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肝動脈塞栓術の説明 父が肝臓がんにかかり、動脈塞栓術で治療すると言われました。どんな治療法でしょうか? Q:どんな肝臓がんでも動脈塞栓術を行いますか? A:肝臓がんには、大きく分けて、肝臓から発生する「原発性肝がん」と、肝臓に他の場所から転移してくる「転移 性肝がん」とがあります。さらに、「原発性肝がん」にも、肝細胞から発生する「肝細胞がん」と、肝細胞で作った胆 汁を十二指腸にながす「胆管」という管から発生する「胆管細胞がん(肝内胆管がん)」があります。肝動脈塞栓 術が行われるのは、肝細胞から発生する「肝細胞がん」の場合です。 Q:どうやって肝臓のがんを治療するのでしょうか? A:足の付け根の動脈(大腿動脈)周囲に局所麻酔をして、「細い管(カテーテル)」を肝臓の動脈まで入れて写真 を撮ります。肝臓の動脈は、お腹の大動脈から何回か枝分かれして出ていますが、写真で見ただけではどこに あるのか分かりません。そこで、造影剤という薬を動脈の中に注入しながら(血管造影といいます)、順次カテー テルを肝臓の動脈まで進めていきます。 目的の部位(腫瘍のすぐ近くの動脈)まで、カテーテルが挿入できたら、そこから腫瘍を固める薬や、腫瘍に栄 養を運んでいる動脈を塞いでしまう薬を入れます。つまり、腫瘍を「兵糧責め」にしてしまう治療法です。 Q:どうやって肝臓がんを栄養する動脈を塞ぐのですか? A:動脈を塞ぐ際には、まずリピオドールという油性造影剤と抗がん剤を混ぜたものをカテーテルから注入します。 リピオドールは液体(油)ですから、肝細胞がんの内部まで入っていきます。そこで、一緒に混ぜた抗がん剤がゆ っくり放出され、肝細胞がんに作用します。さらに、肝細胞がんを栄養する動脈を、手術の時に血を止める目的で 使う「スポンゼル」という物質を細かく切ったもので塞いでしまいます。 動脈を塞ぐために用いた「スポンゼル」は、血管の中で 2 週間くらいたつと溶けてしまいます。その後は動脈に 再び血液が流れるようになってきますが、肝細胞がんは、動脈で栄養されていますので、それまでに死滅してい るわけです。これが動脈塞栓術の原理です。

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Page 1: 肝動脈塞栓術の説明 - khsc.or.jp · q:肝臓がんには、動脈塞栓術以外に手術をしない治療法がありますか? a:動脈塞栓術以外にも、超音波でみながら身体の外から肝細胞がんに細い針を刺し、アルコールや酢酸を注入

肝動脈塞栓術の説明

父が肝臓がんにかかり、動脈塞栓術で治療すると言われました。どんな治療法でしょうか?

Q:どんな肝臓がんでも動脈塞栓術を行いますか?

A:肝臓がんには、大きく分けて、肝臓から発生する「原発性肝がん」と、肝臓に他の場所から転移してくる「転移

性肝がん」とがあります。さらに、「原発性肝がん」にも、肝細胞から発生する「肝細胞がん」と、肝細胞で作った胆

汁を十二指腸にながす「胆管」という管から発生する「胆管細胞がん(肝内胆管がん)」があります。肝動脈塞栓

術が行われるのは、肝細胞から発生する「肝細胞がん」の場合です。

Q:どうやって肝臓のがんを治療するのでしょうか?

A:足の付け根の動脈(大腿動脈)周囲に局所麻酔をして、「細い管(カテーテル)」を肝臓の動脈まで入れて写真

を撮ります。肝臓の動脈は、お腹の大動脈から何回か枝分かれして出ていますが、写真で見ただけではどこに

あるのか分かりません。そこで、造影剤という薬を動脈の中に注入しながら(血管造影といいます)、順次カテー

テルを肝臓の動脈まで進めていきます。

目的の部位(腫瘍のすぐ近くの動脈)まで、カテーテルが挿入できたら、そこから腫瘍を固める薬や、腫瘍に栄

養を運んでいる動脈を塞いでしまう薬を入れます。つまり、腫瘍を「兵糧責め」にしてしまう治療法です。

Q:どうやって肝臓がんを栄養する動脈を塞ぐのですか?

A:動脈を塞ぐ際には、まずリピオドールという油性造影剤と抗がん剤を混ぜたものをカテーテルから注入します。

リピオドールは液体(油)ですから、肝細胞がんの内部まで入っていきます。そこで、一緒に混ぜた抗がん剤がゆ

っくり放出され、肝細胞がんに作用します。さらに、肝細胞がんを栄養する動脈を、手術の時に血を止める目的で

使う「スポンゼル」という物質を細かく切ったもので塞いでしまいます。

動脈を塞ぐために用いた「スポンゼル」は、血管の中で 2 週間くらいたつと溶けてしまいます。その後は動脈に

再び血液が流れるようになってきますが、肝細胞がんは、動脈で栄養されていますので、それまでに死滅してい

るわけです。これが動脈塞栓術の原理です。

Page 2: 肝動脈塞栓術の説明 - khsc.or.jp · q:肝臓がんには、動脈塞栓術以外に手術をしない治療法がありますか? a:動脈塞栓術以外にも、超音波でみながら身体の外から肝細胞がんに細い針を刺し、アルコールや酢酸を注入

Q:動脈から薬を入れたり、動脈を塞いだりして肝臓に悪影響はありませんか?

A:前にも述べましたように、肝細胞がんは肝臓の動脈から栄養を受けることがほとんどですが、がんでない部分

の肝臓は、動脈からでなく、腸から吸収された物質を血液にのせて肝臓に運ぶ「門脈」という血管で主に栄養され

ています。したがって、動脈を塞ぐと肝細胞がんは死んでしまいますが、肝臓の正常な部分は門脈に栄養されて

いるため、生き残ります。しかし、治療直後は、やはり正常の肝臓も障害を受けますが、1 週間程で治療前の状

態にまで血液検査上も回復してきます。

Q:どんな副作用がありますか?

A:血管を塞ぐ薬を入れている時、みぞおちに痛みやはる感じ、薬を入れる部位によっては肩から首に痛みを感じ

るかもわかりません。薬を入れる前に痛み止めの薬を筋肉注射したり、動脈から局所麻酔薬を入れるなどして、

できるだけ痛みが軽くなるようにします。我慢できないくらい痛いことはありませんが、痛みが出たら遠慮なくお知

らせ下さい。肝細胞がんを栄養する動脈が見えなくなったら治療は終了です。

治療後 1 週間程はみぞおちの痛み、熱、時に吐気や食欲不振などがみられます。また、肝機能も一時悪化し

ます。肝臓を保護する点滴・注射を行います。また、感染を予防するため抗生剤を数日投与します。

Q:治療したらどのくらいの入院が必要ですか?

A:痛みや熱は1週間程でよくなってきます。CT検査を行い、薬が充分目的の部位に入っており、痛みもなく、熱も

なく、血液検査(特に白血球数、肝機能、腎機能)が改善したら退院できます。術前検査も合わせて、10 日ほどの

入院となります。

Q:治療は 1 回で終わりでしょうか?

A:この治療を何回繰り返したらよいかは、がんの大きさや範囲によって大体決まります。1週間後のCTで追加治

療が必要ないと判断されたら、退院して 1 ヶ月後に再度 CT 検査を行い、うまく治療ができていれば 3 ヶ月毎に

CT 検査を繰り返し、治療効果をみさせて頂きます。

薬の効き目、あるいは薬の集まり具合によっては、追加治療が必要になることもあります。追加治療が必要と

判断される場合には、動脈塞栓術を選択するか、他の治療法に切り替えるかは肝機能や肝細胞がんの状態を

考慮しながらご相談させて頂きます。

Page 3: 肝動脈塞栓術の説明 - khsc.or.jp · q:肝臓がんには、動脈塞栓術以外に手術をしない治療法がありますか? a:動脈塞栓術以外にも、超音波でみながら身体の外から肝細胞がんに細い針を刺し、アルコールや酢酸を注入

Q:肝臓がんには、動脈塞栓術以外に手術をしない治療法がありますか?

A:動脈塞栓術以外にも、超音波でみながら身体の外から肝細胞がんに細い針を刺し、アルコールや酢酸を注入

して固める方法(アルコールまたは酢酸注入療法)、やはり超音波でみながら身体の外から針を刺し、マイクロ波

やラジオ波を用いて、電子レンジと同じ原理で熱を発生して焼いてしまう方法(マイクロ波凝固療法、ラジオ波焼

灼療法)、肝臓の動脈に細いカテーテルをおいてきて、肩の所にポートという小さな器械とつないで皮膚の下に埋

め込み、ポートに針で刺すことによって薬を肝臓に注入する方法(リザーバー動注療法)などがあります。

「肝細胞がん」の大きさ、個数、どこにあるか、肝臓の状態などによりどの方法を選択するかはご相談して決定

しましょう。また、その治療の方法、効果、副作用については、改めて説明します。

平成 年 月 日 説明医師 科 印

〒781‐8555 高知県高知市池2125‐1

高知医療センター 電話: 088‐837‐3000