ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/36/...chu...

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-  - 50 はじめに ベトナムは長い間アジアの中で最も貧しい農 業国として位置づけられてきたが,1980年代に は食料不足時代を乗り越えて生産増加に成功 ,1997年には世界第 2 位の米輸出国となり1999年は国家目標値3000万トンを超える3140トンを達成したこうした増産成功の原因には農業近代化に向けたベトナムの制度改革や収量品種を軸とした近代技術の普及改善が挙 げられているしかし,2000年以降になると耕作面積の減少 と共に近年は単収も停滞気味になってきてお 肥料多投化による地力低下や農工間交易条 件の悪化といった問題が浮上してきた本稿の 目的はこうした問題を明らかにした上での影響により今日の農家は生計維持戦略として どのような資源配分生産行動をとっているの またそれらの有効性検証と共にそうし た戦略の下での消費行動も捉えることにしたいこれまで途上国の農業問題として伝統的に 高い工業製品と政策的に安く抑えられてきた農 産品との間の交易条件の悪化により農業内部蓄 積が進まないために低所得構造から抜け出すこ とが出来ないことが言われてきた他方荏開 (2004高収量品種の普及が肥料の多 投化や除草剤殺虫剤の多使用を必要とするも のの次第に肥料の限界生産力が低下していく ことで農業収入も漸減していきある時点済的最適収量から先は自家農業労働の収入よ りも農外収入の方が高くなると述べているトナムに関しては(20051990年代の 紅河デルタにおける多肥化の進展による水田地 力の低下と施肥効果の急激な減少生産コスト 高による生産性の低位水準を指摘しているChu Tien Quang(2009肥料と殺虫剤使 用による土地の肥沃度低下を近年の米生産増加 を阻む要因の一つとして問題提起している 1 1) 本稿ではそうした農業問題の影響が農家の生 産行動や消費行動にどう及んでいるのかを2011~2012年にベトナム北部紅河デルタの 3 からそれぞれ 1 集落を選んで合計110戸の農家 に対するアンケート調査を行いそのデータか ら実態的に捉えることにした本稿の構成は以下の通りであるまずⅠで今日ベトナム農業が直面している問題を明らか にする次にⅡでそれらの問題の影響を受け て北部農家が生計維持戦略としてとっている生 資源配分行動を 3 ヶ所の農村の調査データ に基づいて確認した上で土地生産性との関係 からそうした行動の有効性を検証するⅢではそのような生計維持戦略の下での消費行動を捉 最後に全体をまとめる1)しかし山本(20071999年から2005年にかけ てのニンビン省の調査では化学肥料に関しては価格が 上昇しているだけで投入量自体は減少しているという結果 を出している〔論  文〕 20131226弘前大学経済研究 第 36 号 50-60 ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動 ─ 紅河デルタ農村の家計調査を基に─ 秋 葉 まり子

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Page 1: ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/36/...Chu Tien Quang(2009年)も,肥料と殺虫剤使 用による土地の肥沃度低下を近年の米生産増加

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はじめに

ベトナムは長い間アジアの中で最も貧しい農業国として位置づけられてきたが,1980年代には食料不足時代を乗り越えて生産増加に成功し,1997年には世界第 2位の米輸出国となり,1999年は国家目標値3000万トンを超える3140万トンを達成した。こうした増産成功の原因には,農業近代化に向けたベトナムの制度改革や,高収量品種を軸とした近代技術の普及,改善が挙げられている。しかし,2000年以降になると耕作面積の減少と共に近年は単収も停滞気味になってきており,肥料多投化による地力低下や農工間交易条件の悪化といった問題が浮上してきた。本稿の目的は,こうした問題を明らかにした上で,その影響により今日の農家は生計維持戦略としてどのような資源配分,生産行動をとっているのか,また,それらの有効性検証と共に,そうした戦略の下での消費行動も捉えることにしたい。これまで途上国の農業問題として,伝統的に高い工業製品と政策的に安く抑えられてきた農産品との間の交易条件の悪化により農業内部蓄積が進まないために低所得構造から抜け出すことが出来ないことが言われてきた。他方,荏開津(2004年)は,高収量品種の普及が肥料の多投化や除草剤,殺虫剤の多使用を必要とするものの,次第に肥料の限界生産力が低下していく

ことで農業収入も漸減していき,ある時点(経済的最適収量)から先は自家農業労働の収入よりも農外収入の方が高くなると述べている。ベトナムに関しては,長(2005年)が1990年代の紅河デルタにおける多肥化の進展による水田地力の低下と施肥効果の急激な減少,生産コスト高による生産性の低位水準を指摘している。Chu Tien Quang(2009年)も,肥料と殺虫剤使用による土地の肥沃度低下を近年の米生産増加を阻む要因の一つとして問題提起している

11 )。

本稿では,そうした農業問題の影響が農家の生産行動や消費行動にどう及んでいるのかを,2011~2012年にベトナム北部紅河デルタの 3省からそれぞれ 1集落を選んで合計110戸の農家に対するアンケート調査を行い,そのデータから実態的に捉えることにした。本稿の構成は以下の通りである。まず,Ⅰで,

今日ベトナム農業が直面している問題を明らかにする。次にⅡで,それらの問題の影響を受けて北部農家が生計維持戦略としてとっている生産,資源配分行動を 3ヶ所の農村の調査データに基づいて確認した上で,土地生産性との関係からそうした行動の有効性を検証する。Ⅲでは,そのような生計維持戦略の下での消費行動を捉え,最後に全体をまとめる。

1 )しかし,山本(2007年)の1999年から2005年にかけてのニンビン省の調査では,化学肥料に関しては,価格が上昇しているだけで投入量自体は減少しているという結果を出している。

〔論  文〕 2013年12月26日弘前大学経済研究 第 36号 50-60頁

ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動─紅河デルタ農村の家計調査を基に─

秋 葉 まり子

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ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動

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Ⅰ ベトナムの農業問題

ベトナムでは灌漑施設の設置や改良は社会主義時代から行われてきたが,2011年時点で基本的な灌漑システムを備えているのは,全国の73.6%に当たる6682農村である。全国は 6地域に区分されており,その内の一つメコン河デルタ地帯の灌漑化率は92%にも及び,次いで紅河デルタ地帯が86.8%の順で広範囲に及んでいる

22 )。このような整備された水利条件の下で

高収量品種の普及については,ベトナムでは1960年代よりNN5,NN8,CR23が,80年代の末から90年代初め頃からはF1,Q5,バクタン,カンザン,Xi,GT10が導入されてきた。北部では,主にDuu527, Thien uu, Khoi Phong, Quuといった中国製品種も広く普及しており,これに伴い米の二期作が進行し,75年頃までには水田のほぼ全域に及ぶようになったと言われている。また,1990年代には,FAO(国連食料農業機構)によるハイブリッド米の技術開発,支援が行われたこともあり2001/2年の普及率は全土の 6 %であったものが,2007年時点での北部や中北部では50~55%に達したと報告されている。ただし,この品種は通常の高収量品種と比べて収量が15~20%程度高いが,より多くの肥料も必要とする

33 )。

長(2005年)は,国内有数の米作地帯であるタイビン省では,中国系ハイブリッド品種の普及率の高まりと,それに伴う多肥栽培によって高単収を実現したものの,それは現段階の技術的条件下で可能となる限界に近いと述べている。また,T.T. Son(1997)によるように,多肥化の進展から水田知力の低下と共に,施肥効果,すなわち投下肥料の生産物への転換効果が

2 )GSO(General Statistic Office Vietnam), Agricul-ture Census, 2011.

3 )Nha Xuat Ban Nong Nghiep(2012), Hoi Thao Quoc Gia Ve Nang Cao Hieu Qua Quan Ly Va Su Dung Phan Bon Tai Viet Nam, p.17より。

急激に低下してきていること,現状での窒素成分の施肥量のうち,その有効性は僅か20~40%しか認められず,大部分はロスとなっていることが指摘されている

44 )。

図 1は,日本,韓国,中国そしてタイとベトナムの1970年から2007年の 1ヘクタール当たりの混合化学肥料の投下量と米単収を比較したものである。日本と韓国の肥料は1990年にそれぞれ385.5kg,418.7kgで投下量の最大値を記録してからその後減少したが,反面単収は伸びて効果が上昇している。肥料価格の上昇に伴い使用方法に工夫が施されたことがその原因と言われている

55 )。ベトナムの施肥量は,質が悪く供給

量も少ないタイや中国と共に今尚増加し続けており,2007年度は最も多い400.3kgにも達した。しかし,米 1トンの収穫に対して中国の1.3倍,タイの 2倍以上が投下されていることから見ても,使用効率がかなり低いことがわかる。図 2に,1961年以降の化学肥料総使用量と単収との関係をしめした。農業部門の改革が始まる1980年始め頃までの肥料使用量は500千トンに達せず,単収も低迷していた。その後使用量の増加や政策効果による労働インセンテイブが発揮されたことで限界生産性は上昇していくが,2000年に入ると徐々に肥料の収穫逓減傾向が見られる。2005年-2010年,2010年-2011年,2011年-2012年の施肥量に対する米の限界生産性を計算すると,それぞれ0.305, 0.260, -0.428と減少している。次に,工業部門から供給される農業用資材価

格と農産物の相対価格の良否が農業発展を大きく左右することになるのだが,ベトナムのこの農工間の交易条件は確実に悪化してきている。図 3は,ここ10年間の尿素,混合化学肥料と全国,及び紅河デルタの米のそれぞれの市場価格

(簿価)を比較したものである。この図を見れ

4 )T.T. Son(1997),長(2005年)p.112より。5 )農林水産省報告書(2011)p.165より。

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ば肥料と米の間の価格差は,2007年の国際米価格の高騰から国内米価も大幅に上昇したため一旦縮小したものの,それ以降は拡大し続けていることがわかる。尿素肥料,混合化学肥料の名目価格の2002年~2012年の間の対前年度上昇率の平均値は,それぞれ13.0%と11.3%であるのに対して,米(紅河デルタ地域)は9.6%に止まっている

66 )。高収量品種が広く普及することで

生産量の増大が進み,やがて供給過剰となる。これに経済発展と生活レベルの上昇による消費の低迷も加わって米の価格低下を食い止めることが徐々に困難になってきているのである。

6 )1990-1994年の期間の農業における生産資材の名目価値上昇率は331%に及んだのに対して,生産物価格の名目上昇率は266%に止まった。(長p.36)

Ⅱ 調査農家の土地生産性要因

1.調査対象村のプロファイル今回の調査では,北部紅河デルタ地域の省の

下に位置する県の下部行政組織体である社を構成するいくつかの集落(trom tre)の中から一つを選んで調査対象とした。全国 6ヶ所に分かれている地域の中でも紅河デルタは,その農地面積は全土の8.2%にすぎないが,農村人口の割合は22.9%と高く,農家の94.2%の所有面積

図 1 肥料と米単収の国際比較

図 2 混合肥料の投下量と米単収の関係

(資料)Nha Xuat Ban Nong Nghiep(2012), Hoi Thao Quoc Gia Ve Nang Cao Hieu Qua Quan Ly Va Su Dung Phan Bon Tai Viet Nam, より筆者作成。

(資料)図1に同じ。

(資料)図1に同じ。

図 3 肥料と米の価格変化

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ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動

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は0.5ha未満で,さらにその半数が0.2ha未満と最も零細な地域である。近年は耕作地面積,生産高が減少してきたものの,高収量品種ハイブリッド米の作付割合が高いこともあって,単収は5.88kg/ ha(全国平均は5.23kg/ha)と全国平均より 2割弱,メコンデルタより 1割程度高い。一人当たり所得や給与所得はホーチミン市を含む南東部に次いで 2位,農林水産業所得比率は南東部に比べて大きい。中心都市ハノイ周辺及びその後背地は,昔からベトナムでも農業が重要な位置を占めてきたところだが,他方経済発展の波に乗って産業転換が進んでいる地域でもある。我々は,この紅河デルタにある 3省;首都ハノイ市を含む省のHoa Lu県,ニンビン省のVu Thu県,そしてタイビン省Soc Son県の中の 1集落からそれぞれ30戸,40戸,40戸の合計110戸を対象に,2011年に現地研究者の協力を得てアンケート調査を実施した。ただし,様々な制度的理由によりランダムサンプリングは叶わなかった。①Ninh Binh省,Hoa Lu県この省は,ハノイ市から約80km南東部に位

地し,面積の22%が山岳地帯で,15km程海岸線にも接している。有名な自然景観と歴史遺産を持つ観光地であり,ハノイの中心地と高速道路で結ばれてからは観光サービスの比重が大きくなってきている。 8 県 2 市147社を抱える。人口約100万人の約60%が農業,25%が工業部門に所属し,特に,建設,コンクリート,自動車の組み立てが中心でGDPの35.7%,観光業33.4%,そして農林水産業は30.9%を占める。所有面積も地形がら小さく,一人当たりGDPは全国平均の57%(2005年)で,人口全体の約 2割が貧困レベルにあり,この削減が優先的な省の課題になっている。我々が調査対象とした社は県の中心から6km程の距離にあって,総戸数1596戸,人口5361人(内女性3016人),労働人口は2535人(女性は

1774人で 7 割)。農業面積が208 ha,一人当たりの農地面積は400 m2と小さい。2.6期作(米の 2期作プラス冬季の野菜作り)で,2010年の米生産量は2413 t,2011年2948 t,この社の貧困農家割合は7.52%と,これは省全体,そして県内平均よりは低い。ここでは,昔から布団や枕の寝具製造が行われてきており,近年はクッション,カーテン,カーペットなども手がける小規模製造所が社内に30戸程あって,農家の下請け作業や農村に雇用の場を生み出している。社の総戸数の29.9%に当たる526戸が過去10年間の内に住居の新築や改築を行った。②Thai Binh省,Vu Thu 県Ninh Binh省の西隣に位地するThai Binh省

は,ハノイ市から約100km離れた距離で,“The home of 5 tons of rice”(1966年に初めて米 5t/haの収穫量を達成したことからこの名がついた)と呼ばれる北部の代表的穀倉地帯である。調査対象の社の農業面積は675ha,一人当たり約500 m2で,人口8340人(内労働人口は3600人),戸数は約2300あるが, 3 ha以上のチャンチャイ(大規模農家)は 4戸,平均以下の面積しか所有していない世帯が84戸となっている。人口密度が高くて一人当たりの農地面積が小さい上に,専業農家の多くは高齢化しているが,土地の売り買いは2000年頃から始まっているものの,北部全般に言えることだが「子孫に美田を残す」農民意識が根強いため土地を手放そうとしない。1998年までは米だけの生産だったが,現在は2.6期作になり,2010,11年の米生産高はそれぞれ4800 t,5000 t程で,間作期には,じゃがいも,キャッサバ,コーン,野菜を生産している。農外部門への人口流出が止まらず,労働人口の約 3分の 2が兼業ないしは,完全農外就業者で,1100人程が同省内にある工場労働者,約800人が歴史的に繊維産業で有名な隣のNam Dinh省への通勤労働者で,残りが国内大都市や海外,特に韓国への出稼ぎ労働者となっている。過去10年で住宅の新築,改築を行った農家

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は672戸(29%)だが,同社の貧困戸数割合は7.3%で,省内でも中程度のレベルである。貧困家庭には,光熱費の補助や80歳以上の400人に生活扶助費の支給が行われている。③Hanoi省,Soc Son県SocSon県はハノイ市から約30km離れていて,ノイバイ国際空港へ向かって走る国道沿いに建設された幾つかの工業団地に隣接している。ここには,306haの軍の訓練施設がある他,有名なGiong寺,遷都1000年の記念碑,10.56haの国立仏教大学院,13haの国際ゴルフコースも建設され,将来はハノイ市民が週末を楽しむ広大なリゾート施設の建設計画もある。 調査の対象となった社はこの県中心部から車で10分程のところにあり,ハノイ市へ出て働く者,近隣工業団地の労働者,観光地のサービス業と多くの雇用機会に恵まれていて,生活水準は比較的高い。耕作面積は1441ha,一人当たり560m2,人口9532人,戸数は2399戸で内貧困家庭は69戸(2.9%)と他地域よりも低い。2010,11年の米生産高はそれぞれ1769.5 t, 1810.2 tで,ほとんどが自家消費と家畜の餌用である。ここも2.6 期作だが,農家は野菜栽培よりは畜産業で収入を得ようとする。農閑期のサイドジョッブは一日平均20,000VNDの収入になる。所有地の貸借はあるが,借地権を手放すことはなく,生産用投資にも消極的である。ここ10年以内に25%にあたる約600戸が住宅の新築をしていて生活水準の高度化が見られる反面,高齢化が進み,農家の後継者問題も深刻になりつつある。

2 .調査対象農家の生計維持戦略福井(2005年)が述べるように,これまでの日本を含むアジア先進国の経験を見ると,農業発展で米の自給率が達成した後は,過剰供給による価格低下から米のモノカルチャーより脱却して多角経営へと移行し,そして農家の所得向上が教育投資を増加させることとなり,結果非農業就業機会へのアクセスが容易になることで

農外部門への人口流出という過程を辿ることになる。元来ベトナムのほとんどの地域では米中心のモノカルチャー経済を続けてきたが,1993年の五中総(共産党第七期中央委員会第五回総会)や1996年の第八回党大会決議により米以外の換金作物の栽培や畜産等の分野の発展,また農村工業化の進展に伴い農村の所得向上や貧困削減を目指す方向性が示された

77 )。こうした

政策的環境の下で,これまでの肥料の収穫逓減や交易条件の悪化の影響を受けていると見られるベトナム農家の生計維持戦略はどうなっているのか,これを以下の調査データに基づき,生産構造と労働資源の配分のあり方から探ることにする。表 1は, 3つの地域別調査対象農家の2011年度の生産構造をまとめたものである。まず,一戸当たりの平均耕作面積や米の生産量はいずれも全国平均値

88 )よりも低い。米は政府公表の

市場価格を用い,野菜,果樹,畜産,その他は農家の自己評価額を使って計算した農業総生産

7 )坂田・辻(2010年)。8 )GSOデータ(2011年)。ニンビン省から公表されて

いる平均作付面積0.13 ha,米の生産量1847 kg/haに対して,調査データでは作付面積は同じだが,米の生産量は1343.37 kgであった。

表1 農家の生産構造

ニンビン省 タイビン省 ハノイ市サンプル農家戸数 40 40 30耕作面積ha(コメのみ) 0.13 0.15 0.17 コメ生産量kg 1343.37 1419.10 1209.66 農業総生産額(千VND) 16516.48 16490.66 45211.50  内コメ比率 0.51 0.54 0.17  内野菜,果樹,畜産比率 0.49 0.46 0.83 対象世帯数 コメ生産 36 39 29  野菜,果樹生産 5 29 26 畜産 29 27 30土地生産性 10.358 8.979 27.000生産費(千VND) 3537.529 8812.216 20997.2 農業総生産額に占める割合 0.21 0.53 0.46

調査データ(2011年)より作成。(注)生産量,生産額,生産費は年間。   土地生産性=農業総生産額/m2

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ベトナム農業の問題と農家の生産,消費行動

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額は,地域別公表値よりも大きい。そこでの米比率については,ニンビン省とタイビン省でそれぞれ51%と54%と紅河デルタ平均値(53.6%)に近い。それに対して首都から30 km程離れ,工業団地と隣接しているハノイ市近郊農村は17%と低く,野菜と果樹,そして特に畜産(豚)中心の生産構造になっており,前者には30戸中26戸,後者は全戸が関わっている。この多角経営が進んだハノイ市の農村の,農業総生産額を耕作地面積で割った土地生産性はここが最も高い。種代,化学肥料,殺虫剤,除草剤,飼料,ブリィーディング費用などを含む生産費に関しては,ニンビン省のそれには,機械作業が困難な極度に細分化された土地柄でもあることから,田起こし,田植えや稲刈り等の機械作業委託費は入っていないためタイビン省やハノイ市と比較して極端に低くなっている。また, 3省のいずれにも家族労働賃金が含まれていないが,これを入れると総コストがかさんで収益性はかなり薄くなることが予想される

99 )。

表 2では,調査農家の労働力の配分のあり方を見ることができる。一戸当たりの平均家族数は約 4人,内兼業を含む農業従事者は1.5~1.9人である。専業の農業従事者と兼業を行っている者との構成比率は,ニンビン省とタイビン省で前者がそれぞれ75.0%,67.6%,後者が25.0%, 32.4%であるのに対して,雇用機会に恵まれているハノイ市近郊農村の場合専業33.3%,兼業66.7%と逆転する。専業従事者の年齢は,平均40~50歳代とどこも高い。農外労働者( 1ヶ月21日以上の常雇用者)は,ニンビン省では総労働者数の約40%近く,タイビン省25.8%,ハノイ市近郊農村29.6%を占め,平均年齢は30歳代で,学歴が高い。長(2005)は,「紅河デルタ農村での伝統産業,他に大工,左官,建設労働,豆腐製造,酒醸造,魚醤等の調味料製造,運送,

9 )農林水産省報告書(2011)の調査データでは,2008‒9年の全生産費に占める資材費が27.8%で,これに労働賃金を入れると66.3%となっている。(p.185)

種々雑多な商売等々に従事し,農外収入にも強く依存しながら農家経済を維持してきたのが伝統的構造であった。」(p.102)と述べているが,近年の職域は,近代的技術産業,海外労働者,公務員や教員など安定的職業従事者が多く見受けられる。

3 .土地生産性の要因分析 ここでは,上記の調査農家の生計維持戦略が

土地生産性に対してどれだけ有効性を持つものなのかを相関関係を通して明らかにする。右辺に用いる変数には,まず,肥料や殺虫剤などの農業資材のコスト比率を農業生産のための技術的代理変数として用いることにする。これが,技術的な効果を発揮して土地の肥沃度を高めたり,労働節約的に働くとなれば正の関係が,逆にⅠで明らかになったような肥料の地力悪化現象や収穫逓減問題が実際に表面化していれば負

表 2 調査農家の労働力

ニンビン省 タイビン省 ハノイ市サンプル農家戸数 40 40 30一戸当たり平均家族人数 3.7 4.2 4.2一戸当たり平均農業労働者数 1.5 1.85 1.9総労働者数 99 99 81農業労働者数 60 74 57 内専業従事者比率% 75.0 67.6 33.3  内兼業従事者比率% 25.0 32.4 66.7 農外労働者数 39 25 24 対総労働者数比率% 39.3 25.3 29.6平均年齢 専業従事者 53.4 44.6 54.8  兼業従事者 42.8 38.3 38.7  農外労働者 36.9 31.0 33.1 平均学歴 専業従事者 2.5 2.0 1.6  兼業従事者 3.2 2.1 2.0  農外労働者 3.7 3.0 2.4

 調査データ(2011年)より作成。(注) 1 )兼業は臨時雇,農外労働者は常雇。    2 )学歴 1. Primary school 卒( 5年間)     学歴 2. Lower school卒( 4年間)     学歴 3. Upper school卒( 3年間)     学歴 4. Vocational school卒( 2年間)     学歴 5. Universityl卒( 4年間)

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の関係が認められるであろう。次に,非米生産額比率を経営多角化の代理変数として用いている。米以外にも果樹,野菜,あるいは畜産といった複合経営が,土地の活用度を高めることで耕作面積の大きさ如何に関わらず生産性が高まる場合には正の値が得られることになるであろう。その耕作面積(二乗)も説明変数として採用するが,これと土地生産性の逆相関関係については,これまでいろいろと議論されてきた。逆相関関係の理由の一つとして,Sen(1964)による本来の土地の肥沃度差が人口増加をもたらして,それが土地の細分化につながるといった土地肥沃度差仮説がある。高橋(2006)は,紅河デルタにはこの仮説が最も良く適合すると述べているし,後藤・泉田(2009)は北部の相続と政府回収による土地の細分化が逆相関の原因であること,そして生産性の低さを集約的労働力投下で補っているといったことを明らかにした。二番目の理由は労働市場の不完全性仮説で,小規模農家は家族労働力の過小評価を,大規模農家は監視コストが入るために高い雇用労働賃金が発生することによるものと考えられている。しかし,ここで高橋は,1994年と2001年を比較すると転作や労働市場が発展してきたことで逆相関関係が緩和されて,見せ掛けのものになってきているという分析結果を出している。これを,2011年の我々の調査データによる分析と比較してみることにする。土地に加えて労働力比率も説明変数に入れることにした。これまでの研究では,紅河デルタの人口密度の高さ,そして土地の細分,分散化による低生産性を集約的労働力投下が支えてきたことが言われているが,今日の農外所得依存度の高さが果たして今でもそれを可能な状態にしているのかどうかをここでは問いたい。これとの関連で,専業の農業労働者比率を変数として採用し,兼業と比較して長時間農業に専念できる専業従事者の生産性への影響もまた見ることにした。そして,最後に,タイビン省,ニンビン省,そして

ハノイ市近郊農村の地域差をコントロールするために地域ダミー変数を用いた。以下がその結果である。なお解釈を容易にするために標準化係数を用い,ベータ係数として表示されている。

p/l= -0.222c (-2.805)*** +0.644d (5.635)*** -0.024l (-0.269) + 0.027aw (0.295) + 0.138ff (1.508)*-0.273nb (-2.086)** -0.188tb (-1.322)*

R2=0.578 n=110

p/l: 土地生産性(=総農業生産額/耕作面積) c: コスト比率(=農業資材生産額/総農業生産額) d: 多角化比率(=非米生産額/総農業生産額) l: 耕作面積二乗 aw: 農業労働者比率(=ヘクタール当たりの専業,

及び兼業農業労働者数) ff : 専業農業労働者比率(=専業の農業従事者数/

総農業労働者数) nb: 地域(ニンビン省)ダミー 1 tb: 地域(タイビン省)ダミー 2   (ハノイ市= 0 ) R2: 自由度修正済み決定係数 n:観測数 カッコ内は t値,***は0.5%で有意,**は2.5%

で有意,*は10%で有意

この結果によれば,まず,農業の技術的変数として用いたコスト比率からは0.5%水準で負の有意な結果が出た。これは,やはりⅠで見たように化学肥料等の過剰投与が土地の肥沃度に悪影響を及ぼしていること,また交易条件の悪化から収益を圧迫することで生産性にマイナスに働いていることが明らかとなった。従って,土地の肥沃度差仮説が訴えるように,長年議論されてきた土地生産性と耕作面積との逆相関関係はここでは見られない。農業労働者比率からも有意な値が得られていないことから,肥沃な土地が可能にする人口増加による細分化が生産性を低下させ,それを補うために労働力の集約的投下が,特に北部の紅河デルタ地域で行われているというこれまでの調査結果とは異なる結論を得た。ただし,専業的に農業に従事する労

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働者の比率が0.138で生産性に有効に働いており,兼業も含めた総数ではなく農業に専念して取り組む専業労働者の方が生産性に貢献すると見られることになるが,この結果は,10%水準,片側検定の値によるものなので,留意が必要である。さらに,経営の多角化からは0.644で0.5%水準の有意な値が得られた。これはモノカルチャーから脱皮したことにより小規模ではあっても土地の活用度が高まった結果として生産性へのポジティブな反応が出たものと思われる。最後に地域ダミーからは,ハノイ市農村の土地生産性と比較して,ニンビン,タイビン両省との格差が有意(タイビン省は10%水準であることに留意)に示されている。以上の土地生産性の要因分析から,貢献度の高いのは農業の多角化経営であること,従来考えられてきたような分散化された小規模農地への労働者の集約的投下による効果は認められず,極端に減ってきている専業的な農業従事者数だけが生産性に影響を持ちうるかもしれないという結果であった。技術的な代理変数として取り上げた農業生産費割合は土地生産性との間の逆相関関係により,その効果は否定されている。

Ⅲ 家計構造への影響 

Ⅱで見たような今日の北部農家の生計維持戦略としての生産行動や労働配分のあり方が家計構造にどのような影響を及ぼしているのか,どういう消費行動が見られるのかをここでは明らかにしたい。まず,表 3で,農家の年間の所得構造をまとめた。平均総所得額が最も高いのはハノイ市郊外農村で,併せて総所得に占める農業比率も紅河デルタ平均値(11.0%)より高い17.0%である。農業総生産額に占める米生産額比率が紅河デルタ地域の平均値になっているニンビン省とタイビン省のサンプル農家の場合農業所得比率自体は0.8%と低く,農外所得がほとんどを占める。市場に近い大都市近郊農村では,換金作物の生産による農業の多角化を進めながら農業収入を増やせる可能性を持つが,市場から遠く離れており,流通システムが不十分で,コストもかかる遠隔地の農村では農業からの十分な収益確保を期待することはできないからであろう。総所得の最も低く,貧困率も相対的に高いニンビン省農村では,農外所得の中で年金や生活扶助等の福祉費が占める割合が30%と大きく,対象戸数も40戸中29戸と多い。

表 3 所得構造

ニンビン省 (該当戸数) タイビン省 (該当戸数) ハノイ市 (該当戸数)

総所得(千VND) 197185.33 218268.85 270367.65  内農業所得比率 0.08 0.08 0.17  内農外所得比率 0.92 0.92 0.83 農外所得 1.00 1.00 1.00  内臨時雇,常雇収入比率 0.25 24 0.24 36 0.28 29  内送金比率 0.29 7 0.28 9 0.23 4  内年金,福祉比率 0.30 29 0.09 4 0.16 3  内その他収入比率 0.16 16 0.39 19 0.34 26

調査データ(2011年)より作成。(注)土地賃貸収入はかなり大きな額なので農外所得に含めない。その他収入は,機械農作業請負い賃金や

自営業収入等を含む。   所得は年間。

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加えて,村には高額な土地の賃貸収入を得ている農家が出現している。ハノイ市近郊農村では年間総所得の12.7倍もの3,447,668,000VND

(≒17,000US$)を 6戸が取得しているし,ニンビン省でも平均36,000,000VNDを 1戸が,タイビン省では 3戸が24,664,000VNDを地代として受け取っている。これは, 3地域間のみならず農家間の所得格差を生じさせる一因でもあると考えられる。図 4の農家消費構造からは,第一位を占める

食品支出の割合の次に大きいのはニンビンとタイビン両省では教育,ハノイ市は文化・娯楽である。前者二省は,所得水準が低いために,それを農外就業によって補うべく子供への教育投資を何よりも優先させる傾向が見られる。それに対して,雇用機会も多く所得レベルの高いハノイ市郊外農村では文化や娯楽支出を増やせる余裕が見られる。第 3位が電気,ガス,水への支出で,ここには田畑へ引く水利施設の利用料や,辺鄙な場所へは水を購入して運搬する費用

が含まれるため,生産費には含めていないが,家計の消費支出としては10%内外の高い割合になっており,生活費に少なからぬ影響を及ぼしていることがうかがえる。次が,葬式や結婚式,

「結い」参加費等の慣習的な支出で,伝統的な村落の生活のあり方が依然として多く残存していることがわかる。非消費支出の中の納税割合は,ニンビンとタ

イビン両省の平均値がそれぞれ1.22%, 1.32%であるのに対して,所得水準の高いハノイ市農村は0.44%と半分以下である。これは,借入れ返済比率9.04%の大きさが影響しているものと思われ,2011年は30戸中26戸が22,192,310VNDの借入れを行っていて,負債の節税効果と関連付けられるであろう。支出額が突出して大きいため,この表には含

めなかったが,住宅支出が目立っている。特に,所得水準が高いばかりでなく,土地賃貸料収入も高額で,しかも借入れも行われてきたハノイ市近郊農村では,サンプル世帯の半数の15世帯が新築や増築,改築を行っており,2011年平均1,707,662,000VND(≒85,383US$)が支出されている。筆者がこの村を訪問した際にもコンクリート製で 3階建ての新築農家が珍しくなく,内部には中古だがほとんどの電化製品が買い揃えられていた。タイビン省でも仕送りを受けている四世帯を中心に平均901,500,000VND(≒45,075US$),ニンビン省では一世帯だけだが11,485,500VNDの住宅支出がある。以上より,農業発展に伴い,農外中心の所得

構造になっているベトナムの農家家計の支出構造は,所得水準の低い農村では農外雇用機会の可能性を広げるための教育投資割合が多く,これにより今後ますます若年層の村外流出を増やすことになるものと予想される。また,全般的に所得の向上に伴って何よりも住宅支出を増やし,所得水準の高いハノイ市近郊農村では文化や娯楽にもお金をかけて生活レベルの向上を図ろうとする消費行動も見られた。

ハノイ市 タイビン省 ニンビン省

(資料)調査データより著者作成。

図 4 消費支出構造

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Ⅳ まとめ

伝統的農業国であったベトナムでは古くから水利事業が行われ,また社会主義経済の時代からも高収量品種の普及に力を注いできた。そして1990年代に入ってやっと食料自給が実現し,米輸出国にもなって増産に成功するのだが,同時に肥料の多投化による収穫逓減や交易条件の悪化の問題に直面するようになる。そうした中で農家はどういう生産行動や消費行動をとっているのかを,本稿では,2011年に紅河デルタ地域の 3つの農村を対象にした調査結果で明らかにしようとした。北部の紅河デルタ地帯は,他地域と比較しても土地が分散化していてきわめて零細な農家が多く,これまで議論されてきたのは,耕作面積と土地生産性との逆相関関係と,労働投入の集約化による対応であった。本研究結果からは,そうした逆相関は認められず,土地の活用度を高める多角経営が有効であること,また,労働力については兼業ではなく少なくなりつつある専業従事者が生産性に影響を及ぼす要因であることがわかった。肥料や除草剤等の農業用資材のコストは農家にとって大きい負担となっていて,かつそれを技術的代理変数として生産性との関係を見た場合には負の結果が認められた。こうしたコスト負担を高めて,農外労働者を増

やし,米以外の野菜,果樹,畜産等の生産割合を増加させる多角経営を進めるのが今日の農家の生計維持戦略となっている。そうした中で農家家計は多様な農外所得への依存度を増加させてきた。そして大都市市場から遠く離れた遠隔地になるほど農業収入獲得の可能性は低くなるために,その依存度はより高まる。ハノイ市近郊と異なりニンビン省やタイビン省の農村家計では,農外収入を増やすために子供への教育投資支出に多くを割いていることがわかっている。また,いずれの農村でも全体の約2.5~3割が,ここ10年程の間に新築や改築をおこなっており,その平均支出額も目立って大きいことから,生活レベルの向上もまた印象付けられた。

注本稿は,科学研究費基盤研究(B)課題番号

23402030の助成を受けた研究成果の一部である。また,研究に必要な現地調査や資料収集には,Director Nguyen Van Toan, Mr. Nguyen Van Hung(Research Institute of Agricultural and Rural Planning, Hanoi)Mr. Nguyen Duc

(National Center of Humanities and Social Studies, Institute of Economics, Hanoi), の協力を得た。記して謝意を表したい。

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