jetro 北京ベンチャー視察レポート

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北京ベンチャー視察報告 高須正和@tks メイカーフェア深圳 第1章: 「大衆創業 万衆創新」の背景 メイカームーブメント 第2章: アメリカのムーブメントが中国・深圳へ 第3章: 多産多死の深圳と北京のベンチャーの違い

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Page 1: JETRO 北京ベンチャー視察レポート

北京ベンチャー視察報告

高須正和@tks メイカーフェア深圳

第1章:「大衆創業 万衆創新」の背景 メイカームーブメント第2章:アメリカのムーブメントが中国・深圳へ第3章:多産多死の深圳と北京のベンチャーの違い

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自己紹介世界的なDIYの祭典:メイカーフェア深圳(中国)/シンガポールの運営者

現在シンガポール在住世界でいちばん多くアジアのメイカーフェアに参加している

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More Detail in the book 「メイカーズのエコシステム」

2016年発刊世界で最初の深圳のイノベーション環境解説本

Andrew Bunnie Huang(MIT深圳担当, HAXメンター)いのうち いくお(RICOH つくるーむ)江渡浩一郎(ニコニコ学会β)小笠原治(DMM.Make Akibaプロデューサ)きゅんくん(ロボティクスファッションクリエイター)藤岡淳一(JENESIS 代表深圳でのEMS企業)山形浩生(翻訳家・評論家)

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第1章:「大衆創業 万衆創新」の背景

メイカームーブメント新しいイノベーションの形

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2005年ぐらいから、

イノベーションを生み出す新しい仕組みが生まれはじめた

20世紀型(大組織主導) 21世紀型(メイカー主導)・企画書/多数決先行・予算確保から始まる・調査・計画重視・実行部隊は外注・リーダーはゼネラリスト・選択と集中

・アウトプット先行・ヒットすれば予算はあとから・動き、使えるもの重視・自分たちで開発・リーダーはエンジニア・マスイノベーション

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ソフト開発費の低下(2000年~)

→それまでサーバ+ライセンス費だけで数百万~数千万かかっていたソフトウェア・Webサービス開発が民主化(初期投資なしでだれでもできるように)

宣伝費の低下(2006年~)

→SNSのマーケティングなどにより、宣伝が民主化大規模化が、後付けでできるように(2006年~)

→クラウドコンピューティングにより大規模化が民主化

オープンソースソフトウェアが、イノベーションを民主化しスタートアップを生んだ

「自分たちの食い扶持のみで世界規模のサービスを立ち上げ、ヒットしてから大規模化」するスタートアップが多数登場

(Facebook,Instagram,Twitter,Dropbox,AirBnbなど)

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イノベーションを支える投資モデルの進化「スタートアップアクセラレータ」の誕生

・企画書ベース・数千万~数億円で始める・リーダーはゼネラリスト・数年単位の投資計画・長期にわたる計画・マーケットの見込みがあることをやる

・先に動くプロトタイプがある・数百万円で始める・リーダーはエンジニア・大規模化(スケーリング)はあとから・長期計画でなく、Agile(機敏)・成功する見込みはわからない

既存の投資モデル スタートアップの投資モデル

-多数決/合議制(数字ベース)

-ヒット商品の後追い-今あるマーケットの開拓

-直感ベース-いま無いもの-多産多死

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代表的なアクセラレータ 「Yコンビネータ」

・先に動くプロトタイプがある・数百万円で始める・リーダーはエンジニア・大規模化(スケーリング)はあとから・長期計画でなく、Agile(機敏)・成功する見込みはわからない

スタートアップの投資モデルプロトタイプあるものにしか投資しない投資金額は数百万(後にもう少し増えた)

創業者は伝説的なプログラマ大規模化はあとから起業前の会社に多く投資し、つぶれても気にしない

Yコンビネータなどのやりかた

10年間で940社に出資、300社はすでに廃業卒業生の合計時価総額は650億USドル うち8社は10億ドル以上、40社は1億ドル以上著名な卒業生 Dropbox,Airbnb, Heroku, Docker, Stripe,Twitchなど

Yコンビネータ成績(2015年当時)

Yコンビネータについての数字はhttps://venturebeat.com/2015/08/27/y-combinator-startups-have-raised-7b-with-a-65b-total-valuation-8-are-1b-unicorns/

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Yコンビネータの創業者たち

ロバート T モリス世界で最初にインターネット上で増殖するウィルス(ワーム)を作り、アメリカ最初のサイバー法逮捕者その後グレアムと一緒にViawebを設立

ポールグレアム伝説的なプログラマ 作家としても有名で、著書に「ハッカーと画家」世界で最初のサーバサイドサービスであるViawebを設立(後にYahooに売却しYahoo Shoppingとなる)

エンジニアのアイデア/プロトタイプにエンジニアが投資する

「Yコンビネータ」は型無しラムダ計算で使われる不動点コンビネータの名前(そのプログラミング用語がわかる人たちの場所)

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新しいイノベーションの特徴・エンジニアが考え、エンジニアがやり、エンジニアが売る・動かないもの(プロトタイプないもの)は企画じゃない・賛成する人間が少ないこと(今ないこと)をやる・「市場に出さないとわからない」ことをやる・失敗は必要。失敗しないようなことは小進歩で革命ではない・そのために極力小さく始めてスケールさせる・ゴールは作りながら考える

現時点では市場にない、合理性では判断できないものを、小さくはじめてスケールさせる

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合理的なこと=アタマのいい人なら、誰でも同じ結果が出る=コストの高い先進国では難しくなる

世界を変えるようなイノベーションは、最初は「キョトン?」と困惑するような、言葉で説明できない=新聞などで見ても良さがわからないものが多いiPhone,Twitter,Instagram,,

21世紀の価値=大ヒットしても、良さが言葉で合理的に説明できない

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2012年ぐらいから、

オープンソースの生んだスタートアップムーブメントが、ハードウェアに及ぶ

「メイカームーブメント」

20世紀型(大組織主導) 21世紀型(メイカー主導)・企画書/多数決先行・予算確保から始まる・調査・計画重視・実行部隊は外注・リーダーはゼネラリスト・選択と集中

・アウトプット先行・ヒットすれば予算はあとから・動き、使えるもの重視・自分たちで開発・リーダーはエンジニア・マスイノベーション

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2015年に深圳のメイカースペースChaihuoを李克強首相が訪れ、会員章にサインしたことにより「大衆創業 万衆創新」が始まった

そこでは研究機関の行う科学技術イノベーションと、市井の起業家が行う社会実装イノベーションが区別して捉えられ、中国は研究機関への資金投資と起業を簡単にする社会制度などで、両方を支援すると明記されている

「大衆創業 万衆創新」はメイカームーブメントの中国的解釈

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第2章:

ソフトウェアのムーブメントがハードウェアへ

アメリカのムーブメントが中国・深圳へ

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科学技術イノベーション 社会実装イノベーション

Idea/R&D/Prototype

大学や大企業の研究所 インターネットやコミュニティで学び、作る

Produce 会社の企画部が企画し、技術部門が作る

ホビイスト達がコミュニティで作り、評価しあう

Promotion 広告代理店を使って宣伝、プロのセールスマンが売る

クラウドファンディングなどで、愛好家が発明を大きくする

ソフトウェアと同じく、

・大学の研究室で細々とやってた・ガレージでやってた趣味が嵩じた人たちが、スタートアップを起こしてハードウェア企業になる

ガレージからのハードウェア

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ソフトウェア開発 ハードウェア開発 課題

開発環境 ・オープンソースのソフト・パーソナルコンピュータ

・オープンソースのハードウェア・デジタル工作機械

プロトタイピングに関するハードウェアはオープンソース化されているが、量産品の情報はオープン化されていない

スケーリング(大規模化)

・クラウドコンピューティング ・EMS(製造請負企業) 発注できるようにはなったが、まだ「誰でも手軽に」とは言えない

スタート時の資金調達

・アクセラレータ ・アクセラレータ ハードウェアのほうがスケール時に資金が必要

マーケティング ・SNS・コミュニティ

・SNS・コミュニティ

ハードウェアのほうは、大規模になるほど実店舗とのつきあいがある

ハードウェアスタートアップは大規模化に課題があるハードウェアのスタートアップは、ソフトウェア(Web)に比べて大規模化が難しい。Dropboxは2017年にクラウドサービスから独自のサーバー群に移行したが、つまりそれぐらい巨大化するまでクラウドコンピューティングの利用が可能だった。比べてハードウェアは、数千個単位の量産から、手探りでEMS工場達とつきあわなければならず、大規模になるとオンライン販売以外も必要になる。その要素を埋めるために深圳が登場してきた。 深圳が必要とされている部分

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代表的なプレイヤー

「深圳発→世界のイノベーション」Seeed

2008年~深圳で創業。創業者はEric Pan、社員もだいたい中国人世界(主に欧米。近年まで中国語のサイトはなかった)・オープンソースの開発ツールの販売・個人が自分のコンピュータで設計した基板データをオンラインで受注し、現物をおくる「クラウド基板製造サービス」を展開・個人の発明家のアイデアを自社で請けおい、製造販売する

「世界から深圳へ」HAX2012年~シリコンバレーで創業。アメリカのVC SOSVの傘下。社員は世界中から集まっているが欧米人が多い。深圳に開発ラボをもつ、世界最初のハードウェア専門アクセラレータ。・世界中からハードウェアの企画を持ち込むチームを集め、2000件の応募から半年ごとに15組の起業家を選考・中国深圳のラボで111日間の開発を行う。

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なぜ深圳か・多種多様な工場(EMS製造請負企業)が存在し、小ロットで受け付ける会社も多い・発送、検品、世界中の基準に合わせた適合検査など、ハードウェアの製造に関する業種がすべて集まっていて、飛び込みでも話ができる程度にオープンである(いくつかの会社は欧米企業相手の仕事実績がある)・ハードウェアに関する情報が可視化され、集積されている・IP(知的財産)がオープン化されている独特のシステムが小企業を助ける(後述)

ハードウェアを少量生産し、世界に届ける最適な場所「世界中から工場が集まっている」Seeed社長エリック・パン

部品問屋が集結している深圳の電気街

「深圳の1週間はシリコンバレーの1ヶ月」HAXのpartner ベンジャミン

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Seeedは世界のメイカームーブメントを牽引している

アイデアのみで製造0のドリーマーは、Webのチュートリアルやキットが入手できる

クオリティの足らないモノしか作れないプロトタイプメーカーに、3Dプリンタなどのデジタル工作機械

発明はできるが量産できない大学教授などに、量産請負サービスが

1000個単位での製造に必要なコストと

マーケティングが、クラウドファンディングで

宣伝・販売などのサプライチェーンが、オンラインとSNSベースに

-Seeedstudio

製品製造ロット

ソフトウェアに比べると設備も初期投資も必要なため、20世紀スタイルの研究開発(専門家=大メーカー中心)だったハードウェアのイノベーションが民主化されつつある

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Fusion PCB,PCBA(基板のオンライン製造)世界中からデジタルデータを受け取り、実際の基板にして送り返す。10枚でわずか$9.9、見積もりはオンライン。さらに、指定のパーツリスト+提携の部品屋をつかうことで、ハンダ付け済みの製品を送ってくれる

キットの販売、世界の人たちの販売委託「自分の携帯電話が作れるキット」「ラジオが作れるキット」など、多くのマイコンキットを販売している。自社製品のほか、世界中の発明家(欧米が多い、上記のFusion

PCBを使ってプロトタイプしている人たちが多い)からのアイデアを製造受託している

「自分の携帯電話が作れるキット」 Re-Phone

Seeedは世界のメイカームーブメントを牽引している

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Seeedの目指す「同人デザイン」「同人ハードウェア」

-Seeed

供給側の変化:・アジャイルなサプライチェーン、スケーラブルな製造・フリーの開発ツールと、オープンソースで入手できる技術・レビューや協力者を見つけられる可能なコミュニティ

需要側の変化:・SNSによるコミュニティベースのマーケティング・多様な需要・クラウドファンディングによる資金調達

インディーデザイン(同人デザイン)の誕生

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HAX ハードウェア専門のアクセラレータ(2012年~)

サンフランシスコに本拠地、深圳にラボを置く「直観に基づいた投資」

「アーリーステージの投資では、売り上げや具体的数値を評価できる訳ではない。」(創業者ショーン、2017年,Forbus)

世界から半年に15組のアイデアを集め、9%と引き替えに10万ドル投資、111日間深圳でプロダクト制作合宿を行い、BtoC向け製品はKickstarterへ 現在成功率100%

HAX卒業生の例:Makeblock2013年5人で起業 現在は450人 セコイアキャピタルから出資を受け、世界を代表するロボティクス教育会社にソフトバンクと提携して日本法人を立ち上げ、日本の教育マーケットに進出

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TEAMOSA(2017年卒業)2016年創業、超音波+温度でもっともおいしくお茶を入れられるシステム。台湾で代々茶農園を経営している3代目が家族経営で創業

HAX卒業生の例

DARMA(2015年卒業)2014年創業、クッション内のセンサーで集中度や姿勢を計測しストレッチなどを促してくれる「非アクティブな状態のトラッカー」

NextThing(2014年卒業)HAX卒業生でもっとも調達額が小さいプロジェクトから、最大級のプロジェクトへ1年あまりで転換2014年5月のカメラ7万ドル→2015年7月の電子基板200万ドル「早く軽くスタートし、早く失敗し、早く変更する」

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20世紀型の製品開発がすべてなくなったわけではなく、

「数値でわかる世界最高性能」を目指す、大企業中心の世界は今も存在しているが、コンシューマが買うハードウェアは数値で判断されないものが増え続けている

科学技術イノベーションの製品 社会実装イノベーションの製品

team 大きい組織が承認ハンコを集めながらつくる

小さい組織がagileにつくる

Focus 数値で評価され、機能的 感覚的でセンスの善し悪しで判断される

Customer 自組織のボスor会社外の消費者 自分たち

Typical Product

機能的な製品や、CCD、抵抗、マイクロチップといったコンポーネント

ガジェットや、自分たちのためのプロトタイピングツール

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中国政府は、この「多産多死・計画できない時代」を理解し、深圳をイノベーションのゆりかごとして活用している重点スローガン「大衆創業・万衆創新」(誰でも起業できる、みんなでイノベーション)は、深圳のDIYメイカースペースを李克強首相が訪れたことで始まった。「大衆創業・万衆創新」の8つの重点政策の最後は、

「社会を失敗に寛容にする」で、メディアで再起した起業家をスター扱いす

るなど、キャンペーンが行われている

深圳の創業スペースには、「党と一緒に起業・スタートアップしよう」のスローガンが並ぶ

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深圳独特のIP管理システム, 公開(Gongkai)

資料はMIT研究員のAndrew Bunnie Huang著「The Hardware Hacker」(2017)の、Gongkai Innovation章から。同書籍は高須の翻訳にて2018年出版予定

知財は単一の所有者をもち、知財に対して金銭を受け取るのが西洋・日本のIPモデル

知財が商品に付随し単体で流通しない(モノを買うと知財がついてくる)のが深圳のIPモデル

知財とセットで販売される公板(GongBan)1枚から、量産可能な数千枚単位まで販売され、製品化に必要な部品リスト、ソフトウェア、データシートも添付されるチップセットメーカーの周辺にあるデザインハウスが製造するほか、EMSが不正に流出させることもある。同様の外装プラスチック 公模(GongMo)も存在する

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深圳のエコシステムを使って開発した場合と国内開発の差

JENESIS提供同社は深圳で日本向けのEMSサービスを行い、日本交通タクシーのドライブレコーダなどを受諾している

日本向け・認証済みのハードウェアを日本で製造すると1万個・価格1万円・7ヶ月 (初期投資1億円)

深圳のIPシステム+サプライチェーンを使うと1000個・5000円・3ヶ月(初期投資500万円)世界のハードウェアスタートアップが深圳に集まる理由がここにある

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中国IPシステムの光と影

$20$19

$2 $0.6

いわゆる「アイデア一発製品」と中国コピーとの相性はとても悪く、「クラウドファンディングに出されたアイデア製品が、クラウドファンディングが終わる前に90%引きの値段で中国で売られている」ことはよくある。中国のIPシステムでは、見ただけでコピーされるようなものはコピーされてしまう。

一方で、以下のようなハードウェアも深圳で製造されている・オンラインに価値があり、ハードはそこまで差別化してない(Amazon KindleやiPhoneとiTunesなど)・ビジネスに価値がありハードは差別化してない(BtoBのハードウェア、前述日本交通のドライブレコーダ、学校とパスがないと売れない教育用ハードウェア等)

・製造難易度が高く、少量をコピーするのはコストパフォーマンスに合わない(DJIのドローンなど)コピーされるのは、深圳の外で作った製品でも変わらない

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第3章:多産多死の深圳と、北京のベンチャーの違い

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「大衆創業・万衆創新」(誰でも起業できる、みんなでイノベーション)が深圳から中国全土へ

北京は「科学技術イノベーションの中心地」

北京からどうやって社会実装イノベーション、メイカーズを生み出すか?

北京市と清華大学でのベンチャー支援プログラムを見学してきた

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清華大学のベンチャー支援システム背景:大学研究と起業は共通点と相違点がある。

-共通点:・「世間になかったことをする」のはベンチャー企業も研究も変わらず、多くのPh.Dが起業している。-相違点:

・「未知の問題を既知にする」のが研究だが、たとえば「あたらしい星の発見」などは即座にビジネスになりづらい。

・「ゴアテックスの特許を回避できて、化学組成的にはゴアテックスと似たような水蒸気を透過して水を透過しない性質を持つ物質」はビジネスになりやすい

・上記の研究をビジネスにするには、量産や製品化、マーケティングや資金調達といった多くの付随する仕事が発生し、結果としてPh.Dが起業しても、研究室のメンバーと会社のメンバーはだいぶ異なっていく

学生に理解させ、相違点をどう埋めていくか

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清華大学のベンチャー支援システム

Diamond Plan / IPOなどTusStarの中でも大きい会社は、より集めて支援をし

てIPOにこぎ着ける現在14社がIPO

TusStarインキュベーション、起業支援

過去50以上の投資 合同キャンプなど

X-Labビジネスプラン、プロトタイピングの作り込み、起業

準備 希望者のみ、単位は出ない

Dream Course学生向けアントレプレナーシップ講座 単位取得可

清華大学内のプログラム

清華大学卒業生の投資会社Tusグループのプログラム

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Dream Cource+X-LabDream Cource学生向けアントレプレナーシップ講座 単位取得可能

X-Lab

希望者が自由にビジネスプランやプロトタイプ制作などを行うことができ、メンターの指導を受けられるメイカースペース+コワーキングスペース

Page 34: JETRO 北京ベンチャー視察レポート

Dream Cource+X-Lab講師の一人 Steven White MITより清華へ

4年間の成果23,000人 X-labのプログラム参加1,046チーム ビジネスチームの誕生432社 実際に起業USD200万以上 総投資額

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起業した例 ZhenRobot

http://www.zhenrobot.com/team_en.html

社長 Justin Liu配送用ロボットを開発配送センターから自宅までのラスト1マイルを解決するためのロボット現在清華大学の生協と各クラス間で実証実験中

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起業した例 Nums

https://www.kickstarter.com/projects/266112708/

社長 Luckey清華大学工業デザイン卒Macbookのトラックパッドにガラスフィルムを貼り、ソフトウェアを入れてテンキー機能を持たせるReddot Design Aword受賞、Kickstarterで$65634調達

技術的にイノベーティブではないがデザインがいい

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TUSグループさらに企業を成長させていく機能:インキュベーション,エンジェル投資,宣伝プラットフォーム,起業家へのトレーニング

実績: (1999年インキュベーションファーム設立)5000社以上の協力企業グループ27社をIPOさせた40社を合併/買収などでExitさせた時価総額合計は20億元以上(340億円以上)

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主なIPO企業とExit企業

文在銭: 中国の出版社Sumavision:デジタルビデオコントローラ,エンコーダなどBeijing Highlander Digital Tech: GPS,レーダーなど世纪瑞尔:鉄道の安全システム沃捷传媒:広告代理店SPREADTRUM:ネットワーク用チップ

隙間産業や新ビジネスというよりも、既存の分野で優秀な企業が多い

清華大学の人々なので、ある程度レッドオーシャンの市場でも競争勝利していけるのでは?

Page 39: JETRO 北京ベンチャー視察レポート

X-Lab出身で大きくなった企業 TSINOVA

電動アシスト自転車とトルクセンサーの開発会社

(電動自転車ではなく、トルクセンサーを自社開発して、EUや日本の法規にあった「アシスト」を行う)

EU,アメリカ,日本でもビジネス開始

ハイクオリティなデザインとトルクセンサーの精度がコアビジネス(低価格競争ではなく、Panasonicなどの電動アシスト自転車と同価格帯)

Page 40: JETRO 北京ベンチャー視察レポート

ほか、北京のベンチャー支援環境

創業公社

北京市ほか不動産系の政府系企業が出資 中関村にあるつぶれたショッピングモールをコワーキングオフィスにリノベーション家賃の異常に高い北京で、比較的安めに入居できる

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創業公社のベンチャー

T-SENSE VRVRを使った教育プログラム(エンジンの模型を前に、VRで動いている様子を見せるなど)を自社制作し、各種学校に販売そのためにHMDデバイスなども開発している

B2Bの販路が大事になり、いくつの学校に販売しても開発費は余り変わらないので、参入障壁が高く、レバレッジが利くビジネスモデル。

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創業公社のベンチャー

SHELTER中国科学院出身、「大学内の知財をうまく商用化する」のがミッション化学、素材などに強みOLED,ケブラー互換素材などの知財を大学内から見つけてきて製造メーカーに提供する

北京市内を走っている空気清浄フィルターカー(太陽電池駆動)のフィルターはこの会社の知財で作られた

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創業公社のベンチャー

POPULELEIOTギター、IOTウクレレなどを販売Xiaomiから出資を受ける

スマートホンアプリから調弦、ギターのフィンガーボードにLEDが埋

め込んであり、曲にあわせて光って教えてくれる、スマホで採点がされるなど

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ほか、北京のベンチャー支援環境

中関村創業ストリート 1Fが意識の高い名前(Angel, Startup, Geek等が名前に入っている)のカフェ、2Fがコワーキングスペースという作りのスタートアップ支援施設が集積している。

どの施設も政府や大企業の出資を背景に作られており、販売や資金調達の支援を受けられる

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北京のベンチャーまとめ

情報を集めた中で、「ないビジネス・製品を作り始めた」という突然変異のようなベンチャー(深圳のSeeedやHAX門下生, DJI, Makeblock, Insta360のような)は少ない。Populeleぐらいでは。

一方できちんと会社として成長している、利益を出している企業がほとんどである。BtoBの販路をうまく掴むなど。

「もともと優秀で競争に勝てる人が集まる(清華大学)」や、「中国自体が成長市場で、過当競争に陥らないような分野の企業は基本的に成長していく」(創業公社の企業たち)というメリットを成功法で活かしていると感じる

成長市場でのベンチャーはイージーモード