タイルの剥離・剥落等に関する 瑕疵担保責任・不法⾏為責任...
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タイルの剥離・剥落等に関する瑕疵担保責任・不法⾏為責任の成否
匠総合法律事務所弁護士 秋 野 卓 生
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リスクを避けるには、リスクを知ること。
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リスク…危険に遭遇する可能性法的紛争に遭遇する可能性損害賠償義務など
法的責任を負う可能性
住宅建築実務における3つの責任+(プラス)1
住宅建築実務における法的責任3+1
⺠事責任 ⺠法・商法
3
刑事責任刑法
公法上の責任建築基準法建築士法、等
損害賠償義務
⾏政処分刑罰
+ 社会的責任
基礎知識︓契約に基づく責任
•契約とは「約束」である。ex.売買契約、請負契約
業務委託契約(設計監理)•約束を果たす責任•約束を果たさなかったことによる責任
→ 債務不履⾏責任→ 瑕疵担保責任(完成・引渡し後)
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30足りなかった。(瑕疵)
30
30足さなければならない。
(瑕疵修補又は損害賠償)
100の品物を約束して、100の代⾦を支払った。
瑕疵によって生じた損害を賠償しなければならない。
瑕疵担保責任の例
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契約に基づかない責任・不法⾏為•故意・過失によって、他人の権利・利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する義務を負う。
加害(瑕疵)
故意・過失6
民法724条「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者
またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする」
最長20年間責任追及が可能
瑕疵担保責任期間が満了した建物について、裁判所は、この不法行為責任を住宅会社に負わせる法律構成によって、消費者を救済する事が可能
法的責任が問われる期間
•瑕疵担保期間を経過した場合でもOK(契約の当事者間においても問題とな
る)
【重要】最高裁平成19年&23年判決
•建物利⽤者等に対する関係でも、建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負う•基本的な安全性を損なう瑕疵
–現実的な危険+放置による危険の現実化•瑕疵による生命・身体・財産侵害
→ 損害賠償責任を負う
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契約責任と不法⾏為の違い契約責任
•誰と︖→契約の当事者間
•責任の内容→契約で決まる
•責任期間→引渡しから10年、契約により短期間
不法⾏為•誰と︖→誰とでも
•責任の内容→社会通念で決まる•責任期間→知って3年、
⾏為時から最⻑20年12
「瑕疵」の違い︖契約責任
+プラス•当事者間で特に合意した性能を基準
不法⾏為
通常有するべき性能を欠く場合
•建築当時の法令、技術的知⾒を
基準
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タイルの剥離・剥落等に関する法律相談が増加傾向にある。
(築年数が10年以上経過した物件についてのトラブル案件が多い)
最⻑で建築後20年まで不法⾏為責任の成否が問題となるケースもある。
タイルの剥離・剥落等に関する法律相談の増加
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これを放置した場合に,例えば,外壁が剥落して通⾏人の上に落下したり,開⼝部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利⽤者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏⽔,有害物質の発生等により建物の利⽤者の健康や財産が損なわれる危険があるときには,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが,建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は,これに該当しない。
タイルに関する不法⾏為責任の成否最判平成23年7月21日
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タイルに関する不法⾏為責任の成否最判平成23年7月21日
タイルが剥落等した場合歩⾏者や居住者の上に落下して人身被害が生じるおそれがあり,不法⾏為責任が成⽴しやすい。
単にヒビが入ったにすぎない場合建物の美観の範囲等に含められるものとして,不法⾏為責任は否定される傾向にある。
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【事案の概要】被告の販売した建物外壁タイル工事⽤の接着剤を使⽤して外壁工事を⾏った原告が,施工後に,⼀部の住宅において,本件接着剤が視認できる程度に褪⾊する(⽩⾊になる)現象が生じたとして,被告に対し,不法⾏為に基づき,補修等に要した費⽤等の損害賠償を請求した。
⾏為者の故意・過失東京地判平成24年12月26日
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【理由の要旨】本件接着剤について⽩化が生じたのは,全施工数の6分の1程度にとどまり,本件接着剤が,いかなる条件の下で,本件メカニズムにより⽩化するかは,現時点で明らかになっていない。被告において本件メカニズムを具体的に認識し得たことを認定するに足りる的確な証拠はない。被告が,本件接着剤が本件メカニズムに限らず,本件のような⽩化現象を発生させることを認識し得たことを認めるに足りる証拠もない。
⾏為者の故意・過失東京地判平成24年12月26日
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⾏為当時,⽩化現象が生じるメカニズムすら判明しておらず,予⾒可能性がなかったことを理由に故意・過失を否定している。
⾏為者の故意・過失東京地判平成24年12月26日
タイルの剥落等が生じた場合であっても,剥落の原因が何なのか,⾏為当時,そのような原因から剥落等の結果が生じるということを予⾒できたかという点から,故意・過失が否定され,不法⾏為責任を負わない場合もあり得る。
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標準的な施工⼿順が確⽴されていないながらも,メーカー指定工法と異なる施工⽅法をあえて採った場合には故意・過失が肯定された事例と対比。
→京都地判平成21年11月10日
⾏為者の故意・過失東京地判平成24年12月26日
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【事案の概要】外壁施工業者が,標準的な施工⼿順が確⽴されていない工事に,メーカー指定工法と異なる施工⽅法を採⽤したことにより,壁面に施工されたパーマ・ストンの8%に剥離が生じたとして,不法⾏為に基づき損害賠償請求をした事案
施工業者が負う注意義務京都地判平成21年11月10日
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【理由の要旨】外壁材が剥落しないことは,建物の基本的安全性にか
かわる事項であるところ,タイルの場合,経年によって剥離や落下の危険性が生じることは公知の事実であって,施工によってその危険性を零にすることはできないから,施工業者が負う注意義務は「外壁材が剥離・落下することのないように施工すべき義務」ではなく,「施工⽅法が原因で外壁材が剥離・落下することのないように施工すべき義務」である。その注意義務に違反した結果,施工⽅法を原因とする外壁材の剥離・落下が生じた場合には,施工業者は,居住者等に対し,不法⾏為上の責任を負う。
施工業者が負う注意義務京都地判平成21年11月10日
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外壁材が剥離・落下することのないように施工すべき義務
施工⽅法が原因で外壁材が剥離・落下することのないように施工すべき義務
施工業者が負う注意義務京都地判平成21年11月10日
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【事案の概要】7階建てマンション建築工事の発注を受けた元請会社である原告が,下請会社である被告に対し,その孫請けである訴外会社において施工した外壁タイル工事について,施工及び引渡しから約4年半後にタイルの剥離剥落の事故が発生したため,施工上の瑕疵等を原因として原告の負担で大幅な外壁改修工事を余儀なくされたと主張して,瑕疵担保,債務不履⾏又は不法⾏為に基づき,損害賠償を求めた事案
施工業者が負う注意義務東京地判平成22年11月19日
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【理由の要旨】本件不具合は,コンクリートの表面が平滑であったこと,コンクリートの部分補修に使⽤した補修モルタル材料あるいは塗付⽅法,張付モルタルの塗付⽅法などが複合して接着⼒に影響し,初期の接着⼒が不足し,施工後の温湿度変化による接着界面の繰り返し伸縮作⽤を受けて早期に接着⼒を喪失し,剥離・剥落に繋がったものと推定するのが相当である。そして,タイル工事の施工に際しては,コンクリートの表面の状態に応じてタイルの張付工事をすべきであり,これは,下請業者である被告の施工及び施工管理の問題である。
施工業者が負う注意義務東京地判平成22年11月19日
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【事案の概要】購入したマンションの外壁タイルに剥離・剥落が発生した場合,マンションに瑕疵があるとして,売主の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任が認められた事例
福岡高判平成18年 3月 9日財産的損害
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【理由の要旨】築マンションの共⽤部分の外壁タイルに大規模な補修工事を要する瑕疵がある場合に,補修によりその機能上の問題が解消された後においても,その瑕疵に起因して⼀般的に受ける不安感・不快感が認められることなどにより,区分所有権の交換価値が低下しているなど判示の事情の下では,区分所有者は,売主の瑕疵担保責任に基づき交換価値の低下分について損害賠償を請求することができる。
福岡高判平成18年 3月 9日財産的損害
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瑕疵が顕在化したことによって生じた不安感・不快感に基づく経済的価値の低下等
も財産的損害額に加味。
売買契約の事例ではあるが・・・請負契約の場合の損害額を判断するにあたっても,⼀定の参考になると思われる。
福岡高判平成18年 3月 9日財産的損害
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①下請より提出される施工要領書/施工計画書⇒保管すべき。
専門業者に下請に出す工事の場合、詳細な事前資料の提出を受け、承認の上、進めるのが通例。具体的には、タイルの性状(大きさ、焼き物の種類、接着面の形状、厚さ・重さ)・張付け工法(接着の材料・⽅法、シート張りか否か、等)・下地処理(下地材の種類、下地塗の厚さなど)の内容について記載されたもの。
⑴ 責任追及に備えて保管しておくべき資料保管しておくべき資料
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②下請より提出される施工結果報告書(施工写真を含む)
⇒保管すべき。
施工要領書/施工計画書に沿って工事がなされたかを報告する内容。適切な施工がなされていたか否かを確認する資料として有⽤。
⑴ 責任追及に備えて保管しておくべき資料保管しておくべき資料
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③設計図書(仕様書含む)⇒保管すべき。
遵守すべきであった施工⽔準を、発注者との間の契約内容から確認するにあたっては、設計図書の確認作業が必要になろう(経験上、紛争になっている案件では、下請からの施工要領書と施主との間の契約内容に齟齬が生じていることが多い)。
⑴ 責任追及に備えて保管しておくべき資料保管しておくべき資料
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④工事監理報告書⇒必ずしも保管を要しない。
タイル張りの品質管理は、施工管理の範疇であって、工事監理によって把握できる範疇ではない。
⑴ 責任追及に備えて保管しておくべき資料保管しておくべき資料
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①下請より提出される施工要領書/施工計画書
法律上この書類の保管期間を定めるものはない。
⑵ 各資料の法定の保管期間保管しておくべき資料
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②下請より提出される施工結果報告書(施工写真を含む)
法律上この書類の保管期間を定めるものはない。
⑵ 各資料の法定の保管期間保管しておくべき資料
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③設計図書(仕様書含む)
建築士事務所の開設者︓15年間※建築士法施⾏規則第21条5項建設業者︓10年間※建設業法施⾏規則第28条2項
⑵ 各資料の法定の保管期間保管しておくべき資料
営業に関する図書とは︖⼀ 建設工事の施工上の必要に応じて作成し、又は発注者から受領した完成図(建設工事の目的物の完成時の状況を表した図をいう。)二 建設工事の施工上の必要に応じて作成した工事内容に関する発注者との打合せ記録(請負契約の当事者が相互に交付したものに限る。)三 施工体系図
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④工事監理報告書
建築士事務所の開設者︓15年間※建築士法施⾏規則第21条5項
⑵ 各資料の法定の保管期間保管しておくべき資料
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①瑕疵担保責任︓10年間※⺠法638条1項但書
②不法⾏為責任︓最⻑20年※⺠法724条
⑶ 各法的責任の責任追及可能期間保管しておくべき資料
一級建築士兼弁護士、及び、技術士(建設部門)兼弁護士が在籍。
福岡にて最強弁護士チーム組織ができます。
代表社員弁護士
秋野 卓生一級建築士兼 弁護士
菅谷 朋子
技術士(建設部門)兼 弁護士
江副 哲
福岡事務所常駐弁護士
内田 創
所属弁護士19名
数多くの勝訴・勝訴的和解の実績
【太陽光パネルからの反射光裁判控訴事件】
日経ホームビルダー2013年5月号 13ページ 掲載
東京高等裁判所平成25年3月13日判決平成24年(ネ)第3796号太陽光発電パネル撤去等請求控訴事件
当事務所が住宅会社代理人を務め、高等裁判所にて逆転勝訴を得た本判決は、住宅業界において高い評価を受けております。
多数の執筆・マスコミ記事掲載を誇るオピニオンリーダー
日経ホームビルダー2015年10月号 No.167 42-43ページ 掲載
業界団体の法律顧問弁護士日本で唯一の住宅業界を専門とする法律事務所である「匠総合法律事務所」の代表社員で、住宅関係団体の顧問弁護士や各種業界紙の執筆をするなど業界のオピニオンリーダーとして活躍しています。
東京・大阪・名古屋・仙台・福岡の全国5拠点にて万全のサポート体制
最新の法律相談事例・紛争解決事例が豊富
最新の法律相談事例・紛争解決事例を各拠点間で共有することにより,匠総合法律事務所の豊富な経験と実績を基礎としたリーガルサービスを実現します。
・建設業法違反事件・建築士法違反事件の数多くの実績
・欠陥についての住民説明会対応に強み
豊富な経験が、
企業の信用失墜を最小限で食い止める。
企業不祥事発生時の対応に強み
・請負契約書作成・改訂・最新の国交省政策の解説&事業戦略サポート
「あったらいいな」と思う法務サービス
・経営危機の際には、仕掛かり物件の完工に力を発揮します。
最後に
今回は、ご静聴いただき、どうもありがとうございました。
弁護士法人匠総合法律事務所は、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の5拠点体制を構築致しました。
全国の住宅・建築・設計・不動産・土木の分野における最先端の各種法律問題を取り扱う社会的意義の高い法律事務所として成長して参りたいと考えております。
今後とも、ご指導・ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。