2016.9.9 心原性脳塞栓症に対するbnpの有用性

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B-Type Natriuretic Peptides Help in Cardioembolic Stroke Diagnosis Pooled Data Meta-Analysis Stroke 2015;1187-1195

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Page 1: 2016.9.9 心原性脳塞栓症に対するbnpの有用性

B-Type Natriuretic Peptides Help in Cardioembolic Stroke Diagnosis

Pooled Data Meta-Analysis

Stroke 2015;1187-1195

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はじめに 脳性ナトリウム利尿ペプチド( brain natriuretic peptide:BNP)は、主に心室が張った状態で心筋細胞から分泌されるホルモンである。半減期が約 20分であることより、刻一刻と変化する心臓の状態を鋭敏に捉えることができる。 日常診療において心疾患のスクリーニングや心不全の治療効果を判定するバイオマーカーとして用いられている。 近年、脳血管障害、特に脳梗塞急性期に BNPが高値を示すと報告されている。 BNP値が 140pg/ml以上であると感度 80.5%、特異度 80.5%で心原性脳塞栓症を他の病型分類と識別できるという報告もある。 当院でも救急外来で脳梗塞が疑われる患者さんが搬送された際などは BNPを測定することが多い。 ほぼ routineのように測定する BNPの意義について勉強したく今回の論文を選出。

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Back Ground 虚血性脳卒中は最も重要な脳神経障害の一つである。 再発予防のための最適な二次治療を行うには、虚血性脳卒中の正確な原因分類が不可欠である。 心原性脳塞栓症の患者には抗凝固薬を投与するが、大血管アテロームによる脳卒中やラクナのような小血管疾患の患者には抗血小板薬が選択される。 心原性脳塞栓症は一般的に重症化及び再発しやすく虚血性脳卒中の約 1/5を占める。

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Back Ground 正確な病型分類が重要ではあるものの、約 35%の患者ではあらゆる評価を行っても原因を特定できない。この患者群における発症後 1年後の再発率は約 30%であり、不適切な二次予防がその一因となっている。 AFは心原性脳塞栓症の診断において検出が不可欠な頻度の高い心調律障害であるが、発作性のことがあり、その場合標準的な心臓モニタリングで検出することは難しい。 近年、「近位動脈狭窄または高リスクの心原性塞栓源がない非ラクナ梗塞」として定義される原因不明の塞栓性脳卒中という新しい臨床概念が提唱されている。発作性 AFおよびその他の調律障害による左心房由来の血栓性塞栓が、原因不明の塞栓性脳卒中の重要な寄与因子であると考えられている。

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BNPは前駆体 pro-BNPの切断により当モル量の不活性型 N末端ペプチド( NT-proBNP)が放出された後、産生される。 Pro-BNPは壁張力の増加および容量・圧の過負荷に反応して伸長刺激を受け心筋から放出される。また、血行力学的負荷がかかる段階でも放出される。

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この pro-BNPと心房拡張の関係から、 BNP ・ NT-proBNP値の上昇と AF及び心原性脳塞栓症との関連性が説明される。 BNP ・ NT-proBNPと心原性脳塞栓症との関連が明確になれば、特に難しい症例(発作性

AF)における心原性脳塞栓症の診断が迅速化され、原因不明の脳卒中の割合を減らせる可能性がある。

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本研究の目的は、系統的レビューおよび被験者個別データ( IPD データ)のメタアナリシスを通して、心原性脳塞栓症と BNP ・ NT-proBNPの循環血中濃度の関係について確証を高めること、また、心原性脳塞栓症を特定するための補完的な臨床情報として有用性を評価すること、そして原因不明の患者サブセットにおいて心原性脳塞栓症の予測モデルの有用性を検証することである。

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Inclusion Criteria and Search Strategy 検索対象とした研究はすべて、虚血性脳卒中または一過性脳虚血性発作の確定患者の様々なサブタイプにおいて BNPまたは NT-proBNP血中濃度を測定した原著論文であった。 2013年 11 月 12日までの PubMed データベースを検索し、独立したレビューアー 4 名が論文を選択した。 選択した研究および公表済みレビューの参考文献を手作業でスクリーニングし、その他の関連研究を特定した。

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Data Collection 選択した全研究の責任著者に E メールで連絡をとり、 IPD 解析のためにデータの共有を依頼した。 脳卒中のサブタイプが判明している患者のみを対象として原因予測モデルを導き出した。この時点で原因不明の脳卒中患者は除外した。 次に、当初原因不明であった脳卒中患者のサブセットに対し、この導き出した予測モデルを適用した。その結果として予測モデルに従った心原性脳塞栓症の確率を得た。モデルで予測した原因と、完全な臨床スクリーニング後に特定され該当論文に報告された原因とを比較した。  

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IPD 解析 BNP ・ NT-proBNP値の最上位及び最下位四分位をカットオフポイントとして予測モデルを構築した。(標準化した値を用いたため、濃度単位のカットオフポイントは特定できなかった) 使用した各カットオフポイントについて感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を算出した。

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Results 最終的に 23の論文が選択された。 18の異なるコホートを検討しており、 16 コホートは原因が確定した患者のデータ、 2 コホートは原因不明の患者のデータ。 合計すると、脳卒中の原因が確定した患者 2834 例の個別データが蓄積された。 BNP値、 NT-proBNP値は別々に検討した。

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心原性脳塞栓症患者の BNP/NT-proBNP値は、アテロームや小血管疾患患者より高かった。 BNPでは発症後 72 時間まで有意差が認められたが、 NT-proBNPは 1 週間にわたり心原性脳塞栓症患者で有意に高かった。

虚血性脳卒中の原因別に見たBNP/NT-proBNP

検体採取時点別に見た BNP/NT-proBNP

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単変量解析の結果、心原性脳塞栓症患者は明らかに高齢であり、女性が主で脳卒中はより重度であった。また、心原性脳塞栓症以外の患者に比べ心臓疾患が多かった。

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BNPまたは NT-proBNPを臨床データに加えると、曲線下面積および IDI 指数(総合判別改善度指数)による評価において心原性脳塞栓症患者の鑑別能は有意に上昇した。

心原性脳塞栓症に関する臨床予測モデルと BNP/NT-proBNPを追加した予測モデルの比較

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ベースラインで原因不明であり( BNP83 例、 NT-proBNP114 例)、詳細な診断検査の完了後に原因が判明した患者において、予測モデルの有用性を検証した。 NT-proBNPを加えた予測モデルは、 BNPを加えた予測モデルとの比較において、心原性脳塞栓症の原因に関する感度および特異度がより高かった。

心原性脳塞栓症の確率

当初は原因不明であり、詳細な診断検査の完了後に原因が判明した患者における予測モデルの適用

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Discussion 脳卒中のバイオマーカーは、脳卒中の診断、高リスク患者のスクリーニング、転帰の予測、脳卒中原因の特定など、様々な場面で役立つ可能性がある。 今回の研究結果は BNP/NT-proBNPと心原性塞栓に起因する脳卒中との関連性を強く裏付けるものである。 心原性脳塞栓症患者では、心原性脳塞栓症を原因としない患者に比べ、 BNP/NT-proBNP値が高く、この差は発症後 72 時間まで有意であった。 抗凝固療法の最適な開始時点に関する明確なエビデンスは示されていないが、 バイオマーカーの検査により心原性脳塞栓症患者を早期に特定すれば、治療開始の意思決定プロセスの迅速化に役立つ可能性がある。

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日々の臨床診療では、虚血性脳卒中と診断された患者に対し、適応があれば、 ECG、心エコー検査、ホルター心電図などの補助的心臓検査が行われ、心原性塞栓の可能性が特定される。 しかし、虚血性脳卒中の一部の原因は一過性であり(発作性 AF)、診断検査の際には検出されない可能性がある。これらの症例では、不整脈の検出率を高めるために心臓モニタリング期間の延長が必要であり、心原性脳塞栓症の診断を困難にしている。

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本研究では、 BNPと NT-proBNPの両者により、年齢、性別、入院時の NIHSSスコアに関係なく心原性脳塞栓症を予測できることが明らかになった。 これにより、初期の補助的検査では検出できなかった心疾患の特定のために、長期モニタリングが必要な患者を選択しやすくなる可能性がある。 循環血中 BNP/NT-proBNP 濃度を補完的に用いた基本的な臨床予測モデルは、 AFの検出が困難な症例における心原性脳塞栓症の診断に適している可能性がある。また、両ペプチドが心原性脳塞栓症とそれ以外の脳卒中とをよりよく鑑別する上で役立つことが示されている。

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原因不明の脳卒中を発症した患者では、その後 2年間の再発率は 14 ~ 20%と報告されているが、これは主に不適切な二次予防に起因する。これらの患者は 3か月後の機能的転帰も不良であり、 3年間の追跡調査における累積死亡率が高い。 バイオマーカーを併用した評価により、原因不明患者の 41%が心原性脳塞栓症の可能性が高い症例に再分類されることが報告されている。 BNP/NT-proBNPは心原性脳塞栓症に関して高い感度・特異度を示しており、診断に関して高いエビデンスレベルを有すると考えられる。

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Limitation 検討した研究の評価項目は共通しているが、各論文における発症機序の特定および原因の精密検査は、多数の国の様々な施設において 9年間にわたって行われている。したがって、原因のサブタイプ分類の信頼性は不明確であり、バイアス源になる可能性がある。 BNP/NT-proBNP値を標準化したため、心原性脳塞栓症を鑑別するカットオフポイントを濃度単位で示すことができなかった。 予測モデルは多数の被験者に基づいて作成したが、これらのモデルの検証に用いた原因不明の脳卒中患者のサブセットは少なかった。 個人差による変動を回避できなかったため、 BNPと NT-proBNPを直接比較することはできなかった。

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Conclusion 本研究により、虚血性脳卒中患者の心原性脳塞栓症の特定においてナトリウム利尿ペプチドの役割が裏付けられた。 侵襲的な経食道的心エコー検査や AF発作検出までの数週間から数カ月間に及ぶ経過観察に比べ、日常臨床診療におけるナトリウム利尿ペプチド検査のほうが、抗凝固療法を開始するきっかけとして優れている可能性がある。 これと同時に、ナトリウム利尿ペプチド検査の利用により、根底にある心原性塞栓の可能性を効率的に除外でき、経食道的心エコー検査や徹底した心拍モニタリングの必要性がなくなる可能性がある。

~終了~