twilight flatデータの評価...
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図 1:画像中心付近のスカイカウント(生)。上が chip1、下が chip2。
Twilight Flat データの評価 中間報告
2005-02-17
田中 壱
3 日目に取得した J バンドの twilight flat データの性質を見た。特にアノマリ様パターンに注目
した中間結果をまとめる。この扱い方によっては、ch1 は視野内で最大 20%の誤差を生じうる。
データ 観測3日目、MCSA00005277.fits~5304.fits のデータ(Jband + CSL; Exptime=10)。合成し
てスカイフラットとするには、連続して変化するそらの明るさに対して、チップの応答が安定し
ている必要がある。一方でリセットアノマリなどのパターンが時間的にも入射光にも影響される
ので、特性を見極める。 取得したデータの生カウントを見る。画像上の 5 箇所の 150x150pixels の領域を nclip=3 で統
計を取った。チップ中心近くの、Quad3上の領域([870:1020, 870:1020] Quad3 center)をアノマ
リの影響などのないリファレンス点とする。他はQuad1 [1400:1650,1800:1950] Quad2 [550:700, 1800:1950], Quad3 [550:700,100:250], Quad4 [550:700, 100:250]として統計を取った。 また、各 Quadrant に見られる、128pixel 毎に規則的に現れる幅 1pixel の筋について、スカイ
カウントが上がってくると次第にこれが顕著に見える印象を持ったので、これも確認してみるこ
とにした。 結果 スカイカウントの変化を図1に示す。
Channel2の最後の 1フレームはQuad1、Quad2が 2 万カウントを超えた。channel 1(新チップ)は 2 万カウントを超えていない。 twilight データでカウント差が同じになる様
な2つのフレームを使って所謂On-Off画像を作
る、というのが SIRIUS の twilight flat 作成方
法である。今回はオーバーヘッドが大きく、こ
の様にして同じカウントのデータセットを複数
を作る事は難しいのが分かる。 上の 4 隅の領域(Quad1~4)での各々のメジア
ン値と中心(Quad3 center)での画像のメジアン
との比を取ったのが図 2。channel2 は最後の数
枚を除いて、比較的安定している。一方、channel 1 の新チップの方は、大きな振幅で揺らぐ。特に
Quad1 と3が顕著。 この原因について画像で確認すると、リセッ
トアノマリであった。統計に取った場所がアノ
マリの影響下にあるのは第一、第三象限である
ためそれが顕著に見える。channel 1 も良くみる
と Quad1, Quad3 が多少ゆらついている。図2
は中心のカウントで規格化した結果である。ア
ノマリは画面の端がダレるようなパターンを見
せるが、その強度が一定ならスカイカウントが
図 2: 画像中心に対する各象限の視野端付近のスカイカウント(生)の比。左が chip1、右が chip2。統計を取った領域は本文参照。
図 3: 第 3 象限でみる reset anomaly pattern。上が chip1、下が chip2。
高くなるにつれて相対的にアノマリシグナル(図2)は小さくなる。channel 1 の Quad1,3 のデー
タは8フレーム目まで確かに減少傾向を見せるが、それ以降もスカイはどんどん高くなる(図1)のに対して、アノマリシグナルは 9~13 フレームで再び増大に向かう。これはアノマリパターン
の強度が一定値のカウント(もしくはパターン)ではない事を示しており、入射光に対してそのレベ
ルが変化していることを示す。 channel 2 の Quad1,3をみる。こちらも良くみるとわずかに減少し、増大に転じる傾向が見
える。しかしスカイの値が 10 倍近くまで上昇するのに対して、画像のカウントに対するアノマリ
の強度は大体一定と言って良い。同じ事は channel1 にも言える。つまり、この「アノマリパタ
ーン」は入射光に対してスケールしている。し
かし、完全なスケールでなく、入射光と共に変
化する複雑な応答である。よって扱いは大変難
しい。 アノマリの存在が明らかになったので、第 3象限について、アノマリの顕著な視野の端
[350:1021,10:60]のカウントを改めて取る。画
像の真ん中付近とのカウントとの差を見るこ
とでアノマリの振る舞いを見た。 図 3 が結果。スカイカウントが上がってく
るにつれて、Ch1 ではしだいにカウント差が
なくなってきて、最後の 3 フレームは傾向が
逆転する。Ch2 も同様であるが、チップ中心
とのカウント差は最初少なく、次第に深くなる。
やはり最後の 3 フレームがその前と逆の傾向
を示す。図 1 から、これは入射光レベルが
10000~15000 ADU 付近で起こる事がわかる。
チ ッ プ の saturation が 起 こ る の は
>25000ADU である。サチる前にチップがどう
いう振る舞いを見せるかに注意を払う必要が
あるかもしれない。 次に、画像に見られる、128 ピクセルごとに
繰り返す、平行な筋について調べる。図 4 に例
を示したが、この筋はカウントが高くなると次
図 4: 画像に見られる 128 ピクセルごとに現れる筋の振る舞い。第 4 象限付近を拡大した。上の 2 枚がチップ1、下がチップ 2。そ
れぞれ、左側が約 5000 カウントの照度レベル。右側が 20000 カウント超の照度レベル。表示レベルはそれぞれ、メジアンに対して
5σのレンジで統一。
第に目立ってくる印象があった。単に表示レベルの違いの問題か、実際このピクセル列だけ違う
振る舞いなのかを見た。図 4 は注目している第 4 象限付近の画像統計を取り、カウントのメジア
ン値に対して 5σの表示レンジで統一して表示させたもの。この表示法で見る限り、筋は明らか
にはっきり見えてきている。両チャンネルとも同じ振る舞いである。 図 5 は第 4 象限の一番上の筋について、その付近の筋以外の部分についての平均カウントと共
にプロットしてみたものである。3 つの照度レベルの画像についてそれぞれ結果を示した(縦軸)。図からみて明らかに、最もカウントの高いフレームは筋部分が違う振る舞いをしているのが分か
図 5: 画像に見られる 128 ピクセルごとに現れる筋。第 4 象限を横軸 x (pixel)、縦軸カウントでプロットした。3 つの照度レベ
ルの画像を同時に表示させている。右が ch1 左が ch2。それぞれ、ノイズの小さい、比較的平らな線が問題の筋を除いたその付近
のカウントの平均。ノイジーなのが筋部分のカウント。最も高い照度の 1 枚(図 1 の最後)のみで顕著なダレが見られる。後はカウ
ントが少し低い。なお、一番中心に近い筋を用いたためアノマリの影響は無いと考えられる。
図 7: 第 4象限でみた、128ピクセル筋部その周囲とのカウントの比。
上が chip1、下が chip2。横軸は照度レベル。上から順に、y=846, 640,384, 128 (pixel)の所に見られる筋のカウントを示す。筋以外の部分の
平均カウントはメジアン。カウント上昇と共に緩やかに比が小さくな
り、20000 ADU 手前で急。
る。カウントが低いフレームについても、筋の部分とそうでない部分との差が、次第に広がって
きている。 図 7 は筋部分のカウントとその周辺部の
カウントの比が入射光に対してどう振舞う
かをみたものである。横軸は y=846pixel 筋周辺のカウントのメジアンで、4 つの筋
(y=128、384、640、896 pix)について調
べている。最も照度が高い最後のフレームで
急に落ちているが、そのほかに、twilight が進んでカウントが上がってくるにつれて、次
第にゆるやかにカウント比が下がってくる
傾向が見て取れる。特に画像中心に近い筋ほ
ど顕著で、視野の端の部分は目立たない。こ
れは視野の中心ほど生カウントが高い(ケラ
レ?)事をある程度反映しているかもしれな
い。いずれにせよ、小さなレベルなので、
20000 カウントに近くならない限り問題な
いと言えそうである。 なお最後の照度が高くなってからの急変
であるが、20000 カウントを過ぎてもリニア
リティはそれ程問題にはならないはずであ
るが、チップの特性の上では変化が起きはじ
めていると考えられる(実用上は問題ない?)。 考察 フラットフレームを作る観点から言えば、
pixel-to-pixel の感度ムラを取る事と、画面
全体にわたる応答を一様にするためにフラ
ットを作るわけなので、前者の pixel-to-pixel
図 8: 上は dark に見られるアノマリ。視野端のパターンは log カー
ブ的。下図は twilight の照度差で現れるアノマリパターン。カーブは
直線的。光が来ない影の部分は無視する。
の感度ムラを取るために精度の良いフラットを作るには、アノマリをなんとか抜き去ってから合
成すれば良い。一方で、グローバルなパターンがアノマリに伴って約 20%も変化していることは、
フラットを作る際にこの成分を考慮する仕方によっては、天体のフラックスが最大で同程度も違
う結果となりうる事を示唆している。アノマリをスカイの一部と考えれば、この画像端のダレパ
ターンは引くことで処理されるべきものとなり、フラットフレームにはアノマリは残してはいけ
ない。一方でグローバルな感度むらであると考えるなら、アノマリパターンは割り算するべきも
のである。このどちらの扱いが正しいのか、現在のデータでは判断するのが難しい。アノマリパ
ターンの影響下の部分とそうでない部分とに星を置き、解析の仕方でどう測光結果が違うかを見
るのが解決になる。ここでさらに問題となるのは、照度レベルと共にアノマリ強度が変化してお
り、あるフレームを基準として他のフレームのアノマリ成分を引き去る、あるいは割り算するこ
とはできても、その基準フレームにどのくらいのアノマリが入っているのかを知る事はできない
という事である。結局天体フレームでスカイフラットを作るのと、不定性という意味で違いが少
ないかどうか、が twilight フラットの有効性を決定する。今後の解析ではこれを念頭に解析して
みる予定。 なお、アノマリ、という言葉について、視野の端でダレが現れる現象として使ったり、このダ
レパターンが時間あるいは照度レベルで変化する意味で使ったりしていて混乱を招きかねない点
は今後整理したい。また、照度レベルでパターンが変化するアノマリが、ダークでしばしば見ら
れるパターンの急変化の際に現れるアノマリパターンとは違う見かけであった(図 8)。その意味
で、パターンの変化を意味するアノマリ、と言っても、それが本当に reset anomaly に起源を持
つのかはここでは触れないで議論している事はご容赦願いたい。