ウォーミングアップ/クーリングダウンの 生理学的・心理学的役 … ·...
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ウォーミングアップ/クーリングダウンの 生理学的・心理学的役割と実技
全日本ノルディック・ウォーク連盟 指導部技術委員 関東ブロック長 アメリカスポーツ医学会 ヘルスフィットネススペシャリスト
日本体力医学会 健康科学アドバイザー 健康・体力づくり事業財団 健康運動実践指導者
芝 田 竜 文
第3回 東京都ノルディック・ウォーク連盟 指導部会定例勉強会
ウォーミングアップとクーリングダウン
●ウォーミングアップ 身体を安静状態(1メッツ)から運動状態(>1メッツ)に無理なく速やかに 適応させるための運動 ●クーリングダウン 運動状態から徐々に回復をはかり、運動後の急激な変化による障害等を 予防し、疲労物質を速やかに除去しながら、安静状態に戻すための運動 一定強度以上の運動を行うときは常に、参加者の身体の状態に応じた ウォーミングアップ、クーリングダウンを用意し、筋や関節などの運動器 や循環系・代謝系などの内科的な事故の予防に努めなければならない。 また、運動の初心者や有疾患者ほど、全体の運動プログラムに占める これらの時間を多くとる。 運動指導者は、これらに関する情報や技術を的確に提供し、運動実施者 が安全で効果的に運動を行えるように導く必要がある。
運動セッションの構成要素
● 準備運動 ● ストレッチング ● 主運動 (コンディショニング、またはスポーツに関連する運動) ● 整理運動
(1つの運動セッションには、次の要素を含めるべきである)
● 準備運動 準備運動では、 最低5~10分の低強度[ VO2R(酸素予備量)が40%未満 ]から 中程度【 VO2Rが40~60%未満 】の有酸素性運動や持久的運動を行い、 体温を上昇させ、運動後に筋肉痛や「筋が硬くなる」のを予防するのを目的とする。 準備運動は、安静から本格的運動への移行期であり、 運動セッションのコンディショ二ング期やスポーツ活動の時期に要求される 生理学的、生体工学的、また、エネルギー消費増大の負荷に生体を適応させる。
● コンディショニング(主運動) コンディショニングは有酸素性運動、レジスタンス運動、スポーツに関連する 運動のいずれか、もしくはそれらを組み合わせたものである。 有酸素性運動とレジスタンス運動について FITT【頻度:Frequency 強度:Intensity 持続時間:Time タイプ:Type(mode)】 の原則をもとに、個人に適した運動を選択する事が必要である。 一般的には20~60分間の有酸素性運動、レジスタンス運動、運動制御能力を 高める運動あるいはスポーツ活動 (合計して1日最低20~60分運動を行う場合、1回の運動は10分でもよい)
● 整理運動 コンディショニングの後は整理運動として、 低強度[ VO2R(酸素予備量)が40%未満 ]から 中程度【 VO2Rが40~60%未満 】の有酸素性運動や持久的運動を 少なくとも5~10分行う。 整理運動の目的は心拍数と血圧を徐々に安静のレベルに回復させ、 より強度の高いコンディショニング中に活動した筋肉で生成された 代謝産物を除去することである。
● ストレッチング
ストレッチングは、準備運動や整理体操とは別なもので、準備運動や整理運動 の後で行われる。 最低10分のストレッチ運動
ストレッチングとは? 「伸ばす、引っ張る」ことを意味するStretchの動名詞で、 一般的には、関節を屈曲したり伸展させたりして、意識的に「筋や腱を伸ばす」 運動のことを指す。 身体活動・スポーツ前後の準備運動や整理体操として、 また、種々の関節可動域(range of motion,ROM)を広げる柔軟体操として 広く普及している。 静的ストレッチング(スタティックストレッチング) 反動をつけずにゆっくりと筋や腱を伸張していき、伸張した状態でしばらく維持 する方法 動的ストレッチング(ダイナミックストレッチング) ストレッチ姿勢の保持をせず、動きながら筋や腱を伸張させる方法 この中には、はずみや反動をつけて瞬間的に強く筋をストレッチするバリスティ ックストレッチング(伸張反射を誘発して筋や結合組織、腱などの損傷を招く 危険があることから一般の人が健康づくりとして行う場合には勧められない) も含まれる。
①運動中の内科的、整形外科的事故を予防する。 ・身体は安静状態から即時に運動状態に適応することはできない。 ウォーミングアップによって呼吸・循環器系のイベント(心臓の虚血・不整脈 の誘発など)を予防することが出来る。特に慢性疾患を有する人では欠かす ことができない。 ・関節の可動域や機能・骨格筋の動き(運動の効率)をよくすることで、 運動器の傷害を予防する可能性がある。 ・心理的にも覚醒を促し、運動への意欲や集中力を喚起させる。
②運動参加者の運動に対する身体状態の反応の把握が出来る ・主運動に入る前の低運動強度でのウォーミングアップ時に、参加者の運動 に対する反応を観察することで主運動の実施の可否や内容の変更、 個別アドバイスをすることができる。 ・異常や兆候の確認 (頭痛・胸痛・関節痛・息苦しさ・動悸・息切れ・めまい・吐き気・不快感 疲労感・不安定な動き・反応が鈍い)
③パフォーマンスを高める ・筋温・代謝系:体温、筋温があがることで多くの生理機能が亢進し、筋の酵素活性 が高まることでエネルギー代謝が亢進する。(1℃筋温が上昇すると約13%増加) また、筋の粘性が低下することで、動きやパワーが発揮しやすくなる。 (筋温5℃の上昇で、筋収縮速度やパワーは概ね10%増加する) ・呼吸・循環系:血液循環が促進して、呼吸・循環系の反応が速くなる。 ・神経系:体温、筋温の上昇は神経機能を亢進させ、神経伝達を律速し、 動きを素早くスムースにする。 ・骨・筋系:上記の生理学的変化により、筋、腱、靭帯など運動器の損傷を防ぎ、 関節可動域を広げ、柔軟性を高め、力学的にも優美さにおいても運動能を高める ・精神・心理的:適当なウォーミングアップによる主運動への生理学的な準備は 同時に、精神的な興奮を高め、主運動に対する心身の準備を整え、 より高い能力発揮は導く
①運動後の循環器系・呼吸器系の事故を予防する。 ・高強度の運動や身体活動を急に停止すると、活動筋から心臓に血液が 戻りにくくなり、血圧の低下、心臓の虚血、不整脈の誘発、めまいや失神 を起こすことがある。低強度での緩やかな活動を数分間持続することで、 心臓への静脈環流を促進することができ、事故防止につなげることがで きる。不整脈は心筋虚血など循環系の慢性疾患を有する人や非鍛錬者 では特に必須である。 ・高強度の運動直後の深い呼吸の反復は過呼吸(過喚起症候群)を起こし CO2排出量を増加させて血液をアルカリ性に傾け、血圧低下や筋痙攣を 引き起こす。クーリングタウンの実施によって呼吸を整え、緊張を緩和し、 過喚起を予防することができる。
②疲労物質を除去し、疲労回復を促進する。 ・疲労物質は、運動強度が高くなると生成量が除去量を上まわり、 筋中に蓄積して代謝を阻害し、筋疲労を招く。 クーリングダウンを行うことで、循環を維持し、疲労物質の除去を促進する ことができる。 (統計的に最大酸素摂取量の32%強度で除去率が最大)
③運動後の運動器の事故や筋肉痛を予防する可能性 ・強度の高い運動の突然の停止は、運動器に対し物理学的に 大きな負担を生じさせ、障害を起こす可能性がある。 クーリングダウンによって、落差を小さくし、 事故を予防する可能性がある。
有酸素性運動後のクーリングダウンでは、 低強度の有酸素運動に引き続き、柔軟性やリラクゼーション・プログラムを提供し、 心拍数、呼吸数、血圧を緩やかに安静状態に戻していく。 レジスタンス運動後のクーリングダウンでは、 一般にROM運動からはじめてストレッチングへと移行する。
1、低強度の 有酸素性運動
2、ROM 運動
3、ストレッ チング
4、リラクセ -ション
実施上の注意
1、環境条件に応じて時間、方法、内容を決める (季節・時間帯・運動場所等) 外気温が高い場合は、体温上昇が容易、寒冷環境では皮膚血管血流量を減少させる 結果(末梢血管抵抗が大きくなる)、血圧が上がる。 2、適切なウェアを着用する ウォーミングアップ時のサウナスーツの着用は、特に寒い時期には有効であるが、 エネルギー消費量を増やす目的で強度が高まる主運動中にも着用すると、体温調整 機能に支障をきたす恐れがある。 3、主運動に応じた内容を行う 運動の種類によって、よく使われる身体部位や障害を発生しやすい部位を考慮する。 (主運動の疑似動作を導入) 4、運動強度は漸増させる 負担の少ない強度からはじめて徐々に強度を上げ、狭い動域から段階的に可動域を 広げるようにする。
実施上の注意
1、主運動で使った部位をほぐす 負担のかかった部位を特に入念にクーリングダウンする。 ノルディック・ウォークで主に使う筋群 (足底筋群・下腿三頭筋・前脛骨筋・大腿四頭筋・大腿二頭筋・大臀筋・脊柱起立筋) (大腰筋・腸腰筋・広背筋・大胸筋・僧帽筋・三角筋・上腕三頭筋・腕橈骨筋) 2、運動強度を漸減させる 主運動のペースを落としたり、移動運動から停止運動、立位、座位、臥位へと体位を 変化することで抗重力筋の負担を減らしていく。 3、優先順位を決める 優先的にすべき部位は疲労感の強い部位、過去に障害歴がある部位、主運動で 筋肉痛や慢性障害をきたしやすいとされている部位などである。 4、環境・ウェアへの配慮 外気温が低い季節は汗が冷えて風邪をひかないよう、静的な運動前にはよく汗を 拭き、上着などを着て保温に努め、下肢の筋をリラックスするにはシューズを脱いだ ほうがよい。
全身運動 ゆっくり歩きから少しずつ速度を上げながらのウォーク その際に、上肢のほぐし運動を加える その場足踏み、軽い跳躍等 軽い体操 肩、腰、手首、足首の回旋、膝関節屈伸など ストレッチング 頸部、肩・上腕部、体側、腰部、股関節、大腿、下腿、足部の筋群のストレッチング (1箇所につき10秒程度の短時間の静的あるいは動的ストレッチング) ノルディック・ウォークに関連した準備運動 スクワット運動、カーフレイズ、腿上げ、大股歩行、横歩き、後ろ歩き、スキップ 速度を変化させながらのインターバル歩行、腕振り、肩回し、腰回し など
ま と め
安全なノルディック・ウォークの実践のためには、 ウォーミングアップやクーリングダウンは必要だとわかっていても、 とりあえずストレッチングだけ行っているとか、対象者や主運動の内容や強度に かかわらず、いつも同じウォーミングアップとクーリングダウンを形式的に行う 指導者が少なくない。 私たちノルディック・ウォーク指導員は、 ウォーミングアップとクーリングダウンの意義を広く実施者に知らせ、主運動の 実施効果をいっそう引き出すためのウォーミングアップとクーリングダウンを 工夫し、提供する枠割を担っていることを自覚しなければならない。