抗胸腺細胞免疫グロブリン(atg)療法後に生じた...

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日皮会誌:no (10), 1575―1581, 2000 (平12) 抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)療法後に生じた血清病の3例 宍戸 悦子1)檜垣 祐子1)川島 侃1)溝口 秀昭2) 再生不良性貧血など重症貧血の治療として抗胸腺細 胞免疫グロブリン(antithymocyte globulin ;以下 ATG)療法を施行後に血清病を生じた3例を報告し た.ATG療法開始後1~3週で37~40度台の発熱と多 彩な皮疹,リンパ節腫脹,関節痛が出現した.皮疹の 内訳は,多型紅斑様皮疹と紫斑,紫斑主体,手掌,指 腹の紅斑と紫斑がそれぞれに観察された.皮疹の病理 組織像は,真皮上層から中層の血管周囲に軽度のリン パ球主体の細胞浸潤を認めるのみで,紫斑部でも血管 炎は見られなかった.検査所見では,一過性の血清補 体価の低下,尿潜血反応が見られた.臨床症状はステ ロイド増量ないし無処置で,1週間程度ですべて消失 した.ATG療法による血清病では皮疹が高頻度にみら れることから,十分に認識しておくべきと考えた. はじめに 抗胸腺細胞免疫グロブリン(antithymocyte globu- lin;ATG)療法1)では,高頻度に血清病を発症レ)~5), その多くの症例で皮疹が出現するとされているもの の,皮膚病変に関する詳細な報告はほとんどない.今 後,再生不良性貧血の治療としてATG療法がより一 般化することも予想されるため,最近経験したATG 療法後の血清病3例を報告し,その皮膚症状,および 病理組織学的所見の特徴について述べる. 表1に自験3例のまとめを示す. 患者1:31歳,女性. 初診:1994年9月13日. 主訴:躯幹,四肢の紅色丘疹,浮腫性紅斑. 家族歴:弟に心室中隔欠損症. 既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:1991年に再生不良性貧血と診断され,ステ ロイドパルス療法やアンドロゲン療法を行ったが効果 1)東京女子医科大学皮膚科学教室(主任 川島 筒教授) 2)同血液内科(主任 溝口秀昭教授) 平成12年3月30日受付,平成12年4月27日掲載決定 別刷請求先:(〒162-8666)東京都新宿区河田町8-1 東京女子医科大学皮膚科学教室 宍戸 悦子 がないため, 1994年8月24日から8日間,メチルプレ ドニゾロン84 mg/日の点滴静注,ついで20 mg/日の 経口投与を併用し, AtgamR 20mg/kg/日のATG療法 を8日間施行した.投与開始後20日目に37度台の発 熱,リンパ節腫脹とともにほぼ全身に紅色丘疹と浮腫 性紅斑が出現したため翌日当科に紹介され受診した. 現症:躯幹に粟粒大までの浮腫性紅斑が多発し(図 la),上腕に小豆天から爪甲大までの浸潤を触れる浮 腫性紅斑が多発していた(図lb).下肢には同様の紅斑 に加え一部浸潤のない点状出血を混じていた.また, 頚部,肢高,鼠径部に大豆大までのリンパ節を触知し た. 検査所見:血液一般で, WBC 1,300/m�(St 0.5%, Seg 96.5%, Mono 1.0%, Baso 0.0%, Eos 0.0%,Lym 2.0%), RBC 1.35×10ソm�, Hb 5.4g/dl, Pit1.3×:L04 /m�と,汎血球減少およびCRP 8.8 mg/dl と上昇を 認めたが,血清補体価,尿検査に異常はなかった. 病理組織学的所見:上腕の紅斑の組織像は,表皮に 著変なく,真皮上層の血管周囲性にごく軽度のリンパ 球浸潤を認めた(図2a).大腿の紫斑は組織学的に真皮 上層から中層の血管の内皮細胞の腫大と軽度のフィブ リンの析出がみられ,赤血球の血管外漏出と血管周囲 のリンパ球,組織球と少数の好中球からなる細胞浸潤 を認め,核破片を混じていた(図2b).蛍光抗体法では 真皮上層の血管壁にC3の沈着が見られた. 経過:内服していたメチルプレドニゾロン8 mg/日 を30 mg/日に増量し,2日後には皮疹はほぼ消失し解 熱した.リンパ節腫脹も1週間程度で消退した.以上 より多型紅斑様皮疹と紫斑を呈した血清病と診断し た. 患者2:36歳,男性. 初診:1997年11月25日. 主訴:四肢に多発する点状出血. 家族歴,既往歴:特記すべきことなし. 現病歴:再生不良性貧血に対し, 1997年11月13 日から5日間プレドニゾロン70 mg/日,ついで35 mg /日を併用し, Lymphoglobuline町5 mg/kg/日のATG 療法を5日間施行.開始から9日目に39度台の発熱, リンパ節腫脹が出現し,11日目より顎,膝,股関節痛,

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Page 1: 抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)療法後に生じた …drmtl.org/data/110101575.pdf日皮会誌:no (10), 1575―1581, 2000 (平12) 抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)療法後に生じた血清病の3例

日皮会誌:no (10), 1575―1581, 2000 (平12)

抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)療法後に生じた血清病の3例

    宍戸 悦子1)檜垣 祐子1)川島  侃1)溝口 秀昭2)

          要  旨

 再生不良性貧血など重症貧血の治療として抗胸腺細

胞免疫グロブリン(antithymocyte globulin;以下

ATG)療法を施行後に血清病を生じた3例を報告し

た.ATG療法開始後1~3週で37~40度台の発熱と多

彩な皮疹,リンパ節腫脹,関節痛が出現した.皮疹の

内訳は,多型紅斑様皮疹と紫斑,紫斑主体,手掌,指

腹の紅斑と紫斑がそれぞれに観察された.皮疹の病理

組織像は,真皮上層から中層の血管周囲に軽度のリン

パ球主体の細胞浸潤を認めるのみで,紫斑部でも血管

炎は見られなかった.検査所見では,一過性の血清補

体価の低下,尿潜血反応が見られた.臨床症状はステ

ロイド増量ないし無処置で,1週間程度ですべて消失

した.ATG療法による血清病では皮疹が高頻度にみら

れることから,十分に認識しておくべきと考えた.

          はじめに

 抗胸腺細胞免疫グロブリン(antithymocyte globu-

lin;ATG)療法1)では,高頻度に血清病を発症レ)~5),

その多くの症例で皮疹が出現するとされているもの

の,皮膚病変に関する詳細な報告はほとんどない.今

後,再生不良性貧血の治療としてATG療法がより一

般化することも予想されるため,最近経験したATG

療法後の血清病3例を報告し,その皮膚症状,および

病理組織学的所見の特徴について述べる.

          症  例

 表1に自験3例のまとめを示す.

 患者1:31歳,女性.

 初診:1994年9月13日.

 主訴:躯幹,四肢の紅色丘疹,浮腫性紅斑.

 家族歴:弟に心室中隔欠損症.

 既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1991年に再生不良性貧血と診断され,ステ

ロイドパルス療法やアンドロゲン療法を行ったが効果

1)東京女子医科大学皮膚科学教室(主任 川島 筒教授)

2)同血液内科(主任 溝口秀昭教授)

平成12年3月30日受付,平成12年4月27日掲載決定

別刷請求先:(〒162-8666)東京都新宿区河田町8-1

 東京女子医科大学皮膚科学教室 宍戸 悦子

がないため, 1994年8月24日から8日間,メチルプレ

ドニゾロン84 mg/日の点滴静注,ついで20 mg/日の

経口投与を併用し, AtgamR 20mg/kg/日のATG療法

を8日間施行した.投与開始後20日目に37度台の発

熱,リンパ節腫脹とともにほぼ全身に紅色丘疹と浮腫

性紅斑が出現したため翌日当科に紹介され受診した.

 現症:躯幹に粟粒大までの浮腫性紅斑が多発し(図

la),上腕に小豆天から爪甲大までの浸潤を触れる浮

腫性紅斑が多発していた(図lb).下肢には同様の紅斑

に加え一部浸潤のない点状出血を混じていた.また,

頚部,肢高,鼠径部に大豆大までのリンパ節を触知し

た.

 検査所見:血液一般で, WBC 1,300/m�(St 0.5%,

Seg 96.5%, Mono 1.0%, Baso 0.0%, Eos 0.0%,Lym

2.0%), RBC 1.35×10ソm�, Hb 5.4g/dl, Pit1.3×:L04

/m�と,汎血球減少およびCRP 8.8mg/dl と上昇を

認めたが,血清補体価,尿検査に異常はなかった.

 病理組織学的所見:上腕の紅斑の組織像は,表皮に

著変なく,真皮上層の血管周囲性にごく軽度のリンパ

球浸潤を認めた(図2a).大腿の紫斑は組織学的に真皮

上層から中層の血管の内皮細胞の腫大と軽度のフィブ

リンの析出がみられ,赤血球の血管外漏出と血管周囲

のリンパ球,組織球と少数の好中球からなる細胞浸潤

を認め,核破片を混じていた(図2b).蛍光抗体法では

真皮上層の血管壁にC3の沈着が見られた.

 経過:内服していたメチルプレドニゾロン8 mg/日

を30 mg/日に増量し,2日後には皮疹はほぼ消失し解

熱した.リンパ節腫脹も1週間程度で消退した.以上

より多型紅斑様皮疹と紫斑を呈した血清病と診断し

た.

 患者2:36歳,男性.

 初診:1997年11月25日.

 主訴:四肢に多発する点状出血.

 家族歴,既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:再生不良性貧血に対し, 1997年11月13

日から5日間プレドニゾロン70 mg/日,ついで35 mg

/日を併用し, Lymphoglobuline町5 mg/kg/日のATG

療法を5日間施行.開始から9日目に39度台の発熱,

リンパ節腫脹が出現し,11日目より顎,膝,股関節痛,

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1576 宍戸 悦子ほか

表1 自験3例の血清病のまとめ

症 例 患者1(31歳,女) 患者2(36歳,男) 患者3(28歳,女)

ATG A, 20mg/kg/日×8日 L, 15mg/kg/日×5日 L, 15mg/kg/日×1日

 ステロイド初期量→初診時

MP84mg/日/iv

→8mg/日/poPSL70mg/日/po

→35mg/日/do

PSL50mg/日/po

-゛25mg/日/po

血清病の症状 (出現日)

  発熱(20日目)

リンパ節腫脹(20日目)

  発熱(9日目)

リンパ節腫脹(20日目)

口腔内びらん(10日目)

 関節痛(11日目)

   発熱(8日目)

 リンパ節腫脹(8日目)

  関節痛(10日目)

手,下腿のしびれ(n日目)

皮 疹(出現日)

多型紅斑様皮疹

点状出血(20日目)

点状出血(11日目) 点状出血(8日目)

手掌,指腹の紅斑(8日目)

組織所見

紅斑:真皮上層の血管周囲に軽度のリンパ球浸潤.

IF:(-)紫斑:真皮上

~中層の血管にフィブリ

ン析出.血管周囲に核破片を伴うリンパ球主体の

細胞浸潤.赤血球の血管

外漏出.IF:真皮上層の血管壁にC3の沈着

真皮上~中層の血管周囲

に核破片を伴う好中球,リンパ球浸潤.赤血球の

血管外漏出.

IF:(-)

紫斑:真皮上層の血管周囲

に軽度のリンパ球,組織球浸潤

IF:真皮上層の血管壁に

フィブリノーゲンが沈着

検査所見

汎血球減少, CRP↑ 汎血球減少, CRP↑

CH50↓C3↓C4↓

尿潜血(±)

汎血球減少, CRP↑

CH50↓C3↓C4↓

尿潜血(土)

経 過PSL30mg/日に増量し,2日後に皮疹消失し,解

PSLの増量なしに7日で

皮疹,関節痛は消失

PSL40mg/日に増量し,5

日で皮疹,関節痛消失し,解熱

A : Atgam⑧ L : Lymphoglobulin⑧

iv : intravenous DO : per OS IF : immunofluorescence MP : methylprednisolone

PSL : prednisolone

下肢のしびれとともに四肢に点状出血が出現し,徐々

に増数したため当科を受診した.

 現症:上肢,陰股部~下肢にかけて帽針頭大~半米

粒大までのわずかに浸潤を触れる点状出血が多発し

(図3),足背にも同様の点状出血が多発していた.ま

た,頚部,肢嵩,鼠径部のリンパ節腫脹を認めた.

 検査所見:血液一般で,WBC 2,080/m�(Mye11.0%,

Stab 0.5%, Seg 86.0%, Eos 0.5%, Baso 1.0%, Mono

2.0%,Lym 9.0%),RBC 1.48×10ソm�, Hb 5.4 g/dl,

Pit 0.8×10ソm�と汎血球減少を認めたほか, CRP

27.2 mg/dl と上昇, CHsolO.O U/ml (正常植30~40 U/

ml), C3c34.8 mg/dl (70~130 mg/dl), C4 7.8mg/dl

(20~50 mg/d1)と血清補体価の低下を認めた.また,

尿潜血(±)であった.

 病理組織学的所見:左下腿の紫斑より生検した.真

皮上~中層の血管周囲に核破片を伴う好中球,リンパ

球からなる軽度の細胞浸潤を認め,血管内皮細胞の膨

化,赤血球の血管外漏出もみられた(図4).蛍光抗体

法では免疫グロブリン,補体の沈着は認めなかった.

 経過:ステロイドは増量せず1週間で症状は消失

し,血清補体価,尿所見も改善した.以上より紫斑を

呈した血清病と診断した.

 患者3:28歳,女性.

 初診:1998年5月1日.

 主訴:四肢,躯幹の点状出血,紫斑.

 家族歴,既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1990年に再生不良性貧血と診断され,アン

ドロゲン療法を行ったが,胃腸障害のため1997年に中

止した. 1998年4月22日にプレドニゾロン50 mg/日

を併用し, Lymphoglobuline町5 mg/kg/日のATG

療法を開始したところ,直後よりショック状態に陥っ

たため,即日投与を中止した.その8日後に40度の発

熱,リンパ節腫脹,全身の関節痛とともに,躯幹,四

肢に点状出血が出現したため当科を受診した.

 現症:主に左側臥位でベッド上安静であったため,

四肢の左側に強く半米粒大までの点状出血が多発し,

一部は癒合していた.肢宵から前胸部,醤部にも同様

の皮疹を認めた.また手掌,指腹にも紅斑がみられた

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巾15】.

 検査所見]IL液・般では、W匯T3よ10ダlmn丿Sリ

72.5%、MoiK 35%バ柚soOj)%、I(Os1.0%、[.vm 22.5

%八RI帽2.12×1(トm11八lib 7.1尽(川PI丿.0×川尚

ml毎と汎血球減少を認めた.さらに ΛST一耳Hト判

ΛLT目7 III 7、Y-(rrp 279 1し/、(ブIくPじりmμΛdlと

I-.W-,Clトに0トn止(T:卜眠2m.u- dl、白目(釧)mμ/d1、

CTL汁1μ<>■nil(il-常仙2j)μμm1以リと、1圃ljlli作価

の低ドがみられた.また、尿潜ぼIL(=いであった、

 病理組織学的所見:右人腿の紫斑より生検した.八

皮には片変なく、穴皮げ佃川L竹川囲に忖度のリンパ

球、組織球からなる細胞泌潤と赤|囮求の血管外漏出を

認めた.'}!'':'ith'i休法では、穴皮の血管守にフ了ブリノー

ゲンの沈杵が認められた.

 経過:25m尽川に減けしていたプレドニゾロンを

Jomμ∩目こ坤川七だところ、5日で発熱、関節41乱皮疹

は消退し IIIL浩袖休価、尿所地も11く常化した.以llよ

以紫斑および卜宗、指胆の紅斑をいした血浩病と診

断した.

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           考  按

 |自L持病とは、毀仲抗ぼIL持を治焼山'白に核力七万後に

発症する病態であり、現在では、毀種|旧削ヤ回訓こ起

こる占^リlt的な症候俳を狭義のII'IL所病とし広義ににげと

物(抗生物仏サルフア砿y‥グロブリンなど)投リ・後

に牛工るifiL持病様症状もこれに介めている6へ その

発症機序として、まずIfll持投ヅ後に過剰となった抗原

に対し、卜八I、Ig(;抗体が・伊にされ、免疫痢介体が形成

される.これがヤ身の|叫で内皮に沈谷するとト抽体を

活性化し 知IけUじを促進させ、また㈲.小机に付杵す

ると、好中球の遊走を促進じ蛋∩分節畔素や活性酸

素を放出させて組織の防火を引き起こす.さらにIμI{

抗体が片生されるために、肥満細胞ベベ針レ鳩球からヒ

スタミンなどが遊離し Ifll管透過性を足進させるとと

もに、球麻疹やアナフィラキシーショックの要円とな

る.

 通常、血渋病の川状は抗原が初1111投万万あれば、7

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1578 宍戸 悦子ほか

(a)

                  (b)

     図2 患者1の上腕の紅斑(a)と大腿の紫斑の病理組織像(b)

a)真皮上層の血管周囲にごく軽度のリンパ球浸潤あり(HE染色,×150) . b)血管内

皮細胞の腫大と軽度のフィブリン析出,リンパ球,組織球,核破片を伴う少数の好中

球浸潤あり(HE染色,×150).

日から14日後頃より出現する.発熱とともに,暮麻疹

や紅斑,麻疹様皮疹などの皮膚症状に始まり,リンパ

節腫脹,関節症状,鼓脹,時には消化管痙學などの消

化器症状,牌腫,心筋炎,腎炎などを引き起こすこと

もある.主要病変は心臓,動脈,関節,腎臓であり,

病理組織学的にフィブリノイド壊死を伴う血管炎の像

を呈するとされている.

 さて,ATG療法は主に骨髄移植の適応のない再生不

良性貧血に対し, 1970年代より施行されている免疫抑

制療法であるが,本邦では通常胸腺細胞を抗原として

ウマを免疫して得られるカンマグロブリン製剤(Lym-

phoglobuline町を用い,10~15mg/kg/日を5~10日間

点滴静注する.ショックや血清病予防のために,メチ

ルプレドニゾロン1~5 mg/kg/目の静注あるいはプ

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1580 宍戸 悦子ほか

レドニゾロンの経口投与が併用されている.

 ATG療法による血清病は高頻度に発症し,高率に皮

膚症状を伴うとされているにも関わらず,その詳細な

報告は少ない. BieloryらはATG療法を試行した35

例中,血清病を発症した30例につきその臨床症状をま

とめている(表2丿.それによると,抗原投与後5~7

日目に全例で38度以上の発熱,全身倦怠感がみられ

る. 90%以上の例で同時に,又は少し遅れて皮疹が出

現するが,特徴的なのはpalmar-plantar sign9)~11)とい

われる手掌,足底の辺縁の蛇行吐の線状紅斑,紫斑で,

70%の例にみられるとされる.その他,関節痛,鼓脹,

消化管痙撃などの消化器症状,ヘモグロビン尿,潜血

などの尿所見異常が70%程度にみられる.リンパ節腫

脹は10~20%の例で認められる.自験3例において

は,表1に示すように8~20日目に全例で発熱を認め,

皮疹も同時またはやや遅れて8~20日目に全例でみら

れた.消化器症状を呈したのは1例もなく,関節痛と

一過性の尿潜血をそれぞれ2例で認めた.リンパ節腫

脹は3例全例でみられた.

 ATG療法後の血清病の皮疹は, Bieloryらの記載に

よると,麻疹様が30例中29例(96%)で最も多く,

ついで葦麻疹が10例(32%) ,手掌紅斑が8例(25%)

にみられるほか,爪囲の出血を認める例もある.紫斑

については,前述のpalmar-plantar sign が多くの例で

紅斑から紫斑に移行することを述べているのみで,強

調されてはいない.自験3例では,全てに紫斑を認め,

むしろ特徴的と思われた.うち2例では多形紅斑様皮

疹または手掌,指腹の紅斑を伴っていた.しかし, ATG

療法による血清病の特徴的皮疹とされるpalmar-

plantar sign は1例もみられなかった.

 皮疹の病理組織像は, Bieloryらによれば, leukocy-

toclasticvasculitisを示したのは1例のみで,生検した

他の12例では真皮上層の血管周囲に軽度のリンパ球

浸潤をみたにすぎないとしている.蛍光抗体法におい

ては,9例中7例に真皮乳頭層の血管壁にlgMの沈着

を,うち6例で同部位にC3の沈着を認めている.また,

5例でlgEの,4例でlgAの沈着を認めている.自験

3例では,紫斑の組織像で種々の程度の血管壁の障害

を認めるものの,明らかなleukocytoclastic vasculitis

を呈した症例はなく,他はすべて真皮上層の血管周囲

に軽度のリンパ球主体の細胞浸潤を認めるのみであっ

た.蛍光抗体法では真皮の血管壁にC3およびフィブリ

表2 抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(ATG)

 療法に伴った血清病の症状(30例)

発熱/全身倦怠感

発疹

palmar-plantar sign

関節痛

消化器症状

尿所見異常

頭痛

筋肉痛

霧視

関節炎

呼吸困難/喘鳴

リンパ節腫脹

暖声/無臭症

頻度

(%)

10093706767675737373020130

発現日

(日目)-5-7

7-9

6-8

7づ

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経過

(日間)

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2-3

5-9

2-5

〈文献3)より引用〉

ノーゲンの沈着が各1例ずつみられた.このように,

免疫複合体が関与する病態だが,組織学的にleukocy-

toclasticvasculitisが必ずしも見られない理由として,

生検時期の問題が考えられるほか,骨髄不全の状態で

炎症細胞の浸潤が乏しいこと,さらにATG療法では

当初からステロイドの全身投与が併用されるため,組

織学的変化が軽度にとどまる可能性が考えられる几

臨床的にも血清補体価の低下や免疫複合体の上昇,尿

所見異常などは一過性で,通常2~3週の経過で症状は

終焉に向かう.これは,ステロイドの全身投与によっ

て免疫複合体の形成やその血管壁への沈着が最小限に

とどまり,血管炎の増悪や遷延化か抑えられるためと

考えられる.

 鑑別疾患としては,臨床像からウイルス感染症,薬

疹,アナフィラクトイド紫斑病などがあげられる.麻

疹や風疹の既往の有無,薬剤歴,上気道炎症状などの

前駆症状の有無,ウイルス抗体価の測定等を参考に,

ATG療法施行後1~3週内であればまず血清病を考え

るべきと思われる.

 当院血液内科では,約10年前より年間4例程度

ATG療法が施行されている.今後ATG療法が中等症

から重症の再生不良性貧血や骨髄異形成症候群12)など

の治療として,より一般化することも考えられ, ATG

療法後の血清病の皮膚病変について十分認識しておく

必要があると考え報告した.

Page 7: 抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)療法後に生じた …drmtl.org/data/110101575.pdf日皮会誌:no (10), 1575―1581, 2000 (平12) 抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)療法後に生じた血清病の3例

ATG療法後の血清病

                          文

1)浦部品夫:ATG療法,血液・腫瘍科,34 : 368-

  372,1997.

2) Lawley TJ. Bielory L, Gascon P, Yancey KB,

  Young NS, Frank MM : A study of human serum

  sickness, I InuestDermatol, 85: 129s-132s, 1985.

3) Bielory L, Gascon P, Lawley TJ, Young NS, Frank

  MM : Human serum sickness : a prospective

  analysis of 35 patients treated with equine anti一

  thymocyte globulin for bone marrow failure ,

  M�加加e,67 : 40-57, 1988.

4)北村 聖,浦部晶夫,溝口秀昭,野村武夫,木村昌

  行,高久史麿:リンフォグロブリンの中等症,重症

  再生不良性貧血に対する臨床的検討,診断と治療,

  83 : 152-165,1995.

5)壱岐聖子,臼杵憲祐,村松理子,山口祐子,浦部晶

  夫:再生不良性貧血に対する抗胸腺細胞グロブリ

  ン(ATG)の安全性,診断と治療,86 : 287-295,

1581

   1998.

 6)渡部一雄,粕川疆司:血清病,医学と薬学,16:

   36ト371,1986.

 7)岩本逸夫,中川典明:血清病,臨床アレルギー学,

   南江堂,42か427,1998.

 8)小出 純:血清病,総合臨床,47 : 527-530, 1998.

 9) Payne R, Branfoot AC : Wallace' s Line, Br ] Der-

   matol.114 : 513-514, 1986.

 10) Bernhard JD. Rhodes AR, Melski JW : Wallace' s

   Line in serum sickness and Kawasaki disease, B川

   Dermotol,115 : 640, 1986.

 11) Copeman PWM : Wallace' s line, Br } Dermatol,

   116 : 607, 1987.

 12) Molldrem JJ. Caples M, Mavroudis D, Plante M,

   Young NS, Barrett AJ : Brl Haematol, 99: 699-

   705,1997.

Three Cases of Serum Sickness After Antithymocyte Globulin Therapy

       Etsuko Shishido1),YukoHigaki", Makoto Kawashima" and Hideaki Mizoguchi2)

                    1)Departmentof Dermatology and

           2)Departmentof Haematology, Tokyo Women's Medical University

           (Received March 30,2000 ; accepted for publication April 27,2000)

  We report three cases of serum sickness induced by treatment with antithymocyte globulin (ATG)for

severe aplasticanemia or refractory anemia. One to three weeks after receiving ATG with prednisolone, the

patients developed eruptions accompanied by fever, arthralgia and lymphadenopathy. A11 the patients devel-

oped purpura, and two of them showed erythema-exsudativum-multiforme-like eruptions and palmar

erythema as well.Histopathologic examinations of skin lesions revealed a mild perivascular lymphocytic infil-

tration without evident vasculitis.Two patients showed low serum CHso levels and microhematuria. These

clinicalmanifestations disappeared in a week with or without an increase in the prednisolone doses. Since

ATG therapy is becoming more popular, note should be taken of cutaneous manifestations of serum sickness

asacomplication of this therapy.

  (Jpn JDermatol 110 : 1575~1581, 2000)

Key words : serum sickness, antithymocyte globulin,purpura