科学系博物館における学びの特性と科学コミュニケーターの役割okyudo/sympo2005/ogawa.pdf ·...

42
1 和歌山大学学生自主創造科学センター:クリエシンポジウム(2005.3.7) 科学系博物館における学びの特性と科学コミュニケーターの役割 国立科学博物館 小川義和 本研究の一部は平成15年~16年度特定領域研究「ITを活用した広域ミュージアムスクールで学ぶ恐竜学のカリ キュラム開発に関する研究」(代表者:村松二郎)及び平成16年~18年度基盤研究(B)「科学コミュニケーターに 期待される資質・能力とその養成プログラムに関する基礎的研究」(代表者:小川義和)の成果によるものである。

Upload: others

Post on 09-Jan-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 和歌山大学学生自主創造科学センター:クリエシンポジウム(2005.3.7)

    科学系博物館における学びの特性と科学コミュニケーターの役割 国立科学博物館 小川義和

    本研究の一部は平成15年~16年度特定領域研究「ITを活用した広域ミュージアムスクールで学ぶ恐竜学のカリ キュラム開発に関する研究」(代表者:村松二郎)及び平成16年~18年度基盤研究(B)「科学コミュニケーターに 期待される資質・能力とその養成プログラムに関する基礎的研究」(代表者:小川義和)の成果によるものである。

  • 課題:科学コミュニケーターに期待される資質・能力とその養成プログラムに関する基礎的研究 Research Title:An Analysis of Essential Qualities for Science Communicators and a Study on the Development of Associated Training Programs 

    研究の目的

    人々と科学を結びつける役割を担う科学コミュニケーターの位置づけを 明確にし、科学コミュニケーターに期待される資質・能力を明らかにする とともに、その養成システムを検討し、博物館と大学との連携による養成 プログラムを開発する。 

    Objectives To define the role of a science communicator in bridging people to 

    science in schools, science museums, and the media. To identify expected competence and abilities of a science 

    communicator. To examine training programs for science communicators. To develop programs for science communicators based on 

    collaboration between museums and universities.

  • 研究組織  Investigators 

    学校、地域、博物館をつなぐ科学コミュニケー ターの資質・能力の分析 

    Minnesota Science Museum副館長 David Chittenden 

    科学コミュニケーターの理論的研究 CPAS(Centre for the Public Awareness of Science)所長 

    Suzan Stocklmayer 

    科学コミュニケーターの資質・能力の分析 神戸大学教授 小 川 正 賢

    メディアにおける科学コミュニケーターの資質・ 能力の分析

    科学教育政策研究所上席研究官 渡 辺 政 隆

    科学コミュニケーターの資質・能力の分析 東京学芸大学教授 下 條 隆 嗣

    博物館展示における科学コミュニケーターの資 質・能力の分析

    国立科学博物館人類研究部研究官 海 部 陽 介

    博物館展示における科学コミュニケーターの資 質・能力の分析

    国立科学博物館地学研究部主任研究 官

    重 田 康 成

    博物館における科学コミュニケーターの資質・能 力の分析

    国立科学博物館教育普及官 有 田 寛 之

    博物館における科学コミュニケーターの資質・能 力の分析

    国立科学博物館教育普及官 岩 崎 誠 司

    博物館における科学コミュニケーターの資質・能 力の分析

    国立科学博物館理工学研究部長 佐々木 勝 弘

    研究総括 国立科学博物館経営計画室長 小 川 義 和 

    Role for the project Organization Name

  • 科学という文化や知識が,より大きいコミュニティーの文化の中に吸収され ていく過程(ストックルマイヤー他,2003) 

    1.学校教育だけでない広範な機会における科学に関する活動の展開 2.時間的,空間的な科学に関する知識や文化の浸透 3.科学に対する知識や態度を含む,複合的な内容 4.学習の複雑性や学習者の多様性を考慮したモデル

    科学をよりよく学び,研究をより進めるための活動 科学をより身近なものとするための活動 科学の社会的役割を考える活動

    →科学にかかわる様々な社会的な活動(機能)の総体

    科学コミュニケーションとは・・・

  • 科学コミュニケーションの範囲 (The term ‘science communication’ encompasses communication between) 

    ①大学,企業を含む科学コミュニティ内のグループの間

    ②科学コミュニティとメディアの間

    ③科学コミュニティと公衆の間

    ④科学コミュニティと政府間あるいは権力や権威を持った機関の間

    ⑤科学コミュニティと政府あるいは政策に影響を持つ機関の間

    ⑥企業と公衆の間

    ⑦博物館や科学センターを含むメディアの間

    ⑧政府と公衆の間 (Office of Science and Technology,2000 )

  • 天文関係

    科学系博物館とは 取り扱う資料による分類 •  自然史系博物館+理工系博物館(日本博物館協会) •  科学博物館,動物園,植物園,動植物園,水族館

    (文部科学省社会教育調査)

    科学館

    動物園,植物園, 水族館,昆虫園等

    自然史博物館

    産業博物館 自然史系博物館

    理工学博物館

    (鷹野,2000をもとに作成)

  • 科学系博物館への期待 我が国の科学教育の状況 理科の成績はおおむね高いが,年齢が高くなると理科に対す る興味関心が低くなる(TIMSSR,1999, 文部科学省,2003など)。

    豊かな科学的素養を育成するために

    理科学習の機会を学校外の教育機関に求 める。

    体験的な学習活動が必要である。

    (中央教育審議会,1996)

    学校教育の改善 総合的な学習の時間の導入 体験的な学習活動の重視 (教育課程審議会,1996)

    体験的な学習の 場の必要性

    科学系博物館への期待

    科学に対する興味関心をた かめる。

    生涯にわたり科学に触れる 機会を増やす。

  • 科学的リテラシーから見た科学系博物館の特性

    ①資料に基づく調査研究活動が展開されており、科学 の現場に近く,科学的営為である研究活動,実物の 標本資料という文脈の中で科学を体験できる。

    ②科学系博物館の学習活動は,体験的な活動であり, 科学や科学系博物館に対する興味関心が高まる。

    ③科学系博物館は,学校卒業後に成人が科学に触れ る主要な場である。

  • 博物館を取り巻く環境の変化と課題

    説明責任の必要性、透明性の確保、自主自立的な運営

    運営形態の変化、独立行政法人化、公立→民営化

    行財政改革の進展

    知識創生社会への転換

    ためる知識から使える知識へ 与えられる知識から自分たちで作る知識へ 他の機関との連携による知識やサービスの創出

    博物館機能に対する人々の需要の変化

    量から質へのシフト 分野、空間、時間、制度を超えた資源の共有

  • 10 

    科学系博物館を取り巻く環境の変化と課題

    高度化する科学技術と国民の意識との乖離

    科学に対する価値観の変容

    児童生徒の理科に関する知識は国際的に高いが、生徒の関心が低い 成人の科学技術に関する基礎的素養は国際的に低く、全般的に関心も低い 科学理解→科学意識の向上、科学コミュニケーション

    科学を学ぶ意義が見出せない社会 国際的な背景:世界科学会議、社会の中の科学、社会のための科学 

    PUR(研究活動の説明責任と人々の理解)

    自然環境の急激な変化

    失われる自然の記録を残す努力 長期的な展望に基づく標本の保管 自然体験不足、環境教育の必要性、持続可能な社会の実現

  • 11 

    博物館に対する社会的需要の変化

    新しい需要:博物館の教育機能を重視

    教育機能を公共サービス の中心として位置付ける (Excellence and Equity, 1991)。

    教育機能を公共サービス の中心として位置付ける (Excellence and Equity, 1991)。

    学習資源としての博物館 の重要性を指摘(A Common Wealth,1997) 

    学習資源としての博物館 の重要性を指摘(A Common Wealth,1997) 

    教育機能の拡大と各機関と の連携による博物館の教育 力を高める(『対話と連携』 の博物館,2000)。

    教育機能の拡大と各機関と の連携による博物館の教育 力を高める(『対話と連携』 の博物館,2000)。

    多様な社会からの要請に応える学習資源 としての博物館

    基本的機能 ものを収集し,保管する機能 ものを調査し,研究する機能 ものを公開し,教育する機能

  • 12 

    博物館に対する需要 基礎需要(ベーシック・デマンド) 新需要(ニュー・デマンド)

    (収蔵品管理主体・博物館管理) (公共サービス主体・博物館経営)

    収集・・・・・・・・・・・・・ →収集倫理、現地主義、遺産保護、 動物保護

    整理・保管・・・・・・・ →デジタルアーカイブ、国際共通標準、分子分類学、

    データへのアクセス権、コンサベーター

    調査・研究・・・・・ →学際的研究、博物館教育学、情報管理学、経営学

    展示・・・・・ →参加体験重視(ハンヅ・オン)、マルチメディア、

    電子博物館、バーチャルミュージアム、バリアフ

    リー、ユニ バーサル

    教育・慰楽 ・・ →学社連携・融合、アウトリーチ、ティーチャーズ

    ルーム、エデュテイメント

    →学習支援・多彩な学習メニュー、社会教育施設と

    の連携、ミュージアム・ショップ、喫茶、食堂

    →地域連携・家庭・学校・博物館、博物館協会

    →市民参加・友の会、ボランティア、市民学芸員

    収集 → 保存 → 公開 → 参加 → 参画 (日本博物館協会「対話と連携の博物館」2000)

  • 13 

    博物館に対する社会的需要の変化

    展示物中心の考え方 専門的知識を来館者等に 一方的に伝えること。

    行財政改革の進展

    戦略的な教育活動の展開

    独立行政法人化、指定管理者制度の導入

    わが国の場合:透明性,説明責任の必要性

    博物館が社会に根ざし,社会に貢献するため,社会 を構成する人々の創造的な活動への参加や発見の 共有の過程で,人々に知識や経験を提供する。

    社会中心的な考え方 博物館の来館者等は積極的な 学習者という概念にもとづく。

    (アンダーソン,2002より)

  • 14 

    社会との多様な接点の確立と内部環境の改善

    監事による監査

    アドバイザリーグループによる助言 など

    戦略計画と経営資源の重点配分

    各種展覧会、教育活動におけるアン ケート調査とその結果の反映 など

    マーケティング発想による博物館活動 満足度調査によるニーズの把握 積極的な情報開示

    国民

    専門家による監視

    経営意志決定

    現場活動

    評価とその反映システムの確立

  • 15 

    マーケティング発想による対話型の博物館活動

    関係性を重視した博物館活動

    内部における関係性:内部マーケティング:マネージメント

    外部との関係性:外部マーケティング

    使命・計画

    コレクション

    資料・調査研究

    コミュニケーション

    展示・教育

    評価

    内部環境

    マーケティング

    外部環境

    マーケティング 

    Plan 

    Do 

    Check 

    (小川,2005より)

  • 16 

    来館者研究の目的 来館者研究

    来館者プロフィール 訪問中の行動 環境への影響

    来館者に関連した行動 展示に関連した行動

    (来館者は何をするか) (来館者はどのように相互作用するか)

    社会的相互作用 物理的環境 来館者の学習 展示評価

    図 博物館及びそれに類する機関における研究のいくつかの焦点 (レニー,2003より)

  • 17 

    博物館における学びの特性(1) 来館者行動に関する研究 追跡調査 椎名(1967)や椎名・石田(1964)展示室における観覧行動を記録

    家族の行動に関連する研究 家族の会話やインタビューの記録を分析 Diamond(1986),Dierking & Falk(1994)など

    来館者同士や来館者と博物館職員との相互作用である社 会的要素が博物館の学習に大きな影響を与える。

    展示物との相互作用に関する研究 展示物の学習効果の指標

    展示物が持つ来館者をひきつける力と保持する力→展示の教育力を評価:Shettle(1973)

    学習の過程と科学概念の獲得に関する研究 素朴概念に関する研究:来館者の重力に関する素朴概念,誤概念を調査し,これらの

    概念を変容させる展示のデザインを探究  Feher & Meyer(1992),Borun(1990)など

    展示によって来館者が科学概念の獲得ができる。

  • 18 

    博物館における学びの特性(2) 体験的な学習の特性に関する研究

    体験的学習活動の効果 体験的な学習や実物による学習が記憶に残る(Gottfried1981)。

    学習概念から見た博物館学習の特性に関する研究 成人は博物館での事実や知識をほとんど記憶していない(DeWaad et al 1974) 。 見学学習は長期記憶になっていない (Falk & Balling 1982) 。

    博物館での個人的な体験はエピソード記憶として長期記憶にな るが,意味記憶として長期に残るか今後見極める必要がある。

    博物館学習における態度形成に関する研究 構造化された見学→概念学習が促進, 構造化されていない見学→好意的態度を

    持つようになる(Stronk 1983)。 参加体験型展示の見学→科学に対する態度に効果が見られた(Rix1999)。

  • 19 

    博物館における学びの特性(3)

    博物館での体験を通じて何らかの成果が得られる過程=学習

    ①認知的な出来事にとどまらない学習の成果 情意的,精神運動的(ブルーム,1973),社会的,これらの相互作用による

    ②学習の累積的な過程 学習は累積的過程であるから,訪問体験は独立した出来事とみなすことはできない。 博物館における意味ある学習とは,「展示物を見,友人と話し合い,新しい思想や情報を既存

    の知識の構造に組み込んでいくこと」(フォーク・ディアーキング,1996 )と定義されている。

    ③コンテキストの相互作用(フォーク・ディアーキング,1996など) 3つのコンテキストが相互作用して博物館での体験が形成される。 個人的コンテキスト,社会的コンテキスト(Diamond,1986),物理的コンテキスト

    博物館での学習とは,来館者が過去の経験と知識に照らし合 わせ,何らかの形で,博物館での体験を意味づけしていくこと

    博物館における学習の複雑性と利用する人々の多様な背景を 認識

  • 20 

    学習活動の類型化 (小川,2003bより) 博物館が主体となって行う学習活動を類型化した。

    指導方法 継続性 場所 対象 実例

    個人 展示案内 館内

    学校 体験活動 単発的

    館外 学校 遠隔学習 移動博物館

    直接的 個人 アフタースクール活動

    継続的 学校 ミュージアムスクール

    教員 教員研修 間接的

    児童生徒 ワークシート

  • 21 

    単発的な学習活動の特性 情意的側面からのアプローチ 

    pre  post 尺 度  Mean(SD)  Mean(SD) 

    科学博物館や理科 に対 する有益観  3.99(0.58)  4.05(0.57)  1.15ns 

    科学に 対 し広い 視野 を 持つ態度  3.20(0.66)  3.36(0.72)  2.88** 

    理科に 対 する 興味・関心  2.92(0.84)  2.94(0.87)  0.46ns 

    科学博物館 に対 する興味・関心  3.87(0.77)  4.17(0.76)  4.90** 

    **:p

  • 22 

    継続的な学習活動の特性 学習の累積的過程からのアプローチ

    表3 科学博物館に対する態度変容の比較

    pre post 質問項目

    評定平均値 標準偏差 評定平均値 標準偏差 t

    3.56 0.94 3.85 0.96 3.54 ** 科学博物館に対して親しみがある。

    3.94 0.87 4.33 0.91 1.38 ns

    4.17 0.85 4.49 0.75 4.25 ** 科学博物館は楽しい。

    4.39 1.04 4.44 1.10 0.44 ns

    上段が単発的な学習活動(N=103)、下段がかはくたんけんクラブ(N=18)

    **は有意確率ρ<0.01,ns:No Significance

    2)学習内容の構造化に関する調査 ①継続的に学習することにより,新たな連想語を過去の連想語のマップに関連づけ、 知識を構造化できた。 ②上記の構造を次の学習活動の時期までの約1ヶ月間保持することができた。 ③継続的な実験を通じて,個人的な体験に関する連想語からより一般的な概念を 示す語への移行が見られた。 ④同じ実験を行っても,クラブ員は異なる捉えかたをしている。例えば,小学生では 連想語の構造に大きな変化が認められなかった一方,中学生は構造化できた。

    1)態度に関する調査

    (小川,2004bより)

  • 23 

    科学系博物館におけるコンテキストの相互作用 学びを特徴づける学習資源

    理科教員に対する科学系博物 館の有用性に関する調査結果

    ・博物館の資料

    ・博物館職員の専門性

    ・学校にはない設備等

    学習資源:大学,博物館等における人・もの・情報等を学習の対象として, 利用できる内容や形態にしたもの

    博物館における学習資源:資料,専門知識,スキル(Anderson,1997)

    科学系博物館における学習資源 ・実物資料的な学習資源

    ・専門指導的な学習資源

    科学系博物館における教育の特徴

    実物による教育

    博物館教育の特色は直接経験による(棚橋,1953)

    博物館職員の専門性と徒弟的な学習過程

    ミュージアムスクール:見習い研究者の養成(King,1998)

    アフタースクール活動におけるメンター制度

    自主的な学習

    個人の好奇心に基づく自己学習の支援

    自由選択学習(Falk&Dierking,2000) 

    調査概要

    学校教員102名 

    2001年7月実施

  • 24 

    態度変容の要因の分析結果

    科学博物館に対し て親しみがある

    実物が見られて(さわ れて)よかった

    科学博物館は楽 しい

    国立科学博物館の先生 と交流できた

    今回の学習内容は おもしろかった

    親しみに関するパス図

    楽しさに関するパス図 

    0.266* 

    0.519*** 

    0.565**  0.192* 

    有意確率  *p<0.05,**p<0.01,***p<0.001 

    N小学校104名:化石観察のプログラム

    小川・下條,2004a

  • 25 

    科学系博物館における学びの特性 科学博物館特有の学習資源

    (1)児童の態度変容の要因と学習資源と関係について ①専門指導的な学習資源である博物館職員との交流が,児童の科学博物

    館に対する親しみを形成する上で,重要な影響を及ぼしている。 ②実物資料的な学習資源である化石等の博物館の資料との関わりが,児

    童の科学博物館に対する楽しみの態度の形成における主な要因である。

    (2)態度形成の過程における学習資源の役割について 資料を見たり,触ったりした体験が児童の印象(児童の回答例「化石にさ われて良かった」)に残り, 「今回の学習内容はおもしろかった」等のような 肯定的な記憶によって児童が科学博物館に対して楽しさを感じるように なったと考えられる。

    実物資料的な学習資源→物理的コンテキストの有効性 専門指導的な学習資源→社会的コンテキストの有効性 

    Interactive Experience Modelの3つコンテキスト(フォーク,ディアーキング,1996)

    小川・下條,2004a

  • 26 

    科学コミュニケーションにおける科学系博物館の役割

    学びの特性 ・博物館の学習とは,来館者が過 去の経験と知識に照らし合わせ, 何らかの形で,博物館での体験を 意味づけしていくこと。

    ・博物館における学習の複雑性と 利用する人々の多様性の認識。

    科学系博物館の役割

    ・社会を構成する多様な人々が博物館での体験を自分なり に意味づけをすることを支援する。

    ・人々と科学との長期的な関係性の構築に貢献する。

    科学系博物館の特徴(科学的リテラ シーの観点から)

    ・学習活動は,体験的な活動であり,科 学系博物館に対する興味関心が高まる。

    ・科学の現場に近く,科学的営為である 研究活動,実物の標本資料という文脈の 中で科学を体験できる 。

    ・成人が学校卒業後に科学に触れる主要 な場である。

  • 27 

    博物館において教育を担う人材 

    •  組織

    典型的な博物館の組織 典型的な博物館の組織 教育部門を独立させた組織 教育部門を独立させた組織

    ・エデュケーターとは

    展示,資料や研究者の専門性をわかりやすく一般の人々に伝えるた めに,学習資源として提示したり,その方法を企画し,教育活動の効 果的な方法を研究し,それを展示や教育活動にフィードバックする専 門の職員のこと。

    ・エデュケーターが単に教育プログラムのことだけを行っていた。

    →博物館運営全体に対して教育的配慮のもとに参画していく。

    館長など 館長など

    管理部門 管理部門 教育部門 教育部門 研究部門 研究部門

    館長など 館長など

    管理部門 管理部門 研究部門 研究部門

  • 28 

    つなぐ人材 単発的な学習活動における教育専門職員 

    •  3段階のカリキュラム 事前指導

    当日学習指導

    事後指導 

    •  教材の提供 ワークシート、展示解説

  • 29 

    展示室でのディスカバリートークにおける研究者 

    ITを活用した広域ミュージアムスクールで学ぶ恐竜学のカリキュラム開発に関する研究 オーストラリアもナッシュ大学サイエンスセンターとの共同活動 TV会議システムを活用した化石発掘現場インバーロックとのコミュニケーション

  • 30 

    学校と博物館をつなぐ人材 ミュージアムスクールにおけるリエゾン

    運営:ニューヨークの第2地区のCommunity Schoolと連携博物館(アメリカ自然史博 物館,ブルックリン美術館,マンハッタ ン子ども博物館等)による共同運営

    カリキュラム: 6~11学年が対象 基礎科目:学校で週2,3日 モデュール:週2,3日

    モデュール授業の様子 展示を見学したり,読んだり,討論した り,様々な活動を通じて学際的な視点か ら授業を進める。

    モデュールのテーマ例 アマゾン,海洋,パターン(AMNH),エジ プト(BMA),移民(SSSM) 

    評価方法: Performance:教師,両親や他の生徒の前 で発表する。 Portfolio:記録,ノート,提出物の記録 (教師及び生徒) Standard Test:到達度テスト

  • 31 

    学校と博物館をつなぐ人材 ミュージアムスクールにおけるリエゾン

    システム:学校と博物館を結ぶ専従職員 リエゾンが連携館から派遣される。

    リエゾンの役割 担当教師と協力して・・

    カリキュラムの開発,博物館資料の提供 博物館の研究者への協力依頼 子供たちの指導(チーム・ティーチング) 子供たちの評価の実施

  • 32 

    学校と博物館をつなぐ人材 マグネットスクール •  ミネソタ科学博物館とセント

    ポール市の教育委員会に よる協同事業 

    •  対象:幼稚園~6学年 •  年2回の博物館学習 •  1回の学習が4-6週間 •  テーマに基づくプロジェクト

    学習 Calendars(6G), Circle and Cycle

  • 33 

    学校と博物館をつなぐ人材 マグネットスクール 

    •  コーディネーターの存在 •  ミュージアムプロセス Explore(調査) Experiment(実験) Explain(説明) Exhibit(展示製作) 

    •  評価方法の工夫 各プロセスにおける評価 

    •  教師によるカリキュラム開発を支援

  • 34 

    継続的な学習活動における指導者 アフタースクール活動におけるメンター 

    •  かはく・たんけんクラブ 教育普及官による指導 

    •  研究体験講座 研究官による指導

    実物を見て、 観察する段階

    グループによ る学習段階

    展示製作 展示発表

  • 35 

    メンター:長年の経験をつんだ成人であって,経験の乏しい若い人のとの間 の,相互的,包括的,補助的な関係を通して,その若い人の専門的な側面 や人格的な側面の発達を促す人(松田ら,1994) 

    Precollege Science Collaborative: 学校から推薦され,10人程度に選抜された高校2年生(G11)が博物 館の研究者と2年間いっしょに働くプログラム

    継続的なプログラムで,学校との連携を保ちながら,探究活動,科学 の過程,科学的スキルの育成を重視している。 科学系博物館における状況に依存した学習活動,専門性を徒弟的(King1998) に学んでいく過程

    博物館職員の専門性,研究活動に対する姿勢等が子ど も達の専門性の発達と職業意識の向上など,自己実現 を促す。

    継続的な学習活動における指導者 アフタースクール活動におけるメンター

  • 36 

    学校と博物館をつなぐ人材

    ・中間機関(樽ら,2001)

    学校と博物館を結ぶ教育的な機関

    職員:専門性+学校のシステムに精通していること

    ・教材コンサルタント(山口,2002)

    学校からの要望に応える学芸員の役割

  • 37 

    つなぐ人材(科学コミュニケーター)の役割

    各活動の分析から明らかになった役割(小川,2003a)

    (例)単発的な学習における教育専門員・研究者

    専門的な知識をわかりやすく伝える能力

    教材開発能力

    ①わかりやすく伝える役割

    ③専門家としての役割 学術的な専門性

    研究活動に対する理解と熱意

    (例)継続的な学習におけるメンター

    ②調整する役割 カリキュラム開発能力

    学習活動のマネージメント能力

    (例)継続的な連携におけるリエゾン

    つなぐ人材

  • 38 

    博物館 潜在的

    利用者

    誰を対象にするか

    ボランティア 友の会

    (支持者、代弁者)

    よく行く

    行ったことがある

    行ったことがない

    知らない

    ターゲット・オーディエンスの各層

    利用者+潜在的利用者=ターゲット・オーディエンスを対 象にした博物館活動

    博物館 利用者

    利用者

    (小川,2005より)

    マーケティング発想による博物館活動 人々の多様性の理解

  • 39 

    マーケティング発想による博物館活動 人々の多様性の理解

    ポジティブ

    66%

    ネガティブ

    3%

    ニュートラル

    31%

    A) よく行く A) よく行く B) 行った事がある B) 行った事がある

    C) 行った事がない C) 行った事がない D) 知らなかった D) 知らなかった

    ポジティブ

    75%

    ネガティブ

    8%

    ニュートラル 17%

    ポジティブ

    70%

    ネガティブ

    14%

    ニュートラル

    16%

    ポジティブ

    53% ネガティブ

    30%

    ニュートラル

    17%

    “科学”に対する認識(タイプ別) “ “科学 科学” ”に対する認識(タイプ別) に対する認識(タイプ別) “わたしにとって科学とは” “わたしにとって “わたしにとって科学 科学とは” とは”

    (国立科学博物館・乃村工藝社,2004より)

    その発展が、生きとし生けるものの幸福 と比例するもの (30代女性) 実験・観察を通して人類の源を探索する 事 (30代男性)

    むつかしいものだけどべんりになるもの (30代女性)

    結構身近にあるけど、あまり気付かないモノ (30代男性)

    現実的不思議世界 (30代女性) いつまでたってもわからないもの(30代男性)

    もっと分かりやすくそばに来てよというもの (30代女性)

    自分とは別世界 (30代男性)

    傾向として、Aは長く書く人が多く、B とCは類似し、Dは短い表現が多い。

    ※各タイプの回答母数は、A:63、B:968、C:786、 D:183

  • 40 

    学校と博物館の連携大英自然史博物館,AMNH 大英自然史博物館 教材:工夫された学習シート ナショナルカリキュラム(NC)との関連 を考慮 見やすい,わかりやすい表示の工夫

    教師,博物館教育者のための講座 Sharing Our Skills:ワークシートの研究, 博物館のアクセスの方法の研究,教育普及 活動を効果的に構成する方法など 

    AMNHにおける教員研修システム City College of  New Yorkの大学院の教育 研究科と協力して実施されている。15回の セッションがある。給料が上がる、研修休暇 (Sabbatical)等の単位として認められる。 →教員にインセンティブを与えている。 

    NCと関連を持ったワークシート類

    展示室を利用した教員研修

  • 41 

    学校・科学系博物館の連携における課題

    ・博物館側の課題:学校を受け入れ体制が不十分 (日本博物館協会,1999)

    ・学校側の課題:教員の博物館に対する認識が不十分 (樽ら,2001)

    つなぐ人材の展望 ・様々な学習形態の教育的効果を提示

    実験的なカリキュラムの実施,評価と集積

    ・教員の博物館に対する意識の向上と学校と博物館をつなぐ人材の確保

    インセンティブをともなった教員研修→大学院の単位認定

    つなぐ人材をどこに求めるか→学校,博物館,NPO つなぐ人材のキャリア・パスの保証

    ・博物館と大学との連携による「つなぐ人材」の養成システムの検討

  • 主な参考文献 American Association of Museums:Excellence and EquityEducation and Public Dimension of Museums,1991. Anderson,D.:A Common Wealth,Department of National Heritage,1997. アンダーソン:博物館の教育目的,自由な学びを支援するには~英米の博物館事例に探る~,国立民族学博物館 博物館教育国際シンポジウム,2002. Borun,M.:Naïve Notions and the Design of Science Museum Exhibits,What research says about learning in science museums,

    Washington: Association of Science and Technology Centers,13,1990. Diamond,J.,:The behaviour of family groups in science museums,Curator,29(2),139154,1986. Dierking,L.D.,Falk,J.H.:Family Behavior and Learning in Informal Science Settings: A Review of the Research,Science

    Education,78(1),5772,1994 フォーク,ディア-キング著,高橋順一訳:博物館体験 学芸員のための視点,雄山閣,1996. Falk,J.H.,Balling,D.:The field trip milieu:Learning and behavior as a function of contextual events,Journal of Educational

    Research,76(1),2228,1982. Falk,J.& Dierking,L.:Learning from Museums,AltaMira Press,2000. Feher,E.& Meyer,R.:Children’s concept of color, Journal of Research in Science Teaching,29(5),505520,1992. Gottfried, J.:Do Children Learn on School Field Trips?, Curator, Vol.23, No.3, 165174,1981. King, Kira S., Museum Schools: Institutional Partnership and Museum Learning, Annual Meeting Paper of the American Educational

    Research Association (San Diego,CA,April,1317,1998)1998. 国立科学博物館・乃村工藝社:博物館運営改善のためのマーケティング調査の方法論に関する研究,共同研究報告書,2004. 松田惺,若井邦夫,小嶋秀夫:発達における重要な他者(メンター)との関わりの分析(1)日米大学生の比較研究,愛知教育大学研究報告,43,pp.105 

    118,1994 日本博物館協会:対話と連携の博物館理解への対話・行動への連携【市民とともに創る新時代博物館】,2000. Office of Science and Technology :Science and Public:Review of Science Communication and Public Attitudes to Science in Britain,The

    Wellcome Trust,2000. 小川義和:学校と科学系博物館をつなぐ学習活動の現状と課題,科学教育研究,27(1),2432,2003a. 小川義和:事例分析から見た科学系博物館における学校に対する教育サービスの類型,日本ミュージアムマネージメント学会研究紀要,7号, 3545,

    2003b. 小川義和,下條隆嗣:科学系博物館の単発的な学習活動の特性-国立科学博物館の学校団体利用を事例として-,科学教育研究,27(1),4249,

    2003. 小川義和,下條隆嗣:科学系博物館の学習資源と学習活動における児童の態度変容との関連性,科学教育研究,28(3),158165,2004a. 小川義和:科学系博物館における継続的な学習活動の効果と特徴-国立科学博物館のかはくたんけんクラブを事例に-,日本ミュージアム・マネージ

    メント学会研究紀要,8,pp.921,2004b. 小川義和:科学系博物館における利用者との関係性の構築,第12回全国科学博物館協議会研究発表大会資料,2932,2005. レニー,L.J.:参加体験型の科学館によるサイエンス・コミュニケーション:研究の展望,ストックルマイヤー他編著,サイエンス・コミュニケーション-科

    学を伝える人の理論と実践,丸善プラネット,2003. Rix,C.,McSorley,J.:An Investigation into the Role That SchoolBased Interactive Science Centers May Play in the Education of

    PrimaryAged Children, International Journal of Science Education,21(6),577593,1999. 椎名仙卓,石田清一:博物館における観覧行動軌跡,博物館研究,37(10),611,1964. ストックルマイヤー他編著,佐々木勝浩他訳:サイエンス・コミュニケーション-科学を伝える人の理論と実践,丸善プラネット,2003. 鷹野光行:博物館の分類,新刊博物館学講座Ⅰ 博物館学概論,雄山閣,199211,2000. 樽創,田口公則,大島光春,今村義郎:博物館と学校との連携の限界と展望中間機関設置モデルの提示 ,博物館学雑誌,26(2),110,2001. 山口悦司:学校と自然史系博物館の連携のための新しいコンセプト,理科の教育,51(8),2123,2002.