欧州のバイオディーゼル燃料の最新動向jpec レポート 5 hvo は、原料はfame...

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JPEC レポート 1 平成 27 12 25 欧州のバイオディーゼル燃料の最新動向 欧州では、欧州連合(EU28 ヶ国加 盟)が地球温暖化防止の観点から、温室 効果ガス(GHGGreen House Gasの大幅削減を目標に、 2009 年に発効した 再生可能エネルギー指令( RED Renewable Energy Directive)により加 盟国に厳しい目標値を設定している。 2015 12 11 日まで、フランスのパリ で開催されていた国連気候変動枠組条約 21 回締約国会議(COP21、参加国・地 域:196)では、地球温暖化対策の新しい 枠組みである「パリ協定」が採択され、今ま で以上の温暖化防止への取り組みが期待 されている。 今回の報告では、EUでのGHG削減対策の1つとして取り組みが進んでいる、生物由来 のディーゼル燃料であるバイオディーゼル燃料(BDFBio Diesel Fuel)の導入の動向に 関して報告する。なお、本稿は、JPECレポート 201415号の続報としての位置付け でもある。 1 欧州の自動車燃料の状況 欧州では従来から、ディーゼル エンジンはガソリンエンジンと比 較して、熱効率が高く燃費に優れ、 地球温暖化への影響(CO2 排出量) も少ないとされてきた。また、前 述の観点を背景に、約 20 年前か らディーゼル燃料への消費税優遇 措置などもあり、乗用車の新車登 2 2 2 0 0 0 1 1 1 5 5 5 2 2 2 4 4 4 1 欧州の自動車燃料の状況 1 2 EU の再生可能エネルギー指令 3 3 バイオディーゼルの概要 4 4 EU のバイオディーゼルの状況 6 4-1 バイオディーゼルの普及状況 6 4-2 バイオディーゼルの消費動向 7 4-3 バイオディーゼルの生産能力動向 8 4-4 バイオディーゼルの生産動向 9 4-5 バイオディーゼルの原料動向 10 4-6 HVO の普及動向 11 5 その他(EU の電気自動車普及状況) 12 6 まとめ 12 1 欧州各国のディーゼル乗用車比率 (出所:ACEA

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JPECレポート

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平成 27年 12月 25日

欧州のバイオディーゼル燃料の最新動向

欧州では、欧州連合(EU、28 ヶ国加

盟)が地球温暖化防止の観点から、温室

効果ガス(GHG、Green House Gas)

の大幅削減を目標に、2009 年に発効した

再生可能エネルギー指令(RED、

Renewable Energy Directive)により加

盟国に厳しい目標値を設定している。

2015年12月11日まで、フランスのパリ

で開催されていた国連気候変動枠組条約

第 21 回締約国会議(COP21、参加国・地

域:196)では、地球温暖化対策の新しい

枠組みである「パリ協定」が採択され、今ま

で以上の温暖化防止への取り組みが期待

されている。

今回の報告では、EUでのGHG削減対策の1つとして取り組みが進んでいる、生物由来

のディーゼル燃料であるバイオディーゼル燃料(BDF、Bio Diesel Fuel)の導入の動向に

関して報告する。なお、本稿は、JPECレポート 2014年 第15号の続報としての位置付け

でもある。

1 欧州の自動車燃料の状況

欧州では従来から、ディーゼル

エンジンはガソリンエンジンと比

較して、熱効率が高く燃費に優れ、

地球温暖化への影響(CO2排出量)

も少ないとされてきた。また、前

述の観点を背景に、約 20 年前か

らディーゼル燃料への消費税優遇

措置などもあり、乗用車の新車登

JJJPPPEEECCC レレレポポポーーートトト 222000111555 年年年度度度 第第第 222444 回回回

1 欧州の自動車燃料の状況 1

2 EU の再生可能エネルギー指令 3

3 バイオディーゼルの概要 4

4 EU のバイオディーゼルの状況 6

4-1 バイオディーゼルの普及状況 6

4-2 バイオディーゼルの消費動向 7

4-3 バイオディーゼルの生産能力動向 8

4-4 バイオディーゼルの生産動向 9

4-5 バイオディーゼルの原料動向 10

4-6 HVO の普及動向 11

5 その他(EUの電気自動車普及状況) 12

6 まとめ 12

図 1 欧州各国のディーゼル乗用車比率

(出所:ACEA)

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録台数に占めるディーゼル車の割合は高い比率(2014 年 欧州域内 新規登録乗用車で約

54%、なお、日本・米国・中国は同年約 1~2%)を維持している(図 1 参考)。

しかし、2015年に発覚したVW(フォルクスワーゲン)社製ディーゼル車の環境関連デ

ータの偽装問題やパリ市のディーゼル車の排ガスによる環境汚染(NOX および PM2.5)

の深刻化などにより、ディーゼル車に関する評価の見直しが行われている。2015 年 EU

各国の新車登録ベースではガソリン車が多数を占め、今後更にガソリン車の比率が高くなると見

られている。自動車保有台数でも前述の状況から、2020 年頃にはディーゼル車の比率は 3 割

程度に落ち込むとの予想もある。しかしながら、欧州では今でも多くのディーゼル車が使用

されている。

図 2 EU(28ヶ国)の国別 自動車用燃料需要(2014年)

(出所:FuelsEurope掲載 、Wood Mackenzle)

欧州の石油精製業界団体のHP「FuelsEurope」に掲載されている 2014 年のEU 国別

自動車用燃料消費量によると、ガソリンの需要がディーゼルの需要を上回っているのはギ

リシャのみで、フランスでは特にディーゼル比率が自動車用燃料需要の 80%を超える状

態となっている(図 2参照)。

赤字:ガソリン

黄字:軽油

(単位:百万トン/年)

(単位:百万トン/年)

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なお、国土交通省の統計資料「自動車燃料消費量」によると、日本の平成 26年度の実績

はガソリン約 100万BPD、軽油約 41万BPDである。また、米国エネルギー情報局(EIA)

の統計資料によると、2013 年 米国の消費量は、ガソリン約 884万BPD、ディーゼル燃料

を含む留出油は約 382万BPD となっている。

①EU 全体エネルギー消費に占める再生可能エネルギー割合 20%の達成

②自動車燃料に占めるバイオ燃料割合 10%の達成

再生可能エネルギー導入に関しては、各国ごとに 2020 年までのGHG 排出限度やエネ

ルギー最終消費に占める再生可能エネルギーの割合が設定されている。なお、EU 加盟国

間では「Cooperation Mechanisms」と呼ばれるシステムにより、目標達成が困難な国を

達成可能国が補完することになっている。このシステムは、再生可能エネルギー資源に恵

まれていない国の開発コストを考慮したもので、EU 全体で目標を達成することを目的と

している。

自動車用燃料に関しては、EU 加盟国一律の達成目標になっている。2015 年 4 月 欧州議

(単位:百万トン/年)

図 2 欧州のガソリンとディーゼル燃料油の貿易 (2013年)

(出所:Eurostat)

図 1 EUの国別 自動車用燃料(2014年)

(出所:Wood Mackenzle)

赤字:ガソリン

黄字:軽油

(単位:百万トン/年)

(単位:百万トン/年)

このように従来から欧州は軽油需要が多く、日米はガソリン需要が多い傾向が長く続い

ている。このため欧州から余剰ガソリンが米国などに輸出され、一方欧州には不足してい

るディーゼル燃料がロシアおよび米国などから輸入されている(図 3 参照)。

赤字:ガソリン

黄字:軽油

図 3 欧州のガソリンとディーゼル燃料油の貿易 (2013年)

(出所:Eurostat)

2 EU の再生可能エネルギー指令

EUの再生可能エネルギー指令(RED 2009/28/EC)では、下記の 2020年までの達成目標

が掲げられている。

(単位:百万トン/年)

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会で修正議案が承認され、食用作物を原料として製造されるバイオ燃料の自動車用燃料での割

合は最高 7%に制限し、2020年の 10%目標達成には非食用原料の使用を義務付けている。

EU の再生可能エネルギー指令(RED)では、バイオ燃料の GHG 削減効果を明確に把握

するため下記が要求されている。

① 使用する原料の素性を、耕作または製造の時点まで遡って明らかにすること。従来曖

昧であった間接的土地利用変化要因「Indirect land use change (ILUC) factors」に

関しても、報告事項に含める必要がある。

② 製造される再生可能燃料は、最低でも化石燃料に対する GHG削減効果が全ライフサ

イクルを通して 35%以上であること。(ただし、既設製造設備に関しては、2017 年以降

50%以上、2017年以降の新設装置では 60%以上が求められる。)

③ サプライチェーンを通して、再生可能基準を満足すること。

また、バイオディーゼルの原料に関しても、調達先毎にGHG発生量を計算により求めることに

なっており、計算前提や方法が細かに定められている。

3 バイオディーゼルの概要

バイオディーゼルに関する米国農務省(USDA)のデータでは、2013 年の世界の消費量は

2,490 万 kℓ(約 42 万 9 千 BPD)で、欧州で消費されているものが約 50%である。欧州では、

1992年からバイオディーゼルの工業生産が始まっている。

バイオディーゼル燃料は、現在商業化されているものとしては下記 2種類に分類できる。

① 脂肪酸メチルエステル(FAME:Fatty Acid Methyl Esters)

② 水素化植物油(HVO:Hydrotreated Vegetable Oil)

現在製造されているバイオディーゼルの大半が、植物油や動物油脂などの原料をエステ

ル交換反応で軽質化して得られる FAMEである(図 4参照)。FAMEは、物理性状が在来型

の石油系ディーゼル燃料に類似しており、第一世代のバイオディーゼル燃料として広く使用さ

れ、在来型ディーゼル燃料に最大 7%の混合が認められている。

図 4 エステル交換反応

Cat(*)

(注意 R:アルキル基、

Cat : Catalystの略、触媒)

油脂 メタノール グリセリン FAME

(*)

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HVO は、原料は FAME とほぼ同じであるが、水素化処理により製造された(芳香族、酸

素および硫黄分を含まない)直鎖パラフィン系炭化水素であり、高いセタン価を有している。

原料として植物油以外のものも使用されているが、今までの流れから水素化して製造されるバイ

オディーゼル燃料はHVO と呼ばれている。

なおHVO は、HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)と表記されることも

ある。また HVO は、石油系ディーゼル油と制限なしに混合ができ、追加改造投資をする

ことなく石油系ディーゼル関連設備が使用可能である(表 1 参照)。ただし、HVO は石油

系ディーゼル燃料に比べ密度が低いため、ディーゼル製品規格の制約から HVO の混合比

率は制限される(2014年第 15回 JPECレポート P4 参照)。

HVO、BTL(Biomass to Liquid)およびGTL(Gas to Liquid)で製造されるパラフ

ィン系自動車用燃料基材に関しては、欧州標準化委員会(CEN、Comité Européen de

Normalisation)によりCEN TS 15940として 2012年 9月に技術的な仕様が定められて

いる。また 2015 年 9 月 RED(98/70/EC)を修正補完する形で、バイオ原料以外の再生

可能液体および気体輸送用燃料などが追加承認されている。

品種名 試験方法 Diesel FAME HVO

(NEXBTL)

該当規格 EN 590(2013) EN14214(20

09)

セタン価 EN 15195 ≧51 > 70

密度(15℃) kg/m3 EN ISO 12185 820~845 860~900 770~790

動粘度(40℃) mm2/sec EN ISO 3104 2.00~4.50 3.50~5.00 2.00~4.00

多環芳香族 %(m/m) EN 12916 ≦8.0 < 0.1

硫黄分 mg/kg EN ISO 20846 ≦10.0 <10 < 5.0

引火点 ℃ EN ISO 2719 > 55 ≧101 > 61

残留炭素 %(m/m) EN ISO 10370 ≦0.30 ≦0.30 < 0.10

灰分 %(m/m) EN ISO 6245 ≦0.01 <0.001

水分 mg/kg EN ISO 12937 ≦200 ≦500 <200

酸化安定性 g/m3 EN ISO 12205 ≦25 <25

FAME含量 %(V/V) EN 14214 ≦7.0 ≧96.5 0

曇り点(CFPP) ℃ EN 23015/115 down to -34 (≈-5) -5~-34

発熱量(低位) MJ/ℓ 35 33 34

蒸留範囲 ℃ 170~370 NA 180~320

炭化水素鎖長 C9~C26 C14~C18

主成分 芳香族、ナフテン系

パラフィン系 パラフィン系

製品安定性 安定 不安定 安定

燃料換算係数 1 0.91

表 1 ディーゼル規格と FAME、HVOの主要性状比較

(出所:CEN、Neste 社のNEXBTL)

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4 EU のバイオディーゼルの状況

4-1バイオディーゼルの普及状況

米国農務省(USDA)によると、EU の自動車用燃料に占めるバイオディーゼル燃料の

消費量は、2011~2012 年がピークであるが、各統計数字の調査方法で同一レポート内で

も異なることが多いので傾向把握が重要である(参照表 2、図 5)。

バイオディーゼル消費量は、EU の中期予測では、自動車用燃料の全体消費量に関して自

動車用ガソリンは今後漸減していくと推測している。しかし最近は、ガソリン車の新車購入比率が

上昇しており、一方ディーゼル車の占有率は今後減少していくと推測され、ディーゼル消費量も

減少すると考えられる。

2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年

バイオディーゼル消費量 9,357 10,222 10,721 11,492 10,293 10,400

ディーゼル消費量 197,160 201,352 201,670 198,248 197,484 198,000

混合率 (%) 4.7 5.1 5.3 5.8 5.2 5.3

表 2 EUのバイオディーゼルと自動車用燃料消費量 (単位:千 toe)

図 5 EUのバイオディーゼル燃料の生産と消費

(出所:USDA、EU Biofuels Annual 2015)

(単位:千BPD)

(出所:USDA Foreign Agricultural Service 「EU Biofuels Annual 2015」

図 5 EUのバイオディーゼル燃料の生産と消費推移

(出所:USDA 、EU Biofuels Annual 2015)

(2014年:推定値、2015・2016年:予測値)

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バイオディーゼルの従来型燃料への混合率も、2012 年のピークの 5.8%から減少する見込

みである。この減少原因としては、特別な原料(主に廃食用油)から製造されたバイオ燃料

を、2倍以上の倍率でカウントすることが可能な「2倍方式」の影響が大きいと報じられて

いる。

EU のバイオディーゼル製造工場数は、2006 年には 119 ヶ所であったが、消費量の伸び

に応じて 2012年には 268 ヶ所まで増加した。しかしながら、USDAの資料「EU Biofuels

Annual 2015」では、2013 年以降は減少に転じて 2014 年は 247ヶ所となっている。図 5 か

ら分かるように、製造工場数と製造能力の増加に消費量の伸びが伴わず、稼働率は 50%を

下回る状況である。

バイオディーゼルの輸入に関しては、2007年頃には米国から、2011年頃はアルゼンチンなど

から安価製品が EU市場に輸入されてきたため、2009年に欧州委員会でダンピング防止法を策

定している。EU は同法を適用し、2013 年 11 月からアルゼンチンとインドネシアの安価製品に

20%前後の追加課税を実施している。

4-2 バイオディーゼルの消費動向

EU のバイオディーゼル消費量が減少している国が複数みられるが、非食用作物を原料

とする第二世代バイオ燃料などの特別な原料を用いて製造するバイオ燃料に2倍方式を採

用した影響が大きい。ドイツでは 2007年から、スペインでは 2011 年から大きく影響が出

ている(図 6参照)。

図 6 EU主要国のバイオディーゼル・HVOの消費量推移

(出所:USDA Foreign Agricultural Service「EU Biofuels Annual 2015」)

(単位:千BPD)

(単位:千BPD)

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4-3 バイオディーゼルの生産能力動向

EU では現在、バイオディーゼル基材としてGHG 削減率 35%以上のものが使用を認めら

れている。なお、2017 年以降には、既設設備の場合 GHG 削減率 50%以上のものを使用

する必要がある。また、新設設備では 60%以上の基材使用となっている。ただし、2008

年 1月時点で、稼動済設備では 2013年 4 月から全体にルールが適用されている。

前述したようにバイオディーゼル製造工場数は、2014 年で 247 ヶ所と報告されている。

なお、製造会社の規模や製造装置の規模・製造能力も、農業団体の所有する年産 2,000ト

ン(約 43BPD)の設備から多国籍企業の所有する年産 80 万トン(約 1.7 万 BPD)の設

備までさまざまと言われている。

EU のバイオディーゼルの製造能力は、2009 年までに急激に増えたが、その後の原料価

格の高騰や米国からのバイオディーゼル輸入量の拡大などによる市場環境の悪化などによ

り、2010 年以降は変化が小さくなっている(図 7 参照)。USDA は、EU のバイオディー

ゼル製造能力は、2015~2016年は約 2,520万 kℓ(約 43万BPD)を維持すると予測して

いる。しかしながら、既に EU ではディーゼル車からガソリン車への購入シフトが進んでいる

こと、および原油価格の低迷の影響を受けて不採算工場の閉鎖が進む可能性もある。

最大のバイオディーゼル生産国であるドイツでは、2004~2008 年にかけて製造能力は約 4

倍に増加している。同国は、急激な製造設備の増設により 90%以上あった稼働率が 50%程度

に下がってきている。背景としては、バイオディーゼル 100%燃料(B100)に対する税金が 2005

年まで無税、2008 年まで大幅な減税措置が取られていたことが指摘されている。同国のバイオ

ディーゼル製造量は、B100 の販売量拡大効果もあり 2007 年にピークとなったが、減税措置が

終了した 2010年以降は製造能力および生産量は減少に転じている。

図 7 EU主要国のバイオディーゼル製造能力推移

(出所:European Biodiesel Board)

(単位:千BPD)

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4-4 バイオディーゼルの生産動向

EU のバイオディーゼル生産量は、域内消費量と域外からの輸入量により左右される。

なお域内消費量は、EU 各国の優遇税制の有無により大きく影響を受けており、バイオディーゼ

ル増産の障害にもなっている。なお、ベネルックスの生産量増加は、主に HVO の増加によるも

のである(図 8 参照)。

下記に個別企業のバイオディーゼル生産動向を紹介する。

・2014 年初頭 Musim Mas(インドネシア)は、Infinita Renovables から Ferrol(スペイン北

西部)にある工場(年産 30 万トン)買収した。前述により同社は、スペイン最大のバイオディーゼ

ル製造者になったが、製品販売先を確保することができず2015年1月から工場を停止している

と報じられている。

・2015年春 Avril Group(フランス)では、バイオディーゼルの製造能力を年産 300万トンから

270 万トンに切り下げたと報じられている。2015年 10 月 Saipol(同社の子会社)が Sete工場

に製造ラインを増設(1,300万ユーロを投資)し、バイオディーゼル(年産28万トン)、ナタネ穀物

(年産 34 万トン)および植物性グリセリン(年産 2.8 万トン)を製造すると発表している。なお、従

来のバイオディーゼル製造能力は年産 16万トンであった。

図 8 EU主要国のバイオディーゼル生産量推移

(出所:USDA 「EU Biofuels Annual 2015」)

(単位:千BPD)

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4-5 バイオディーゼルの原料動向

ナタネ油のGHG 削減率(代表値)が最大 45%程度に対して、廃調理油では 88%、パー

ム油でメタン対策を行った場合は 62%のGHG 削減率が期待できるため、今後の規制強化

に伴いGHG 削減率の大きな原料へのシフトが進むと考えられる(表 3参照)。

バイオディーゼル原料と生産方法 GHG削減効果

代表値

GHG削減効果

初期値

ナタネ油 45% 38%

ヒマワリ油 58% 51%

大豆油 40% 31%

パーム油(プロセスを特定しない場合) 36% 19%

パーム油(Methane capture at oil mill) 62% 56%

廃植物油または廃動物油 88% 83%

ナタネ水素化植物油 51% 47%

ヒマワリ水素化植物油 65% 62%

パーム水素化植物油(Methane Capture) 68% 65%

表 3 耕作地の用途変更を伴わない原料生産方法によるGHG削減効果

図 8 EU主要国のバイオディーゼル生産量推移

(出所:USDA 、EU Biofuels Annual 2015)

図 9 バイオディーゼル燃料用 原料の使用量推移

(出所:USDA 、EU Biofuels Annual 2015)

ナタネ油は、EU で最も使用されているバイオディーゼル原料であるが、ナタネ油の使

用量は徐々に減少傾向にある。これに対して、廃(回収)調理油とパーム油の使用量が伸

びている(図 9 参照)。

(出所:European Commission, RED、Indirect land use is not included)

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4-6 HVO の普及動向

HVOは、原料製造からの管理を徹底することで GHG削減率は最大 90%と報告されており、

原料に対する今後のGHG削減率の要求も満足できる。なお、新たに製造を開始するバイオリフ

ァイナリーもあるため、予測以上にHVOの生産量は増加する可能性が高い(表 4参照)。

2012年 2013年 2014年 2015年 2016年

ベネルックス 6.3 13.3 15.5 15.5 18.5

フィンランド 7.4 7.4 7.8 8.8 9.8

スペイン 1.3 3.1 6.5 6.9 7.3

合 計 14.9 23.8 29.8 31.2 35.6

欧州の石油精製各社は、2014 年半ばからの石油価格の低迷、自動車用燃料の需要減少、

アジアおよび中東の新設製油所との競争激化などから経営状況は厳しく、装置稼働率も上がら

ない状況になっている。以下に個別企業の動向を紹介する。

・Neste 社(フィンランド)は、HVO への取り組みが早く、2009 年からフィンランド(製造能力:約

7,400BPD)、2011年からオランダ(製造能力:約 15,700BPD)で製造されている。

・Cepsa社(Compañía Española de Petróleos S.A.、スペイン)は2011年から2ヶ所の製油所

で、また Repsol社(スペイン)は 2012年から 1 ヶ所の製油所でHVOの製造を開始している。

しかしながら、HVOは、価格競争力の点からFAMEバイオディーゼルに劣る等の理由で、消費

量は伸びていないと報じられている。

・UPM社(フィンランド)は、2015年 1月 トール油(松材からクラフトパルプ製造時の副成物)を

原料に HVO を製造する Lapperanta Biorefinery(製造能力:約 2,200BPD)を稼働し、既に

出荷を開始している。

・Total社(フランス)は、2015年 4月 同国南部にある La Mède製油所(操業開始:1935年、

精製能力 15.3万BPD)を、投資額 2億ユーロでバイオリファイナリー(HVO年産 50万トン=約

1万 BPD)に改造する計画を発表した。同社は、フランスの Axens社(フランス)の Veganプロ

セスを採用すると報じられており、改造工事は 2017 年の早い時期にスタートし 2017 年中頃に

は終了の計画である。

・Eni社(イタリア)は、2012年 Porto Marghera製油所(操業開始:1926年)を1億ユーロを投

資してバイオリファイナリー(新名称:Venice Refinery、HVO年産35万トン=80,000 BPD)に改

造すると発表した。同製油所は、Honeywell’s UOP社(米国)のEcofiningTM技術を採用しバ

イオディーゼルを製造する。なお、同製油所は、2014 年 6 月に稼働開始しており、同社が外部

購入している FAMEの 50%を置き換える計画である。

表 4 EUのHVO生産量推移と予測

(単位:千BPD、2015・2016年:予測値)

(出所:USDA Foreign Agricultural Service「EU Biofuels Annual 2015)

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・Eni社(イタリア)は、さらに 2015年 3月Gela製油所(精製能力:10.5万BPD)もHVO製造

工場に改造すると発表している。HVO 製造能力は、年産 75 万トンと報じられており、投資金額

は 2億~2.2億米ドルとされている。同社のHVO必要量は、年間 60万トンとされているため、

同製油所の改造が進むと 45万トンが外販される可能性がある。

5 その他(EUの電気自動車の普及状況)

自動車の排ガスによる大気汚染の対策として、欧州で注目されている電気自動車(EV)の年

間販売台数は、2010年に 760台、2014年には 7万台に達し、この増加傾向は 2015年前半も

維持されているとしている。2013年 EU代表部のHPでは、加盟 13ヶ国で 2020年に約 900

万台とされている。この増販の背景として、EV のモデル数が最近は約 30 種に広がったこと、

EU 域内での生産車が増えて EV 販売車に占める域内生産比率が 2011 年の 30%から 2014

年の 65%まで増えていることが報告されている。

2010~2014年のEVの販売数量が多い国は、オランダとフランスである。普及が進んでいる

国では、税金の優遇が背景にあると報告されている。

6 まとめ

2015年12月11日までフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約 第21回締約国

会議(COP21)では、地球温暖化対策の新しい枠組みである「パリ協定」が採択された。この結

果を受けて、更なる取り組みの強化が考えられる。

世界のバイオディーゼルの半分を消費してきた欧州も、ディーゼル車の排ガスによる都市部

の環境汚染の深刻化および VW の排ガスデータの偽装問題を受け、新車登録はガソリン車が

多数を占めるように流れが大きく変わってきている。

過剰生産設備を抱えた EU のバイオディーゼル業界では、今後とも税制優遇や割当法など

での政府支援を期待する報道が多い。しかし、今回の実績データからは税制変更などに振り回

されて操業が不安定になっている懸念がある。EUでは、原料規制が強化される 2017年までに

は、設備廃棄および原料選別が一層進んでいくと考えられる。

前述したCOP21の結果を受けて、EU各国の新たな対応が具体化してくると推定されるため、

今後の動向に注視していく必要がある。

Page 13: 欧州のバイオディーゼル燃料の最新動向JPEC レポート 5 HVO は、原料はFAME とほぼ じであるが、水素化処理により製造された(芳香族、酸

JPECレポート

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≪参照≫

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le-diesel

http://www.longhini.eu/Europe.html

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本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、

分析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは

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次回のJPECレポート(2015年度 第25回)は「カザフスタンの石油産業動向」を予定し

ています。