自分の考えが生かされることや、他の考えが分かること

を学習で気をつけるなど、生徒が授業において課題解決のために積極的に取り組もうとしてい

る姿勢が見えるようになってきたことは成果であると考える。

2 研究の成果と課題

(1)成果

① 生徒の主体的に学ぶ意欲の向上

課題やまとめを板書に明確に示しながら、「学び合い、伝え合う」学習活動を組み入れ

ることによって、質問する、互いに相談し合うといったことに肯定的に取り組むようにな

り、学習態度についても改善が見られるようになった。

② 課題解決に向かう態度の向上

「学び合い、伝え合う」学習活動を含めた指導過程を進めていくにあたって、明確な課

題や課題解決の手だてを丁寧に示したことによって、授業において課題解決のためにあき

らめずに取り組もうという姿勢が見えるようになってきた。

③ 表現力の向上

「学び合い、伝え合う」学習活動を取り入れることによって、以前よりも詳しく表現し

たり、教科の学習用語を使って説明したりする生徒が増えてきた。

以前は単語で答える生徒が多かったが、「正しく言い直す」「説明し直す」といったことを

意識して指導したことの成果であると思われる。

18%

20%

60%

60%

8%

10%

15%

10%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 認めてくれる

難しい問題に挑戦

自分で納得

自分の考えが生かされる

46%

46%

6%

7%

31%

35%

17%

13%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

H28.5

H27.5 与えられた問題を解く

自分から課題を見つける

考え方の道筋や手順を理解

さまざまな考えがわかる

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(2)課題

① 生徒一人一人に表現する機会を確実に与えること

「学び合い、伝え合う」学習活動を通して、普段の授業中で分かったことをまわりの人

と確認したり、自分の考えを伝え合ったりしている生徒は確実に増えている。

しかし一方で、各種調査の分析結果から、そうではない生徒が固定化する傾向が見られ

る。このことから、「学び合い、伝え合う」学習活動を通して、生徒一人一人に表現する

機会を確実に保障することが必要であると考える。

② 授業のまとめや振り返りを充実させること

校内のアンケートの結果によると、授業のまとめや振り返りが十分に行われていると感

じている生徒の割合にほとんど変化がなかった。このことから、指導者側の意図と生徒の

意識にずれがあるということが考えられる。教師の発問と評価の言葉を吟味していくこと

と、「学び合い、伝え合う」学習活動をすることの意味や楽しさを生徒自身に感じさせ、

学びの有用感を持たせることに取り組みたい。

3 教科の成果と課題

(1)成果

① 学習課題を吟味することで、生徒は何ができればいいのかが明確になり、より積極的に

学習に取り組む生徒が増えた。

② 「学び合い、伝え合う」学習活動を通して、個々が考えを持って授業に臨むため、生徒

の学習内容に対する理解が深まった。

(2)課題

① 授業の終末の場面において、まとめや振り返りを生徒自身の言葉で書かせるためにはあ

る程度の時間の確保が必要である。また、生徒の書く速さや書く内容の向上につなげるた

めには継続して取り組む必要がある。教師側が、1単位時間の指導内容・時間配分を十分

に検討し、さらに授業改善を進めていく必要である。

② 「学び合い、伝え合う」活動をするときの、生徒へ与える情報が尐ないと生徒は解決の

糸口をつかむことができず、多すぎると深い学びがなくなってしまう。そのため、教師側

が工夫しながら経験を積み、生徒の実態に合わせた展開を実施していく必要がある。

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4 おわりに

平成26年度から研究主題を「主体的に学ぶ生徒の育成」とし、具体的な手だてを模索しな

がら、平成27年度からは「学び合い、伝え合う学習活動」を手だての中心に据え、1年半の

実践研究を進めてきた。「学び合い、伝え合う」とはどういうことなのか、また、実践の仕方

はこういうことでよいのだろうか、「学び合い、伝え合う」をそれぞれ別個のものとして考え

たほうがよいのではないか、と実践を行えば行うほど、疑問に思うことが増える一方であった。

日々手探りの状態であり、研究は中間まとめの段階である。

学習指導要領では、『子どもたちの「生きる力」をはぐくむためには、基礎的・基本的な知

識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成をバランスよくさせること』が求められてお

り、次期学習指導要領では、「深い学び」「主体的な学び」「対話的な学び」の実現のため

に「アクティフ・ラーニング」の重要性が挙げられている。また、習得された知識・技能が思

考・判断・表現において活用されるという一方通行の過程のみではなく、思考・判断・表現

を経て知識・技能が生きて働くものとして習得される過程や、思考・判断・表現の中で知識・

技能が更新されたりする過程など、学習過程の質的改善を通して、「主体的・対話的で深い学

び」を実現し、資質・能力の育成を身に付けることが求められている。

そういったことから、これまでの授業実践を振り返り、今こそ授業改善の視点を明らかにし

なければならないと考える。

私たちの教育観はこれまで自分が受けてきた教育がもとになっている。例えば、「表現力」

という言葉一つをとっても、解釈が人それぞれであって議論がかみ合わないこともある。私た

ちにも生徒と同様に誤解や思い込みがあるのだと認識し、丁寧に議論を重ねながら背景をしっ

かり理解したうえで次期学習指導要領の趣旨を実現するために必要な実践を考えていきたい。

研究としては、実践も検証も不十分ではあるが、今後も日々の実践を振り返りながら、「子

どもたちを伸ばす研究」を継続していきたい。

〈参考文献〉

・文部科学省(2008) 『中学校学習指導要領解説 総則編』

・市川伸一(2012) 『新学習指導要領対応教えて考えさせる授業 中学校』図書文化社

・県北教育事務所(2014・2015) 『指導の提言』

・宮古市立津軽石中学校(2014) 『平成26年度研究集録』

・紫波町立紫波第一中学校(2014) 『平成26年度研究集録』

・習志野市立第四中学校(2015) 『平成27年度研究集録』

・二戸市立浄法寺中学校(2015) 『平成27年度研究集録』

・中教審教育課程企画特別部会(2015) 『論点整理』

・東京学芸大学附属小金井中学校(2015) 『平成27年度研究集録』

・文部科学省(2016) 『次期学習指導要領に向けた審議のまとめ』