国際がん研究機関(iarc)135 1-1/電気の基礎 +13.5mm...

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134 国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)とは、世界保健 機関(WHO)の専門機関であり、化学物質や喫煙などによっておよぼされる発がん性のリスクに ついて調査・研究とがん対策を推進する機関です。IARC の発がん性評価は、対象となる作用因子、 たとえば、物理的因子、化学的因子、特殊な環境因子等による定性的な評価(発がん性の性質の程 度)をグループ別に分類するものであり、定量的な評価(発がん性の強さ)をするものではありま せん。 IARC の発がん評価ワーキンググループは、発がん性評価専門家で構成され、必要に応じて 4 つ の専門グループに分かれて評価作業を行います。 IARC の発がん性の評価は、以下の過程によって行われます。 1)IARCにより発がんに関わる専門家から成るワーキンググループメンバーの選定(世界各国 から 20~30 名程度) 2)ワーキンググループによる、論文の精査とモノグラフの作成 3)疫学研究グループと動物研究グループは以下の 5 分類から 1 つを決定 ①十分な証拠      ②限定的な証拠     ③不十分な証拠   ④発がん性のない証拠  ⑤データがない 4)細胞実験による発がん性評価やメカニズムについての論文精査を加えて、ワーキンググルー プメンバーの投票により、以下の最終分類から評価 グループ 1 :発がん性がある グループ 2A :おそらく発がん性がある(probably) グループ 2B :発がん性があるかもしれない(possibly) グループ 3 :発がん性を分類できない グループ 4 :おそらく発がん性はない IARCの発がん性の評価方法 国際がん研究機関(IARC) 2 全体会議 疫学研究 グループ 動物研究 グループ メカニズム研究 グループ ばく露評価 グループ

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Page 1: 国際がん研究機関(IARC)135 1-1/電気の基礎 +13.5mm 2/国際がん研究機関(IARC) Ⅵ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅶ 国際機関とその活動―国際がん研究機関(IARC)

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 国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)とは、世界保健機関(WHO)の専門機関であり、化学物質や喫煙などによっておよぼされる発がん性のリスクについて調査・研究とがん対策を推進する機関です。IARCの発がん性評価は、対象となる作用因子、たとえば、物理的因子、化学的因子、特殊な環境因子等による定性的な評価(発がん性の性質の程度)をグループ別に分類するものであり、定量的な評価(発がん性の強さ)をするものではありません。 IARCの発がん評価ワーキンググループは、発がん性評価専門家で構成され、必要に応じて4つの専門グループに分かれて評価作業を行います。

 IARCの発がん性の評価は、以下の過程によって行われます。 1) IARCにより発がんに関わる専門家から成るワーキンググループメンバーの選定(世界各国

から20~30名程度) 2) ワーキンググループによる、論文の精査とモノグラフの作成 3) 疫学研究グループと動物研究グループは以下の5分類から1つを決定    ①十分な証拠      ②限定的な証拠     ③不十分な証拠      ④発がん性のない証拠  ⑤データがない 4) 細胞実験による発がん性評価やメカニズムについての論文精査を加えて、ワーキンググルー

プメンバーの投票により、以下の最終分類から評価

グループ1 :発がん性があるグループ2A :おそらく発がん性がある(probably)グループ2B :発がん性があるかもしれない(possibly)グループ3 :発がん性を分類できないグループ4 :おそらく発がん性はない

I A RC の発がん性の評価方法

国際がん研究機関(IARC)2

全体会議

疫学研究グループ

動物研究グループ

メカニズム研究グループ

ばく露評価グループ

Page 2: 国際がん研究機関(IARC)135 1-1/電気の基礎 +13.5mm 2/国際がん研究機関(IARC) Ⅵ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅶ 国際機関とその活動―国際がん研究機関(IARC)

135

1-1/電気の基礎

+13.5mm

2/国際がん研究機関(IARC)

国際機関とその活動―国際がん研究機関(IARC)

 IARCは、2002年にモノグラフ№80を公表し、静電磁界および3,000ヘルツまでの超低周波電磁界を次のように評価しました。 ○疫学研究…… 0.4マイクロテスラ以上の超低周波磁界と小児白血病の2倍のリスクが統計的に

ほぼ一貫した関連性があるが、手法上の問題点を残している。 ○動物研究…… 超低周波磁界へのばく露が発がん・共発がん効果を示す一貫した証拠はない。小

児白血病と超低周波磁界へのばく露の増加で観察される関連性を科学的に説明できない。

つまり、  疫学研究の証拠=限定的  動物実験の証拠=不十分から、超低周波磁界は『2B』と評価されました。また、静磁界、静電界、超低周波電界については

『3』と評価されました。

 IARCが公表している発がん性の分類の代表的なものを以下に示します。発がん性の分類及び分類基準 既存分類結果(970例)

グループ1:発がん性がある ヒトへの発がん性を示す十分な証拠がある場合

カドミウム、アスベスト、ダイオキシン(2,3,7,8TCDD)、たばこ(能動、受動)、アルコール飲料、エックス線、ガンマ線、経口避妊薬、紫外線、ディーゼルエンジン排ガス、PCB� 【他を含む113例】

グループ2A:おそらく発がん性がある ヒトへの発がん性を示す証拠は限定的であるが、動物への発がん性に対して十分な証拠がある場合

鉛化合物(無機)、クレオソート、アクリルアミド、日内リズムを乱すシフト労働、理容・美容労働� 【他を含む66例】

グループ2B:発がん性があるかもしれない ヒトへの発がん性を示す証拠が限定的であり、動物実験での発がん性に対して不十分な証拠や限定的な証拠がある場合

クロロフォルム、鉛、コーヒー、漬物、ガソリン、ガソリンエンジン排ガス、超低周波磁界、無線周波電磁界� 【他を含む285例】

グループ3:発がん性を分類できない ヒトへの発がん性を示す根拠が不十分であり、動物実験での発がん性に対しても十分な証拠がない場合

カフェイン、原油、水銀(無機)、静磁界、静電界、超低周波電界� 【他を含む505例】

グループ4:おそらく発がん性はない ヒトおよび動物実験において発がん性がないことを示唆する証拠がある場合

カプロラクタム(ナイロンの原料)【1例】

※ 代表的な分類基準を示しています� 表中の分類結果は2013年10月現在のものです

I A RC モノグラフ№ 80 1)による

IARC による発がん性の分類

[参考資料]1)�「IARCモノグラフ第80巻� ヒトに対する発がんリスクの評価:非電離放射線� 第1部:静的および超低周波の電界および磁

界」“Non-Ionizing�Radiation,�Part�1:�Static�and�Extremely�Low-Frequency(ELF)�Electric�and�Magnetic�Fields”,�IARC�Monographs�on�the�Evaluation�of�Carcinogenic�Risks�to�Humans,�80,�IARC(国際がん研究機関)(2002)http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol80/index.php

動物研究の証拠

十分 限定的 不十分

疫学研究の証拠

十分 1 1 1

限定的 2A 2B 2B

不十分 2B 3 3

※ 疫学研究での「限定的」な証拠とは?ばく露とがんの間に正の相関が認められ、因果関係の説明は信頼できるものと認められるが、偶然、バイアス(偏り)および交絡因子を納得できる信頼性をもって除外できない場合