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塩害環境下にある橋梁の調査報告 武藤 正広 1 ・山家 淳史 2 1 北陸技術事務所 維持管理技術課 (〒9501101 新潟県新潟市西区山田2310番地52 北陸技術事務所 維持管理技術課 (〒9501101 新潟県新潟市西区山田2310番地5海岸部を通る橋梁は塩害環境下にあるため,主に飛来塩分の影響を受けることからこれまで 様々な調査,補修が行われてきている.本報告では国道8号上越地区の橋梁を対象に,飛来塩 分,付着塩分調査や暴露供試体の経年変化,電気防食の状況などについて報告する. キーワード 塩害調査,塩害橋梁,飛来塩分,付着塩分,電気防食 1. はじめに 塩害は海からの飛来塩分がコンクリート内部に浸透・ 拡散し,鋼材を腐食させることによって耐荷性能の低下 をもたらす劣化である.塩害による劣化は部材内部から 進行していくため発見が難しく,コンクリートのうきや 剥離・鉄筋露出といった外観変状が生じた時点では,す でに症状が著しく進行した状態であることが多い.また 一度多量の塩分が浸透した場合,新たな供給を抑制して も内在する塩分によって劣化が進行するため,抜本的な 対策が困難である.このため,コンクリート橋梁の塩害 に対しては,合理的、効果的な対策をどのように行うか が課題となっている. 本調査は,塩害の劣化メカニズムや対策方法の有効性 を検証するため,長期的に基礎データを蓄積することを 目的とし,冬期の季節風により全国的にみても特に厳し い塩害環境下にある北陸地域の日本海沿岸部の橋梁を対 象に,平成13年度より継続実施している. 本稿ではこのうち,平成27年度および平成28年度 に得られた各種調査結果を報告する. 2. これまでの成果 調査結果は,専門家で構成される橋梁塩害対策検討委 員会(以下「委員会」)で審議されている.委員会では, これまでに「塩害橋梁維持管理マニュアル(案)2008 4月」(以下「塩害橋梁マニュアル」),「電気防食周 辺機器・装置の維持管理マニュアル(案)20132月改 訂」(以下「電気防食マニュアル」)の策定を行い、北 陸地方整備局のホームページにて公表している. 3. 対象橋梁 (1) 調査位置 本稿では,図-1に示す国道8号の新名立 しんなだち 大橋,弁天 べんてん 大橋,能 大橋および各橋近傍にて実施している暴露供 試体より得られた調査結果を報告する. 図-1 調査位置図 (2) 橋梁諸元 橋梁諸元を表-1~表-3に示す. 表-1 新名立大橋橋梁諸元 橋梁名 新名立大橋 橋梁写真 完成年/供用年数 2001年(平成13年)/16年 橋梁形式 PC 単純ポステン中空床版2連 橋長 75.3m 径間数 2径間 全幅員/有効幅員 21.9m/21.0m 弁天大橋 140kp 130kp 120kp 150kp 160kp 170kp 180kp 170kp 160kp 180kp 190kp 190kp 新名立大橋 能生大橋

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Page 1: 塩害環境下にある橋梁の調査報告 - MLIT塩害環境下にある橋梁の調査報告 武藤 正広1・山家 淳史2 1北陸 技術事務所 維持管理 課 (〒9 50-

塩害環境下にある橋梁の調査報告

武藤 正広1・山家 淳史2

1北陸技術事務所 維持管理技術課 (〒950-1101 新潟県新潟市西区山田2310番地5)

2北陸技術事務所 維持管理技術課 (〒950-1101 新潟県新潟市西区山田2310番地5)

海岸部を通る橋梁は塩害環境下にあるため,主に飛来塩分の影響を受けることからこれまで

様々な調査,補修が行われてきている.本報告では国道8号上越地区の橋梁を対象に,飛来塩

分,付着塩分調査や暴露供試体の経年変化,電気防食の状況などについて報告する.

キーワード 塩害調査,塩害橋梁,飛来塩分,付着塩分,電気防食

1. はじめに

塩害は海からの飛来塩分がコンクリート内部に浸透・

拡散し,鋼材を腐食させることによって耐荷性能の低下

をもたらす劣化である.塩害による劣化は部材内部から

進行していくため発見が難しく,コンクリートのうきや

剥離・鉄筋露出といった外観変状が生じた時点では,す

でに症状が著しく進行した状態であることが多い.また

一度多量の塩分が浸透した場合,新たな供給を抑制して

も内在する塩分によって劣化が進行するため,抜本的な

対策が困難である.このため,コンクリート橋梁の塩害

に対しては,合理的、効果的な対策をどのように行うか

が課題となっている. 本調査は,塩害の劣化メカニズムや対策方法の有効性

を検証するため,長期的に基礎データを蓄積することを

目的とし,冬期の季節風により全国的にみても特に厳し

い塩害環境下にある北陸地域の日本海沿岸部の橋梁を対

象に,平成13年度より継続実施している. 本稿ではこのうち,平成27年度および平成28年度

に得られた各種調査結果を報告する.

2. これまでの成果

調査結果は,専門家で構成される橋梁塩害対策検討委

員会(以下「委員会」)で審議されている.委員会では,

これまでに「塩害橋梁維持管理マニュアル(案)2008年4月」(以下「塩害橋梁マニュアル」),「電気防食周

辺機器・装置の維持管理マニュアル(案)2013年2月改

訂」(以下「電気防食マニュアル」)の策定を行い、北

陸地方整備局のホームページにて公表している.

3. 対象橋梁

(1) 調査位置

本稿では,図-1に示す国道8号の新名立しんなだち

大橋,弁天べんてん

大橋,能の

生う

大橋および各橋近傍にて実施している暴露供

試体より得られた調査結果を報告する.

図-1 調査位置図

(2) 橋梁諸元

橋梁諸元を表-1~表-3に示す.

表-1 新名立大橋橋梁諸元

橋梁名 新名立大橋

橋梁写真

完成年/供用年数 2001年(平成13年)/16年

橋梁形式 PC単純ポステン中空床版2連

橋長 75.3m

径間数 2径間

全幅員/有効幅員 21.9m/21.0m

弁天大橋 140kp

130kp

120kp

150kp

160kp

170kp

180kp

170kp

160kp

180kp

190kp

190kp

新名立大橋

能生大橋

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表-2 弁天大橋橋梁諸元 橋梁名 弁天大橋

橋梁写真

完成年/供用年数 1972年(昭和47年)/45年

橋梁形式 PCプレテンT桁17連

橋長 340.02m

径間数 17径間

全幅員/有効幅員 11.40m/10.50m

表-3 能生大橋橋梁諸元

橋梁名 能生大橋

橋梁写真

完成年/供用年数 2012年(平成24年)/5年

橋梁形式 4径間連続PCポステン中空床版

橋長 130.1m

径間数 4径間

全幅員/有効幅員 13.70m/12.50m

(3) 塩害対策概要

新名立大橋および弁天大橋で実施されている電気防食

方式を図-2と図-3に示す.

※赤丸は照合電極位置

図-2 新名立大橋電気防食方式割付図

図-3 弁天大橋電気防食方式割付図

(4) 供試体概要 新名立大橋および能生大橋の近傍で実施している暴露

供試体の概要を以下に示す.

a) 新名立大橋近傍暴露供試体

新名立大橋が竣工した平成14年度より橋梁近傍にて

暴露試験を実施している.

新名立大橋の主桁と同形状の供試体9体に対し,写真

-1と図-4に示すとおり各桁で異なる塩害対策を行い,各

種追跡調査を実施している.

b) 新名立大橋近傍試験場RC供試体

新名立大橋近傍にて平成18年度より暴露試験を実施

している.

供試体形状は図-5に示すとおりであり,鉄筋のかぶり

写真-1 新名立大橋近傍暴露供試体写真

図-4 新名立大橋近傍暴露供試体概要

図-5 新名立大橋近傍試験場RC供試体概要

を位置によって変えている.使用するセメントは普通ポ

ルトランドセメント,早強ポルトランドセメント,早強

ポルトランドセメント+高炉スラグの3種類であり,1

5体(各種5体)の供試体に対して物理・電気化学試験

調査として追跡調査を実施している.

c) 能生大橋近傍バス停RC供試体

能生大橋近傍にて平成24年度より暴露試験を実施し

ている.

供試体概要は図-6と図-7に示すとおりであり,同一の

鉄筋のみを使用した供試体シリーズと鉄筋の組み合わせ

を変えた供試体シリーズそれぞれについて,耐久性への

影響を追跡調査している.なお,エポキシ樹脂塗装鉄筋

(以下,エポ筋)は事前に部分的にキズを設けている.

供試体番号 1 2 3 4 5

供試体名 短同-1 短同-2 短同-3 短同-4 短同-5

使用鉄筋 SUS410 SUS304 SUS316 エポ 筋 普通鉄筋

図-6 同一の鉄筋を使用した供試体シリーズ

A1

橋長 75300

50 桁長 36000 100 桁長 39100 50450 支間長 35100 450450 支間長 38200 450

至 朝日至 柏崎

P1 A2

ch1ch2ch3ch4ch1

ch1

ch1ch2

ch2

ch2ch3 ch3

ch3

ch4 ch4

ch4

チタンリボンメッシュ方式 チ タ ン ロ ッ ド 方 式

チ タ ン グ リ ッ ド 方 式 チ タ ン 溶 射 方 式

1135331415009000539

G1 G2 G3 G4 G5 G6 G7 G8 G9 G10 G11チタンメッシュ方式チタングリッド方式流電陽極方式

海側山側

22002200 810 2200 810 2200 810810 2200 810 2200 810 2200 810 2200 810

炭素繊維巻立桁

無対策桁チタンリボン

メッシュ方式桁

チタングリッド方式桁

チタンロッド方式桁

チタン溶射方式桁

ひび割れ部

塩害塗装桁

樹脂鉄筋使用桁

高流動コンクリート桁

20 10 3000 10 3000 10 3000 10 3000 103000 3000 10 3000 2010 3000 10 3000

1000

糸魚川側

810 2200 810

上越側

1500

1500

390

300 10010

25

2mm四方のキズ(50mm間隔)

100

25

50

50

250

150

リード線

コア径80

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供試体番号 11 12 13 18

供試体名 短異-1 短異-2 短異-3 短異-4

使用鉄筋 赤 SUS410 SUS410 SUS316 エポ 筋

青 エポ 筋 普通鉄筋 普通鉄筋 普通鉄筋

結束線 ビ ニー ル被覆 SUSワイヤ ビ ニー ル被覆 普通鋼ワイヤ

図-7 鉄筋の組み合わせを変えた供試体シリーズ

4. 調査概要

本調査で実施した調査のうち本稿に記載する項目を表

-4に示す.

表-4 調査項目 調査項目 対象箇所 調査内容

外観目視観測調

新名立大橋 外観目視調査

新名立大橋近傍暴露供試体 〃

弁天大橋 〃

物理・電気化学

試験調査 新名立大橋近傍試験場RC供試体

外観目視調査

自然電位測定

電気防食追跡調

新名立大橋 復極量試験

新名立大橋近傍暴露供試体 〃

弁天大橋 〃

能生大橋の耐久

性調査 能生大橋近傍バス停RC供試体

外観目視調査

含有塩分量試験

供試体解体調査

(1) 外観目視観測調査

電気防食を行っている新名立大橋と弁天大橋の2橋お

よび新名立大橋近傍暴露供試体において、ひびわれ状況,

うき・剥離,さび汁,電気防食部位の変状を外観目視に

より調査し,塩害による劣化状況を記録するものである.

新名立大橋と新名立大橋近傍暴露供試体は平成14年度

から,弁天大橋は平成16年度から継続して調査を実施

している. (2) 物理・電気化学試験調査

塩害の発生メカニズムの究明を目的に新名立大橋の近

傍に供試体(新名立大橋近傍試験場RC供試体)を設置し,

平成18年度より暴露試験を実施している.

調査の内容は5年・10年・15年を目安にコンクリ

ート中の塩化物イオンの浸透状況および解体調査による

鉄筋の腐食状況を把握するものであり,平成24年度に

一度これを実施した.その他の年度では外観目視による

変状の確認と鉄筋腐食の可能性を評価するために各鉄筋

の自然電位の計測を継続的に実施している.

(3) 電気防食追跡調査

電気防食工法の有効性を検証するために,新名立大

橋・弁天大橋・新名立大橋近傍暴露供試体を対象として

平成14年度より継続調査を実施している.防食効果の

有無は通電停止24時間後の復極量から判断するものと

する.

(4) 能生大橋の耐久性調査

能生大橋に適用されたエポ筋及びステンレス鉄筋の塩

害環境下における耐久性を把握することを目的に,能生

大橋近傍に設置した供試体(能生大橋近傍バス停RC供試

体)に対し平成24年度から短期暴露試験と長期暴露試

験を実施している.

短期暴露試験の内容は3年・10年を目安にコンクリ

ート中の塩化物イオンの浸透状況および解体調査による

鉄筋の腐食状況を把握するものであり,平成27年度に

一度これを実施した.その他の年度では外観目視による

変状の確認と自然電位の計測を継続的におこなっている.

長期暴露試験は5年・10年・20年・30年を目安

に上記と同様の調査を実施する計画としている.

5. 外観目視観測調査結果

(1) 新名立大橋

特に目立った変状としてはチタン溶射皮膜の剥離が確

認された.要因としては電気防食効果を発揮し電気的に

消耗したほか,砂の巻き上げによって摩耗しているもの

と考えられ,チタン溶射適用時の課題が抽出された.

写真-2 チタン溶射皮膜劣化状況

(2) 新名立大橋近傍暴露供試体

チタングリッド桁および炭素繊維桁以外の供試体でひ

びわれの進展が確認されたが,いずれも幅0.2mm未満で

あり,塩害による劣化進行はないと考える.

(3) 弁天大橋

チタンメッシュ桁の陽極材被覆モルタルにひびわれが

見られたほか,流電陽極桁の陽極板(亜鉛シート)取付

けボルトの腐食が確認されたが,いずれも軽微な劣化で

あり目立った塩害による劣化進行はないと考える.

300

7575

250

50

50

コア径80

25

100

25

10010

10

25

25

75

75

7575

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6. 物理・電気化学試験調査結果

(1) 外観目視調査

新名立大橋近傍試験場RC供試体12本の外観目視調査の

結果、いずれの供試体もかぶり10㎜の箇所で、ひびわ

れ・さび汁・かぶりコンクリートのうきや剥離等の変状

が生じている.また、普通セメントを使用した供試体で

は鉄筋かぶり20㎜の箇所で新規のひびわれを確認した.

写真-3 かぶり10㎜箇所 写真-4 かぶり20㎜箇所

(2) 自然電位測定

図-8に計測結果の代表例を示す.

平成27年度計測時と比較して平成28年度計測時に

は多くの供試体で自然電位が貴な方向(正の符号側)に

推移した.

ただし,いずれの供試体でもかぶり10㎜の鉄筋は自然

電位が-350mV以下を示しており,内部の鉄筋は腐食して

いる可能性がある.また外観目視調査で新たにひびわれ

が確認された箇所の鉄筋「新N-2-20」も同様に電位が-

350mV以下であり,鉄筋が腐食している可能性がある

(図-8中赤丸参照).

ただし幅の大きいひびわれやかぶりコンクリートが剥

離している箇所は自然電位の測定条件として不適であり,

参考値として考慮するのが妥当である.

7. 電気防食追跡調査結果

(1) 新名立大橋

復極量はいずれの電気防食方式でも夏期に低下し,冬

期に高い値を示す傾向がある.

なお,復極量とは防食電流遮断直後の鉄筋電位とその

後24時間放置した時点の鉄筋電位の差分であり,防食基

準として100mV以上の復極量管理が行われている.

図-9に復極量の追跡調査結果のうちチタン溶射方式の

結果を示す.

遠隔システムの不具合により2014.12~2015.3までの

データに欠損が生じたが,2015.12にシステムトラブル

は復旧された.

復旧後,チタン溶射方式のch2・ch3・ch4において

は復極量が100mVを下回る傾向を示したが,これは①照

合電極の劣化,②陽極材(チタン溶射皮膜)の劣化(5.

外観目視観測調査結果参照)が要因として推察できる.

ch2は2012.2に照合電極を交換した経緯があることを踏

まえると,②陽極材の劣化が支配的な要因と考えられる.

ch3とch4は過去に照合電極の交換は行われていないた

め①と②いずれの可能性も考えられる.

このため今後の対応としては照合電極を交換した上で,

復極量の推移を確認する必要がある.

なお,計測開始当初はch1とch2の復極量が100mV未

満となる傾向を示しているが,チタン溶射方式は陽極材

が桁下面に露出し環境の影響を受けやすいため,ch毎に

復極量のばらつきが生じやすく,全てのchで均一な通電

状況とすることが困難であることがわかる.

(2) 新名立大橋近傍暴露供試体

図-10に復極量の追跡調査結果のうち,チタンロッド

方式の結果を示す.

チタンリボンメッシュ方式,チタングリッド方式およ

びチタン溶射方式では100mV以上の復極量を示し,防食

状態にあると考えられる.

一方でチタンロッド方式では2015年の遠隔システムト

ラブル後,復極量が100mV未満の状態となっている.た

だし徐々に増加傾向を示しているため,経過観察のうえ

要因の究明を行う必要がある.

供試体No.

新N-2-10

計測位置のかぶり セメント種類

※N・H・HS はそれぞれ普通セメント・

早強セメント・早強セメント+高炉スラグ

-700

-600

-500

-400

-300

-200

-100

0初期値

(2006年:室

内)

2006年9月 2007年9月 2008年10月2009年10月2010年11月2011年11月2012年11月2013年11月2014年11月2015年10月2016年10月

自然

電位

(mV

vs C

SE)

新N-2-10 新N-2-20 新N-2-30 新N-2-40

新H-2-10 新H-2-20 新H-2-30 新H-2-40

新HS-2-10 新HS-2-20 新HS-2-30 新HS-2-40

90%以上の確率で腐食なし

不確定

90%以上の確率で腐食あり

腐食の判定:ASTM C 876

-200<E 90%以上の確率で腐食なし

-350<E≦-200 不確定

E≦-350 90%以上の確率で腐食あり

図-8 自然電位の推移(供試体No.2)

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図-9 チタン溶射方式における復極量データの推移

図-10 チタンロッド方式における復極量データの推移

(3) 弁天大橋

いずれの電気防食方式でも復極量は新名立大橋と同様,

夏期に低下し冬期に高い値を示す傾向があった.

また,復極量は防食基準である100mV以上を満足する

ことを確認した.

8. 能生大橋の耐久性調査結果

(1) 外観目視調査

多くの供試体には目立った変状は見られなかったが,

エポ筋のみを使用した供試体「短同-4」に点さび,普

通鉄筋と普通鋼ワイヤの結束線を組み合わせた供試体

「短異-4」にうきが確認された.

写真-5 「短同-4」供試体 写真-6 「短異-4」供試体

(2) 含有塩分量試験

暴露期間3年用の供試体9体を対象にコア採取を行い,

塩分量試験を実施した.

コアは供試体中心部から採取した後,半分に切断し,

それぞれの試験片を用いて塩化物イオン含有量試験と

EPMA面分析を実施した.

a) 塩化物イオン含有量試験

試験の結果,鉄筋が位置するかぶり10mm付近の塩化

物イオン量はおおむね6~8㎏/㎥程度を示し,発錆限

界値(1.2㎏/㎥)を大きく超える値である.

うきが確認された「短異-4」は鉄筋位置での塩化物

イオン量が約7.0㎏/㎥であった.

図-11に代表例として「短異-4」の結果を示す.

図-11 「短異-4」供試体塩化物イオン含有量試験結果

名立大橋 防食回路4 チタン溶射方式 復極量 '02.7~'15.11

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

550

600

650

700

復極

量(m

V)

ch.1

ch.2

ch.3

ch.4

100mV :防食基準

無停電電源装置の

故障他遠隔システム

トラブル

遠隔システム

トラブル

名立大橋近傍 暴露供試体 防食回路3 チタンロッド方式 復極量 '02.7~'15.11

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

550

600

復極

量(m

V)

ch.1

ch.2

ch.3

100mV :防食基準

無停電電源装置

の故障他

遠隔システム

トラブル遠隔システム

トラブル

点さび うき

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 1 2 3 4

塩化

物イ

オン

量(k

g/m

3)

コンクリート表面からの距離(cm)

実測値(kg/m3)

計算値(kg/m3)

鉄筋位置

鉄筋位置(浮き付近)

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b) EPMA面分析

図-12に代表例として「短異-4」の塩化物イオン分析

画像を示す.

供試体断面の塩化物イオンの濃度分布を視覚的に示し

ており,表面部(図上部)ほど濃度が濃く,深部に向か

うほど薄くなっていく傾向が画像から確認できる.

分析画像をもとに塩化物イオン量を定量化した結果,

図-13に示すとおりいずれの供試体も表面の塩化物イオ

ン量はおおむね20~30㎏/㎥程度であり,かぶり深

さ(10mm)付近では3~13㎏/㎥程度であった.

図-12 塩化物イオン分析画像(短異-4)

図-13 塩化物イオン量分布

(3) 供試体解体調査

塩分量試験を実施した後,供試体を解体し鉄筋の腐食

状況を調査した.写真-7~写真-9に鉄筋腐食状況の抜粋

を示す.

普通鉄筋には一部断面減少を伴う表面錆や点錆が確認

された.また,エポ筋はキズ部分に点錆が確認された.

一方でエポ筋の健全部とSUS筋には錆が見られなかった

ことから,これらは普通鉄筋に比べて耐久性が優れ,発

錆限界値を大きく超える塩分量を含有した状況でも健全

性を示すことが明らかとなった.

また,普通鉄筋と異種鉄筋との結束部に表面錆が見ら

れ異種金属接触腐食が生じた可能性がある.

表-5に解体調査で得られた結果総括を示す.

写真-9 「短異-4」供試体

表-5 調査結果一覧

No. 鉄筋種別 結論

短同-1 SUS410

いずれのSUS筋も腐食がなく,3年暴露時点において耐

久性に問題なし. 短同-2 SUS304

短同-3 SUS316

短同-4 エポ 筋 エポ筋のキズ部分に点錆が見られ,3年暴露時点にお

いて耐久性に影響を及ぼす可能性がある.

短同-5 普通鉄筋 一部に点錆及び腐食をが見られ、3年暴露時点におい

て耐久性に影響を及ぼす可能性がある.

短異-1 SUS410

エポ 筋

腐食がなく,3年暴露時点において耐久性に問題な

し.

短異-2 SUS410

普通鉄筋

普通鉄筋の結束部に表面錆が見られ,3年暴露時点に

おいて耐久性に影響を及ぼす可能性がある.

短異-3 エポ 筋

普通鉄筋

普通鉄筋の結束部に局部的な表面錆が見られ,3年暴

露時点において耐久性に影響を及ぼす可能性がある.

短異-4 普通鉄筋

普通鉄筋

断面減少を伴う錆が見られ,3年暴露時点において耐

久性に影響を及ぼす可能性がある.

9. 今後の計画

平成29年度は,塩害メカニズム究明や対策工法の有

効性検証等を目的に継続調査を実施しつつ,全国的な浸

透・活用の推進を目指し「塩害橋梁マニュアル」の改訂

作業を進めていく.

また,本年度は国道8号新潟県糸魚川市歌地先の,歌

高架橋の架け替え事業により発生した撤去桁を活用し,

委員会からの意見・助言をもとに,橋梁内部の塩害調査

を実施することで,さらなるデータの拡充が期待できる.

最後に,道路橋の塩害に関するデータは未だに少なく,

本継続調査の意義は非常に大きいものと言え,今後も委

員会の助言を参考に,継続的に調査を行い,情報発信を

していく.

写真-7 「短同-4」供試体 写真-8 「短異-3」供試体

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

0 10 20 30 40 50

塩化

物イ

オン

量(kg/

m3)

深さ( mm)

供試体11(短異-1)

供試体12(短異-2)

供試体13(短異-3)

供試体18(短異-4)

鉄筋位置

単位:mass%

キズ部に点錆を確認 結束部に局部的な表面錆あり

断面減少を伴う表面的な錆あり