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学生論文 北里医学 2016; 46: 49-51
Received 1 April 2016, accepted 5 April 2016連絡先: 佐藤 雅 (北里大学医学部免疫学)〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1E-mail: [email protected]
CRISPR/Cas9を用いたCD1d欠損胸腺腫細胞株の作製
佐伯 美帆1,佐藤 雅2,飯塚 みさを2,岩渕 和也2
(指導: 免疫学 佐藤 雅)
1北里大学医学部6年2北里大学医学部免疫学
Natural killer T (NKT) 細胞は,CD1d拘束性に脂質抗原を認識し,さまざまなサイトカインを産生して免疫反応を修飾する役割をもつ。NKT細胞は非常に少ないリンパ球集団であるため,ハイブ
リドーマを樹立することで十分な細胞数を確保でき,詳細な機能解析に役立つ。細胞融合パート
ナーの胸腺腫細胞BW1100はCD1dを発現しており,ハイブリドーマもCD1d陽性(+)となる。このため
脂質抗原存在下では自己同士で反応し,不都合である。そこで本研究では,CD1d欠損NKT細胞ハ
イブリドーマを樹立するために,CD1d欠損BW1100をCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて作製した。
Key words: CRISPR/Cas9,NKT細胞,CD1d
序 文
CRISPR (Clustered regularly-interspaced short
palindromic repeats) は,細菌や古細菌がもつファージ
やプラスミドに対する獲得免疫機構として機能する
DNA領域である。侵入してきた外来DNAは,断片化さ
れてCRISPR領域に取り込まれた後,鋳型として転写さ
れる (crRNA・tracrRNA)。このcrRNA・tracrRNAは,
再び侵入してきた外来DNAをターゲットとして認識
し,外来DNAはCas9ヌクレアーゼによって切断・不活
性化されるのである1。CRISPR/Cas9システムを応用す
ると,crRNA・tracrRNAを目的の配列に置き変えるこ
とで,標的遺伝子に変異を入れる,または別の遺伝子
を組み込むというようなゲノム編集が可能となる2,3。
Natural killer T (NKT) 細胞は,T細胞受容体とNK細
胞マーカーを発現し,非古典的MHCクラスI分子であ
るCD1dに提示された脂質抗原を認識するT細胞の一亜
群である4。微生物由来の脂質抗原もいくつか同定され
ており,それらの抗原によって活性化されたNKT細胞
はさまざまなサイトカインを産生し,生体防御反応に
寄与している。
本研究では,CD1dを発現しないNKT細胞ハイブリ
ドーマの樹立を目指し,CRISPR/Cas9ゲノム編集技術
を用いて,細胞融合パートナーであるマウス胸腺腫細
胞 (BW1100) のCD1d欠損 (=陰性) 株を作製した。
対象と方法
1. 細胞
胸腺腫細胞株BW1100は,10% FCS RPMI-1640
(Sigma) を用いてCO2インキュベーターにて培養した
(5% CO2)。
2. CRISPR/Cas9プラスミド
CD1d1/2を標的としたCRISPR/Cas9プラスミド
(Sigma) を購入した (図1)。GFPが組み込まれており,
GFPの有無により遺伝子導入されているかを確認でき
る。
3. トランスフェクション
電気穿孔法によりCRISPR/Cas9プラスミドを細胞に
導入 (200V 975μF) した後,1日培養し,目的遺伝子の
破壊細胞をソーティングで選抜した。
4. FACS (fluorescence activated cell sorting)・セルソー
ティング
GFPが発現している細胞をFACS Aria (BD Bioscience)
にてソーティングし,その細胞をPE標識抗CD1d抗体
で染色した後,FACS Verse (BD Bioscience) にて解析
した。
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佐伯 美帆,他
結 果
1. CRISPR/Cas9プラスミド導入細胞の確認
電気穿孔法によりCRISPR/Cas9プラスミドをトラン
スフェクションし,GFP+細胞を確認することができた
(図2)。また,GFP+細胞をソートし,CD1dの発現を確
認すると,確かにCD1d陰性(-)細胞が濃縮されていた (点
線の左側矢印)。しかしCD1d陽性(+)細胞の細胞も混入し
ていたため,ソートしたGFP+細胞を培養しただけでは
CD1d-細胞は主要な集団とはならなかった。
2. 限界希釈によるCD1d- BW1100の単離
CD1d-細胞とCD1d+細胞を完全に分けるために,限界
希釈によるsingle cell cultureを行った。培養して増えた
クローン一つひとつをFACSにて解析したところ,今
度はいくつかのCD1d-の細胞を得ることができた (図3)。
考 察
セルソーティングだけではGFP+細胞のみを分離する
図1. CRISPR/Cas9ゲノム編集法と今回使用したプラスミド
標的遺伝子であるcd1d1及びcd1d2の配列を図上に示した。ガイドRNA (gRNA) 及びCas9ヌクレアーゼ (黄色) をコードするプラスミドpCMV-Cas9-GFP (Sigma社製) を図下に示した。例としてcd1d1を含むgRNA (PAM配列は青字で示した) が対合し,標的配列が切断され,その後,さらに塩基の削除・付加等によりCD1d1タンパクが発現されなくなる。
のには不十分であった。確実にCD1d-のクローンを単
離するには限界希釈による培養を加えることで実際に
CD1d- BW1100細胞株を作製できた。
今後,どの部位に変異が入ったのかシークエンスを
行って調べ,またNKT細胞と共培養して,NKT細胞の
活性化が起こらないことも確認する必要がある。さら
に,今回のCD1d- BW1100を細胞融合パートナーとして
用いることで,CD1dを発現していないNKT細胞ハイブ
リドーマを作成することができる。そのNKT細胞ハイ
ブリドーマを用いて,新規リガンドの探索やクリーン
なキラーアッセイを行うことが可能であると考えてい
る5。
文 献
1. Bhaya D, Davison M, Barrangou R. CRISPR-Cas systems inbacteria and archaea: versatile small RNAs for adaptive defenseand regulation. Annu Rev Genet 2011; 45: 273-97.
2. Cong L, Ran FA, Cox D, et al. Multiplex genome engineeringusing CRISPR/Cas systems. Science 2013; 339: 819-23.
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CRISPR/Cas9を用いたCD1d欠損胸腺腫細胞株の作製
3.山本 卓,坂本尚昭,佐久間哲史.【THE COMMENTARY】ゲノム編集技術の現状と展望. 日本再生医療学会雑誌 2015;14: 34-40.
図2. プラスミド導入細胞のFACS解析プロフィール
CRISPR/Cas9プラスミドベクタートランスフェクション後のGFP発現の確認および,GFP+細胞ソー
ティング後のCD1d発現の確認。導入細胞はベクター上のGFPの発現によりGFP+細胞として検出で
きる。GFP+細胞をゲートして,CD1d発現をフローサイトメトリー解析すると,トランスフェクションしていない細胞 (上パネルに点線でoverlayしてある) に比較して陰性画分側に肩のあるグラフになる。
図3. 単離できたCD1d欠損BW1100の一例のFACSプロフィール
GFP+細胞のソーティング後に,限界希釈によるsingle cellcultureから得られたCD1d- BW1100クローンの1例。赤線は野生型BW1100のCD1d発現。CD1d-のトランスフェクタントの
抗CD1d抗体染色プロフィールはアイソタイプのピーク (グレー) とほぼ重なっており,陰性と考えられる。
4. Bendelac A, Savage PB, Teyton L. The biology of NKT cells.Annu Rev Immunol 2007; 25: 297-336.
5.佐藤 雅,岩渕和也. 代謝性疾患とNKT細胞. 医学の歩み2015; 254: 1169-74.