意思決定支援におけるジレンマ...
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意思決定支援におけるジレンマ(リスク管理と安全性)
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平成29年7月5日(水)社会福祉法人 北九州市手をつなぐ育成会
松崎 貴之
<福岡県>
北九州市
北九州市ってどんなところ?
人口 97万人、面積 488㎢・7つの行政区で構成
海もあって山もある!医療機関、子育て環境がゆたか!
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北九州育成会の状況 北九州市内で事業展開32の事業所/44のGH活動と暮らしを総合的にサポート
利用者数1000人以上/日職員数約440人
育成会会館(本部/中部)
育成会西部会館
育成会東部会館
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29年度 施設・障害福祉サービス
事業 計 事業 計
就労移行支援 46人 グループホーム44ヵ所211人
就労継続B型 248人 ヘルパー(居宅介護) 67人
就労継続A型 54人 ヘルパー(移動支援) 210人
通所型自立訓練 18人 ヘルパー(行動援護) 3人
宿泊型自立訓練 50人 短期入所4ヶ所23名
生活介護 274人 放課後等デイサービス5ヶ所60名
施設入所支援 30人 合計 1,294名
定員数。ヘルパーは契約者数。
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意思決定支援
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意思決定の基礎~自立と自己決定
障害者の自立は自己決定が根底にある!
経済的自立?
職業的自立?
自分の生き方や生活について、自由に決定すること!
自分のことをすべて自分でできること!
自己決定
自立とは?
※自己決定を支える「意思決定支援」は、人間存在の核心部分に関わる重要な支援!
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意思決定支援は「支援付き意思決定」
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自己決定
本人の意思を推定して決定
支援付き意思決定
意思決定支援のジレンマ
「ジレンマ」とは?
ある問題に対して2つの選択肢が存在し、そのどちら
を選んでも何らかの不利益があり、態度を決めかねる状態
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できる限り本人に意思決定をしてもらえるように支援したいけど、じっくりと手間と時間をかけ
て支援をしている余裕がない!!
支援現場のジレンマ
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意思決定支援に関する実態調査【(社福)北九州市手をつなぐ育成会】
<調査方法、内容>
○実施時期:24 年11月20 日~25 年1 月9 日
※一定期間、集中的に観察して記録する
○対象:通所 5事業所、入所 1施設、地域系 2事業所
○方式:研究員による現場の支援状況の観察/書き取り記録
①利用者と支援員のやりとりの場面を、状況が分かるように観察・記録する。
②観察する場面の選定は研究員に一任。
③場面に対する配慮事項等の補足説明を加える。
④集めた記録を総括し、考察する。
○結果:106件の事例が集まった。10
分析結果から抽出された課題
①説得的コミュニケーションやパターナリズムによる対応が
非常に多い(46件/106件中)
②職員の意識不足
・・・利用者の意思を尊重しなければならないという意識が低い。これがないと、アプローチ自体が不成立。利用者の表面的な要求に迎合し、本当に必要な支援を行わない主体性のない対応。
③職員の知識・スキル不足
・・・意思決定支援とはどのようなもので、何に配慮して行えばよいのか、どのような方法で進めればよいのか、といった知識やスキルが不足している。
④障害特性に応じた対応の難しさ
・・・職員が努力しても、障害特性によっては対応が難しい。11
分析結果から抽出された課題
⑤職員の対応の不統一
・・・複数の職員で関わるときに、それぞれの方向性がバラバラで利用者が混乱しているケースが見られる。
⑥職員の時間・余裕のなさ
・・・職員がいつも時間に追われて対応しているとき、意思決定支援を行う余裕がなくなり、説得的コミュニケーションで結論を急ぐ傾向がある。
⑦選択肢等の準備不足
・・・事前に何の準備もなく、ただ選択を迫られても、利用者は選ぶことは難しい。
⑧失敗できる環境が用意されていない
・・・利用者の選択を尊重するためには、取り返しのつく範囲で失敗を許容する環境設定が必要である 12
説得的コミュニケーション
行ってもいいけど・・・
次の日曜、飲み会に誘われたんだけど、どうしたらいい? 月曜日、きつい
んじゃない?
Bくんも行くしさ先々週もそう言って朝起きれなかったよねう~ん・・・
お金も今月厳しいよね
う~ん・・・
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リスクコミュニケーション
行ってもいいんじゃない?
でも、遅くなったら月曜日がきついよ
お金も今月厳しいしね
考えてみて
次の日曜、飲み会に誘われたんだけど、どうしたらいい?
どうしようかな~・・・
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支援現場のジレンマ
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人がいない!
時間がない!
次の予定が迫っている!説得的コミュニケーションの多用
支援者の都合の良い結論への誘惑
配置基準/支援力の厳しさ
チームによる支援
計画的事業推進
利用者と支援者の成長
など
など
リスクコミュニケーションを心がけ
利用者の結論を待つ支援
リスク管理と安全性のジレンマ
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最終的に行き着くジレンマ
本人の決定が必ずしも本人にとって有益ではないと言い得るときがある・・・
※命の危険の回避※取り返しのつかない大きな失敗の回避
⇒「パターナリズム」の行使(強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益になるようにと、本人の意志に反して行動に介入・干渉すること)
⇒でも、あまり安全性ばかりが強調されない方が良い「ここまでなら大丈夫!」 チームで共有しておく
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事例 1人暮らしを目指す利用者の買い物支援
【ケース概要】・宿泊型自立訓練事業の利用3年目。21歳男性。・企業で就職。月給12万円と2級年金で生活。・新年度から、宿泊型自立訓練を退所して一人暮らしへ移行する予定。・グループホームにするか、一人暮らしにするか、悩んだ結果、一人暮らしを選択した。・現在、施設内の自立生活体験室で一人暮らしの模擬体験をしながら、新生活の準備をしている。本人は自分の選択に自信が持てていない様子もあり、準備をしながら、具体的なイメージを膨らませつつ、本人の選択を支えていく支援を行っている。
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17,000円
ジーパン、
コート、セーター、パーカー
が欲しい
12,000円
ジーパン
すごくお似合いですヨ!
大丈夫デスか?じゃあ、試着を・・
お願いします
【買い物支援の場面で】
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入ったことのないお店に行くのは苦手だし、緊張する
正直、金額を確認して高いなとは思ったが、試着し女性店員に似合うと言われ買う気になってしまい、他の買い物までは頭が回ら
なかった
どんなきっかけであれ「本人が買いたい」と決定したものを受け入れることも大事であったかもしれないそのままジーパン
を購入することも一つの経験になっ
たかも
事前に購入リストを決めていたから声をかけた
【振り返り】
現場の支援員が直面するジレンマ
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Aさんの「一人暮らし」を応援する方向で支援方針は一致していた。
買い物の場面では、Aさんと支援員の2人だけ。他の人には相談できない。
“支援員の目から見れば”失敗だと思える選択。
介入の声掛けをしたことが良かったのか?
残りの買い物ができなくなる失敗の経験をさせてあげることが良かったのか?
ジーパンが8,000円だったらどうしただろうか?
15,000円なら?
意思決定支援能力の向上を
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このようなジレンマは、完全になくなることはない。
正解があるわけでもない。
どこまでいっても、「程度問題」。
支援者の意思決定支援に関する知識や技術、経験等、様々な準備が整っていれば、かなりのところまで許容することができる。
支援者や社会の側の「意思決定支援能力」の問題なのだと認識すること!
努力するのは障害のある人ではなく、私たち支援者の方!
現場の支援員が直面するジレンマ
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定員30名の宿泊型には施設長含め支援員は6人しかいない。
意に反した商品を購入した際の返品作業を他の利用者30名にも同じように支援するのは正直厳しい。
「取り返しのつかない程の失敗」ではないとしても。
失敗を含めて経験してもらうための支援には、時間や人手、心の余裕が必要。
意思決定支援能力の向上を
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「ジレンマ」が完全になくなることはないとしても、それを解きほぐすための近道は、意思決定支援に真摯に取り組んでいくことなのではないか?
自分たちが努力すればするほど、障害のある本人の決定が自己決定に近づいていき、経験が蓄積されて、より主体的な自己決定ができるようになっていく。
そうなれば、意思決定支援にかかる支援者の負荷は逆に下がっていき、手が離れていくこともあるかもしれない。
ご清聴ありがとうございました
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