『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば センター長は社長の「...

3
特別座談会 Part 2 . 河合 マネジメント分 科 会でも、 今は有人で対応している業務単純な問い合わせや照会対応の 自動化が進むと意見が一致して います。それでも、複 雑で難 易度 の高い電話対応は人が行うことに 変わりはありません。とくに「シニ 2013 年に発足した「5年後 のコンタクトセンター研究会」の リーダーの皆様に、これからのカ スタマーサービスや『近未来のコ ンタクトセンター』について議論 していただきます。まず、確 実に 変化すると予測できる点について お願いします。 秋山 ソリューション/サービス 分科会では、発足して最初の集ま りで「5年後を議論する前に現在 と5年前の比較」を行い、「外部 環境の変化の割には、IT ソリュー ションは大して変わっていないの ではないか」という話をしました。 しかし、ここ1年ほどは、AI (人工 知能)、音声認識の精度向上と活 用シーン拡大、We b R T C 技術を 利用した動画ソリューションの登 場など、大きな変化の予兆を誰も が感じているはずです。こうした 新しい技術がマネジメント(人)を どう支 援するのか、ベンダーは何 を提案できるのかを模索している 段階で、まさに業界全体が転換 期にさしかかっていると思います。 ア対応」はその最たるもので、す でに「電話だけで的確に用件を聞 きだして解決手段を説明する」と いうオペレーションに限界を感じ ている現場マネジメントは大勢い らっしゃいます。例えば、写 真や 動画などビジュアルを共有すると これからのコールセンターは、コミュニケーションを武器にカスタマーサービス戦略の中核を担うミッ ションを担う。センターのマネジメントや I Tベンダー、テレマーケティング会社がこれからどうすべき かを、「5年後のコンタクトセンター研究会」の分科会リーダーを務める4人に聞く。 渡部弘毅秋山紀郎河合晴代 プロフィール:日本ユニシスにてCRM分野の商品 企画業務を経験後、日本IBMおよびIBMビジネス コンサルティングにてCRM 分野の業務改革コンサ ルティングに従事。日本テレネットで経営企画責任 者として現場経験を経てから独立し、現職。 プロフィール:大手テレマーケティングエー ジェンシーにて、センター開設や運営改善コ ンサルティング、社内教育機関で研修の企画・ 開発・実施を担当。2011年、ラーニングイッ トを設立。 IS ラボ 代表 ラーニングイット 代表 『顧客の声』 『顧客の体験』を活かせば センター長は社長の「軍師」になれる! いったように、I T を活用すること で解消は大きく進むのではと感じ ています。マネジメント分 科 会で は、そのような価値ある顧客体験 を提 供するコンタクトセンターは、 自動化が可能なオペレーションと は一線を画す「カスタマー・エクス ペリエンスセンター」と捉え、必要 な人材マネジメントについて検証 しているところです。 そのカスタマー・エクスペリ エンスを検証している分科会の リーダーである渡部さんは、「5 年後」をどう捉えていますか 渡部 コンタクトセンターの進化 は、「戦略的活用」の度合いに見 ることができると思っています。 その代表的な取り組みが VO C 活 動です。2000 年代に入ってすぐ の商品開発・改良に活用しはじめ た時代を「カスタマー・エクスペリ 度な活用が始まります。具体的に は、過去の顧客体験を分析し将 来の顧客体験を予測し、プロアク ティブなアクションをとる「フュー チャー・エクスペリエンス」という べきモデルです。これがこれから くるであろう「カスタマー・エクス ペリエンス 3.0」の時代で、実現で きればカスタマーサービスは企業 のイノベーションのためのドライバ として認められるのではと期待し ています。 宮崎 これまで、そして今後の流 れとしては概ね同意見です。問題 は、コンタクトセンターに投 資 意 欲を持つ経営陣が存在する企業 が 依然として少ないことで、これ は今後も数年間程度で劇的に増 えることは予想しにくいと感じて います。やはり、経 営と現 場の間 でミッションや役割がコミットされ ていない点を解決しないと適切 な投資を伴う戦略的活用は難し いでしょう。また、今後は労 働人 口が減り、優秀な人材が社内外で 奪い合いになることが予想されま すので、コールセンターはより“や りがいのある職場”に生まれ変わ る必要も生じています。そのため にも、経営に付加価値を示して投 資意欲を引き出せるか否かがマ ネジメントにとって大きな課 題と なります。経営陣にしても、コール センターを積極的に活用し競争力 につなげるか、その目線を持たず エンス 1.0」とすれば、現 在は C S を重視したプロセス改善、つまり カスタマー・ジャーニーの構築に VO C を活用する「カスタマー・エ クスペリエンス 2.0」の段階といえ ます。これからの時代は、VO C を 中心としたビッグデータのより高 特集:これからのカスタマーサービス 宮崎義文 プロフィール:マーケティング、セールス、 サービスなどCRMソリューションを専門と し、コンタクトセンターの領域でも20 年以 上のコンサルティング経験を持つ。最近は製 造/流通業を中心にプロジェクトを実施中。 プロフィール:日本 I B M で 20 以上のコンタクトセ ンター/CRMの構築プロジェクトに従事。IBMビ ジネスコンサルティングCRMプラクティス・リー ダーを経て、IBM ビジネスアウトソース部門の立上 げに参加。2009 年より現職。 アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル イー・パフォーマンス・ネクスト 代表 24 Computer TELEPHONY 2015.9 25 Computer TELEPHONY 2015.9

Upload: others

Post on 01-Aug-2020

8 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば センター長は社長の「 …callcenter-japan.com/tools/file/download.cgi/1625/... · 『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば

特別座談会Part2.

河合 マネジメント分科会でも、今は有人で対応している業務─単純な問い合わせや照会対応の自動化が進むと意見が一致しています。それでも、複雑で難易度の高い電話対応は人が行うことに変わりはありません。とくに「シニ

─2013年に発足した「5年後のコンタクトセンター研究会」のリーダーの皆様に、これからのカスタマーサービスや『近未来のコンタクトセンター』について議論していただきます。まず、確実に変化すると予測できる点についてお願いします。秋山 ソリューション/サービス分科会では、発足して最初の集まりで「5年後を議論する前に現在と5年前の比較」を行い、「外部環境の変化の割には、ITソリューションは大して変わっていないのではないか」という話をしました。しかし、ここ1年ほどは、AI(人工知能)、音声認識の精度向上と活用シーン拡大、WebRTC技術を利用した動画ソリューションの登場など、大きな変化の予兆を誰もが感じているはずです。こうした新しい技術がマネジメント(人)をどう支援するのか、ベンダーは何を提案できるのかを模索している段階で、まさに業界全体が転換期にさしかかっていると思います。

ア対応」はその最たるもので、すでに「電話だけで的確に用件を聞きだして解決手段を説明する」というオペレーションに限界を感じている現場マネジメントは大勢いらっしゃいます。例えば、写真や動画などビジュアルを共有すると

これからのコールセンターは、コミュニケーションを武器にカスタマーサービス戦略の中核を担うミッションを担う。センターのマネジメントやITベンダー、テレマーケティング会社がこれからどうすべきかを、「5年後のコンタクトセンター研究会」の分科会リーダーを務める4人に聞く。

渡部弘毅氏 秋山紀郎氏河合晴代氏

プロフィール:日本ユニシスにてCRM分野の商品企画業務を経験後、日本IBMおよびIBMビジネスコンサルティングにてCRM分野の業務改革コンサルティングに従事。日本テレネットで経営企画責任者として現場経験を経てから独立し、現職。

プロフィール:大手テレマーケティングエージェンシーにて、センター開設や運営改善コンサルティング、社内教育機関で研修の企画・開発・実施を担当。2011年、ラーニングイットを設立。

ISラボ代表

ラーニングイット代表

『顧客の声』『顧客の体験』を活かせばセンター長は社長の「軍師」になれる!

いったように、ITを活用することで解消は大きく進むのではと感じています。マネジメント分科会では、そのような価値ある顧客体験を提供するコンタクトセンターは、自動化が可能なオペレーションとは一線を画す「カスタマー・エクス

ペリエンスセンター」と捉え、必要な人材マネジメントについて検証しているところです。─そのカスタマー・エクスペリエンスを検証している分科会のリーダーである渡部さんは、「5年後」をどう捉えていますか

渡部 コンタクトセンターの進化は、「戦略的活用」の度合いに見ることができると思っています。その代表的な取り組みが VOC活動です。2000 年代に入ってすぐの商品開発・改良に活用しはじめた時代を「カスタマー・エクスペリ

度な活用が始まります。具体的には、過去の顧客体験を分析し将来の顧客体験を予測し、プロアクティブなアクションをとる「フューチャー・エクスペリエンス」というべきモデルです。これがこれからくるであろう「カスタマー・エクスペリエンス3.0」の時代で、実現できればカスタマーサービスは企業のイノベーションのためのドライバとして認められるのではと期待しています。宮崎 これまで、そして今後の流れとしては概ね同意見です。問題は、コンタクトセンターに投資意欲を持つ経営陣が存在する企業が依然として少ないことで、これは今後も数年間程度で劇的に増えることは予想しにくいと感じています。やはり、経営と現場の間でミッションや役割がコミットされていない点を解決しないと適切な投資を伴う戦略的活用は難しいでしょう。また、今後は労働人口が減り、優秀な人材が社内外で奪い合いになることが予想されますので、コールセンターはより“やりがいのある職場”に生まれ変わる必要も生じています。そのためにも、経営に付加価値を示して投資意欲を引き出せるか否かがマネジメントにとって大きな課題となります。経営陣にしても、コールセンターを積極的に活用し競争力につなげるか、その目線を持たず

エンス1.0」とすれば、現在はCSを重視したプロセス改善、つまりカスタマー・ジャーニーの構築にVOCを活用する「カスタマー・エクスペリエンス2.0」の段階といえます。これからの時代は、VOCを中心としたビッグデータのより高

特集:これからのカスタマーサービス

宮崎義文氏

プロフィール:マーケティング、セールス、サービスなどCRMソリューションを専門とし、コンタクトセンターの領域でも20年以上のコンサルティング経験を持つ。最近は製造/流通業を中心にプロジェクトを実施中。

プロフィール:日本IBMで20以上のコンタクトセンター/CRMの構築プロジェクトに従事。IBMビジネスコンサルティングCRMプラクティス・リーダーを経て、IBM ビジネスアウトソース部門の立上げに参加。2009年より現職。

アビームコンサルティング執行役員 プリンシパル

イー・パフォーマンス・ネクスト代表

24 Computer TELEPHONY 2015.9 25Computer TELEPHONY 2015.9

Page 2: 『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば センター長は社長の「 …callcenter-japan.com/tools/file/download.cgi/1625/... · 『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば

に宝の持ち腐れとしてしまうかの分岐点にさしかかっていると感じ ます。

「顧客」の本質を伝えることが経営との距離を縮める近道

─“経営との距離感”はコールセンターが抱える根源的な課題のひとつです。どうすればこの距離が縮まるのでしょう。宮崎 コールセンターが生み出す付加価値について、経営の理解を深めるべきです。コールセンターが経営貢献できる分野はいくつかあります。ひとつは渡部さんがおっしゃったようなVOCを使ったマーケティング的な貢献。これはすでに多くの企業を成功事例として挙げることができます。素晴らしい顧客対応で感動を与えるカスタマー・エクスペリエンスの実践でロイヤルティ醸成→収益拡大というシナリオを描くことも可能です。

顧客対応プロセス全体の「生産性の向上」にも寄与できます。また、他部署の社員に顧客を理解してもらうトレーニングの場所としても活用できます。すでに顧客志向の文化を醸成する手段として実践している企業もあります。どの役割を担うかは会社によって異なりますが、「貢献できる」ことをアピールすることが、経営との距離を縮める唯一の手段だと感じます。渡部 「お客様第一主義」は、総論としては浸透しつつありますが事業戦略の各論まで落とし込んでいない経営者が多いですね。収益に直結するマーケティングやセールスには投資でテコ入れしようという経営判断があっても、カスタマーサポートにはほとんど目が向かない。「サポートに投資してCSを向上させることが結果的に収益に結び付く」ことを現場が数値で示していく努力が必要です。

河合 「距離感」でいうと、お手本は意外と身近にあって、外資系企業は日本企業よりも圧倒的に経営とコンタクトセンターの距離が近いと感じます。例えば、米国では「わからないことは本人に聞く」というカルチャーが浸透しています。だから経営が顧客について知りたいときは、必ずカスタマーサービスの現場に尋ねます。日本企業ではあまり見られない光景です。もともと経営者は営業やマーケティング畑の人が多く、自身の出身部署はもちろん、数字を生み出す部署の意見に耳を傾ける傾向があると思います。ただし、外国人の居住者、就業者が増えていく中、外資系のカルチャーは徐々に根付いていくはずです。希望的観測ですが、将来的には顧客の声を最もよく知るセンター長が“社長の軍師”という位置づけになってほしいですね。秋山 外資系企業は、それぞれの部門の役割が明確ですから、カスタマーサポート部門の責任者が自分の役割を全うするために遠慮なく発言する。経営会議で「そんな売り方をしていると困る」とカスタマーサポート部門が営業責任者に意見する場面もあります。一方、日本企業の場合、商品を作る現場、売る現場の発言権が強く、カスタマーサポートがセールスに待ったをかけることな

特集:これからのカスタマーサービス

どまずできない。その割には、経営もセールスも問題が発生したら「サポートがなんとかしろ」という。サービスにおける“最後の砦”であるコールセンターをもっと重要視しなければ、現場は破たんし顧客は不満を募らせます。そしてその声は、あっという間にSNSなどで広まる時代です。経営陣は、カスタマーサポートに対する見方、考え方を見直すべきときにあると強く感じます。

コールセンターは“最後の砦”ロイヤルティを左右する要所になる

─顧客側の視点でコールセンターに対する期待値や位置づけに変化はあると思いますか。秋山 電話、メールだけでなくSNSが登場し、誰もがスマートフォンを持つことで、企業に対し個人がコンタクトする回数は増えているはずです。コールセンターは、先ほど申し上げたような企業にとってだけでなく、消費者にとっても他のチャネルでは解決しなかったことを聞く“最後の砦”という位置づけになっており、期待値が向上してきている気がします。河合 その最後の砦に対する顧客の期待は、正確性や迅速性、丁寧な言葉づかいなどを追求することではありません。それらの期待は、WebサイトやIVRによる自動対応でほとんど応えられます。

カスタマー・エクスペリエンスセンターには、他のチャネルでは得られない情報や、特別な便宜を図ってもらうことを期待しているのです。期待に応えるためには、コールセンターは権限を持たなければなりません。オペレータ自身が他部署と交渉できるスキルも必要です。応対マナー研修などこれまでの人材育成とはまったく異なるアプローチで人材を強化していくことが求められるでしょう。非正規雇用の人材にマニュアルやルールの範囲内で一律の応対だけをするという従来のコールセンターのモデルも見直すべき時期だと思います。言い換えれば、かねてから正社員が対応している“お客様相談室”の機能があらゆる業種で求められるのではないでしょうか。─人材育成はセンターマネジメントにおける永遠の課題ですが、さらに高いレベルが必要というこ

とですか。渡部 顧客の期待値の向上に伴い、コールセンターはロイヤルティを左右する重要な部署になります。マネジメント人材もオペレータも、サービスのプロフェッショナルとして育てていく必要がありそうです。とくに対応を担うオペレータの採用や教育は見直すべき段階だと思います。例えば、呼称そのものも再考したほうがいいですね。正確・迅速な処理が求められるスタッフを「オペレータ」とするならば、ホスピタリティを軸にCSへの意識を持つ「コミュニケータ」、顧客の困りごとを先回りしてサポートできる「コンシェルジュ」など、役割ごとに呼び名を分けてみてはどうでしょうか。河合 マネジメントについては

「コールセンターのスペシャリストも貴重ですが、さまざまな部署で活躍した経験や人的コネクション

26 Computer TELEPHONY 2015.9 27Computer TELEPHONY 2015.9

Page 3: 『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば センター長は社長の「 …callcenter-japan.com/tools/file/download.cgi/1625/... · 『顧客の声『顧』 客の体験』を活かせば

を持った人材、とくに営業部門の出身者などがコールセンターで力を発揮することで、権限がおよぶ範囲は格段に拡がります。その人材が最終的にはカスタマーサービスの担当役員になるというキャリアプランを構築する企業が増えてほしいですね。宮崎 そもそもVOCという宝の山を持つコールセンターは、社内改革を起こせるような人材が登場する可能性を秘めています。「カスタマーサービスはコスト部門ではない」ことを実証する収益モデルを構築し、経営との距離を縮める必要はありますが改革の起点として果たすべき役割は大きいはずです。

有料化、リピーター醸成─シニア対応は投資を回収できる?

─VOC、カスタマー・エクスペリエンス、コンシェルジュ対応。今後、センターの位置づけを高めるキーワードはいくつか登場しました。いずれもこれまでの「処理」と言われている業務とは一線を画したパフォーマンスが求められそうです。渡部 従来、コンシェルジュによるサービスはエグゼクティブ対応と言われ、ロイヤルティが高い一部の顧客にのみ提供されてきましたが、今後はビッグデータ解析や人工知能などを使ってより多くの

顧客に展開することが可能となりそうです。しかし、実現には相当な投資が必要になるため、それを回収するビジネスモデルの構築が不可欠です。秋山 有料サービスはひとつの答えになるかもしれません。テクニカルサポートなどで有料化に踏み切った企業もありますが、今後はさまざまな業種、業態に拡大する働きかけが業界をあげて必要になりそうです。日本人には「サービスは無償」という認識があるため、他社に顧客が流出してしまう懸念など有料化へのハードルは高い。しかし、資産力のあるシニア層を対象にするなどすれば、トライする価値はありそうです。河合 シニア層は自分で調べたり検討することを嫌がる人が少なくありませんからね。ちょっと極端ですが、「すべて私の要望を理解して結論だけ教えて下さい」という方もいらっしゃるはず。シニア層の購買力を考えれば、この期待に応えることが CSだけではなく収益にも寄与すると考えられます。これからのシニア層は今までとは違い、こういうサービスに対価を払うのではないでしょうか。

ITベンダーもセンター運営者も「言われたことだけ」では先細る

─今後、ITベンダーやコンサルタントは具体的に何をしていくべ

きでしょうか。渡部 まず ITベンダーは、顧客が示した課題に対する解決だけではなく、“さらにもうひとつ上位の目標”を見据えた提案が求められそうです。秋山さんがおっしゃったように、WebRTCや人工知能など、これまで存在しなかったサービスを実現できる技術はすでにあります。「クライアントに

頼まれたことだけをやります」というスタンスは、余計な出費(コスト)も生まないかもしれませんが、ビジネス拡大にもつながりません。ITベンダーによる積極的な提案こそが、ITベンダー、ユーザー企業、その先にいる顧客をWin-Win-Winの関係にすることにつながります。秋山 確かにITベンダーは、新たな技術の具体的な使い方や利

特集:これからのカスタマーサービス

用シーン、メリットなどが十分説明しきれていないように感じます。私たちコンサルタントも含めて、現場で何が課題になっているのか、顧客に何が起きているのかをもっと理解する必要があります。私自身もITベンダーとユーザーをつなぐ仲介役のコンサルタントとして、両者のコミュニケーションを密にするような手助けをしたいと思い

ます。宮崎 センターの成熟度ごとに課題が変遷する、あるいはその会社のカルチャーやビジネス環境によっても現場が望むソリューションが異なるということをITベンダーは理解すべきです。一律でどのコールセンターにも適用できるオールマイティなソリューションが多いように感じますが、“サイズに合う服”の提案をユーザー企業側

は求めているはずです。─一方、センターの運営者はどうしていくべきですか。河合 ビジネスへのアンテナを張りめぐらせて、新しいことにチャレンジする姿勢をもってほしいですね。マネジメントが現状維持の事なかれ主義で、ミスのないオペレーションをはじめリスク回避だけを考えていては、コールセンターの立ち位置は今後も変わらないでしょう。オペレータも教わったことだけではなく、自分たちでオペレーションを考えられる人材を目指してほしいと強く感じます。重箱の隅をつつくような品質管理では顧客が求める品質に近づかないばかりか、オペレータも仕事に対してネガティブなイメージを持つばかりです。もっとお客様との距離を縮めるようなコミュニケーションを目指してほしいと思 います。秋山 自動化が進み、単純な問い合わせが機械で処理されるようになってくると、「業務知識と応対マナーだけ教えてすぐに着台させる」という従来のオペレータ教育は通用しなくなります。お客様の期待値を十分に理解できる、顧客志向に研ぎ澄まされた人材の育成が欠かせなくなります。そのように専門性が高まると、「この領域はこの人にしか答えられない」というニーズが生まれ、在宅や

サテライト型のセンターが普及するきっかけになるかもしれません。また、顧客接点そのものが場所を問わない形に生まれ変わっていくでしょう。現在、対面で行っている業務はビデオコンタクトセンターで実践できます。こうした新しい試みに柔軟に対応できるリテラシーも必要です。宮崎 コンタクトセンターが日本全国、場所を問わず運営できることはすでに実証されています。在宅オペレータは、さらに埋もれている各地の人材を活用するという意味でも可能性がありますね。柔軟な働き方を許容し、個性を大事にすることがホスピタリティ・マインドの醸成につながるという考え方もあります。顧客の洞察や分析はかなりの部分をITが支援できますが、それを駆使する力としてホスピタリティ・マインドがますます重要視されるのではないでしょうか。─顧客志向を持つ人材がプロフェッショナルな応対をすることで経営貢献につながり、センターと経営との距離感が縮まる。経営からの期待や投資を現場にフィードバックすることで、地位が向上し優秀な人材が集まる。研究会では、「5年後のあるべきコンタクトセンターの姿」を目指し、さらにさまざまな議論を継続していきましょう。

28 Computer TELEPHONY 2015.9 29Computer TELEPHONY 2015.9