スマートic整備による高速道路の 渋滞箇所における …queue...

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スマートIC整備による高速道路の 渋滞箇所における交通動態の 検証方法について 神森 友秀 関東地方整備局 道路部 道路計画第二課(〒 330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心 2-1 本件は、東名高速道路綾瀬スマートICの事業化にあたり、高速本線(横浜町田IC ~厚木IC間)の渋滞が悪化するのではないかとの問題に対し、スマートICでは初め ての試みとして、当該区間の渋滞予測モデルを作成し、整備による高速道路本線渋滞へ の影響についての検証を行ったものである。 キーワード スマートIC、渋滞予測、 Point Queue 法、 1.スマートICとは 既存の高速道路の有効活用として、高速道 路の本線やSA,PAから乗り降りができる ように設置されたICであり、利用車両をE TC車両に限定されたIC。利用車両の限定 により、従来のICと比べ、料金施設等がコ ンパクトとなり、低コストでICの導入が可 能となるメリットがある。 -1 SAPA接続型スマートIC -2 本線直結型スマートIC スマートICは地方自治体が主体となり地 方公共団体、地方整備局、高速道路会社、関 係機関にて構成される地区協議会を設置し、 地区協議会にて当該ICの社会便益等につい て検討・調整。それらを基に地方自治体が実 施計画書を策定し、国土交通大臣より連結許 可を受ける事で事業開始となる。 -3 スマートIC事業の流れ 本件の対象となる「綾瀬スマートIC」に おいてもこの事業スキームに基づき、「(仮 称)綾瀬スマートインターチェンジ地区協議 会」を設置し、スマートICの実施計画の策 定に必要な内容について協議をおこなった。 関東地方整備局は地区協議会の一員とし て、綾瀬スマートICの安全かつ円滑な設置 地区協議会の設立 (地方公共団体、地方整備局、高速道路会社、関係機関で構成) スマートインターチェンジ実施計画書の策定 連結申請書を国土交通大臣に提出 連結許可(整備計画変更等) 事業開始

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Page 1: スマートIC整備による高速道路の 渋滞箇所における …Queue 法という渋滞予測モデルを採用した。Point Queue 法は、高速道路の単路部ボトル

スマートIC整備による高速道路の

渋滞箇所における交通動態の

検証方法について

神森 友秀

関東地方整備局 道路部 道路計画第二課(〒 330-9724 埼玉県さいたま市中央区新都心 2-1)

本件は、東名高速道路綾瀬スマートICの事業化にあたり、高速本線(横浜町田IC

~厚木IC間)の渋滞が悪化するのではないかとの問題に対し、スマートICでは初め

ての試みとして、当該区間の渋滞予測モデルを作成し、整備による高速道路本線渋滞へ

の影響についての検証を行ったものである。

キーワード スマートIC、渋滞予測、Point Queue 法、

1.スマートICとは

既存の高速道路の有効活用として、高速道

路の本線やSA,PAから乗り降りができる

ように設置されたICであり、利用車両をE

TC車両に限定されたIC。利用車両の限定

により、従来のICと比べ、料金施設等がコ

ンパクトとなり、低コストでICの導入が可

能となるメリットがある。

図 -1 SAPA接続型スマートIC

図 -2 本線直結型スマートIC

スマートICは地方自治体が主体となり地

方公共団体、地方整備局、高速道路会社、関

係機関にて構成される地区協議会を設置し、

地区協議会にて当該ICの社会便益等につい

て検討・調整。それらを基に地方自治体が実

施計画書を策定し、国土交通大臣より連結許

可を受ける事で事業開始となる。

図 -3 スマートIC事業の流れ

本件の対象となる「綾瀬スマートIC」に

おいてもこの事業スキームに基づき、「(仮

称)綾瀬スマートインターチェンジ地区協議

会」を設置し、スマートICの実施計画の策

定に必要な内容について協議をおこなった。

関東地方整備局は地区協議会の一員とし

て、綾瀬スマートICの安全かつ円滑な設置

地区協議会の設立(地方公共団体、地方整備局、高速道路会社、関係機関で構成)

スマートインターチェンジ実施計画書の策定

連結申請書を国土交通大臣に提出

連結許可(整備計画変更等)

事業開始

Page 2: スマートIC整備による高速道路の 渋滞箇所における …Queue 法という渋滞予測モデルを採用した。Point Queue 法は、高速道路の単路部ボトル

及び管理・運営に協力する立場である。

2.綾瀬スマートICについて

神奈川県では、交通の利便性の向上や経済

の活性化を図るため、県土の骨格となる自動

車専用道路の整備を進め、インターチェンジ

までの距離が5km以内となる地域の充実を

進めている。

横浜町田ICと厚木ICは約15km離れ

ており、その中間に位置する綾瀬市はICへ

アクセスしにくい状況である。

綾瀬スマートIC事業は両ICのほぼ中間

にスマートICを設置することで県民生活の

利便性向上や地域経済の活性化等を図るもの

である。

図 -4 ICまで5km圏域図

図 -5 圏央道、綾瀬スマートICにより拡大

するICまで5km圏域図

3.スマートIC設置にあたっての課題

(要因1)渋滞発生ポイントである「大和ト

ンネル」に近接

綾瀬スマートICの設置予定箇所から都

心側に約4kmの位置には渋滞発生ポイン

:現在の5km圏域

:圏央道等の開通による拡大エリア

:(仮称)綾瀬スマートICによる拡大エリア

横浜町田IC

厚木IC

約15km

(仮称)綾瀬スマートIC

トとして有名な「大和トンネル」が存在し

ている。

図 -6 大和トンネル付近の渋滞予測(ネクス

コ中日本HPより)

ただし、大和トンネル付近は毎日渋滞して

いるわけではなく、特に休日の上り線に激し

い渋滞が発生する特徴を持っている。

図 -7 東名高速(上り線)曜日別渋滞量と渋

滞発生日数( 2011 年)

(要因2)供用時点での断面交通量の増加

綾瀬スマートIC供用時( 2018 年 )及

び将来( 2030 年 )における交通量推計結

果は下記の通りである。

図 -8 交通量推計結果

特に綾瀬スマートIC供用時である 2018

年において、現況よりも約12%断面交通

量が増加する結果となった( 130,224 台 /日→

145,877 台 /日)。

0

10

20

30

40

50

0

1000

2000

3000

4000

5000

月 火 水 木 金 土 休日

渋滞日数

渋滞量(㎞・時)

渋滞量

日数

スマートIC有りスマートIC有り

2011年(現況)

2018年(供用時)

2030年(将来)

130,224(台/日)

145,877(台/日)

123,851(台/日)

+12%(現況比)

-5%(現況比)

Page 3: スマートIC整備による高速道路の 渋滞箇所における …Queue 法という渋滞予測モデルを採用した。Point Queue 法は、高速道路の単路部ボトル

以上、2つの要因により、

・綾瀬スマートICの整備により、東名高速

の本線渋滞が更に悪化するのではないか。

という課題が生じた。

関東地整のスマートIC事業担当者とし

て、この課題に対応するため、高速道路の通

行実績データ等を基に、シンクタンクと調整

しながら時間別渋滞モデルを作成し、スマー

トICとしては初めての試みとなる、IC整

備による高速道路本線への定量的な影響の検

証をおこなった。

4.本線渋滞検証方法の検討

大和トンネル付近の渋滞は毎日発生してい

る訳ではなく、特定の曜日や時間に発生する

特徴を持っている。

よって、渋滞予測は、交通量推計結果であ

る平日の1日単位の交通量から、曜日別、時

間帯別の交通状況を再現し、本線渋滞の変化

を確認する必要がある。

そのため、今回の本線渋滞検証では、Point

Queue 法という渋滞予測モデルを採用した。

Point Queue 法は、高速道路の単路部ボトル

ネック(サグ・上り坂・トンネル等)のよう

に一定の交通流率が観測される場合の渋滞予

測に適したモデルである。

5.Point Queue 法について

Point Queue 法による渋滞予測は、道路の交

通需要が道路の交通容量を越えた場合に滞留

した車の列を把握する方法であり Point Queue

法は滞留した車両の待ち行列(Queue)の車

の物理的な長さを考慮せず、点( Point)とし

て考えることが特徴である。 1)

図 -9 Point Queue 法の概念図

滞留した車

ボトルネック箇所

一方、滞留車両の物理的な車長を考慮した

方法として physical Queue 法がある。 1)

Physical Queue 法はボトルネック交差点が連

続するような場合や、高速道路の料金所など

における渋滞予測に適したモデルである。

6.Point Queue 法による渋滞の演算方法

Point Queue 法による渋滞演算事例を以下に

示す。

図 -10 渋滞予測モデルの演算概念図

(1)渋滞の判定

需要時間交通量が「渋滞発生時交通容量」

を越えているか否かにより渋滞を判定す

る。最初に越えた時刻を渋滞開始とし、次

の時間帯から「渋滞発生後捌け交通容量」

と需要交通量を比較する。

(2)渋滞の生成

「渋滞発生後捌け交通容量」を超過した

需要交通量はボトルネックに滞留するもの

と考え、逐次累加する。捌け交通容量を需

要交通量が下回ったときはその差分を滞留

台数から差し引く。滞留台数がゼロとなっ

た時刻を渋滞解消時刻と考える。

渋滞長は、滞留台数を渋滞長換算密度で

除して算出する。

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22

需要交通量(台/時)

(a)渋滞時間の計算

渋滞発生時交通量超過交通量

渋滞時間

渋滞発生後

捌け交通量

0

200

400

600

800

1000

1200

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22

滞留台数(台)

(b)滞留台数の計算

渋滞発生時交通容量 渋滞発生後捌け交通容量

Page 4: スマートIC整備による高速道路の 渋滞箇所における …Queue 法という渋滞予測モデルを採用した。Point Queue 法は、高速道路の単路部ボトル

7.本線渋滞検証の進め方

渋滞検証は、下記の作業フローに従い実施

した。

図 -11 渋滞影響検証の作業フロー

また、検証方法と結論については、交通制

御工学の専門家である東京大学生産技術研究

所の大口敬教授にアドバイス及び確認を頂き

ながら進めることとした。

8.現況交通量・渋滞特性の整理

2011 年 の東名高速道路の通行実績データ

を基に横浜町田ICから厚木IC間の交通分

析を行った。

図 -12 年平均需要時間交通量図

(1)交通量の特性(図 -12 参照)

・需要時間交通量のピークは上り線が休

日の15時、下り線が土曜の7時

(2)渋滞特性(図 -13 参照)

・上り線は休日の渋滞が支配的

・下り線は土曜日と休日の渋滞が同程度

図 -13 曜日別渋滞量と渋滞日数

以上より、当該区間は「レジャー車両によ

る週末渋滞」が主な渋滞発生パターンである

と考えられる。

9.交通需要の時間変動パターンの設定の考

え方

渋滞予測実施に必要となる交通需要の時間

変動パターンは、 2011 年の実績データ及び

ETCデータを基に1年分の15分単位の時

間変動パターンを算出し交通需要として設定

している。

図 -14 交通需要設定のイメージ図

0

2000

4000

6000

8000

16

(土)

17

(日・休)

18

(月・休)

19

(火)

20

(水)

21

(木)

22

(金)

15分間フローレート(台/時)

需要交通量

7月

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10.綾瀬スマートICの時間変動パターン

の設定

(1)綾瀬スマートICの設定方針

渋滞予測実施には、現在、未整備であ

る綾瀬スマートICの時間変動パターン

の設定が必要となる。

渋滞発生ポイントが進路前方にあるI

Cと、そうではないICでは、出口交通

量の特性に違いがあると考えられるため、

立地特性別の出口交通量特性の把握をお

こなった上で、綾瀬スマートICの時間

変動パターンの設定に最も適切な箇所を

選定する事とした。

・ICの進路前方で休日に渋滞発生が見られ

るIC

「所沢IC」(関越自動車道)

「海老名JCT」(東名高速)

・渋滞ポイントを抜けた先にあるIC

「横浜町田IC」(東名高速)

上記3箇所の出入交通量特性を比較した。

図 -15 対象ICと渋滞ポイントの位置図

(2)立地特性による特徴の比較

綾瀬スマートICの立地特性と同様に

進路前方で休日に渋滞ポイントを有する

海老名JCT、所沢ICでは、両箇所と

もに休日になると上り線の出口交通量が

最大となる傾向が見られた。

一方、横浜町田ICではこのような傾

向は見られない。

この傾向は、進路前方に発生した渋滞

を回避するために、高速道路を降りる行

動によるものであると推察できる。

よって、綾瀬スマートICの時間変動

パターンはその立地特性より「海老名J

CT」のパターンを適用した。

図 -16 調査地点の平休別交通量の変化図

11.交通容量の設定

交通容量は下記の2つの交通容量につい

て、 2011 年 の渋滞発生日の実績データの平

均値より設定した。

(1)渋滞発生時交通容量

5分間平均速度が40km/時以下に低下した

直前15分間のフローレート

(2)渋滞発生後捌け交通容量

渋滞が発生した後、渋滞解消(速度上昇)

するまでの全時間の平均フローレート。

図 -17 交通容量の設定イメージ

12.渋滞予測ケースの設定

綾瀬スマートICの有無に加え、下記の2

0

20

40

60

80

100

120

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

550

600

12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

速度(㎞/時)

交通量(台/5分)

時刻

交通量

速度

渋滞発生後裁け交通容量

渋滞発生時交通容量

Page 6: スマートIC整備による高速道路の 渋滞箇所における …Queue 法という渋滞予測モデルを採用した。Point Queue 法は、高速道路の単路部ボトル

つの本線対策を実施した場合のケースも設定

した。

①部分対策(大和トンネル付近の容量拡大)

②全線対策(横浜町田IC~海老名JCT間

の容量拡大)

図 -18 本検討で設定した東名高速の本線対

13.渋滞予測結果

Point Queue 法による渋滞量予測結果は図 -19

のとおりである。

図 -19 渋滞量予測結果(上り線)

14.渋滞検証結果

本検証による検証結果は下記に示す。

・本区間に綾瀬スマートICを整備した場

合、部分対策(大和トンネル付近の容量拡

大)を同時に実施することで上り線の渋滞

は悪化せず、現況より改善される見込み。

部分対策

全線対策

30 25 20

海老名JCT 海老名SA 横浜町田IC

綾瀬IC

(仮称) 大和TN

30 25 20

海老名JCT 海老名SA 横浜町田IC大和TN

綾瀬IC

(仮称)

大和TN付近の容量拡大

容量拡大(横浜町田IC~綾瀬SIC)

容量拡大(横浜町田IC~海老名JCT)

上り線→

←下り線

上り線→

←下り線

5,662

6,450 6,490

4,486

00

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

2011年

(現況)

2018年

スマートIC

無し

対策無し

2018年

スマートIC

有り

対策無し

2018年

スマートIC

有り

短期対策有り

2018年

スマートIC

有り

長期対策有り

渋滞量

(km・h/年)

5 ,662(1.0)

6 ,450(14%増)

6 ,490(15%増)

4 ,486(21%減)

2011年(現況)

・全線対策の実施により渋滞は解消される見

込み。

この検証結果から、スマートIC整備と合

わせて東名本線の部分対策を実施すれば、東

名本線渋滞への影響に関する課題は解消され

ることが判明した。

また、東名本線の大和トンネル付近の渋滞

対策については、従来から必要性が高く、今

後、緊急経済対策として実施していく見込み

である。

これらを受け、綾瀬スマートICは 2013

年 6 月に連結許可がなされ、事業化が図られ

た。

15.今後の課題

(1)渋滞予測実施に関する注意点と課題

・今回は、主に休日の高速道路単路部での

渋滞パターンであった為、 Point Queue 法

による予測を行ったが、全ての渋滞予測

にこの方法が適用できる訳ではない。

・渋滞の予測方法について、どんな方法が

あり、どんな結果が得られるのかについ

ての知識や経験が事業者側に不足してい

る。

(2)今後の課題

①渋滞予測方法の体系化

渋滞には、様々なパターンが存在する

(単路部での渋滞、料金所渋滞等)。

それぞれのパターンについて、どんな

渋滞予測モデルが適しているのか、アウ

トプットとして何を得られるのか、予測

実施には何が必要なのか等について体系

化することが必要である。

②渋滞予測事例の蓄積と共有化

上記の体系化と同時に、これまでの実

施事例や、今後おこなわれる渋滞予測事

例について蓄積し、データベース化し共

有を図ることが事業者側の知識の蓄積の

為にも必要であると考える。

参考文献

1)大口敬 編著( 2005):「交通渋滞」徹底解