食のリスクコミュニケーション失敗の主因は リスク認知...

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食のリスクコミュニケーション失敗の主因は リスク認知バイアスか ○山崎 *,大瀧直子*,桑原正貴** Takeshi Yamasaki, Naoko Ohtaki-Shimauchi, Masayoshi Kuwahara *:SFSS) **31回日本リスク研究学会年次大会 20181110日(土)@コラッセふくしま(福島市) Is Main Failure Cause of Food Risk Communication the Risk Perception Bias? G2-2

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Page 1: 食のリスクコミュニケーション失敗の主因は リスク認知 ...食のリスクコミュニケーション失敗の主因は リスク認知バイアスか 山崎毅*,大瀧直子*,桑原正貴**

食のリスクコミュニケーション失敗の主因はリスク認知バイアスか

○山崎 毅*,大瀧直子*,桑原正貴**Takeshi Yamasaki, Naoko Ohtaki-Shimauchi, Masayoshi Kuwahara

*:特定非営利活動法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)**:東京大学大学院農学生命科学研究科

第31回日本リスク研究学会年次大会2018年11月10日(土)@コラッセふくしま(福島市)

Is Main Failure Cause of Food Risk Communication the Risk Perception Bias?

G2-2

Page 2: 食のリスクコミュニケーション失敗の主因は リスク認知 ...食のリスクコミュニケーション失敗の主因は リスク認知バイアスか 山崎毅*,大瀧直子*,桑原正貴**

食品安全の専門家が人への健康リスクが十分小さく安全と評価しているハザードにもかかわらず、一般消費者がリスクを過大に知覚/認識してリスク認知バイアスを生み出し、社会に大きな影響を与えている。昨年の本学会において、演者はリスク認知バイアスの原因をターゲットとした食のリスクコミュニケーション(リスコミ)手法が重要と考え、リスク認知バイアスの社会心理学的原因を具体的に4つあげて、そのバイアスを逆手に取ったリスコミ手法を提案した(山崎,2017):

①二者択一の原理(中谷内, 2006)②Slovic のリスクイメージ過大因子/未知性因子など(岡本,1992)③リスク情報発信者への不信感④リスクコミュニケーションのパラドックス(関谷,2011)

本研究では、インターネット調査により食品添加物の健康リスクに懸念をもっている消費者を抽出し、なぜ食品添加物のリスクの大小や安全性を理解できないのか、その理由をリスク認知バイアスに関連したものではないかと推測して設問し、解析を実施した。

はじめに

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http://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-110/documents/eisei.pdf

静岡県 平成30年度県政インターネットモニターアンケート結果概要第6回アンケート(7月20日から8月2日まで)食の安全・安心に関する意識についてのアンケート 回答者:549人

(1)県内で購入する食品の安全

性について、「おおいに信頼できる」又は「ある程度信頼できる」と回答した人の割合は80.7%であり、2年連続で8割を超えた。一

方、「まったく信頼できない」又は「あまり信頼できない」と回答した人の割合は1.8%であった。

「信頼できない」と回答した人が食品の安全性について不安を感じることは、「食品添加物」が100.0%と最も多く、次いで「残留農薬」が60.0%であった。

食品の安全性について不安を感じる理由は、「見聞きする食品の安全性に関する情報が信用できない」が80.0%と最も多く、次い

で「食品の表示が信用できない」が70.0%であった。

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インターネットアンケート調査は、楽天インサイト㈱の日本人モニターから30歳代、40歳代の女性を抽出して実施した。

・上記モニターから以下の設問により100人をランダム抽出「食品添加物は健康によくないので、添加物の入った加工食品はできるだけ使いたくない」という設問に対して、「たしかにそう思う」または「まあまあそう思う」と回答した女性:

30歳代女性:39名 / 40歳代女性:61名

調査方法

・モニター抽出条件(楽天インサイト㈱)年齢30歳代、40歳代の女性から、まず最低週1回は料理をする/食品ラベルを確認する方を10,000人抽出した。(日本全国、47都道府県よりランダム抽出)

設問は、食品添加物のリスク/安全性を理解できない理由としてリスク認知バイアスをいくつかあげ、回答者に自由に選択させた。

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結果 Figure1 リスク認知バイアスにいたった理由の自己分析回答結果

@NPOSFSS_event

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結果 表1 リスク認知バイアスにいたった理由の自己分析回答結果

設 問

「たしかにそう思う」+「まあまあそう思う」の回答人数(%)

リスク認知バイアス

① 無添加食品と添加物の入った加工食品を比較したら、二者択一で無添加のほうが当然安全だろうと考えていた

90% 二者択一の原理

② 食品添加物は食べてすぐに健康被害はでないけれど、将来の発がん性がわからないと唱える専門家たちの見解をきいて不安になっていた

88% Slovicの未知性因子

③ 食品添加物の安全性に問題はないという厚生労働省や食品安全委員会の見解を聞けば聞くほど、本当だろうかとの疑念がわいていた

79% リスコミのパラドックス

④ 食品添加物の安全性に問題はないとする情報の発信者(学者や食品企業など)が、そもそも信用できなかった

78%リスク情報発信者

への不信感

⑤ 食品添加物の配合量が微量だから安全だと数値で説明されてもよくわからないので、やはり無添加の方が安全と思っていた

82% ニューメラシーの低さ

⑥ 食品を分析した結果、食品添加物が「不検出」であれば、少なくともその食品添加物に関しての安全性に問題はないと思っていた

76% 単位のワナ

⑦ 天然素材をいかした料理のほうが安全で、食品添加物はできるだけ使用しない方がよいとの教えを受けた経緯があり、それが当たり前だと思って疑わなかった

80%係留バイアス

アンカリング効果

⑧「食品添加物は健康によくない」と常日頃主張する家族や友人がいて、周りの人たちもそれを否定していないので、それを信じていた

71% 内集団バイアス

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本研究の調査結果でわかったことは、食品添加物の健康リスクを過大に認識した理由として、これら社会心理学的に知られる8つのリスク認知バイアス項目が当たっていると7割以上の回答者(30歳~40歳代女性)が自己分析したことだ。

考察

① 二者択一の原理 (中谷内, 2006)② Slovic のリスクイメージ過大因子/未知性因子など(岡本,1992)③ リスクコミュニケーションのパラドックス(関谷,2011)④ リスク情報発信者への不信感(広田ら,2006)⑤ ニューメラシーの低さ(伊川,2017)⑥ 単位のワナ;検出限界の違いによる「不検出」への誤認(半谷,2015)⑦ アンカリング効果・係留バイアス(西澤,2017)⑧ 内集団バイアス(中谷内,2008)、みんなの正しさ(高田明典,2015)

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【方法】本研究では、このようなリスク認知バイアスをとりのぞくリスクコミュニケーション(リスコミ)手法を開発するため、食品添加物の健康リスクに過敏な消費者を対象として、インターネット調査を用いて確証バイアス」をとりのぞくリスコミ手法の効果を検証することとした。

【スマートリスコミ手法の仮説】我々は「確証バイアス」をとりのぞくリスコミ手法として、「確証バイアス」の要因となっている信念や仮説にいたった原因に共感した設問を投げかけたうえで、学術的理解を与える科学的根拠をわかりやすく提供することが有効であるとの仮説をたてた。

食の安全・安心に係るリスクコミュニケーション研究TGによるハイブリッド発表 「H27」

食品添加物の健康リスクに対する「確証バイアス」をターゲットとしたスマート・リスコミの開発と効果検証について発表(山崎ら,2018)

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【結果1】 最初にQ1で食品添加物が健康によくないという「確証バイアス」にいたった

原因の選択肢を6項目あげることで回答者に対する共感を示した。次にQ2で食品添加物の安全性に関する有識者(大学教授)の見解を読んでもらい、理解できたかどうかを確認した。

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【結果2】 Q1、Q2を踏まえて、Q3では今後食品添加物が入った加工食品を選択するかどうかを聞いたところ、24%~39%が選択すると回答した。

21

28

29

24

30

26

39

0 5 10 15 20 25 30 35 40 45

説明を読んでも結局納得できないので、食品添加物の入った加工食

品はできるだけ避けたい。その理由を記入してください:

「食べてはいけない・・」など食品の裏事情に関する書籍や記事(週

刊誌・TV番組・ネット情報など)を読んで、やはり食品添加物は危険と感じていたが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加物の…

天然の無添加食品と添加物を配合した加工食品を比較すると、むし

ろ後者の方が安全という説明を読んでほぼ納得したので、食品添加

物の入った加工食品でも安心して食べられそうだ。

食品添加物は食品事業者が売るためのものであり消費者にメリット

がないと思っていたが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加

物の入った加工食品でも安心して食べられそうだ。

たしかに発がんリスクが懸念され使用禁止になった食品添加物が過

去にあるが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加物の入った

加工食品でも安心して食べられそうだ。

過去に家庭科の授業で食品添加物はできるだけ使わないように教

わったが、説明を読んでほぼ納得したので、食品添加物の入った加

工食品でも安心して食べられそうだ。

食品添加物が原因で健康被害が起った事故の歴史はあるが、説明

を読んでほぼ納得したので、食品添加物の入った加工食品でも安心

して食べられそうだ。

Q3.前問の有識者の説明を読んで、あてはまる番号を選んでください。

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インターネットでの無機的な情報伝達に限界はあるものの、相当数の回答者(100人中79人)で「確証バイアス」の補正が認められたことから、リスク認知バイアスをターゲットとしたリスコミ手法の有効性が示唆された。

今回のインターネット消費者アンケート調査において、食品添加物のリスク/安全性について消費者が理解できない原因として「リスク認知バイアス」が強く疑われる傾向が認められたことから、今後のスマート・リスコミ手法開発のきっかけになるものと期待された。

考察

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「二者択一の原理」はすでにスマートリスコミで活用中

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消費者のリスク認知バイアス①

安全 危険OR

中谷内一也(2006) 「リスクのモノサシ」 NHKブックス刊

無添加 添加物OR

消費者が態度を決めるときは

二者択一になりがち

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http://www.nposfss.com/cat3/fact/weekly_shincho0524.html<疑義言説1>

<疑義言説2>

<疑義言説3>

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実際のリスク比較は?

安全 安全?OR

消費者が態度を決めるときは

二者択一になりがち

化学合成添加物

天然の食品成分

OR

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http://www.nposfss.com/

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