gibrat 則より導かれる cobb-douglas...
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反転対称性とGibrat則より導かれる Cobb-Douglas生産関数と
全要素生産性の評価
石川 温 1, 藤本 祥二 1,2, 水野 貴之 2,3, 渡辺 努 2,4
1 金沢学院大学, 2 キヤノングローバル戦略研究所, 3 筑波大学 CS, 4 東京大学
本報告では、世界各国の企業およそ 320 万社の財務データベースを利用し、それらの有形固
定資産 K、従業員数 L、そして売上 Y データを分析する。K、L、Y はそれぞれの大規模域で
指数の異なるベキ則に従い、それら 2 変数の組み合わせ (K,Y )、(L, Y )、(K,L) にはそれぞれ
変数の入れ換え対称性 (反転対称性) と Gibrat 則が観られる。まず、反転対称性と Gibrat 則よ
り、それら指数の異なるベキ則が導かれることを示す。さらに 2変数の組み合わせと同様に、3変
数 (K,L, Y ) の間にも反転対称性と Gibrat 則が観測される事を示す。3 変数の反転対称性では、
(log10K, log10 L, log10 Y )データの分布が平面 log10 Y = α log10K + β log10 L + log10 aに関し
て対称になる (α,β, aは定数)。また Gibrat則では、3変数の比率 R = Y/aKαLβ の分布が K と
Lに依存しない。従って、K と Lに依存しない変数 A = aRを導入する事により、Y = AKαLβ
と表すことができる。これは Cobb-Douglas生産関数として、経済学では約 1世紀前に導入されて
以来非常に幅広く用いられている。本手法では、3 次元 (log10K, log10 L, log10 Y ) 空間内のデー
タ入れ換え対称性に関する対称平面より、Cobb-Douglas生産関数の生産の資本弾力性 αと労働弾
力性 β が導入される。次に、Cobb-Douglas 生産関数を個々の企業に適用し、各企業の全要素生
産性 Aを算出する。このときK, L, Y といった企業サイズと同様に、Aもまた大規模域でベキ分
布に従うことが確認できる。さらに、十分なデータ数がある 10カ国に企業を分類し、各国の生産
の資本弾力性 α と労働弾力性 β を評価し、その違いを議論する。同時に、各国の各ベキ指数 μK ,
μL, μY , μA についても議論する。また、世界各国の企業を大きく業種別に分類し、業種による α,
β そして μK , μL, μY , μA についても議論する。
1
1 はじめに
経済学では、生産関数として次の Cobb-Douglas型 [1]が頻繁に利用される:
Y = AKαLβ 。 (1)
一般にK は資産、Lは労働力、そして Y は生産を意味するが、本論ではデータ分析のため、K を
有形固定資産、Lを従業員数、そして Y を売上とする。α と β は正の定数であり、それぞれ生産
の資本弾力性および労働弾力性と呼ばれる。また Aは全要素生産性と呼ばれ、企業の技術力を表
す量と考えられる。
経済物理学 [2]の分野では、K、L、そして Y の累積確率関数が、ある閾値 (K0, L0, Y0)以上の
大規模範囲でベキ則に従うことがよく知られている [3]:
P>(K) ∝ K−μK for K > K0 , (2)
P>(L) ∝ L−μL for L > L0 , (3)
P>(Y ) ∝ Y −μY for Y > Y0 。 (4)
ベキ指数 μは正の定数であり、しばしば Pareto指数と呼ばれる。
本論では、生産関数が Cobb-Douglas 型で近似される理由を、変数が大規模域でベキ関数に従
うことにより説明する。具体的には、まず 2 変数間 (K,Y ), (L, Y ), (K,L) の確率密度関数に観
られる反転対称性 [4, 5] と Gibrat 則 [6, 7] より、K,L, Y それぞれのベキ則を関係づける。さら
に反転対称性と Gibrat則が 3変数 (K,L, Y )の確率密度関数にも観られ、反転対称性の対称面が
Cobb-Douglas型生産関数と対応することを述べる。
この手法では、変数 (K,L, Y )が与えられた時、上記対称面のパラメータとして生産の資本弾力
性 αおよび労働弾力性 β が定められる。その結果 (1)式を用い、個々の企業の全要素生産性 Aも
求められる。本論では、Bureau van Dijk社が提供するデータベース ORBIS[8]に含まれる 2004
年から 2009年における世界各国の企業データを分析し、全要素生産性 Aもまた大規模範囲でベキ
則に従うことを観る。さらに、国別あるいは業種別に分類された企業の生産の資本弾力性 αおよび
労働弾力性 β、そして Pareto指数 μK、μL、μY、μA(Aの Pareto指数)の違いを議論する。
2 2変数の反転対称性とGibrat則
本節では、まず有形固定資産 K と売上 Y の 2 変数 (K,Y ) について考える。前節で述べたよ
うに、K も Y も大規模域でベキ分布する。例えば、図 1と図 2は 2008年日本の有形固定資産と
売上の累積確率密度関数であり、それぞれ大規模域でのベキ指数は μK = 0.795 ± 0.003 および
μY = 0.861± 0.005である。ベキ範囲の上限はデータの上位 0.1%とし、下限 (K0, Y0)は文献 [9]
のアルゴリズムを改良した文献 [10] のアルゴリズムに従い決定した。ベキ指数は、ベキ範囲内の
データを対数的に等間隔なビンに入れ、最小二乗法により評価した。まず本節では、この 2つのベ
キ則 (2)と (4)を関係づける [11, 12]。
変数 (K,Y )には強い相関があり (図 3)、散布図には Y ↔ aKθ の入れ換え対称性がある。これ
2
図 1: データベースの 2008年日本において、有形固定資産 K、従業員数 L、そして売上 Y データを
同時に持つ企業 176, 980社の、有形固定資産K(千 USドル)の累積確率密度関数 P>(K) 。
図 2: データベースの 2008年日本において、有形固定資産 K、従業員数 L、そして売上 Y データを
同時に持つ企業 176, 980社の、売上 Y (千 USドル)の累積確率密度関数 P>(Y ) 。
3
図 3: データベースの 2008年日本において、有形固定資産 K、従業員数 L、そして売上 Y データを
同時に持つ企業 176, 980社の、K(千 USドル)と Y (千 USドル)の散布図。
図 4: 図 3において、K のベキ範囲を対数的に等間隔なビンに分け、各ビン内で Y の対数平均値を求
め、それらを最適直線で結んだもの。各点のバーは標準偏差を表す。
4
を同時確率密度関数 PJ (K,L)で表すと、次式のようになる:
PJ(K,Y ) = PJ
õY
a
¶1/θ, aKθ
!。 (5)
本論では、これを反転対称性と呼ぶ [4, 5]。ここで θ, aは正の定数であり、次のように値が定まる。
まずK のベキ範囲を対数的に等間隔なビンに分け、各ビン内で Y の対数平均値を求める。それら
を最適直線で結び (図 4)[13, 14] 反転対称性の対象線 log10 Y = θ log10K + log10 aと見なし、傾
きと切片より θ, aを求める [15, 16]。このように決められたパラメータのもとでの反転対称性は、
Kolmogorov-Smirnov検定などで確認できる。これについては、次節で説明する。
また、反転対称性の変化率を R = Y/aKθ と定義したとき、その条件付き確率密度関数 Q(R|K)はベキ範囲でK に依存しない:
Q(R|K) = Q(R) for K > K0 。 (6)
これは Gibrat則 [6, 7]と呼ばれ、例えば 2008年の日本では図 5のように確認できる [16]。
図 5: r (≡ log10R)に対する条件付き確率密度関数 log10 q(r|K) 。K の範囲は、対数的に等間隔な
ビンに次のように分けられている:K ∈h104+0.2(n−1), 104+0.2n
´, n = 1, 2, · · · , 5 。
反転対称性 (5)とGibrat則 (6)が同時に成立するとき、Kと Y は指数の異なるベキ則 (2), (4)に
従う。以下に、それを示す。同時確率密度関数 PJ (K,R)は、PJ (K,R) dK dR = PJ(K,Y ) dK dY
の関係より、
PJ(K,R) = aKθPJ (K,Y ) (7)
= R−1Y PJ (K,Y )
= R−1Y PJ
õY
a
¶1/θ, aKθ
!(8)
と表現できる。ここで、反転対称性 (5)を用いた。一方、(7)式にて Y ↔ aKθ とすると次式が得
5
られる:
PJ
õY
a
¶1/θ, R−1
!= Y PJ
õY
a
¶1/θ, aKθ
!。 (9)
さらに (8)式と (9)式を組み合わせると、次式が得られる:
PJ (K,R) = R−1PJ
õY
a
¶1/θ, R−1
!。 (10)
条件付き確率の定義 Q(R|K) = PJ(K,R)/P (K)より、(10)式は次のように書き直せる:
P (K)
P ((Y/a)1/θ)=1
R
Q(R−1 | (Y/a)1/θ)Q(R | K) =
1
R
Q(R−1)Q(R)
。 (11)
ここで、Gibrat則 (6)を利用した。(11)式の右辺は Rのみの関数なので、それを G(R)と表すと
次式が得られる:
P (K) = G(R)P (R1/θK) 。 (12)
右辺を Rに関して R = 1+ ²(²¿ 1)として 1の周りで展開すると、次の微分方程式が得られる:
G0(1)θP (K) +Kd
dKP (K) = 0 。 (13)
ここで、G0(·)は G(·)の R微分を意味する。この微分方程式の解は、次のように一意に定まる:
P (K) = CK−G0(1)θ 。 (14)
これは、Q(R) = R−G0(1)−1Q(R−1)が満たされるとき、(12)式の一般解になっている。文献 [4, 5]
では、Q(R)に関するこの条件を反射則と呼んでおり、企業サイズなど様々なデータが反射則を満
たしていることを報告している。
次に、P (K)より P (Y )を決定する。(14)式と P (K) dK = P (Y ) dY より、次式が得られる:
P (Y ) = P (K)dK
dY=CaG
0(1)−1/θ
θY −G
0(1)+1/θ−1 。 (15)
(14)式と (15)式は、反転対称性 (5)と Gibrat則 (6)からK と Y のベキ則 (2)と (4)が導かれる
ことを示している。これらを比較すると、2つのベキ指数には反転対称性のパラメータ(以下では
θKY と記す)を通して、次のような関係があることが分かる:
μK = θKY μY 。 (16)
ここまで議論してきた有形固定資産K、売上 Y と同様に、従業員数 Lも大規模域でベキ分布す
る (図 6)。変数 (K,Y )と同様に、反転対称性と Gibrat則は変数 (L, Y )、そして変数 (K,L)にも
観られる [15, 16]。従って、ここまでの議論を繰り返すことにより、ベキ指数には次の関係がある
ことも分かる:
μL = θLY μY , μK = θKL μL 。 (17)
ここで、θLY , θKL はそれぞれ変数 (L, Y ), (K,L)の反転対称性のパラメータである。また (16)式
と (17)式より θKY = θKL θLY となるが、これらの関係式がデータで精度よく観測されることが
文献 [16]に報告されている。
6
図 6: データベースの 2008年日本にて、有形固定資産K、従業員数 L、そして売上 Y データを同時に持
つ企業 176, 980社の、従業員数 L(人)の累積確率密度関数 P>(L)。ベキ指数は μL = 0.925±0.003 。
3 3変数の反転対称性とGibrat則
前節で 2変数 (K,Y )、(L, Y )、そして (K,L)に反転対称性があることを述べたが、これは 3変
数 (K,L, Y )に反転対称性 Y ↔ aKαLβ があることを示唆しており、実際のデータで確認できる。
反転対称性を 3変数の同時確率密度関数 PJ (K,L, Y )で書くと、次のように表現される [15, 16]:
PJ(K,L, Y ) = PJ
õY
aLβ
¶1/α,
µY
aKα
¶1/β, aKαLβ
!。 (18)
α,β, a は正の定数であり、次のように定まる。まず K と L のベキ範囲をそれぞれ対数的に等
間隔なビンに分け (図 7)、各ビン内で Y の対数平均値を求める。それらを最適平面で結び反
転対称性の対称面 log10 Y = α log10K + β log10 L + log10 a と見なし、法線ベクトルと切片よ
り α,β, a を求める。2008 年日本では、α = 0.36 ± 0.02, β = 0.70 ± 0.02, a = 68.3 ± 1.1 と
算出される。3 変数のデータ (K,L, Y ) に反転対称性 Y ↔ aKαLβ があることは、(Y, Y 0(≡aKαLβ)) の散布図 (図 8) に第 1 成分と第 2 成分の入れ換え対称性があることで確認できる。
Y あるいは Y 0 を£102.4+0.2(n−1), 104+0.2n
¢のビンに入れ、P (
£102.4+0.2(n−1), 104+0.2n
¢, Y 0) と
P (Y,£102.4+0.2(n−1), 104+0.2n
¢) が同じ母関数を持つという帰無仮説を立てると、Kolmogorov-
Smirnov検定により Y と Y 0 のベキ領域では 5%の優位水準で棄却されない (図 9)。
また、R = Y/aKαLβ と 3変数の変化率を定義すると、その条件付き確率密度関数 Q(R|K,L)はベキ領域ではK,Lに依存しない [15, 16]:
Q(R|K,L) = Q(R) for K > K0 and L > L0 。 (19)
7
図 7: データベースの 2008年日本における、K(千 USドル)と L(人)の散布図。図では例として、K
と Lのベキ範囲をそれぞれ 5つのビンに分け、ベキ領域を 25のビンに分割している。
図 8: データベースの 2008年日本における、Y と Y 0(≡ aKαLβ)の散布図。Y と Y 0 それぞれを 18
のビンに分割した:Y, Y 0 ∈h102.4+0.2(n−1), 104+0.2n
´, n = 1, 2, · · · , 18 。
8
図 9: P (h102.4+0.2(n−1), 104+0.2n
´, Y 0)と P (Y,
h102.4+0.2(n−1), 104+0.2n
´)が同じ母関数を持つと
言う帰無仮説は、Kolmogorov-Smirnov検定により Y と Y 0 のベキ領域 (n = 10, · · · , 18)で 5%の
優位水準で棄却されない。
これは、3変数の Gibrat則であり、図 10のように確認できる。
図 10: 図 7の 25のビンのうち、50以上のデータがある 6つのビンに対する条件付き確率 Q(R|K,L) 。
9
4 Cobb-Douglas生産関数と全要素生産性
前節で観たように、3変数データ (K,L, Y )には Y ↔ aKαLβ の入れ換え対称性(反転対称性)
がある。そして、3変数の変化率 R = Y/aKαLβ の分布は、K と Lのベキ領域で K と Lに依存
しない(Gibrat則)。両者を合わせると、A ≡ aRと考えることにより、Cobb-Douglas型の生産
関数 (1)が得られる。重要なのは、全要素生産性 Aが K と Lに依存しないことが、Gibrat則に
より保障されていることである。
生産の資本弾力性 αおよび労働弾力性 β は、(K,L, Y )データが与えられると前節の手法により
決定される。すると Cobb-Douglas型生産関数 (1)により、個々の企業の全要素生産性 Aが算出
できる。興味深いことに、Aもまたある閾値 (A0)以上の大規模域でベキ分布に従う [15, 16, 17]:
P>(A) ∝ A−μA for A > A0 。 (20)
例えば、図 11は 2008年日本の全要素生産性の累積確率密度関数であり、大規模域でのベキ指数
は μA = 1.458± 0.007である。
図 11: データベースの 2008年日本において、有形固定資産K、従業員数 L、そして売上 Y データを
同時に持つ企業 176, 980社の、全要素生産性 Aの累積確率密度関数 P>(A) 。
5 ベキ指数および生産弾力性の比較
最後に、企業を国別そして業種別に分類し、生産の資本弾力性と労働弾力性 α, β、そして各ベキ
指数 μK , μL, μY , μA を比較しよう。
十分なデータ数がある 10ヶ国の生産の資本弾力性 α および労働弾力性 β を、2004年から 2009
年の 6年に渡り図示したのが図 12である。ただし、十分なデータ数が無い年は省かれている。図
10
より、近似的に
α+ β = 1 (21)
が成立することが分かる。これは、規模に関して収穫一致と呼ばれている。また、中国を省く全て
の国で α < β が成立している [15, 16, 17]。これは一般にベキ範囲では、K の変化より Lの変化
が Y の変化により大きな影響を与えるが、中国ではそれが逆になっていることを示している。こ
の一般的な傾向は、日本や韓国よりもヨーロッパの国々で強い。そこでは、多くの国で従業員数 L
に比べ有形固定資産K は充足しており、売上 Y を増加させるには Lを増やす方が効果がある。逆
に中国では、有形固定資産K に比べ従業員数 Lが十分に確保されており、売上 Y を増加させるに
はK を増やす方が効果がある。
図 12: データベースの 2004年から 2009年における、中国 (CN)、ドイツ (DE)、スペイン (ES)、フ
ランス (FR)、イギリス (GB)、イタリア (IT)、日本 (JP)、韓国 (KR)、ノルウェー (NO)、ポルトガ
ル (PT)、10ヶ国の生産の資本弾力性 α および労働弾力性 β 。
10カ国の有形固定資産K、従業員数 L、売上 Y、そして全要素生産性 A のベキ指数を示したの
11
が図 13である。ほとんどの国の各年で、
μK < μY < μL < μA (22)
が成立している [15, 16, 17]。つまりいずれの国でも、K の格差が一番大きく Aの格差が一番小さ
い。例外的なのはドイツ (DE)で、4つのベキ指数はほぼ等しく、企業間の格差は K、Y、L、A
で同程度である。また中国 (CN)と韓国 (KR)では、従業員数のベキ指数 μL と全要素生産性のベ
キ指数 μA がほぼ等しく、企業間の格差は Lと Aで同程度である。
図 13: データベースの 2004年から 2009年における、中国 (CN)、ドイツ (DE)、スペイン (ES)、フ
ランス (FR)、イギリス (GB)、イタリア (IT)、日本 (JP)、韓国 (KR)、ノルウェー (NO)、ポルトガ
ル (PT)、10ヶ国のベキ指数 μK , μL, μY および μA 。非常に小さいので、誤差棒は省いた。
標準企業分類 (Standard Industrial Classification[18])に従い世界各国の企業を 10業種に分類
し、十分なデータ数がある 9業種の資本弾力性 α および労働弾力性 β を、2004年から 2008年の
5年に渡り図示したのが図 14である。業種による分類でも、近似的に規模に関する収穫一致 (21)
が成立している。国による分類とは異なり、α と β は数直線上均等に分布している。α > β とな
るのは、α が大きい順に 01~09(農業,林業,漁業)、20~29(食料品,繊維,木材,石油化学製品製造
業)、30~39(ゴム,革,金属,機械器具製造業)、40~49(運輸通信,その他の公益事業)である。また
α < β となるのは、α が小さい順に 70~79(サービス業)、80~89(医療,法律,教育,社会福祉サー
ビス業)、10~19(鉱業,建築業,工事業)、60~69(金融業,保険業,不動産業)、50~59(卸売業,小売
業,飲食店業)となっている。
これはベキ範囲で、次のことを意味する。01~09(農業,林業,漁業)では、Lの変化よりK の変
化が Y の変化により大きな影響を与える傾向が強く、それとは逆に 70~79(サービス業)では、K
の変化より Lの変化が Y の変化により大きな影響を与える傾向が強い。つまり、70~79(サービス
業)では従業員数 Lに比べ有形固定資産K は充足しており、売上 Y を増加させるには Lを増やす
12
方に効果があることを意味する。逆に 01~09(農業,林業,漁業)では、有形固定資産K に比べ従業
員数 Lが十分に確保されており、売上 Y を増加させるにはK を増やす方が効果がある。
図 14: データベースの 2004年から 2009年における、01~09(農業,林業,漁業)、10~19(鉱業,建築
業,工事業)、20~29(食料品,繊維,木材,石油化学製品製造業)、30~39(ゴム,革,金属,機械器具製造
業)、40~49(運輸通信,その他の公益事業)、50~59(卸売業,小売業,飲食店業)、60~69(金融業,保険
業,不動産業)、70~79(サービス業)、80~89(医療,法律,教育,社会福祉サービス業)の生産の資本弾
力性 α および労働弾力性 β 。
9業種の有形固定資産 K、従業員数 L、売上 Y、そして全要素生産性 A のベキ指数を示したの
が図 15である。国別の分類と同様に、ほとんどの業種の各年で (22)式 μK < μY < μL < μA が
成立している。多くの業種で、企業間の格差は K が一番大きく A が一番小さい。例外的に 01~
09(農業,林業,漁業)で μA < μY < μK < μL となり、企業間格差は Aが一番大きく Lが一番小
さい。また 60~69(金融業,保険業,不動産業)で、μL < μK < μY < μA となっているのも特徴的
で、企業間格差は Lが一番大きく Aが一番小さい。
13
図 15: データベースの 2004年から 2009年における、01~09(農業,林業,漁業)、10~19(鉱業,建築
業,工事業)、20~29(食料品,繊維,木材,石油化学製品製造業)、30~39(ゴム,革,金属,機械器具製造
業)、40~49(運輸通信,その他の公益事業)、50~59(卸売業,小売業,飲食店業)、60~69(金融業,保険
業,不動産業)、70~79(サービス業)、80~89(医療,法律,教育,社会福祉サービス業)のベキ指数 μK ,
μL, μY および μA 。非常に小さいので、誤差棒は省いた。
6 まとめ
本稿では、世界各国の企業およそ 320万社の財務データベースを利用し、それらの有形固定資産
K、従業員数 L、そして売上 Y データを分析した。我々は、それら 2変数の組み合わせ (K,Y )、
(L, Y )、(K,L) の間だけではなく、3 変数 (K,L, Y ) の間にも反転対称性と Gibrat 則が観測さ
れる事を示した。その結果、3 変数の反転対称性の対称面として Cobb-Douglas 型の平面関数
log10 Y = α log10K + β logL+ log10 a の存在が示され、さらに Gibrat則より Cobb-Douglas型
の生産関数 Y = AKαLβ が導かれた。重要なのは、K と Lに依存しない変数として全要素生産性
Aが導入されたことである。
さらに我々は、データベースの企業を十分なデータ数がある 10ヶ国別に、あるいは 9つの業種
別に分類し、それら企業の生産の資本弾力性 α および労働弾力性 β を 2004年から 2009年の 6年
に渡り測定した。いずれの分類でも、αと β は規模に関する収穫一致 α+β = 1を精度よく満たし
ている結果が得られた。さらに、国による分類では中国を省いた 9ヶ国の企業で α < β となった
が、業種による分類では 4つの業種の企業で α < β となり、残りの 5つの業種の企業では α > β
となった。この分析で、以下が明らかになった。国別に観た場合、ほとんどの国では企業の生産を
上げるには従業員数を増やす方が効果的であり、中国では資本を増やす方が効果的である。業種別
に観た場合、サービス業では企業の生産を上げるには従業員数を増やす方が効果的であり、農業,
林業,漁業では資本を増やす方が効果的である。
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同時に我々は、各国あるいは各業種の有形固定資産、従業員数、売上、全要素生産性のベキ指数
μK , μL, μY , μA を 2004年から 2009年の 6年に渡り測定した。いずれの分類でも、ほとんどの国
あるいは業種に分類された企業で μK < μY < μL < μA となることが分かった。ただし、ドイツ
では 4つの指数はほぼ等しく、中国と韓国では μL と μA は近い値であった。例外的に、農業,林
業,漁業に分類される企業では μA < μY < μK < μL となり、金融業,保険業,不動産業に分類され
る企業では μL < μK < μY < μA となった。この分析で、以下が明らかになった。国あるいは業
種のいずれの分類でも、一般に企業の有形固定資産の格差は大きく、全要素生産性つまり技術の格
差は小さい。ただし例外的にドイツの企業では、その格差は同程度であり、農業,林業,漁業では技
術の格差は大きく従業員数の格差は小く、逆に金融業,保険業,不動産業では技術の差は小さく従業
員数の格差が大きい。
本稿では、生産 Y として売上データを採用したが、帝国データバンクのデータベースより付加
価値を Y として同じ分析を行ったところ、日本に関して同様の結果が得られた [15]。これにより、
本稿の分析は付加価値に対しても本質的に同様の結果を与えると考えられる。
謝辞
本稿は学術創生研究プロジェクト「日本経済の物価変動ダイナミクスの解明」(JSPS18GS0101)
の一環として作成されたものである。石川は科学研究費 (24510212)の助成を、また水野は科学研
究費 (24710156)の助成を受けた。
参考文献
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