infolib-dbr(login) - 職務評価とウェーバーの法則2)e. h.weber: der tastsinn und das...

20
職務評価とウェーバーの法則 1 問題の所在 職務評価の実施にさいしては諸種の難点が指摘されている。すなわち職 務評価における労働力の再生産性を考慮しないこと,または職業分析の科・ 学性から飛躍した職務評価の主観的危険性,あるいは労働者の配置にもと づく実施要件の欠如などかおること,さらにはその実施に際して考慮を要 する当該産業の性質,背後の労使関係,判定の手際,運営方法などのいか D んによる弊害かおることなどが,一般に認められている。しかしこのよう な難点のうち,もっとも核心的なものは職務評価が職務価値の相対的決定 のみを対象とする結果,労働力の価値を正しく反映する十二分の科学性な いし客観性を欠如しているという問題である。この問題は,その程度のい かんにしたがって職務評価の合理性を左右するばかりでなく,またこれに もとづく賃金制度の客観的科学性をも否定するものである。 ところでこの場合心理学的見地より職務評価の技術の合理性を客観的・ 科学的に検討する方法として,ウェーバーの法則(Weber's Law)の問題が 2) とりあげられている。 Weber's Law (Loi de Weber: Webersches Gesetz)は, 心理学上感覚と刺戟との関係にもとづいて,主に感覚の強度を識別する場 合に適用される法則である。すなわち皮府に加えられた100 g とようやく 1)職務評価の長短に関しては,拙稿「職務評価の基本問題」(平井泰太郎編,経 営組織の発展と計算思考,昭25,国元書房) 2)E. H. Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl, 1846. -87-

Upload: others

Post on 05-Dec-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

木 内 佳 市

            1 問題の所在

 職務評価の実施にさいしては諸種の難点が指摘されている。すなわち職

務評価における労働力の再生産性を考慮しないこと,または職業分析の科・

学性から飛躍した職務評価の主観的危険性,あるいは労働者の配置にもと

づく実施要件の欠如などかおること,さらにはその実施に際して考慮を要

する当該産業の性質,背後の労使関係,判定の手際,運営方法などのいか

                          Dんによる弊害かおることなどが,一般に認められている。しかしこのよう

な難点のうち,もっとも核心的なものは職務評価が職務価値の相対的決定

のみを対象とする結果,労働力の価値を正しく反映する十二分の科学性な

いし客観性を欠如しているという問題である。この問題は,その程度のい

かんにしたがって職務評価の合理性を左右するばかりでなく,またこれに

もとづく賃金制度の客観的科学性をも否定するものである。

 ところでこの場合心理学的見地より職務評価の技術の合理性を客観的・

科学的に検討する方法として,ウェーバーの法則(Weber's Law)の問題が

                                2)とりあげられている。 Weber's Law (Loi de Weber: Webersches Gesetz)は,

心理学上感覚と刺戟との関係にもとづいて,主に感覚の強度を識別する場

合に適用される法則である。すなわち皮府に加えられた100 g とようやく

1)職務評価の長短に関しては,拙稿「職務評価の基本問題」(平井泰太郎編,経

 営組織の発展と計算思考,昭25,国元書房)

2)E. H. Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl, 1846.

                 -87-

Page 2: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

区別される圧が104 g であるとすれば, 200 g とようやく区別できる圧は

208 g である丿したがって標準重量の大小にかかわらず,ようやく区別

される差異と標準重量との比はほぼ一定の価になるということができる

 (たとえばこの場合には約4/100という).すなわち,

 「沢をある強度の感覚を生ずる刺戟価,R'をそれからようやく区別で

 きる刺戟価, d尺をその差とすれば,五Rすなわち蔓は一定で

 ある.」

というのがこの法則である.それはまた,

 「相対的弁別閥(Relative discrimination threshold: Seuil differentielrelatif:

 Relative Unterschiedsschwelle)歴は刺戟の絶対価の大小にかかわらず

 一定である.」

という事実を示すものである.

 ところで,このような事実は単に下弁別閥の場合だけでなく,上弁別間

の場合にも生ずる.すなわち,逐次主観的に同じ大きさだけ異って見える

刺戟の段階を作る場合には,次々の刺戟価の差異は一定ではなく,その比

が一定となるのである.この法則においては,感覚を同じ度だけ増加する

ためには,刺戟を同じ割合だけ増加させなければならないのである.

 職務評価とWeber's Lawとの関係については全く相反する見解が存す

る.すなわち,職務価値を具体的かつ客観的に評定する尺度が欠如してい

る事実から,職務評価の資料に対するWeber's Lawの適用を論理的に可

能にするか否かについて意見が分れているのである.

 筆者は,職務評価の合理性を実証する手段として,ここに職務評価と

Weber's Lawの問題をとりあげ,その適用の有無および適用方法の内容

を中心として,これを検討しようとするものである.このことにより職務

評価の科学性ないし客観性の欠如に対する非難の性格を明らかにしたいと

思っている.

- 88-

Page 3: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

            2 職務評価の方法

 1)職務評価法の内容

 職務評価には,一般に4つの方法かおる.非量的方法(Nonquantitative

evaluation measures)としての剛序列法(Ranking system)および(2)分類法

(Job classificationsystem)と,量的方法(Quantitative evaluation measures)

としての(3)点数法(Point system)および(4)条件比較法(Factor comparison

system)がそれである.

 前の2つの方法は,ともに作業量と関係なく職務の重要性ないし職務の

遂行の難易にもとづいて,恣意的に職務内容の質的順序表を作成する方法

である.したがって主観的であり,とくに現行の職務体系や賃金順位に内

在する欠陥を排除できないばかりでなく,その応用や効果の範囲も極度に

限定されることから,客観性の乏しい非科学的方法であるといわれる.こ

れに反して後の2つの方法は,いずれも分析によって職務を基礎的な条件

または要素に分ち,これを量的または質的に計測することにより職務の序

列を評定する方法である.したがって客観的であり,もっとも進歩した科

学的方法として広く利用されている.

                            3) これらの職務評価法の内容については,すでに詳説したが,本稿におけ

るわれわれの研究対象は,いうまでもなく点数法と条件比較法の客観性お

よび科学性のいかんにあることになる.とくに後の方法は前の方法を改善

して職務の相対的価値を貨幣額で表示する方法であり,その意味において

                      4)もっとも科学的な方法であるということができる.

 条件比較法は通常つぎの手続にしたがって実施される.

 剛使用条件を決定する(2)5ないし15の基準職務を選定する(3)使用条

3)各方法の手続および長短については,拙稿「職階給制度と労働組合」(経営評

 論第5巻第8号)参照.

4)Benge, Burk & Hay : Manual of Job Evaluation, 1941., p.112.

                -89-

Page 4: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

件別の基準職務を格付する(4)基準職務ごと現行支払平均率を各条件に対

して割当てる(5)補助的基準職務を付加する(6喀職務間の調整を行う.

 このような条件比較法は,もっとも合理的で科学的な方法であるが,た

だ実際的には基準職務の選定手続の複雑など特別の考慮を必要とする場合

が多い.                            ..

 OtisおよびLeukartは,その著『職務評価』(Job Evaluation)におい

                           5)て,条件比較法の長短について,つぎのように述べている.

 まず長所の第1は,条件比較法における職務比較率の設定か,他の方法

に比較してきわめて精緻な職務明細表にもとづいていることである.第2

に,各種の職務および新職務に対してそれぞれの評価率が設定されている

ことである.第3に,条件比較法における5つの基本要素mm,知能,責

任,肉体的条件および作業環境)が,問題の核心を適確に把握するとともに評

価業務の簡易イし迅速化を促進することである.第4の長所は,評価率が

時間当りの貨幣額または貨幣単位で表示されていることである.最後に,

評価率それ自体の形式における長所かおる.すなわち,評価率はもともと

対人比較率(Man to-man comparisonscale)に倣ったものであるが,常に責

任の比較にもとづいた判断を実施する点において,他の方法に優る長所を

有するということができるのである.

 しかし,このような条件比較法にも,つぎに述べる重大な欠点が存する.

第1の短所は,基準職務の選定を公正に実施する場合における困難性の存

在である.第2に,算定の基礎をなす時間当りの金額が不変の数字でない

点に,各職務の絶対的価値を決定できない短所か存在することである.と

くにこのことは不況期およびインフレ時において明白になる現象である.

しかし条件比較法における最大の短所(欠点)は,その比較率の中に見出

すことができる.すなわち基準職務における任務の変化および責任の増大

5)Otis & Leukart : Job Evaluation, 1948.,p. 135-p. 138.

                  -90-

Page 5: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

にともなって生ずる比較率の不安定性,および各職務に対する絶対的価値

にもとづく比較率を相対的価値に適用する場合における評価者の偏見など,

むしろある意味(たとえば簡易性,客観性,利用性など)においては点数法に

おける抽象的な点数以上の欠陥か認識されるのである.

 要するに条件比較法は,職務の相対的価値を貨幣額で表示するとともに,

職務の比較評定を行う方法であるが,労使共同委員会による職務評価の実

施の場合には,必ずしも良い方法であるとはいえない.なぜなら既述のよ

うに,条件比較法においては各要素に対する金額の割当ということから,

わずかに3ないし6要素を利用できるにすぎず,したがって要素または職

務序列の意味内容がきわめて広い範囲に解される結果,実務上諸種の難点

を生ずるからである.条件比較法が各要素の加重において弾力性に富み,

ある意味において新職務をも適合させる要素の上限を有する利点はもちろ

んこれを認めなければならないが,しかしそれが広い範囲の職務に応用で

きるという長所を除いては,実務上必ずしも最良の方法であるとはいえな

いのである.

 まず第1に,委員会は絶えず使用比較率を考え出しなから全評価過程

を終了するという煩雑な問題に直面するか,このことについて, Benge,

                     6)BurkおよびHayはつぎのように述べている.

  「多くの場合,委員達は3つの基準職務の評価分析に十分時間を与える

ことが不可能であった.」

 また仮に基準職務および補助職務表が適切に作成されたとしても,委員

の変動がもたらす評定認識の差異,あるいは全評価過程を通じて益々困難

化する各要素に対する金額の分割などによる複雑さは,実際には軽視でき

ない問題である.また,条件比較法における職務序列の決定に際して,委

員会の当面するもっとも煩鎖な問題は,序列率(Ranking scale)の中位に

6)Benge, Burk & Hay: Ibid., p.113.

-91-

Page 6: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

いかなる職務を位置づけるかに対して,明確な判定基準が存在しないとい

うことである.これは職務評価の方法全般に通ずる欠陥であるといわなけ

      7)ればならない.

 第2に,条件比較法がその貨幣額の基礎を現行の賃金価値より得ている

事実が問題となる.その限りにおいて,計算の結果がそれだけ非客観的な

性格を有するものとなる.なぜなら現行の賃金ないし市場賃金は,それ自

体労働力の価値に一致するものではなく,むしろ需給の法則により決定さ

れるものであるとすれば,単純に職務の相対的価値を決定するにすぎない

職務評価の欠陥をますます助長させるものにほかならないからである.

 2)条件比較法の発展

 上述した条件比較法の欠陥を補足するために,基準職務比較率(Factor

key scales)の設定に比率法(The Per Cent Method)を利用する方法かおる.

すなわち条件比較法が職務の相対的価値を貨幣額で表示するのに対して,

比率法はこれを基準職務における2点,すなわち,

 (1)特定職務内における各要素の相対的大きさ

 (2) 職務相互間における特定要素の相対的大きさ

に対する評定者の判断に依存する方法である.

 理解を容易にするために,仮設例を用いて説明するとっぎのとおりであ

る.

 ① まず要素による3職務の序列を委員会の意見にしたがって表示する

   〔第1表〕.

 ② つぎに各職務内における3要素の序列表を作成するC第2表].

 ③ 以上の結果得られた各序列表はそれぞれ比率に換算される〔第3 ・

7)E. Hayはかかる評定のReliabilityか90以上であるという. E. Hay : Creating

 Factor Comparison Key Scales by the Per Cent Method, Journal of Applied

 Psychology, Oct., 1948., p.456.

                -92-

Page 7: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーノ`゛-の法則

〔第1表〕 0言Factorによる)      〔第2表〕 職務内各要素序列表

職 務 熟 練 決断力 責 任 職 務 熟 練 決断力 責 任

l珂

1%

 3

〔第3表〕F3ctol’%(jJ?jltlwn) 〔第4表〕Job%回ぬ曾across)

職 務 熟 練 決断力 責 任 職務 熟練 決断力 責  任

75%

100

50

100%

100

33

100%

85

25

85%

100

100

40%

40

25

100%=225

75 =215

75 =200

225 233 210

〔第5表〕F. % Values(Read down) 〔第6表〕J’%V31誤lad across)

                     ・一一一一一一--一一一一

職 務 熟練 決断力 責 任 職務 熟練 決断力 責  任

33

45

22

43

43

14

48

40

12

38

46

50

17

19

12

45=100

35=100

38=100

100 100 100

〔第7表〕F% J% Ratios

職 務 熟  練 決断力 責  任 計

.87

.98

.44

2.53

2.26

1.17

1.07

1.14

 .31

= 4.47

= 4.38

= 1.92

逆  数

修正逆数

2.29

 .437

 .470

5.58

 .168

 .180

2.52

 .397

 .426

=10.77

  1.002

  1.077

-93-

Page 8: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

〔第8表〕TotalsDistributedPer Tables 5 and 5×100 and x1000

職務熟   練 決 断 力 責   任

計F J F J F J

i 155

I 210

1 105

170

195

96

77

77

26

76

87

23

205

170

51

201

135

73

= 447

= 438

= 192

470 180 426 =1,077

〔第9表〕15% IntervalsBased on 100

200

174

152

132

115

100

87

76

66

57

50

43

38

33

29

25

22

19

16

14

12

10

9

8

7

 4 ・5 ・6表〕.こうして計算された各比率にもとずいて,次のよう

 な種類の総職務価値が抽出される〔第7表〕. (イ)「計」欄の数字は,

 1種の委員会の判断にもとずく相対的職務価値の合計を意味する.す

 なわちそれは〔第6表〕の場合におけるように,職務に対する全要素

 の比を示すものである. (ロ)逆数は他種の委員会の判断にもとずく

 相対的要素価値の合計を意味する.いいかえると〔第5表〕における

 ように各要素の総価値に対する職務要素の比を示すものである.

④ 最後に上記の2種類の総職務価値を綜合する手段として,〔第8表〕

 が作成される.その結果,〔第8表〕はまず各職務の各要素別に2種

 の価値を含むこととなる.その1は同1職務における各要素の大小

 であり,他は各職務間における同l要素の大小である.つぎに〔第8

 表〕は各評定価値開の差異をつぎのように表示している.すなわち職

 務1の決断力及び責任における差異は2%以下,各職務における責任

-94-

Page 9: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

においては10%以内,職務2における決断力と責任および職務3の決

断力の場合は10ないし1 00/もっとも差異の大きい職務3の責任の場

合において30%となっている.

     3 職務評価とWeber's Law の関係

 上述した比率法にもとづいて, F. Hayは〔第8表〕の価値を15%の差

具基準にしたがって修正するか,これはWeber's Lawによる差異(弁別)

                             8)閥(differencelimen)が15%であるといわれているからである.

 また, Hayは要素比較率として利用する価値を選定する場合,つぎの

3点が理論的に問題となることを指摘している.

 (1)職務総価値にもとづく要素価値を採用する

 (2)要素総価値にもとづく要素価値を利用する

 (3)職務および要素価値の平均値を使用する

 この場合〔第5表〕による“job to job by factor" が客胎杓かつ科・学

的であることはいうまでもない.

 さらに, Hayは要素比較率を〔第10表〕のように示すとともに,この

方法の科・学性を実証する手段として,つぎのような数学的関係を展開して

  9)いる.

㈲ 例の合計が職務の合計と一致する証明.

 st=仝職務における熟練の総額, Dt及びRt=全職務の決断力及び責任,

Sa =職務αの熟練,Ja =職務αの価値=&十Da十Ra, Jt =全職務の総価

値=st十励十Rt=Ja十乃十五十‥・か

8)①E. Hay : Characteristicsof Factor Comparison Job Evaluation, Personnel.

 1946. ②本林氏は10-15%をもって点数化している(本林富士郎著,職務評価,

 労働科学研究所,昭和32年, p. 58~63).

9)E. Hay : Creating Factor Compasison Key Scale, Journal of Applied Psy-

 chology, Oct.,1948., p. 462.

                  -95-

Page 10: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

〔第10表〕Factor Scales

 要素価値(15%Intervals) 熟 練 決断力 貴 任

 230- 200

 174

 152

 132

 115- 100

 87

 76

 66

 57 - 50

 43

 38

 33

 29 -  25

  22

職務(2)

職務(1)

職務(3)

職務(1)及び(2)

職務(3)

職務(1)

職務(2)

職務(3)

 (l)第5表第:L欄(column)の各区分-F%=宍戸゛¨≒(2)第6表第

1欄の各区分=づ岑===タ彭余玉⑤(3)第7表=F%/J%べとダダト寸

×Sa = St (列1及び欄1).

(4)壽十分十七を加算する■ ('^)μカタルFRt'(^)^によ

り代位するとJaX十JhX十JcX十…JnX=Jt.

と八十μ十八十…Jn=Jtとなり定義により真となる.

 (B)欄合計の逆数が要素の合計と一致する証明.

 (1)(2)及び(3)は㈲の場合と同様である. (4はず熟練欄の価値を加算すると

その結果は分十分十分…分となる(5)しかるにμ十月十八十…却

=Jt, (6)故に(4)の分数式==分,(7)逆数こづ卜,(8)決断力(D)及び責任(i?)の

-・96-

Page 11: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

場合も同様にして脊,プftとなる. (9)以上3欄の逆数を合計すると次

のようになる.貢十谷+ダ=SOクド軋(抑しかひこ定剔ムio

st十Dt十Rt=Jt,皿故にst十タ;十乱心t十Dt十Rt=Jt.

 最後に, Hayはこのような比率法にもとづく条件比較法があらゆる職

務評価法のうちもっとも科学的な方法であることを強調するとともに,と

           10)くにその俸給職務の評価に対する適用性の大きいことを主張しているので

ある.もっともこの場合, Hayが比率法の効果を得るために,心理学的

見地より評価グループを慎重に選定すること,および評定者の訓練を十分

に行うことの2点を指摘している事実を看過してはならない.

 ところがこのような説明に対して, W. D. Turnerはつぎのようにこれ

       11)を否定している.

 Weber's Lawは, 2つの物理的刺戟間の弁別閥がその刺戟自体の大き

さにコンスタントな比率を維持する法則である.したがって, Hayはこ

の法則にもとづいて,比較率の評定における弁別閥が条件比較法における

評定の大きさにコンスタントであると考えるのである.しかしこの場合,

このような弁別閥およびこれに応ずる評定が必然的に生ずるような比較率

の存在を期待できる可能性はない.なぜなら職務価値を物理的に具体的に

測定する尺度が欠如していることか,職務評価の資料に対するWeber's

Lawの適用を論理的に不可能にするからである.したがって,Hayのい

うWeber's Lawは精神物理的な法則を意味するものではなく, L/J=K

という比率判断の精神的法則を示すものにほかならない(£=比率評定比較

率における弁別(差異)閥, J=£による評定比較率の水準点, 瓦=経験的コンスタ

ント).すなわちこの場合比率判断の法則(Law of Per Cent Judgement)に

10)俸給職務の評価に関しては拙稿「職務評価と標準原価」(労務研究第3巻第6

  号)および「俸給職務の評価と標準原価」(追手門経済論集第21巻第2号)を参照.

11)W. D. Turner: Some Precautions in the Use of the Per Cent Method of

  Job Evaluation, Journa of Applied Psychalagy, Dec. 1949., p.547.

                  -97 -

Page 12: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

おいては,物理的に具体的な測定尺度はなく,単に数学的である点に

Weber's Lawとの類似点が見出されるにすぎないのである.

 以上を通して理解できることは,職務評価におけるWeber's Lawの適

用が必ずしも「職務価値の物理的客観的真実」を保証するものではないと

いう事実である.いなむしろ反対に比率判断の法則という見地より見れば

職務評価の主観性が不可避的である事実を認めなければならないというこ

とができる.

 つぎにTurnerはHayのいう「15%の弁別間」が現実においては,前

述した公式すなわちL/J=Kにもとずいて決定されることを指摘してい

る.そしてむしろ委員会における評定の正確性と,要素評定比較率の幾何

学的ステップの大小か一致する事実を重要視しているのである.

 このことに関連して注意を要するのは,藤田忠氏がその著『職務給・資

格給』(白桃書房,昭和40年,).211)でつぎのように述べていることである.

  「ウェバニ比(弁別閥)の値は感覚により,また,属性のことなるにつ

れ相異するし(表A・B),さらには比較の条件によっても大きく変わるも

のである.すなわち

(1)ウェハー比は必ずしも一定ではない.刺激強度がきわめて大または小

 なるときは変化する.強度が中庸の場合にのみ近似的に一定である.

(2)標準刺激か小さい場合の方が弁別は容易である.また,上弁別閥と下

 弁別間はことなる.

(3)刺激の呈示される時間および比較する時間,同時比較か継時比較かで,

 弁別間は変わる.

(4)弁別閥には個人差かおり,かつ,練習により変わる.

 したがって,抽象的概念的なものの弁別に,特定のウェーバー比を適用

するのにはいまだ問題がのこる.現在の心理学の結果からは,有意の差の

あるものの相対的な差を人為的に数量化して比較する,一応の手段として

用いる程度がその適用の限界であろう.いわんや,これによって点数化し

               -98-

Page 13: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

表A 各種刺激とウェーバー比の範囲    表B 各種刺激とウェハー比

         (苧坂良二・ 1955)

光 度 刺 激

触  刺  激

重量刺激

聴 覚 刺 激

嗅 覚 刺 激

味 覚 刺 激

温 度 刺 激

1、1  1音の高さ(2,000 c・p.s)

光の明るさ(1, 000 photons)

挙  錘(300 gr)

音の強さ(1, OOOcp.s,lOOdb)

圧   覚(点5 mg/mが)

昧   覚(塩1/ 3モル)

0.003

0.016

0.019

0.038

0.136

0.200

65 100 195

1  1  1-~-~-10 20 30

1 、1 、1

20  40 100

1  1  1

3  5  12

1 -1  13  5  n

1、1  13  4  5

1  1、1

3  3  4

た結果を,そのまま賃率決定の単位にすることなどは考えられない.

 また,算術級数的点数化のほうがよいか,幾何級数的点数化のほうがす

ぐれているかについても,現在のところ結論は下されていない.ただ,い

いう石ことは,算術級数的に点数化したほうが,その結果が使いやすい形

ででてくることと,どの方法によって点数化しても大きな相違はないとい

うことである.」

 ところでTurnerはさらに進んでHayの数学的証明についてもつぎの

ごとく非難している.すなわちHayの証明は,いずれも大きさの序列を

異にする相対的価値が正当に平均化されるという前提にもとずくものであ

る.しかしかかる前提は多くの場合,容認し得ないところである.したが

って,比率法の計算はつぎのように理解しなければならない.

 r=既定要素評価率の使用中えた要素評価数のー乃=i職務に対する

(心)要素評価の合計T.=T.。か利用される職務群の1要素に対する

要素評価の合計(r's)J=r/Tj=与えられたrに一致するツ価値”F=

ヴ石=川こ一致する?価値'1故にF/J=(r/T『』/(ヅ石)=(ヴ石)(rノア)

=1j/1 p,更に又T'j=F/J:T',=J/F.かくてTurnerは,比率法の計

-99-

Page 14: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバ≒の法則

算における“Reduction"過程の省略を否定し,その重要性を強調するの

   12)である。

           4 若干の吟味

 既述したように,職務評価におけるWeber's Lawの適用に関しては,

必ずしも意見の一致を見ていない.しかし条件比較法においてその比較率

に差異か存す右というHayの所説は,おそらくそれが“sensed units of

difference"にもとづいているという見地から言えば注意を要するところ

である. Hayはこの問題に関してつぎのような実験の結果を報告してい

る〔第11 ・12 ・13表〕

 剛まず各職務要素に関する%価値の割当は全要素の価値合計が100%で

あるど前提している.たとえば基準職務機械簿記係の場合精神18,熱練27,

休力17,責任27,作業条件11,計100である.

 (2)つぎに差異閥が実験により求められるが,これは通常判断の75%が一

致した場合の大きさである. Weber's Lawの1/30(量)および1/100に

対して条件比較法の差異閥は1/7または15%である.要素にもとずいて各

職務相互の比較を行う過程は,〔第12表〕および〔第13表〕の報告からも

Weber's Lawに準拠しているというのである.

 条件比較法における各職務が共通の要素にもとづいて,それぞれ相対的

賃金価値による比較率を中心として評価されることはいうまでもない.し

たがってこの場合,評価者の判断がその客観性を左右するもっとも重要な

る要件となるのである.ところが判断は相対性の一般原則により文配され

るものである.すなわち,2つの事物間の差具は絶対的な性格をもつもの

ではなく,また事物自体から独立して存在するものでもない.反対にそれ

12)W. D. Turner:The Per Cent Method of Job Evaluation, Personnel, 1948,

  p.476, The Mathematical Basis of the Per cent Method of Job Evaluation,

  Personnel,1948, p.154.

                     -100-

Page 15: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

〔第11表〕Scale forEvaluatingSkillFactar

Job    Tit,e Valuein Point(15% Intervals)

Supervisorof constructionCreditAnalystSupervisorTrust AccountingHead Bookkeeper

CostAccounting ClerkReal Estate Maintenance InspectorSenior CollectionClerkJunior Branch TellerTranscribingMachine Operater

TlelploneOperatarstock ClerkFileClerkNote Counter

ElevatorOperatorCounter GirlCleanerBus Boy

9381

7061

5347413631

2723

201715

13n

10

〔第12表〕Agreement between Job EvaluationEstimatesby allEvaluators

     of a Committee and the Final Values they Adopted

Co. IndustryNumber of % Agree-

  mentJobs Factors Evaluators Judge-  merits

1(1947)

1(1946)

2(1949)

2(1947)

Bank

Bank

LifeIns.

LifeIns.

 91

 89

300

106

4095

4005

5400

2544

75

73

73

72

〔第13表〕Agreement between Job EvaluationEstimatesby allEvaluators

     of a Committee and the FinalValues they Adopted.

CO。 IndustryNumber of % Agree-

  mentJobs Factors Evaluators Judge-   ment

1

6

8

10

11

Bank

utility

Metal Mfg

LifeIns.

Textile

112

382

356

140

60

10

 5600

15280

14240

4900

1500

66

62

63

61

55

-101-

Page 16: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

は事物の大きさに比例するとともに,1事物の差異閥とも称すべきもので

ある.ここに

  「事物を比較する場合,われわれは事物間に存在する実際の差異を問題

 とすることはできない.ただわれわれは,事物の大きさに対するこの差

 異率を感知するにすぎない」

     ‥                13)というWeberの論拠が成立するのである.

 以上の吟味を通して,筆者はHayのいうように条件比較法における評

価比較率の計算においてWeber's Law の弁別閥に類似する傾向か一応表

面的に認められるように思う.しかしWeber's Lawは刺戟と感覚に関す

る法則である.したがってそれはまた精神物理的法則である.これに対し

て条件比較法の問題は「判断」を中心とする精神的法則の性格を有するも

のである.ここにTurnerの指摘するように,本質的な問題点か存する

といわなければならない.「判断」は主観的かつ精神的なものであるが故

に, Weber's Law における感覚と刺戟が掌上の物理的客観的存在により

測定される場合と同一に解することができないからである.ただこの場合

理解できることは,数学的にあたかも確率論を中心とする科学性への接近

が見られる結果,そこにWeber's Lawとの類似点が存するという事実で

ある.したがってそれは, Psycho-physical的な法則であるというよりも,

psychical的な法則であるということができる.このことは,職務評価に

おけるWeber's Lawの適用を強調するHayの論述からも理解すること

が出来る.

 すなわちHayはまず比較対象間に一定の差異閥が存在することを指摘

して,これを15%と予定しているのである.しかもこれに関する証明は行

われていないのである.およそ二事物の比較が正確に実施されるためには

共通の測定尺度が必要である.ところがHayにおいては,まず職務要素

13)F. Hary: The Applicationof Weber's Law to Job Evaluation Measures,

  Journalof Applied Psychology,Apl.1950.,p.106.

                   -102-

Page 17: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェー八二の法則

の選定において意識的に共通的性格を考慮するとともに,これを「判断」

により評価序列化しょうとするのである.ただこの場合,その判断を多数

の評定者により組織的に実施する大量観察にもとづく統計的法則の存在が

認められるにすぎない.したがってまた, Hayの主張する第二の前提で

ある「高給者の職務における困難度はその俸給額に比例する」という根拠

は,理論的にも実際的にも種々の難点を蔵するものであるということがで

きるであろう.

 要するに職務評価におけるWeber's Law の適用は, Weber's Law が

理論上有する適用の限界にの限界を克服しょうとするのか中段法およびメルケ

ルの法則である)を一応別に考慮するとしても,厳密な意味においてその存

在の意義を認めることはできない.そこに存在するのはWeber's Law に

類似する精神的な法則である.しかしこの場合, Weber's Lawにおける

考察の方法か職務評価の判断にもとずく恣意性をより科・学化する手段の

基礎として,考慮に値する事実はこれを率直に認めなければならないと思

う.

なお, Weber's Lawに関する理解を容易にするために,心理学辞典

(平凡社1971年版p. 11)に記載されているところを示すと,つぎのとおりで

ある.

 【弁別閥difference threshold (limen), differential threshold (limen)】

丁度可知差異just noticeable difference, jndともいう2つの刺激か刺

激強度,刺激の質(たとえば光の波長)においてわずかしか違わない場合は,

物理的には異なっていても,感覚的には区別できない場合かおる.感覚的

に区別できる最小の差を弁別閥と呼ぶ.刺激強度に関する弁別閔Mは,

一般に標準刺激の刺激強度7が増大するとともに増大する.そこで,そ

の比AI/Iを相対弁別閥relative threshold またはウェーバー比Weber

ratioと呼んで弁別力の指標として用いる.

 【弁別閔に関する諸法則】上述のように,感覚の強さに関する弁別閥iZ

               -103-

Page 18: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

 は刺激強度7の増大とともに増大するか,その過程についてウェ■―■バー

Weber, E. H. (1834)は忍が7にほぼ比例し.

  i/=C/,すなわち∠di/iこc (cは定数)

の関係かおることを見いだした.これはウェーバーの法則Weber's law

と呼ばれている.この法則は,フェヒナー(1860)の精神物理学において

重要な位置を占め,フェヒナーの法則の基礎となっている.なお,この式

中の定数Cは前述のウェーバー比に相当し,感覚属性,個人によって異

なっている.ウェーバーは重さの弁別では1/40,視覚による長さの弁別で

は1/50~1/100,音の高さの弁別てば1/160としている.ウェーバーの法則

によれば,たとえば重さの弁別において,40 gと41 gがやっと区別でき

たならば, 80 gと81 gは感覚的には区別できず, 80 gと82 gではじめ

て区別できることになる.同様に120 g と123 g, 160 g と164 g. ゛゛゛゛゛゛タ

400 g と410 g がやっと区別できる関係となるはずである.その後,さま

ざまの感覚領域で多くの研究がなされたが,ウェーバーの法則は狭い刺激

強度範囲で近似的に成り立つにすぎないことがしだいに明らかになってき

た.一般に,刺激強度が低い場合はウェーバー比が大であり,刺激強度

の増大とともに減少する.いいかえると,弁別閥は刺激強度に比例するほ

どには増大しない.そこで,フラートンFullerton, G. S.と牛ヤッテル

Cattell'J.M. (1892)は,弁別閥が刺激強度の平方根に比例するとする

  JI=C/了=C戸

の修正法則を提案した(フラートン=キャッテルの法則Fullerton-Cattel川aw).

ところが,実際のデータはウェーバーの法則とこの法則との中間になっ

た.そこで,ギルフォードGulliford, J.P.(1932)は,より一般的な修正

法則

  ∠ii=cr゛

-104-

Page 19: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

職務評価とウェーバーの法則

を提案した(ギルフォードの法則Guilfords'law).ここでn=1.0ならウェ

ーバーの法則となり, w=0.5ならばフラートン=キャッテルの法則とな

る.一般に, nは0.5と1.0の間となると考えられた.このほかにも.種

々の立場から,いろいろな修正法則が提案されている.〔大山 正稿〕

                5 結

 以上において筆者は,職務評価の合理性を客観的科学的に吟味する手段

としてWeber's Law と条件比較法における評価率との関係が重要である

ことを明らかにした.そしてこの問題に関するHayの積極肯定説および

Turnerの消極否定説の論拠を分析しつつ,最後につぎのように結論した

のである.

 すなわち,職務評価におけるWeber's Lawの関係はむしろ数学的性格

において類似点を有するにとどまり,理論的にはTurnerの指摘するよ

うに認識対象の範囲を異にするものである.それはフェヒネルのいう精神

物理学的法則ではなく,単なる精神的法則であるということかできる.し

かしWeber's Law に見る理論的分析の発展が職務評価法の客観性および

科学性を増大させる手段となることは注意しなければならない.

 =およそいかなる方法といえども,これを実施する場合には程々の理論的

難点を蔵することはいうまでもない.たとえば数学的精確に接近すべく努

力する点数法方式でさえも,パーデュー大学のローシュ教授が指摘するよ

うに,多くの重要な点において基本的な数学的法則を犯すという非科学性

             14)と非客観性を有するのである.このことは条件比較法に対しても加重の問

題,点数または職務率の許容幅域,あるいは基準職務の選定における合理

的休系の欠如など諸種の難点が指摘できることからも容易に察知すること

ができるところである.

14)Lawshe : studies in Job Evaluation, Journal of Applied Psychology. 1944-

  6.

-105

Page 20: InfoLib-DBR(Login) - 職務評価とウェーバーの法則2)E. H.Weber: Der Tastsinn und das Gemeingefiihl,1846. -87- 職務評価とウェーバーの法則 区別される圧が104

           職務評価とウェー八―の法則

     15) 別の機会において述べたように,職務評価自体は未だ十分なる客観的科

学性の基盤に立脚するものではない.またそれは団体交渉と相まって,す

べての賃金問題を解決できるものでもない.しかしそれが従来の賃金形態

の持つ恣意性ないし歴史性を脱して,合理主義にもとづく客観的科学的賃

金形態の確立を企図するものであることは,これを認めなければならない.

職務評価はいわゆる科学的管理法の精神にもとづいて,職務解説および職

務明細表を含む職務分析を経て各職務の相対的関係価値を秤量する制度で

ありいしたがってそれは労働力の価値にもとづく人事考課と相まって,賃

金の決定に科学的な根拠を提供するものである.もっともこの場合といえ

どもかかる職務評価にもとづく職務組織の設定とこれに対応する賃金率の

決定とは,その本質上一応別個の問題であることはいうまでもない.

 職務評価制度の基礎が,結局は評定者の判断に対する信頼性(Reliability)

と比較可能性(Comparability)に存することは一般に指摘されているとこ

ろである.したがってその意味から言えば,判断(Judgement)を刺戟と

感覚に準じて,これにWeber's Lawの理論を適用する試みが全く無用で

あるとはいえないのである.ただそれが精神的法則における客観性および

科学性を高度化する程度のいかんについては,今後における数学的分析の

展開にまつほかはない.しかし,職務評価制度のもつ客観的科学性の内容

を明確にし,それと心理学との関連を綜合的に理解しておくことは,この

制度のもつ真の意義を十分に発揮させるためにも,きわめて重要な問題で

あるといわなければならないであろう.

                       (昭和61年12月23日受理)

15)前掲拙稿「職務評価の基本問題」参照.

                 -106-